可分空間

同義語:separable space

概要

可分空間(Separable space)とは、位相空間論において、可算な稠密部分集合を持つ空間のことである。これは、空間の濃度(要素の数)が非可算であっても、可算個(自然数で番号付けできる程度)の点があれば、空間内の任意の点をそれらの極限として近似できることを意味する。解析学において、Hilbert空間や多くのBanach空間など、扱いやすい良質な空間であるための基本的な要請として現れる概念である。

$$$$

定義

位相空間 $X$可分(Separable)であるとは、以下の条件を満たす部分集合 $D \subseteq X$ が存在することをいう。

可分性の定義
  1. 可算性: $D$ は可算集合である(有限集合または可算無限集合)。
  2. 稠密性: $D$$X$ において稠密である($\overline{D} = X$)。

定義を論理式で表すと、可算集合 $D = \{d_1, d_2, \dots \}$ が存在し、任意の空でない開集合 $U \subseteq X$ に対して $D \cap U \neq \emptyset$ となることである。

直感的理解と意義

可分性は、「近似可能性」と強く結びついている。
実数全体 $\mathbb{R}$ は非可算無限集合であるが、その中には有理数 $\mathbb{Q}$ という可算な集合が稠密に含まれている。コンピュータで実数を扱う際に浮動小数点数(有理数の一種)で近似計算ができるのは、この可分性のおかげであると言える。

可分のイメージ
  • 非可分な空間: 広すぎて、可算個の点では「目印」を置ききれない空間。
  • 可分な空間: 要素は多くとも、骨格となる可算個の点があれば全体を把握できる空間。

性質

可分性は、距離空間においては他の位相的性質と密接に関連するが、一般の位相空間では振る舞いが異なる場合があるため注意が必要である。

基本的性質
  • 第2可算公理との関係:
    第2可算公理を満たす空間は常に可分である。
    • 逆は一般には成り立たないが、距離空間においては同値となる(可分な距離空間は第2可算である)。
  • 濃度の制約:
    可分なHausdorff空間 $X$ の濃度は $|X| \le 2^{2^{\aleph_0}}$ を満たす。
  • 連続像:
    可分空間の連続写像による像は可分である。

特に部分空間への遺伝性については、直感に反する現象が知られている。

遺伝性に関する注意
  • 距離空間: 可分な距離空間の任意の部分空間は可分である。
  • 一般の位相空間: 可分空間の部分空間が可分であるとは限らない。
    • 例: Niemytzki平面(Moore平面)は可分であるが、その部分空間として非可分な離散空間を含む。

具体例

解析学で現れる主要な関数空間の多くは可分であるが、重要な例外も存在する。

可分な空間の例
  1. Euclid空間 $\mathbb{R}^n$:
    有理点全体 $\mathbb{Q}^n$ が可算稠密部分集合となるため、可分である。
  2. 数列空間 $\ell^p$ ($1 \le p < \infty$):
    有限個を除いて $0$ である数列全体が稠密かつ可算であるため、可分である。
  3. 連続関数空間 $C([0, 1])$:
    区間上の連続関数全体に一様収束位相を入れた空間。Weierstrassの近似定理より、有理係数多項式全体が稠密となるため、可分である。

一方で、「大きすぎる」空間は可分にならない。

反例(非可分な空間)
  1. 有界数列空間 $\ell^\infty$:
    有界な数列全体の空間は可分ではない。$0$ と $1$ のみからなる数列全体を考えると、それらは互いに距離 $1$ 離れており、かつ非可算個存在する(Cantor集合と対等)。これらを互いに素な球で覆うには非可算個の球が必要となるためである。
  2. 非可算集合上の離散位相:
    非可算集合 $X$ に離散位相を入れた場合、稠密な部分集合は $X$ 自身しかあり得ない(すべての点が孤立点であるため)。$X$ は非可算なので、$X$ は可分ではない。

関連項目