Wieferich素数(Wieferich prime)とは、Fermat の小定理の合同式 $2^{p-1}\equiv1\pmod p$ が法 $p^2$ でも成り立つ奇素数 $p$、すなわち $2^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ を満たす素数のことであり、知られている例は $1093$ と $3511$ だけである。$2$ の位数が法 $p$ と法 $p^2$ で一致することと同値であり、素数 $q$ に対する $2^q-1$ や Fermat 数が $p^2$ で割り切れるなら $p$ は Wieferich 素数になる。abc 予想を仮定すると Wieferich 素数でない素数は無限にある。Fermat の方程式の第一の場合の解の指数は Wieferich 素数に限られることを Wieferich が示した。
前提知識: Fermatの小定理, 元の位数, 二項定理, 擬素数
Fermatの小定理 によれば、奇素数 $p$ について $2^{p-1}\equiv1\pmod p$ である。これを法 $p^2$ に強めた $2^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ はほとんど成り立たない。$p=3$ では $2^2=4$、$p=5$ では $2^4=16$、$p=7$ では $2^6=64\equiv15\pmod{49}$ で、どれも $1$ にならない。この合同式を満たす素数を Wieferich 素数(Wieferich prime)という。知られている例は $1093$ と $3511$ の 2 つだけで、$6.7\times10^{15}$ より小さい範囲にはほかにない(DK11 の要旨)。
名前は A. Wieferich による。Wieferich は 1909 年、Fermat の方程式 $x^p+y^p=z^p$ が、$x,y,z$ のどれも $p$ で割り切れない整数解をもつなら $p$ はこの合同式を満たすことを示した(HW60 第 XIII 章の注、p. 202)。Fermat の最終定理が証明された今日では、Wieferich 素数は 2 の冪の法 $p^2$ での振る舞いが特別な素数として、それ自体が研究されている。
この記事では、Wieferich 素数を法 $p$ と法 $p^2$ での $2$ の位数で特徴づけ(prop-wf-equiv)、Mersenne 数 $2^q-1$ や Fermat数 が素数の平方で割り切れるなら、その素数は Wieferich 素数であることを示す(thm-wf-square-factor)。さらに、abc予想 を仮定すると Wieferich 素数でない素数が無限にあることを証明する(thm-wf-abc)。
以下、$p$ は奇素数を表す。
$a$ を $p$ で割り切れない整数とする。Fermatの小定理 により $a^{p-1}-1$ は $p$ で割り切れるので、
$$
q_p(a):=\frac{a^{p-1}-1}{p}
$$
は整数である。これを $a$ の Fermat 商(Fermat quotient)という。$q_p(a)\equiv0\pmod p$、すなわち
$$
a^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}
$$
が成り立つとき、$p$ を 底 $a$ の Wieferich 素数 という。底 $2$ の Wieferich 素数を単に Wieferich 素数 という。
$p=2$ は $2$ を割るので底 $2$ では考えない。$q_p(2)$ を $p$ で割った余りは、$p=3,5,7,11,13$ でそれぞれ $1,3,2,5,3$ であり、どれも $0$ でない。余りが「でたらめ」に $0,1,\dots,p-1$ をとると考えると、$p$ が Wieferich 素数になる確率はおよそ $1/p$ であり、$x$ 以下の Wieferich 素数の個数は $\sum_{p\le x}1/p\approx\log\log x$ 程度と見積もられる。これはきわめてゆっくり増えるので、探索で見つからないことと矛盾しない。DK11 の §6.1(p. 10)は、この見積もりと同じ形の Crandall–Dilcher–Pomerance の予想(区間 $[a,b]$ の素数のうち Fermat 商が法 $p$ で $0$ に近いものの個数は $\log\log b-\log\log a$ に比例する)を計算で検証している(この記事では扱わない)。
$1093$ と $3511$ は Wieferich 素数である。$1093$ は 1913 年に W. Meissner が、$3511$ は 1922 年に N. G. W. H. Beeger が見つけた(DK11 p. 2)。$10^7$ までの素数でこの 2 つ以外にないことは計算で確かめられ、DK11 は $6.7\times10^{15}$ より小さい範囲にほかにないことを報告している。$1093$ については、法 $1093^2$ での手計算による確認ができる(HW60 §6.10、Theorem 91、p. 73 にも同じ筋の計算がある)。
$p=1093$ とし、合同式はすべて法 $p^2=1194649$ で考える。$3^7=2187=2p+1$ なので、二項定理により $3^{14}=(1+2p)^2\equiv1+4p$ である。また $2^{14}=16384=15p-11$ なので $2^{28}=(15p-11)^2\equiv121-330p$ である。
$9\cdot2^{28}\equiv1089-2970p$ で、$1089=p-4$、$-2970p+p=-2969p$ であり、$-2969\equiv-2969+1093=-1876\pmod p$ なので $-2969p\equiv-1876p$ である。よって $9\cdot2^{28}\equiv-1876p-4=4(-469p-1)$ であり、$4$ は可逆なので $3^2\cdot2^{26}\equiv-(1+469p)$ となる。両辺を $7$ 乗すると、二項定理により $3^{14}\cdot2^{182}\equiv-(1+469p)^7\equiv-(1+3283p)$ である。$3283=3p+4$ なので $3283p\equiv4p$ であり、$3^{14}\cdot2^{182}\equiv-(1+4p)\equiv-3^{14}$ を得る。
$3$ は可逆なので $2^{182}\equiv-1$、したがって $2^{364}\equiv1$ であり、$1092=3\cdot364$ より $2^{1092}\equiv1\pmod{p^2}$ である。
$3^5=243=2\cdot121+1$ なので $3^5\equiv1\pmod{121}$ であり、$3^{10}\equiv1\pmod{11^2}$ である。よって $11$ は底 $3$ の Wieferich 素数である。一方 $2^{10}=1024=8\cdot121+56$ なので、$11$ は(底 $2$ の)Wieferich 素数ではない。底 $3$ でも知られている例は $11$ と $1006003$ の 2 つだけである(DK11 §4.1、p. 7。$10^7$ までの範囲でこの 2 つだけであることは計算で確かめられる)。
$p\nmid a$ のとき、$a$ の法 $p$ での位数を $\operatorname{ord}_p(a)$、法 $p^2$ での位数を $\operatorname{ord}_{p^2}(a)$ と書く(元の位数)。
$p\nmid a$ とし、$d:=\operatorname{ord}_p(a)$、$e:=\operatorname{ord}_{p^2}(a)$ とおく。このとき $e=d$ または $e=dp$ である。
$a^e\equiv1\pmod{p^2}$ なら法 $p$ でも $a^e\equiv1$ なので、$d\mid e$ である。一方 $a^d\equiv1\pmod p$ なので $a^d=1+tp$($t$ は整数)と書け、二項定理により
$$
a^{dp}=(1+tp)^p=1+p\cdot tp+\binom p2t^2p^2+\cdots\equiv1\pmod{p^2}
$$
である。よって $e\mid dp$ である。$e=dm$ と書くと $dm\mid dp$ から $m\mid p$ であり、$p$ は素数なので $m=1$ または $m=p$ である。$\square$
$p$ を奇素数、$a$ を $p$ で割り切れない整数とする。次は同値である。
$d:=\operatorname{ord}_p(a)$、$e:=\operatorname{ord}_{p^2}(a)$ とおく。
1 ⇒ 2:$a^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ なので $e\mid p-1$ である。lem-wf-order により $e\in\{d,dp\}$ だが、$dp\ge p>p-1$ なので $dp\nmid p-1$ であり、$e=d$ である。
2 ⇒ 3:$a^d=a^e\equiv1\pmod{p^2}$ である。
3 ⇒ 1:$a^d\equiv1\pmod{p^2}$ なので $e\mid d$ であり、$d\mid p-1$(Fermat の小定理)なので $e\mid p-1$、すなわち $a^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ である。
1 ⇔ 4:擬素数 の命題「素数の平方の擬素数」による。$\square$
$1093$ では $\operatorname{ord}_{1093}(2)=\operatorname{ord}_{1093^2}(2)=364=2^2\cdot7\cdot13$、$3511$ では $\operatorname{ord}_{3511}(2)=\operatorname{ord}_{3511^2}(2)=1755=3^3\cdot5\cdot13$ である(計算で確かめられる)。どちらの位数も素数でも $2$ の冪でもないことが、次の節で効いてくる。
$p$ を奇素数とする。
1:$2^q\equiv1\pmod p$ なので $\operatorname{ord}_p(2)$ は $q$ を割る。$2\not\equiv1\pmod p$ なので位数は $1$ でなく、$q$ は素数だから $\operatorname{ord}_p(2)=q$ である。同様に $2^q\equiv1\pmod{p^2}$ から $\operatorname{ord}_{p^2}(2)$ は $q$ を割り、$1$ でないので $q$ に等しい。よって 2 つの位数は一致し、prop-wf-equiv により $p$ は Wieferich 素数である。
2:$2^{2^m}\equiv-1\pmod p$ なので $2^{2^{m+1}}\equiv1\pmod p$ であり、$\operatorname{ord}_p(2)$ は $2^{m+1}$ を割る。$p$ は奇素数なので $-1\not\equiv1\pmod p$ であり、位数は $2^m$ を割らない。$2^{m+1}$ の約数で $2^m$ を割らないものは $2^{m+1}$ だけなので、$\operatorname{ord}_p(2)=2^{m+1}$ である。法 $p^2$ でも $2^{2^m}\equiv-1\not\equiv1$ なので、同じ議論で $\operatorname{ord}_{p^2}(2)=2^{m+1}$ である。prop-wf-equiv により $p$ は Wieferich 素数である。$\square$
$p<6.7\times10^{15}$ の奇素数 $p$ について、$p^2$ は、素数 $q$ に対する $2^q-1$ も、どの Fermat数 $F_m$ も割らない。
DK11 の計算結果により、$6.7\times10^{15}$ より小さい Wieferich 素数は $1093$ と $3511$ だけである。$p^2\mid2^q-1$ なら thm-wf-square-factor の 1 により $p$ はそのどちらかで $\operatorname{ord}_p(2)=q$ は素数でなければならないが、位数は $364$ と $1755$ で、どちらも素数でない。$p^2\mid F_m$ なら同じ定理の 2 により位数は $2$ の冪でなければならないが、$364$ も $1755$ も $2$ の冪でない。$\square$
素数 $q$ に対する Mersenne 数 $2^q-1$(Mersenne素数)や Fermat 数が平方因子をもたないかどうかは一般には分かっていないが、この系により、平方因子があるとしても $6.7\times10^{15}$ 以上の素数の平方である。指数 $q$ が素数であるという仮定は外せない:$2^6-1=63=3^2\cdot7$ は $3^2$ で割り切れるが、$2^2=4\not\equiv1\pmod9$ なので $3$ は Wieferich 素数でない。$2^{21}-1=7^2\cdot127\cdot337$ でも、$2^6\equiv15\pmod{49}$ なので $7$ は Wieferich 素数でない。
Wieferich 素数が無限にあるかどうかは分かっていない。逆向きに、Wieferich 素数でない素数が無限にあることも、ほとんどすべての素数がそうであると期待されるにもかかわらず、この記事の方法では abc予想 を仮定してはじめて示せる。鍵になるのは次の補題である。
$n\ge1$ とし、奇素数 $p$ が $2^n-1$ を割るが $p^2$ は割らないとする。このとき $p$ は Wieferich 素数でない。
$d:=\operatorname{ord}_p(2)$ とすると、$2^n\equiv1\pmod p$ から $d\mid n$ である。$p$ が Wieferich 素数なら、prop-wf-equiv の 3 により $2^d\equiv1\pmod{p^2}$ であり、$d\mid n$ から $2^n\equiv1\pmod{p^2}$、すなわち $p^2\mid2^n-1$ となって仮定に反する。$\square$
$2^n-1$ を $m_n$ とし、$m_n$ をちょうど 1 回割る素数の積を $u_n$、残りを $v_n:=m_n/u_n$ と書く。$v_n$ に現れる素数はどれも 2 乗以上で現れる。補題により、$u_n$ の素因数はすべて Wieferich 素数でない。したがって $u_n$ が $n$ とともにいくらでも大きくなれば、Wieferich 素数でない素数は無限にある。$v_n$ のように「どの素因数も 2 乗以上で現れる」数は根基(素因数の積)が小さいので、abc 予想は $m_n$ の大部分が $u_n$ に来ることを保証する。
abc予想 の予想「abc 予想」を仮定すると、Wieferich 素数でない素数は無限に存在する。
$n\ge2$ とし、上の $m_n=2^n-1$、$u_n$、$v_n$ をとる。$m_n$ は奇数である。$v_n$ の各素因数 $p$ は $v_n$ に $p^e$($e\ge2$)の形で現れるので、$\operatorname{rad}(v_n)^2\le v_n$ である($\operatorname{rad}$ は abc予想 の定義「根基」)。$u_n$ と $v_n$ は互いに素で $u_n$ は平方因子をもたないから
$$
\operatorname{rad}(m_n)=u_n\operatorname{rad}(v_n)\le u_n\sqrt{v_n}=\sqrt{u_n\cdot u_nv_n}=\sqrt{u_nm_n}<\sqrt{u_n2^n}
$$
である。
$1+m_n+(-2^n)=0$ で、$1,m_n,-2^n$ は互いに素な $0$ でない整数である。abc 予想を $\varepsilon=1/3$ で使い、$C:=C(1/3)$ とおくと
$$
2^n\le C\operatorname{rad}(1\cdot m_n\cdot2^n)^{4/3}=C\bigl(2\operatorname{rad}(m_n)\bigr)^{4/3}< C\,2^{4/3}\bigl(u_n2^n\bigr)^{2/3}
$$
である($m_n$ は奇数なので $\operatorname{rad}(m_n2^n)=2\operatorname{rad}(m_n)$)。両辺を $2^{2n/3}$ で割ると $2^{n/3}< C\,2^{4/3}u_n^{2/3}$、すなわち
$$
u_n> \bigl(C\,2^{4/3}\bigr)^{-3/2}\,2^{n/2}
$$
を得る。右辺は $n\to\infty$ で無限大に発散する。
Wieferich 素数でない素数が有限個 $p_1,\dots,p_r$ しかないと仮定する($r=0$ も許す)。lem-wf-exact により $u_n$ の素因数はすべて Wieferich 素数でない奇素数で、$u_n$ は平方因子をもたないので、$u_n$ は $p_1\cdots p_r$ を割り、$u_n\le p_1\cdots p_r$ がすべての $n$ で成り立つ。これは $u_n\to\infty$ に反する。$\square$
証明が示しているのは、abc 予想のもとでは $2^n-1$ の「平方因子をもたない部分」$u_n$ が少なくとも $2^{n/2}$ の定数倍の大きさをもつ、ということである。Wieferich 素数 $p$ は $\operatorname{ord}_p(2)$ の倍数 $n$ について必ず $p^2\mid2^n-1$ となる素数であり(prop-wf-equiv の 3)、$v_n$ の側にしか現れない。
奇素数 $p$ について、$x^p+y^p=z^p$ が $p$ で割り切れない整数 $x,y,z$ による解をもつ(Fermatの最終定理 の記事の「第一の場合」)ならば、$2^{p-1}\equiv1\pmod{p^2}$ である。これを Wieferich が 1909 年に示した(HW60 第 XIII 章の注、p. 202。DK11 p. 2 も同じ関係を述べている)。この記事では証明しない。この定理により、第一の場合の反例を与える指数は Wieferich 素数に限られ、$1093$ と $3511$ 以外の小さい素数については第一の場合が成り立つことが分かった。現在では Fermat の最終定理そのものが証明されている(Fermatの最終定理)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 法が $p$(Fermatの小定理) | 法を $p^2$ にする:$p=3$、$2^2=4\not\equiv1\pmod9$ | $2^{p-1}\equiv1$ |
| thm-wf-square-factor の 1 の「$q$ は素数」 | $q=6$:$3^2\mid2^6-1=63$ | $p$ は Wieferich 素数である |
| 底が $2$ | 底 $3$ の Wieferich 素数 $11$ | 底 $2$ でも Wieferich 素数である |
| lem-wf-exact の「$p^2\nmid2^n-1$」 | $p=1093$、$n=364$ | $p$ は Wieferich 素数でない |
1 行目は冒頭の計算、2 行目は cor-wf-no-small-square の後の計算、3 行目は ex-wf-base3 による。4 行目:prop-wf-equiv の後の計算により $\operatorname{ord}_{1093^2}(2)=364$ なので $1093^2\mid2^{364}-1$ であり、$1093$ は $2^{364}-1$ を割るが補題の仮定「$p^2$ は割らない」を満たさない。実際 $1093$ は Wieferich 素数である。
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