Heronの公式(Heron's formula)とは、三角形の面積 $K$ を 3 辺の長さ $a,b,c$ だけで表す公式 $K=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$($s=(a+b+c)/2$)である。たとえば辺が $13,14,15$ の三角形の面積は $\sqrt{21\cdot8\cdot7\cdot6}=84$ である。正の数 $a,b,c$ について右辺の根号の中が正であることは、それらを辺とする三角形が存在すること(等号なしの三角不等式)と同値である。内接円の半径 $r$ とは $K=rs$ で結ばれる。辺が整数で面積が有理数の三角形では、周の長さは偶数で面積は整数である。円に内接する凸四角形の面積は Brahmagupta の公式 $\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)}$ で与えられるが、一般の四角形の面積は 4 辺だけでは決まらない。
辺の長さが $13,14,15$ の三角形の面積はいくらか。高さが分かれば「底辺 $\times$ 高さ $\div2$」で求まるが、3 辺しか分かっていない。ここで $s:=\frac{13+14+15}2=21$(周の長さの半分)とおくと
$$
\sqrt{s(s-13)(s-14)(s-15)}=\sqrt{21\cdot8\cdot7\cdot6}=\sqrt{7056}=84
$$
となり、これが面積である。実際、長さ $14$ の辺を底辺にとると高さは $12$ で($13^2=5^2+12^2$、$15^2=9^2+12^2$ で、$5+9=14$)、面積は $14\cdot12/2=84$ と一致する。
このように、三角形の面積を 3 辺の長さだけで表す式が Heron の公式(Heron's formula)である。アレクサンドリアの Heron がこの公式を与え、辺が $13,14,15$ のとき面積が $84$ になることを記したことが知られている(Dic20 第 V 章 p. 191。証明は Heron の『測量術』(Metrica)第 1 巻にある:MTHer)。本記事では、公式を座標による計算と余弦定理による計算の 2 通りで証明し、3 辺から三角形が作れる条件、内接円の半径との関係、辺と面積がすべて整数になる三角形の性質、四角形への一般化(Brahmagupta の公式)を述べる。
本記事では、三平方の定理 の記事と同じく通常の平面幾何(Euclid幾何学)で考え、三角形の面積は「底辺と高さの積の半分」であること、図形を重なりなく分けたときの面積は各部分の面積の和であることを使う。
辺の長さが $a,b,c$ の三角形の面積を $K$ とし、$s:=\frac{a+b+c}2$ とおく。このとき
$$
K=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}
$$
である。同じことを $s$ を使わずに書くと
$$
16K^2=(a+b+c)(-a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)=2(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)-(a^4+b^4+c^4)
$$
である。
三角形を $ABC$、$a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とし、座標を $B=(0,0)$、$C=(a,0)$、$A=(x,h)$($h>0$)ととる。$h$ は底辺 $BC$ に対する高さで、$K=\frac12ah$ である。三平方の定理 の記事の命題「座標平面の2点間の距離」により
$$
x^2+h^2=c^2,\qquad (x-a)^2+h^2=b^2
$$
である。2 式の差をとると $2ax-a^2=c^2-b^2$、すなわち $x=\frac{a^2+c^2-b^2}{2a}$ である。したがって
$$
16K^2=4a^2h^2=4a^2(c^2-x^2)=4a^2c^2-(a^2+c^2-b^2)^2
$$
である。右辺は平方の差なので
$$
\begin{aligned}
4a^2c^2-(a^2+c^2-b^2)^2&=\bigl(2ac-(a^2+c^2-b^2)\bigr)\bigl(2ac+(a^2+c^2-b^2)\bigr)\\
&=\bigl(b^2-(a-c)^2\bigr)\bigl((a+c)^2-b^2\bigr)\\
&=(b-a+c)(b+a-c)(a+c-b)(a+c+b)
\end{aligned}
$$
と因数分解できる。$a+b+c=2s$、$-a+b+c=2(s-a)$、$a-b+c=2(s-b)$、$a+b-c=2(s-c)$ なので、右辺は $16s(s-a)(s-b)(s-c)$ に等しい。$K>0$ なので $K=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$ である。$16K^2$ の最後の表示は、$4a^2c^2-(a^2+c^2-b^2)^2$ を展開すれば得られる。
角 $C$ の大きさを $\gamma$($0<\gamma<\pi$)とすると、辺 $CA$ に対する頂点 $B$ からの高さは $a\sin\gamma$ なので $K=\frac12ab\sin\gamma$ である。三平方の定理 の記事の命題「余弦定理の等式」により $c^2=a^2+b^2-2ab\cos\gamma$、すなわち $2ab\cos\gamma=a^2+b^2-c^2$ である。$\sin^2\gamma+\cos^2\gamma=1$ から
$$
16K^2=4a^2b^2\sin^2\gamma=4a^2b^2-(2ab\cos\gamma)^2=4a^2b^2-(a^2+b^2-c^2)^2
$$
であり、これを prf-heron-coordinates と同じように因数分解すれば $16s(s-a)(s-b)(s-c)$ になる。
2 つの証明は、どちらも「$16K^2$ は平方の差で、それが 4 つの 1 次式の積に分解する」という同じ計算に帰着する。2 つ目の証明の $\cos\gamma$ は、1 つ目の証明の $x/c$ にあたる。
公式の右辺は、どんな正の数 $a,b,c$ についても計算できる。三角形が存在するかどうかは、その符号で分かる。
正の実数 $a,b,c$ と $s=\frac{a+b+c}2$ について、次は同値である。
2 ⇔ 3:$s-a=\frac{b+c-a}2$ などなので、2 は $s-a,s-b,s-c$ がすべて正であることと同じである。このとき 3 が成り立つ。逆に 3 を仮定する。$(s-a)+(s-b)=c>0$ なので $s-a,s-b$ の両方が $0$ 以下になることはなく、同様に $s-a,s-b,s-c$ のうち $0$ 以下のものは高々 1 つである。ちょうど 1 つが $0$ なら積は $0$、ちょうど 1 つが負なら積は負になるので、3 のもとではどれも正であり、2 が成り立つ。
1 ⇒ 3:三角形があれば、thm-heron により $s(s-a)(s-b)(s-c)=K^2>0$ である。
3 ⇒ 1:$x:=\frac{a^2+c^2-b^2}{2a}$ とおくと、prf-heron-coordinates の計算($h$ を使わない部分)により $4a^2(c^2-x^2)=16s(s-a)(s-b)(s-c)>0$ なので $c^2-x^2>0$ である。$h:=\sqrt{c^2-x^2}>0$、$B=(0,0)$、$C=(a,0)$、$A=(x,h)$ とおくと、$A$ は直線 $BC$ の上になく、$BC=a$、$AB=\sqrt{x^2+h^2}=c$、$CA=\sqrt{(x-a)^2+h^2}=\sqrt{c^2-2ax+a^2}=b$ である($2ax=a^2+c^2-b^2$ を使った)。よって辺の長さが $a,b,c$ の三角形 $ABC$ がある。
$a=1$、$b=2$、$c=3$ では $s=3$、$s-c=0$ で、公式の右辺は $0$ である。長さ $1$ と $2$ の線分をつなぐと長さ $3$ の線分にちょうど重なり、三角形はつぶれて線分になる。この 3 つの数は「$c< a+b$」を等号で破り、「面積が正の三角形が存在する」が成り立たない。$a=1$、$b=2$、$c=4$ では $s=\frac72$、$s-c=-\frac12$ で右辺は負になり、平方根は実数にならない。
三角形 $ABC$ の内接円(3 辺すべてに接する円)の半径を $r$ とすると、$K=rs$ である。したがって
$$
r=\frac Ks=\sqrt{\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s}
$$
である。
内接円が存在することを先に確かめる。角 $B$ の二等分線は辺 $BA$、$BC$ に挟まれた三角形の内部の領域を通り、角 $C$ の二等分線も同様に三角形の内部を通るので、2 つの二等分線は三角形の内部の点 $I$ で交わる。角の二等分線上の点から角の 2 辺に下ろした垂線の足は、角の頂点からの距離が正で角の大きさが $\pi$ 未満であることから、いずれも辺の上にあり、垂線は等しい(垂線の足をとってできる 2 つの直角三角形は、斜辺を共有し、斜辺の両端の角の一方が等しいので合同である)。$I$ は角 $B$ の二等分線上にあるので辺 $BA$、$BC$ までの距離が等しく、角 $C$ の二等分線上にあるので辺 $CB$、$CA$ までの距離が等しい。この共通の距離を $r$ とすると、$I$ を中心とする半径 $r$ の円は 3 辺に接する。
三角形 $ABC$ は、$I$ と各辺を結んだ 3 つの三角形 $IBC$、$ICA$、$IAB$ に重なりなく分かれ、それぞれ底辺 $a,b,c$、高さ $r$ をもつ。したがって
$$
K=\frac12ar+\frac12br+\frac12cr=\frac{a+b+c}2\,r=rs
$$
である。後半は thm-heron を $s$ で割って平方根をとったものである。
辺が $13,14,15$ の三角形では $r=84/21=4$ であり、辺が $3,4,5$ の直角三角形では $r=6/6=1$ である。
辺の長さと面積がすべて整数である三角形を Heron 三角形とよぶ(Dic20 第 V 章 p. 191 は辺と面積が有理数のものを Heron 三角形とよんでおり、整数のものはその特別な場合にあたる)。$(3,4,5)$(面積 $6$)、$(5,5,6)$(面積 $12$)、$(5,5,8)$(面積 $12$)、$(13,14,15)$(面積 $84$)、$(9,10,17)$(面積 $36$)、$(7,15,20)$(面積 $42$)などがある。
辺の長さ $a,b,c$ が整数で、面積 $K$ が有理数である三角形では、周の長さ $a+b+c$ は偶数であり、$K$ は整数である。
$P:=a+b+c$ とおくと、thm-heron により $16K^2=P(P-2a)(P-2b)(P-2c)$ は整数である。$K$ は有理数なので $4K=m$ も有理数で、$m^2$ が整数だから $m$ は整数である(有理数の 2 乗が整数なら、その有理数は整数である)。
$P$ が奇数だと仮定する。4 つの因数 $P,P-2a,P-2b,P-2c$ はすべて奇数で、その和は $4P-2P=2P$ であり、$P$ が奇数なので $2P\equiv2\pmod4$ である。奇数は $4$ で割って $1$ 余るか $3$ 余るかのどちらかで、4 つの奇数の和が $4$ で割って $2$ 余るのは、$3$ 余るものがちょうど 1 つか 3 つのときである。いずれの場合も 4 つの積は $4$ で割って $3$ 余る。一方、積は $m^2$ で、$m$ は奇数なので $m^2\equiv1\pmod4$ である。これは矛盾なので、$P$ は偶数である。
すると $s=P/2$ は整数で、$K^2=s(s-a)(s-b)(s-c)$ は整数である。有理数 $K$ の 2 乗が整数なので $K$ は整数である。
辺が $2,3,4$ の三角形では $s=\frac92$ で $K=\sqrt{\frac92\cdot\frac52\cdot\frac32\cdot\frac12}=\frac{3\sqrt{15}}4=2.904\ldots$ であり、面積は無理数である。1 辺が $1$ の正三角形の面積は $\sqrt{\frac32\cdot\frac12\cdot\frac12\cdot\frac12}=\frac{\sqrt3}4$ である。どちらも周の長さが奇数($9$ と $3$)で、prop-heron-integer の結論「周の長さは偶数」を満たさないので、面積は有理数になりえない。
四角形の面積は 4 辺の長さだけでは決まらない(ex-heron-quadrilateral-not-determined)。角の情報を 1 つ加えると、Heron の公式と同じ形の式が得られる。
凸四角形 $ABCD$ の辺を $a=AB$、$b=BC$、$c=CD$、$d=DA$、角 $B$、$D$ の大きさを $\beta,\delta$、面積を $K$ とし、$s:=\frac{a+b+c+d}2$ とおく。このとき
$$
K^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-abcd\cos^2\frac{\beta+\delta}2
$$
である。
凸四角形なので、対角線 $AC$ は四角形を三角形 $ABC$ と三角形 $ACD$ に重なりなく分ける。prf-heron-cosine と同じく $K=\frac12ab\sin\beta+\frac12cd\sin\delta$ であり、2 つの三角形に余弦定理を使うと $AC^2=a^2+b^2-2ab\cos\beta=c^2+d^2-2cd\cos\delta$ である。したがって
$$
4K=2ab\sin\beta+2cd\sin\delta,\qquad a^2+b^2-c^2-d^2=2ab\cos\beta-2cd\cos\delta
$$
である。2 式をそれぞれ 2 乗して足し、$\sin^2+\cos^2=1$ と加法定理 $\cos\beta\cos\delta-\sin\beta\sin\delta=\cos(\beta+\delta)$ を使うと
$$
16K^2+(a^2+b^2-c^2-d^2)^2=4a^2b^2+4c^2d^2-8abcd\cos(\beta+\delta)
$$
となる。$\cos(\beta+\delta)=2\cos^2\frac{\beta+\delta}2-1$ を代入すると、右辺は $4(ab+cd)^2-16abcd\cos^2\frac{\beta+\delta}2$ である。さらに
$$
\begin{aligned}
4(ab+cd)^2-(a^2+b^2-c^2-d^2)^2&=\bigl((c+d)^2-(a-b)^2\bigr)\bigl((a+b)^2-(c-d)^2\bigr)\\
&=(-a+b+c+d)(a-b+c+d)(a+b-c+d)(a+b+c-d)\\
&=16(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)
\end{aligned}
$$
である(1 行目は平方の差 $\bigl(2(ab+cd)\bigr)^2-(a^2+b^2-c^2-d^2)^2$ を 2 通りに因数分解したもの)。これらを合わせて 16 で割れば主張を得る。
円に内接する凸四角形の辺を $a,b,c,d$、$s=\frac{a+b+c+d}2$ とすると、面積は
$$
K=\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)}
$$
である。
円周角の定理 の記事の系「円に内接する四角形」により、円に内接する四角形 $ABCD$ では $\beta+\delta=180^\circ$ なので $\cos\frac{\beta+\delta}2=\cos90^\circ=0$ であり、thm-heron-quadrilateral から直ちに従う。
$d\to0$ とすると四角形は三角形に近づき、Brahmagupta の公式は Heron の公式になる(三角形はいつでも円に内接する)。この公式は 7 世紀のインドの数学者 Brahmagupta が著書『ブラーマスプタ・シッダーンタ』(628 年)で与えたものである(MTBra)。thm-heron-quadrilateral から、4 辺の長さを固定した凸四角形の面積は、$\cos^2\frac{\beta+\delta}2=0$、すなわち円に内接するとき最大になることも分かる。
Dic20 第 V 章 p. 216 は、12 世紀の Bhāskara が辺 $40,51,68,75$、対角線 $77,85$ の四角形の面積を $3234$ としたことを伝えている。辺を順に $AB=40$、$BC=51$、$CD=68$、$DA=75$、対角線を $AC=77$ として確かめる。三角形 $ABC$(辺 $40,51,77$、$s=84$)の面積は $\sqrt{84\cdot44\cdot33\cdot7}=924$、三角形 $ACD$(辺 $68,75,77$、$s=110$)の面積は $\sqrt{110\cdot42\cdot35\cdot33}=2310$ である。$B$ と $D$ を直線 $AC$ の反対側にとると、prf-heron-coordinates の $x$ の式により $B$、$D$ から $AC$ に下ろした垂線の足は $A$ からの距離 $32$ と $45$ の位置で線分 $AC$ の内部にあるので、線分 $BD$ は線分 $AC$ と交わり、四角形 $ABCD$ は凸で、面積は $924+2310=3234$ である。余弦定理により
$$
\cos\beta=\frac{40^2+51^2-77^2}{2\cdot40\cdot51}=-\frac{36}{85},\qquad\cos\delta=\frac{68^2+75^2-77^2}{2\cdot68\cdot75}=\frac{36}{85}
$$
なので $\beta+\delta=180^\circ$ であり、円周角の定理 の記事の系「円に内接する四角形の判定」によりこの四角形は円に内接する。実際 Brahmagupta の公式で $s=117$ とすると $\sqrt{77\cdot66\cdot49\cdot42}=\sqrt{10458756}=3234$ となり、一致する。もう一方の対角線 $BD$ を座標で計算すると $85$ になる。
1 辺が $1$ の正方形の面積は $1$ だが、1 辺が $1$ で 1 つの角が $60^\circ$ のひし形の面積は $\frac{\sqrt3}2=0.866\ldots$ である。どちらも 4 辺の長さは $1,1,1,1$ で、$s=2$、$\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)}=1$ である。正方形は円に内接するので Brahmagupta の公式と一致するが、ひし形(正方形でないもの)は向かい合う角の和が $60^\circ+60^\circ\ne180^\circ$ で「円に内接する」を満たさず、公式の値 $1$ は面積ではない。thm-heron-quadrilateral では $\beta=\delta=120^\circ$(または $60^\circ$)で $\cos^2\frac{\beta+\delta}2=\frac14$ となり、$1-\frac14=\frac34=\bigl(\frac{\sqrt3}2\bigr)^2$ と正しい面積が出る。三角形と違い、四角形は 4 辺を決めても形が定まらず、Heron の公式の単純な一般化は成り立たない。
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