円周上のベクトル束の分類

同義語:円周上のベクトル束classification of vector bundles over the circlevector bundles over the circle

概要

円周上のベクトル束の分類(classification of vector bundles over the circle)とは、円周 $S^1$ 上の階数 $k\ge1$ の実ベクトル束の同型類がちょうど 2 つあり、自明束 $\varepsilon^k$ と、Möbius 束 $M$ に自明束を足した $M\oplus\varepsilon^{k-1}$ が代表になるという定理である。どの束も区間上の自明束の両端を正則行列 $A$ で貼り合わせた束 $E_A$ と同型になり、$E_A$ と $E_B$ が同型であることは $\det A$ と $\det B$ の符号が等しいことと同値である。とくに円周の上では、束が自明であることと向き付け可能であることは同値である。複素ベクトル束はすべて自明で、滑らかな束と滑らかな同型でも同じ分類が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, ベクトル束の直和・テンソル積, Möbiusの帯, 極分解

円周 $S^1$ の上の実ベクトル束は、区間 $[0,1]$ の上の自明束をとり、両端のファイバーを 1 つの正則行列 $A$ で貼り合わせれば作れる。逆に、どの束もこの形に書ける。貼り合わせの行列 $A$ は束から一意には決まらないが、その行列式の符号だけは束の同型で変わらず、しかも同型類を完全に決める。したがって階数 $k\ge1$ の実ベクトル束の同型類はちょうど 2 つで、自明束 $\varepsilon^k$ と、Möbius 束に自明束を足した $M\oplus\varepsilon^{k-1}$ である。
この現象の背後にあるのは、一般線形群 $\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ の弧状連結成分がちょうど 2 つ(行列式の正と負)であるという事実である。複素数の一般線形群は弧状連結なので、円周上の複素ベクトル束はすべて自明になる。この記事では、貼り合わせの模型 $E_A$ を作り、任意の束がこの形に書けることと、$E_A\cong E_B$ が $\det A$ と $\det B$ の符号の一致と同値であることを証明する。向き付け可能性との関係、複素ベクトル束の場合、滑らかなベクトル束の場合も扱う。

記号と貼り合わせの模型

ベクトル束・束写像・切断の定義は ベクトル束 の記事に従う。とくに束の階数は一定で、この記事では断らない限り実ベクトル束を考える。$S^1=\mathbb R/\mathbb Z$ とし、商写像を $p\colon\mathbb R\to S^1$、$p(t)=t+\mathbb Z$ と書く。$\varepsilon^k=S^1\times\mathbb R^k$ は自明束、$M$ は ベクトル束 の例「Möbius 束」の直線束($\mathbb R\times\mathbb R$ を $(t,v)\sim(t+1,-v)$ で割ったもの)である。$k$ 本のベクトル $f_1,\dots,f_k$ の組を $f=(f_1,\dots,f_k)$ と書き、$x\in\mathbb R^k$ に対し $fx:=\sum_jx_jf_j$、$k$ 次正方行列 $C$ に対し $fC:=(\sum_iC_{i1}f_i,\dots,\sum_iC_{ik}f_i)$ とおく。$(fC)x=f(Cx)$ である。

貼り合わせの模型

$A\in\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ に対し、$\mathbb R\times\mathbb R^k$ 上の同値関係を「$(t+n,v)\sim(t,A^nv)$($n\in\mathbb Z$)」で定め、
$$ E_A:=(\mathbb R\times\mathbb R^k)/\!\sim,\qquad \pi_A([t,v]):=p(t) $$
とおく。$[t,v]$ は $(t,v)$ の類である。$p(t)$ の上のファイバーは、代表の第 1 成分を $t$ に固定すると $[t,v]\mapsto v$ によって $\mathbb R^k$ と一対一に対応し、これでベクトル空間の構造を入れる(代表を $t+1$ に替えると対応は線形同型 $A$ だけずれるので、構造は代表によらない)。行列 $A$ を $E_A$ の貼り合わせの行列という。

$k=1$、$A=-1$ のとき、関係は $(t+1,v)\sim(t,-v)$ であり、$E_{-1}$ は Möbius 束 $M$ そのものである。$A=I$ なら $E_I$ は直積 $S^1\times\mathbb R^k$ である。

模型の基本性質

$A,B\in\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ とする。

  1. $E_A\to S^1$ は階数 $k$ のベクトル束である。長さが $1$ より短い開区間 $J$ について、$\psi_J\colon p(J)\times\mathbb R^k\to\pi_A^{-1}(p(J))$、$(p(t),v)\mapsto[t,v]$($t\in J$)は局所自明化である。
  2. $C\in\mathrm{GL}_m(\mathbb R)$ について $E_{A\oplus C}\cong E_A\oplus E_C$ である($A\oplus C$ はブロック対角行列)。
  3. $P\in\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ について $E_{PAP^{-1}}\cong E_A$ である。
  4. 行列式束 $\det E_A:=\bigwedge^kE_A$(ベクトル束の直和・テンソル積 の定義「ベクトル束のテンソル積」)について $\det E_A\cong E_{\det A}$ である。

要点:$\mathbb Z$ の作用 $n\cdot(t,v)=(t+n,A^{-n}v)$ は自由で、$\pi_A^{-1}(p(J))$ の各類は第 1 成分が $J$ に入る代表をちょうど 1 つもつ。2〜4 は代表ごとに書いた写像が類の上で矛盾なく定まることを確かめる。

詳細

1:商写像を $\varpi\colon\mathbb R\times\mathbb R^k\to E_A$ とする。開集合 $W$ の飽和 $\bigcup_nn\cdot W$ は同相写像による像の和なので開であり、$\varpi$ は開写像である。$J$ の長さが $1$ より短いので、$\pi_A^{-1}(p(J))$ の各類は第 1 成分が $J$ に入る代表をちょうど 1 つもち、$\varpi|_{J\times\mathbb R^k}$ は $\pi_A^{-1}(p(J))$ への連続な全単射である。これは開写像の開集合への制限なので開写像であり、同相写像である。$p|_J\colon J\to p(J)$ も同相写像なので $\psi_J=\varpi\circ((p|_J)^{-1}\times\mathrm{id})$ は同相写像で、射影と両立し、各ファイバーで線形同型である。$S^1$ はこの形の $p(J)$ で覆われるので $E_A$ はベクトル束である。

2:$[t,(v,w)]\mapsto([t,v],[t,w])$ を考える。$(t+n,(v,w))\sim(t,(A^nv,C^nw))$ なので値は代表によらず、局所自明化 $\psi_J$ の上では恒等写像であるから連続で、各ファイバーで線形同型である。ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により束同型である。

3:$[t,v]\mapsto[t,Pv]$ を $E_A\to E_{PAP^{-1}}$ とする。$(t+n,v)\sim(t,A^nv)$ の像は $[t+n,Pv]$ と $[t,PA^nv]$ で、$E_{PAP^{-1}}$ では $(t+n,Pv)\sim(t,(PAP^{-1})^nPv)=(t,PA^nv)$ なので一致する。局所自明化の上では $P$ 倍なので連続で、同じ補題により束同型である。

4:$\iota_t\colon\mathbb R^k\to(E_A)_{p(t)}$、$v\mapsto[t,v]$ とおくと $\iota_{t+1}=\iota_t\circ A$ なので、$\bigwedge^k\iota_{t+1}=\det A\cdot\bigwedge^k\iota_t$ である($\bigwedge^k\mathbb R^k=\mathbb R$)。よって $[t,c]\mapsto\bigwedge^k\iota_t(c)$ は $E_{\det A}\to\det E_A$ を矛盾なく定める。$\psi_J$ から誘導される $\det E_A$ の局所自明化の上では恒等写像なので連続であり、同じ補題により束同型である。$\square$

直感

$S^1$ を 1 点で切ると区間になり、区間の上の束は自明である。切り口の両側のファイバーを、自明化を通して $\mathbb R^k$ と見ると、もとの束はこの 2 つの $\mathbb R^k$ を正則行列 $A$ で貼り合わせたものになる。区間の上の自明化を連続に取り替えると $A$ は変わるが、その変化は区間の両端での取り替えの差であり、連続に動かせる。行列式の符号は連続な変形で変わらないので、$\det A$ の符号だけが残る。Möbius 束は「1 周すると向きが反転する」束で、$\det A<0$ がまさにこの反転にあたる。

主定理

まず階数 1 の模型を調べる。

階数 1 の模型

$a\in\mathbb R\setminus\{0\}$ について、直線束 $E_a$ が自明であるための必要十分条件は $a>0$ である。

$a>0$ とする。$s(p(t)):=[t,a^{-t}]$ とおくと、代表を $t+1$ に替えた値 $[t+1,a^{-t-1}]$ は $(t+1,a^{-t-1})\sim(t,a\cdot a^{-t-1})=(t,a^{-t})$ により同じ点なので、$s$ は矛盾なく定まる。局所自明化 $\psi_J$ を通すと $t\mapsto a^{-t}$ なので連続で、どこでも $0$ でない。至るところ $0$ でない切断は直線束の局所枠なので、ベクトル束 の命題「自明性の判定」により $E_a$ は自明である。
$a<0$ とし、至るところ $0$ でない切断 $s$ があったとする。各 $t\in\mathbb R$ について、$s(p(t))$ の代表で第 1 成分が $t$ のものはただ 1 つなので、それを $(t,g(t))$ と書く。長さが $1$ より短い開区間 $J$ の上で $g=\mathrm{pr}_2\circ\psi_J^{-1}\circ s\circ p$ なので、$g$ は連続である。$p(t+1)=p(t)$ より $[t+1,g(t+1)]=[t,g(t)]$ であり、左辺は $[t,a\,g(t+1)]$ に等しいので $g(t)=a\,g(t+1)$ である。とくに $g(1)=g(0)/a$ は $g(0)\ne0$ と符号が逆であり、中間値の定理 により $g$ は $(0,1)$ のどこかで $0$ になる。これは $s$ が至るところ $0$ でないことに反する。自明な直線束は至るところ $0$ でない切断をもつので、$E_a$ は自明でない。$\square$

円周上のベクトル束の分類

$k\ge1$ とする。

  1. $S^1$ 上の階数 $k$ の任意の実ベクトル束 $E$ について、ある $A\in\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ があって $E\cong E_A$ である。
  2. $A,B\in\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ について、$E_A\cong E_B$ であるための必要十分条件は $\det A$ と $\det B$ の符号が等しいことである。
  3. したがって $S^1$ 上の階数 $k$ の実ベクトル束の同型類はちょうど 2 つあり、$\varepsilon^k$ と $M\oplus\varepsilon^{k-1}$ が代表である。$E$ が $\varepsilon^k$ と同型であるための必要十分条件は、行列式束 $\det E$ が自明であることである。

1.$c:=p|_{[0,1]}$ とし、引き戻し $c^*E$ を考える。$[0,1]$ はコンパクト Hausdorff で可縮なので、ベクトル束 の定理「ホモトピー不変性と分類」の 1 により $c^*E$ は自明である。その大域的な枠を $E$ の言葉で書くと、連続写像 $f_1,\dots,f_k\colon[0,1]\to E$ で、各 $t$ について $f(t)=(f_1(t),\dots,f_k(t))$ が $E_{p(t)}$ の基底になるものが得られる。$p(1)=p(0)$ なので $f(1)$ と $f(0)$ は同じファイバーの基底であり、$f(1)=f(0)A$ となる $A\in\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ がある。
$t\in[0,1]$、$n\in\mathbb Z$ について $\tilde f(t+n):=f(t)A^n$ と定める。$t+n$ が整数 $m$ のときは 2 通りの書き方 $f(1)A^{m-1}$ と $f(0)A^m$ があるが、$f(1)=f(0)A$ により一致する。各閉区間 $[n,n+1]$ の上で $\tilde f$ は連続で、これらは局所有限な閉被覆なので $\tilde f$ は $\mathbb R$ 上連続であり、$\tilde f(t+1)=\tilde f(t)A$ を満たす。
$\Phi\colon\mathbb R\times\mathbb R^k\to E$、$\Phi(t,x):=\tilde f(t)x$ とおく。ベクトル束の和とスカラー倍は連続なので(ベクトル束 の命題「ベクトル束の基本性質」の 3)、$\Phi$ は連続である。$\Phi(t+1,x)=\tilde f(t)Ax=\Phi(t,Ax)$ であり、$(t+1,x)\sim(t,Ax)$ なので、$\Phi$ は連続写像 $\bar\Phi\colon E_A\to E$ を誘導する。$\bar\Phi$ は射影と両立し、各ファイバーで基底 $\tilde f(t)$ による線形同型であるから、ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により束同型である。
2(十分性).$\det A$ と $\det B$ の符号が等しいとき、$B^{-1}A$ の行列式は正である。極分解 の系「実の一般線型群の連結成分」により $\mathrm{GL}_k^+(\mathbb R)=\{\det>0\}$ は弧状連結なので、連続な道 $P\colon[0,1]\to\mathrm{GL}_k^+(\mathbb R)$ で $P(0)=I$、$P(1)=B^{-1}A$ となるものがある。$t\in[0,1]$、$n\in\mathbb Z$ について $\tilde P(t+n):=B^{-n}P(t)A^n$ とおく。整数点での 2 通りの値 $B^{-(m-1)}P(1)A^{m-1}$ と $B^{-m}P(0)A^m$ はどちらも $B^{-m}A^m$ なので、1 と同じく $\tilde P$ は $\mathbb R$ 上連続で $\tilde P(t+1)=B^{-1}\tilde P(t)A$ を満たす。
$(t,v)\mapsto(t,\tilde P(t)v)$ を考える。$(t+1,v)$ の像は $(t+1,B^{-1}\tilde P(t)Av)$ で、$E_B$ では $(t,\tilde P(t)Av)$ と同値である。これは $(t+1,v)\sim(t,Av)$ の右辺 $(t,Av)$ の像に等しい。よってこの写像は連続写像 $E_A\to E_B$ を誘導し、各ファイバーで $\tilde P(t)$ による線形同型なので、同じ補題により束同型である。
2(必要性).束同型 $h\colon E_A\to E_B$ について、各ファイバーで $\bigwedge^kh_b$ をとった写像は、ベクトル束の直和・テンソル積 の定理「ファイバーごとの構成の局所自明性」の局所自明化の上で $h$ の行列の $\det$ 倍として書けるので連続であり、行列式束の同型 $\det E_A\cong\det E_B$ を与える。prop-vbc-model の 4 により $E_{\det A}\cong E_{\det B}$ であり、lem-vbc-line により $\det A>0$ と $\det B>0$ は同値である。
3.$D:=\operatorname{diag}(-1,1,\dots,1)$ とおく。2 により、$E_A$ は $\det A>0$ なら $E_I=\varepsilon^k$ と、$\det A<0$ なら $E_D$ と同型で、$E_I$ と $E_D$ は同型でない。prop-vbc-model の 2 により $E_D\cong E_{-1}\oplus E_{I_{k-1}}=M\oplus\varepsilon^{k-1}$ である。1 と合わせると同型類はちょうど 2 つである。最後の主張は、$E\cong E_A$ のとき prop-vbc-model の 4 により $\det E\cong E_{\det A}$ であることと lem-vbc-line による。$\square$

1 の証明が示すように、貼り合わせの行列 $A$ は枠 $f$ の選び方に依存する。枠を $f(t)G(t)$($G\colon[0,1]\to\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ は連続)に替えると、$A$ は $G(0)^{-1}AG(1)$ に替わる。$\det G$ は $[0,1]$ 上の連続関数でどこでも $0$ でないので、$\det G(0)$ と $\det G(1)$ の符号は等しく、$\det(G(0)^{-1}AG(1))$ の符号は $\det A$ の符号と変わらない。2 の必要性は、この観察を行列式束で言い直したものである。

向き付け可能性

Euler類 の定義「ベクトル束の向き」に従い、各ファイバーの向きの選び方で、各点の近くに各ファイバーの上で向きを保つ局所自明化があるものを束の向きという。

円周上の束の向き

$k\ge1$ とし、$E$ を $S^1$ 上の階数 $k$ の実ベクトル束とする。次は同値である。

  1. $E$ は自明である。
  2. $E$ は向き付け可能である。
  3. $\det E$ は自明である。
    とくに $M\oplus\varepsilon^{k-1}$ は向き付け可能でない。

1 と 3 の同値は thm-vbc-classification の 3 である。自明束は直積の標準の向きをもつので 1 から 2 が出る。2 から 1 を示す。thm-vbc-classification の 1 の証明の枠 $\tilde f\colon\mathbb R\to E$($\tilde f(t)$ は $E_{p(t)}$ の基底で $\tilde f(t+1)=\tilde f(t)A$、$E\cong E_A$)をとる。$\sigma(t)\in\{\pm1\}$ を、基底 $\tilde f(t)$ が $E_{p(t)}$ の向きについて正なら $+1$、負なら $-1$ と定める。$t_0$ の近くで向きを保つ局所自明化 $\phi$ をとると、$\phi\circ\tilde f(t)$ の行列の行列式は $t$ の連続関数でどこでも $0$ でなく、その符号が $\sigma(t)$ である。よって $\sigma$ は局所定数で、$\mathbb R$ は連結なので定数である。一方 $\tilde f(t+1)=\tilde f(t)A$ なので $\sigma(t+1)=\operatorname{sign}(\det A)\,\sigma(t)$ であり、$\det A>0$ となる。thm-vbc-classification の 2 により $E\cong E_A\cong E_I=\varepsilon^k$ である。$\square$

一般の底空間では、向き付け可能でも自明とは限らない(下の反例の表の 3 行目)。円周の上で 1 と 2 が一致するのは、同型類が 2 つしかなく、その区別がちょうど向きの反転だからである。$\mathbb Z/2$ 係数のコホモロジーで言えば、直線束 $\det E$ が自明であることは、その第 1 Stiefel–Whitney 類 $w_1(\det E)\in H^1(S^1;\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$ が $0$ であることと同値である(実直線束の群 の補題「円周上の直線束の $w_1$」)。

例

円周の接束と Möbius 束の和
  1. 円周 $S^1\subset\mathbb R^2$ の接束 $TS^1$ は、至るところ $0$ でない接ベクトル場 $(x,y)\mapsto(-y,x)$ をもつので自明である。
  2. $M\oplus M\cong E_{-I_2}$(prop-vbc-model の 2)で、$\det(-I_2)=1>0$ なので $M\oplus M\cong\varepsilon^2$ である。また、$[t,v]\otimes[t,w]\mapsto[t,vw]$ は $E_{-1}\otimes E_{-1}\to E_1$ を矛盾なく定めるので $M\otimes M\cong\varepsilon^1$ である。どちらも ベクトル束の直和・テンソル積 の命題「Möbius 束の直和は自明」「Möbius 束のテンソル平方は自明」と一致する。
  3. 回転行列 $R(\theta)$ について $\det R(\theta)=1$ なので $E_{R(\theta)}\cong\varepsilon^2$ である。$\mathrm{SO}(2)$ の中で $R(\theta)$ と $I$ を結ぶ道 $u\mapsto R(u\theta)$ が、主定理の 2 の証明の $P$ になる。
  4. $\mathbb{RP}^1$ 上のトートロジー直線束 $\gamma_1=\{(\ell,v)\in\mathbb{RP}^1\times\mathbb R^2\mid v\in\ell\}$ は、円周と $\mathbb{RP}^1$ を同一視すると Möbius 束になる。実際、$e(t):=(\cos\pi t,\sin\pi t)$ とおくと、$h(p(t)):=\mathbb Re(t)$ は同相写像 $h\colon S^1\to\mathbb{RP}^1$ である($e(t+1)=-e(t)$ なので矛盾なく定まる連続な全単射で、$S^1$ はコンパクト、$\mathbb{RP}^1$ は Hausdorff)。$[t,v]\mapsto\bigl(p(t),(h(p(t)),v\,e(t))\bigr)$ は $E_{-1}=M$ から引き戻し $h^*\gamma_1$ への写像を矛盾なく定める($[t+1,v]=[t,-v]$ の 2 つの代表の像は $v\,e(t+1)=-v\,e(t)$ で一致する)。これは各ファイバーで線形同型な連続写像なので、束同型 $M\cong h^*\gamma_1$ である。

複素ベクトル束

円周上の複素ベクトル束

$S^1$ 上の複素ベクトル束はすべて自明である。

係数を $\mathbb C$ に替えて模型 $E_A$($A\in\mathrm{GL}_k(\mathbb C)$)を同じ式で定めると、prop-vbc-model の 1 と thm-vbc-classification の 1 の証明はそのまま通り(ベクトル束 の定理「ホモトピー不変性と分類」は $\mathbb K=\mathbb C$ でも成り立つ)、任意の階数 $k$ の複素ベクトル束は $E_A$ と同型である。2 の十分性の証明は「$B^{-1}A$ と $I$ を $\mathrm{GL}_k(\mathbb C)$ の中の道で結べる」ことだけを使うので、$\mathrm{GL}_k(\mathbb C)$ が弧状連結であることを示せば $E_A\cong E_I$ が従う。$A\in\mathrm{GL}_k(\mathbb C)$ について $h(z):=\det((1-z)I+zA)$ は $z$ の多項式で、$h(0)=1$、$h(1)=\det A$ はともに $0$ でない。$h$ は恒等的に $0$ ではないので零点は有限個であり、複素平面で $0$ と $1$ を結び零点を通らない連続な道 $z(u)$ がとれる。$u\mapsto(1-z(u))I+z(u)A$ は $\mathrm{GL}_k(\mathbb C)$ の中で $I$ と $A$ を結ぶ道である。$\square$

実の場合に同じ議論が通らないのは、実数の道 $z(u)$ が $h$ の実の零点を避けられないことがあるからである。たとえば $A=-1$($k=1$)では $h(z)=1-2z$ が $z=1/2$ で $0$ になる。

滑らかなベクトル束

滑らかなベクトル束と滑らかな束同型についても、同じ分類が成り立つ。BT82 Exercise 6.10(p. 59)は、滑らかな圏で円周上の階数 $k$ のベクトル束の同型類を求める問題である。

滑らかな場合

$k\ge1$ とする。$S^1$ 上の階数 $k$ の滑らかな実ベクトル束は、滑らかな束同型を除いてちょうど 2 つあり、$\varepsilon^k$ と $M\oplus\varepsilon^{k-1}$ が代表である($E_A$ には $\psi_J$ を座標とする滑らかな構造を入れる)。

要点:枠と道を滑らかにとり、整数点の近くで定数になるように調整すれば、thm-vbc-classification の証明の写像はすべて滑らかになる。

詳細

$E_A$ の座標変換は定数行列なので、$\psi_J$ たちは滑らかな構造を定める。$E$ を滑らかな束とする。まず $p^*E$ が滑らかな枠 $f\colon\mathbb R\to E$($f(t)$ は $E_{p(t)}$ の基底)をもつことを示す。$S^1$ のコンパクト性(Lebesgue 数)から $\delta>0$($2\delta<1$)を、長さ $2\delta$ の弧の上で $E$ が滑らかに自明になるようにとる。$J_m:=(a_m,b_m):=(m\delta-\delta/3,(m+1)\delta+\delta/3)$($m\in\mathbb Z$)とおくと $a_m< a_{m+1}< b_m\le a_{m+2}$ であり、$J_m$ の上に滑らかな枠 $f_m$($f_m(t)$ は $E_{p(t)}$ の基底)がある。各 $m$ について $a_{m+1}< c''_m< c_m< c'_m< b_m$ をとる。$J_m\cap J_{m+1}=(a_{m+1},b_m)$ の上で $f_{m+1}=f_mh_m$($h_m$ は $\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ に値をとる滑らかな関数)と書く。$m=0,1,2,\dots$ の順に、$t\le c'_m$ で $\rho_m(t)=t$ となる滑らかな $\rho_m\colon J_{m+1}\to(a_{m+1},b_m)$ をとり、$f_{m+1}$ を $f_{m+1}(t)\,h_m(\rho_m(t))^{-1}$ に替える(ここで $h_m$ は、前の段で替えたあとの $f_m$ に対して取る。下の $m\le-1$ の段でも、$h_m$ は前の段で替えたあとの $f_{m+1}$ に対して取る)。替えた $f_{m+1}$ は $(a_{m+1},c'_m]$ の上で $f_m$ に一致する。$m=-1,-2,\dots$ の順には、$t\ge c''_m$ で $\sigma_m(t)=t$ となる滑らかな $\sigma_m\colon J_m\to(a_{m+1},b_m)$ をとり、$f_m$ を $f_m(t)\,h_m(\sigma_m(t))$ に替えると、$[c''_m,b_m)$ の上で $f_{m+1}$ に一致する。$[c_{m-1},c_m]\subset J_m$ の上で $f:=f_m$ とおくと、隣り合う枠は $c_m$ の近傍で一致するので、$f$ は $\mathbb R$ 上の滑らかな枠である。$f(t+1)=f(t)C(t)$ とおくと $C\colon\mathbb R\to\mathrm{GL}_k(\mathbb R)$ は滑らかである。$A:=C(0)$ とし、滑らかな関数 $\beta\colon\mathbb R\to\mathbb R$ を、$t\le1/3$ で $\beta(t)=1$、$t\ge2/3$ で $\beta(t)=t$ となるようにとる。$t\in[0,1]$ で $G(t):=C(\beta(t)-1)^{-1}A$ とおくと、$G$ は $[0,1/3]$ で $I$、$[2/3,1]$ で $C(t-1)^{-1}A$ である。$G(t+1):=C(t)^{-1}G(t)A$ で $G$ を $\mathbb R$ 全体に延ばすと、整数 $m$ の近くでは左右どちらの式も $C(t-m)^{-1}\cdots$ の同じ式になるので $G$ は滑らかである。$g:=fG$ は滑らかな枠で、$g(t+1)=f(t)C(t)C(t)^{-1}G(t)A=g(t)A$ を満たす。thm-vbc-classification の 1 の証明の $\tilde f$ を $g$ に替えると、$\bar\Phi$ は座標で見て滑らかな、逆も滑らかな束同型 $E_A\to E$ になる。

2 の十分性では、$\mathrm{GL}_k^+(\mathbb R)$ は $\mathbb R^{k^2}$ の連結な開集合なので、$I$ と $B^{-1}A$ は折れ線で結べる。折れ線の各線分を、端点の近くで定数になる滑らかな単調関数で径数付けし直すと、両端の近くで定数な滑らかな道 $P$ が得られる。このとき $\tilde P$ は整数点の近くで定数行列の積になるので滑らかであり、$(t,v)\mapsto(t,\tilde P(t)v)$ は滑らかな束同型 $E_A\to E_B$ を誘導する。必要性は連続な場合から従う。$\square$

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
階数 $k\ge1$$k=0$同型類がちょうど 2 つある
係数が実数円周上の複素ベクトル束同型類がちょうど 2 つある
底空間が円周2 次元球面上の $TS^2$ と $\varepsilon^2$行列式束が自明なら束は自明である
表の反例の確かめ

1 行目:階数 $0$ の束は零束 $S^1\times\{0\}$ だけで、同型類は 1 つである。
2 行目:prop-vbc-complex により、各階数で同型類は 1 つである。
3 行目:$S^2$ は単連結な多様体なので $H^1(S^2;\mathbb Z/2)=0$ であり、実直線束の群 の主定理により $S^2$ 上の直線束はすべて自明である。とくに $\det TS^2$ と $\det\varepsilon^2$ はどちらも自明である。一方 $TS^2$ は至るところ $0$ でない接ベクトル場をもたない(毛玉の定理)ので自明でない。

補足

  • 分類空間との関係:ベクトル束 の定理「ホモトピー不変性と分類」により、$S^1$ 上の階数 $k$ の束の同型類は無限 Grassmann 多様体 $\mathrm{Gr}_k(\mathbb R^\infty)$ への写像のホモトピー類と対応する。主定理はその類がちょうど 2 つであることを、分類空間を使わずに示している。同じ考え方で、懸垂 $\Sigma X$ の上の束は $X$ から一般線形群への写像(貼り合わせ関数)で記述される。
  • 貼り合わせの行列と基本群:$E_A$ を 1 周したときのファイバーの変化を表すのが $A$ であり、その行列式の符号は直線束 $\det E_A$ の 1 周での符号の変化である。直線束については、ループに沿ったこの符号が第 1 Stiefel–Whitney 類を決める(実直線束の群)。
  • 文献:滑らかな束の分類は BT82 Exercise 6.10(p. 59)の問題である。

関連項目

参考文献

[1]
Raoul Bott, Loring W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Springer, 1982, §6:Exercise 6.10(円周上のベクトル束、p. 59)

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