構成可能集合(位相)(constructible set)とは、位相空間で遡コンパクトな開集合とその補集合から有限回の合併・交叉で作られる部分集合である。構成可能集合はBoolean代数をなし、Noether空間では有限個の局所閉集合の合併とちょうど一致する。一般には一つの局所閉集合とは限らず、局所閉集合の無限合併が構成可能になるとも限らない。
この記事では、Hausdorff空間であることを仮定しない有限被覆性を準コンパクトと呼ぶ。これは空間に対する条件であり、次の「準コンパクト写像」とは区別する。
構成可能集合を定義するには、まず開部分が周囲の空間の準コンパクト性とどのように両立するかを表す「遡コンパクト」という条件が必要になる。以下の二つの補助定義は、その条件を正確に述べるための準備である。
連続写像 $f\colon X\to Y$ が準コンパクト(quasi-compact)であるとは、$Y$ の任意の準コンパクト開集合 $U$ に対して、$f^{-1}(U)$ が準コンパクトであることをいう。
位相空間 $X$ の部分集合 $W$ が $X$ で遡コンパクト(retrocompact)であるとは、包含写像 $W\hookrightarrow X$ が準コンパクト写像であることをいう。すなわち、$X$ の任意の準コンパクト開集合 $U$ に対して $W\cap U$ が準コンパクトである。
準コンパクト写像と遡コンパクトのこの定義は Stacks0059 Definition 5.12.1 に一致する。
準コンパクト空間は空間そのものの有限被覆性を述べ、準コンパクト写像は準コンパクト開集合の逆像について述べる。特に、任意の準コンパクト空間からの連続写像が準コンパクト写像になるとは限らない。
位相空間 $X$ の部分集合 $E$ が構成可能(constructible)であるとは、$X$ で遡コンパクトな開集合 $U_1,V_1,\ldots,U_n,V_n$ を用いて
$$
E=\bigcup_{i=1}^{n}\bigl(U_i\cap(X\setminus V_i)\bigr)
$$
と表せることをいう。空の合併を許すので、空集合も構成可能である。
この定義と、構成可能集合が次の意味で Boole代数 をなすことは Stacks04ZC Definition 5.15.1 と Lemma 5.15.2 に対応する。
ここで $U_i\cap(X\setminus V_i)$ は局所閉集合だが、一般の位相空間ではすべての局所閉集合が構成可能とは限らない。開部分 $U_i$ と、その閉部分を与える開集合 $V_i$ の双方に遡コンパクト性を要求しているためである。
構成可能集合は、位相空間の中で扱いやすい開部分を材料にし、有限回の切り貼りで作られる部分集合である。遡コンパクトな開集合を取り、その中から別の遡コンパクトな開集合を除くと、基本片 $U\cap(X\setminus V)$ が得られる。この基本片を有限個だけ合わせる、という有限性が重要である。したがって構成可能集合全体は補集合・有限合併・有限交叉で閉じたBoolean的な世界を作るが、局所閉集合の無限合併までは自動的に含まない。Noether空間ではすべての開集合が遡コンパクトになるため、この定義は「有限個の局所閉集合の合併」という見慣れた姿になる。
$X$ の構成可能集合全体は、有限合併、有限交叉、補集合について閉じている。さらに、$X$ の遡コンパクトな開集合をすべて含む最小の集合族で、この三つの操作について閉じている。
遡コンパクトな開集合 $U,V$ の合併は遡コンパクトである。実際、準コンパクト開集合 $Q$ に対し $(U\cup V)\cap Q=(U\cap Q)\cup(V\cap Q)$ は二つの準コンパクト部分集合の合併である。
交叉も遡コンパクトである。$V\cap Q$ は準コンパクト開集合だから、$U\cap(V\cap Q)$ は準コンパクトである。
遡コンパクト開集合 $U,V,U',V'$ に対し、基本的な形の集合 $C(U,V):=U\cap(X\setminus V)$ は
$$
X\setminus C(U,V)=C(X,U)\cup C(V,\emptyset),
$$
$$
C(U,V)\cap C(U',V')=C(U\cap U',V\cup V')
$$
を満たす。したがって、この形の集合の有限合併全体は補集合、有限合併、有限交叉について閉じる。各遡コンパクト開集合 $U$ は $C(U,\emptyset)$ であり、逆に各 $C(U,V)$ は $U,V$ から補集合と交叉で作られるので、最小性も従う。
$X$ と $\emptyset$ は構成可能である。実際、$X$ と $\emptyset$ は遡コンパクトな開集合であり、$X=X\cap(X\setminus\emptyset)$ と書ける。
$X=\{0,1,2\}$ に、空集合、$\{2\}$、$\{1,2\}$、$X$ を開集合とする位相を入れる。この空間ではすべての部分集合が準コンパクトなので、すべての開集合が遡コンパクトである。したがって $\{0,2\}=(X\setminus\{1,2\})\cup\{2\}$ は構成可能である。一方、この空間の局所閉集合は順序 $0<1<2$ の区間にあたる部分集合なので、$\{0,2\}$ は局所閉でない。
この例は、「構成可能集合である」と「局所閉集合である」が同値だという主張を破る。Noether 空間で正しいのは、構成可能集合が有限個の局所閉集合の合併になるという主張である。
位相空間 $X$ がNoether 空間(Noetherian space)であるとは、$X$ の開集合からなる任意の空でない集合族が包含関係について極大な元を持つことをいう。
Noether 空間は位相空間に対する条件であり、Noether環は環のイデアルに対する条件である。環 $R$ が Noether 環ならば $\operatorname{Spec}(R)$ は Noether 空間になるが、二つの定義は同じではない。
Noether 空間 $X$ の任意の部分空間 $Y$ は Noether 空間である。
$Y$ の開集合 $V$ に対して
$$
\widetilde V:=X\setminus\overline{Y\setminus V}^{\,X}
$$
とおく。すると $\widetilde V$ は $X$ の開集合で、$Y\cap\widetilde V=V$ であり、$V\subset W$ なら $\widetilde V\subset\widetilde W$ である。
$Y$ の開集合からなる空でない集合族 $\mathcal V$ を取る。$X$ の Noether 性により、$\{\widetilde V\mid V\in\mathcal V\}$ は極大元 $\widetilde V_0$ を持つ。単調性と $Y\cap\widetilde V=V$ から $V_0$ は $\mathcal V$ の極大元である。
Noether 空間 $X$ の任意の部分集合は準コンパクトである。特に $X$ は準コンパクトであり、$X$ のすべての開集合は遡コンパクトである。
まず $X$ の任意の開集合 $W$ と、その開被覆 $\mathcal U$ を取る。$\mathcal U$ の有限部分族の合併全体は $X$ の開集合からなる空でない集合族なので、極大元 $M$ を持つ。$M\ne W$ なら、$W\setminus M$ の点を含む $U\in\mathcal U$ によって $M\cup U$ は $M$ より真に大きくなり、極大性に反する。よって $M=W$ であり、$W$ は準コンパクトである。
部分集合 $Y\subset X$ は前の補題により Noether 空間なので、同じ議論を $Y$ 自身に適用すれば $Y$ は準コンパクトである。開集合 $W\subset X$ と準コンパクト開集合 $Q\subset X$ に対し $W\cap Q$ は $X$ の部分集合だから準コンパクトであり、したがって $W$ は遡コンパクトである。
Noether 空間 $X$ の部分集合 $E$ について、次は同値である。
構成可能集合の定義式の各項 $U_i\cap(X\setminus V_i)$ は局所閉集合なので、1から2が従う。
逆に $E=\bigcup_{i=1}^n(U_i\cap F_i)$ とし、各 $U_i$ を開集合、各 $F_i$ を閉集合とする。前の補題により $U_i$ と $V_i:=X\setminus F_i$ は遡コンパクトな開集合である。したがって
$$
U_i\cap F_i=U_i\cap(X\setminus V_i)
$$
は構成可能集合の定義式の一項であり、その有限合併 $E$ も構成可能である。
自然数全体 $\mathbb N$ に補有限位相(余有限位相)を入れると Noether 空間になる。この空間の局所閉集合は有限集合または余有限集合なので、構成可能集合も有限集合または余有限集合である。偶数全体は一点集合の無限合併だが、有限でも余有限でもないため構成可能でない。
ここでいう構成可能集合は位相空間の部分集合である。モデル理論でいう構成可能集合や、層の構成可能性は別の定義を持つ。また、スキームの構成可能集合はこの位相的定義をその基礎位相へ適用したものであり、Chevalleyの定理は有限表示の射による像について局所的な結論を与える。
$f\colon X\to Y$ をスキームの有限表示の射とする。$X$ の局所構成可能集合の $f$ による像は $Y$ の局所構成可能集合である。ここで部分集合が局所構成可能であるとは、各アフィン開集合との交わりが、その開集合の基礎位相において構成可能であることをいう。この定理は Stacks054K で証明されている。本記事では位相的な構成可能集合そのものを扱うため、そのスキーム論的証明は引用に留める。
位相空間の proper map には複数の流儀があるため、本記事では「準コンパクト写像」と proper map を仮定なしに同一視しない。スキームの固有射が準コンパクトであるという主張は、スキームの射に対する固有性の定義と定理に属する。
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