基本対称式の平均の不等式

同義語:基本対称式の平均Newton–Maclaurin inequalities

概要

基本対称式の平均の不等式(Newton–Maclaurin inequalities)とは、3 つの数の基本対称式を項の数で割った平均 $S_1=\frac{a+b+c}3$、$S_2=\frac{ab+bc+ca}3$、$S_3=abc$ について、実数なら $S_1^2\ge S_2$、$S_2^2\ge S_1S_3$(Newton の不等式)、正の数なら $S_1\ge\sqrt{S_2}\ge\sqrt[3]{S_3}$(Maclaurin の不等式)が成り立つという不等式である。前者は差を平方の和で書いて示し、後者は前者から従う。相加平均と相乗平均の間に $\sqrt{S_2}$ がはさまる精密化である。係数がこの不等式を満たさない 3 次方程式は虚数の解をもつことも分かる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Nesbittの不等式, 根と係数の関係と対称式, 相加平均と相乗平均

高校での出発点:3 つの数の 3 つの平均

3 つの正の数 $a,b,c$ について、相加平均 $\dfrac{a+b+c}3$ は相乗平均 $\sqrt[3]{abc}$ 以上である(相加平均と相乗平均)。相加平均は「1 つずつの和」、相乗平均は「3 つ全部の積」から作った平均である。その間に「2 つずつの積」から作る平均を置いてみる。

3 つの平均を計算する

$(a,b,c)=(1,2,3)$ とする。

  • 1 つずつ:$a+b+c=6$ を、項の数 $3$ で割って $2$。
  • 2 つずつ:$ab+bc+ca=2+6+3=11$ を、組の数 $3$ で割って $\dfrac{11}3$。2 つの数の積なので、平方根をとって $\sqrt{\dfrac{11}3}=1.9149$。
  • 3 つ全部:$abc=6$ を、組の数 $1$ で割って $6$。3 つの数の積なので、3 乗根をとって $\sqrt[3]6=1.8171$。
    $2\ge1.9149\ge1.8171$ で、真ん中の値は相加平均と相乗平均の間にある。
もう 1 つの組

$(a,b,c)=(1,1,4)$ では、$\dfrac{6}3=2$、$\sqrt{\dfrac{1+4+4}3}=\sqrt3=1.7321$、$\sqrt[3]4=1.5874$ で、やはり $2\ge1.7321\ge1.5874$ である。$(a,b,c)=(2,2,2)$ ではどれも $2$ になる。

この記事で答える問いは次の 2 つである。

  1. 「2 つずつの積の平均」の平方根は、いつも相加平均と相乗平均の間にあるか。→ thm-nmi-maclaurin
  2. そのもとになる、平方根をとる前の不等式は何か。→ thm-nmi-newton
    高校の言葉この記事の言葉
    3 次方程式の解と係数の関係基本対称式 $e_1,e_2,e_3$
    相加平均・相乗平均$S_1$、$\sqrt[3]{S_3}$
    差を平方の和にするNewton の不等式の証明

基本対称式の平均

基本対称式とその平均

3 つの実数 $a,b,c$ について
$$ e_1=a+b+c,\qquad e_2=ab+bc+ca,\qquad e_3=abc $$
を 基本対称式 という。$e_k$ は「$k$ 個ずつ選んだ積の和」で、和に現れる項の数は $\binom3k$($3,3,1$)である。項の数で割った
$$ S_1=\frac{e_1}3=\frac{a+b+c}3,\qquad S_2=\frac{e_2}3=\frac{ab+bc+ca}3,\qquad S_3=e_3=abc $$
を 基本対称式の平均 という。

$a,b,c$ が 3 次方程式 $x^3-px^2+qx-r=0$ の 3 つの解なら、解と係数の関係により $e_1=p$、$e_2=q$、$e_3=r$ である(根と係数の関係と対称式)。また、$a,b,c$ の対称式はすべて $e_1,e_2,e_3$ の多項式で書ける(対称式の基本定理(高校数学))。

基本対称式の平均の値
  1. $(1,2,3)$:$e_1=6$、$e_2=11$、$e_3=6$ で、$S_1=2$、$S_2=\dfrac{11}3$、$S_3=6$。
  2. $(2,3,7)$:$e_1=12$、$e_2=6+21+14=41$、$e_3=42$ で、$S_1=4$、$S_2=\dfrac{41}3$、$S_3=42$。$S_1=4$、$\sqrt{S_2}=3.6968$、$\sqrt[3]{S_3}=3.4760$ である。
  3. $a=b=c=t$ なら $S_1=t$、$S_2=t^2$、$S_3=t^3$ である。$S_k$ は「$k$ 次」の量なので、$k$ 乗根をとると $3$ つとも $t$ になる。
  1. から分かるように、$S_1$、$\sqrt{S_2}$、$\sqrt[3]{S_3}$ はどれも「同じ数がそろえばその数になる」平均である。

主定理 1:Newton の不等式(3 変数)

Newton の不等式(3 変数)

すべての実数 $a,b,c$ について
$$ S_1^2\ge S_2,\qquad S_2^2\ge S_1S_3 $$
が成り立つ。1 つ目の等号は $a=b=c$ のときに限る。

方針:2 つの差を、それぞれ平方の和で書く。
段 1(1 つ目)。$9(S_1^2-S_2)=e_1^2-3e_2$ である。$e_1^2=(a+b+c)^2=a^2+b^2+c^2+2(ab+bc+ca)$ なので
$$ e_1^2-3e_2=a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca $$
である。一方
$$ (a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2=2(a^2+b^2+c^2)-2(ab+bc+ca) $$
なので、
$$ 9(S_1^2-S_2)=\frac12\bigl\{(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\bigr\}\ge0 $$
である。等号は $a=b=c$ のときに限る。
段 2(2 つ目)。$9(S_2^2-S_1S_3)=e_2^2-3e_1e_3$ である。$e_2^2=(ab+bc+ca)^2$ を展開すると、2 乗の項 $a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2$ と、2 つの積の 2 倍 $2(ab\cdot bc+bc\cdot ca+ca\cdot ab)=2abc(a+b+c)$ が出るので
$$ e_2^2-3e_1e_3=a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2+2abc(a+b+c)-3abc(a+b+c)=a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2-abc(a+b+c) $$
である。段 1 の計算を $a,b,c$ の代わりに $ab,bc,ca$ で行うと、$ab\cdot bc+bc\cdot ca+ca\cdot ab=abc(a+b+c)$ なので
$$ 9(S_2^2-S_1S_3)=\frac12\bigl\{(ab-bc)^2+(bc-ca)^2+(ca-ab)^2\bigr\}\ge0 $$
である。$\square$

2 つ目の不等式の等号は $ab=bc=ca$ のときで、これは $a=b=c$ のほかに、$a,b,c$ のうち 2 つが $0$ のときにも起こる(たとえば $(1,0,0)$ では $S_2=S_3=0$)。主定理 1 は負の数を含む実数でも成り立つ。

Newton の不等式を数で見る
  1. $(1,2,3)$:$S_1^2=4\ge\dfrac{11}3=3.667=S_2$、$S_2^2=\dfrac{121}9=13.44\ge12=S_1S_3$。
  2. 負の数を含む $(-2,1,1)$:$e_1=0$、$e_2=-2+1-2=-3$、$e_3=-2$ で、$S_1=0$、$S_2=-1$、$S_3=-2$。$S_1^2=0\ge-1=S_2$、$S_2^2=1\ge0=S_1S_3$ で、どちらも成り立つ。
3 次方程式の係数の不等式

3 次方程式 $x^3-px^2+qx-r=0$ の 3 つの解がすべて実数なら、解と係数の関係と主定理 1 により
$$ p^2\ge3q,\qquad q^2\ge3pr $$
である($e_1^2\ge3e_2$、$e_2^2\ge3e_1e_3$)。
(1) $x^3-6x^2+11x-6=(x-1)(x-2)(x-3)$:$36\ge33$、$121\ge108$ で成り立つ。
(2) $x^3-3x^2+4x-2$:$p^2=9<12=3q$ なので、3 つの解がすべて実数ということはない。実際 $x^3-3x^2+4x-2=(x-1)(x^2-2x+2)$ で、$x^2-2x+2=0$ の解は $1\pm i$ である。主定理 1 の対偶を使えば、解を求めずに虚数の解があると分かる。

主定理 2:Maclaurin の不等式(3 変数)

平方根と 3 乗根をとって、ex-nmi-start の並びを示す。

Maclaurin の不等式(3 変数)

正の数 $a,b,c$ について
$$ S_1\ge\sqrt{S_2}\ge\sqrt[3]{S_3} $$
が成り立つ。どちらの等号も $a=b=c$ のときに限る。

$a,b,c>0$ なので $S_1,S_2,S_3>0$ である。
段 1(左の不等式)。thm-nmi-newton の 1 つ目 $S_1^2\ge S_2$ で、両辺は正なので正の平方根をとって $S_1\ge\sqrt{S_2}$ である。等号は $S_1^2=S_2$、つまり $a=b=c$ のときに限る。
段 2(右の不等式)。thm-nmi-newton の 2 つ目と段 1 を順に使うと
$$ S_2^2\ge S_1S_3\ge\sqrt{S_2}\,S_3 $$
である(2 つ目の不等号は、段 1 の $S_1\ge\sqrt{S_2}$ の両辺に正の数 $S_3$ を掛けたもの)。両辺を正の数 $\sqrt{S_2}$ で割ると $S_2^{\frac32}\ge S_3$ で、両辺は正なので 3 乗根をとって $\sqrt{S_2}\ge\sqrt[3]{S_3}$ である(正の数 $u,v$ について、$u< v$ なら $u^3< v^3$ なので、3 乗根をとっても大小は変わらない)。
段 3(右の等号)。$\sqrt{S_2}=\sqrt[3]{S_3}$ なら段 2 の不等号はすべて等号で、とくに $S_1S_3=\sqrt{S_2}S_3$ から $S_1=\sqrt{S_2}$ であり、段 1 により $a=b=c$ である。逆に $a=b=c$ なら ex-nmi-values (3) のとおり等号になる。$\square$

相加平均と相乗平均の不等式(3 数)

正の数 $a,b,c$ について $\dfrac{a+b+c}3\ge\sqrt[3]{abc}$ で、等号は $a=b=c$ のときに限る。

thm-nmi-maclaurin の両端をつなげば $S_1\ge\sqrt[3]{S_3}$ で、これが系である。系は 相加平均と相乗平均 で別の方法で示されている。主定理 2 は、その間に $\sqrt{S_2}$ がはさまるという精密化である。
a+b+c=3(S1=1)の三角形の上に、左は √S2、右は ∛S3 の等高線を描いたもので、どちらも中心で最大値 1 をとり、同じ点では左の値が右の値以上である a+b+c=3(S1=1)の三角形の上に、左は √S2、右は ∛S3 の等高線を描いたもので、どちらも中心で最大値 1 をとり、同じ点では左の値が右の値以上である
図 1 は、$S_1=1$($a+b+c=3$)に固定して $\sqrt{S_2}$ と $\sqrt[3]{S_3}$ を比べたものである。どちらも中心 $a=b=c=1$ で $1$ になり、それ以外の点では $1$ より小さい。$\sqrt[3]{S_3}$ のほうが辺の近く(1 つの数が $0$ に近い所)で急に小さくなる。積 $abc$ は 1 つの数が $0$ に近いだけで $0$ に近づくが、$ab+bc+ca$ は残りの 2 つの積が残るからである。

平均式$(1,2,3)$$(1,1,4)$$(2,3,7)$
相加平均 $S_1$$\frac{a+b+c}3$$2$$2$$4$
2 つずつの積の平均の平方根 $\sqrt{S_2}$$\sqrt{\frac{ab+bc+ca}3}$$1.9149$$1.7321$$3.6968$
相乗平均 $\sqrt[3]{S_3}$$\sqrt[3]{abc}$$1.8171$$1.5874$$3.4760$

平均の大小関係 で扱う調和平均・相乗平均・相加平均・2 乗平均の並びと比べると、$\sqrt{S_2}$ は相加平均と相乗平均の間に入る新しい平均である。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
$a,b,c$ が正の数(主定理 2)$(-1,-1,-1)$$S_1\ge\sqrt{S_2}$($-1\ge1$ でない)
$a,b,c$ が正の数(主定理 2)$(-2,1,1)$$\sqrt{S_2}$ が実数として定まらない($S_2=-1$)
項の数で割る(定義を変える)$(1,1,1)$ で $e_2$ を $3$ で割らない$\frac{e_1}3\ge\sqrt{e_2}$($1\ge\sqrt3$ でない)
不等号の向き$S_1S_3\ge S_2^2$ として $(1,2,3)$主定理 1 の 2 つ目を逆向きにした式($12\ge13.44$ でない)
反例の確認
  1. $(-1,-1,-1)$:$S_1=-1$、$S_2=\dfrac{1+1+1}3=1$ で、$S_1^2=1\ge1=S_2$(主定理 1)は成り立つが、平方根をとる段で「$S_1>0$」が要る。$S_1=-1<1=\sqrt{S_2}$ である。
  2. $(-2,1,1)$:ex-nmi-newton (2) のとおり $S_2=-1$ で、$\sqrt{S_2}$ は実数にならない。主定理 1 は成り立っている。
  3. 項の数で割らずに $e_1,e_2,e_3$ のまま平均のようにとると、$a=b=c=1$ で $\dfrac{e_1}3=1$、$\sqrt{e_2}=\sqrt3$、$\sqrt[3]{e_3}=1$ となり、「同じ数がそろえばその数になる」という平均の性質が崩れる。正しい形は、項の数で割った $S_k$ を使う $e_1^2\ge3e_2$、$e_2^2\ge3e_1e_3$ である。
  4. 主定理 1 の 2 つ目は $S_2^2\ge S_1S_3$ の向きで、$(1,2,3)$ では $S_2^2=13.44$、$S_1S_3=12$ である。逆向きは成り立たない。

大学数学で見る:$n$ 個の数の場合

$n$ 個の実数 $x_1,\ldots,x_n$ についても、$k$ 個ずつの積の和 $e_k$ を項の数 $\binom nk$ で割った $S_k$ を考えられる。$S_k^2\ge S_{k-1}S_{k+1}$($1\le k\le n-1$、$S_0=1$)が Newton の不等式で、$x_i$ がすべて正のときの $S_1\ge\sqrt{S_2}\ge\sqrt[3]{S_3}\ge\cdots\ge\sqrt[n]{S_n}$ が Maclaurin の不等式である。
$n$ 個の場合の Newton の不等式は、大学向けの 対数凹数列 の定理「Newton の不等式」で、実数の根だけをもつ多項式の係数の不等式として証明されている。$x_1,\ldots,x_n$ を根とする多項式 $(x+x_1)\cdots(x+x_n)$ の係数は $e_k$ で、それを $\binom nk$ で割ったものが $S_k$ である。証明の鍵は、実数の根だけをもつ多項式を微分しても実数の根だけをもつこと(Rolleの定理 から出る)で、何回か微分と変数の置き換えをして 2 次式にし、その判別式から不等式を読む。3 変数の場合は、この記事の主定理 1 のように平方の和で直接示せる。Maclaurin の不等式の $n$ 個の場合は、この記事では証明しない。

4 つの数での値

$(1,2,3,4)$ では $e_1=10$、$e_2=35$、$e_3=50$、$e_4=24$ で、$S_1=\dfrac{10}4=2.5$、$\sqrt{S_2}=\sqrt{\dfrac{35}6}=2.4152$、$\sqrt[3]{S_3}=\sqrt[3]{\dfrac{50}4}=2.3208$、$\sqrt[4]{S_4}=\sqrt[4]{24}=2.2134$ で、この順に並んでいる。

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関連項目

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