Thomae関数(Thomae's function)とは、有理数 $x$ を既約分数 $p/q$($q\ge1$)に書いたとき $1/q$、無理数で $0$ をとる実数直線上の関数である。各点での極限がつねに $0$ になるので、無理数でちょうど連続、有理数でちょうど不連続であり、不連続点が稠密なのに、どの有界閉区間でも Riemann 積分可能で積分は $0$ になる。積分を上端の関数とみると恒等的に $0$ で、その導関数は有理数でもとの関数と一致しない。上半連続性、可積分な関数の合成が可積分にならない例、連続関数の単調減少列による各点近似などとあわせて、微分積分の定理の仮定が外せないことを示す反例を多く与える。
Thomae関数(Thomae's function)は、有理数 $x$ を既約分数 $p/q$($q\ge1$)に書いたとき $1/q$、無理数では $0$ をとる実数直線上の関数である。値が $0$ でない点は稠密にあるのに、各点での極限はつねに $0$ になる。そのため、無理数でちょうど連続で有理数でちょうど不連続であり、不連続点が稠密なのにどの区間でも Riemann 積分可能で積分は $0$ になる。この記事ではこれらに加え、積分を上端の関数とみたときの微分、上半連続性、合成と可積分性、連続関数の単調な列による近似を証明する。どれも、微分積分の定理の仮定が外せないことを示す反例になる。
関数 $T\colon\mathbb R\to\mathbb R$ を次で定める。
有理数を $q\ge1$ の既約分数 $p/q$ に書く方法はただ一つである(有理数 の記事の定理「既約分数による標準形」)ので、$T$ は矛盾なく定まる。整数 $m$ は $m/1$ と書けるので $T(m)=1$ であり、とくに $T(0)=1$ である。以下、有理数 $x$ について「$x$ の分母」といえば、この既約分数の分母 $q$ のことをいう。
定義から $0\le T(x)\le1$ であり、$T(x)=1$ となるのは $x$ が整数のときちょうどである。$x=p/q$ が既約なら $x+1=(p+q)/q$ も既約($\gcd(p+q,q)=\gcd(p,q)=1$)なので、$T(x+1)=T(x)$、すなわち $T$ は周期 $1$ をもつ。同様に $T(-x)=T(x)$ である。
| $x\in[0,1]$ | $0,\,1$ | $\frac12$ | $\frac13,\,\frac23$ | $\frac14,\,\frac34$ | $\frac15,\,\frac25,\,\frac35,\,\frac45$ | 無理数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| $T(x)$ | $1$ | $\frac12$ | $\frac13$ | $\frac14$ | $\frac15$ | $0$ |
グラフは、高い点ほどまばらで低い点ほど密に散らばる点の集まりで、英語では popcorn function とも呼ばれる。
Thomae関数の性質のほとんどは、値が大きい点は有界な範囲に有限個しかない、という次の事実から出てくる。
$a\le b$ を実数、$N\ge1$ を整数とする。$[a,b]$ に含まれる有理数のうち分母が $N$ 以下のものは有限個であり、その個数は $\sum_{q=1}^{N}\bigl(q(b-a)+1\bigr)$ 以下である。言い換えると、集合 $\{x\in[a,b]\mid T(x)\ge1/N\}$ は有限集合である。
分母が $q$ の有理数 $p/q$ が $[a,b]$ にあれば $qa\le p\le qb$ である。長さ $q(b-a)$ の閉区間に含まれる整数 $p$ は $q(b-a)+1$ 個以下なので、$q=1,\dots,N$ について足せば個数の評価を得る。$T(x)\ge1/N$ は「$x$ が有理数で、分母が $N$ 以下」と同値である。
すべての実数 $a$ について
$$
\lim_{x\to a}T(x)=0
$$
である($x\ne a$ として $x$ を $a$ に近づける極限)。したがって $T$ は無理数の各点で連続であり、有理数の各点で不連続である。有理数 $a$ でも、左極限と右極限はともに $0$ である。
$\varepsilon>0$ をとり、$1/N<\varepsilon$ となる整数 $N\ge1$ を選ぶ。lem-thomae-small-denominators により、$[a-1,a+1]$ に含まれ $T(x)\ge1/N$ となる点は有限個である。そこから $a$ 自身を除いた有限集合を $K$ とし、
$$
\delta:=\min\bigl(\{1\}\cup\{|y-a|\mid y\in K\}\bigr)
$$
とおく。$K$ の点はどれも $a$ と異なるので $\delta>0$ である。$0<|x-a|<\delta$ なら $x\in[a-1,a+1]$ かつ $x\notin K\cup\{a\}$ なので $T(x)<1/N<\varepsilon$ であり、$T(x)\ge0$ とあわせて $|T(x)-0|<\varepsilon$ となる。よって $\lim_{x\to a}T(x)=0$ である。
$T$ が $a$ で連続であることは $\lim_{x\to a}T(x)=T(a)$ と同値であり、極限は $0$ なので、これは $T(a)=0$、すなわち $a$ が無理数であることと同値である。左右の極限は、両側からの極限 $0$ に一致する。
有理数全体も無理数全体も実数直線で稠密なので、$T$ の連続点の集合と不連続点の集合はどちらも稠密である。また、有理点 $a$ では極限 $0$ が存在し、値 $T(a)>0$ とだけ食い違う。$a$ での値だけを $0$ に替えれば $a$ で連続になるので、$T$ の不連続点はすべて除去可能な不連続点である。
$T$ は「無理数でちょうど連続、有理数でちょうど不連続」な関数であるが、逆に「有理数でちょうど連続、無理数でちょうど不連続」な関数 $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ は存在しない。実際、どの関数についても不連続点全体は $F_\sigma$-集合で、連続点全体はその補集合として $G_\delta$-集合になる(F_σ-集合 の記事の命題「不連続点全体は $F_\sigma$-集合」)が、有理数全体は $G_\delta$-集合でない(同じ記事の命題「有理数全体は $G_\delta$-集合でない」)。
不連続な点では微分可能でないので、問題は無理点である。無理数は、分母の割にとても近い有理数で近似できるので、そこでも差分商が大きくなる。
$x$ を実数、$N\ge1$ を整数とする。整数 $p,q$ で、$1\le q\le N$ かつ $|qx-p|<\dfrac1N$ を満たすものが存在する。
$N+1$ 個の数 $kx$($k=0,\dots,N$)の小数部分を $N$ 個の箱に分けて 鳩の巣原理 を使う。
実数 $y$ の小数部分を $\{y\}:=y-\lfloor y\rfloor\in[0,1)$ と書く。$N+1$ 個の数 $\{kx\}$($k=0,1,\dots,N$)を、$N$ 個の区間 $[j/N,(j+1)/N)$($j=0,\dots,N-1$)に入れる。鳩の巣原理 により、ある $0\le k< l\le N$ について $\{kx\}$ と $\{lx\}$ は同じ区間に入り、$|\{lx\}-\{kx\}|<1/N$ となる。$q:=l-k$、$p:=\lfloor lx\rfloor-\lfloor kx\rfloor$ とおくと $1\le q\le N$ であり、$qx-p=\{lx\}-\{kx\}$ なので $|qx-p|<1/N$ である。$\square$
$T$ はどの点でも微分可能でない。
有理点では $T$ は不連続(thm-thomae-limit)なので微分可能でない。無理点 $x$ では、lem-thomae-dirichlet の有理数 $p/q$ が $x$ に $1/(qN)$ 未満まで近く、そこでの値が $1/q$ 以上なので、差分商が $N$ を超える。
$x$ を無理数とする。各 $N\ge1$ について lem-thomae-dirichlet の $p_N,q_N$ をとり、$r_N:=p_N/q_N$ とおく。$x$ は無理数なので $r_N\ne x$ であり、$|r_N-x|=|q_Nx-p_N|/q_N< 1/(q_NN)\le1/N$ である。$r_N$ の分母(既約にしたときの分母)は $q_N$ 以下なので $T(r_N)\ge1/q_N$ であり、$T(x)=0$ だから $\bigl|(T(r_N)-T(x))/(r_N-x)\bigr|>(1/q_N)\cdot q_NN=N$ となる。$r_N\to x$ に沿って差分商は有界でないので、$T$ は $x$ で(有限の)微分係数をもたない。$\square$
区間 $[a,b]$ 上の Riemann 積分は Riemann積分 の記事の定義(分割 $P$ に関する下限和 $L(P,f)$ と上限和 $U(P,f)$ による定義)で考える。
$a< b$ とする。$T$ は $[a,b]$ 上で Riemann 積分可能であり、
$$
\int_a^bT(x)\,dx=0
$$
である。$\int_a^aT:=0$、$\int_b^aT:=-\int_a^bT$ の約束とあわせると、すべての実数 $a,b$ について $\int_a^bT(x)\,dx=0$ となる。
下限和.長さが正のどの区間にも無理数がある(Riemann積分 の記事の例「反例:至るところ不連続な関数」の議論)。$T\ge0$ で無理点では $T=0$ なので、どの分割 $P$ のどの小区間でも下限は $0$ であり、$L(P,T)=0$ である。
上限和.$\varepsilon>0$ をとり、$(b-a)/N<\varepsilon/2$ となる整数 $N\ge1$ を選ぶ。lem-thomae-small-denominators により $K:=\{x\in[a,b]\mid T(x)\ge1/N\}$ は有限集合で、その個数を $M$ とする。$[a,b]$ を $k$ 等分する分割 $P$(幅 $h:=(b-a)/k$)を、$2Mh<\varepsilon/2$ となるようにとる。$K$ の点を含む小区間を「悪い小区間」と呼ぶ。1 点は高々 2 つの閉小区間にしか含まれないので、悪い小区間は高々 $2M$ 個であり、そこでの上限は $1$ 以下である。悪くない小区間では、すべての点で $T(x)<1/N$ なので上限は $1/N$ 以下である。したがって
$$
U(P,T)\le2M\cdot h\cdot1+\frac1N\,(b-a)<\frac\varepsilon2+\frac\varepsilon2=\varepsilon
$$
である($M=0$ でも同じ式が成り立つ)。
結論.$U(P,T)-L(P,T)<\varepsilon$ なので、Riemann積分 の記事の定理「可積分性の判定条件」により $T$ は積分可能で、$0=L(P,T)\le\int_a^bT\le U(P,T)<\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意なので $\int_a^bT=0$ である。残りの主張は約束から従う。
不連続点全体 $\mathbb Q$ は測度 $0$ なので、この結果は Lebesgue の判定条件(Riemann積分 の記事の注意「可積分な関数の範囲」)とも合う。不連続点が稠密な可積分関数には単調関数の例もある(GO03 Chapter 2, Examples 18–19、p. 28。可積分であることは Riemann積分 の記事の命題「単調関数の可積分性」による)が、$T$ はどの区間でも単調でない。
長さが正のどの区間 $J$ の上でも、$T$ は単調増加でも単調減少でもない。
$J$ の内部に有理数 $r$ をとり、さらに $J$ の点で $u< r< v$ となる無理数 $u,v$ をとる(有理数も無理数も稠密)。$T(u)=0< T(r)$ なので $T$ は $J$ 上で単調減少でなく、$T(r)>0=T(v)$ なので単調増加でもない。
$F(x):=\displaystyle\int_0^xT(t)\,dt$($x\in\mathbb R$)とおく。$F$ は恒等的に $0$ であり、すべての点で微分可能で $F'(x)=0$ である。したがって $F'(x)=T(x)$ となるのは $x$ が無理数のときちょうどであり、$F'$ と $T$ は稠密な集合 $\mathbb Q$ の各点で値が異なる。
thm-thomae-integral により、すべての $x$ で $F(x)=\int_0^xT=0$ である。よって任意の $x$ と $h\ne0$ で $(F(x+h)-F(x))/h=0$ となり、$F'(x)=0$ である。$T(x)=0$ となるのは $x$ が無理数のときちょうどなので、残りの主張が従う。
微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」は、被積分関数 $f$ が点 $c$ で連続なら $F'(c)=f(c)$ であることを保証する。$T$ の不連続点(有理点)では、$F$ は微分可能なのに $F'(c)\ne T(c)$ となるので、点 $c$ での連続性の仮定は外せない。さらに、$T$ を導関数にもつ関数はどの区間にもない。
長さが正のどの区間 $I$ の上でも、$T$ は原始関数をもたない。すなわち、$I$ の各点で微分可能で $G'=T$ となる関数 $G\colon I\to\mathbb R$ は存在しない。
導関数は中間値の性質をもつが、$T$ は $0$ と $1/q$ の間の値 $2/(2q+1)$ をとらない。
そのような $G$ があったとする。Darbouxの定理(導関数の中間値) の定理「Darboux の定理」により、$T=G'$ は $I$ 上で中間値の性質をもつ。$I$ の点で、有理数 $r$(分母を $q$ とする)と無理数 $s$ をとると、$T(r)=1/q$、$T(s)=0$ である。$\lambda:=\dfrac2{2q+1}$ は $0<\lambda<1/q$ を満たすので、$r$ と $s$ の間のある点で $T$ は値 $\lambda$ をとるはずである。しかし $T$ の値は $0$ と $1/m$($m\ge1$ は整数)だけであり、$1/m=2/(2q+1)$ なら $2m=2q+1$ となって偶奇が合わない。これは矛盾である。$\square$
$T$ はすべての点で上半連続である。$T$ が下半連続になる点は、ちょうど無理数である(半連続性)。
上半連続性は、$a$ の近くで $T$ が極限 $0$ に近いことから従う。
$a$ を実数、$c>T(a)$ とする。thm-thomae-limit により $\lim_{x\to a}T(x)=0\le T(a)< c$ なので、ある $\delta>0$ について $0<|x-a|<\delta$ なら $T(x)< c$ である。$T(a)< c$ でもあるので、$\{x\mid T(x)< c\}$ は $a$ の近傍であり、$T$ は $a$ で上半連続である。有理点 $a$ では $T(a)>0$ だが、$a$ のどの近傍にも $T=0$ となる無理点があるので、$0< c< T(a)$ をとると $\{x\mid T(x)>c\}$ は $a$ の近傍でなく、下半連続でない。無理点 $a$ では $T(a)=0$ が $T$ の最小の値なので下半連続である。$\square$
$a< b$ とし、$[a,b]$ 上の Riemann 積分可能な関数 $f,g$ に対して
$$
d(f,g):=\int_a^b|f(x)-g(x)|\,dx
$$
とおく。$|f-g|$ は積分可能であり(Riemann積分 の記事の命題「積分の単調性と絶対値の評価」)、積分の線形性と単調性から $d(f,g)=d(g,f)\ge0$ と三角不等式 $d(f,h)\le d(f,g)+d(g,h)$ が成り立つ。
$f,g$ が $[a,b]$ 上で連続で $d(f,g)=0$ なら、$f=g$ である。
$|f-g|$ が正になる点の近くで、積分が正の値で下から押さえられる。
$h:=|f-g|$ は連続で $h\ge0$ である。ある $c\in[a,b]$ で $h(c)>0$ とすると、連続性から長さ $\eta>0$ の区間 $J\subset[a,b]$ で $c\in J$ かつ $J$ 上で $h>h(c)/2$ となるものがある。区間についての加法性と単調性(Riemann積分 の記事)から $\int_a^bh\ge\int_Jh\ge\eta\,h(c)/2>0$ となり、$d(f,g)=0$ に反する。$\square$
$T$ の $[a,b]$ への制限と恒等的に $0$ の関数は、どちらも上半連続な Riemann 積分可能関数で、$d(T,0)=0$ を満たすが、$[a,b]$ の各有理点で値が異なる。とくに $d$ は $[a,b]$ 上の Riemann 積分可能な関数全体の上の擬距離であるが、距離ではない。
上半連続性は prop-thomae-usc(制限しても近傍の条件は保たれる)と、定数関数が連続であることから従う。$|T-0|=T$ なので、thm-thomae-integral により $d(T,0)=\int_a^bT=0$ である。$[a,b]$ は有理点 $r$ を含み、そこで $T(r)>0$ である。
$d$ を距離にするには、$d(f,g)=0$ となる関数どうしを同じものとみなす必要がある。Lebesgue 積分でほとんど至るところ等しい関数を同一視したものが L^p空間($p=1$)である。
$[0,1]$ 上の関数 $f$ を $f(0):=0$、$0< y\le1$ で $f(y):=1$ と定め、$g$ を $T$ の $[0,1]$ への制限とする。$f,g$ はどちらも $[0,1]$ 上で Riemann 積分可能であり、$g$ の値は $[0,1]$ に入るので合成 $f\circ g$ が定まる。しかし $f\circ g$ は $[0,1]$ 上で Riemann 積分可能でない。
実際、$f$ については、分割 $P=\{x_0,\dots,x_n\}$ に対して最初の小区間 $[0,x_1]$ での下限が $0$、ほかの下限と上限はすべて $1$ なので、$U(P,f)-L(P,f)=x_1$ である。$x_1$ はいくらでも小さくとれるので $f$ は積分可能である(Riemann積分 の記事の定理「可積分性の判定条件」)。$g$ の可積分性は thm-thomae-integral である。$x\in[0,1]$ が有理数なら $g(x)=1/q>0$ なので $f(g(x))=1$、無理数なら $g(x)=0$ なので $f(g(x))=0$ である。よって $f\circ g$ は有理数で $1$、無理数で $0$ をとる Dirichlet の関数であり、Riemann積分 の記事の例「反例:至るところ不連続な関数」により積分可能でない。
外側の関数が連続なら、このようなことは起こらない。
$g\colon[a,b]\to\mathbb R$ が Riemann 積分可能で、その値が区間 $[m,M]$ に入るとし、$\varphi\colon[m,M]\to\mathbb R$ が連続であるとする。このとき $\varphi\circ g$ は $[a,b]$ 上で Riemann 積分可能である。
$\varphi\circ g$ の不連続点は $g$ の不連続点に含まれるので、Lebesgue の判定条件を使う。
$\varphi$ は有界閉区間上で連続なので有界であり、$\varphi\circ g$ も有界である。$g$ が点 $c$ で連続なら、連続関数の合成として $\varphi\circ g$ も $c$ で連続である。よって $\varphi\circ g$ の不連続点の集合は $g$ の不連続点の集合に含まれる。Riemann積分 の記事の注意「可積分な関数の範囲」に述べられた Lebesgue の判定条件により、$g$ の不連続点の集合は測度 $0$ であり、その部分集合も測度 $0$ なので、同じ判定条件から $\varphi\circ g$ は積分可能である。$\square$
ex-thomae-composition では、外側の $f$ が不連続になる点 $0$ を、内側の $T$ が稠密な集合(無理点の全体)でとるので、合成の不連続点が区間全体に広がる。
$T$ は、有理点の上に山を立てた連続な折れ線の列の極限として表せる。実数 $y$ と最も近い整数との距離を
$$
\rho(y):=\min_{k\in\mathbb Z}|y-k|
$$
と書く。$\rho(y+1)=\rho(y)$、$\rho(-y)=\rho(y)$ であり、各 $k$ について $|y-k|\le|y'-k|+|y-y'|$ なので $|\rho(y)-\rho(y')|\le|y-y'|$ である。同様に $\rho(y+y')\le\rho(y)+\rho(y')$ である。$\rho(x-r)$ は、点 $x$ から集合 $r+\mathbb Z$ までの距離である。
整数 $n\ge1$ に対し
$$
F_n:=\Bigl\{\frac pq\Bigm| p,q\in\mathbb Z,\ 0\le p< q< n,\ \gcd(p,q)=1\Bigr\}
$$
とおき($F_1=\emptyset$、$F_2=\{0\}$、$F_3=\{0,\frac12\}$)、
$$
G_n(x):=\max\Bigl(\Bigl\{\frac1n\Bigr\}\cup\Bigl\{\frac1q-2n^2\rho\Bigl(x-\frac pq\Bigr)\Bigm|\frac pq\in F_n\Bigr\}\Bigr)\qquad(x\in\mathbb R)
$$
と定める。$F_n$ の元 $p/q$ はつねにこの既約な形で書き、$q$ をその分母とする。
$G_n$ は、高さ $1/n$ の水平な線の上に、各 $p/q+k$($p/q\in F_n$、$k\in\mathbb Z$)を頂点とする高さ $1/q$、傾き $\pm2n^2$ の山を立てた関数である。最初のいくつかを表にする。
| $n$ | 山の頂点($[0,1)$ の中) | 頂点の高さ | 水平な部分の高さ | 山の斜面の傾き |
|---|---|---|---|---|
| $1$ | なし | — | $1$ | — |
| $2$ | $0$ | $1$ | $\frac12$ | $\pm8$ |
| $3$ | $0,\ \frac12$ | $1,\ \frac12$ | $\frac13$ | $\pm18$ |
| $5$ | $0,\ \frac12,\ \frac13,\ \frac23,\ \frac14,\ \frac34$ | $1,\ \frac12,\ \frac13,\ \frac13,\ \frac14,\ \frac14$ | $\frac15$ | $\pm50$ |
証明では、頂点どうしが十分離れていることを使う。$F_n$ の相異なる 2 元 $r=p/q$、$s=p'/q'$ について、整数 $k$ に対し
$$
|r-s-k|=\frac{|pq'-p'q-kqq'|}{qq'}
$$
の分子は整数で、$r,s\in[0,1)$、$r\ne s$ なので $r-s$ は整数でなく、分子は $1$ 以上である。よって
$$
\rho(r-s)\ge\frac1{qq'}>\frac1{n^2}
$$
である($q,q'\le n-1$ なので $qq'< n^2$)。これを頂点の分離と呼ぶ。
次が成り立つ。
1.各 $x\mapsto\frac1q-2n^2\rho(x-\frac pq)$ は、$\rho$ の評価 $|\rho(y)-\rho(y')|\le|y-y'|$ により連続で、$\rho$ の周期性により周期 $1$ をもつ。有限個の連続関数の最大値 $\max(u,v)=\frac12(u+v+|u-v|)$ は連続なので、$G_n$ は連続で周期 $1$ をもつ。
2.$G_n$ の各項は $1/q\le1$ または $1/n\le1$ 以下なので $G_n\le1$ である。$p/q\in F_n$ なら $p/q\in F_{n+1}$ で、
$$
\frac1q-2(n+1)^2\rho\Bigl(x-\frac pq\Bigr)\le\frac1q-2n^2\rho\Bigl(x-\frac pq\Bigr)\le G_n(x)
$$
である。$F_{n+1}$ に新しく加わる元は分母が $n$ なので、その項は $1/n\le G_n(x)$ 以下である。また $\frac1{n+1}<\frac1n\le G_n(x)$ である。よって $G_{n+1}\le G_n$ である。次に $T\le G_n$ を示す。$x$ が無理数なら $T(x)=0< G_n(x)$ である。$x=p/q$(既約、$q\ge1$)とし、$p=mq+p_0$($m\in\mathbb Z$、$0\le p_0< q$)と割り算すると $\gcd(p_0,q)=\gcd(p,q)=1$ であり、$\rho(x-\frac{p_0}q)=\rho(m)=0$ である。$q< n$ なら $p_0/q\in F_n$ なので $G_n(x)\ge\frac1q=T(x)$ である。$q\ge n$ なら $T(x)=\frac1q\le\frac1n\le G_n(x)$ である。
3.$x=p/q$、$p_0$ を 2 と同じにとり、$n>q$ とする。$p_0/q\in F_n$ の項は $1/q$ である。$F_n$ のほかの元 $s=p'/q'$ については、頂点の分離の前半から $\rho(x-s)=\rho(\frac{p_0}q-s)\ge\frac1{qq'}$ なので、
$$
\frac1{q'}-2n^2\rho(x-s)\le\frac1{q'}\Bigl(1-\frac{2n^2}{q}\Bigr)<0
$$
である($n>q$ から $2n^2/q>2n>1$)。また $1/n<1/q$ である。よって $G_n(x)=1/q=T(x)$ である。
4.有理数 $x$ については 3 から従う。$x$ を無理数とし、$\varepsilon>0$ をとる。$1/Q<\varepsilon$ となる整数 $Q\ge1$ を選び、分母が $Q$ 以下の $[0,1)$ の既約分数全体を $E$ とする。$E$ は有限集合で、$x$ は無理数なので各 $r\in E$ について $x-r$ は整数でなく、$\delta:=\min_{r\in E}\rho(x-r)>0$ である。$n$ を、$1/n<\varepsilon$ かつ $2n^2\delta\ge1$ となるようにとる。$G_n(x)$ の項のうち、分母が $Q$ 以下の元($E\cap F_n$ の元)の項は $1-2n^2\delta\le0$ 以下、分母が $Q$ より大きい元の項は $1/q<1/Q<\varepsilon$ 以下、残りの項は $1/n<\varepsilon$ である。よって $0=T(x)\le G_n(x)<\varepsilon$ であり、2 により $G_n(x)$ は $n$ について減少するので、これ以降のすべての $n$ で同じ不等式が成り立つ。したがって $G_n(x)\to0=T(x)$ である。
5.2 から $0\le G_n-T\le1$ である。$n=1$ では $G_1\equiv1$ で、無理点で $G_1-T=1$ である。$n\ge2$ では $0\in F_n$ の項 $1-2n^2\rho(x)$ がある。$0<\varepsilon<1$ に対し $0< x<\varepsilon/(2n^2)$ となる無理数 $x$ をとると、$G_n(x)\ge1-\varepsilon$、$T(x)=0$ である。よって $\sup|G_n-T|=1$ である。一様収束は $\sup|G_n-T|\to0$ と同値である(一様収束 の記事の命題「差の上限による言い換え」)ので、収束は一様でない。
$T$ は連続関数 $G_n$ の各点収束の極限だが有理数で不連続なので、一様収束 の記事の定理「連続関数の一様極限の連続性」からも、長さが正のどの区間上でも収束は一様でないことがわかる。また 2 と 4 から $T=\inf_nG_n$ なので、$T$ の上半連続性(prop-thomae-usc)は 半連続性 の記事の命題「上限・下限と安全な加法」の 2 からも従う。連続関数の列の各点収束の極限として表せる関数を Baire の第 1 級の関数といい、$T$ はその例である。
$n\ge2$ とし、$p/q\in F_n$ に対して
$$
\alpha_{n,q}:=\frac1{2n^2}\Bigl(\frac1q-\frac1n\Bigr)
$$
とおく($0<\alpha_{n,q}<\frac1{2qn^2}$)。
$p/q\in F_n$ の項が $\frac1n$ より大きいのは $\rho(x-\frac pq)<\alpha_{n,q}$ のときに限る。
1:$|x-\frac pq-k|\le\alpha_{n,q}<\frac12$ なら $\rho(x-\frac pq)=|x-\frac pq-k|$ なので、$\frac pq$ の項は $\frac1q-2n^2|x-\frac pq-k|\ge\frac1n$ である。$F_n$ のほかの元 $s=p'/q'$ については、$\rho$ の三角不等式と頂点の分離から $\rho(x-s)\ge\rho(\frac pq-s)-\rho(x-\frac pq)>\frac1{n^2}-\frac1{2n^2}=\frac1{2n^2}>\alpha_{n,q'}$ なので、$s$ の項は $\frac1n$ より小さい。よって最大値は $\frac pq$ の項である。
2:どの $p/q\in F_n$ についても $\rho(x-\frac pq)>\alpha_{n,q}$ なので、すべての山の項は $\frac1n$ より小さく、$G_n(x)=\frac1n$ である。
最後の主張:$F_n$ は有限集合なので、長さ $1$ の区間には有限個の山しかなく、各山は 2 本の線分からなり、山の間は水平な線分である。頂点では thm-thomae-approximation の 3 により $G_n=\frac1q=T$ である。$\square$
$n\to\infty$ のとき、水平な部分の高さ $\frac1n$ は $0$ に、分母 $q$ を固定した山の半幅 $\alpha_{n,q}$ も $0$ に近づき、斜面の傾き $2n^2$ は限りなく大きくなる。ただし半幅は $n$ について単調に減少するとは限らない。
$q=3$ では $\alpha_{4,3}=\frac1{32}(\frac13-\frac14)=\frac1{384}$、$\alpha_{5,3}=\frac1{50}(\frac13-\frac15)=\frac1{375}$ であり、$n=4$ から $n=5$ で半幅は広がる。水平な部分が下がるためで、値 $G_n(x)$ そのものは thm-thomae-approximation の 2 のとおり減少する。
$r=p/q$(既約)に対し、$T$ のグラフ $\{(x,T(x))\mid x\in\mathbb R\}$ の点 $(r,\frac1q)$ は、平面の通常の位相で孤立点である。
$|T(x)-\frac1q|<\frac1{2q}$ なら $T(x)>\frac1{2q}$ なので、$x$ は分母が $2q$ 未満の有理数である。lem-thomae-small-denominators により、そのような $x$ で $[r-1,r+1]$ に入るものは有限個なので、$r$ 以外のそれらと $r$ との距離の最小値と $1$ のうち小さい方を $\delta$ とすると、$|x-r|<\delta$ かつ $|T(x)-\frac1q|<\frac1{2q}$ を満たす点は $x=r$ だけである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 被積分関数が点 $c$ で連続(微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」の 2) | $T$ と有理点 $c$ | $F(x)=\int_0^xT$ は $c$ で微分可能だが $F'(c)=0\ne T(c)$(cor-thomae-ftc) |
| 外側の関数が連続(prop-thomae-continuous-outer) | 外側 $f=1_{(0,1]}$、内側 $T\vert_{[0,1]}$ | 合成は Dirichlet の関数で、可積分でない(ex-thomae-composition) |
| 収束が一様(一様収束 の定理「連続関数の一様極限の連続性」) | 連続関数の列 $G_n$ | 各点収束の極限(thm-thomae-approximation)$T$ は有理点で不連続(thm-thomae-limit) |
| 関数が連続(prop-thomae-continuous-separation) | $T\vert_{[a,b]}$ と $0$ | $d(T,0)=0$ だが $T\ne0$(prop-thomae-zero-distance) |
2 行目の $f=1_{(0,1]}$ は $[0,1]$ 上で $0$ だけで値 $0$ をとり、ほかで $1$ をとる関数である。2 行目・4 行目とも、現れる関数はどれも積分可能である。
$T$ の定義、無理点でちょうど連続なこと、上半連続性、不連続点が除去可能なことは GO03 Chapter 2, Examples 15–17(pp. 27–28)にある。どの区間でも積分が $0$ でどの区間でも単調でないことは Chapter 4, Example 5(p. 43)、積分を上端の関数とみたときの微分は Example 6(pp. 43–44)、積分で測る距離が $0$ の二つの半連続関数は Example 7(p. 44)、可積分な関数の合成は Example 9(pp. 44–45)にある。有理点の上に山を立てた連続な折れ線の列で $T$ を近似する考え方は Chapter 7, Example 4(pp. 77–79、Figure 2)にある。この記事の def-thomae-tents は山の関数を有限個の関数の最大値として定めたもので、thm-thomae-approximation と prop-thomae-tent-graph の証明はこの定義による。
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