ジェット(jet)とは、多様体の間の滑らかな写像の点 $p$ における $k$ 階までの微分の情報を座標によらずに表す対象であり、ある座標で $p$ での値と $k$ 階までの偏導関数が一致する写像の同値類として定める。この一致は写像の差が $|x-p|^k$ より速く $0$ に近づくことと同値で、座標の取り替えで保たれる。滑らかな関数の $k$ ジェットの空間は、芽の環を極大イデアルの $k+1$ 乗で割ったものであり、1 ジェットは値と微分の組である。$k$ 階以下の線形微分作用素の値は $k$ ジェットで決まり、関数の 1 ジェットは 1 ジェットの空間の接触形式で特徴づけられる。
1 変数の滑らかな関数 $f$ の点 $p$ での Taylor 多項式 $\sum_{j\le k}f^{(j)}(p)(x-p)^j/j!$ は、$f$ の $p$ での「$k$ 階までの微分の情報」をまとめたものである。この情報だけで決まる量は多い。接線は 1 階までの情報で、曲率は 2 階までの情報で決まり、$k$ 階の微分作用素を $f$ に施した値の $p$ での値は $k$ 階までの情報で決まる。ジェット(jet)は、この「点での $k$ 階までの微分の情報」を、多様体の間の写像について座標によらない対象として定式化したものである。2 つの写像が点 $p$ で同じ $k$ ジェットをもつとは、ある(したがってどの)座標でも、$p$ での値と $k$ 階までの偏導関数がすべて一致することをいう。
この記事では、ジェットを定義し、それが座標の取り方によらないことを、「差が $|x-p|^k$ より速く $0$ に近づく」という言い換えから証明する。関数のジェットが芽の環の極大イデアルの冪による剰余であること(1 ジェットは値と微分の組であること)を Hadamard の補題から導き、微分作用素がジェットを通して働くこと、1 ジェットの空間の接触形式で関数の 1 ジェットが特徴づけられることを示す。
多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_m)\in\mathbb{Z}_{\ge0}^m$ について $|\alpha|:=\sum_i\alpha_i$、$\alpha!:=\prod_i\alpha_i!$、$\partial^\alpha:=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_m^{\alpha_m}$、$v^\alpha:=\prod_iv_i^{\alpha_i}$ と書く(多重指数)。$|\cdot|$ は Euclid ノルムである。$k\ge0$ は整数とする。
$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$p\in U$、$f,g\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級の写像とする。$|\alpha|\le k$ のすべての多重指数 $\alpha$ について $\partial^\alpha f(p)=\partial^\alpha g(p)$ であるとき($\alpha=0$ を含むので $f(p)=g(p)$)、$f$ と $g$ は $p$ で $k$ 次の接触 をもつ、または 同じ $k$ ジェット をもつという。
この条件は、$k$ 次の Taylor 多項式 $T^k_pf(x):=\sum_{|\alpha|\le k}\frac{\partial^\alpha f(p)}{\alpha!}(x-p)^\alpha$ が一致することと同じである(prop-jt-taylor-polynomial)。座標を取り替えても条件が保たれることを示すために、偏導関数を使わない言い換えを用意する。
$U,p,f,g$ を def-jt-contact のとおりとする。次は同値である。
$h:=f-g$ とおく。$h$ は $C^k$ 級で、各成分ごとに考えてよいので $n=1$ とする。$\delta>0$ を閉球 $\overline B:=\{|x-p|\le\delta\}$ が $U$ に含まれるようにとる。
1 ⇒ 2. $k=0$ なら $h(p)=0$ と $h$ の連続性から $h(x)\to0$ である。$k\ge1$ とし、$v\in\mathbb{R}^m$、$|v|\le\delta$ について $\varphi(t):=h(p+tv)$($0\le t\le1$)とおく。連鎖律 を $j$ 回使うと、$j\le k$ について
$$
\varphi^{(j)}(t)=\sum_{|\alpha|=j}\frac{j!}{\alpha!}\,v^\alpha\,\partial^\alpha h(p+tv)
$$
である($(v_1\partial_1+\dots+v_m\partial_m)^j$ を多項定理で展開したもの。偏導関数は $C^k$ 級なので順序によらない)。仮定から $\varphi^{(j)}(0)=0$($j< k$)なので、Taylorの定理 の定理「積分形の剰余項」により
$$
h(p+v)=\varphi(1)=\int_0^1\frac{(1-t)^{k-1}}{(k-1)!}\,\varphi^{(k)}(t)\,dt
$$
である。$\rho(s):=\max_{|\alpha|=k}\max_{|y-p|\le s}|\partial^\alpha h(y)|$ とおくと、$\partial^\alpha h(p)=0$ と $\partial^\alpha h$ の連続性から $\rho(s)\to0$($s\to+0$)である。$|v^\alpha|\le|v|^k$ と $\sum_{|\alpha|=k}k!/\alpha!=m^k$(多項定理で $v=(1,\dots,1)$ とおいた値)から $|\varphi^{(k)}(t)|\le m^k|v|^k\rho(|v|)$ であり、
$$
|h(p+v)|\le\frac{m^k}{k!}\,|v|^k\rho(|v|)
$$
を得る。$\rho(|v|)\to0$ なので $|h(p+v)|=o(|v|^k)$ である。
2 ⇒ 1. $P:=T^k_ph$ を $h$ の $k$ 次の Taylor 多項式とする。$|\alpha|,|\beta|\le k$ について $\partial^\alpha\bigl((x-p)^\beta/\beta!\bigr)$ の $x=p$ での値は $\alpha=\beta$ なら $1$、それ以外は $0$ なので、$\partial^\alpha P(p)=\partial^\alpha h(p)$($|\alpha|\le k$)である。よって $h-P$ に 1 ⇒ 2 を当てると $h-P=o(|x-p|^k)$ であり、仮定と合わせて $P(x)=o(|x-p|^k)$ である。$P(p+v)=\sum_{j=0}^kP_j(v)$($P_j$ は $j$ 次の斉次多項式)と書く。$v$ を止めて $t>0$ について $P(p+tv)=\sum_jt^jP_j(v)=o(t^k)$($t\to+0$)であり、$t\to+0$ とすると $P_0(v)=0$、次に $t$ で割って $t\to+0$ とすると $P_1(v)=0$、と順に $P_j(v)=0$($j\le k$)を得る。$v$ は任意なので $P$ は恒等的に $0$ で、$\partial^\alpha h(p)=\partial^\alpha P(p)=0$($|\alpha|\le k$)である。$\square$
2 の条件は偏導関数を使わないので、写像を合成しても扱いやすい。
$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$f,g\colon U\to\mathbb{R}^n$ を $C^k$ 級とし、$f$ と $g$ が $p\in U$ で同じ $k$ ジェットをもつとする。
合成は $C^k$ 級なので(連鎖律)、lem-jt-little-o により差が $o(|\cdot|^k)$ であることを確かめればよい。要点は、$C^1$ 級の写像が閉球の上で Lipschitz 連続であることである。1 では $|\psi(y)-p|\le C|y-p'|$ から $|f(\psi(y))-g(\psi(y))|=o(|\psi(y)-p|^k)=o(|y-p'|^k)$、2 では $|\phi(f(x))-\phi(g(x))|\le L|f(x)-g(x)|=o(|x-p|^k)$ となる。
$k=0$ では値が一致することだけなので明らかである。$k\ge1$ とする。$C^1$ 級の写像 $\chi$ は、定義域に含まれる閉球 $\overline B$ の上で Lipschitz 連続である。実際、各成分 $\chi_i$ と $z,z'\in\overline B$ について、$\overline B$ は凸なので $t\mapsto\chi_i(z'+t(z-z'))$ に 平均値の定理 を当てると、$\chi_i(z)-\chi_i(z')=\nabla\chi_i(\xi)\cdot(z-z')$ となる $\xi\in\overline B$ があり、$|\chi_i(z)-\chi_i(z')|\le L_i|z-z'|$($L_i:=\max_{\overline B}|\nabla\chi_i|$)である。
1:$p'$ を中心とする閉球 $\overline B'\subset W$ の上で、ある $C$ について $|\psi(y)-p|\le C|y-p'|$ である。$\varepsilon>0$ に対し、lem-jt-little-o の $\eta$ を $f-g$ についてとる。$|y-p'|$ が $\overline B'$ の半径と $\eta/C$ より小さいとき $|\psi(y)-p|<\eta$ なので、$|f(\psi(y))-g(\psi(y))|\le\varepsilon|\psi(y)-p|^k\le\varepsilon C^k|y-p'|^k$ である。$\varepsilon$ は任意なので $f\circ\psi-g\circ\psi=o(|y-p'|^k)$ である。
2:$f(p)$ を中心とする閉球 $\overline B\subset V$ の上で $|\phi(z)-\phi(z')|\le L|z-z'|$ とする。$f,g$ は連続で $f(p)=g(p)$ なので、$p$ の近くで $f(x),g(x)\in\overline B$ であり、$|\phi(f(x))-\phi(g(x))|\le L|f(x)-g(x)|=o(|x-p|^k)$ である。$\square$
これで多様体の間の写像のジェットを定義できる。以下、多様体は滑らかな($C^\infty$ 級の)多様体で、$\dim M=m$、$\dim N=n$ とする。
$p\in M$ とし、$f,g$ を $p$ の開近傍から $N$ への滑らかな写像とする。$f(p)=g(p)$ であり、$p$ のまわりの座標 $(U,x)$ と $f(p)$ のまわりの座標 $(V,y)$ について $y\circ f\circ x^{-1}$ と $y\circ g\circ x^{-1}$ が $x(p)$ で同じ $k$ ジェットをもつとき、$f$ と $g$ は $p$ で 同じ $k$ ジェットをもつ という。この同値関係による $f$ の類を $f$ の $p$ における $k$ ジェット といい、$j^k_pf$ と書く。$p$ を 始点、$f(p)$ を 終点 という。始点が $p$ の $k$ ジェットの全体を $J^k_p(M,N)$、すべての始点にわたる合併を $J^k(M,N)$ と書く。
座標を取り替えると、$y'\circ f\circ x'^{-1}=(y'\circ y^{-1})\circ(y\circ f\circ x^{-1})\circ(x\circ x'^{-1})$ であり、座標変換は滑らかなので、prop-jt-composition の 1・2 により条件は座標の取り方によらない。とくに「ある座標で同じ $k$ ジェット」と「どの座標でも同じ $k$ ジェット」は同値である。固定した座標で見れば反射律・対称律・推移律は明らかなので、これは同値関係である。この定義は Mic08 21.1–21.2(pp. 268–269)の条件 (2)・(3) と同じである。同じ $k$ ジェットをもつ写像は同じ $l$ ジェット($l< k$)をもつので、$j^k_pf\mapsto j^l_pf$ という写像 $J^k_p(M,N)\to J^l_p(M,N)$ がある。0 ジェットは値 $f(p)$ と同じ情報であり、$J^0(M,N)=M\times N$ である。
$U\subset\mathbb{R}^m$ を開集合、$p\in U$ とする。$j^k_pf\mapsto T^k_pf$ は、$J^k_p(U,\mathbb{R}^n)$ から、次数 $k$ 以下の $\mathbb{R}^n$ 値の多項式の全体 $\mathcal{P}^k_{m,n}$ への全単射である。とくに $J^k_p(U,\mathbb{R}^n)$ は次元 $n\binom{m+k}{k}$ の実ベクトル空間とみなせる。
要点:$T^k_pf$ の係数が $\partial^\alpha f(p)/\alpha!$ であることと、多項式 $P$ では $T^k_pP=P$ であること。
$T^k_pf$ の係数は $\partial^\alpha f(p)/\alpha!$ なので、$T^k_pf=T^k_pg$ は $f$ と $g$ が同じ $k$ ジェットをもつことと同じであり、写像は well-defined で単射である。多項式 $P\in\mathcal{P}^k_{m,n}$ について、prf-jt-little-o で見たとおり $\partial^\alpha P(p)$ は $(x-p)^\alpha$ の係数の $\alpha!$ 倍なので、$P$ を $(x-p)$ の冪で展開すれば $T^k_pP=P$ であり、全射である。次数 $k$ 以下の $m$ 変数の単項式の個数は $\binom{m+k}{k}$ である。$\square$
多様体の場合も、座標 $(U,x)$・$(V,y)$ を選べば $J^k_p(M,N)$ の元は終点 $y(f(p))$ と、定数項を除いた Taylor 多項式の組で表される。座標を替えると、表示は合成の Taylor 多項式を $k$ 次で打ち切ったものに変わり、これは係数の多項式で書ける。このことから $J^k(M,N)$ は $m+n+n\bigl(\binom{m+k}{k}-1\bigr)$ 次元の滑らかな多様体になり、$j^k_pf\mapsto(p,f(p))$ は $M\times N$ の上のファイバー束になる(Mic08 21.3(pp. 269–271)、Theorem 21.5(pp. 271–272)。この記事では証明しない)。滑らかな $f\colon M\to N$ について $p\mapsto j^k_pf$ は滑らかな写像 $j^kf\colon M\to J^k(M,N)$ であり、$f$ の $k$ ジェット延長 という。
$N=\mathbb{R}$ の場合を考える。$C^\infty_p$ を $p$ における滑らかな関数の芽の環、$\mathfrak{m}_p:=\{f\in C^\infty_p\mid f(p)=0\}$ をその極大イデアルとする($f\mapsto f(p)$ は全射 $C^\infty_p\to\mathbb{R}$ でその核が $\mathfrak{m}_p$)。芽のジェットは代表のジェットで定まる。$\mathfrak{m}_p^{k+1}$ は、$\mathfrak{m}_p$ の元 $k+1$ 個の積の有限和の全体である。
$k\ge0$ とする。芽 $f\in C^\infty_p$ について、$j^k_pf=0$(零関数のジェット)であることと $f\in\mathfrak{m}_p^{k+1}$ であることは同値である。したがって $f\mapsto j^k_pf$ は $\mathbb{R}$ 線形な同型
$$
C^\infty_p/\mathfrak{m}_p^{k+1}\ \cong\ J^k_p(M,\mathbb{R})
$$
を与え、$J^k_p(M,\mathbb{R})$ は $j^k_pf\cdot j^k_pg:=j^k_p(fg)$ で可換環になる。
$p$ を中心とする座標 $x$($x(p)=0$)をとり、その像に含まれる開球 $B$ の上で考える。$B$ は原点に関して星型である。
$\mathfrak{m}_p^{k+1}$ の元のジェットは $0$. $f_1,\dots,f_{k+1}\in\mathfrak{m}_p$ とする。積の微分を繰り返すと、$\partial^\alpha(f_1\cdots f_{k+1})$ は $\prod_i\partial^{\alpha^{(i)}}f_i$($\alpha^{(1)}+\dots+\alpha^{(k+1)}=\alpha$)の正の整数係数の和である。$|\alpha|\le k$ なら各項で $\alpha^{(i)}=0$ となる $i$ があり、その因子は $f_i(0)=0$ なので、$\partial^\alpha(f_1\cdots f_{k+1})(0)=0$ である。和についても同じである。
Hadamard の補題. $f$ を $B$ 上の滑らかな関数とし、
$$
g_i(x):=\int_0^1\partial_if(tx)\,dt\qquad(i=1,\dots,m)
$$
とおく。積分記号下の微分 の定理「積分記号下の微分(Leibniz の積分法則)」を各変数について繰り返し使うと(偏導関数の $x$ についての連続性は、$B$ に含まれる閉球の上で被積分関数が一様連続であることから、同じ記事の補題「連続性」の証明と同じ議論で従う)$g_i$ は $B$ 上で滑らかで、$\partial^\beta g_i(x)=\int_0^1t^{|\beta|}(\partial^\beta\partial_if)(tx)\,dt$ である。とくに
$$
\partial^\beta g_i(0)=\frac{\partial^{\beta+e_i}f(0)}{|\beta|+1}
$$
である($e_i$ は第 $i$ 成分だけが $1$ の多重指数)。また $\frac{d}{dt}f(tx)=\sum_ix_i\,\partial_if(tx)$(連鎖律)を $0$ から $1$ まで積分して
$$
f(x)=f(0)+\sum_{i=1}^mx_i\,g_i(x)\qquad(x\in B)
$$
を得る。
$j^k_pf=0$ なら $f\in\mathfrak{m}_p^{k+1}$. $k$ についての帰納法で示す。$k=0$ では $f(0)=0$ なので $f=\sum_ix_ig_i$ で、$x_i\in\mathfrak{m}_p$ だから $f\in\mathfrak{m}_p$ である。$k\ge1$ で $j^k_pf=0$ とする。$f(0)=0$ なので $f=\sum_ix_ig_i$ であり、$|\beta|\le k-1$ なら $|\beta+e_i|\le k$ なので $\partial^\beta g_i(0)=0$、すなわち $j^{k-1}_pg_i=0$ である。帰納法の仮定から $g_i\in\mathfrak{m}_p^{k}$ で、$f=\sum_ix_ig_i\in\mathfrak{m}_p^{k+1}$ である。
後半. $f\mapsto j^k_pf$ は線形で(prop-jt-taylor-polynomial の座標での表示で、Taylor 多項式は $f$ について線形)、全射で(多項式の芽をとればよい)、核は前半により $\mathfrak{m}_p^{k+1}$ である。$\mathfrak{m}_p^{k+1}$ はイデアルなので、剰余環の積が $J^k_p(M,\mathbb{R})$ に移る。$\square$
Hadamard の補題は滑らかな関数を「1 次の項 × 滑らかな関数」に割る道具であり、ここでは滑らかさが本質的に使われている(ex-jt-table の 2 行目)。$k=1$ の場合から、余接空間の代数的な記述が出る。
$f\mapsto df_p$ は同型 $\mathfrak{m}_p/\mathfrak{m}_p^2\cong T^*_pM$ を与え、$j^1_pf\mapsto\bigl(f(p),df_p\bigr)$ は同型 $J^1_p(M,\mathbb{R})\cong\mathbb{R}\oplus T^*_pM$ を与える。
要点:$f\in\mathfrak{m}_p$ について $df_p=0$ と $j^1_pf=0$ は同じであり、thm-jt-ideal を $k=1$ で使う。
座標 $x$ で $df_p=\sum_i\partial_if(p)\,dx^i_p$ であり、$dx^1_p,\dots,dx^m_p$ は $T^*_pM$ の基底である(余接空間 の定理「座標微分が双対基底になる」)。よって $f\in\mathfrak{m}_p$ について $df_p=0$ は $j^1_pf=0$ と同じで、thm-jt-ideal により $f\in\mathfrak{m}_p^2$ と同値である。$x^i-x^i(p)\in\mathfrak{m}_p$ の像が $dx^i_p$ なので全射でもある。後半は、$j^1_pf$ が $f(p)$ と $\partial_if(p)$ で決まり、任意の値をとりうることによる。$\square$
代数幾何では、この形を定義にとる。局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の極大イデアル $\mathfrak{m}_x$ について $\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ が余接空間であり(余接空間 の定義「局所環の余接空間」)、$\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_x^{n+1}$ が $n$ ジェットの空間にあたる(主要部分の層 の命題「有理点での値と $n$ ジェット」)。複素多様体の上の正則切断の 1 次のジェットは、小平の埋め込み定理 の補題「ジェットと埋め込み」で使われる。
$E\to M$ を階数 $r$ のベクトル束とする。$p$ の近くで定義された 2 つの滑らかな切断 $s,s'$ が $p$ で 同じ $k$ ジェットをもつ とは、$p$ のまわりの座標と局所枠 $(e_1,\dots,e_r)$ について $s=\sum_bs^be_b$、$s'=\sum_bs'^be_b$ と書いたとき、各 $b$ で成分 $s^b$ と $s'^b$ が $p$ で同じ $k$ ジェットをもつことをいう。枠を替えると成分は滑らかな関数を成分とする正則行列で移り、積の微分の規則から $p$ での $k$ 階までの偏導関数は元の成分の $k$ 階までの偏導関数で決まるので、この条件は座標と枠によらない。$s$ の類を $j^k_ps$ と書く。
座標と局所枠で
$$
(Ds)^a=\sum_{|\alpha|\le k}\sum_{b=1}^rA^a_{\alpha b}(x)\,\partial^\alpha s^b\qquad(a=1,\dots,r')
$$
($A^a_{\alpha b}$ は滑らかな関数)と表される $\mathbb{R}$ 線形写像 $D\colon\Gamma(E)\to\Gamma(E')$ を、$k$ 階以下の線形微分作用素 という($E'$ は階数 $r'$ のベクトル束)。
$D$ を $k$ 階以下の線形微分作用素とすると、各点 $p$ で $(Ds)(p)$ は $j^k_ps$ だけで決まる。すなわち、$\mathbb{R}$ 線形写像 $\sigma_p\colon J^k_p(E)\to E'_p$ があって $(Ds)(p)=\sigma_p(j^k_ps)$ となる($J^k_p(E)$ は $p$ での切断の $k$ ジェットの全体、$E'_p$ は $p$ のファイバー)。
上の局所表示の右辺の $p$ での値は、$\partial^\alpha s^b(p)$($|\alpha|\le k$)の線形結合であり、これらは $j^k_ps$ で決まる。$\sigma_p$ を「$j^k_ps$ の代表 $s$ をとって $(Ds)(p)$ を返す写像」と定めれば、この値は代表によらず、線形である。$\square$
たとえば外微分 $d\colon\Omega^q(M)\to\Omega^{q+1}(M)$ は 1 階の微分作用素で、$(d\omega)_p$ は $\omega$ の $p$ での 1 ジェットで決まる。一方 $(d\omega)_p$ は $\omega_p$(0 ジェット)だけでは決まらない(外微分 の例「反例:外微分は関数線型でない」)。$k$ 階の偏微分方程式は、未知関数の $k$ ジェットについての方程式、すなわちジェットの空間の部分集合とみなせる。
cor-jt-cotangent により、関数の 1 ジェットの全体は $J^1(M,\mathbb{R})\cong\mathbb{R}\times T^*M$ と表せる。点 $p$ での 1 ジェット $j^1_pf$ は、$(p,\,f(p),\,df_p)$ に対応する。$M$ の座標 $(x^1,\dots,x^m)$ と、$\mathbb{R}$ の座標 $z$、余接ベクトルを $\sum_i\xi_i\,dx^i$ と書いて得られる座標 $\xi_i$ をあわせて、$J^1(M,\mathbb{R})$ の座標 $(x,z,\xi)$ を得る。$T^*M$ の標準 1 形式 $\lambda$(シンプレクティック多様体 の命題「余接束の標準シンプレクティック形式」。座標では $\lambda=\sum_i\xi_i\,dx^i$)を使い、
$$
\theta:=dz-\lambda=dz-\sum_{i=1}^m\xi_i\,dx^i
$$
とおく。$\theta$ は接触形式であり(接触多様体 の例「1 ジェット空間」)、座標によらずに定まる。$J^1(M,\mathbb{R})\to M$ の滑らかな切断 $\sigma$ は、関数 $z_\sigma$ と 1 次形式 $\alpha_\sigma$ の組 $\sigma(p)=\bigl(p,\,z_\sigma(p),\,(\alpha_\sigma)_p\bigr)$ と同じものである。
$U\subset M$ を開集合、$\sigma$ を $U$ の上の $J^1(M,\mathbb{R})$ の滑らかな切断とする。$\sigma=j^1f$ となる滑らかな関数 $f\colon U\to\mathbb{R}$ があることと、$\sigma^*\theta=0$ であることは同値である。このとき $f=z_\sigma$ である。
座標で $\alpha_\sigma=\sum_ia_i\,dx^i$ と書くと、$\sigma$ は $x\mapsto\bigl(x,z_\sigma(x),a_1(x),\dots,a_m(x)\bigr)$ であり、引き戻しの定義から $\sigma^*dz=dz_\sigma$、$\sigma^*(\xi_i\,dx^i)=a_i\,dx^i$ である。よって
$$
\sigma^*\theta=dz_\sigma-\sum_ia_i\,dx^i=dz_\sigma-\alpha_\sigma
$$
である。$\sigma^*\theta=0$ なら $\alpha_\sigma=dz_\sigma$ で、$\sigma(p)=(p,z_\sigma(p),(dz_\sigma)_p)=j^1_pz_\sigma$、すなわち $\sigma=j^1z_\sigma$ である。逆に $\sigma=j^1f$ なら $z_\sigma=f$、$\alpha_\sigma=df$ なので $\sigma^*\theta=df-df=0$ である。$\square$
この命題は Lee13 Proposition 22.37(p. 590。同書では証明は演習 22.38)である。$\sigma^*\theta=0$ は、$\sigma$ の像が接触構造に接していること(Legendre 部分多様体であること)を言っている(接触多様体 の定理「接触構造に接する部分多様体」)。1 階の偏微分方程式 $F(x,u,du)=0$ は $J^1(M,\mathbb{R})$ の関数 $F$ の零点集合として表され、解は 1 ジェットがその零点集合に入る関数である(Lee13 p. 590)。
$M=N=\mathbb{R}$、$p=0$ とする。$j^k_0f$ は $\bigl(f(0),f'(0),\dots,f^{(k)}(0)\bigr)$ と同じ情報であり、thm-jt-ideal の環の構造は $\mathbb{R}[t]/(t^{k+1})$ である(Taylor 多項式を掛けて $t^{k+1}$ 以上の項を捨てる)。合成についても、$f(0)=0$ のとき
$$
(g\circ f)'(0)=g'(0)f'(0),\qquad(g\circ f)''(0)=g''(0)f'(0)^2+g'(0)f''(0)
$$
なので、$j^2_0(g\circ f)$ は $j^2_0f$ と $j^2_{0}g$ だけで決まる(prop-jt-composition の具体例)。たとえば $f(t)=t+t^2$、$g(s)=\sin s$ なら $(g\circ f)''(0)=0\cdot1+1\cdot2=2$ であり、$\sin(t+t^2)=t+t^2-\frac{t^3}6+\dots$ の $t^2$ の係数 $1$ の $2!$ 倍に合う。
$f(t)=t^{k+1}$ と零関数は $0$ で同じ $k$ ジェットをもつが、芽は異なる。さらに
$$
h(t):=\begin{cases}e^{-1/t^2}&(t>0)\\0&(t\le0)\end{cases}
$$
は滑らかで、すべての $k$ について $j^k_0h=j^k_00$ だが、$h$ の $0$ での芽は $0$ でない(芽 の例「全ての導関数が零でも非零の芽」)。$0$ の近くで Taylor 級数が収束して関数に等しい関数(実解析的な関数)では、すべての $k$ のジェットが芽を決めるが、滑らかな関数ではそうならない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $f,g$ が $C^k$ 級(lem-jt-little-o の 2 ⇒ 1) | $k=2$、$h(t)=t^3\sin(1/t)$($h(0)=0$)と零関数 | 差が $o(\lvert t\rvert^2)$ なら $2$ 階までの微分係数が一致する |
| 芽が滑らか(thm-jt-ideal) | $C^1$ 級の芽の環で $k=1$、$f(t)=\lvert t\rvert^{3/2}$ | 1 ジェットが $0$ の芽は $\mathfrak{m}_0^2$ に属する |
| 関数が実解析的(すべてのジェットが芽を決める) | ex-jt-germ の $h$ と零関数 | すべての $k$ でジェットが一致する 2 つの関数の芽は等しい |
| $D$ の階数が $k$ 以下(prop-jt-differential-operator) | $D=d^{k+1}/dt^{k+1}$、$s=t^{k+1}$ と $s'=0$、$p=0$ | $(Ds)(p)$ は $j^k_ps$ だけで決まる |
1 行目:$h(t)=o(t^2)$ だが $h''(0)$ が存在しない。2 行目:$C^1$ 級の芽の環では $\mathfrak{m}_0^2$ の元が $O(t^2)$ なのに $|t|^{3/2}$ はそうでない。3 行目は ex-jt-germ、4 行目は $(Ds)(0)=(k+1)!\ne0$ による。
1 行目:$|h(t)|\le|t|^3$ なので $h(t)=o(t^2)$ である。$h'(0)=\lim_{t\to0}t^2\sin(1/t)=0$、$t\ne0$ で $h'(t)=3t^2\sin(1/t)-t\cos(1/t)$ であり、$h'$ は連続で $h$ は $C^1$ 級である。しかし $h'(t)/t=3t\sin(1/t)-\cos(1/t)$ は $t\to0$ で収束しないので、$h''(0)$ は存在しない。$h$ は $C^2$ 級でなく、2 階の微分係数の一致を述べることができない。
2 行目:$f$ は $C^1$ 級で $f(0)=f'(0)=0$ である($t\ne0$ で $f'(t)=\frac32\operatorname{sgn}(t)|t|^{1/2}$)。$C^1$ 級の芽 $u,v$ が $u(0)=v(0)=0$ を満たせば、平均値の定理から $0$ の近くで $|u(t)|\le C|t|$、$|v(t)|\le C|t|$ なので $|u(t)v(t)|\le C^2t^2$ である。よって $C^1$ 級の芽の環の $\mathfrak{m}_0^2$ の元 $g$ はある定数 $C'$ について $|g(t)|\le C't^2$ を満たすが、$|t|^{3/2}/t^2\to\infty$ なので $f$ はこの形にならない。
3 行目:$h$ は滑らかだが、$t>0$ で $h>0$ なので Taylor 級数(恒等的に $0$)は $0$ のどの近傍でも $h$ に等しくない。
4 行目:$j^k_0s=j^k_0s'$($t^{k+1}$ の $k$ 階までの微分係数は $0$)だが、$(Ds)(0)=(k+1)!\ne0=(Ds')(0)$ である。$D$ は $k+1$ 階の微分作用素である。
微分位相幾何学では、写像そのものではなくジェット延長 $j^kf$ が $J^k(M,N)$ の部分多様体に横断的になるように $f$ を動かせる、というジェットの横断性定理がある(横断性定理)。微分作用素は各点で切断のジェットの線形写像として表され(prop-jt-differential-operator)、代数幾何ではこれを主要部分の層 $\mathcal{P}^n$ からの準同型として定義する(微分作用素・主要部分の層)。ジェットの考え方は C. Ehresmann による(Mic08 §21 の冒頭、p. 268)。
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