反変関手(contravariant functor)とは、圏の射の向きを逆にして移し、恒等射と逆順の合成法則 $F(g\circ f)=F(f)\circ F(g)$ を満たす対応であり、反対圏からの通常の関手として定義できる。例えば冪集合と逆像、線形空間の双対、可換環の素スペクトル、前層の制限写像は反変関手である。共変か反変かは射の移し方で決まり、対象の対応だけでは決まらない。二つの反変関手の合成は共変関手になる。
集合の写像 $f:X\to Y$ は、部分集合について逆向きの写像 $f^{-1}:\mathcal P(Y)\to\mathcal P(X)$ を定める。線形写像 $T:V\to W$ も、線形汎関数には逆向きの写像 $T^*:W^*\to V^*$ を定める。どちらも元の射を逆射に変えるわけではない。反変関手(contravariant functor)は、この「構成した対象の間で射の向きが逆になる」という共通の規則を表す。
関手の記事は関手の基本法則を、反対圏の記事は向きを逆にした圏を定義する。ここでは、逆像、双対、素スペクトル、前層を通して反変性を計算し、何を確かめれば反変関手と呼べるかを整理する(Mac98 Chapter II §2)。
$\mathcal C,\mathcal D$ を圏とする。対象 $X\in\mathcal C$ に $F(X)\in\mathcal D$ を、射 $f:X\to Y$ に $F(f):F(Y)\to F(X)$ を対応させる。向きが逆になるだけでなく、恒等射と合成に関する法則が必要である。
反変関手 $F:\mathcal C\to\mathcal D$ とは、上の対象・射の対応で、任意の $X$ と合成可能な $f:X\to Y,\ g:Y\to Z$ に対し
$$
F(\operatorname{id}_X)=\operatorname{id}_{F(X)},\qquad
F(g\circ f)=F(f)\circ F(g)
$$
を満たすものをいう。厳密には、これは通常の共変関手 $F:\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathcal D$ である。
右辺の順序は $F(Z)\xrightarrow{F(g)}F(Y)\xrightarrow{F(f)}F(X)$ という型から決まる。「反変」は写像 $F(f)$ 自身が可逆という意味ではない。例えば逆像写像は、元の $f$ が全単射でなくても必ず定義できる。反変関手の定義は 反対圏 の射を使えば普通の関手の定義に戻る。
$\mathcal C$ から $\mathcal D$ への反変関手のデータと、$\mathcal C^{\mathrm{op}}$ から $\mathcal D$ への共変関手のデータは同じである。
$f:X\to Y$ を $\mathcal C$ の射とすると、反対圏では $f^{\mathrm{op}}:Y\to X$ となる。$\mathcal C$ で $g\circ f$ が定まるとき、反対圏では $(g\circ f)^{\mathrm{op}}=f^{\mathrm{op}}\circ g^{\mathrm{op}}$ である。関手法則をこの等式に適用すれば、$F(g\circ f)=F(f)\circ F(g)$ が得られる。恒等射は反対圏でも恒等射なので、その法則も一致する。逆向きにも同じ等式をたどれる。$\square$
なお、$\mathcal C$ と $\mathcal D$ が同じ圏である必要はない。集合から集合への逆像、ベクトル空間からベクトル空間への双対、可換環からスキームへの素スペクトルは、いずれも行き先の圏を明記してはじめて意味が定まる。
集合 $X$ の冪集合を $\mathcal P(X)$ とする。写像 $f:X\to Y$ に対し、逆像 $f^{-1}:\mathcal P(Y)\to\mathcal P(X)$ は $B\subseteq Y$ を $\{x\in X\mid f(x)\in B\}$ に送る。この $f^{-1}$ は、$f$ の逆写像を意味する記号ではない。
$X\mapsto\mathcal P(X)$、$f\mapsto f^{-1}$ は $\mathbf{Set}$ から $\mathbf{Set}$ への反変関手を定める。
$f:X\to Y,\ g:Y\to Z$ と $C\subseteq Z$ をとる。任意の $x\in X$ について
$$
x\in(g\circ f)^{-1}(C)
\quad\Longleftrightarrow\quad
g(f(x))\in C
\quad\Longleftrightarrow\quad
x\in f^{-1}(g^{-1}(C)).
$$
よって $(g\circ f)^{-1}=f^{-1}\circ g^{-1}$。恒等写像の逆像は各部分集合をそのまま返すので、恒等射の法則も成り立つ。$\square$
同じ対象対応 $X\mapsto\mathcal P(X)$ に対し、$f$ を直接像 $f_*:\mathcal P(X)\to\mathcal P(Y)$ に送れば、今度は共変関手になる。実際 $(g\circ f)_*=g_*\circ f_*$。対象に何を対応させるかだけでは共変・反変は決まらない。射に何を対応させるかまで指定する必要がある。
逆像は任意の合併と共通部分を保つが、直接像は一般に共通部分を保たない。たとえば二点を一点へ送る定数写像では、二つの互いに交わらない一元集合の直接像は同じ一元集合になる。この差は、逆像関手が元の集合の論理演算と強く両立する理由の一つである。
体 $K$ 上のベクトル空間 $V$ の代数的双対を $V^*=\operatorname{Hom}_K(V,K)$ とする。線形写像 $T:V\to W$ があるとき、$W$ 上の線形汎関数 $\varphi$ を $T$ と合成すれば $V$ 上の線形汎関数 $\varphi\circ T$ が得られる。この操作を $T^*:W^*\to V^*$ と書く。
$V\mapsto V^*$ と $T\mapsto T^*$ は $K$ 上のベクトル空間の圏からそれ自身への反変関手を定める。有限次元で基底を選ぶと、$T^*$ の行列は $T$ の行列の転置である。
$S:W\to U$ と $\psi\in U^*$ に対し、
$$
(S\circ T)^*(\psi)=\psi\circ S\circ T
=T^*(S^*(\psi)).
$$
従って $(S\circ T)^*=T^*\circ S^*$。また $\varphi\circ\operatorname{id}_V=\varphi$ なので恒等射も保つ。$V,W$ の基底とそれぞれの双対基底を選び、$T(e_j)=\sum_i a_{ij}w_i$ と書けば、$T^*(w_i^*)(e_j)=a_{ij}$。これが転置行列の成分である。$\square$
無限次元のノルム空間では、代数的双対と連続線形汎関数からなる連続双対空間を区別する。連続線形写像の前合成は連続汎関数を連続汎関数に送るので、連続双対も連続線形写像の圏で反変になる。ここで対象をすべての線形写像の圏にしてしまうと、前合成した汎関数の連続性を一般には保証できない。反変性はどの射を許す圏かにも依存する。
双対空間の例は、より一般の Hom の例である。各 Hom が集合になる圏 $\mathcal C$ と固定した対象 $A$ をとる。対象 $X$ に射の集合 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,A)$ を対応させる。$f:X\to Y$ が与えられたとき、$Y\to A$ という射 $h$ に $h\circ f:X\to A$ を対応させれば、射の集合の間の写像ができる。$A$ は動かさず、Hom の第一変数 $X$ を動かしている。
$A\in\mathcal C$ を固定すると、
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,A):\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}
$$
は反変関手である。$f:X\to Y$ が誘導する写像は
$$
f^*:\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(Y,A)\to
\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,A),\qquad h\longmapsto h\circ f
$$
である。
$X\xrightarrow{f}Y\xrightarrow{g}Z$ と $h:Z\to A$ をとる。$h$ を $g\circ f$ と一度に前合成すると $h\circ g\circ f$ になる。まず $g$ と、次に $f$ と前合成しても $(h\circ g)\circ f$ となり、射の合成律で同じである。したがって $(g\circ f)^*=f^*\circ g^*$。恒等射との前合成は各 $h$ を変えない。$\square$
これと対に、$\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(A,-)$ は第二変数の射 $f:X\to Y$ に、後合成 $h:A\to X\mapsto f\circ h:A\to Y$ を対応させる共変関手である。記号の「$-$」が第一変数にあるか第二変数にあるかで向きが変わる。両変数を同時に動かすと
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,-):
\mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal C\to\mathbf{Set}
$$
となる。$f:X'\to X$ と $g:Y\to Y'$ による写像は $h:X\to Y$ を $g\circ h\circ f:X'\to Y'$ に送る。左右の合成を取り違えないために、各射の始点と終点を先に書くとよい。
具体的に $\mathcal C=\mathbf{Set}$、$A=\{0,1\}$ とすれば、$\operatorname{Hom}(X,A)$ の元は $X$ の各点への二値の割当てであり、値 $1$ をとる部分集合に対応する。従って $\operatorname{Hom}_{\mathbf{Set}}(X,\{0,1\})\cong\mathcal P(X)$。$f:X\to Y$ の前合成は $Y$ の二値の割当てを $X$ に引き戻し、対応する部分集合の逆像を取る。この同型は $f$ を変えても前合成と逆像の操作を保つ。先の冪集合の例が Hom 関手の具体形であることが分かる。
一方、$A$ を別の対象へ動かす射 $a:A\to B$ は、各 $X$ について後合成
$$
\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,A)\to
\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,B),\quad h\longmapsto a\circ h
$$
を与える。この写像は $X$ の射による前合成と両立する。第一変数では反変であっても、固定先の対象 $A$ を動かす方向では共変になるので、「Hom は反変」とだけ言うと情報が足りない。
可換環 $A$ にその素イデアルの空間 $\operatorname{Spec}A$ を対応させる。環準同型 $\phi:A\to B$ と $B$ の素イデアル $\mathfrak q$ に対し、逆像 $\phi^{-1}(\mathfrak q)$ は $A$ の素イデアルである。したがって $\phi$ は逆向きのスキーム射 $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ を定める(Sta01I1)。
可換環の圏で $A\mapsto\operatorname{Spec}A$、$\phi\mapsto\operatorname{Spec}\phi$ はスキームの圏への反変関手である。環準同型 $A\xrightarrow{\phi}B\xrightarrow{\psi}C$ に対して
$$
\operatorname{Spec}(\psi\circ\phi)
=\operatorname{Spec}\phi\circ\operatorname{Spec}\psi
$$
となる。
$C$ の素イデアル $\mathfrak r$ は、左辺で $(\psi\circ\phi)^{-1}(\mathfrak r)$ に送られる。右辺ではまず $\psi^{-1}(\mathfrak r)$、次に $\phi^{-1}(\psi^{-1}(\mathfrak r))$ に送られ、両者は等しい。構造層の準同型も局所化と環準同型の合成で定まるので同じ順序で合成される。恒等環準同型は恒等スキーム射になる。$\square$
素イデアルの逆像の等式は、スキーム射の点集合上の写像が一致することを示す。ただしスキーム射は構造層への写像も含むので、点だけの照合では証明は終わらない。基本開集合 $D(a)\subseteq\operatorname{Spec}A$ の逆像は $D(\phi(a))\subseteq\operatorname{Spec}B$ であり、そこでは環の写像は局所化 $\phi_a:A_a\to B_{\phi(a)}$ で与えられる。さらに $\psi:B\to C$ を続けると、$D(a)$ 上の構造層の写像は
$$
A_a\xrightarrow{\phi_a}B_{\phi(a)}
\xrightarrow{\psi_{\phi(a)}}C_{\psi(\phi(a))}
$$
となる。これは $(\psi\circ\phi)_a$ と一致する。基本開集合は位相の基底だから、この一致で構造層の写像の合成も確認できる。アフィンスキームへの射と環準同型の全単射を一般に述べるのが Sta01I1 であり、上の計算はその反変性を具体的に見たものである。
この例では環の射が逆向きの幾何の射になる。多項式環の写像 $A\to B$ は、$A$ の関数を $B$ の上へ引き戻す操作としても読める。スキーム射の詳細はアフィンスキームとスキームに譲る。ここで必要なのは、素イデアルの逆像が反変性を目に見える形で示すことである。
位相空間 $X$ の開集合を包含 $V\subseteq U$ を射 $V\to U$ とする圏 $\operatorname{Open}(X)$ を考える。各開集合 $U$ に集合 $F(U)$ を対応させ、包含 $V\subseteq U$ に制限写像 $\rho^U_V:F(U)\to F(V)$ を対応させる。広い場所のデータを狭い場所へ制限するので向きが逆になる。
$X$ 上の集合値前層とは反変関手 $F:\operatorname{Open}(X)\to\mathbf{Set}$ のことである。したがって $\rho^U_U=\operatorname{id}$、$W\subseteq V\subseteq U$ なら
$$
\rho^U_W=\rho^V_W\circ\rho^U_V
$$
を満たす。
連続関数の集合 $C(U,\mathbb R)$ はその例である。関数を狭い開集合へ制限し、二段階で制限しても一度で制限しても結果は同じになる。一方、前層であるだけでは、局所的なデータが貼り合わさるとは限らない。貼り合わせ条件を追加したものが層である。反変関手性と層条件は別々の条件である。
同じ圏 $\mathcal C$ から $\mathcal D$ への二つの反変関手 $F,G$ を比べるとき、各対象 $X$ に射 $\eta_X:F(X)\to G(X)$ を与えるだけでは、二つの構成の間の対応として十分ではない。$X$ を射 $f:X\to Y$ に沿って変えたとき、先に $\eta$ を適用するか、先に $F(f),G(f)$ で引き戻すかが一致しなければならない。
$F,G:\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathcal D$ に対し、自然変換 $\eta:F\Rightarrow G$ は各 $X$ の射 $\eta_X:F(X)\to G(X)$ で、任意の $f:X\to Y$ に対し
$$
G(f)\circ\eta_Y=\eta_X\circ F(f)
$$
を満たすものである。両辺は $F(Y)$ から $G(X)$ への射である。
この式の添字は、反変性を忘れると取り違えやすい。左辺では $F(Y)\xrightarrow{\eta_Y}G(Y)\xrightarrow{G(f)}G(X)$、右辺では $F(Y)\xrightarrow{F(f)}F(X)\xrightarrow{\eta_X}G(X)$ と進む。四角形の上と下が $Y$ と $X$ のどちらかを確認すれば、向きは自動的に決まる。
各集合 $X$ の部分集合 $S\subseteq X$ に、その特性関数 $\chi_S:X\to\{0,1\}$ を対応させる。これは全単射 $\eta_X:\mathcal P(X)\to\operatorname{Hom}(X,\{0,1\})$ である。$f:X\to Y$ と $S\subseteq Y$ に対し
$$
\chi_{f^{-1}(S)}(x)=1
\quad\Longleftrightarrow\quad f(x)\in S
\quad\Longleftrightarrow\quad
(\chi_S\circ f)(x)=1.
$$
従って $\eta_X(f^{-1}S)=\eta_Y(S)\circ f$。これは上の自然性の式そのものであり、冪集合の逆像関手と二値関数の Hom 関手が自然同型であることを示す。
単なる集合の全単射と自然同型は異なる。各 $X$ ごとに $\mathcal P(X)$ の要素を恣意的に並べ替えれば、同じ濃度の集合への全単射は作れる。しかしその並べ替えがすべての $f:X\to Y$ の逆像と両立するとは限らない。特性関数による対応は、任意の $f$ に対して上の等式を持つため、対象ごとの偶然の一致ではなく構成全体の一致を表している。より一般の自然変換は自然変換の記事で扱う。
二つの反変関手を続けて適用できるとき、射の向きは二回反転して元に戻る。$F:\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathcal D$ と $G:\mathcal D^{\mathrm{op}}\to\mathcal E$ があれば、$F$ に対応する共変関手 $F^{\mathrm{op}}:\mathcal C\to\mathcal D^{\mathrm{op}}$ を通して $G\circ F^{\mathrm{op}}:\mathcal C\to\mathcal E$ が共変関手となる。単に $G\circ F$ と書くと型が合わない場合があるため、定義域の反対圏を明示するのが安全である。
上の $F,G$ について、$X\mapsto G(F(X))$ と $f:X\to Y$ に対する $G(F(f)):G(F(X))\to G(F(Y))$ は共変関手を定める。
$f:X\to Y$ では $F(f):F(Y)\to F(X)$、さらに $G$ を適用すると $G(F(f)):G(F(X))\to G(F(Y))$ となる。$f,g$ の合成に対して
$$
G(F(g\circ f))
=G(F(f)\circ F(g))
=G(F(g))\circ G(F(f))
$$
であり、これは共変関手の合成法則である。恒等射の法則も二度適用すれば得られる。$\square$
反変関手を使うときは、まず対象と射をそれぞれ書き、次に $F(f)$ の始点と終点を確かめ、最後に恒等射と合成の式を検査する。逆像、双対、$\operatorname{Spec}$、制限写像はそれぞれ数学的内容が違うが、この三段階は共通である。特に「逆向きに見える」という印象だけでは関手法則を保証しない。
反変関手の定義の二つの法則は互いに独立であり、また射の範囲や自然性の条件も省けない。どの条件を欠くと何が崩れるかを表にする。以下 $\mathcal P(X)$ は冪集合である。
| 欠ける条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 恒等射の法則 | $X\mapsto\mathcal P(X)$、全ての $f$ を定値写像 $B\mapsto\emptyset$ に送る | 合成の法則は満たすのに反変関手である |
| 合成の法則 | $X\mapsto\mathcal P(X)$、恒等射は恒等写像に、それ以外の射は $B\mapsto\emptyset$ に送る | 恒等射の法則は満たすのに反変関手である |
| 射を連続線形写像に限る | $c_{00}$(上限ノルム)から $\mathbb R$ への $T(x)=\sum_n nx_n$ | $T^*$ が連続双対の間の写像を与える |
| 自然性の式 | 一点集合でだけ特性関数を入れ替えた $\eta_X:\mathcal P(X)\to\operatorname{Hom}(X,\{0,1\})$ | 各成分が全単射なら自然同型である |
| 貼り合わせ条件 | $\mathbb R$ の開集合 $U$ に $U$ 上の有界連続関数の集合を対応させる前層 | 前層(反変関手)なら層である |
恒等射の法則だけが欠ける例。 全ての射の像が「$\emptyset$ への定値写像」なので、$F(g\circ f)$ も $F(f)\circ F(g)$ も全ての部分集合を $\emptyset$ に送り、合成の法則は成り立つ。しかし $X\ne\emptyset$ なら $F(\operatorname{id}_X)(X)=\emptyset\ne X$ で、$F(\operatorname{id}_X)\ne\operatorname{id}$ である。
合成の法則だけが欠ける例。 恒等射の法則は定義から成り立つ。$X=\{0\}$、$Y=\{1\}$ とし、$f:X\to Y$ と $g:Y\to X$ を唯一の写像とすると、$g\circ f=\operatorname{id}_X$ だから $F(g\circ f)=\operatorname{id}$ である。一方 $f,g$ は恒等射でないので $F(f)\circ F(g)$ は $\{0\}\mapsto\emptyset$ となり、両者は一致しない。
連続でない線形写像。 $c_{00}$ を有限個の成分以外が $0$ の実数列の空間とし、上限ノルムを入れる。$T(x)=\sum_n nx_n$ は線形だが、$\|e_n\|=1$、$T(e_n)=n$ だから連続でない。$\mathbb R$ 上の恒等写像 $\varphi$ は連続汎関数だが、$T^*\varphi=\varphi\circ T=T$ は連続でない。従って射を全ての線形写像にすると、$T^*$ は連続双対 $\mathbb R^*\to(c_{00})^*_{\text{連続}}$ の写像にならず、対応そのものが定まらない。
自然でない全単射。 一点集合 $P=\{*\}$ でだけ $\eta_P(\emptyset)=\chi_{\{*\}}$、$\eta_P(\{*\})=\chi_\emptyset$ と入れ替え、他の $X$ では $\eta_X(S)=\chi_S$ とする。各 $\eta_X$ は全単射である。$Y=\{a,b\}$、$f:P\to Y$ を $f(*)=a$、$S=\{a\}$ とすると、$\eta_P(f^{-1}S)=\eta_P(\{*\})=\chi_\emptyset$ だが、$\eta_Y(S)\circ f=\chi_{\{a\}}\circ f=\chi_{\{*\}}$ である。自然性の式が破れ、$\eta$ は自然変換でない。
層でない前層。 有界連続関数の制限はまた有界連続なので、これは反変関手である。開被覆 $\mathbb R=\bigcup_n(-n,n)$ の各 $(-n,n)$ 上の関数 $x$ は有界で、重なりで一致する。しかし貼り合わせた関数 $x$ は $\mathbb R$ 上で有界でなく、$\mathbb R$ 上の切断にならない。
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