$w=1/z$ による図形の変換(images of circles and lines under $w=1/z$)とは、複素数平面の $0$ でない点 $z$ を $\frac1z$ に移したとき、円や直線がどんな図形に移るかという話題である。$\frac1z$ は絶対値を逆数に、偏角を符号の反対にする写像で、単位円に関する反転と実軸に関する折り返しを続けたものである。円と直線はどちらも $Az\overline z+\overline Bz+B\overline z+C=0$($A,C$ は実数、$|B|^2>AC$)と書け、$z=\frac1w$ を代入すると $A$ と $C$ が入れかわる。このため、原点を通らない円は原点を通らない円に、原点を通る円は原点を通らない直線に、原点を通らない直線は原点を通る円(原点を除く)に、原点を通る直線は原点を通る直線(原点を除く)に移る。
複素数平面の点 $z$($z\ne0$)に、点 $w=\frac1z$ を対応させる。この対応で、図形がどんな図形に移るかを調べるのがこの記事の主題である。まず、直線の上の点をいくつか移してみる。
実部が $1$ の点 $z=1+ti$($t$ は実数)を、$w=\frac1z$ で移す。分母の共役 $1-ti$ を分子と分母に掛けると
$$
\frac1{1+ti}=\frac{1-ti}{(1+ti)(1-ti)}=\frac{1-ti}{1+t^2}
$$
である。$t$ にいくつか値を入れる。
| $z$ | $1$ | $1+i$ | $1-i$ | $1+2i$ | $1-2i$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $w=\frac1z$ | $1$ | $\frac{1-i}2$ | $\frac{1+i}2$ | $\frac{1-2i}5$ | $\frac{1+2i}5$ |
| $\bigl\lvert w-\frac12\bigr\rvert$ | $\frac12$ | $\frac12$ | $\frac12$ | $\frac12$ | $\frac12$ |
たとえば $w=\frac{1-2i}5$ では $w-\frac12=\frac{2-4i-5}{10}=\frac{-3-4i}{10}$ なので、$\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac{\sqrt{9+16}}{10}=\frac5{10}=\frac12$ である。移した点は、どれも中心 $\frac12$、半径 $\frac12$ の円の上にある。直線が円に移ったように見える。
次に、円の上の点を移してみる。
中心 $2$、半径 $1$ の円の上の点 $1$、$3$、$2+i$、$2-i$ を移す。
$$
\frac11=1,\qquad \frac13,\qquad \frac1{2+i}=\frac{2-i}{(2+i)(2-i)}=\frac{2-i}5,\qquad \frac1{2-i}=\frac{2+i}5
$$
である。実軸の上の 2 点 $1$ と $\frac13$ を直径の両端とする円は、中心 $\frac12\bigl(1+\frac13\bigr)=\frac23$、半径 $\frac13$ である。$\frac{2-i}5$ について確かめると
$$
\frac{2-i}5-\frac23=\frac{6-3i-10}{15}=\frac{-4-3i}{15},\qquad\Bigl|\frac{-4-3i}{15}\Bigr|=\frac{\sqrt{16+9}}{15}=\frac5{15}=\frac13
$$
で、確かにこの円の上にある。$\frac{2+i}5$ も同じ計算で円の上にある。円が円に移ったように見える。ただし、もとの円の中心 $2$ は $\frac12$ に移り、像の円の中心 $\frac23$ には移らない(ex-ibr-center)。
左の $z$ 平面の直線 $\mathrm{Re}\,z=1$(青)と円 $|z-2|=1$(橙)を $w=\frac1z$ で移すと、右の $w$ 平面の円 $|w-\frac12|=\frac12$ と円 $|w-\frac23|=\frac13$ になることを見る図。点は例で計算した点、白丸の $0$ は像に入らない点である。
この 2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $\frac1z=\frac{\overline z}{\lvert z\rvert^2}$、分母の共役を掛ける | 絶対値は逆数、偏角は符号が反対 | prop-ibr-polar |
| $z=\frac1w$ を代入して $w$ の式を作る | $\frac1z$ は自分自身が逆写像 | prop-ibr-involution |
| 円 $\lvert z-\alpha\rvert=r$、直線 $ax+by=c$ | どちらも $Az\overline z+\overline Bz+B\overline z+C=0$ の形 | lem-ibr-cline |
| 像が円になるか直線になるか | 式の係数 $A$ と $C$ が入れかわる | thm-ibr-main |
| $\lvert w-\beta\rvert=k\lvert w\rvert$ の形にする | Apollonius の円・垂直二等分線 | prf-ibr-hs |
$0$ でない複素数 $z$ に複素数 $w=\frac1z$ を対応させる規則を、写像 $w=\frac1z$ という。複素数平面の図形 $F$ について、$F$ の $0$ でない点 $z$ を移した点 $\frac1z$ 全体を、$F$ の像という。
$z=0$ には対応する点がないので、原点は移す対象から除く。また、$\frac1z=0$ となる $z$ はないので、像に原点が入ることはない。
$z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$($r>0$)とすると
$$
\frac1z=\frac1r\bigl(\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\bigr)=\frac{\overline z}{|z|^2}
$$
である。つまり $\frac1z$ は、絶対値が $\frac1{|z|}$、偏角が $-\theta$ の点である。
方針:右辺の数を $z$ に掛けて $1$ になることを示す。逆数はただ 1 つなので、それが $\frac1z$ である。
段 1(極形式の積)。$u=\frac1r\bigl(\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\bigr)$ とおく。極形式の積の公式(絶対値は掛け、偏角は足す)から
$$
zu=r\cdot\frac1r\bigl(\cos(\theta+(-\theta))+i\sin(\theta+(-\theta))\bigr)=1\cdot(\cos0+i\sin0)=1
$$
である。よって $u=\frac1z$ である。
段 2(共役を使った形)。$\cos(-\theta)=\cos\theta$、$\sin(-\theta)=-\sin\theta$ なので
$$
u=\frac1r(\cos\theta-i\sin\theta)=\frac{r(\cos\theta-i\sin\theta)}{r^2}=\frac{\overline z}{|z|^2}
$$
である。$z\overline z=|z|^2$ を使って $z\cdot\frac{\overline z}{|z|^2}=1$ と直接確かめることもできる。$\square$
prop-ibr-polar から、$\frac1z$ は 2 つの動きに分けられる。
点 $z$ を単位円に関して反転して $\frac{z}{|z|^2}$ に移し、さらに実軸で折り返すと $\frac1z$ になることを見る図。
方針:像の定義を式で書き、1 を使って $z$ を $w$ で表す。
段 1。$z\ne0$ なら $\frac1z\cdot z=1$ なので、$\frac1z$ の逆数は $z$ である。これが 1 である。
段 2($\Rightarrow$)。$w\in F'$ とする。像の定義から、$F$ の $0$ でない点 $z$ で $w=\frac1z$ となるものがある。1 により $\frac1w=\frac1{1/z}=z\in F$ である。
段 3($\Leftarrow$)。$w\ne0$ かつ $\frac1w\in F$ とする。$z=\frac1w$ とおくと $z\ne0$、$z\in F$ で、1 により $\frac1z=w$ である。像の定義から $w\in F'$ である。$\square$
2 が、高校で「$w=\frac1z$ から $z=\frac1w$ として、$z$ の満たす式に代入する」とする計算の根拠である。像を求めるには、$F$ を表す式の $z$ に $\frac1w$ を入れ、$w\ne0$ を付け加えればよい。
$\frac1z$ で円が直線に、直線が円に移ることがあるので、円と直線をまとめて扱える式があると便利である。$z=x+yi$ のとき
$$
x=\frac{z+\overline z}2,\qquad y=\frac{z-\overline z}{2i},\qquad x^2+y^2=z\overline z
$$
であることを使う。
$A$、$C$ を実数、$B$ を複素数とし、$|B|^2>AC$ とする。方程式
$$
Az\overline z+\overline Bz+B\overline z+C=0\qquad(\ast)
$$
を満たす点 $z$ 全体は、$A\ne0$ なら中心 $-\frac BA$、半径 $\frac{\sqrt{|B|^2-AC}}{|A|}$ の円であり、$A=0$ なら直線である。逆に、複素数平面のどの円もどの直線も、この形の方程式で表せる。さらに、図形が原点を通るのは $C=0$ のとき、そのときに限る。
方針:$A\ne0$ のときは $z$ について平方完成し、$A=0$ のときは $x$、$y$ の式に直す。逆向きは、円と直線の方程式を展開して $(\ast)$ の形にする。
段 1($A\ne0$ なら円)。$(\ast)$ を $A$ で割る。$A$ は実数なので $\overline{\bigl(\frac BA\bigr)}=\frac{\overline B}A$ であり、
$$
\Bigl(z+\frac BA\Bigr)\Bigl(\overline z+\frac{\overline B}A\Bigr)=z\overline z+\frac{\overline B}Az+\frac BA\overline z+\frac{|B|^2}{A^2}
$$
である。よって $(\ast)$ は
$$
\Bigl|z+\frac BA\Bigr|^2=\frac{|B|^2}{A^2}-\frac CA=\frac{|B|^2-AC}{A^2}
$$
と同値である。右辺は正なので、これは中心 $-\frac BA$、半径 $\frac{\sqrt{|B|^2-AC}}{|A|}$ の円である。
段 2($A=0$ なら直線)。$|B|^2>0$ なので $B\ne0$ である。$B=\frac{a+bi}2$($a$、$b$ は実数で、少なくとも一方は $0$ でない)と書くと
$$
\overline Bz+B\overline z=\frac{a-bi}2(x+yi)+\frac{a+bi}2(x-yi)=\frac{2ax+2by}2=ax+by
$$
である($\overline Bz$ と $B\overline z$ は互いに共役なので、和は $\overline Bz$ の実部の 2 倍になる)。よって $(\ast)$ は直線 $ax+by+C=0$ である。
段 3(円は $(\ast)$ の形)。中心 $\alpha$、半径 $\rho>0$ の円 $|z-\alpha|=\rho$ は、両辺を 2 乗して $(z-\alpha)(\overline z-\overline\alpha)=\rho^2$、展開して
$$
z\overline z-\overline\alpha z-\alpha\overline z+|\alpha|^2-\rho^2=0
$$
である。$A=1$、$B=-\alpha$、$C=|\alpha|^2-\rho^2$ とすれば $(\ast)$ の形で、$|B|^2-AC=|\alpha|^2-(|\alpha|^2-\rho^2)=\rho^2>0$ である。
段 4(直線は $(\ast)$ の形)。直線 $ax+by=c$($a$、$b$ の少なくとも一方は $0$ でない)は、段 2 の計算を逆にたどって、$A=0$、$B=\frac{a+bi}2$、$C=-c$ の $(\ast)$ になる。$|B|^2=\frac{a^2+b^2}4>0=AC$ である。
段 5(原点を通る条件)。$(\ast)$ に $z=0$ を入れると、左辺は $C$ になる。よって原点が図形の上にあるのは $C=0$ のとき、そのときに限る。$\square$
$(\ast)$ の表す円または直線を $F$ とする。$F$ の像(def-ibr-map)は、方程式
$$
Cw\overline w+Bw+\overline B\,\overline w+A=0\qquad(\ast\ast)
$$
の表す図形から原点を除いたものである。$(\ast\ast)$ は $(\ast)$ で $A$ と $C$ を入れかえ、$B$ を $\overline B$ に替えた式で、$|\overline B|^2>CA$ を満たす。したがって、次の 4 つが成り立つ。
方針:prop-ibr-involution により、像は「$\frac1w$ が $(\ast)$ を満たす $0$ でない $w$」全体である。$(\ast)$ に $z=\frac1w$ を代入し、$w\overline w$ を掛けて分母を払う。
段 1(代入)。$w\ne0$ とする。$z=\frac1w$ なら $\overline z=\frac1{\overline w}$、$z\overline z=\frac1{w\overline w}$ である。$\frac1w\in F$ は
$$
\frac A{w\overline w}+\frac{\overline B}w+\frac B{\overline w}+C=0
$$
と同値である。
段 2(分母を払う)。$w\ne0$ なので $w\overline w=|w|^2>0$ で、両辺に $w\overline w$ を掛けても掛けなくても同値である。掛けると $\frac{w\overline w}w=\overline w$、$\frac{w\overline w}{\overline w}=w$ なので
$$
A+\overline B\,\overline w+Bw+Cw\overline w=0
$$
となる。並べかえると $(\ast\ast)$ である。よって、像は $(\ast\ast)$ の表す図形から原点を除いたものである(像に原点が入らないことは def-ibr-map の後で見た)。
段 3($(\ast\ast)$ も円か直線)。$(\ast\ast)$ を $(\ast)$ と見比べると、$A$ の位置に $C$、$\overline B$ の位置に $B$(つまり $B$ の位置に $\overline B$)、$C$ の位置に $A$ がある。条件 $|\overline B|^2-CA=|B|^2-AC>0$ も満たすので、lem-ibr-cline により $(\ast\ast)$ は円か直線を表す。
段 4(4 つの場合)。lem-ibr-cline により、$(\ast\ast)$ は 2 次の係数 $C$ が $0$ でなければ円、$0$ なら直線で、定数項 $A$ が $0$ なら原点を通る。
1 と 2 では、$(\ast\ast)$ の図形は原点を通らないので、「原点を除く」は何も除かない。3 と 4 では、原点だけが像から抜ける。原点に移るはずの点は、もとの直線を無限に遠くまでたどった先にある(rem-ibr-sphere)。
ex-ibr-cline の式を使う。
4 つの場合を並べた図。青が元の図形、赤の破線が $w=\frac1z$ による像、点線は単位円である。原点を通るかどうかで、円になるか直線になるかが決まる。
高校では、lem-ibr-cline の一般形を使わず、絶対値の式のまま処理することが多い。同じ問題を 2 通りに見る。
点 $z$ が円 $|z-1|=1$ の上を、原点を除いて動くとき、$w=\frac1z$ の描く図形を求めよ。また、円 $|z-2|=1$ についても同じ方法で求めよ。
方針:prop-ibr-involution により $z=\frac1w$ を代入し、分母の $|w|$ を払って「2 点からの距離の比」の式にする。
段 1(円 $|z-1|=1$)。$w\ne0$ で $\bigl|\frac1w-1\bigr|=1$ となる $w$ を求めればよい。$\frac1w-1=\frac{1-w}w$ なので、両辺に $|w|$ を掛けて
$$
|1-w|=|w|
$$
を得る。これは、$w$ から点 $1$ までの距離と点 $0$ までの距離が等しいことを表すので、$w$ は $0$ と $1$ を結ぶ線分の垂直二等分線、すなわち直線 $\mathrm{Re}\,w=\frac12$ の上にある。逆にこの直線の上の点は $w\ne0$ で、式を逆にたどれば $\frac1w$ が円の上にある。答えは直線 $\mathrm{Re}\,w=\frac12$ である。点で確かめると、円の上の $2$、$1+i$、$1-i$ は $\frac12$、$\frac{1-i}2$、$\frac{1+i}2$ に移り、どれも実部が $\frac12$ である。
段 2(円 $|z-2|=1$)。同じく $\bigl|\frac1w-2\bigr|=1$ から $|1-2w|=|w|$、左辺を $|2|\cdot\bigl|\frac12-w\bigr|$ と書いて
$$
\Bigl|w-\frac12\Bigr|=\frac12|w|
$$
を得る。$w$ から $\frac12$ までの距離が、$0$ までの距離の $\frac12$ 倍である。比が $1$ でないので、これは Apollonius の円である。$w=u+vi$ として 2 乗すると $\bigl(u-\frac12\bigr)^2+v^2=\frac14(u^2+v^2)$、整理して $\frac34u^2-u+\frac34v^2+\frac14=0$、$\frac43$ を掛けて $u^2-\frac43u+v^2+\frac13=0$、平方完成して $\bigl(u-\frac23\bigr)^2+v^2=\frac19$ である。ex-ibr-main の 1 と同じ円 $\bigl|w-\frac23\bigr|=\frac13$ になる。
段 3(一般の円)。中心 $\alpha$、半径 $\rho>0$ の円 $|z-\alpha|=\rho$ を考える。まず $\alpha\ne0$ とする($|\alpha|$ で割るためにこの仮定を使う。$\alpha=0$ の場合は最後に扱う)。同じように、$\bigl|\frac1w-\alpha\bigr|=\rho$ から $|1-\alpha w|=\rho|w|$、$|\alpha|$ で割って
$$
\Bigl|w-\frac1\alpha\Bigr|=\frac\rho{|\alpha|}\,|w|
$$
となる。円が原点を通る($|\alpha|=\rho$)なら比は $1$ で、像は $0$ と $\frac1\alpha$ の垂直二等分線である。原点を通らない($|\alpha|\ne\rho$)なら比は $1$ でなく、像は Apollonius の円である(比が $1$ でない Apollonius の円が円になることは 複素数平面と図形 で示した)。
最後に $\alpha=0$ の円、すなわち原点を中心とする円 $|z|=\rho$ を考える。$\bigl|\frac1w\bigr|=\rho$ は $\frac1{|w|}=\rho$、すなわち $|w|=\frac1\rho$ と同値なので、像は原点を中心とする半径 $\frac1\rho$ の円である。この円は原点を通らないので、原点を通らない円の場合に入る。$\square$
段 3 は、主定理の 1 と 2 を高校の道具(垂直二等分線と Apollonius の円)だけで示している。垂直二等分線と Apollonius の円の式は 複素数平面と図形 で扱う。大学数学では、次の 2 つの見方でこの計算がまとまる。
主定理の結論や、よくある思い込みのどれかを変えると、次のように崩れる。
| 外した仮定・思い込み | 崩れること | ボックス |
|---|---|---|
| 像に原点も入ると考える | 直線の像は円から原点を除いたもので、円全体ではない | ex-ibr-missing-point |
| 円の中心は像の円の中心に移ると考える | 中心は中心に移らない | ex-ibr-center |
| $\frac1z$ を別の式($z^2$)に替える | 直線が円にも直線にも移らない | ex-ibr-square |
| 円の内側は像の円の内側に移ると考える | 原点を含む側と含まない側で入れかわることがある | ex-ibr-region |
直線 $\mathrm{Re}\,z=1$ の像は、ex-ibr-main の 3 のとおり円 $\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac12$ から原点を除いたものである。原点 $w=0$ はこの円の上にあるが、$\frac1z=0$ となる $z$ はないので、像には入らない。直線の上の点 $1+ti$ の像 $\frac{1-ti}{1+t^2}$ は、$t$ を大きくすると絶対値 $\frac{\sqrt{1+t^2}}{1+t^2}=\frac1{\sqrt{1+t^2}}$ が $0$ に近づくが、$0$ にはならない。答えを「円 $\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac12$」とだけ書くと、原点の分だけ誤りである。
同じように、原点を通る円 $|z-i|=1$ では、原点そのものは $\frac1z$ で移せないので、移す対象から除かれる。像の直線 $\mathrm{Im}\,w=-\frac12$ は、残りの点の像でちょうど埋まる。
円 $|z-2|=1$ の中心 $2$ は $\frac12$ に移る。しかし像の円 $\bigl|w-\frac23\bigr|=\frac13$ の中心は $\frac23$ で、$\frac12\ne\frac23$ である。点 $\frac12$ は像の円の内側にあるが($\bigl|\frac12-\frac23\bigr|=\frac16<\frac13$)、中心ではない。
像の円を求めるには、中心を移すのでなく、円の上の点を移すか(ex-ibr-start-circle のように直径の両端 $1$ と $3$ を移して $1$ と $\frac13$ を得る)、thm-ibr-main の式を使う。$\frac1z$ は長さの比を場所によって変える写像なので、「中心からの距離が等しい」という性質は保たれない。
$w=z^2$ で直線 $\mathrm{Re}\,z=1$ の点 $z=1+ti$ を移すと、$w=(1+ti)^2=1-t^2+2ti$ である。$t=0,1,-1,2$ で $w=1$、$2i$、$-2i$、$-3+4i$ となる。
3 点 $1$、$2i$、$-2i$ は一直線上にないので、像は直線ではない。この 3 点を通る円は、実軸に関して対称なので中心 $c$ は実数で、$|1-c|=|2i-c|$ から $(1-c)^2=c^2+4$、すなわち $c=-\frac32$、半径 $\frac52$ である。ところが $|-3+4i-(-\frac32)|=\bigl|-\frac32+4i\bigr|=\sqrt{\frac94+16}=\frac{\sqrt{73}}2\ne\frac52$ なので、4 点目はこの円の上にない。よって像は円でもない。実際、$w=u+vi$ とすると $u=1-t^2$、$v=2t$ から $u=1-\frac{v^2}4$ で、像は放物線である。円と直線を円と直線に移すのは、$\frac1z$ や 1 次式 $az+b$ のような特別な写像に限られ、どんな写像でも成り立つわけではない。
中心 $\mathrm{O}$、半径 $R$ の円に関する反転とは、$\mathrm{O}$ 以外の点 $\mathrm{P}$ を、半直線 $\mathrm{OP}$ の上で $\mathrm{OP}\cdot\mathrm{OP'}=R^2$ を満たす点 $\mathrm{P'}$ に移す写像である。prop-ibr-polar の後で見たように、$\frac1z$ は単位円に関する反転 $z\mapsto\frac z{|z|^2}=\frac1{\overline z}$ と、実軸に関する折り返し(共役)を続けたものである(Hit18 例 3.2.1)。
折り返しは円を円に、直線を直線に移す。したがって thm-ibr-main は、「反転は、反転の中心を通らない円を円に、中心を通る円を直線に移す」という反転の基本定理(Hit18 定理 3.2.6)と同じ内容である。反転そのものは初等幾何で 円に関する反転 として扱う。反転は角の大きさを保つ(Hit18 定理 3.2.10)。$\frac1z$ は向きを逆にする操作を 2 回続けたものなので、角の大きさだけでなく向きも保つ。
平面に無限遠点 $\infty$ を 1 つ加え、$\frac10=\infty$、$\frac1\infty=0$ と約束すると、$\frac1z$ は $0$ を含むすべての点を移す 1 対 1 の対応になる(Hit18 §3.3)。
この平面は、立体射影によって球面と同一視できる。単位球面の北極 $(0,0,1)$ と球面上の点を結ぶ直線が平面 $Z=0$ と交わる点を対応させると、平面の点 $x+yi$ には球面上の点
$$
\Bigl(\frac{2x}{x^2+y^2+1},\ \frac{2y}{x^2+y^2+1},\ \frac{x^2+y^2-1}{x^2+y^2+1}\Bigr)
$$
が対応し、北極が $\infty$ に対応する。これを Riemann 球面 という。この対応で、$\frac1z$ は球面を実軸($X$ 軸)のまわりに $180^\circ$ 回す回転 $(X,Y,Z)\mapsto(X,-Y,-Z)$ になる。たとえば $z=2$ は $\bigl(\frac45,0,\frac35\bigr)$ に対応し、$\frac1z=\frac12$ は $\bigl(\frac45,0,-\frac35\bigr)$ に対応する。$z=i$ は $(0,1,0)$、$\frac1i=-i$ は $(0,-1,0)$ に対応する。
立体射影は、球面上の円を平面の円または直線に移す(北極を通る円が直線になる)ことが知られている(本記事では証明しない)。球面の回転は球面上の円を円に移すので、主定理は「円が回転で円に移る」ことを平面に写したものと見える。原点を通る円が直線に移るのは、その円の球面上の姿が南極 $(0,0,-1)$ を通り、回転で北極を通る円に移るからである。詳しくは Riemann球面 と 立体射影 で扱う。
$c\ne0$、$ad-bc\ne0$ のとき
$$
\frac{az+b}{cz+d}=\frac ac-\frac{ad-bc}c\cdot\frac1{cz+d}
$$
と変形できる。右辺は「$z\mapsto cz+d$(回転・拡大と平行移動)」「$\frac1{\,\cdot\,}$」「$-\frac{ad-bc}c$ を掛ける(回転と拡大)」「$\frac ac$ を足す(平行移動)」を続けたものである。回転・拡大・平行移動は円を円に、直線を直線に移し、$\frac1z$ は主定理により円と直線を円と直線に移すので、1 次分数変換も円と直線を円と直線に移す(Hit18 定理 3.4.5)。$\frac1z$ はこの一族の中で、円と直線を入れかえうるただ 1 つの部品である。高校数学での扱いは 1次分数変換(高校数学) で述べる。
$w=\frac{z+1}{z-1}$($a=1$、$b=1$、$c=1$、$d=-1$、$ad-bc=-2\ne0$)では、公式は $\frac{z+1}{z-1}=1+\frac2{z-1}$ となる。右辺を通分すると $\frac{(z-1)+2}{z-1}=\frac{z+1}{z-1}$ で一致する。$z=i$ では左辺 $\frac{1+i}{-1+i}=\frac{(1+i)(-1-i)}{(-1+i)(-1-i)}=\frac{-2i}{2}=-i$、右辺 $1+\frac2{-1+i}=1+\frac{2(-1-i)}{2}=1-1-i=-i$ である。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する