極小素イデアル

同義語:minimal prime idealminimal prime

概要

極小素イデアル(minimal prime ideal)とは、可換環の素イデアルのうち、それより真に小さい素イデアルをもたないもののことである。より一般に、イデアル $I$ を含む素イデアルのうち包含について極小なものを $I$ 上の極小素イデアルという。$I$ を含む素イデアルはすべて $I$ 上の極小素イデアルを含み(Zorn の補題による)、根基 $\sqrt{I}$ はそれらの共通部分に等しい。極小素イデアルは素スペクトルの既約成分の生成点に対応し、たとえば $k[x,y]/(xy)$ の極小素イデアルは $(\bar x)$ と $(\bar y)$ である。Noether 環では極小素イデアルは有限個だが、Noether でない環では無限個になりうる。零環でない可換環の極小素イデアルの元はすべて零因子である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 素イデアル, Zornの補題, 冪零根基, Zariski位相
極小素イデアルは、可換環の素イデアルのうち、それより真に小さい素イデアルをもたないものである。より一般に、イデアル $I$ を含む素イデアルのうち包含について極小なものを、$I$ 上の極小素イデアルという。素イデアル全体の集合 $\operatorname{Spec}A$ にZariski位相を入れると、極小素イデアルは $\operatorname{Spec}A$ の既約成分の生成点にちょうど対応する。たとえば体 $k$ 上で 2 本の座標軸の和集合を表す $k[x,y]/(xy)$ の極小素イデアルは $(\bar x)$ と $(\bar y)$ の 2 つで、それぞれ $y$ 軸と $x$ 軸に対応する。どの素イデアルも極小素イデアルを含み(Zornの補題による)、Noether環では極小素イデアルは有限個しかない。極小素イデアルの元はすべて零因子である。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつ可換環とし(可換環 の記事の流儀)、零環も許す。

定義

極小素イデアル

$A$ を可換環、$I$ を $A$ のイデアルとする。

  1. $I$ を含む素イデアル $\mathfrak{p}$ が $I$ 上の極小素イデアル(minimal prime ideal over $I$)であるとは、$I\subset\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ を満たす素イデアル $\mathfrak{q}$ が $\mathfrak{q}=\mathfrak{p}$ に限ることをいう。
  2. 零イデアル $(0)$ 上の極小素イデアルを、$A$ の 極小素イデアル(minimal prime ideal)という。すなわち、素イデアル $\mathfrak{p}$ で、$\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ を満たす素イデアル $\mathfrak{q}$ が $\mathfrak{p}$ 自身に限るものである。

$I$ 上の極小素イデアルは、$I$ を含む素イデアルの集合 $V(I)$ の、包含関係についての極小元である。$I=A$ なら $I$ を含む素イデアルはないので、$A$ 上の極小素イデアルは存在しない。とくに零環 $\{0\}$ には素イデアルがなく、極小素イデアルもない。
剰余写像 $\pi\colon A\to A/I$ について、$\mathfrak{q}\mapsto\pi^{-1}(\mathfrak{q})$ は $A/I$ の素イデアル全体から $I$ を含む $A$ の素イデアル全体への包含を保つ全単射である(剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」と 素イデアル の記事の命題「剰余環が整域であることとの同値」)。したがって、$I$ 上の極小素イデアルは $A/I$ の極小素イデアルと一対一に対応する。以下の多くの主張は、$A/I$ に移して $I=0$ の場合に帰着できる。
整域 $A$ では $(0)$ が素イデアルで、すべての素イデアルに含まれるので、$(0)$ がただ 1 つの極小素イデアルである。

直感

$A$ の元を $\operatorname{Spec}A$ 上の「関数」とみるとき、素イデアル $\mathfrak{p}$ に対する閉集合 $V(\mathfrak{p})=\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ は、$\mathfrak{p}$ の元が消える点の全体である。素イデアルが小さいほど、その上で消える関数が少ないので $V(\mathfrak{p})$ は大きい。$\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ と $V(\mathfrak{q})\supset V(\mathfrak{p})$ は同値である。したがって極小素イデアルは、$V(\mathfrak{p})$ がそれ以上大きくならない素イデアル、すなわち空間 $\operatorname{Spec}A$ を構成する「いちばん大きな既約な部分」(既約成分)の生成点である(prop-minimal-prime-ideal-components)。
$k[x,y]/(xy)$ では、$x$ 軸と $y$ 軸がそれぞれ既約成分で、原点は両方に属する。$x$ 軸の生成点は「$y$ だけが消える」素イデアル $(\bar y)$、$y$ 軸の生成点は $(\bar x)$ である。原点に当たる素イデアル $(\bar x,\bar y)$ は両方を含むので極小でない。整域では空間全体が既約で、生成点 $(0)$ だけが極小である。

例と反例

整域と整数の剰余環
  1. 整数環 $\mathbb{Z}$ や体上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ は整域なので、極小素イデアルは $(0)$ だけである。
  2. $\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ の素イデアルは $2\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ と $3\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ の 2 つである(素イデアル の記事の例「剰余環の素イデアル」)。どちらも他方を含まないので、どちらも極小素イデアルである。剰余環はそれぞれ体 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ なので、これらは極大イデアルでもある。極小であることと極大であることは両立しうる。
2 本の座標軸

$k$ を体、$A=k[x,y]/(xy)$ とする。$A/(\bar x)\cong k[y]$、$A/(\bar y)\cong k[x]$ は整域なので、$(\bar x)$ と $(\bar y)$ は素イデアルである。どの素イデアル $\mathfrak{p}$ も $\bar x\bar y=0$ を含むので $\bar x$ か $\bar y$ を含み、したがって $(\bar x)$ か $(\bar y)$ を含む。$\bar x\notin(\bar y)$($A/(\bar y)\cong k[x]$ での像 $x$ が $0$ でない)、同様に $\bar y\notin(\bar x)$ なので、$(\bar x)$ と $(\bar y)$ は互いに他を含まない。よって $A$ の極小素イデアルはちょうど $(\bar x)$ と $(\bar y)$ の 2 つである(被約環 の記事の例「2 本の直線の和集合」でも同じ計算をしている)。素イデアル $(\bar x,\bar y)$ は両方を含むので極小でない。

平面と直線の和集合

$k$ を体、$P=k[x,y,z]$ とし、$I=(xy,xz)$ とおく。$I=(x)(y,z)$ である。素イデアル $\mathfrak{p}\supset I$ は、素イデアル の記事の命題「イデアルの積と素イデアル」により $(x)$ か $(y,z)$ を含む。$P/(x)\cong k[y,z]$、$P/(y,z)\cong k[x]$ は整域なので $(x)$ と $(y,z)$ は $I$ を含む素イデアルであり、$x\notin(y,z)$($y=z=0$ を代入すると $x$ が残る)、$y\notin(x)$ なので互いに他を含まない。よって $I$ 上の極小素イデアルはちょうど $(x)$ と $(y,z)$ の 2 つである。
$V(I)$ は平面 $x=0$ と直線 $y=z=0$ の和集合に当たり、2 つの既約成分の次元は異なる。実際 $\dim P/(x)=\dim k[y,z]=2$、$\dim P/(y,z)=\dim k[x]=1$ である(Krull次元 の記事の定理「体上有限生成な環の次元」)。素イデアルの高さ(Krull次元 の記事の定義「素イデアルの高さ」)でいえば、$(x)$ の高さは $1$、$(y,z)$ の高さは $2$ であり($(0)\subsetneq(y)\subsetneq(y,z)$ と、同記事の命題「剰余環と次元」の 2 の不等式 $\operatorname{ht}\mathfrak{p}+\dim P/\mathfrak{p}\le\dim P=3$ による)、同じイデアルの上の極小素イデアルの高さは一定とは限らない。

反例:イデアル上では極小だが環の極小素イデアルでない素イデアル

$k$ を体、$A=k[x,y]$ とする。素イデアル $(x)$ は $(x)$ 自身の上の極小素イデアルである($(x)$ を含む素イデアルのうち最小)。しかし $A$ は整域なので $(0)\subsetneq(x)$ であり、$(x)$ は $A$ の極小素イデアルでない。この例は「$I$ 上の極小素イデアル」を満たすが「$A$ の極小素イデアル」を満たさず、極小性がどのイデアルの上で考えるかに依存することを示す。

反例:極小素イデアルに含まれない零因子

$k$ を体、$A=k[x,y]/(x^2,xy)$ とする。$\bar x$ は冪零なのですべての素イデアルに含まれ、$A/(\bar x)\cong k[y]$ は整域なので、$(\bar x)=\operatorname{nil}(A)$ が $A$ のただ 1 つの極小素イデアルである(冪零根基 の記事の例「直線に埋め込まれた点をもつ環」)。一方 $\bar y$ は $\bar y\bar x=0$、$\bar x\neq0$ なので零因子であるが、$k[y]$ での像 $y$ は $0$ でないので $\bar y\notin(\bar x)$ である。極小素イデアルの元はつねに零因子であるが(cor-minimal-prime-ideal-zero-divisors)、この例は逆の含意「零因子はある極小素イデアルに属する」を破る。満たす性質は「Noether環」、満たさない性質は「被約環」である。被約環ではこの逆の含意が成り立つ(被約環 の記事の定理「被約環の零因子と極小素イデアル」の 2)。

反例:極小素イデアルが無限個ある環

$A=\prod_{i\in\mathbb{N}}\mathbb{F}_2$ を 2 元体 $\mathbb{F}_2$(有限体)の可算無限個の直積環とする。$A$ のすべての元は $a^2=a$ を満たすので $A$ はBoole環であり、その素イデアルはすべて極大イデアルである(Boole環 の記事の命題「素イデアルは極大イデアル」)。したがって素イデアルの間に真の包含関係はなく、$A$ の素イデアルはすべて極小素イデアルである。
$i\in\mathbb{N}$ について、第 $i$ 成分への射影 $\pi_i\colon A\to\mathbb{F}_2$ は全射な環準同型なので、$\mathfrak{p}_i:=\ker\pi_i$ は極大イデアルである。第 $i$ 成分だけが $1$ の元 $e_i$ は $e_i\notin\mathfrak{p}_i$、$e_i\in\mathfrak{p}_j$($j\neq i$)を満たすので、$\mathfrak{p}_i$ たちは相異なる。よって $A$ は無限個の極小素イデアルをもつ。さらに、有限個の成分を除いて $0$ である元全体 $J$ は $1\notin J$ の真のイデアルなので、ある極大イデアル $\mathfrak{m}\supset J$ に含まれ、$e_i\in J\subset\mathfrak{m}$ がすべての $i$ で成り立つので $\mathfrak{m}$ はどの $\mathfrak{p}_i$ とも異なる。
この例は「極小素イデアルは有限個である」を破る。$A$ には真に増加するイデアルの列 $(e_0)\subsetneq(e_0,e_1)\subsetneq(e_0,e_1,e_2)\subsetneq\cdots$ がある($(e_0,\dots,e_n)$ の元は第 $n+1$ 成分が $0$ なので $e_{n+1}$ を含まない)ので、$A$ は Noether環でない。満たさない性質は「Noether環」である。Noether環では極小素イデアルは有限個である(thm-minimal-prime-ideal-noetherian)。

性質

存在

極小素イデアルの存在

$A$ を可換環、$I$ をイデアル、$\mathfrak{p}$ を $I$ を含む素イデアルとする。このとき $I\subset\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ を満たす $I$ 上の極小素イデアル $\mathfrak{q}$ が存在する。

$\Sigma$ を、$I\subset\mathfrak{q}'\subset\mathfrak{p}$ を満たす素イデアル $\mathfrak{q}'$ 全体の集合とし、逆向きの包含 $\mathfrak{q}'\preceq\mathfrak{q}''\iff\mathfrak{q}'\supset\mathfrak{q}''$ で順序を入れる。$\mathfrak{p}\in\Sigma$ なので $\Sigma$ は空でない。$\Sigma$ の極大元(包含について極小な元)が求める $\mathfrak{q}$ である。
Zornの補題を使うため、$\Sigma$ の空でない全順序部分集合 $\mathcal{C}$ が上界をもつことを示す。$\mathfrak{r}:=\bigcap_{\mathfrak{q}'\in\mathcal{C}}\mathfrak{q}'$ とおく。$\mathfrak{r}$ は $I$ を含み $\mathfrak{p}$ に含まれるイデアルで、$1\notin\mathfrak{r}$ である。$\mathfrak{r}$ が素イデアルであることを示す。$a,b\in A$ が $ab\in\mathfrak{r}$ を満たし、$a\notin\mathfrak{r}$ かつ $b\notin\mathfrak{r}$ であるとすると、$a\notin\mathfrak{q}_1$、$b\notin\mathfrak{q}_2$ となる $\mathfrak{q}_1,\mathfrak{q}_2\in\mathcal{C}$ がある。$\mathcal{C}$ は全順序なので、$\mathfrak{q}_1,\mathfrak{q}_2$ のうち包含について小さい方を $\mathfrak{q}_3$ とすると、$\mathfrak{q}_3\subset\mathfrak{q}_1$ から $a\notin\mathfrak{q}_3$、$\mathfrak{q}_3\subset\mathfrak{q}_2$ から $b\notin\mathfrak{q}_3$ である。一方 $ab\in\mathfrak{r}\subset\mathfrak{q}_3$ であり、$\mathfrak{q}_3$ が素イデアルであることに反する。よって $\mathfrak{r}\in\Sigma$ であり、$\mathfrak{r}$ は $\mathcal{C}$ の上界である。Zorn の補題により $\Sigma$ は極大元 $\mathfrak{q}$ をもつ。
$\mathfrak{q}$ が $I$ 上の極小素イデアルであることを確かめる。$I\subset\mathfrak{q}'\subset\mathfrak{q}$ を満たす素イデアル $\mathfrak{q}'$ は $\mathfrak{q}'\subset\mathfrak{p}$ なので $\Sigma$ に属し、$\mathfrak{q}\preceq\mathfrak{q}'$ である。$\mathfrak{q}$ の極大性から $\mathfrak{q}'=\mathfrak{q}$ である。$\square$

根基と極小素イデアル

$A$ を可換環、$I$ をイデアルとする。

  1. $I\neq A$ なら、$I$ 上の極小素イデアルが少なくとも 1 つ存在する。とくに零環でない可換環は極小素イデアルをもつ。
  2. $I$ の根基 $\sqrt{I}$ は、$I$ 上の極小素イデアル全体の共通部分に等しい。とくに $\operatorname{nil}(A)$ は $A$ の極小素イデアル全体の共通部分に等しい(空な族の共通部分は $A$ と約束する)。

1:$I\neq A$ なら $A/I$ は零環でないので素イデアル $\bar{\mathfrak{p}}$ をもち(可換環 の記事の系「極大イデアルと非単元」の 1)、剰余写像による $\bar{\mathfrak{p}}$ の逆像は $I$ を含む $A$ の素イデアルである(定義の直後の対応)。thm-minimal-prime-ideal-existence をこの素イデアルに適用すればよい。零環でない環では $I=(0)$ は $A$ と異なる。
2:冪零根基 の記事の命題「根基と素イデアル」の 2 により、$\sqrt{I}$ は $I$ を含む素イデアル全体の共通部分である。$I$ 上の極小素イデアルは $I$ を含む素イデアルなので、その共通部分は $\sqrt{I}$ を含む。逆に、$I$ を含む素イデアル $\mathfrak{p}$ は、thm-minimal-prime-ideal-existence によりある $I$ 上の極小素イデアル $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ を含むので、極小素イデアル全体の共通部分は $\mathfrak{p}$ に含まれる。これがすべての $\mathfrak{p}\supset I$ で成り立つので、極小素イデアル全体の共通部分は $\sqrt{I}$ に含まれる。$I=A$ のときは両辺とも $A$ である。後半は $I=(0)$ の場合で、$\sqrt{(0)}=\operatorname{nil}(A)$ である。$\square$

2 の後半から、$A$ が被約環であることと、極小素イデアル全体の共通部分が $\{0\}$ であることは同値である。存在の証明は選択公理(Zorn の補題)を使う。

局所化による特徴づけ

局所化による極小性の判定

$A$ を可換環、$\mathfrak{p}$ を素イデアル、$A_{\mathfrak{p}}$ を $S=A\setminus\mathfrak{p}$ による局所化とする。次は同値である。

  1. $\mathfrak{p}$ は $A$ の極小素イデアルである。
  2. $A_{\mathfrak{p}}$ の素イデアルは $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ ただ 1 つである。
  3. $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}=\operatorname{nil}(A_{\mathfrak{p}})$ である。
  4. 任意の $x\in\mathfrak{p}$ に対し、$s\notin\mathfrak{p}$ と $n\ge1$ で $sx^n=0$ を満たすものが存在する。

1 ⇒ 2:局所化 の記事の定理「素イデアルの対応」により、$A_{\mathfrak{p}}$ の素イデアルは $S$ と交わらない $A$ の素イデアル、すなわち $\mathfrak{p}$ に含まれる素イデアルと、$\mathfrak{q}\mapsto\mathfrak{q}A_{\mathfrak{p}}$ によって一対一に対応する。$\mathfrak{p}$ が極小なら $\mathfrak{p}$ に含まれる素イデアルは $\mathfrak{p}$ だけなので、$A_{\mathfrak{p}}$ の素イデアルは $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ だけである。
2 ⇒ 3:冪零根基 の記事の定理「素イデアル全体の共通部分としての冪零根基」を $A_{\mathfrak{p}}$ に適用すると、$\operatorname{nil}(A_{\mathfrak{p}})$ はただ 1 つの素イデアル $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ に等しい。
3 ⇒ 4:$x\in\mathfrak{p}$ なら $x/1\in\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ は冪零であり、ある $n\ge1$ で $x^n/1=(x/1)^n=0$ となる。局所化の定義により、ある $s\in S$ で $sx^n=0$ である。
4 ⇒ 1:$\mathfrak{q}\subsetneq\mathfrak{p}$ となる素イデアル $\mathfrak{q}$ があったとして、$x\in\mathfrak{p}\setminus\mathfrak{q}$ をとる。4 により $sx^n=0$($s\notin\mathfrak{p}$、$n\ge1$)である。$sx^n=0\in\mathfrak{q}$ で、$s\notin\mathfrak{p}\supset\mathfrak{q}$ なので $s\notin\mathfrak{q}$ であり、$\mathfrak{q}$ が素イデアルであることから $x^n\in\mathfrak{q}$、したがって $x\in\mathfrak{q}$ となり、$x$ の選び方に反する。よって $\mathfrak{p}$ は極小である。$\square$

2 は、$\operatorname{Spec}A_{\mathfrak{p}}$ が 1 点からなること、とくに $A_{\mathfrak{p}}$ のKrull次元が $0$ であることを述べている。極小素イデアルは、高さが $0$ の素イデアルと言っても同じである(Krull次元 の記事の定義「素イデアルの高さ」の直後)。

極小素イデアルの元は零因子

$A$ を零環でない可換環、$\mathfrak{p}$ を極小素イデアルとする。$\mathfrak{p}$ の元はすべて零因子である。したがって、$A$ の零因子全体を $Z(A)$ と書くと、極小素イデアル全体の和集合は $Z(A)$ に含まれる。

$x\in\mathfrak{p}$ とする。prop-minimal-prime-ideal-localization の 4 により $sx^n=0$ となる $s\notin\mathfrak{p}$ と $n\ge1$ がある。$s$ を固定し、$sx^n=0$ となる最小の $n\ge1$ をとって $y:=sx^{n-1}$ とおく($x^0=1$)。$n=1$ なら $y=s$ であり、$0\in\mathfrak{p}$、$s\notin\mathfrak{p}$ から $y\neq0$ である。$n\ge2$ なら $n$ の最小性から $y\neq0$ である。いずれの場合も $xy=sx^n=0$ なので、$x$ は零因子である。$\square$

零因子の定義は 零因子 の記事の定義「零因子」に従う(零環でない環では $0$ も零因子である)。逆の包含は一般には成り立たないが(ex-minimal-prime-ideal-embedded-point)、$A$ が被約環なら $Z(A)$ は極小素イデアル全体の和集合に等しい(被約環 の記事の定理「被約環の零因子と極小素イデアル」の 2)。被約環 $A$ の極小素イデアル $\mathfrak{p}$ では、3 により $A_{\mathfrak{p}}$ の極大イデアル $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ が $\operatorname{nil}(A_{\mathfrak{p}})=0$ に等しく、$A_{\mathfrak{p}}$ は体になる(同定理の 1)。

Noether環の極小素イデアルは有限個

Noether環における有限性

$A$ を Noether環、$I$ をイデアルとする。

  1. $A$ の根基イデアル($\sqrt{J}=J$ となるイデアル $J$)は、有限個の素イデアルの共通部分である($J=A$ は 0 個の共通部分とみなす)。
  2. $I$ 上の極小素イデアルは有限個である。とくに $A$ の極小素イデアルは有限個である。

1:有限個の素イデアルの共通部分として書けない根基イデアル全体の集合を $\Sigma$ とし、$\Sigma\neq\emptyset$ と仮定する。Noether環ではイデアルの空でない集合は極大元をもつので(Noether環 の記事の命題「Noether環の同値条件」の 2)、$\Sigma$ の極大元 $J$ がとれる。$J\neq A$ であり、$J$ 自身は素イデアルでない(素イデアルなら 1 個の共通部分である)。したがって $a\notin J$、$b\notin J$、$ab\in J$ となる $a,b\in A$ がある。
$$ J_a:=\sqrt{J+(a)},\qquad J_b:=\sqrt{J+(b)} $$
とおくと、これらは根基イデアルであり(冪零根基 の記事の命題「根基の演算」の 2)、$a\in J_a\setminus J$、$b\in J_b\setminus J$ なので $J$ を真に含む。$J$ の極大性から $J_a,J_b\notin\Sigma$ であり、$J_a$ と $J_b$ はそれぞれ有限個の素イデアルの共通部分である。
$J=J_a\cap J_b$ を示す。$J\subset J_a\cap J_b$ は明らかである。$x\in J_a\cap J_b$ なら、ある $m,n\ge1$ で $x^m\in J+(a)$、$x^n\in J+(b)$ であり、
$$ x^{m+n}=x^mx^n\in\bigl(J+(a)\bigr)\bigl(J+(b)\bigr)\subset J+(ab)=J $$
である。$J$ は根基イデアルなので $x\in J$ である。よって $J=J_a\cap J_b$ は有限個の素イデアルの共通部分となり、$J\in\Sigma$ に反する。したがって $\Sigma=\emptyset$ である。
2:$I=A$ なら $I$ 上の極小素イデアルはない。$I\neq A$ とする。1 を根基イデアル $\sqrt{I}$ に適用して $\sqrt{I}=\mathfrak{p}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{p}_r$($\mathfrak{p}_i$ は素イデアル)と書く。各 $\mathfrak{p}_i$ は $\sqrt{I}\supset I$ を含む。$\mathfrak{p}$ を $I$ 上の極小素イデアルとすると、$\mathfrak{p}$ は根基イデアルなので $\mathfrak{p}=\sqrt{\mathfrak{p}}\supset\sqrt{I}=\mathfrak{p}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{p}_r$ である。素イデアル の記事の命題「イデアルの積と素イデアル」の後半により、ある $i$ で $\mathfrak{p}_i\subset\mathfrak{p}$ である。$\mathfrak{p}_i$ は $I$ を含む素イデアルなので、$\mathfrak{p}$ の極小性から $\mathfrak{p}=\mathfrak{p}_i$ である。よって $I$ 上の極小素イデアルは $\mathfrak{p}_1,\dots,\mathfrak{p}_r$ のいずれかであり、有限個である。$\square$

2 の証明から、$\sqrt{I}=\mathfrak{p}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{p}_r$ と書いたとき、$I$ 上の極小素イデアルはすべて $\mathfrak{p}_i$ の中に現れる。$\mathfrak{p}_i$ のうち他の $\mathfrak{p}_j$ を含むものを取り除いても共通部分は変わらないので、$\sqrt{I}$ は $I$ 上の極小素イデアル全体の(有限個の)共通部分に等しい。これは cor-minimal-prime-ideal-radical の 2 の有限版である。準素分解の言葉では、$I$ 上の極小素イデアルは $I$ の随伴素イデアルのうち極小なもの(孤立素イデアル)である(AM69 Chapter 4、Mat86 §6)。
Noether の仮定は外せない(ex-minimal-prime-ideal-infinite)。

素スペクトルの既約成分

位相空間 $X$ の部分集合のうち、既約(既約空間)なもの(空でなく、2 つの真の閉部分集合の和にならないもの)で、包含について極大なものを $X$ の 既約成分(irreducible component)という。既約性の定義は Zariski位相 の記事の定義「既約な位相空間と生成点」に従う。

極小素イデアルと既約成分

$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。$\mathfrak{p}\mapsto V(\mathfrak{p})$ は、$A$ の極小素イデアル全体から $X$ の既約成分全体への全単射である。既約成分はすべて閉集合であり、$X$ はその和集合である。

まず、既約な部分集合 $Y\subset X$ の閉包 $\overline{Y}$ は既約である。実際 $\overline{Y}\neq\emptyset$ であり、$\overline{Y}=Z_1\cup Z_2$($Z_i$ は閉集合)なら $Y=(Y\cap Z_1)\cup(Y\cap Z_2)$ は $Y$ の 2 つの閉部分集合の和なので、たとえば $Y=Y\cap Z_1$、すなわち $Y\subset Z_1$ であり、$\overline{Y}\subset Z_1$ となる。とくに既約成分 $Y$ は $Y\subset\overline{Y}$ と極大性から $Y=\overline{Y}$ を満たし、閉集合である。
Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 2 により、$\mathfrak{p}\mapsto V(\mathfrak{p})=\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ は $\operatorname{Spec}A$ から $X$ の既約閉集合全体への全単射である。また素イデアル $\mathfrak{p},\mathfrak{q}$ について、$V(\mathfrak{p})\subset V(\mathfrak{q})$ と $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ は同値である($\mathfrak{p}\in V(\mathfrak{p})$ なので前者から $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$、逆に $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}\subset\mathfrak{p}'$ なら $\mathfrak{p}'\in V(\mathfrak{q})$)。
$\mathfrak{p}$ が極小素イデアルであるとする。既約な $Y\supset V(\mathfrak{p})$ をとると、$\overline{Y}$ は既約閉集合なので $\overline{Y}=V(\mathfrak{q})$ となる素イデアル $\mathfrak{q}$ があり、$V(\mathfrak{p})\subset V(\mathfrak{q})$ から $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$、極小性から $\mathfrak{q}=\mathfrak{p}$ である。よって $Y\subset V(\mathfrak{p})$ であり、$V(\mathfrak{p})$ は既約成分である。
逆に $Y$ を既約成分とすると、$Y$ は既約閉集合なので $Y=V(\mathfrak{p})$ となる素イデアル $\mathfrak{p}$ がある。素イデアル $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$ について $V(\mathfrak{q})\supset V(\mathfrak{p})=Y$ は既約なので、極大性から $V(\mathfrak{q})=V(\mathfrak{p})$ となり、単射性から $\mathfrak{q}=\mathfrak{p}$ である。よって $\mathfrak{p}$ は極小素イデアルである。$V(\mathfrak{p})$ は $\mathfrak{p}$ を決めるので、写像は全単射である。
最後に、点 $\mathfrak{p}'\in X$ に対し、thm-minimal-prime-ideal-existence により極小素イデアル $\mathfrak{p}\subset\mathfrak{p}'$ があり、$\mathfrak{p}'\in V(\mathfrak{p})$ である。よって $X$ は既約成分の和集合である。$\square$

$\mathfrak{p}$ は既約成分 $V(\mathfrak{p})$ の生成点である。thm-minimal-prime-ideal-noetherian と合わせると、Noether環 $A$ の $\operatorname{Spec}A$ は有限個の既約成分の和集合である。ex-minimal-prime-ideal-two-lines では $V(\bar x)$ と $V(\bar y)$ が 2 本の軸に当たり、ex-minimal-prime-ideal-plane-line では $I$ 上の極小素イデアルが $V(I)$ の既約成分(平面と直線)に当たる($V(I)$ は $\operatorname{Spec}(P/I)$ と同相である)。

次元と高さ

極小素イデアルは次元の計算の出発点になる。$A\neq0$ なら、$A$ の素イデアルの鎖はその最小の項を含む極小素イデアルから始めて延ばせるので、$\dim A=\sup_{\mathfrak{q}}\dim A/\mathfrak{q}$($\mathfrak{q}$ は極小素イデアル全体)が成り立つ(Krull次元 の記事の命題「剰余環と次元」の 3)。Noether環では、単項イデアル $(a)$ 上の極小素イデアルの高さは $1$ 以下である(Krullの単項イデアル定理。単項イデアル の記事の定理「単項イデアルの上の極小素イデアルの高さ」)。ex-minimal-prime-ideal-plane-line の $(y,z)$ は 2 元で生成されるイデアル $I=(xy,xz)$ の上の極小素イデアルで高さ $2$ であり、単項イデアルの上ではこうはならない。

補足

文献

極小素イデアルの存在と、素スペクトルの既約成分と極小素イデアルの対応は AM69 Chapter 1 の演習問題に、準素分解と孤立素イデアルは同 Chapter 4 にある。Noether環について、随伴素イデアル、極小素イデアルの有限性、極小素イデアルが随伴素イデアルであること(したがってその元が零因子であること)は Mat86 §6 にある。一般の可換環での零因子の主張(cor-minimal-prime-ideal-zero-divisors)は本記事の証明による。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 1(極小素イデアルの存在と既約成分の演習問題)、Chapter 4(準素分解と孤立素イデアル)

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