Chevalley群(Chevalley group)とは、複素単純 Lie 環の Chevalley 基底に関して整数係数の行列で書ける自己同型 $x_r(t)=\exp(t\operatorname{ad}X_r)$ を任意の体 $K$ の上で考え、それらが生成する群 $G(K)$ である。型 $A_l$ からは $\mathrm{PSL}_{l+1}(K)$ が得られ、例外型からは古典群にない群が得られる。$K=\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_3$ の少数の型を除いて $G(K)$ は単純群であり、既約な Weyl 群と可解な Borel 部分群をもつ BN 対の完全群は Borel 部分群の共役の共通部分で割ると単純になる、という判定法がその構造的な理由を与える。捩れ型とあわせて Lie 型の有限単純群の族を与える。
Chevalley群 は、複素単純 Lie 環のルート系から、任意の体 $K$ の上に一斉に作られる群である。Lie 環の各ルート $r$ に対し、整数係数の行列で書ける「ルートの方向への指数写像」$x_r(t)$($t\in K$)を作り、それらが生成する群を $G(K)$ とする。型 $A_l$ からは射影特殊線形群 $\mathrm{PSL}_{l+1}(K)$ が得られ、型 $G_2,F_4,E_6,E_7,E_8$ からは古典群にない群が得られる。少数の例外を除いて $G(K)$ は単純群であり、有限体の上では Lie 型の有限単純群の族の大部分を一様に与える。
この記事では、Chevalley 群を定義し、型 $A_1$ の Chevalley 群が $\mathrm{PSL}_2(K)$ であることを証明する。次に、BN 対(Tits 系)をもつ群が単純になるための判定法を、Tits系、BN対 と Coxeter系 の結果から完全に証明し、それを特殊線形群に当てはめる。Chevalley 群の単純性の定理、有限体上の位数、捩れ型の構成は出典とともに述べる。
$\mathfrak{g}$ を複素数体上の半単純 Lie 環、$\mathfrak{h}$ をその Cartan 部分環、$\Phi\subset\mathfrak{h}^*$ をルートの集合とする(ルート系)。$\mathfrak{g}$ はルート空間に分解され、各ルート $r$ に $0$ でないルートベクトル $X_r$($[H,X_r]=r(H)X_r$、$H\in\mathfrak{h}$)と余ルート $H_r\in\mathfrak{h}$ が対応する。この構造論は Che55 §I(pp. 15–19)に要約されている。
各ルート $r$ に対しルートベクトル $X_r$ をうまく選ぶと、次が成り立つ。
この記事では証明しない。Che55 Théorème 1(p. 24)である。$\operatorname{ad}X_r$ は冪零なので
$$
x_r(t):=\exp\bigl(t\operatorname{ad}X_r\bigr)=\sum_{i\ge0}\frac{t^i}{i!}(\operatorname{ad}X_r)^i
$$
は有限和であり、$\mathfrak{g}$ の自己同型である。同書 pp. 16, 24–28 は、すべてのウェイト $\varpi$ で $\varpi(H)$ が整数になる $H\in\mathfrak{h}$ の格子(余ルート $H_r$ が生成する格子)の基底 $H_1,\dots,H_l$ と $X_r$($r\in\Phi$)からなる $\mathfrak{g}$ の基底に関して、$x_r(t)$ の行列の成分が $t$ の整数係数の多項式 $A_r(T)$ で与えられることを示している(式 (1)〜(3) と p. 28)。
$K$ を体とし、$\mathfrak{g}_K$ を上の基底を基底とする $K$ 上のベクトル空間とする。各ルート $r$ と $t\in K$ について、$x_r(t)\in\mathrm{GL}(\mathfrak{g}_K)$ を整数係数の多項式の行列 $A_r(T)$ に $T=t$ を代入したものと定める。
$$
G(K):=\bigl\langle x_r(t)\bigm| r\in\Phi,\ t\in K\bigr\rangle
$$
を、$\mathfrak{g}$ の型の $K$ 上の(随伴型の)Chevalley群(Chevalley group)という。
Che55 は対角的な自己同型の群 $\mathfrak{H}$ も加えた群を $G$ と書き(p. 37)、正のルートの $x_r(t)$ が生成する群 $\mathfrak{U}$ と負のルートの $x_r(t)$ が生成する群 $\mathfrak{V}$ で生成される部分群を $G'$ と書いている(p. 47)。上の $G(K)$ は、定義によりこの $G'$ である。
$\mathfrak{g}=\mathfrak{sl}_2(\mathbb{C})$、$e=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$h=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$、$f=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ とすると $[h,e]=2e$、$[h,f]=-2f$、$[e,f]=h$ である(Lie環 の命題「$\mathfrak{sl}_2$ の構造」)。ルートは $\pm\alpha$($\alpha(h)=2$)で、$X_\alpha=e$、$X_{-\alpha}=f$、$H_\alpha=h$ は thm-chv-basis を満たし、この格子の基底は $H_\alpha=h$ である(ウェイトの格子は $\mathbb{Z}\,\alpha/2$ なので、$\varpi(H)\in\mathbb{Z}$ がすべてのウェイト $\varpi$ で成り立つことは $\alpha(H)\in2\mathbb{Z}$、すなわち $H\in\mathbb{Z}h$ と同値である)。基底 $(e,h,f)$ に関して
$$
x_\alpha(t)\colon\ e\mapsto e,\quad h\mapsto h-2te,\quad f\mapsto f+th-t^2e,
$$
$$
x_{-\alpha}(t)\colon\ f\mapsto f,\quad h\mapsto h+2tf,\quad e\mapsto e-th-t^2f
$$
である。実際、$\operatorname{ad}e$ は $f\mapsto h$、$h\mapsto-2e$、$e\mapsto0$ であり、$\tfrac12(\operatorname{ad}e)^2$ は $f\mapsto-e$ なので、$x_\alpha(t)=1+t\operatorname{ad}e+\tfrac{t^2}{2}(\operatorname{ad}e)^2$ から上の式が出る。$x_{-\alpha}(t)$ も同様である。成分はどれも $t$ の整数係数の多項式である。
任意の体 $K$ について、型 $A_1$ の Chevalley 群 $G(K)$ は $\mathrm{PSL}_2(K)=\mathrm{SL}_2(K)/\{\pm I\}$ と同型である。
$\mathrm{SL}_2(K)$ の作用.$K$ の成分の行列 $e,h,f$ は、$K$ 上の跡 $0$ の 2 次正方行列の空間 $V_K$ の基底である。実際、跡 $0$ の行列はただ一通りに $\begin{pmatrix}a&b\\c&-a\end{pmatrix}=ah+be+cf$ と書け、これは標数 $2$($h=I$ となる)でも変わらない。この基底で $\mathfrak{g}_K$ と $V_K$ を同一視する。$g\in\mathrm{SL}_2(K)$ に対し $\rho(g)X:=gXg^{-1}$($X\in V_K$)と定めると、$\operatorname{tr}(gXg^{-1})=\operatorname{tr}X=0$ なので $\rho(g)$ は $V_K$ の線形変換であり、$\rho(gg')X=gg'X(gg')^{-1}=\rho(g)\rho(g')X$、$\rho(g^{-1})=\rho(g)^{-1}$ である。よって $\rho\colon\mathrm{SL}_2(K)\to\mathrm{GL}(\mathfrak{g}_K)$ は群準同型である。
生成元の像.$u(t)=\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$、$u(t)^{-1}=u(-t)$ について、行列の積を計算すると
$$
u(t)\,h\,u(t)^{-1}=\begin{pmatrix}1&-2t\\0&-1\end{pmatrix}=h-2te,\qquad u(t)\,f\,u(t)^{-1}=\begin{pmatrix}t&-t^2\\1&-t\end{pmatrix}=f+th-t^2e
$$
であり、$e$ は $u(t)$ と可換なので不変である。よって $\rho(u(t))$ の行列は $x_\alpha(t)$ の行列と一致し、$\rho(u(t))=x_\alpha(t)$ である。$v(t)=\begin{pmatrix}1&0\\t&1\end{pmatrix}$、$v(t)^{-1}=v(-t)$ について
$$
v(t)\,h\,v(t)^{-1}=\begin{pmatrix}1&0\\2t&-1\end{pmatrix}=h+2tf,\qquad v(t)\,e\,v(t)^{-1}=\begin{pmatrix}-t&1\\-t^2&t\end{pmatrix}=e-th-t^2f
$$
であり、$f$ は $v(t)$ と可換なので不変である。よって $\rho(v(t))=x_{-\alpha}(t)$ である。これらの計算は整数係数の多項式の恒等式なので、標数によらず成り立つ。$\mathrm{SL}_2(K)$ は $u(t),v(t)$($t\in K$)で生成される(基本変形 の系「体と整数環の場合」)ので、$G(K)=\rho(\mathrm{SL}_2(K))$ である。
核.$\rho(g)=1$ とし、$g=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ とおく。$geg^{-1}=e$ すなわち $ge=eg$ であり、
$$
ge=\begin{pmatrix}0&a\\0&c\end{pmatrix},\qquad eg=\begin{pmatrix}c&d\\0&0\end{pmatrix}
$$
を比べて $c=0$、$a=d$ である。同様に $gf=fg$ であり、
$$
gf=\begin{pmatrix}b&0\\d&0\end{pmatrix},\qquad fg=\begin{pmatrix}0&0\\a&b\end{pmatrix}
$$
を比べて $b=0$ である。よって $g=aI$ であり、$\det g=a^2=1$ から $(a-1)(a+1)=0$、体なので $a=\pm1$、すなわち $g=\pm I$ である(標数 $2$ では $-I=I$ であり、核は自明群である)。逆にスカラー行列はすべての行列と可換なので $\rho(\pm I)=1$ である。よって $\ker\rho=\{\pm I\}$ であり、準同型定理 により $G(K)\cong\mathrm{SL}_2(K)/\{\pm I\}$ である。$\mathrm{SL}_2(K)$ の中心は $\{\pm I\}$(特殊線形群 の命題「特殊線形群の中心」)なので、これは $\mathrm{PSL}_2(K)$ である。$\square$
この証明は、$x_{\pm\alpha}(t)$ が基本行列 $u(t)$、$v(t)$ による共役(随伴作用)そのものであることを使っている。標数 $2$ でも同じ式がそのまま通るのが、整数係数の基底を選んだ効用である。一般に型 $A_l$ の Chevalley 群は $\mathrm{PSL}_{l+1}(K)$ と同型である(Ste59 §6, p. 882 は、正のルートと負のルートの群がそれぞれ上三角・下三角の単数行列の随伴作用であることから、これを述べている)。
$\mathfrak{g}$ を複素単純 Lie 環とし、次のいずれでもないとする:$K=\mathbb{F}_2$ で $\mathfrak{g}$ の型が $A_1$、$B_2$、$G_2$ のどれか。$K=\mathbb{F}_3$ で型が $A_1$。このとき $G(K)$ は単純群である。
この記事では証明しない。Che55 Théorème 3 とその系(p. 63)である。証明は、$G(K)$ が Bruhat 分解
$$
G=\bigcup_{w\in W}\mathfrak{U}\,\mathfrak{H}\,\omega(w)\,\mathfrak{U}''_w
$$
($W$ はルート系の Weyl 群、$\omega(w)$ は $w$ の代表元、$\mathfrak{U}''_w$ は $w$ で決まる $\mathfrak{U}$ の部分群で、和は交わらない。同書 Théorème 2、p. 42)をもつことを基礎に、正規部分群がルート部分群 $\{x_r(t)\mid t\in K\}$ を 1 つでも含めば全部を含むことを、交換子の公式から型ごとに確かめる。例外の型 $A_1$ の 2 つは $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$ と $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_3)\cong A_4$(単純群 の例「行列の群から得られる単純群」)である。
Bruhat 分解は、$B:=\mathfrak{U}\mathfrak{H}$ と $\omega(w)$ たちの生成する群を組にした Tits 系(BN 対)の公理の原型である(Tits系、BN対)。BN 対の言葉で単純性を判定する一般的な方法が次の定理である。
以下、$(G,B,N,S)$ を Tits 系、$W=N/(B\cap N)$ をその Weyl 群とし、Tits系、BN対 の記号を使う。$w\in W$ の Bruhat 細胞を $C(w)=B\dot wB$、$J\subseteq S$ の標準的放物型部分群を $P_J=\bigcup_{w\in W_J}C(w)$($W_J=\langle J\rangle$)と書く。$(W,S)$ は Coxeter 系であり(同記事の定理「Tits系の基本定理」の 1)、$\ell$ はその長さ関数である。
$H$ を $G$ の正規部分群とする。$HB$ は $B$ を含む部分群なので、ある $J\subseteq S$ について $HB=P_J$ である。このとき、任意の $s\in J$ と $t\in S\setminus J$ について $st=ts$ である。
$H$ は正規なので $HB=BH$ は部分群であり、Tits系、BN対 の定理「標準的放物型部分群の分類」により $HB=P_J$ となる $J$ がある。
$s\in J$、$t\in S\setminus J$ とする。$\dot s\in C(s)\subseteq P_J=HB$ なので $\dot s=hb$($h\in H$、$b\in B$)と書ける。すると
$$
\dot t\dot s=(\dot th\dot t^{-1})\,\dot tb\in H\dot tB\subseteq HB\,\dot tB=P_J\,C(t)=\bigcup_{w\in W_J}C(w)C(t)\subseteq\bigcup_{w\in W_J}\bigl(C(wt)\cup C(w)\bigr)
$$
である(最後は同記事の補題「細胞の基本性質」の 4)。$\dot t\dot s$ は $ts$ の代表元なので $\dot t\dot s\in C(ts)$ であり、異なる細胞は交わらない(同記事の定理「Tits系の基本定理」の 2)から、$ts\in W_J$ または $ts\in W_Jt$ である。
$ts\in W_J$ なら $t=(ts)s\in W_J$ となり、$t\in W_J\cap S=J$(Coxeter系 の命題「放物型部分群の基本性質」の 2)に反する。よって $ts=wt$($w\in W_J$)、すなわち $tst=w\in W_J$ である。
$S$ の元を右から掛けると長さはちょうど $1$ だけ変わる(Coxeter系 の定理「長さと正負の判定」から $\ell(us)\ne\ell(u)$、一般に $\lvert\ell(us)-\ell(u)\rvert\le1$)。$s\ne t$ なので $ts\ne1$、$\ell(ts)=2$ であり、$\ell(tst)$ は $1$ か $3$ である。$\ell(tst)=3$ なら $t\cdot s\cdot t$ は $W_J$ の元の簡約表示で、$J$ に属さない文字 $t$ を含み、同記事の命題「放物型部分群の基本性質」の 1 に反する。よって $\ell(tst)=1<\ell(ts)$ であり、簡約表示 $ts$ に交換条件(同記事の系「Coxeter系は交換条件を満たす」)を使うと、$tst$ は $s$ か $t$ に等しい。$tst=t$ なら左から $t$ を掛けて $st=1$、すなわち $s=t$ となり $s\in J$、$t\notin J$ に反するので、$tst=s$、すなわち $ts=st$ である。$\square$
$H$ を正規部分群とし、lem-chv-commute により $HB=P_J$ とする。同補題から $J$ の元と $S\setminus J$ の元はすべて交換し、$m(s,t)=2$ である。$J$ と $S\setminus J$ がともに空でなければ $(W,S)$ は可約になるので、$J=\emptyset$ か $J=S$ である。
$J=S$ のとき、$HB=P_S=G$(Tits系、BN対 の命題「両端の標準的放物型部分群」)である。準同型定理 の定理「第2同型定理」により $G/H=HB/H\cong B/(B\cap H)$ は可解群の剰余群なので可解である(可解群 の命題「部分群と剰余群への遺伝」)。一方 $G/H$ は完全群 $G$ の像なので $[G/H,G/H]=G/H$ である。可解群で自分自身の交換子部分群に等しいものは、導来列が $G/H$ のまま止まって $\{e\}$ に届くので自明群であり、$H=G$ である。
$J=\emptyset$ のとき、$HB=P_\emptyset=B$ なので $H\subseteq B$ であり、任意の $g$ について $H=gHg^{-1}\subseteq gBg^{-1}$、すなわち $H\subseteq Z$ である。
$Z$ は正規部分群であり、$G/Z$ の正規部分群は $Z$ を含む正規部分群 $H$ に対応する。上により $H=Z$ か $H=G$ である。$S\ne\emptyset$ なので $s\in S$ について $C(s)\ne B$(Tits系、BN対 の補題「単純生成元の細胞の平方」)であり、$Z\subseteq B\ne G$ である。よって $G/Z$ は単純群である。$\square$
証明の要は、正規部分群 $H$ が $B$ と生成する群 $HB$ が放物型部分群になり、その型 $J$ が Coxeter 図形を「切り離す」ことである。既約性によって $J$ は空か全体に限られ、全体なら $B$ の可解性と $G$ の完全性で $H=G$、空なら $H$ は Borel 部分群のすべての共役に含まれる。
$K$ を体、$n\ge2$、$(n,\lvert K\rvert)\ne(2,2),(2,3)$ とする。$G=\mathrm{SL}_n(K)$、$B$ を $G$ の上三角行列の全体、$N$ を $G$ の単項行列(各行・各列に $0$ でない成分がちょうど 1 つ)の全体とすると、$(B,N)$ は Weyl 群 $W\cong S_n$、$S=\{(1\,2),(2\,3),\dots,(n-1\;n)\}$ の BN 対である(Tay92 pp. 28–33)。thm-chv-tits の仮定がすべて満たされ、$Z$ は $G$ の中心であるから、$\mathrm{PSL}_n(K)$ は単純群である。
既約性:$(i\;i{+}1)(i{+}1\;i{+}2)$ は位数 $3$ の巡回置換なので、隣り合う 2 つの互換は交換しない。$S=S_1\sqcup S_2$ と 2 つの空でない部分に分けると、ある $i$ で $(i\;i{+}1)$ と $(i{+}1\;i{+}2)$ が別の側に入るので、$(W,S)$ は既約である。
可解性:対角成分をとる写像 $B\to(K^\times)^n$ は準同型で、核は対角成分が $1$ の上三角行列の群 $U$ である。$U$ は冪零(Tay92 Theorem 5.8、p. 35)なので可解であり、可換群 $(K^\times)^n$ による拡大 $B$ も可解である(可解群 の命題「拡大についての閉性」)。
完全性:特殊線形群 の定理「交換子部分群の決定」の 2 による。
$Z$ の決定:$B$ は旗 $\langle e_1\rangle\subset\langle e_1,e_2\rangle\subset\cdots$ の固定部分群なので、$gBg^{-1}$ は旗 $g\langle e_1\rangle\subset\cdots$ の固定部分群である。どの直線 $\langle v\rangle$ もある $g\in G$ で $g\langle e_1\rangle=\langle v\rangle$ と書けるので、$Z$ の元はすべての直線を保ち、スカラー行列である(古典群 の定理「射影特殊線形群の単純性」の証明の「核」の段)。逆にスカラー行列は $B$ のすべての共役に含まれる。よって $Z$ は $G$ のスカラー行列の全体、すなわち中心である。
同じ結論は 古典群 で Iwasawa の判定法から直接示した。BN 対による方法は、シンプレクティック群(Tay92 Theorem 8.12、p. 76)や Chevalley 群のように、Weyl 群が対称群でない場合にもそのまま使える形をしている。
$K=\mathbb{F}_q$ のとき、$N$ を正のルートの個数、$l$ を階数として、$G(\mathbb{F}_q)$ の位数は
$$
\lvert G(\mathbb{F}_q)\rvert=\frac{1}{u}\,q^N\prod_{i=1}^{l}\bigl(q^{a(i)}-1\bigr)
$$
である(Che55 p. 64。この記事では証明しない)。$a(i)$ は型ごとに決まる整数で、$u$ は $q$ による小さい整数である。例外型の値を並べる。
| 型 | $a(1),\dots,a(l)$ | $N$ | $u$ |
|---|---|---|---|
| $G_2$ | $2,6$ | $6$ | $1$ |
| $F_4$ | $2,6,8,12$ | $24$ | $1$ |
| $E_6$ | $2,5,6,8,9,12$ | $36$ | $\gcd(3,q-1)$ |
| $E_7$ | $2,6,8,10,12,14,18$ | $63$ | $\gcd(2,q-1)$ |
| $E_8$ | $2,8,12,14,18,20,24,30$ | $120$ | $1$ |
$a(i)$ と $u$ は Che55 p. 64 の表による。$N$ は $\sum_i(a(i)-1)$ に等しい(Ste59 p. 888 は、$\prod_i(t^{a(i)}-1)/(t-1)$ を展開した最高次の項が $q^N$ に当たると述べている)。たとえば $\lvert G_2(\mathbb{F}_q)\rvert=q^6(q^2-1)(q^6-1)$ であり、$q=3$ では位数 $4245696$ の単純群が得られる。型 $A_l$ では $G(K)\cong\mathrm{PSL}_{l+1}(K)$ なので、古典群 の命題「有限体上の射影特殊線形群の位数」と比べると、$N=l(l+1)/2$、$u=\gcd(l+1,q-1)$、$a(i)=i+1$($1\le i\le l$)にあたる。
Chevalley 群の Dynkin 図形の対称性と体の自己同型を組み合わせ、その固定点として作る群を 捩れ型 という。
この記事では証明しない。型 $A_l$、$D_l$、$E_6$ で図形の位数 $2$ の対称性と体の位数 $2$ の自己同型を使う構成と、型 $D_4$ で位数 $3$ の対称性を使う構成は Ste59 にあり、固定体 $K_0$ が $5$ 元以上なら得られる群は単純である(8.1 Theorem、p. 884。位数 $3$ の対称性による構成については §10、p. 887)。型 $A_l$ からは射影特殊ユニタリ群(§6、p. 882)、型 $D_l$ からは Witt 指数が $l-1$ の直交群の射影版(§9、p. 886)が得られる。有限体の上の ${}^2E_6(q^2)$ と ${}^3D_4(q^3)$ は新しい単純群で、位数はそれぞれ $u^{-1}q^{36}(q^2-1)(q^5+1)(q^6-1)(q^8-1)(q^9+1)(q^{12}-1)$($u=\gcd(3,q+1)$)と $q^{12}(q^2-1)(q^6-1)(q^8+q^4+1)$ である(12.1 Theorem・12.3 Lemma、pp. 887–888)。型 $B_2$、$F_4$(標数 $2$)と $G_2$(標数 $3$)では、長いルートと短いルートを入れ替える図形の対称性と、$\sigma^2$ が Frobenius 写像になる体の自己同型 $\sigma$ を組み合わせて Suzuki 群・Ree 群が作られ、$K$ が $p$($=2$ または $3$)元より多ければその導来群は単純である(Tit61 Théorème 1、p. 67)。
$K=\mathbb{F}_5$ とする。thm-chv-tits の結論「正規部分群 $H$ は $H\subseteq Z$ か $H=G$」が崩れる例を並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $G=[G,G]$ | $\mathrm{GL}_2(K)$ と標準的な BN 対 | $H=\mathrm{SL}_2(K)$ について結論 |
| $(W,S)$ が既約 | $\mathrm{SL}_2(K)\times\mathrm{SL}_2(K)$ と積の BN 対 | $H=\mathrm{SL}_2(K)\times\{1\}$ について結論 |
| $B$ が可解 | $\mathrm{SL}_2(K)\times A_5$、$B=B_1\times A_5$、$N=N_1\times A_5$ | $H=\mathrm{SL}_2(K)\times\{1\}$ について結論 |
$B_1$、$N_1$ を $\mathrm{SL}_2(K)$ の上三角行列・単項行列の群とし、$Z_1=\{\pm I\}$ をその中心とする。$\lvert K\rvert=5\ge4$ なので $\mathrm{SL}_2(K)$ は完全群である(特殊線形群 の定理「交換子部分群の決定」)。
1 行目:$\mathrm{GL}_2(K)$ の上三角行列と単項行列の群は Weyl 群 $\{1,s\}$ の Tits 系をなし(Tits系、BN対 の命題「$\mathrm{GL}_2(K)$ の標準BN対」)、$\lvert S\rvert=1$ なので既約、$B$ は可解である。$\mathrm{SL}_2(K)$ は正規部分群で、$Z$ に含まれない($Z$ はスカラー行列からなり、$u(1)$ はスカラーでない。ex-chv-sln と同じ議論)が、$\mathrm{GL}_2(K)$ 全体でもない。$[\mathrm{GL}_2(K),\mathrm{GL}_2(K)]=\mathrm{SL}_2(K)$ なので $G$ は完全群でない。
2 行目:Tits 系 $(G_i,B_i,N_i,S_i)$($i=1,2$)について、$G_1\times G_2$、$B_1\times B_2$、$N_1\times N_2$、$S=\{(s,1),(1,t)\mid s\in S_1,t\in S_2\}$ は Tits 系である。公理はどれも成分ごとに確かめられ、たとえば第 4 公理は $B\dot{(s,1)}B\dot wB=(B_1\dot sB_1\dot w_1B_1)\times(B_2\dot w_2B_2)$ と $G_1$ の第 4 公理から出る。$W=W_1\times W_2$ で $(s,1)$ と $(1,t)$ は交換するので、$(W,S)$ は可約である。$B$ は可解、$G$ は完全群、$Z=Z_1\times Z_1$ である。$\mathrm{SL}_2(K)\times\{1\}$ は正規部分群で、$Z$ に含まれず、$G$ でもない。
3 行目:$P=A_5$ とし、$G=\mathrm{SL}_2(K)\times P$、$B=B_1\times P$、$N=N_1\times P$、$S=\{(s,1)\}$ とする。$B\cap N=(B_1\cap N_1)\times P$ は $N$ の正規部分群で $N/(B\cap N)\cong W_1$ であり、第 4・第 5 公理は第 1 成分の公理と $PPP=P$ から出るので Tits 系である。$\lvert S\rvert=1$ なので既約、$G$ は完全群($A_5$ は可換でない単純群なので $[A_5,A_5]=A_5$)だが、$B$ は $A_5$ を含むので可解でない(可解群 の命題「アーベル群でない単純群は可解でない」と部分群への遺伝)。$Z=Z_1\times P$ であり、$\mathrm{SL}_2(K)\times\{1\}$ は正規部分群で、$Z$ に含まれず、$G$ でもない。
Chevalley 群の構成、Bruhat 分解、単純性、位数は Che55(Théorème 1、p. 24、Théorème 2、p. 42、Théorème 3、p. 63、位数 p. 64)による。$\mathrm{SL}(V)$ の BN 対は Tay92 pp. 28–33 にある。thm-chv-a1 と thm-chv-tits(lem-chv-commute を含む)は、引用した記事の命題を除いて記事の中で証明した。
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