イギリス国旗の定理

同義語:British flag theorem

概要

イギリス国旗の定理(British flag theorem)とは、長方形 $ABCD$ と平面または空間の任意の点 $P$ について $PA^2+PC^2=PB^2+PD^2$ が成り立つという定理である。対角線の共通の中点を $O$ とすると、中線定理により両辺はどちらも $2PO^2$ に対角線の長さの 2 乗の半分を足したものになる。逆に、どの 3 点も一直線上にない平面の 4 点ですべての点 $P$ についてこの等式が成り立つのは、$ABCD$ が長方形のときに限る。平行四辺形では差 $PA^2+PC^2-PB^2-PD^2$ が $P$ によらず $\frac12(AC^2-BD^2)$ になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 中線定理(高校数学), ベクトルの内積(高校数学), 位置ベクトルと内分点

高校での出発点:長方形の 4 頂点までの距離

長方形の中に点を 1 つとり、4 つの頂点まで線分を引く。向かい合う頂点への 2 本ずつに分けて、長さの 2 乗の和を比べてみる。

内部の点で比べる

長方形 $A(0,0)$、$B(6,0)$、$C(6,4)$、$D(0,4)$ と、点 $P(2,1)$ をとる。
$$ PA^2=2^2+1^2=5,\quad PC^2=4^2+3^2=25,\quad PB^2=4^2+1^2=17,\quad PD^2=2^2+3^2=13 $$
で、$PA^2+PC^2=30$、$PB^2+PD^2=30$ と等しい(図 1)。

外の点で比べる

同じ長方形で、外の点 $P(7,5)$ をとる。
$$ PA^2=49+25=74,\quad PC^2=1+1=2,\quad PB^2=1+25=26,\quad PD^2=49+1=50 $$
で、$PA^2+PC^2=76$、$PB^2+PD^2=76$ と、やはり等しい。

長方形 ABCD と内部の点 P(2,1)。赤の 2 本(PA と PC)の長さの 2 乗の和と、青の 2 本(PB と PD)の長さの 2 乗の和が等しい 長方形 ABCD と内部の点 P(2,1)。赤の 2 本(PA と PC)の長さの 2 乗の和と、青の 2 本(PB と PD)の長さの 2 乗の和が等しい
赤の 2 本と青の 2 本で長さはばらばらなのに、2 乗の和はそろう。この事実は イギリス国旗の定理 と呼ばれる。この記事の問いは次の 2 つである。

  1. 長方形と任意の点で、いつも $PA^2+PC^2=PB^2+PD^2$ が成り立つか。空間の点ではどうか。→ thm-bft-main
  2. この等式がすべての点で成り立つ四角形は、長方形だけか。→ thm-bft-converse
    四角形$PA^2+PC^2-PB^2-PD^2$
    長方形いつも $0$
    平行四辺形$P$ によらない一定の値 $\frac12(AC^2-BD^2)$
    一般の四角形$P$ の座標の 1 次式($P$ によって変わる)

主定理 1:イギリス国旗の定理

証明には中線定理を使う。三角形 $XYZ$ の辺 $YZ$ の中点を $M$ とすると $XY^2+XZ^2=2XM^2+2YM^2$ である(中線定理(高校数学) の定理「中線定理の主張」)。$YM=\frac12YZ$ なので、$2YM^2=\frac12YZ^2$ と書いてもよい。

イギリス国旗の定理

長方形 $ABCD$ と、平面または空間の任意の点 $P$ について
$$ PA^2+PC^2=PB^2+PD^2 $$
が成り立つ。

方針:2 本の対角線の共通の中点 $O$ を使い、中線定理で両辺を $PO$ と対角線の長さで書く。
段 1(対角線の中点)。長方形は平行四辺形なので、対角線 $AC$ と $BD$ は互いの中点で交わる。その点を $O$ とする。また、長方形の対角線の長さは等しい:$AC=BD$。
段 2(左辺)。$O$ は $AC$ の中点なので、中線定理(三角形 $PAC$ と中点 $O$)から
$$ PA^2+PC^2=2PO^2+\frac12AC^2 $$
である。$P$ が空間の点でも、3 点 $P,A,C$ を含む平面の中で中線定理を使えばよい。$P$ が直線 $AC$ の上にあって三角形ができないときも、この式は成り立つ(中線定理(高校数学) の内積による証明は、3 点が一直線上にあってもそのまま通る)。
段 3(右辺)。同じく $O$ は $BD$ の中点なので
$$ PB^2+PD^2=2PO^2+\frac12BD^2 $$
である。
段 4(比べる)。段 1 の $AC=BD$ から、段 2 と段 3 の右辺は等しい。よって $PA^2+PC^2=PB^2+PD^2$ である。$\square$

$$ PA^2+PC^2=2PO^2+\underbrace{\tfrac12AC^2}_{\text{対角線}}\qquad PB^2+PD^2=2PO^2+\underbrace{\tfrac12BD^2}_{\text{もう 1 本の対角線}} $$
証明から分かるように、主定理 1 で使ったのは「対角線が互いの中点で交わる」ことと「対角線の長さが等しい」ことの 2 つだけである。

位置ベクトルで展開する別証明を開く

点 $X$ の位置ベクトルを $\vec x$ と書く。長方形の中心 $O$ を原点にとると、$\vec c=-\vec a$、$\vec d=-\vec b$、$\lvert\vec a\rvert=\lvert\vec b\rvert$($OA=\frac12AC=\frac12BD=OB$)である。$\lvert\vec p-\vec x\rvert^2=\lvert\vec p\rvert^2-2\vec p\cdot\vec x+\lvert\vec x\rvert^2$ なので$$PA^2+PC^2=2\lvert\vec p\rvert^2-2\vec p\cdot(\vec a+\vec c)+\lvert\vec a\rvert^2+\lvert\vec c\rvert^2=2\lvert\vec p\rvert^2+2\lvert\vec a\rvert^2$$で、同じく $PB^2+PD^2=2\lvert\vec p\rvert^2+2\lvert\vec b\rvert^2$ である。$\lvert\vec a\rvert=\lvert\vec b\rvert$ より両者は等しい。$\square$

空間の点で確かめる

ex-bft-inside の長方形を $xy$ 平面に置き、空間の点 $P(2,1,3)$ をとる。$A(0,0,0)$、$B(6,0,0)$、$C(6,4,0)$、$D(0,4,0)$ なので
$$ PA^2=4+1+9=14,\quad PC^2=16+9+9=34,\quad PB^2=16+1+9=26,\quad PD^2=4+9+9=22 $$
で、$14+34=48=26+22$ である。高さ $3$ の分 $3^2=9$ が 4 つの値すべてに足されるので、ex-bft-inside の $5+25=17+13$ の両辺に $18$ ずつ足した形になっている(図 2 の右)。

左は長方形の外の点 P(7,5)、右は長方形の上に浮いた空間の点 P(2,1,3)。どちらでも、赤の 2 本の長さの 2 乗の和と青の 2 本の和は等しい 左は長方形の外の点 P(7,5)、右は長方形の上に浮いた空間の点 P(2,1,3)。どちらでも、赤の 2 本の長さの 2 乗の和と青の 2 本の和は等しい

主定理 2:等式が成り立つのは長方形だけ

主定理 1 の逆を考える。

すべての点で等式が成り立つ四角形

平面の 4 点 $A,B,C,D$ のどの 3 点も一直線上にないとする。すべての点 $P$ で $PA^2+PC^2=PB^2+PD^2$ が成り立つならば、$ABCD$ は長方形である。

方針:$f(P)=PA^2+PC^2-PB^2-PD^2$ を位置ベクトルで展開すると $\vec p$ の 1 次式になる。それがいつも $0$ であることから、係数と定数項を読み取る。
段 1(展開)。$\lvert\vec p-\vec x\rvert^2=\lvert\vec p\rvert^2-2\vec p\cdot\vec x+\lvert\vec x\rvert^2$ を 4 つ足し引きすると、$\lvert\vec p\rvert^2$ は $+2-2=0$ で消えて
$$ f(P)=-2\,\vec p\cdot(\vec a+\vec c-\vec b-\vec d)+\left(\lvert\vec a\rvert^2+\lvert\vec c\rvert^2-\lvert\vec b\rvert^2-\lvert\vec d\rvert^2\right) $$
となる。$\vec w=\vec a+\vec c-\vec b-\vec d$、$k=\lvert\vec a\rvert^2+\lvert\vec c\rvert^2-\lvert\vec b\rvert^2-\lvert\vec d\rvert^2$ とおく。
段 2(係数が $0$)。$P$ を原点にとると $f=k$ なので、仮定から $k=0$ である。すると $\vec p\cdot\vec w=0$ がすべての $\vec p$ で成り立つ。$\vec p=\vec w$ ととると $\lvert\vec w\rvert^2=0$ で、$\vec w=\vec0$、つまり $\vec a+\vec c=\vec b+\vec d$ である。
段 3(平行四辺形)。両辺を $2$ で割ると、$AC$ の中点と $BD$ の中点が一致する。対角線が互いの中点で交わり、どの 3 点も一直線上にないので、$ABCD$ は平行四辺形である。
段 4(対角線が等しい)。どのベクトルでも $\lvert\vec a\rvert^2+\lvert\vec c\rvert^2=\frac12\left(\lvert\vec a+\vec c\rvert^2+\lvert\vec a-\vec c\rvert^2\right)$ である(右辺を展開すると内積の項が打ち消し合う。中線定理(高校数学) の命題「平行四辺形の法則」)。$\vec b,\vec d$ でも同じ式が成り立つ。$k=0$ と $\vec a+\vec c=\vec b+\vec d$ から $\lvert\vec a-\vec c\rvert^2=\lvert\vec b-\vec d\rvert^2$、つまり $AC=BD$ である。
段 5(長方形)。$\vec u=\overrightarrow{AB}$、$\vec v=\overrightarrow{AD}$ とおくと、平行四辺形なので $\overrightarrow{AC}=\vec u+\vec v$、$\overrightarrow{DB}=\vec u-\vec v$ である。$\lvert\vec u+\vec v\rvert^2-\lvert\vec u-\vec v\rvert^2=4\,\vec u\cdot\vec v$ なので、段 4 から $\vec u\cdot\vec v=0$、つまり $\angle A=90^\circ$ である。直角をもつ平行四辺形は長方形である。$\square$

証明の段 1・段 2 から、次のことも分かる。

平行四辺形では差が一定

平行四辺形 $ABCD$ と任意の点 $P$ について
$$ PA^2+PC^2-PB^2-PD^2=\frac12\left(AC^2-BD^2\right) $$
で、右辺は $P$ によらない。

平行四辺形では $\vec a+\vec c=\vec b+\vec d$ なので、段 1 の式の $\vec w$ は $\vec0$ で、$f(P)=k$ である。段 4 の式から $k=\frac12\left(\lvert\vec a-\vec c\rvert^2-\lvert\vec b-\vec d\rvert^2\right)=\frac12(AC^2-BD^2)$ である。$\square$

平行四辺形で確かめる

平行四辺形 $A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(5,3)$、$D(1,3)$ では $AC^2=25+9=34$、$BD^2=9+9=18$ で、系の値は $\frac12(34-18)=8$ である。$P=(0,0)$ では $0+34-16-10=8$、$P=(2,7)$ では $PA^2=53$、$PC^2=25$、$PB^2=53$、$PD^2=17$ で $53+25-53-17=8$ となり、どちらも $8$ である。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
長方形(対角線が等しい)長方形でない平行四辺形差は一定だが $0$ でない(一緒に「直角」も破れる)
長方形(対角線が互いの中点で交わる)等脚台形対角線は等しいが、差が $P$ によって変わる
(主張の式の取り違え)向かい合う頂点の組で比べる隣り合う頂点 $A,B$ と $C,D$ の組で比べる等式が崩れる
反例:等脚台形

等脚台形 $A(0,0)$、$B(6,0)$、$C(4,3)$、$D(2,3)$ の対角線は $AC^2=16+9=25$、$BD^2=16+9=25$ で等しい。しかし $P=(0,0)$ では $0+25-36-13=-24$、$P=(1,1)$ では $2+13-26-5=-16$、$P=(3,5)$ では $34+5-34-5=0$ で、差は $P$ によって変わる。対角線の中点は $\left(2,\frac32\right)$ と $\left(4,\frac32\right)$ で一致せず、prf-bft-converse の $\vec w=\vec a+\vec c-\vec b-\vec d=(-4,0)$ が $\vec0$ でないので、差は $P$ の 1 次式 $8x-24$ になる。

反例:組の選び方

ex-bft-inside の長方形と $P(2,1)$ で、隣り合う頂点の組 $\{A,B\}$ と $\{C,D\}$ を比べると、$PA^2+PB^2=5+17=22$、$PC^2+PD^2=25+13=38$ で等しくない。等式は、対角線の両端どうし(向かい合う頂点どうし)を組にしたときの式である。

大学数学で見る

重みの和が $0$ の距離の 2 乗の和

$f(P)=PA^2-PB^2+PC^2-PD^2$ は、4 点までの距離の 2 乗に重み $1,-1,1,-1$ を掛けて足したもので、重みの和は $0$ である。prf-bft-converse の段 1 で見たとおり、重みの和が $0$ だと $\lvert\vec p\rvert^2$ の項が消えて、$f$ は $P$ の 1 次式になる。この見方を一般の重みに広げたものが次の 距離の2乗の重み付き和 である。証明では長さを内積で書いただけなので、同じ等式は、長さが内積から決まる空間(何次元でもよい)でそのまま成り立つ。長さの測り方が内積から来るかどうかは平行四辺形の法則で判定できる(中線定理(高校数学) の定理「ノルムが内積から来る条件」)。

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関連項目

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