Lebesgueの分解定理

同義語:Lebesgue分解定理Lebesgue分解ルベーグの分解定理Lebesgue decomposition theorem

概要

Lebesgueの分解定理(Lebesgue decomposition theorem)とは、可測空間上の測度 $\mu$ と σ-有限な測度 $\nu$ について、$\nu$ が $\mu$ に絶対連続な測度 $\nu_a$ と $\mu$ と互いに特異な測度 $\nu_s$ の和にただ 1 通りに書けるという定理である。$\mu$ には何も仮定せずに成り立ち、$\mu$ も σ-有限なら Radon–Nikodym の定理により $\nu_a$ は密度 $h$ を使って $\nu_a(E)=\int_Eh\,d\mu$ と書ける。実数直線上の σ-有限な Borel 測度は、純点部分・Lebesgue 測度に絶対連続な部分・特異連続部分の和にただ 1 通りに分かれ、Cantor 関数の測度は最後の部分だけからなる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 測度, Lebesgue積分, Radon–Nikodymの定理, Hahn分解定理

Lebesgueの分解定理(Lebesgue decomposition theorem)は、同じ可測空間の上の 2 つの測度 $\mu,\nu$ があるとき、$\nu$ を「$\mu$ が $0$ の集合では $0$ になる部分」と「$\mu$ が $0$ の集合に全部が載っている部分」の和にただ 1 通りに分けられることを述べる。前者を $\nu$ の $\mu$ に関する絶対連続部分、後者を特異部分という(分解の存在には $\nu$ が σ-有限であることを仮定する)。$\mu$ と $\nu$ がともに σ-有限なら、絶対連続部分は Radon–Nikodymの定理 によって密度 $h$ を使って $\int_Eh\,d\mu$ と書けるので、二つを合わせると、$\nu$ は「密度で書ける部分」と「$\mu$ からは見えない零集合に載った部分」の和になる。
実数直線の上では、特異部分をさらに点の質量の和と、点には質量をもたないのに長さ $0$ の集合に載る部分(Cantor関数 から作る測度がその例)に分けられる。確率分布が「密度をもつ分布」「離散分布」「そのどちらでもない分布」の 3 つの和に分かれるのは、この分解による。この記事では、分解定理を $\mu$ に何も仮定せずに証明し、Radon–Nikodym の定理と組み合わせた形、有限な符号付き測度の場合、実数直線上の 3 つの部分への分解を述べ、σ-有限性を外すと分解が存在しない例を確かめる。

絶対連続と特異

以下、$(X,\mathcal S)$ を可測空間とし、測度は $[0,\infty]$ に値をとる可算加法的な集合関数とする(測度)。$N\in\mathcal S$ について、$\nu$ の $N$ への制限を $(\nu|_N)(E):=\nu(E\cap N)$ と書く。これも測度である。

測度の絶対連続性と特異性

$\mu,\nu$ を $(X,\mathcal S)$ 上の測度とする。

  1. $\nu$ が $\mu$ に 絶対連続 であるとは、$E\in\mathcal S$、$\mu(E)=0$ ならば $\nu(E)=0$ となることをいい、$\nu\ll\mu$ と書く。
  2. $\nu$ と $\mu$ が互いに 特異 であるとは、$N\in\mathcal S$ で $\mu(N)=0$、$\nu(X\setminus N)=0$ となるものがあることをいい、$\nu\perp\mu$ と書く。このとき $\nu$ は $N$ に 集中する という。

$\nu\perp\mu$ は $\mu,\nu$ について対称である(上の $N$ の代わりに $X\setminus N$ をとればよい)。$\nu\ll\mu$ は対称でない。どちらも Radon–Nikodymの定理 の記事の定義と同じものである。

絶対連続と特異の基本的な関係

$\mu,\nu,\rho$ を $(X,\mathcal S)$ 上の測度とする。

  1. $\nu\ll\mu$ かつ $\nu\perp\mu$ なら $\nu=0$ である。
  2. 測度の列 $\nu_1,\nu_2,\dots$ がどれも $\mu$ と互いに特異なら、和 $\sum_k\nu_k$ も $\mu$ と互いに特異である。
  3. $\nu\ll\mu$、$\rho\perp\mu$ なら $\nu\perp\rho$ である。
  4. すべての $E\in\mathcal S$ で $\rho(E)\le\nu(E)$ とする。$\nu\ll\mu$ なら $\rho\ll\mu$、$\nu\perp\mu$ なら $\rho\perp\mu$ である。

1:$\nu$ が $\mu$-零集合 $N$ に集中するとする。$\nu\ll\mu$ から $\nu(N)=0$ なので $\nu(X)=\nu(N)+\nu(X\setminus N)=0$ である。
2:$\nu_k$ が $\mu$-零集合 $N_k$ に集中するとし、$N:=\bigcup_kN_k$ とおくと $\mu(N)\le\sum_k\mu(N_k)=0$ であり、$\sum_k\nu_k(X\setminus N)\le\sum_k\nu_k(X\setminus N_k)=0$ である。
3:$\rho$ が $\mu$-零集合 $N$ に集中するとする。$\nu\ll\mu$ から $\nu(N)=0$ であり、$\rho(X\setminus N)=0$ なので、$N$ が $\nu$ と $\rho$ を分ける集合になる。
4:前半は $\mu(E)=0\Rightarrow\rho(E)\le\nu(E)=0$ による。後半は $\nu$ が集中する $\mu$-零集合 $N$ について $\rho(X\setminus N)\le\nu(X\setminus N)=0$ による。$\square$

分解定理

Lebesgueの分解定理

$\mu$ を $(X,\mathcal S)$ 上の測度、$\nu$ を $(X,\mathcal S)$ 上の σ-有限な測度とする。

  1. (存在)$\mu(N)=0$ となる $N\in\mathcal S$ で、
    $$ \nu_a:=\nu|_{X\setminus N},\qquad\nu_s:=\nu|_N $$
    が $\nu_a\ll\mu$ を満たすものがある。このとき $\nu=\nu_a+\nu_s$、$\nu_a\ll\mu$、$\nu_s\perp\mu$ である。
  2. (一意性)$\alpha,\beta$ が $\nu=\alpha+\beta$、$\alpha\ll\mu$、$\beta\perp\mu$ を満たす測度なら、$\alpha=\nu_a$、$\beta=\nu_s$ である。

$\nu_a$ を $\nu$ の $\mu$ に関する 絶対連続部分、$\nu_s$ を 特異部分 といい、$\nu=\nu_a+\nu_s$ を $\nu$ の Lebesgue 分解 という。$\mu$ には σ-有限性を含めて何も仮定していない。σ-有限性は $\nu$ の側にだけ要り、それも存在のためだけである(一意性の証明は σ-有限性を使わない)。
証明の考え方は、$\nu$ が集中しうる $\mu$-零集合のうち「$\nu$ の重さが最大のもの」$N$ を選ぶことである。$N$ の外にまだ $\nu$ の重さをもつ $\mu$-零集合が残っていれば、それを $N$ に付け足して重さを増やせるので、最大性に反する。

存在。 $\nu$ は σ-有限なので、互いに交わらない $X_1,X_2,\dots\in\mathcal S$ で $X=\bigcup_kX_k$、$\nu(X_k)<\infty$ となるものがある。各 $k$ について
$$ b_k:=\sup\{\nu(B)\mid B\in\mathcal S,\ B\subset X_k,\ \mu(B)=0\} $$
とおく($B=\emptyset$ が候補なので集合は空でなく、$0\le b_k\le\nu(X_k)<\infty$)。上限の定義から、$B_{k,j}\subset X_k$、$\mu(B_{k,j})=0$、$\nu(B_{k,j})>b_k-1/j$ となる $B_{k,j}\in\mathcal S$($j=1,2,\dots$)がとれる。$N_k:=\bigcup_jB_{k,j}$ とおくと、$N_k\subset X_k$、$\mu(N_k)\le\sum_j\mu(B_{k,j})=0$ なので $N_k$ も上限の候補であり、$b_k-1/j<\nu(B_{k,j})\le\nu(N_k)\le b_k$ がすべての $j$ で成り立つから $\nu(N_k)=b_k$ である。$N:=\bigcup_kN_k$ とおくと $\mu(N)=0$ である。
$\nu_a\ll\mu$ を示す。$E\in\mathcal S$、$\mu(E)=0$ とし、$k$ を固定する。$B:=N_k\cup(E\cap X_k)$ は $X_k$ に含まれ、$\mu(B)\le\mu(N_k)+\mu(E)=0$ なので上限の候補であり、
$$ \nu(N_k)+\nu\bigl((E\cap X_k)\setminus N_k\bigr)=\nu(B)\le b_k=\nu(N_k) $$
である。$\nu(N_k)<\infty$ なので両辺から引けて、$\nu((E\cap X_k)\setminus N_k)=0$ を得る。$E\setminus N$ は互いに交わらない集合 $(E\cap X_k)\setminus N$($k=1,2,\dots$)の和であり、$N_k\subset N$ より $(E\cap X_k)\setminus N\subset(E\cap X_k)\setminus N_k$ なので、
$$ \nu_a(E)=\nu(E\setminus N)\le\sum_k\nu\bigl((E\cap X_k)\setminus N_k\bigr)=0 $$
である。$\nu=\nu_a+\nu_s$ は $\nu(E)=\nu(E\setminus N)+\nu(E\cap N)$ そのものであり、$\nu_s(X\setminus N)=0$、$\mu(N)=0$ なので $\nu_s\perp\mu$ である。
一意性。 $\beta$ が $\mu$-零集合 $N'$ に集中するとし、$Z:=N\cup N'$ とおくと $\mu(Z)=0$ である。$E\in\mathcal S$ を任意にとる。$\mu(E\cap Z)=0$ なので $\alpha(E\cap Z)=0$、$\nu_a(E\cap Z)=0$ である。また $E\setminus Z\subset X\setminus N'$ なので $\beta(E\setminus Z)=0$、同様に $\nu_s(E\setminus Z)=0$ である。よって
$$ \beta(E)=\beta(E\cap Z)=\alpha(E\cap Z)+\beta(E\cap Z)=\nu(E\cap Z),\qquad\alpha(E)=\alpha(E\setminus Z)=\nu(E\setminus Z) $$
であり、同じ計算で $\nu_s(E)=\nu(E\cap Z)$、$\nu_a(E)=\nu(E\setminus Z)$ である。したがって $\alpha=\nu_a$、$\beta=\nu_s$ である。$\square$

一意性から、$\nu\ll\mu$ であることは $\nu_s=0$ と同値であり、$\nu\perp\mu$ であることは $\nu_a=0$ と同値である($\nu=\nu+0$、$\nu=0+\nu$ もそれぞれ Lebesgue 分解になるため)。証明の $N$ そのものは一意ではない。$N$ に $\nu$-零集合かつ $\mu$-零集合である集合を付け足しても、同じ $\nu_a,\nu_s$ が得られる。
存在の証明は、Axler20 9.35(p. 271)が有限な複素測度について与えている「$\mu$-零集合の上の重さの上限」による証明を、σ-有限な測度に合わせたものである。Bass24 Theorem 13.5(p. 115)は σ-有限な $\mu$ と有限な $\nu$ について、Radon–Nikodym の定理の証明と同じ方法で絶対連続部分を先に作って示している。

密度との組み合わせ

$\mu$ も σ-有限なら、絶対連続部分に Radon–Nikodymの定理 を当てられる。

Lebesgue–Radon–Nikodymの定理

$\mu,\nu$ を $(X,\mathcal S)$ 上の σ-有限な測度とする。可測関数 $h\colon X\to[0,\infty)$ と、$\mu$ と互いに特異な測度 $\nu_s$ で、すべての $E\in\mathcal S$ について
$$ \nu(E)=\int_Eh\,d\mu+\nu_s(E) $$
となるものがある。$\nu_s$ は一意であり、$h$ は $\mu$-ほとんど至るところ一意である。$\nu$ が有限なら $h\in L^1(\mu)$ である。

thm-ld-main の $\nu_a,\nu_s$ をとる。すべての $E$ で $\nu_a(E)\le\nu(E)$ なので、$\nu$ を覆う測度有限の集合の列は $\nu_a$ も覆い、$\nu_a$ は σ-有限である。$\nu_a\ll\mu$ なので、Radon–Nikodymの定理 の記事の定理「Radon–Nikodymの定理」の 1 により、$\nu_a(E)=\int_Eh\,d\mu$ となる可測関数 $h\colon X\to[0,\infty)$ がある。
一意性:$\nu(E)=\int_Eh'\,d\mu+\beta(E)$($\beta\perp\mu$)とも書けたとする。$E\mapsto\int_Eh'\,d\mu$ は $\mu$ に絶対連続な測度である(同記事の命題「密度で定まる測度」の 1)から、thm-ld-main の 2 により $\beta=\nu_s$、$\int_Eh'\,d\mu=\nu_a(E)$ である。同記事の定理「Radon–Nikodymの定理」の 2 により $\mu$-ほとんど至るところ $h'=h$ である。$\nu$ が有限なら $\int_Xh\,d\mu=\nu_a(X)\le\nu(X)<\infty$ である。$\square$

この形の $h$ を $\nu$ の $\mu$ に関する密度と呼ぶことがあるが、$\nu$ 全体が $\int h\,d\mu$ で表されるのは $\nu_s=0$、すなわち $\nu\ll\mu$ のときだけである。

有限な符号付き測度

有限な符号付き測度(Hahn分解定理 の記事の定義「符号付き測度」で、値がすべて実数のもの)にも同じ分解がある。符号付き測度 $\rho$ が $\mu$ に絶対連続($\rho\ll\mu$)とは $\mu(E)=0\Rightarrow\rho(E)=0$ のことであり、$\rho$ が $\mu$ と互いに特異($\rho\perp\mu$)とは、$\mu(N)=0$ となる $N\in\mathcal S$ で、$X\setminus N$ に含まれるすべての $F\in\mathcal S$ について $\rho(F)=0$ となるものがあることをいう。

有限な符号付き測度の分解

$\mu$ を $(X,\mathcal S)$ 上の測度、$\nu$ を $(X,\mathcal S)$ 上の有限な符号付き測度とする。有限な符号付き測度 $\nu_a,\nu_s$ で $\nu=\nu_a+\nu_s$、$\nu_a\ll\mu$、$\nu_s\perp\mu$ となるものがただ 1 組ある。

要点:全変動 $|\nu|$ に thm-ld-main を当てて得た $\mu$-零集合 $N$ で $\nu$ を切り分ける。一意性は、二つの分解の差が $\mu$ に絶対連続かつ特異な有限の符号付き測度になることから従う。

詳しい証明を開く

存在。 Hahn分解定理 の記事の定理「Jordan分解」により $\nu=\nu^+-\nu^-$($\nu^\pm$ は有限な測度)と書け、全変動測度 $|\nu|=\nu^++\nu^-$ は有限な測度である。$|\nu|$ に thm-ld-main の 1 を当て、$\mu(N)=0$ で、$|\nu|$ の $X\setminus N$ への制限が $\mu$ に絶対連続になる $N$ をとる。$\nu_a(E):=\nu(E\setminus N)$、$\nu_s(E):=\nu(E\cap N)$ とおくと、これらは有限な符号付き測度で、和は $\nu$ である。$\mu(E)=0$ なら $|\nu|(E\setminus N)=0$ なので $\nu^\pm(E\setminus N)=0$、したがって $\nu_a(E)=0$ である。$F\subset X\setminus N$ なら $\nu_s(F)=\nu(\emptyset)=0$ なので $\nu_s\perp\mu$ である。

一意性。 $\nu=\alpha+\beta$ を別の分解とし、$\beta$ に対する集合を $N'$ とする。$\rho:=\nu_a-\alpha=\beta-\nu_s$ は有限な符号付き測度で、$Z:=N\cup N'$ とおくと $\mu(Z)=0$ である。$E\in\mathcal S$ について、$\mu(E\cap Z)=0$ なので $\rho(E\cap Z)=\nu_a(E\cap Z)-\alpha(E\cap Z)=0$、$E\setminus Z$ は $X\setminus N$ にも $X\setminus N'$ にも含まれるので $\rho(E\setminus Z)=\beta(E\setminus Z)-\nu_s(E\setminus Z)=0$ である。よって $\rho(E)=0$ であり、$\alpha=\nu_a$、$\beta=\nu_s$ である。$\square$

複素数値の測度(実部と虚部が有限な符号付き測度であるもの)でも、実部と虚部に thm-ld-signed を当てれば同じ分解がただ 1 つ得られる(Axler20 9.35、p. 271 は複素測度について直接、全変動を使って証明している)。

例

以下、$\lambda$ は $\mathbb R$ の Borel 集合の上の Lebesgue測度、$\delta_x$ は点 $x$ の Dirac 測度($\delta_x(E)=1$($x\in E$)、$0$($x\notin E$))とする。

一様分布と点の質量の混合

$\nu:=\frac12\,1_{[0,1]}\lambda+\frac12\,\delta_{1/2}$ とおく。確率 $\frac12$ で $[0,1]$ の一様分布に従い、残りの確率 $\frac12$ で値 $\frac12$ をとる確率変数の分布である。
$\mu=\lambda$ に関しては、$N=\{1/2\}$ とすると $\lambda(N)=0$ で、$\nu_s=\nu|_N=\frac12\delta_{1/2}$、$\nu_a=\nu|_{\mathbb R\setminus N}=\frac12\,1_{[0,1]}\lambda$ である($\lambda(\{1/2\})=0$ なので $1_{[0,1]}\lambda$ は $N$ の上で $0$)。$\nu_a\ll\lambda$ は Radon–Nikodymの定理 の記事の命題「密度で定まる測度」による。thm-ld-rn の密度は $h=\frac12\,1_{[0,1]}$ である。
$\mu=\delta_{1/2}$ に関しては役割が入れ替わる。$N=\mathbb R\setminus\{1/2\}$ は $\delta_{1/2}$-零集合であり、$\nu_s=\nu|_N=\frac12\,1_{[0,1]}\lambda$、$\nu_a=\nu|_{\{1/2\}}=\frac12\delta_{1/2}$ となる。同じ $\nu$ でも、どの部分が絶対連続でどの部分が特異かは $\mu$ によって決まる。

Cantor 関数から作る測度

Cantor関数 $F\colon[0,1]\to[0,1]$ を $x< 0$ で $F(x)=0$、$x>1$ で $F(x)=1$ として $\mathbb R$ に延ばすと、$F$ は単調非減少で連続である(同記事の定理「Cantor関数の基本性質」の 2)。$F$ の Lebesgue–Stieltjes 測度 $\mu_F$(単調関数 の記事の注意「単調関数と測度」。$\mu_F((a,b])=F(b)-F(a)$)を考える。$\mu_F(\mathbb R)=1$ である。

  1. 点に質量がない。 $F$ は連続なので、同じ注意の式から $\mu_F(\{x\})=F(x+)-F(x-)=0$ である。
  2. Cantor 集合に集中する。 Cantor集合 $C$ の補集合は、$(-\infty,0)$、$(1,\infty)$ と、構成で取り除いた可算個の開区間の和である(Cantor関数 の記事の補題「取り除いた開区間」の 1)。取り除いた開区間 $(p,q)$ の閉包の上で $F$ は定数なので(同記事の定理「Cantor関数の基本性質」の 3)、$\mu_F((p,q))=\lim_n\mu_F((p,q-1/n])=\lim_n(F(q-1/n)-F(p))=0$ である。同様に $\mu_F((-n,0))\le F(0)-F(-n)=0$、$\mu_F((1,n])=F(n)-F(1)=0$ なので、可算加法性から $\mu_F(\mathbb R\setminus C)=0$ である。
  3. Lebesgue 測度と互いに特異である。 $\lambda(C)=0$(Lebesgue測度 の記事の例「区間・有理数・無理数・Cantor集合」)と 2 から $\mu_F\perp\lambda$ である。
    よって $\mu_F$ の $\lambda$ に関する Lebesgue 分解は $(\mu_F)_a=0$、$(\mu_F)_s=\mu_F$ である。$\mu_F$ は点の質量の和でもないので、「密度で書ける」「点の質量の和」のどちらでもない確率測度の例になる。
有理数の上に質量をもつ測度

有理数を $q_1,q_2,\dots$ と番号付けし、$\nu:=\sum_n2^{-n}\delta_{q_n}$ とおく。$\nu(\mathbb Q^c)=0$、$\lambda(\mathbb Q)=0$ なので $\nu\perp\lambda$ であり、$\nu$ の $\lambda$ に関する絶対連続部分は $0$ である。$\nu$ の分布関数 $x\mapsto\nu((-\infty,x])$ はすべての有理数で $2^{-n}$ の跳びをもち、どの区間でも定数ではない。特異な測度は「少数の点に載っている」とは限らず、台が $\mathbb R$ 全体になることもある。

実数直線上の 3 つの部分

実数直線の上では、特異部分を点の質量とそれ以外に分けられる。以下、$\mathbb R$ の Borel 集合の上の測度を Borel 測度という。

原子・純点測度・特異連続測度

$\nu$ を $\mathbb R$ 上の Borel 測度とする。

  1. $\nu(\{x\})>0$ となる点 $x$ を $\nu$ の 原子 という。原子をもたない $\nu$ を 連続 な測度という。
  2. すべての Borel 集合 $E$ について $\nu(E)=\sum_{x\in E}\nu(\{x\})$ となる $\nu$ を 純点測度 という(右辺は値が正の項だけの和)。
  3. 連続で $\lambda$ と互いに特異な $\nu$ を 特異連続 な測度という。

ex-ld-cantor の $\mu_F$ は特異連続であり、ex-ld-rationals の $\nu$ は純点測度である。$\lambda$ に絶対連続な測度は連続である($\lambda(\{x\})=0$ なので)。

Borel 測度の 3 つの部分への分解

$\nu$ を $\mathbb R$ 上の σ-有限な Borel 測度とする。$\nu$ の原子の全体 $A$ は高々可算であり、純点測度 $\nu_{pp}$、$\lambda$ に絶対連続な測度 $\nu_{ac}$、特異連続な測度 $\nu_{sc}$ で
$$ \nu=\nu_{pp}+\nu_{ac}+\nu_{sc} $$
となるものがただ 1 組ある。$\nu_{pp}(E)=\sum_{x\in E\cap A}\nu(\{x\})$ であり、$\nu_{ac}(E)=\int_Eh\,d\lambda$ となる可測関数 $h\colon\mathbb R\to[0,\infty)$ がある($\lambda$-ほとんど至るところ一意)。

要点:原子の集合 $A$ で $\nu$ を切り分け、$A$ の外の部分 $\nu_c$ に thm-ld-main を $\mu=\lambda$ で当てる。一意性は、どの分解でも原子は $\nu_{pp}$ の部分にしか現れないことと、thm-ld-main の一意性から従う。

詳しい証明を開く

原子は高々可算。 $\mathbb R=\bigcup_kX_k$、$\nu(X_k)<\infty$ とする。$x\in X_k$ で $\nu(\{x\})>1/m$ となる点が $l$ 個あれば $l/m<\nu(X_k)$ なので、その個数は $m\,\nu(X_k)$ 未満である。$A$ はこれらの有限集合の $k,m$ にわたる和なので高々可算である。

存在。 $\nu_{pp}:=\nu|_A$、$\nu_c:=\nu|_{\mathbb R\setminus A}$ とおく。$A$ は高々可算なので可算加法性から $\nu_{pp}(E)=\nu(E\cap A)=\sum_{x\in E\cap A}\nu(\{x\})$ であり、$x\notin A$ なら $\nu(\{x\})=0$ だから $\nu_{pp}$ は純点測度である。$\nu_c(\{x\})$ は $x\in A$ なら $\nu(\emptyset)=0$、$x\notin A$ なら $\nu(\{x\})=0$ なので、$\nu_c$ は連続である。$\nu_c\le\nu$ なので $\nu_c$ は σ-有限であり、thm-ld-main を $\mu=\lambda$、$\nu_c$ に当てて $\nu_c=\nu_{ac}+\nu_{sc}$($\nu_{ac}\ll\lambda$、$\nu_{sc}\perp\lambda$)を得る。$\nu_{sc}\le\nu_c$ なので $\nu_{sc}$ も連続であり、特異連続である。$h$ の存在と一意性は、$\lambda$ が σ-有限で $\nu_{ac}\le\nu$ が σ-有限であることから Radon–Nikodymの定理 の記事の定理「Radon–Nikodymの定理」による。

一意性。 $\nu=p+a+s$($p$ は純点測度、$a\ll\lambda$、$s$ は特異連続)とする。$a$ と $s$ は連続なので、各点で $\nu(\{x\})=p(\{x\})$ である。よって $p(E)=\sum_{x\in E}p(\{x\})=\sum_{x\in E\cap A}\nu(\{x\})=\nu_{pp}(E)$ である。次に $E$ を Borel 集合とする。$E\cap A$ は高々可算なので $(a+s)(E\cap A)=\sum_{x\in E\cap A}(a+s)(\{x\})=0$ であり、$p(E\setminus A)=\nu_{pp}(E\setminus A)=0$ なので $(a+s)(E\setminus A)=\nu(E\setminus A)=\nu_c(E)$ である。二つを足して $(a+s)(E)=\nu_c(E)$、すなわち $a+s=\nu_c$ であり、thm-ld-main の 2 により $a=\nu_{ac}$、$s=\nu_{sc}$ である。$\square$

有限な Borel 測度 $\nu$ の分布関数 $G(x):=\nu((-\infty,x])$ は、この分解に応じて
$$ G(x)=\sum_{y\in A,\ y\le x}\nu(\{y\})+\int_{-\infty}^xh\,d\lambda+\nu_{sc}((-\infty,x]) $$
と 3 つの単調非減少関数の和に分かれる。第 1 項は跳びだけで増える関数、第 2 項は各有界閉区間の上で 絶対連続関数 であり(同記事の定理「絶対連続関数と不定積分」)、第 3 項は連続である($\nu_{sc}$ に原子がないので)。さらに $G$ は $\lambda$-ほとんど至るところ微分可能で $G'=h$ であり、とくに特異部分から来る第 1 項と第 3 項の導関数はほとんど至るところ $0$ である(Bass24 Lemma 14.6・Proposition 14.7 とその証明、pp. 128–131。この記事では証明しない)。Cantor関数 は第 3 項だけからなる場合で、ほとんど至るところ $F'=0$ なのに $F(1)-F(0)=1$ である。

条件を外した反例

thm-ld-main と thm-ld-three の条件を 1 つずつ外すと、分解が存在しないか、一意でなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$\nu$ が σ-有限$[0,1]$ の Borel 集合の上で $\mu=\lambda$、$\nu$ は数え上げ測度分解の存在
$\beta\perp\mu$(第 2 項に条件を課さない)$\mu=\nu=\lambda$、$\nu=\frac12\lambda+\frac12\lambda$分解の一意性
$\nu_{sc}$ が連続$\nu=\delta_0$ を $\delta_0+0+0$ と $0+0+\delta_0$ に分ける3 つの部分への分解の一意性
$\mu$ が σ-有限(thm-ld-rn)$[0,1]$ の Borel 集合の上で $\mu$ は数え上げ測度、$\nu=\lambda$絶対連続部分の密度の存在
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを破っている。

確かめを開く

1 行目:$\mu=\lambda$ は有限である。$[0,1]$ は非可算なので、測度有限の(すなわち有限の)集合の可算和で覆えず、$\nu$ は σ-有限でない。$\nu=\alpha+\beta$、$\alpha\ll\lambda$、$\beta$ は $\lambda$-零集合 $N$ に集中するとする。$x\notin N$ なら $\beta(\{x\})\le\beta([0,1]\setminus N)=0$ なので $\alpha(\{x\})=1$ であるが、$\lambda(\{x\})=0$ と $\alpha\ll\lambda$ から $\alpha(\{x\})=0$ となり矛盾する。よって $N=[0,1]$ でなければならないが、$\lambda([0,1])=1\ne0$ である。分解は存在しない。

2 行目:$\nu=\lambda$ は σ-有限で、$\alpha=\frac12\lambda\ll\lambda$ である。第 2 項 $\frac12\lambda$ は $\lambda$ と互いに特異でない($\lambda$-零集合 $N$ について $\frac12\lambda(\mathbb R\setminus N)=\infty\ne0$)。Lebesgue 分解 $\lambda=\lambda+0$ と異なる分け方になっている。

3 行目:$\delta_0$ は純点測度で、$0$ は $\lambda$ に絶対連続である。第 3 項 $\delta_0$ は $\lambda$ と互いに特異($\{0\}$ に集中する)だが、原子 $0$ をもつので連続でない。

4 行目:$\nu=\lambda$ は有限である。$\mu(E)=0$ となるのは $E=\emptyset$ だけなので $\nu\ll\mu$ であり、thm-ld-main の分解は $\nu_a=\lambda$、$\nu_s=0$ として存在する。しかし $\lambda(E)=\int_Eh\,d\mu$ となる $h$ があれば $h(x)=\lambda(\{x\})=0$ がすべての $x$ で成り立ち、$\lambda=0$ となって矛盾する(Radon–Nikodymの定理 の記事の表の 2 行目と同じ)。$[0,1]$ は非可算なので $\mu$ は σ-有限でない。

1 行目と 4 行目を比べると、σ-有限性の役割の違いがわかる。分解そのものは $\mu$ について何も要らず、$\nu$ の σ-有限性だけで存在する。絶対連続部分を密度で書くためには $\mu$ の σ-有限性が要る。

使われ方

  • 確率分布の型。 実数値の確率変数の分布は有限な Borel 測度なので、thm-ld-three により離散型(純点)・連続型(密度をもつ)・特異連続型の和にただ 1 通りに分かれる。確率密度関数と連続型確率変数 で扱う「密度をもつ分布」は $\nu_{pp}=\nu_{sc}=0$ の場合である。
  • スペクトルの分類。 自己共役作用素の スペクトル定理 で各ベクトルに付随するスペクトル測度を 3 つの部分に分けると、Hilbert 空間が絶対連続部分・特異連続部分・純点部分の直和に分かれ、それに応じてスペクトルが分類される(Tes09 (3.73)–(3.75)、p. 102、Lemma 3.19 と (3.85)、pp. 105–106。この記事では証明しない)。
  • 単調関数の微分。 上の分布関数の分解は、単調関数がほとんど至るところ微分可能であることの証明の筋道そのものになる(Bass24 §14.3)。

関連項目

参考文献

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