w=1/z による図形の変換

同義語:images of circles and lines under w=1/z

概要

$w=1/z$ による図形の変換(images of circles and lines under $w=1/z$)とは、複素数平面の $0$ でない点 $z$ を $\frac1z$ に移したとき、円や直線がどんな図形に移るかという話題である。$\frac1z$ は絶対値を逆数に、偏角を符号の反対にする写像で、単位円に関する反転と実軸に関する折り返しを続けたものである。円と直線はどちらも $Az\overline z+\overline Bz+B\overline z+C=0$($A,C$ は実数、$|B|^2>AC$)と書け、$z=\frac1w$ を代入すると $A$ と $C$ が入れかわる。このため、原点を通らない円は原点を通らない円に、原点を通る円は原点を通らない直線に、原点を通らない直線は原点を通る円(原点を除く)に、原点を通る直線は原点を通る直線(原点を除く)に移る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素数, 共役複素数, 極形式, 円の方程式

高校での出発点:点を $\frac1z$ で移してみる

複素数平面の点 $z$($z\ne0$)に、点 $w=\frac1z$ を対応させる。この対応で、図形がどんな図形に移るかを調べるのがこの記事の主題である。まず、直線の上の点をいくつか移してみる。

直線 $\mathrm{Re}\, z=1$ の上の点を移す

実部が $1$ の点 $z=1+ti$($t$ は実数)を、$w=\frac1z$ で移す。分母の共役 $1-ti$ を分子と分母に掛けると
$$ \frac1{1+ti}=\frac{1-ti}{(1+ti)(1-ti)}=\frac{1-ti}{1+t^2} $$
である。$t$ にいくつか値を入れる。

$z$$1$$1+i$$1-i$$1+2i$$1-2i$
$w=\frac1z$$1$$\frac{1-i}2$$\frac{1+i}2$$\frac{1-2i}5$$\frac{1+2i}5$
$\bigl\lvert w-\frac12\bigr\rvert$$\frac12$$\frac12$$\frac12$$\frac12$$\frac12$

たとえば $w=\frac{1-2i}5$ では $w-\frac12=\frac{2-4i-5}{10}=\frac{-3-4i}{10}$ なので、$\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac{\sqrt{9+16}}{10}=\frac5{10}=\frac12$ である。移した点は、どれも中心 $\frac12$、半径 $\frac12$ の円の上にある。直線が円に移ったように見える。

次に、円の上の点を移してみる。

円 $\lvert z-2\rvert=1$ の上の点を移す

中心 $2$、半径 $1$ の円の上の点 $1$、$3$、$2+i$、$2-i$ を移す。
$$ \frac11=1,\qquad \frac13,\qquad \frac1{2+i}=\frac{2-i}{(2+i)(2-i)}=\frac{2-i}5,\qquad \frac1{2-i}=\frac{2+i}5 $$
である。実軸の上の 2 点 $1$ と $\frac13$ を直径の両端とする円は、中心 $\frac12\bigl(1+\frac13\bigr)=\frac23$、半径 $\frac13$ である。$\frac{2-i}5$ について確かめると
$$ \frac{2-i}5-\frac23=\frac{6-3i-10}{15}=\frac{-4-3i}{15},\qquad\Bigl|\frac{-4-3i}{15}\Bigr|=\frac{\sqrt{16+9}}{15}=\frac5{15}=\frac13 $$
で、確かにこの円の上にある。$\frac{2+i}5$ も同じ計算で円の上にある。円が円に移ったように見える。ただし、もとの円の中心 $2$ は $\frac12$ に移り、像の円の中心 $\frac23$ には移らない(ex-ibr-center)。

左の !FORMULA[53][38414][0] 平面の直線 !FORMULA[54][370990800][0](青)と円 !FORMULA[55][-1339192997][0](橙)を !FORMULA[56][55578139][0] で移すと、右の !FORMULA[57][38321][0] 平面の円 !FORMULA[58][949263959][0] と円 !FORMULA[59][-718604650][0] になることを見る図。点は例で計算した点、白丸の !FORMULA[60][36120][0] は像に入らない点である。 左の $z$ 平面の直線 $\mathrm{Re}\,z=1$(青)と円 $|z-2|=1$(橙)を $w=\frac1z$ で移すと、右の $w$ 平面の円 $|w-\frac12|=\frac12$ と円 $|w-\frac23|=\frac13$ になることを見る図。点は例で計算した点、白丸の $0$ は像に入らない点である。
この 2 つの例から、次の問いが出てくる。

  1. $\frac1z$ は、点をどのように動かす写像なのか。→ prop-ibr-polar
  2. 円と直線を 1 つの式でまとめて扱えるか。→ lem-ibr-cline
  3. 円と直線は $\frac1z$ で何に移るのか。原点を通るかどうかで何が変わるのか。→ thm-ibr-main
  4. 高校の問題の解き方($z=\frac1w$ を代入する)は、何をしているのか。→ prop-ibr-involution、prf-ibr-hs
  5. 大学数学では、この写像はどう見えるのか。→ rem-ibr-inversion、rem-ibr-sphere
    高校の計算この記事での見方ボックス
    $\frac1z=\frac{\overline z}{\lvert z\rvert^2}$、分母の共役を掛ける絶対値は逆数、偏角は符号が反対prop-ibr-polar
    $z=\frac1w$ を代入して $w$ の式を作る$\frac1z$ は自分自身が逆写像prop-ibr-involution
    円 $\lvert z-\alpha\rvert=r$、直線 $ax+by=c$どちらも $Az\overline z+\overline Bz+B\overline z+C=0$ の形lem-ibr-cline
    像が円になるか直線になるか式の係数 $A$ と $C$ が入れかわるthm-ibr-main
    $\lvert w-\beta\rvert=k\lvert w\rvert$ の形にするApollonius の円・垂直二等分線prf-ibr-hs

$\frac1z$ は点をどう動かすか

写像 $w=\frac{1}{z}$

$0$ でない複素数 $z$ に複素数 $w=\frac1z$ を対応させる規則を、写像 $w=\frac1z$ という。複素数平面の図形 $F$ について、$F$ の $0$ でない点 $z$ を移した点 $\frac1z$ 全体を、$F$ の像という。

$z=0$ には対応する点がないので、原点は移す対象から除く。また、$\frac1z=0$ となる $z$ はないので、像に原点が入ることはない。

絶対値と偏角で見た $\frac{1}{z}$

$z=r(\cos\theta+i\sin\theta)$($r>0$)とすると
$$ \frac1z=\frac1r\bigl(\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\bigr)=\frac{\overline z}{|z|^2} $$
である。つまり $\frac1z$ は、絶対値が $\frac1{|z|}$、偏角が $-\theta$ の点である。

積が 1 になることを確かめる

方針:右辺の数を $z$ に掛けて $1$ になることを示す。逆数はただ 1 つなので、それが $\frac1z$ である。
段 1(極形式の積)。$u=\frac1r\bigl(\cos(-\theta)+i\sin(-\theta)\bigr)$ とおく。極形式の積の公式(絶対値は掛け、偏角は足す)から
$$ zu=r\cdot\frac1r\bigl(\cos(\theta+(-\theta))+i\sin(\theta+(-\theta))\bigr)=1\cdot(\cos0+i\sin0)=1 $$
である。よって $u=\frac1z$ である。
段 2(共役を使った形)。$\cos(-\theta)=\cos\theta$、$\sin(-\theta)=-\sin\theta$ なので
$$ u=\frac1r(\cos\theta-i\sin\theta)=\frac{r(\cos\theta-i\sin\theta)}{r^2}=\frac{\overline z}{|z|^2} $$
である。$z\overline z=|z|^2$ を使って $z\cdot\frac{\overline z}{|z|^2}=1$ と直接確かめることもできる。$\square$

$\frac{1}{z}$ を極形式で求める
  1. $z=2i=2\bigl(\cos\frac\pi2+i\sin\frac\pi2\bigr)$。$\frac1z$ は絶対値 $\frac12$、偏角 $-\frac\pi2$ なので $\frac1z=\frac12\bigl(\cos\bigl(-\frac\pi2\bigr)+i\sin\bigl(-\frac\pi2\bigr)\bigr)=-\frac i2$ である。確かめると $2i\cdot\bigl(-\frac i2\bigr)=-i^2=1$ である。
  2. $z=1+\sqrt3i=2\bigl(\cos\frac\pi3+i\sin\frac\pi3\bigr)$。$\frac1z=\frac12\bigl(\cos\frac\pi3-i\sin\frac\pi3\bigr)=\frac14-\frac{\sqrt3}4i$ である。共役の形では $\frac{\overline z}{|z|^2}=\frac{1-\sqrt3i}4$ で一致する。
  3. 単位円の上の点 $z=\cos\theta+i\sin\theta$ では $|z|=1$ なので $\frac1z=\overline z$ である。単位円の上では、$\frac1z$ は実軸に関する折り返しになる。

prop-ibr-polar から、$\frac1z$ は 2 つの動きに分けられる。

  1. $z$ を、同じ半直線の上で、原点からの距離が $\frac1{|z|}$ の点 $\frac z{|z|^2}$ に移す。これを単位円に関する反転という。単位円の内側の点は外側へ、外側の点は内側へ移り、単位円の上の点は動かない。
  2. 次に、実軸に関して折り返す(共役をとる)。$\overline{\left(\frac z{|z|^2}\right)}=\frac{\overline z}{|z|^2}=\frac1z$ である。
    点 !FORMULA[127][38414][0] を単位円に関して反転して !FORMULA[128][-569973930][0] に移し、さらに実軸で折り返すと !FORMULA[129][173309557][0] になることを見る図。 点 $z$ を単位円に関して反転して $\frac{z}{|z|^2}$ に移し、さらに実軸で折り返すと $\frac1z$ になることを見る図。
    反転の点 $z$ と $\frac z{|z|^2}$ は、原点からの距離の積が $|z|\cdot\frac1{|z|}=1$ である。原点を通る直線と円の交点までの距離の積が一定という点で、方べきの定理(高校数学) と同じ形をしている。
$\frac{1}{z}$ は自分自身の逆
  1. $0$ でない $z$ について $\frac1{1/z}=z$ である。
  2. 図形 $F$ の像を $F'$ とすると、$0$ でない $w$ について
    $$ w\in F'\iff\frac1w\in F $$
    である。
定義をそのまま読む

方針:像の定義を式で書き、1 を使って $z$ を $w$ で表す。
段 1。$z\ne0$ なら $\frac1z\cdot z=1$ なので、$\frac1z$ の逆数は $z$ である。これが 1 である。
段 2($\Rightarrow$)。$w\in F'$ とする。像の定義から、$F$ の $0$ でない点 $z$ で $w=\frac1z$ となるものがある。1 により $\frac1w=\frac1{1/z}=z\in F$ である。
段 3($\Leftarrow$)。$w\ne0$ かつ $\frac1w\in F$ とする。$z=\frac1w$ とおくと $z\ne0$、$z\in F$ で、1 により $\frac1z=w$ である。像の定義から $w\in F'$ である。$\square$

2 が、高校で「$w=\frac1z$ から $z=\frac1w$ として、$z$ の満たす式に代入する」とする計算の根拠である。像を求めるには、$F$ を表す式の $z$ に $\frac1w$ を入れ、$w\ne0$ を付け加えればよい。

円と直線を 1 つの式で表す

$\frac1z$ で円が直線に、直線が円に移ることがあるので、円と直線をまとめて扱える式があると便利である。$z=x+yi$ のとき
$$ x=\frac{z+\overline z}2,\qquad y=\frac{z-\overline z}{2i},\qquad x^2+y^2=z\overline z $$
であることを使う。

円と直線の共通の方程式

$A$、$C$ を実数、$B$ を複素数とし、$|B|^2>AC$ とする。方程式
$$ Az\overline z+\overline Bz+B\overline z+C=0\qquad(\ast) $$
を満たす点 $z$ 全体は、$A\ne0$ なら中心 $-\frac BA$、半径 $\frac{\sqrt{|B|^2-AC}}{|A|}$ の円であり、$A=0$ なら直線である。逆に、複素数平面のどの円もどの直線も、この形の方程式で表せる。さらに、図形が原点を通るのは $C=0$ のとき、そのときに限る。

平方完成と、$x$・$y$ への書き直し

方針:$A\ne0$ のときは $z$ について平方完成し、$A=0$ のときは $x$、$y$ の式に直す。逆向きは、円と直線の方程式を展開して $(\ast)$ の形にする。
段 1($A\ne0$ なら円)。$(\ast)$ を $A$ で割る。$A$ は実数なので $\overline{\bigl(\frac BA\bigr)}=\frac{\overline B}A$ であり、
$$ \Bigl(z+\frac BA\Bigr)\Bigl(\overline z+\frac{\overline B}A\Bigr)=z\overline z+\frac{\overline B}Az+\frac BA\overline z+\frac{|B|^2}{A^2} $$
である。よって $(\ast)$ は
$$ \Bigl|z+\frac BA\Bigr|^2=\frac{|B|^2}{A^2}-\frac CA=\frac{|B|^2-AC}{A^2} $$
と同値である。右辺は正なので、これは中心 $-\frac BA$、半径 $\frac{\sqrt{|B|^2-AC}}{|A|}$ の円である。
段 2($A=0$ なら直線)。$|B|^2>0$ なので $B\ne0$ である。$B=\frac{a+bi}2$($a$、$b$ は実数で、少なくとも一方は $0$ でない)と書くと
$$ \overline Bz+B\overline z=\frac{a-bi}2(x+yi)+\frac{a+bi}2(x-yi)=\frac{2ax+2by}2=ax+by $$
である($\overline Bz$ と $B\overline z$ は互いに共役なので、和は $\overline Bz$ の実部の 2 倍になる)。よって $(\ast)$ は直線 $ax+by+C=0$ である。
段 3(円は $(\ast)$ の形)。中心 $\alpha$、半径 $\rho>0$ の円 $|z-\alpha|=\rho$ は、両辺を 2 乗して $(z-\alpha)(\overline z-\overline\alpha)=\rho^2$、展開して
$$ z\overline z-\overline\alpha z-\alpha\overline z+|\alpha|^2-\rho^2=0 $$
である。$A=1$、$B=-\alpha$、$C=|\alpha|^2-\rho^2$ とすれば $(\ast)$ の形で、$|B|^2-AC=|\alpha|^2-(|\alpha|^2-\rho^2)=\rho^2>0$ である。
段 4(直線は $(\ast)$ の形)。直線 $ax+by=c$($a$、$b$ の少なくとも一方は $0$ でない)は、段 2 の計算を逆にたどって、$A=0$、$B=\frac{a+bi}2$、$C=-c$ の $(\ast)$ になる。$|B|^2=\frac{a^2+b^2}4>0=AC$ である。
段 5(原点を通る条件)。$(\ast)$ に $z=0$ を入れると、左辺は $C$ になる。よって原点が図形の上にあるのは $C=0$ のとき、そのときに限る。$\square$

円と直線を (∗) の形で書く
  1. 円 $|z-2|=1$:$\alpha=2$、$\rho=1$ なので $A=1$、$B=-2$、$C=4-1=3$、すなわち $z\overline z-2z-2\overline z+3=0$ である。$x$、$y$ で書くと $x^2+y^2-4x+3=0$、すなわち $(x-2)^2+y^2=1$ に戻る。
  2. 円 $|z-i|=1$:$\alpha=i$、$\rho=1$ なので $A=1$、$B=-i$、$C=|i|^2-1=0$ である。$C=0$ なので原点を通る(実際 $|0-i|=1$)。
  3. 直線 $\mathrm{Re}\,z=1$、すなわち $x=1$:$a=1$、$b=0$、$c=1$ なので $A=0$、$B=\frac12$、$C=-1$、すなわち $\frac12z+\frac12\overline z-1=0$ である。$\frac{z+\overline z}2=x$ なので $x=1$ に戻る。

主定理:円と直線は円と直線に移る

$w=\frac{1}{z}$ による円と直線の像

$(\ast)$ の表す円または直線を $F$ とする。$F$ の像(def-ibr-map)は、方程式
$$ Cw\overline w+Bw+\overline B\,\overline w+A=0\qquad(\ast\ast) $$
の表す図形から原点を除いたものである。$(\ast\ast)$ は $(\ast)$ で $A$ と $C$ を入れかえ、$B$ を $\overline B$ に替えた式で、$|\overline B|^2>CA$ を満たす。したがって、次の 4 つが成り立つ。

  1. 原点を通らない円($A\ne0$、$C\ne0$)は、原点を通らない円に移る。
  2. 原点を通る円($A\ne0$、$C=0$)は、原点を通らない直線に移る。
  3. 原点を通らない直線($A=0$、$C\ne0$)は、原点を通る円から原点を除いたものに移る。
  4. 原点を通る直線($A=0$、$C=0$)は、原点を通る直線から原点を除いたものに移る。
$z=\frac{1}{w}$ を代入して分母を払う

方針:prop-ibr-involution により、像は「$\frac1w$ が $(\ast)$ を満たす $0$ でない $w$」全体である。$(\ast)$ に $z=\frac1w$ を代入し、$w\overline w$ を掛けて分母を払う。
段 1(代入)。$w\ne0$ とする。$z=\frac1w$ なら $\overline z=\frac1{\overline w}$、$z\overline z=\frac1{w\overline w}$ である。$\frac1w\in F$ は
$$ \frac A{w\overline w}+\frac{\overline B}w+\frac B{\overline w}+C=0 $$
と同値である。
段 2(分母を払う)。$w\ne0$ なので $w\overline w=|w|^2>0$ で、両辺に $w\overline w$ を掛けても掛けなくても同値である。掛けると $\frac{w\overline w}w=\overline w$、$\frac{w\overline w}{\overline w}=w$ なので
$$ A+\overline B\,\overline w+Bw+Cw\overline w=0 $$
となる。並べかえると $(\ast\ast)$ である。よって、像は $(\ast\ast)$ の表す図形から原点を除いたものである(像に原点が入らないことは def-ibr-map の後で見た)。
段 3($(\ast\ast)$ も円か直線)。$(\ast\ast)$ を $(\ast)$ と見比べると、$A$ の位置に $C$、$\overline B$ の位置に $B$(つまり $B$ の位置に $\overline B$)、$C$ の位置に $A$ がある。条件 $|\overline B|^2-CA=|B|^2-AC>0$ も満たすので、lem-ibr-cline により $(\ast\ast)$ は円か直線を表す。
段 4(4 つの場合)。lem-ibr-cline により、$(\ast\ast)$ は 2 次の係数 $C$ が $0$ でなければ円、$0$ なら直線で、定数項 $A$ が $0$ なら原点を通る。

  • 1:$C\ne0$ なので円、$A\ne0$ なので原点を通らない。
  • 2:$C=0$ なので直線、$A\ne0$ なので原点を通らない。
  • 3:$C\ne0$ なので円、$A=0$ なので原点を通る。像はそこから原点を除いたもの。
  • 4:$C=0$ なので直線、$A=0$ なので原点を通る。像はそこから原点を除いたもの。$\square$

1 と 2 では、$(\ast\ast)$ の図形は原点を通らないので、「原点を除く」は何も除かない。3 と 4 では、原点だけが像から抜ける。原点に移るはずの点は、もとの直線を無限に遠くまでたどった先にある(rem-ibr-sphere)。

主定理で像を求める

ex-ibr-cline の式を使う。

  1. 円 $|z-2|=1$($A=1$、$B=-2$、$C=3$)の像は $3w\overline w-2w-2\overline w+1=0$ である。$3$ で割って平方完成すると $\bigl|w-\frac23\bigr|^2=\frac49-\frac13=\frac19$、すなわち円 $\bigl|w-\frac23\bigr|=\frac13$ である。ex-ibr-start-circle で点から予想した円と一致する。
  2. 円 $|z-i|=1$($A=1$、$B=-i$、$C=0$)の像は、$(\ast\ast)$ で $C=0$、$B=-i$、$\overline B=i$、$A=1$ として $-iw+i\overline w+1=0$ である。$w=u+vi$ とおくと $-i(u+vi)+i(u-vi)=-iu+v+iu+v=2v$ なので、$2v+1=0$、すなわち直線 $\mathrm{Im}\,w=-\frac12$ である。点で確かめると、円の上の $2i$、$1+i$、$-1+i$ はそれぞれ $-\frac i2$、$\frac{1-i}2$、$\frac{-1-i}2$ に移り、どれも虚部が $-\frac12$ である。
  3. 直線 $\mathrm{Re}\,z=1$($A=0$、$B=\frac12$、$C=-1$)の像は $-w\overline w+\frac12w+\frac12\overline w=0$ である。$-1$ を掛けて平方完成すると $\bigl|w-\frac12\bigr|^2=\frac14$、すなわち円 $\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac12$ から原点を除いたものである。ex-ibr-start-line の予想と一致する。
  4. 直線 $y=x$ の $0$ でない点は $z=t(1+i)$($t\ne0$ は実数)で、$\frac1{t(1+i)}=\frac{1-i}{2t}$ である。これは直線 $y=-x$ の $0$ でない点をすべて動く。

4 つの場合を並べた図。青が元の図形、赤の破線が !FORMULA[387][55578139][0] による像、点線は単位円である。原点を通るかどうかで、円になるか直線になるかが決まる。 4 つの場合を並べた図。青が元の図形、赤の破線が $w=\frac1z$ による像、点線は単位円である。原点を通るかどうかで、円になるか直線になるかが決まる。

高校数学で解く・大学数学で見る:原点を通る円の像

高校では、lem-ibr-cline の一般形を使わず、絶対値の式のまま処理することが多い。同じ問題を 2 通りに見る。

原点を通る円の像を求める

点 $z$ が円 $|z-1|=1$ の上を、原点を除いて動くとき、$w=\frac1z$ の描く図形を求めよ。また、円 $|z-2|=1$ についても同じ方法で求めよ。

高校数学で解く:$\lvert w-\beta\rvert=k\lvert w\rvert$ の形に直す

方針:prop-ibr-involution により $z=\frac1w$ を代入し、分母の $|w|$ を払って「2 点からの距離の比」の式にする。
段 1(円 $|z-1|=1$)。$w\ne0$ で $\bigl|\frac1w-1\bigr|=1$ となる $w$ を求めればよい。$\frac1w-1=\frac{1-w}w$ なので、両辺に $|w|$ を掛けて
$$ |1-w|=|w| $$
を得る。これは、$w$ から点 $1$ までの距離と点 $0$ までの距離が等しいことを表すので、$w$ は $0$ と $1$ を結ぶ線分の垂直二等分線、すなわち直線 $\mathrm{Re}\,w=\frac12$ の上にある。逆にこの直線の上の点は $w\ne0$ で、式を逆にたどれば $\frac1w$ が円の上にある。答えは直線 $\mathrm{Re}\,w=\frac12$ である。点で確かめると、円の上の $2$、$1+i$、$1-i$ は $\frac12$、$\frac{1-i}2$、$\frac{1+i}2$ に移り、どれも実部が $\frac12$ である。
段 2(円 $|z-2|=1$)。同じく $\bigl|\frac1w-2\bigr|=1$ から $|1-2w|=|w|$、左辺を $|2|\cdot\bigl|\frac12-w\bigr|$ と書いて
$$ \Bigl|w-\frac12\Bigr|=\frac12|w| $$
を得る。$w$ から $\frac12$ までの距離が、$0$ までの距離の $\frac12$ 倍である。比が $1$ でないので、これは Apollonius の円である。$w=u+vi$ として 2 乗すると $\bigl(u-\frac12\bigr)^2+v^2=\frac14(u^2+v^2)$、整理して $\frac34u^2-u+\frac34v^2+\frac14=0$、$\frac43$ を掛けて $u^2-\frac43u+v^2+\frac13=0$、平方完成して $\bigl(u-\frac23\bigr)^2+v^2=\frac19$ である。ex-ibr-main の 1 と同じ円 $\bigl|w-\frac23\bigr|=\frac13$ になる。
段 3(一般の円)。中心 $\alpha$、半径 $\rho>0$ の円 $|z-\alpha|=\rho$ を考える。まず $\alpha\ne0$ とする($|\alpha|$ で割るためにこの仮定を使う。$\alpha=0$ の場合は最後に扱う)。同じように、$\bigl|\frac1w-\alpha\bigr|=\rho$ から $|1-\alpha w|=\rho|w|$、$|\alpha|$ で割って
$$ \Bigl|w-\frac1\alpha\Bigr|=\frac\rho{|\alpha|}\,|w| $$
となる。円が原点を通る($|\alpha|=\rho$)なら比は $1$ で、像は $0$ と $\frac1\alpha$ の垂直二等分線である。原点を通らない($|\alpha|\ne\rho$)なら比は $1$ でなく、像は Apollonius の円である(比が $1$ でない Apollonius の円が円になることは 複素数平面と図形 で示した)。
最後に $\alpha=0$ の円、すなわち原点を中心とする円 $|z|=\rho$ を考える。$\bigl|\frac1w\bigr|=\rho$ は $\frac1{|w|}=\rho$、すなわち $|w|=\frac1\rho$ と同値なので、像は原点を中心とする半径 $\frac1\rho$ の円である。この円は原点を通らないので、原点を通らない円の場合に入る。$\square$

大学数学で見ると:反転と、無限遠点を加えた平面

段 3 は、主定理の 1 と 2 を高校の道具(垂直二等分線と Apollonius の円)だけで示している。垂直二等分線と Apollonius の円の式は 複素数平面と図形 で扱う。大学数学では、次の 2 つの見方でこの計算がまとまる。

  • 「円 $|z-\alpha|=\rho$」と「2 点からの距離の比が一定」は、どちらも円を表す式である。$\frac1z$ は 2 点 $0$ と $\alpha$ を $\infty$ と $\frac1\alpha$ に移し($0$ と $\infty$ が入れかわる)、比の式を比の式に移す。比が $1$ の「円」が直線である。
  • 平面に 1 点 $\infty$(無限遠点)を付け加えると、直線は「$\infty$ を通る円」と見なせる。すると主定理は「円は円に移る」の 1 行になる。原点を通る円が直線に移るのは、原点が $\infty$ に移るからである(rem-ibr-sphere)。

例と反例

主定理の結論や、よくある思い込みのどれかを変えると、次のように崩れる。

外した仮定・思い込み崩れることボックス
像に原点も入ると考える直線の像は円から原点を除いたもので、円全体ではないex-ibr-missing-point
円の中心は像の円の中心に移ると考える中心は中心に移らないex-ibr-center
$\frac1z$ を別の式($z^2$)に替える直線が円にも直線にも移らないex-ibr-square
円の内側は像の円の内側に移ると考える原点を含む側と含まない側で入れかわることがあるex-ibr-region
反例:像に原点は入らない

直線 $\mathrm{Re}\,z=1$ の像は、ex-ibr-main の 3 のとおり円 $\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac12$ から原点を除いたものである。原点 $w=0$ はこの円の上にあるが、$\frac1z=0$ となる $z$ はないので、像には入らない。直線の上の点 $1+ti$ の像 $\frac{1-ti}{1+t^2}$ は、$t$ を大きくすると絶対値 $\frac{\sqrt{1+t^2}}{1+t^2}=\frac1{\sqrt{1+t^2}}$ が $0$ に近づくが、$0$ にはならない。答えを「円 $\bigl|w-\frac12\bigr|=\frac12$」とだけ書くと、原点の分だけ誤りである。
同じように、原点を通る円 $|z-i|=1$ では、原点そのものは $\frac1z$ で移せないので、移す対象から除かれる。像の直線 $\mathrm{Im}\,w=-\frac12$ は、残りの点の像でちょうど埋まる。

反例:中心は中心に移らない

円 $|z-2|=1$ の中心 $2$ は $\frac12$ に移る。しかし像の円 $\bigl|w-\frac23\bigr|=\frac13$ の中心は $\frac23$ で、$\frac12\ne\frac23$ である。点 $\frac12$ は像の円の内側にあるが($\bigl|\frac12-\frac23\bigr|=\frac16<\frac13$)、中心ではない。
像の円を求めるには、中心を移すのでなく、円の上の点を移すか(ex-ibr-start-circle のように直径の両端 $1$ と $3$ を移して $1$ と $\frac13$ を得る)、thm-ibr-main の式を使う。$\frac1z$ は長さの比を場所によって変える写像なので、「中心からの距離が等しい」という性質は保たれない。

反例:$z^2$ では直線が円にも直線にも移らない

$w=z^2$ で直線 $\mathrm{Re}\,z=1$ の点 $z=1+ti$ を移すと、$w=(1+ti)^2=1-t^2+2ti$ である。$t=0,1,-1,2$ で $w=1$、$2i$、$-2i$、$-3+4i$ となる。
3 点 $1$、$2i$、$-2i$ は一直線上にないので、像は直線ではない。この 3 点を通る円は、実軸に関して対称なので中心 $c$ は実数で、$|1-c|=|2i-c|$ から $(1-c)^2=c^2+4$、すなわち $c=-\frac32$、半径 $\frac52$ である。ところが $|-3+4i-(-\frac32)|=\bigl|-\frac32+4i\bigr|=\sqrt{\frac94+16}=\frac{\sqrt{73}}2\ne\frac52$ なので、4 点目はこの円の上にない。よって像は円でもない。実際、$w=u+vi$ とすると $u=1-t^2$、$v=2t$ から $u=1-\frac{v^2}4$ で、像は放物線である。円と直線を円と直線に移すのは、$\frac1z$ や 1 次式 $az+b$ のような特別な写像に限られ、どんな写像でも成り立つわけではない。

反例:内側が内側に移るとは限らない
  1. 半平面 $\mathrm{Re}\,z\ge1$ の像。$w=u+vi\ne0$ について、$\mathrm{Re}\,\frac1w=\frac u{u^2+v^2}\ge1$ は、$u^2+v^2>0$ を掛けて $u\ge u^2+v^2$、すなわち $\bigl|w-\frac12\bigr|\le\frac12$ と同値である。像は円板 $\bigl|w-\frac12\bigr|\le\frac12$ から原点を除いたものである。たとえば $z=\frac32$ は $\frac23$ に移り、$\bigl|\frac23-\frac12\bigr|=\frac16\le\frac12$ である。
  2. 単位円の内側 $0<|z|<1$ の像。$|w|=\frac1{|z|}>1$ なので、像は単位円の外側 $|w|>1$ である。境界の単位円は単位円に移るが、内側は外側に移る。
  3. 円の内側 $|z-2|<1$ の像。prf-ibr-hs の段 2 と同じ計算で、$|z-2|<1$ は $\bigl|w-\frac12\bigr|<\frac12|w|$ になり、2 乗して整理すると $\bigl|w-\frac23\bigr|<\frac13$ である。この円は原点を含まないので、内側は内側に移る。
    どちらの側がどちらに移るかは、原点がどちら側にあるかで決まる。原点を含む側は、無限に遠い側($\infty$ を含む側)に移る。

大学数学で見る

大学数学で見ると:円に関する反転

中心 $\mathrm{O}$、半径 $R$ の円に関する反転とは、$\mathrm{O}$ 以外の点 $\mathrm{P}$ を、半直線 $\mathrm{OP}$ の上で $\mathrm{OP}\cdot\mathrm{OP'}=R^2$ を満たす点 $\mathrm{P'}$ に移す写像である。prop-ibr-polar の後で見たように、$\frac1z$ は単位円に関する反転 $z\mapsto\frac z{|z|^2}=\frac1{\overline z}$ と、実軸に関する折り返し(共役)を続けたものである(Hit18 例 3.2.1)。
折り返しは円を円に、直線を直線に移す。したがって thm-ibr-main は、「反転は、反転の中心を通らない円を円に、中心を通る円を直線に移す」という反転の基本定理(Hit18 定理 3.2.6)と同じ内容である。反転そのものは初等幾何で 円に関する反転 として扱う。反転は角の大きさを保つ(Hit18 定理 3.2.10)。$\frac1z$ は向きを逆にする操作を 2 回続けたものなので、角の大きさだけでなく向きも保つ。

大学数学で見ると:Riemann 球面の回転

平面に無限遠点 $\infty$ を 1 つ加え、$\frac10=\infty$、$\frac1\infty=0$ と約束すると、$\frac1z$ は $0$ を含むすべての点を移す 1 対 1 の対応になる(Hit18 §3.3)。
この平面は、立体射影によって球面と同一視できる。単位球面の北極 $(0,0,1)$ と球面上の点を結ぶ直線が平面 $Z=0$ と交わる点を対応させると、平面の点 $x+yi$ には球面上の点
$$ \Bigl(\frac{2x}{x^2+y^2+1},\ \frac{2y}{x^2+y^2+1},\ \frac{x^2+y^2-1}{x^2+y^2+1}\Bigr) $$
が対応し、北極が $\infty$ に対応する。これを Riemann 球面 という。この対応で、$\frac1z$ は球面を実軸($X$ 軸)のまわりに $180^\circ$ 回す回転 $(X,Y,Z)\mapsto(X,-Y,-Z)$ になる。たとえば $z=2$ は $\bigl(\frac45,0,\frac35\bigr)$ に対応し、$\frac1z=\frac12$ は $\bigl(\frac45,0,-\frac35\bigr)$ に対応する。$z=i$ は $(0,1,0)$、$\frac1i=-i$ は $(0,-1,0)$ に対応する。
立体射影は、球面上の円を平面の円または直線に移す(北極を通る円が直線になる)ことが知られている(本記事では証明しない)。球面の回転は球面上の円を円に移すので、主定理は「円が回転で円に移る」ことを平面に写したものと見える。原点を通る円が直線に移るのは、その円の球面上の姿が南極 $(0,0,-1)$ を通り、回転で北極を通る円に移るからである。詳しくは Riemann球面 と 立体射影 で扱う。

大学数学で見ると:1 次分数変換への一般化

$c\ne0$、$ad-bc\ne0$ のとき
$$ \frac{az+b}{cz+d}=\frac ac-\frac{ad-bc}c\cdot\frac1{cz+d} $$
と変形できる。右辺は「$z\mapsto cz+d$(回転・拡大と平行移動)」「$\frac1{\,\cdot\,}$」「$-\frac{ad-bc}c$ を掛ける(回転と拡大)」「$\frac ac$ を足す(平行移動)」を続けたものである。回転・拡大・平行移動は円を円に、直線を直線に移し、$\frac1z$ は主定理により円と直線を円と直線に移すので、1 次分数変換も円と直線を円と直線に移す(Hit18 定理 3.4.5)。$\frac1z$ はこの一族の中で、円と直線を入れかえうるただ 1 つの部品である。高校数学での扱いは 1次分数変換(高校数学) で述べる。

1 次分数変換の分解を確かめる

$w=\frac{z+1}{z-1}$($a=1$、$b=1$、$c=1$、$d=-1$、$ad-bc=-2\ne0$)では、公式は $\frac{z+1}{z-1}=1+\frac2{z-1}$ となる。右辺を通分すると $\frac{(z-1)+2}{z-1}=\frac{z+1}{z-1}$ で一致する。$z=i$ では左辺 $\frac{1+i}{-1+i}=\frac{(1+i)(-1-i)}{(-1+i)(-1-i)}=\frac{-2i}{2}=-i$、右辺 $1+\frac2{-1+i}=1+\frac{2(-1-i)}{2}=1-1-i=-i$ である。

さらに先へ

  • 1 次分数変換と双曲幾何:1 次分数変換全体は、合成について群をなす。単位円板を自分自身に移す 1 次分数変換を「合同変換」とみなすと、平行線の公理が成り立たない双曲幾何のモデル(Poincaré 円板)が得られる(Hit18 第 5 章)。
  • 等角写像:$\frac1z$ のように、各点の近くで角を保つ写像は、複素関数論では微分できる複素関数として統一的に扱われる(等角写像)。
  • 反転を使った作図と証明:初等幾何では、反転で円を直線に直して、接する円の問題を簡単にする(円に関する反転)。

関連項目

参考文献

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