C^r構造の平滑化

同義語:C^r多様体の平滑化両立するC^∞構造smoothing of C^r structures

概要

$C^r$構造の平滑化(smoothing of $C^r$ structures)とは、$1\le r<\infty$ のとき、多様体の $C^r$ 構造はそれと両立する(すなわちその座標近傍がすべて元の構造に属する)$C^\infty$ 構造を含み、そのような $C^\infty$ 構造は $C^\infty$ 微分同相を除いてただ $1$ つである、という定理である。存在は Whitney(1936)による。系として、$C^r$ 微分同相な滑らかな多様体は $C^\infty$ 微分同相であり、$r\ge1$ の $C^r$ 多様体の分類は滑らかな多様体の分類と一致する。$r=0$ では成り立たず、滑らかな構造をもたない位相多様体や、同相だが微分同相でない滑らかな多様体(異種球面)がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: C^r多様体, 逆関数定理, 隆起関数, 微分同相写像

座標変換が 1 回連続微分可能なだけの多様体でも、座標をうまく取り替えれば、座標変換が何回でも微分できるようにできる。$C^r$ 構造の平滑化(smoothing of $C^r$ structures)とは次の定理である:$r\ge1$ のとき、$C^r$ 多様体の $C^r$ 構造は、それと両立する $C^\infty$ 構造を含み、そのような $C^\infty$ 構造は $C^\infty$ 微分同相を除いてただ 1 つである。存在は Whitney(1936)により、この形の存在と一意性は Hirsch の教科書にある。
この定理により、$r\ge1$ の $C^r$ 多様体の理論は $C^\infty$ 多様体の理論に帰着し、$C^1$ と $C^\infty$ の間には構造の違いがない(C^r多様体)。一方 $r=0$、すなわち位相多様体では、滑らかな構造が存在しないことも、互いに微分同相でない滑らかな構造が複数あることもある。この記事では主定理を記事の中で完全に証明し、$r=0$ で成り立たないことを反例の表で示す。

主定理

以下、多様体は境界をもたず、Hausdorff かつ第 2 可算とする。$C^r$ 構造・$C^r$ 座標近傍・$C^r$ 微分同相写像はC^r多様体の記事の定義「$C^r$ アトラスと $C^r$ 構造」「$C^k$ 級写像と $C^r$ 微分同相写像」の意味とし、$C^r$ 構造 $\mathcal{S}$ が定める極大アトラスの記号 $\mathcal{M}_r(\cdot)$ もその記事のものを使う。「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。

両立する $C^s$ 構造

$r< s\le\infty$ とし、$\alpha$ を位相多様体 $M$ の $C^r$ 構造とする。$M$ の $C^s$ 構造 $\beta$ が $\alpha$ と両立する(compatible)とは、$\beta\subset\alpha$、すなわち $\beta$ のすべての座標近傍が $\alpha$ に属することをいう。

$\beta\subset\alpha$ は「恒等写像 $(M,\alpha)\to(M,\beta)$ が $C^r$ 微分同相写像である」ことと同値であり、また「$\beta$ の下にある $C^r$ 構造が $\alpha$ である」ことと同値である(C^r多様体の記事の命題「下にある $C^s$ 構造」の 2 により、$\beta$ を含む $C^r$ 構造はただ 1 つなので)。

平滑化の存在

$1\le r<\infty$ とし、$M$ を $C^r$ 構造 $\alpha$ をもつ $C^r$ 多様体とする。$\alpha$ と両立する $C^\infty$ 構造 $\beta\subset\alpha$ が存在する。

存在の定理の位置づけ

$r\ge1$ の仮定は本質的である。$C^0$ 構造は位相構造そのものであり、位相多様体には滑らかな構造をもたないものがある。この定理が述べるのは、$C^1$ 以上の構造には滑らかな構造が必ず含まれるということであり、位相多様体から出発して滑らかな構造が得られるという主張ではない。

平滑化の一意性

$1\le r<\infty$ とし、$\beta_1,\beta_2$ を $C^r$ 構造 $\alpha$ と両立する $M$ の $C^\infty$ 構造とする。$C^\infty$ 微分同相写像 $F\colon(M,\beta_1)\to(M,\beta_2)$ が存在する。

一意性の定理の使いどころ

この定理により、$C^r$ 多様体の滑らかな構造は微分同相を除いて一つに決まる。したがって、$C^r$ 微分同相による分類を $C^\infty$ 微分同相による分類へ読みかえてよい。以下の系はこの読みかえを述べたものである。

一意性の定理が主張するのは「$\beta_1=\beta_2$」ではなく「微分同相」である。実際 $\beta_1\ne\beta_2$ となる例がある(C^r多様体の記事の例「同じ $C^1$ 構造の下にある 2 つの $C^\infty$ 構造」)。その例では $F$ として恒等写像はとれない。なお $F$ は、強い $C^r$ 位相で恒等写像にいくらでも近くとれる(この記事では証明しない。Hir76 Ch. 2 Theorem 2.7、p. 50 の稠密性による)。

$C^r$ 微分同相な $C^\infty$ 多様体

$1\le r<\infty$ とする。$C^\infty$ 多様体 $M,N$ が $C^r$ 微分同相なら、$C^\infty$ 微分同相である。

要点:$N$ の $C^\infty$ 構造を $h$ で $M$ へ引き戻すと、$M$ の $C^r$ 構造と両立する 2 つ目の $C^\infty$ 構造が得られるので、一意性の定理を使う。

詳しい証明を開く

$h\colon M\to N$ を $C^r$ 微分同相写像とし、$M,N$ の $C^\infty$ 構造を $\beta_M,\beta_N$、それらの下にある $C^r$ 構造を $\alpha_M,\alpha_N$ とする。$h^*\beta_N:=\{(h^{-1}(V),\psi\circ h)\mid(V,\psi)\in\beta_N\}$ とおく。$h^*\beta_N$ の 2 つの座標近傍の座標変換は $(\psi'\circ h)\circ(\psi\circ h)^{-1}=\psi'\circ\psi^{-1}$ なので、$h^*\beta_N$ は $M$ の $C^\infty$ 構造であり(極大性も $h$ が全単射であることから引き継がれる)、$h\colon(M,h^*\beta_N)\to(N,\beta_N)$ は局所表示が恒等写像なので $C^\infty$ 微分同相写像である。$(V,\psi)\in\beta_N$ について、$\psi\circ h$ と $(U,\varphi)\in\alpha_M$ の座標変換は $(\psi\circ h\circ\varphi^{-1})$ とその逆で、$h$ が $C^r$ 微分同相写像なので $C^r$ 級である。よって $h^*\beta_N\subset\alpha_M$ であり、$\beta_M\subset\alpha_M$ とあわせて thm-smcr-uniqueness により $C^\infty$ 微分同相写像 $F\colon(M,\beta_M)\to(M,h^*\beta_N)$ がある。$h\circ F\colon M\to N$ が求める $C^\infty$ 微分同相写像である。$\square$

$C^s$ 構造への平滑化

$1\le r< s\le\infty$ とする。$C^r$ 構造 $\alpha$ は両立する $C^s$ 構造を含み、$\alpha$ と両立する 2 つの $C^s$ 構造 $\gamma_1,\gamma_2$ について $C^s$ 微分同相写像 $(M,\gamma_1)\to(M,\gamma_2)$ がある。さらに、$C^r$ 多様体を $C^r$ 微分同相で分類することと、$C^\infty$ 多様体を $C^\infty$ 微分同相で分類することは同じである:$C^\infty$ 多様体に下にある $C^r$ 多様体を対応させる写像
$$ \{C^\infty\text{ 多様体}\}/C^\infty\text{ 微分同相}\ \longrightarrow\ \{C^r\text{ 多様体}\}/C^r\text{ 微分同相} $$
は全単射である。

要点:$C^s$ 構造は、含まれる $C^\infty$ 構造の下にある $C^s$ 構造として作り、比べる。分類の全単射は、全射性が存在の定理、単射性が cor-smcr-diffeo である。

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$\beta\subset\alpha$ を thm-smcr-existence の $C^\infty$ 構造とし、$\gamma:=\mathcal{M}_s(\beta)$ とおく。$\gamma$ の座標近傍は $\beta$ と $C^s$ 級、したがって $C^r$ 級で両立するので、$\alpha=\mathcal{M}_r(\beta)$ に属する。よって $\gamma\subset\alpha$ である。次に $\gamma_1,\gamma_2\subset\alpha$ とする。$s<\infty$ なら $\gamma_i$ に thm-smcr-existence を($r$ を $s$ に替えて)使い、$C^\infty$ 構造 $\beta_i\subset\gamma_i$ をとる($s=\infty$ なら $\beta_i:=\gamma_i$)。$\beta_i\subset\alpha$ なので thm-smcr-uniqueness により $C^\infty$ 微分同相写像 $F\colon(M,\beta_1)\to(M,\beta_2)$ がある。$\gamma_i$ は $\beta_i$ を含む $C^s$ 構造なので $\beta_i$ の下にある $C^s$ 構造であり、C^r多様体の記事の命題「下にある $C^s$ 構造」の 3 により $F$ は $C^s$ 微分同相写像 $(M,\gamma_1)\to(M,\gamma_2)$ である。

最後の写像は代表の取り方によらずに定まる($C^\infty$ 微分同相写像は下にある $C^r$ 構造の間の $C^r$ 微分同相写像である)。全射性は thm-smcr-existence による:$C^r$ 多様体 $(M,\alpha)$ は、$\beta\subset\alpha$ をとれば $C^\infty$ 多様体 $(M,\beta)$ の下にある $C^r$ 多様体そのものである。単射性は cor-smcr-diffeo である。$\square$

出典と証明の方針

Whi36 は §8 Theorem 1(p. 654)で「$r\ge1$ の $C^r$ 多様体は $\mathbb{R}^{2n+1}$ の実解析的な部分多様体と $C^r$ 微分同相である」ことを示した。これは存在の定理より強く、$C^r$ 構造が実解析的な構造を含むことを意味する(この記事では証明しない)。Hir76 Ch. 2 Theorem 2.9(p. 51)は thm-smcr-existence・thm-smcr-uniqueness を $C^s$ 構造($r< s\le\infty$)について述べ、Theorem 2.10(p. 52)が cor-smcr-diffeo と全射性の形にまとめている。Hirsch の証明は、Zorn の補題で $C^s$ 構造をもつ極大な開集合をとり、写像空間の強い $C^r$ 位相で微分同相写像の全体が開集合であることと近似定理(Theorem 2.6・2.7、pp. 49–50)を使う。Kos93 Ch. I §1 は、これらを理由に以後 $C^\infty$ 構造と $C^\infty$ 微分同相だけを扱うと述べる(pp. 2, 5)。
この記事の証明も座標近傍ごとに構造を広げる方針だが、写像空間の位相を使わず、可算個の座標近傍への帰納法と、「恒等写像に $C^1$ の意味で近い写像は微分同相写像である」という初等的な評価(lem-smcr-near-identity)で済ませる。

準備

以下 $B_t:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid\lvert x\rvert< t\}$、$\overline{B}_t$ をその閉包とし、線形写像のノルムは作用素ノルム $\|A\|:=\sup_{\lvert v\rvert\le1}\lvert Av\rvert$ とする。

恒等写像に近い写像

$1\le r\le\infty$ とし、$W\subset\mathbb{R}^n$ を凸開集合、$g\colon W\to\mathbb{R}^n$ を $C^r$ 級写像で、すべての $x\in W$ で $\|Dg(x)-I\|\le\frac12$ を満たすものとする。

  1. すべての $x,y\in W$ で $\lvert g(x)-g(y)\rvert\ge\frac12\lvert x-y\rvert$ であり、$g(W)$ は開集合、$g\colon W\to g(W)$ は $C^r$ 微分同相写像である。
  2. さらに $W=\mathbb{R}^n$ で、$Q:=\overline{\{x\mid g(x)\ne x\}}$ がコンパクトなら、$g$ は $\mathbb{R}^n$ から $\mathbb{R}^n$ への $C^r$ 微分同相写像であり、$Q$ を含む任意の集合 $P$ について $g(P)=P$ である。

要点:$u:=g-\mathrm{id}$ は凸集合の上で $\frac12$-Lipschitz なので $g$ は単射で、微分は正則である。あとは逆関数定理と、$\mathbb{R}^n$ の連結性による。

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1. $\|Du\|\le\frac12$ であり、$W$ は凸なので逆関数定理の記事の補題「凸開集合上の平均値の不等式」により $\lvert u(x)-u(y)\rvert\le\frac12\lvert x-y\rvert$ である。よって $\lvert g(x)-g(y)\rvert\ge\lvert x-y\rvert-\lvert u(x)-u(y)\rvert\ge\frac12\lvert x-y\rvert$ で、$g$ は単射である。$\lvert Dg(x)v\rvert\ge\lvert v\rvert-\lvert Du(x)v\rvert\ge\frac12\lvert v\rvert$ なので $Dg(x)$ は単射、したがって正則である。逆関数定理の記事の系「微分がいたるところ正則な写像」の 2 により、$g(W)$ は開集合で $g\colon W\to g(W)$ は $C^r$ 微分同相写像である。

2. 1 により $g(\mathbb{R}^n)$ は開集合である。$g(x_k)\to y$ なら、$\lvert x_k-x_l\rvert\le2\lvert g(x_k)-g(x_l)\rvert$ より $(x_k)$ は Cauchy 列で、極限 $x$ について連続性から $g(x)=y$ である。よって $g(\mathbb{R}^n)$ は閉集合でもあり、$\mathbb{R}^n$ は連結なので $g(\mathbb{R}^n)=\mathbb{R}^n$ である。$P\supset Q$ なら $g$ は $\mathbb{R}^n\setminus P$ の上で恒等写像なので $g(\mathbb{R}^n\setminus P)=\mathbb{R}^n\setminus P$ であり、$g$ は全単射なので $g(P)=\mathbb{R}^n\setminus g(\mathbb{R}^n\setminus P)=P$ である。$\square$

条件 $\|Dg-I\|\le\frac12$ は、写像が恒等写像に $C^1$ の意味で近いことを表す。1 では単射性を示すのに $W$ の凸性(平均値の不等式)を使っている。

局所有限な座標近傍の族

$0\le r\le\infty$ とし、$M$ を $n$ 次元 $C^r$ 多様体、$\mathcal{O}$ を $M$ の開被覆とする。$C^r$ 座標近傍の高々可算な族 $(U_k,\varphi_k)$ で、次を満たすものがある。

  1. $\varphi_k(U_k)=B_3$ であり、$\overline{U_k}$ はコンパクトで、$\mathcal{O}$ のある元に含まれる。
  2. $\{U_k\}$ は局所有限である(各点の近傍で、交わる $U_k$ は有限個)。
  3. $W_k:=\varphi_k^{-1}(B_1)$ の全体は $M$ を覆う。

要点:コンパクト集合による近似列の各「輪」を小さな座標球で覆う。

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$M$ は第 2 可算な局所コンパクト Hausdorff 空間(位相多様体の記事の命題「多様体の基本的な位相的性質」の 1)なので、コンパクト集合の列 $K_1\subset K_2\subset\cdots$ で $K_j\subset\operatorname{int}K_{j+1}$、$\bigcup_jK_j=M$ となるものがある(Lee13 Proposition A.60、p. 612)。$K_0=K_{-1}:=\emptyset$ とおく。

$j\ge1$ と $p\in K_j\setminus\operatorname{int}K_{j-1}$ について、$p$ の $C^r$ 座標近傍 $(V,\chi)$ を、$\chi(p)=0$ かつ $V\subset(\operatorname{int}K_{j+1}\setminus K_{j-2})\cap O$($O\in\mathcal{O}$ は $p$ を含む元)となるようにとる(座標近傍を開集合に制限しても $C^r$ 座標近傍である)。$\overline{B}_\varepsilon\subset\chi(V)$ となる $\varepsilon>0$ をとり、$U:=\chi^{-1}(B_\varepsilon)$、$\varphi:=\frac3\varepsilon\chi|_U$ とおく。$\varphi$ は $C^r$ 座標近傍と線形同型の合成なので $C^r$ 座標近傍で、$\varphi(U)=B_3$ である。$\chi^{-1}(\overline{B}_\varepsilon)$ はコンパクトなので閉集合で、$\overline{U}$ はその閉部分集合としてコンパクトであり、$V\subset O$ に含まれる。

コンパクト集合 $K_j\setminus\operatorname{int}K_{j-1}$ は開集合 $\varphi^{-1}(B_1)\ni p$ たちで覆われるので、有限個で覆える。これを $j=1,2,\dots$ について集めた族が求めるものである。3 は $\bigcup_j(K_j\setminus\operatorname{int}K_{j-1})=M$ から従う。2:$x\in M$ は、ある $m$ について開集合 $\operatorname{int}K_m$ に含まれ、$j$ 段目で選んだ $U$ は $K_{j-2}$ と交わらないので、$\operatorname{int}K_m$ と交わる $U$ は $j\le m+1$ の段のものだけで、有限個である。

次の補題は、$C^1$ 級写像を、値と 1 階微分の両方で近い $C^\infty$ 級写像で近似するものである。

軟化による近似

$W\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$F\colon W\to\mathbb{R}^m$ を $C^1$ 級写像、$K\subset W$ をコンパクト集合、$\varepsilon>0$ とする。$K\subset W'\subset W$ となる開集合 $W'$ と $C^\infty$ 級写像 $G\colon W'\to\mathbb{R}^m$ で、$W'$ の上で $\lvert G-F\rvert<\varepsilon$ かつ $\|DG-DF\|<\varepsilon$ となるものがある。

要点:$F$ を小さな半径の隆起関数で平均する(畳み込む)。平均は $C^\infty$ 級で、$F$ と $DF$ の一様連続性から、値も微分も $F$ に近い。

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$\delta_0>0$ を、$K$ の $3\delta_0$ 近傍が $W$ に含まれるようにとり、$K'':=\{x\mid\operatorname{dist}(x,K)\le2\delta_0\}$(コンパクトで $W$ に含まれる)、$W':=\{x\mid\operatorname{dist}(x,K)<\delta_0\}$ とおく。隆起関数の記事の例「球の上の隆起関数」の関数を定数倍して、$\eta\ge0$、$\eta=0$($\lvert y\rvert\ge1$)、$\int\eta=1$ となる $C^\infty$ 級関数 $\eta$ をとり、$\eta_\delta(y):=\delta^{-n}\eta(y/\delta)$ とおく。$0<\delta\le\delta_0$、$x\in W'$ について$$G_\delta(x):=\int_{\mathbb{R}^n}F(x-y)\,\eta_\delta(y)\,dy=\int_{K''}F(z)\,\eta_\delta(x-z)\,dz$$と定める($\lvert y\rvert\le\delta$ なら $x-y\in K''$)。第 2 の式で被積分関数は $x$ について $C^\infty$ 級で、その各階の偏微分は $K''$ 上連続かつ有界なので、積分記号下で微分でき、$G_\delta$ は $C^\infty$ 級である。第 1 の式で $DF$ は $K''$ 上連続なので、同様に $DG_\delta(x)=\int DF(x-y)\eta_\delta(y)\,dy$ である。$\int\eta_\delta=1$ より$$\lvert G_\delta(x)-F(x)\rvert\le\sup_{\lvert y\rvert\le\delta}\lvert F(x-y)-F(x)\rvert,\qquad\|DG_\delta(x)-DF(x)\|\le\sup_{\lvert y\rvert\le\delta}\|DF(x-y)-DF(x)\|$$であり、$F$ と $DF$ はコンパクト集合 $K''$ の上で一様連続なので、$\delta$ を十分小さくとれば右辺はどちらも $x\in W'$ について一様に $\varepsilon$ より小さい。$G:=G_\delta$ とすればよい。

次の補題が証明の中心である。$\mathbb{R}^n$ の開集合 $A$ の上に、標準の $C^r$ 構造と両立する $C^\infty$ アトラス $\beta$ があるとき、与えられた $C^r$ 級写像を、コンパクト集合の近くで $\beta$ に関して滑らかな写像に、$C^1$ の意味で少しだけ動かして取り替える。以下、$\beta$ の座標近傍 $(V,\theta)$($V\subset A$)の局所表示がすべて $C^\infty$ 級であるとき、写像が「$\beta$ に関して滑らか」であるという。

相対的な平滑化

$1\le r\le\infty$ とし、$A\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$\beta$ を $A$ の $C^\infty$ アトラスで、各座標近傍 $\theta\colon V\to\theta(V)$ が $A$ の開集合 $V$ から $\mathbb{R}^n$ の開集合への(通常の意味の)$C^r$ 微分同相写像であるものとする。$K\subset A$ をコンパクト集合、$O\subset A$ を開集合(空でもよい)、$f\colon A\to\mathbb{R}^m$ を $C^r$ 級写像で $O$ の上で $\beta$ に関して滑らかなもの、$\varepsilon>0$ とする。$C^r$ 級写像 $\tilde f\colon A\to\mathbb{R}^m$ とコンパクト集合 $L\subset A$ で、次を満たすものがある。

  1. $A\setminus L$ の上で $\tilde f=f$ である。
  2. $\tilde f$ は、$K$ を含むある開集合 $N$ の上と、$O$ の上で、$\beta$ に関して滑らかである。
  3. $A$ の上で $\lvert\tilde f-f\rvert<\varepsilon$ かつ $\|D\tilde f-Df\|<\varepsilon$ である。

要点:$K$ を $\beta$ の有限個の座標近傍で覆い、各座標の中で $f$ を lem-smcr-mollify で近似し、$\beta$ に関して滑らかな 1 の分割で貼り合わせる。1 の分割の関数の微分の大きさを先に固定してから近似の精度を選ぶのが要点である。

詳しい証明を開く

座標と隆起関数.各 $p\in K$ に $(V_p,\theta_p)\in\beta$ と、$\overline{B}(\theta_p(p),2\rho_p)\subset\theta_p(V_p)$ となる $\rho_p>0$ をとる。$\theta_p^{-1}(B(\theta_p(p),\rho_p))$ は $p$ の開近傍なので、有限個 $p_1,\dots,p_J$ で $K$ を覆える。$(V_j,\theta_j,c_j,\rho_j)$ をそれぞれの座標近傍・中心・半径とする。隆起関数の記事の例「球の上の隆起関数」により、$C^\infty$ 級関数 $b_j\colon\mathbb{R}^n\to[0,1]$ で $\overline{B}(c_j,\rho_j)$ の上で $1$、$\lvert x-c_j\rvert\ge\frac32\rho_j$ で $0$ となるものをとる。$\sigma_j$ を $V_j$ の上で $b_j\circ\theta_j$、$A\setminus V_j$ で $0$ と定める。$\operatorname{supp}\sigma_j\subset\theta_j^{-1}(\overline{B}(c_j,\tfrac32\rho_j))$ はコンパクトなので、$\sigma_j$ は $\beta$ に関して滑らかで、$\theta_j$ が $C^r$ 級なので通常の意味で $C^r$ 級である。$s:=\sum_j\sigma_j$ は開集合 $N:=\bigcup_j\theta_j^{-1}(B(c_j,\rho_j))\supset K$ の上で $1$ 以上である。

1 の分割.隆起関数の記事の例「滑らかな階段関数」の $g$ を使い、$\mu(t):=g(2t-1)\,t+\bigl(1-g(2t-1)\bigr)\tfrac12$ とおく。$\mu$ は $C^\infty$ 級で、$t\ge1$ で $\mu(t)=t$、つねに $\mu(t)\ge\frac12$ である($t\le\frac12$ なら $\mu=\frac12$、$\frac12< t<1$ なら $t$ と $\frac12$ の重み付き平均)。$\lambda_j:=\sigma_j/\mu(s)$ とおくと、$\lambda_j$ は $\beta$ に関して滑らかで通常の意味で $C^r$ 級、台は $\operatorname{supp}\sigma_j$ に含まれ、$N$ の上で $\sum_j\lambda_j=s/s=1$ である。$0\le\sigma_j\le s$ であり、$s\ge1$ の点では $\mu(s)=s$、$s<1$ の点では $\mu(s)\ge\frac12$ なので、$0\le\lambda_j\le2$ である。$C_j:=\sup\|D\lambda_j\|+2\sup_{\operatorname{supp}\sigma_j}\|D\theta_j\|$ は有限である(連続関数のコンパクト集合上の上限)。

各座標での近似.$F_j:=f\circ\theta_j^{-1}\colon\theta_j(V_j)\to\mathbb{R}^m$ は $C^r$ 級、とくに $C^1$ 級である。$\varepsilon_j:=\varepsilon/(2J(1+C_j))$ とし、lem-smcr-mollify をコンパクト集合 $\overline{B}(c_j,\tfrac32\rho_j)$ に使って、それを含む開集合 $W_j'\subset\theta_j(V_j)$ と $C^\infty$ 級写像 $G_j\colon W_j'\to\mathbb{R}^m$ で、$\lvert G_j-F_j\rvert<\varepsilon_j$、$\|DG_j-DF_j\|<\varepsilon_j$ となるものをとる。$h_j$ を $\theta_j^{-1}(W_j')$ の上で $\lambda_j\cdot(G_j\circ\theta_j-f)$、その外で $0$ と定める。$\lambda_j$ の台は開集合 $\theta_j^{-1}(W_j')$ の中のコンパクト集合なので、$h_j$ は $A$ 上の $C^r$ 級写像である。$$\tilde f:=f+\sum_{j=1}^Jh_j,\qquad L:=\bigcup_j\operatorname{supp}\sigma_j$$とおく。

1.$A\setminus L$ では各 $h_j=0$ である。2.$N$ の上では $\sum_j\lambda_j=1$ なので $\tilde f=\sum_j\lambda_j\cdot(G_j\circ\theta_j)$ であり(各項は台の外で $0$ と延ばす)、$\lambda_j$ と $G_j\circ\theta_j$ は $\beta$ に関して滑らかなので $\tilde f$ も滑らかである。$O$ の上では、$f$、$\lambda_j$、$G_j\circ\theta_j$ がすべて $\beta$ に関して滑らかなので、$\tilde f=f+\sum_j\lambda_j(G_j\circ\theta_j-f)$ も滑らかである。3.$G_j\circ\theta_j-f=(G_j-F_j)\circ\theta_j$ なので $\lvert h_j\rvert\le2\varepsilon_j$ であり、$$Dh_j=D\lambda_j\otimes\bigl((G_j-F_j)\circ\theta_j\bigr)+\lambda_j\,\bigl(D(G_j-F_j)\circ\theta_j\bigr)\,D\theta_j$$より $\|Dh_j\|\le C_j\varepsilon_j$ である($\lambda_j=0$ の外では $h_j=0$)。よって $\lvert\tilde f-f\rvert\le\sum_j2\varepsilon_j<\varepsilon$、$\|D\tilde f-Df\|\le\sum_jC_j\varepsilon_j<\varepsilon$ である。

存在の証明

方針は、可算個の座標近傍を順に取り替えていくことである。$k$ 番目の座標近傍 $\varphi_k$ を、それまでに作った座標近傍たちと $C^\infty$ 級につながるように、恒等写像に $C^1$ の意味で近い写像 $g$ を合成して $g\circ\varphi_k$ に取り替える。$g$ が恒等写像に近いので $g\circ\varphi_k$ は依然として $\alpha$ の座標近傍であり、$g$ を作るのが lem-smcr-relative、それが座標近傍であることを保証するのが lem-smcr-near-identity である。

平滑化の存在

$n=\dim M$ とする。lem-smcr-charts を $(M,\alpha)$ と $\mathcal{O}=\{M\}$ に使い、$\alpha$ の座標近傍 $(U_k,\varphi_k)$($k=1,2,\dots$)で、$\varphi_k(U_k)=B_3$、$\overline{U_k}$ はコンパクト、$\{U_k\}$ は局所有限、$W_k=\varphi_k^{-1}(B_1)$ が $M$ を覆うものをとる。$\{\overline{U_k}\}$ も局所有限なので、コンパクト集合 $\overline{U_i}$ と交わる $\overline{U_k}$ は有限個である。
帰納法の主張. $k\ge1$ について、次を満たす $C^r$ 座標近傍 $(D_i^{(k)},\chi_i)\in\alpha$($i=1,\dots,k$)を作る。

  • (a) $\varphi_i^{-1}(\overline{B}_1)\subset D_i^{(k)}\subset U_i$。
  • (b) $i,j\le k$ について $\chi_j\circ\chi_i^{-1}\colon\chi_i(D_i^{(k)}\cap D_j^{(k)})\to\chi_j(D_i^{(k)}\cap D_j^{(k)})$ は $C^\infty$ 級である。
  • (c) $i< k$ について $D_i^{(k)}\subset D_i^{(k-1)}$ であり、$\overline{U_i}\cap\overline{U_k}=\emptyset$ なら $D_i^{(k)}=D_i^{(k-1)}$ である。

段 1(古い座標近傍を縮める). $k-1$ まで作ったとする($k=1$ なら何もない)。$I_k:=\{i< k\mid\overline{U_i}\cap\overline{U_k}\ne\emptyset\}$ とおく。$i\in I_k$ について、$\varphi_i(D_i^{(k-1)})$ は $\overline{B}_1$ を含む開集合なので、$\overline{B}_{t_i}\subset\varphi_i(D_i^{(k-1)})$ となる $t_i>1$ があり、$D_i^{(k)}:=\varphi_i^{-1}(B_{t_i})$ とおく。その閉包 $\varphi_i^{-1}(\overline{B}_{t_i})$ はコンパクトで $D_i^{(k-1)}$ に含まれる。$i\notin I_k$ なら $D_i^{(k)}:=D_i^{(k-1)}$ とする。
段 2(取り替える範囲). $E:=\bigcup_{i< k}D_i^{(k-1)}$ とおき($k=1$ なら $E=\emptyset$)、
$$ C:=\varphi_k^{-1}(\overline{B}_2)\cap\bigcup_{i\in I_k}\varphi_i^{-1}(\overline{B}_{t_i}) $$
とおく。$C$ はコンパクト集合の有限和とコンパクト集合の共通部分なのでコンパクトで、$C\subset U_k\cap E$ である。$A:=\varphi_k(U_k\cap E)\subset B_3$ は開集合であり、$A$ の上の族
$$ \beta':=\bigl\{\bigl(\varphi_k(U_k\cap D_i^{(k-1)}),\ \chi_i\circ\varphi_k^{-1}\bigr)\bigm| i< k\bigr\} $$
を考える。$\chi_i\circ\varphi_k^{-1}$ は $\alpha$ の 2 つの座標近傍の座標変換なので $C^r$ 微分同相写像であり、$\beta'$ の 2 つの座標近傍の座標変換は $\chi_j\circ\chi_i^{-1}$ なので (b) により $C^\infty$ 級である。よって $\beta'$ は lem-smcr-relative の仮定を満たす。
段 3(恒等写像を少し動かす). lem-smcr-relative を $A$、$\beta'$、$K:=\varphi_k(C)$、$O:=\emptyset$、$f:=\mathrm{id}_A$、$\varepsilon:=\frac12$ に使い、$C^r$ 級写像 $\tilde f\colon A\to\mathbb{R}^n$、コンパクト集合 $L\subset A$、開集合 $N\supset\varphi_k(C)$ を得る。$g\colon B_3\to\mathbb{R}^n$ を、$A$ の上で $\tilde f$、$B_3\setminus L$ の上で恒等写像と定める($A=\emptyset$ なら $g:=\mathrm{id}$)。両者は $A\setminus L$ で一致し、$A$ と $B_3\setminus L$ は $B_3$ を覆う開集合なので、$g$ は $C^r$ 級で、$B_3$ の上で $\|Dg-I\|<\frac12$ である。$B_3$ は凸なので、lem-smcr-near-identity の 1 により $g$ は $B_3$ から開集合 $g(B_3)$ への $C^r$ 微分同相写像である。
$$ D_k^{(k)}:=\varphi_k^{-1}(B_2),\qquad\chi_k:=g\circ\varphi_k|_{D_k^{(k)}} $$
とおく。$\chi_k$ は $\alpha$ の座標近傍と $C^r$ 微分同相写像の合成なので、$\alpha$ の座標近傍である。
段 4(主張の確かめ). (a)(c) は作り方から成り立つ。(b) のうち $i,j< k$ の場合は、$k-1$ での (b) を小さな集合に制限したものである。$i< k$、$j=k$ とする。$i\notin I_k$ なら $D_i^{(k)}\cap D_k^{(k)}\subset U_i\cap U_k=\emptyset$ である。$i\in I_k$ なら $D_i^{(k)}\cap D_k^{(k)}\subset C$ であり、その点 $q$ で
$$ \chi_k\circ\chi_i^{-1}=g\circ(\chi_i\circ\varphi_k^{-1})^{-1} $$
は、$g=\tilde f$ の $\beta'$ の座標近傍 $\chi_i\circ\varphi_k^{-1}$ による局所表示であり、$\varphi_k(q)\in\varphi_k(C)\subset N$ なので $C^\infty$ 級である。逆向きの $\chi_i\circ\chi_k^{-1}$ は、この $C^\infty$ 級写像の逆写像で、この写像は $C^r$ 微分同相写像なので微分がいたるところ正則であり、逆関数定理の記事の定理「逆関数定理」の 3 により $C^\infty$ 級である。
極限. (c) により、$D_i^{(k)}$ が変わるのは $\overline{U_k}\cap\overline{U_i}\ne\emptyset$ となる $k$ だけで、有限回である。最後に変わった後の集合を $D_i$ とおく。(a) により $D_i\supset W_i$ で、$W_i$ は $M$ を覆うので、$\beta_0:=\{(D_i,\chi_i)\}_{i\ge1}$ は $M$ のアトラスである。$i< j$ について、$D_i\cap D_j\subset D_i^{(k)}\cap D_j^{(k)}$($k$ を十分大きくとる)なので、(b) により座標変換は $C^\infty$ 級である。よって $\beta_0$ は $C^\infty$ アトラスで、各座標近傍は $\alpha$ に属する。
$\beta:=\mathcal{M}_\infty(\beta_0)$ とおく。$(U,\varphi)\in\beta$ は $\beta_0$ と $C^\infty$ 級、したがって $C^r$ 級で両立するので $\mathcal{M}_r(\beta_0)$ に属し、$\beta_0\subset\alpha$ より $\mathcal{M}_r(\beta_0)=\alpha$ である。よって $\beta\subset\alpha$ であり、$\beta$ が求める $C^\infty$ 構造である。$\square$

段 1 で古い座標近傍を縮めるのは、段 3 の近似が「コンパクト集合の近く」でしか滑らかさを保証しないからである。縮めるのが各座標近傍について有限回で済むことに、$\{U_k\}$ の局所有限性と $\overline{U_k}$ のコンパクト性を使っている。

一意性の証明

方針は、恒等写像 $(M,\beta_1)\to(M,\beta_2)$($C^r$ 微分同相写像)を、座標近傍ごとに少しずつ動かして $C^\infty$ 級に直すことである。$k$ 番目の段では、$M$ の $C^r$ 微分同相写像 $\Psi_k$ で、コンパクト集合の外では恒等写像になるものを左から合成する。$\Psi_k$ は座標の中で恒等写像に $C^1$ の意味で近い写像 $\Theta$ から作り、それが微分同相写像であることを lem-smcr-near-identity の 2 で保証する。無限個の合成が意味をもつように、各点を動かす段が有限個になるよう局所有限な族を使う。

平滑化の一意性

$n=\dim M$ とし、$M$ に距離 $d$ を 1 つ固定する(位相多様体の記事の定理「多様体の分離公理・距離化・パラコンパクト性」)。$\beta_1,\beta_2\subset\alpha$ なので、$\beta_1$ の座標近傍と $\beta_2$ の座標近傍の座標変換は $C^r$ 級である。
段 0(座標近傍の選択). lem-smcr-charts を $(M,\beta_2)$ と $\mathcal{O}=\{M\}$ に使い、$\beta_2$ の座標近傍 $(V_m,\chi_m)$ で、$\overline{V_m}$ がコンパクト、$\{V_m\}$ が局所有限なものをとる。次に lem-smcr-charts を $(M,\beta_1)$ と $\mathcal{O}=\{V_m\}$ に使い、$\beta_1$ の座標近傍 $(U_k,\varphi_k)$ で、$\varphi_k(U_k)=B_3$、$\overline{U_k}$ はコンパクトで $V_{m(k)}$ に含まれ、$\{U_k\}$ は局所有限、$W_k=\varphi_k^{-1}(B_1)$ が $M$ を覆うものをとる。$(V_k',\chi_k'):=(V_{m(k)},\chi_{m(k)})$ とおく。各 $m$ について、$\overline{V_m}$ と交わる $U_k$ は有限個なので $m(k)=m$ となる $k$ は有限個であり、$\{V_k'\}$ も局所有限である。
帰納法の主張. $F_0:=\mathrm{id}_M$ から始めて、$M$ から $M$ への $C^r$ 微分同相写像($\alpha$ に関して)$F_1,F_2,\dots$ と開集合 $E_0:=\emptyset\subset E_1\subset E_2\subset\cdots$ で、次を満たすものを作る。

  • (a) $F_k$ は $E_k$ の上で $(M,\beta_1)\to(M,\beta_2)$ として $C^\infty$ 級であり、$E_k\supset\overline{W_1}\cup\dots\cup\overline{W_k}$ である。
  • (b) コンパクト集合 $L_k\subset B_3$ があり、$M\setminus\varphi_k^{-1}(L_k)$ の上で $F_k=F_{k-1}$ である。また $F_k=\Psi_k\circ F_{k-1}$ で、$\Psi_k$ は $M$ の $C^r$ 微分同相写像であり、コンパクト集合 $F_{k-1}(\varphi_k^{-1}(L_k))\subset V_k'$ の外で恒等写像である。
  • (c) すべての $j$ について $F_k(\overline{U_j})\subset V_j'$ である。
    $F_0$ は (c) を満たす($\overline{U_j}\subset V_j'$)。

段 1(座標で見る). $F_{k-1}$ まで作ったとし、$(U,\varphi):=(U_k,\varphi_k)$、$(V,\chi):=(V_k',\chi_k')$ とおく。(c) により $F_{k-1}(\overline{U})\subset V$ なので、
$$ G:=\chi\circ F_{k-1}\circ\varphi^{-1}\colon B_3\to\chi(V)\subset\mathbb{R}^n $$
が定まる。$G$ は $C^r$ 級で、$B_3$ から開集合 $G(B_3)$ への $C^r$ 微分同相写像であり、$\varphi\in\beta_1$、$\chi\in\beta_2$ なので、$G$ は開集合 $O':=\varphi(U\cap E_{k-1})$ の上で(通常の意味で)$C^\infty$ 級である。
段 2(精度の選択). $c:=\sup_{x\in\overline{B}_{5/2}}\|DG(x)^{-1}\|$ は有限である。コンパクト集合 $G(\overline{B}_{5/2})$ は開集合 $\chi(V)$ に含まれるので、$\delta'>0$ を、$Q':=\{z\mid\operatorname{dist}(z,G(\overline{B}_{5/2}))\le\delta'\}\subset\chi(V)$ となるようにとる。$\overline{U_j}\cap\overline{U}\ne\emptyset$ となる $j$ は有限個で、そのような $j$ について $F_{k-1}(\overline{U_j})$ はコンパクトで開集合 $V_j'$ に含まれるので、$\eta>0$ を、これらの $j$ すべてについて $F_{k-1}(\overline{U_j})$ の $\eta$ 近傍(距離 $d$ で)が $V_j'$ に含まれるようにとる。$\chi^{-1}$ はコンパクト集合 $Q'$ の上で一様連続なので、$\delta''\in(0,\delta']$ を、$z,z'\in Q'$、$\lvert z-z'\rvert<\delta''$ なら $d(\chi^{-1}(z),\chi^{-1}(z'))<\eta$ となるようにとる。$\varepsilon:=\min\{\frac1{2c},\delta''\}$ とおく。
段 3(近似). lem-smcr-relative を、$A:=B_{5/2}$、$\beta:=\{(B_{5/2},\mathrm{id})\}$(通常の滑らかさ)、$K:=\overline{B}_1$、$O:=O'\cap B_{5/2}$、$f:=G|_{B_{5/2}}$、$\varepsilon$ に使い、$\tilde G\colon B_{5/2}\to\mathbb{R}^n$、コンパクト集合 $L:=L_k\subset B_{5/2}$、開集合 $N\supset\overline{B}_1$ を得る。$\tilde G$ を $B_3\setminus L$ の上で $G$ と定めて $B_3$ 全体に延ばす($C^r$ 級)。$\tilde G$ は $N\cup O'$ の上で $C^\infty$ 級で、$\lvert\tilde G-G\rvert<\varepsilon$、$\|D\tilde G-DG\|<\varepsilon$ である。
段 4(微分同相写像 $\Theta$). $\Theta\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$ を、$G(B_3)$ の上で $\tilde G\circ G^{-1}$、その外で恒等写像と定める。$G(B_3)\setminus G(L)$ の上で $\Theta=\mathrm{id}$ であり、$G(L)$ はコンパクトなので、$\Theta$ は $C^r$ 級で $\{\Theta\ne\mathrm{id}\}$ の閉包は $G(L)$ に含まれる。$G(B_3)$ の上で
$$ D\Theta-I=\bigl((D\tilde G-DG)\,(DG)^{-1}\bigr)\circ G^{-1} $$
であり、$G^{-1}(z)\in L\subset\overline{B}_{5/2}$ の点以外では左辺は $0$ なので、$\|D\Theta-I\|\le\varepsilon c\le\frac12$ である。lem-smcr-near-identity の 2 により、$\Theta$ は $\mathbb{R}^n$ の $C^r$ 微分同相写像で、$\chi(V)\supset G(L)$ を自分自身に写す。さらに $z\in G(L)$ なら $\lvert\Theta(z)-z\rvert=\lvert\tilde G(x)-G(x)\rvert<\varepsilon$($z=G(x)$)なので、$z,\Theta(z)\in Q'$ である。
段 5($F_k$ の定義). $\Psi_k\colon M\to M$ を、$V$ の上で $\chi^{-1}\circ\Theta\circ\chi$、$V$ の外で恒等写像と定める。$\Psi_k$ はコンパクト集合 $\chi^{-1}(G(L))=F_{k-1}(\varphi^{-1}(L))$ の外で恒等写像なので、$M$ の $C^r$ 微分同相写像である(逆写像は $\Theta^{-1}$ から同じように作る)。$F_k:=\Psi_k\circ F_{k-1}$ とおく。$\Theta\circ G=\tilde G$ なので、$U$ の上で
$$ F_k=\chi^{-1}\circ\tilde G\circ\varphi $$
である。$F_k(x)\ne F_{k-1}(x)$ なら $F_{k-1}(x)\in F_{k-1}(\varphi^{-1}(L))$、すなわち $x\in\varphi^{-1}(L)$ なので (b) が成り立つ。
段 6(主張の確かめ). (a):$U$ の上で $F_k=\chi^{-1}\circ\tilde G\circ\varphi$ は $\varphi^{-1}(N\cup O')$ の上で $C^\infty$ 級である。$E_{k-1}$ の点 $x$ で $x\notin U$ なら、$x$ は閉集合 $\varphi^{-1}(L)$ の外にあり、その近傍で $F_k=F_{k-1}$ は $C^\infty$ 級である。よって $E_k:=E_{k-1}\cup\varphi^{-1}(N)$ の上で $F_k$ は $C^\infty$ 級で、$\varphi^{-1}(N)\supset\varphi^{-1}(\overline{B}_1)=\overline{W_k}$ である。(c):$F_k(\overline{U_j})\ne F_{k-1}(\overline{U_j})$ となりうるのは $\overline{U_j}\cap\varphi^{-1}(L)\ne\emptyset$ の $j$ だけで、段 2 の有限個の $j$ に含まれる。$\Psi_k$ は各点 $y=\chi^{-1}(z)$($z\in G(L)$)を $d(\Psi_k(y),y)<\eta$ の範囲でしか動かさない(段 2・段 4)ので、$F_k(\overline{U_j})$ は $F_{k-1}(\overline{U_j})$ の $\eta$ 近傍に含まれ、$V_j'$ に含まれる。
極限. $\{U_k\}$ は局所有限なので、各点 $x$ は、有限個の $U_k$ としか交わらない近傍 $P_x$ をもつ。(b) により $k$ がそれより大きければ $P_x$ の上で $F_k=F_{k-1}$ なので、$P_x$ の上で $F_k$ はある番号 $k(x)$ 以降一定である。これを $F$ と書く。

  • $F$ は $C^\infty$ 級:$x\in\overline{W_j}$ となる $j$ をとり、$k\ge\max\{j,k(x)\}$ とすると、$x$ の近傍 $P_x\cap E_k$ の上で $F=F_k$ は $C^\infty$ 級である((a))。$F=F_k$ は局所的に $C^r$ 微分同相写像なので微分は正則であり、$F$ は各点で局所微分同相写像である(微分同相写像の記事の命題「局所微分同相の判定」)。
  • $F$ は単射:$F(x)=F(y)$ なら、$k\ge\max\{k(x),k(y)\}$ について $F_k(x)=F_k(y)$ で、$F_k$ は単射なので $x=y$ である。
  • $F$ は全射:$y\in M$ をとる。(b) により $F_k^{-1}(y)\ne F_{k-1}^{-1}(y)$ となるのは $\Psi_k^{-1}(y)\ne y$、とくに $y\in V_k'$ の場合だけで、$\{V_k'\}$ は局所有限なのでそのような $k$ は有限個である。よってある番号以降 $F_k^{-1}(y)=x$ は一定で、$k\ge k(x)$ もとれば $F(x)=F_k(x)=y$ である。
    $F$ は全単射な局所微分同相写像なので、微分同相写像の記事の定理「全単射な局所微分同相は微分同相」により $C^\infty$ 微分同相写像 $(M,\beta_1)\to(M,\beta_2)$ である。$\square$

例

実数直線の 2 つの $C^\infty$ 構造

$\psi(t):=t+t\lvert t\rvert$ とすると、$\beta_1:=\mathcal{M}_\infty(\{(\mathbb{R},\mathrm{id})\})$ と $\beta_2:=\mathcal{M}_\infty(\{(\mathbb{R},\psi)\})$ は異なる $C^\infty$ 構造だが、どちらも標準の $C^1$ 構造 $\alpha$ と両立する(C^r多様体の記事の例「同じ $C^1$ 構造の下にある 2 つの $C^\infty$ 構造」)。thm-smcr-uniqueness が保証する $C^\infty$ 微分同相写像は、この場合 $F:=\psi^{-1}\colon(\mathbb{R},\beta_1)\to(\mathbb{R},\beta_2)$ で与えられる:局所表示 $\psi\circ\psi^{-1}\circ\mathrm{id}^{-1}=\mathrm{id}$ は $C^\infty$ 級で、逆写像の局所表示も恒等写像である。恒等写像 $(\mathbb{R},\beta_1)\to(\mathbb{R},\beta_2)$ は、局所表示 $\psi$ が $C^2$ 級でないので $C^\infty$ 微分同相写像でない。一意性が「構造の一致」でなく「微分同相」でしか成り立たないことを示す例である。

$C^1$ 級の部分多様体

$h\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $C^1$ 級だが $C^2$ 級でない関数(例えば $h(t)=t\lvert t\rvert$)とし、$g(x,y,z):=x^2+y^2+(z-h(x))^2-1$ とおく。$g$ は $C^1$ 級で、$g^{-1}(0)$ の上で $\partial g/\partial z=2(z-h(x))$ と $\partial g/\partial y=2y$、および $\partial g/\partial x=2x-2(z-h(x))h'(x)$ は同時には消えない($y=0$、$z=h(x)$ なら $x^2=1$ で $\partial g/\partial x=2x\ne0$)。よって $S:=g^{-1}(0)$ は陰関数定理により $2$ 次元 $C^1$ 多様体である(C^r多様体の記事の例「$C^r$ 多様体の例」の 2)。$S$ は写像 $(x,y,z)\mapsto(x,y,z-h(x))$($\mathbb{R}^3$ の $C^1$ 微分同相写像)で単位球面に写るので、$S$ は $C^1$ 多様体として $S^2$ と $C^1$ 微分同相であり、thm-smcr-existence が与える $C^\infty$ 構造は、cor-smcr-diffeo により $S^2$ の標準の構造と $C^\infty$ 微分同相である。

$r=0$ では成り立たない

主定理の仮定 $r\ge1$ は外せない。$r=0$ の $C^0$ 構造はただ 1 つ(位相そのもの)なので(C^r多様体の記事の命題「$C^0$ 構造は位相だけで決まる」)、主定理を $r=0$ で読むと「すべての位相多様体は $C^\infty$ 構造をもち、それは微分同相を除いて一意」となるが、これは存在・一意性ともに成り立たない。以下の例はいずれも深い定理で、この記事では証明しない。詳しくは表の各記事で扱う。

外す条件反例成り立たなくなること
$r\ge1$(存在)Freedman の $E_8$ 多様体(閉 $4$ 次元位相多様体、E8多様体)$C^0$ 構造は $C^\infty$ 構造を含む
$r\ge1$(存在)Kervaire の $10$ 次元多様体(Kervaire多様体)同上
$r\ge1$(一意性)Milnor の異種 $7$ 次元球面(異種球面)$C^0$ 構造に含まれる $C^\infty$ 構造は微分同相を除いて一意
$r\ge1$(一意性)エキゾチックな $\mathbb{R}^4$(エキゾチックR⁴)同上
$r\ge1$(cor-smcr-diffeo)$S^7$ と異種 $7$ 次元球面同相な $C^\infty$ 多様体は微分同相
反例の所在
  1. Freedman は、交叉形式が $E_8$ 形式である閉単連結 $4$ 次元位相多様体 $V$ を構成した(Rud01 Theorem 7.2、p. 42)。$V$ は PL 構造をもたず(Rud01 Corollary 7.4、p. 42。Rokhlin の定理による)、滑らかな多様体は PL 構造をもつ(Cairns–Whitehead の定理、Rud01 Remark 3.11、p. 34)ので、$V$ は $C^\infty$ 構造をもたない。thm-smcr-existence により $C^1$ 構造ももたない。満たす性質は「位相多様体である($C^0$ 構造をもつ)」こと、満たさない性質は「$C^\infty$ 構造をもつ」ことで、$r=0$ での存在の主張を破る。
  2. Kervaire は、滑らかな構造をもたない(組合せ的な三角形分割はもつ)閉 $10$ 次元多様体を 1959–1960 年に構成した(Lee13 Ch. 1、p. 13、Kos93 Ch. II §6、p. 40)。$4$ 以上のすべての次元に、滑らかな構造をもたないコンパクトな位相多様体がある(Lee13 Ch. 2、p. 40)。
  3. Milnor は、$S^7$ と同相だが微分同相でない滑らかな多様体を構成した(1956)。$S^7$ と同相な滑らかな多様体は、向きを保つ微分同相で 28 個、向きを問わない微分同相で 15 個の類に分かれる(Kervaire–Milnor、Rud01 Example 3.13、pp. 34–35、Lee13 Ch. 2、p. 40)。位相多様体 $S^7$ の $C^0$ 構造は 1 つだが、それに含まれる $C^\infty$ 構造は微分同相を除いて一意でなく、同相な $C^\infty$ 多様体が微分同相とは限らない(cor-smcr-diffeo の $r=0$ 版が破れる)。
  4. $\mathbb{R}^4$ には、互いに微分同相でない滑らかな構造が非可算個ある(Lee13 Ch. 2、p. 40。標準でない構造の存在を最初に示したのは Donaldson と Freedman)。$n\ne4$ なら $\mathbb{R}^n$ の滑らかな構造は微分同相を除いて一意である(同所)。

これらの反例が示すように、構造の違いは $C^0$ と $C^1$ の間にだけあり、そこには PL 構造・三角形分割・Lipschitz 構造などの中間の構造がある(多様体の構造の階層)。

関連項目

参考文献

[1]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 2 §2:Theorem 2.6(C^s 写像の稠密性、p. 49)、Theorem 2.7(C^r 微分同相なら C^s 微分同相、p. 50)、Lemma 2.8(p. 50)、両立する C^s 構造の定義と Theorem 2.9(C^r 構造は両立する C^s 構造を含み C^s 微分同相を除いて一意、p. 51)、Theorem 2.10(p. 52)
[2]
Hassler Whitney, Differentiable manifolds, Annals of Mathematics, Annals of Mathematics (2) 37 (1936), no. 3, 645–680。§1(C^r 多様体の定義、pp. 646–648)、§8 Theorem 1(r≥1 の C^r 多様体は E^{2m+1} の解析的な多様体と C^r 同相、p. 654)
[3]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. I §1(p. 2、C^r 構造は C^∞ 構造を含む(Whitney)、p. 5、C^r 微分同相な滑らかな多様体は C^∞ 微分同相)、Ch. II §6(p. 40、Kervaire の滑らかにできない組合せ的多様体)
[4]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2013, Ch. 1(p. 13、Kervaire の滑らかな構造をもたない 10 次元多様体)、Ch. 2(p. 40、R^4 の滑らかな構造・異種 7 次元球面・4 次元以上の滑らかな構造をもたないコンパクト位相多様体)、Proposition A.60(コンパクト集合による近似列、p. 612)
[5]
Yuli B. Rudyak, Piecewise Linear Structures on Topological Manifolds, arXiv:math/0105047, arXiv:math/0105047v2(2014-12-24。のち World Scientific 2016 から同名の本として刊行)。Remark 3.11(Cairns–Whitehead の定理、p. 34)、Example 3.13(S^7 の滑らかな構造、28 と 15、pp. 34–35)、Theorem 7.2・Corollary 7.4(Freedman の E_8 多様体は PL 構造をもたない、p. 42)

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