Bonnet–Myersの定理

同義語:Bonnet-Myersの定理Myersの定理Bonnet–Myers theoremMyers's theorem

概要

Bonnet–Myersの定理(Bonnet–Myers theorem)とは、$n\ge2$ 次元の完備で連結な Riemann 多様体の Ricci 曲率が、ある $a>0$ について $\mathrm{Ric}\ge\frac{n-1}{a^2}g$ を満たすならば、その直径は $\pi a$ 以下であり、多様体はコンパクトで基本群は有限群である、という定理である。証明の核心は、長さが $\pi a$ を超える測地線に沿って正弦型のベクトル場を考えると指数形式が負になり、その測地線が最短でなくなることにある。半径 $a$ の球面で等号が成り立ち、完備性・正の下限・$n\ge2$ のどれを外しても結論は崩れる。正の曲率が多様体の大きさと位相を強く制限することを示す基本的な定理である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Riemann幾何学, Ricciテンソル, 曲線の変分論, Hopf–Rinowの定理, 普遍被覆

単位球面の上では、どの 2 点も長さ $\pi$ 以下の大円弧で結べる。Ricci 曲率が一様に正であるという局所的な条件だけから、同じことが一般の完備な Riemann 多様体で成り立つ、というのが Bonnet–Myersの定理 である。すなわち、$n$ 次元($n\ge2$)の完備で連結な Riemann 多様体の Ricci 曲率が $\mathrm{Ric}\ge\frac{n-1}{a^2}g$($a>0$)を満たせば、その直径は $\pi a$ 以下であり、したがって多様体はコンパクトで、基本群は有限群である。
理由は測地線の第 2 変分にある。正の曲率は近くの測地線を互いに引き寄せるので、長い測地線は少しずらすと短くなり、最短でいられない。この記事では、指数形式に $\sin$ 型のベクトル場を代入する計算でこれを示し、主定理を証明する。普遍被覆に同じ議論を当てると基本群の有限性が出る。等号を与える球面、仮定を一つずつ外したときの反例も述べる。

記号と主張

以下、$(M,g)$ は $n$ 次元の Riemann 多様体、$\nabla$ は Levi-Civita 接続、$d$ は Riemann 距離とする。曲率の規約は Jacobi場 の記事に従う。
$$ R(X,Y)Z=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z,\qquad \mathrm{Ric}(Y,Z)=\operatorname{tr}\bigl(X\mapsto R(X,Y)Z\bigr). $$
$e_1,\dots,e_n$ が $T_pM$ の正規直交基底なら $\mathrm{Ric}(Y,Z)=\sum_{j=1}^ng(R(e_j,Y)Z,e_j)$ である。実数 $\kappa$ について「$\mathrm{Ric}\ge\kappa\,g$」は、すべての点のすべての単位ベクトル $u$ で $\mathrm{Ric}(u,u)\ge\kappa$ であることを表す。$M$ の直径は $\operatorname{diam}M:=\sup\{d(p,q)\mid p,q\in M\}$ である。
$\gamma\colon[0,L]\to M$ が最短であるとは、$L(\gamma)=d(\gamma(0),\gamma(L))$ であることをいう。区間 $[0,L]$ 上の測地線 $\gamma$ と、$\gamma$ に沿う滑らかなベクトル場 $V,W$ に対し、指数形式を
$$ I(V,W):=\int_0^L\Bigl(g(V',W')-g\bigl(R(V,\dot\gamma)\dot\gamma,W\bigr)\Bigr)dt\qquad(V':=D_tV) $$
とおく。$I(V,V)$ は両端を固定した変分によるエネルギーの 2 階微分である(曲線の変分論 の定理「エネルギーの第2変分」)。

Bonnet–Myers の定理

$n\ge2$ とし、$(M,g)$ を完備で連結な $n$ 次元 Riemann 多様体とする。ある $a>0$ について $\mathrm{Ric}\ge\dfrac{n-1}{a^2}\,g$ が成り立つとする。このとき次が成り立つ。

  1. $\operatorname{diam}M\le\pi a$ である。
  2. $M$ はコンパクトである。
  3. $\pi_1(M)$ は有限群である。
証明の流れと次元の仮定

証明は次節の lem-bm-long(長さが $\pi a$ を超える測地線は最短でない)と、完備性から得られる最短測地線の存在を組み合わせて 1 を示し、2・3 をそこから導く。3 では同じ議論を普遍被覆に当てる。仮定の $n\ge2$ は外せない。$n=1$ では Ricci 曲率は恒等的に $0$ で、$\frac{n-1}{a^2}=0$ なので、完備で非コンパクトな $\mathbb{R}$ も仮定を満たしてしまう(下の反例の表)。

長い測地線は最短でない

主定理の核心は次の補題である。完備性は使わない。

長い測地線は最短でない

$n\ge2$、$a>0$ とし、$\gamma\colon[0,L]\to M$ を速さ $1$ の測地線で、$\gamma$ の上の各点で $\mathrm{Ric}(\dot\gamma,\dot\gamma)\ge\frac{n-1}{a^2}$ を満たすものとする。$L>\pi a$ ならば $\gamma$ は最短でない。すなわち $d(\gamma(0),\gamma(L))< L$ である。

指数形式に正弦型の場を代入する

$\gamma$ が最短であると仮定して矛盾を導く。
エネルギーの最小性。 $p=\gamma(0)$、$q=\gamma(L)$ とし、$c\colon[0,L]\to M$ を $p$ と $q$ を結ぶ滑らかな曲線とする。曲線の変分論 の命題「エネルギーと長さの不等式」と $L(c)\ge d(p,q)=L$ により
$$ E(c)\ge\frac{L(c)^2}{2L}\ge\frac{L^2}{2L}=\frac L2=E(\gamma) $$
である($\gamma$ は速さ $1$ なので $E(\gamma)=\frac12\int_0^L1\,dt$)。よって $\gamma$ は同じ端点を結ぶ $[0,L]$ 上の滑らかな曲線の中でエネルギーを最小にし、同記事の系「最短な測地線の指数形式は非負」により、両端で消える滑らかな場 $V$ について $I(V,V)\ge0$ である。
場の選び方。 $T_pM$ の正規直交基底 $\dot\gamma(0),e_1,\dots,e_{n-1}$ をとり、$e_i$ を $\gamma$ に沿って平行移動した場を $E_i$ とする。平行移動は内積を保ち、$\dot\gamma$ は平行なので、各 $t$ で $\dot\gamma(t),E_1(t),\dots,E_{n-1}(t)$ は正規直交基底である。$V_i(t):=\sin\frac{\pi t}{L}\,E_i(t)$ とおくと $V_i(0)=V_i(L)=0$、$V_i'=\frac\pi L\cos\frac{\pi t}{L}\,E_i$ である。
和をとる。 $R(\dot\gamma,\dot\gamma)=0$ なので、正規直交基底 $\dot\gamma,E_1,\dots,E_{n-1}$ で跡をとると $\sum_{i=1}^{n-1}g(R(E_i,\dot\gamma)\dot\gamma,E_i)=\mathrm{Ric}(\dot\gamma,\dot\gamma)$ である。よって
$$ \sum_{i=1}^{n-1}I(V_i,V_i)=\int_0^L\Bigl((n-1)\frac{\pi^2}{L^2}\cos^2\frac{\pi t}{L}-\sin^2\frac{\pi t}{L}\,\mathrm{Ric}(\dot\gamma,\dot\gamma)\Bigr)dt \le(n-1)\int_0^L\Bigl(\frac{\pi^2}{L^2}\cos^2\frac{\pi t}{L}-\frac1{a^2}\sin^2\frac{\pi t}{L}\Bigr)dt $$
である。$\int_0^L\cos^2\frac{\pi t}{L}\,dt=\int_0^L\sin^2\frac{\pi t}{L}\,dt=\frac L2$ なので、右辺は
$$ (n-1)\,\frac L2\Bigl(\frac{\pi^2}{L^2}-\frac1{a^2}\Bigr) $$
に等しい。$n\ge2$ かつ $L>\pi a$ なのでこれは負であり、ある $i$ で $I(V_i,V_i)< 0$ となる。これは前段に反する。$\square$

この補題は 共役点 の言葉でも理解できる。単位球面では、測地線の始点の共役点は長さ $\pi$ の位置に現れ(同記事の例「球面の共役点」)、共役点を越えた測地線は最短でない(同記事の定理「Jacobiの定理」)。半径 $a$ の球面では、この長さは $\pi a$ になる。上の証明は、共役点の位置を求めずに、$n-1$ 個の方向の指数形式を足し合わせることで、断面曲率より弱い Ricci 曲率の仮定だけで同じ結論を得ている。個々の方向では $I(V_i,V_i)$ が負とは限らず、和が負であることから少なくとも一つの方向で長さを減らせる、というのが要点である。
正の曲率の役割は、指数形式の曲率の項 $-\sin^2\cdot\mathrm{Ric}$ が、長さ $L$ が大きいほど小さくなる運動の項 $\frac{\pi^2}{L^2}\cos^2$ に勝つことにある。曲率が $0$ なら曲率の項は消え、どんなに長くても和は正のままである。

主定理の証明

直径の評価から基本群の有限性まで

1. $p,q\in M$ とする。$M$ は完備で連結なので、Hopf–Rinowの定理 により、$p$ と $q$ を結ぶ長さ $d(p,q)$ の測地線がある。それを速さ $1$ にパラメータ付けた $\gamma\colon[0,d(p,q)]\to M$ は最短である。lem-bm-long の対偶により $d(p,q)\le\pi a$ である。よって $\operatorname{diam}M\le\pi a$ である。
2. 1 により $M$ 自身が有界な閉集合である。Hopf–Rinow の定理により、完備な Riemann 多様体の有界閉集合はコンパクトなので、$M$ はコンパクトである。
3. $\pi\colon\tilde M\to M$ を普遍被覆とする。$\tilde M$ には $\pi$ が滑らかな被覆写像(とくに局所微分同相)となる滑らかな構造が入る(Lee13 Proposition 4.40)。$\tilde g:=\pi^*g$ とおくと $\pi$ は局所等長写像であり、$\tilde M$ は連結である。
(i) $(\tilde M,\tilde g)$ は完備である。$\tilde\gamma$ を $\tilde M$ の最大の測地線とし、$\tilde\gamma(0)=\tilde x$、$\dot{\tilde\gamma}(0)=\tilde w$ とする。$M$ の測地線 $\gamma$ を $\gamma(0)=\pi(\tilde x)$、$\dot\gamma(0)=d\pi(\tilde w)$ で定めると、$M$ は完備なので $\gamma$ は $\mathbb{R}$ 全体で定義される。被覆写像 の定理「道の持ち上げ」を各区間 $[-T,T]$ に当て、定理「持ち上げの一意性」で貼り合わせると、$\pi\circ\hat\gamma=\gamma$、$\hat\gamma(0)=\tilde x$ となる連続な曲線 $\hat\gamma\colon\mathbb{R}\to\tilde M$ がある。各 $t$ の近くで $\hat\gamma$ は、$\gamma$ を $\pi$ の局所的な逆(等長写像)で写したものなので滑らかな測地線であり、$d\pi(\dot{\hat\gamma}(0))=\dot\gamma(0)=d\pi(\tilde w)$ と $d\pi_{\tilde x}$ の単射性から $\dot{\hat\gamma}(0)=\tilde w$ である。測地線の一意性により $\hat\gamma$ は $\tilde\gamma$ の延長なので、$\tilde\gamma$ は $\mathbb{R}$ 全体で定義される。
(ii) $\pi$ は局所等長写像なので、$\tilde M$ の Ricci 曲率も $\widetilde{\mathrm{Ric}}\ge\frac{n-1}{a^2}\tilde g$ を満たす。(i) と 2 を $(\tilde M,\tilde g)$ に当てると、$\tilde M$ はコンパクトである。
(iii) $p\in M$ をとる。ファイバー $\pi^{-1}(p)$ は $\tilde M$ の閉集合である。各点 $\tilde p\in\pi^{-1}(p)$ は、$p$ の均等に被覆される近傍の上のシートの一枚に含まれ、そのシートは $\pi^{-1}(p)$ と $\tilde p$ だけで交わるので、$\pi^{-1}(p)$ は離散的である。コンパクト空間の離散的な閉集合は有限集合なので、$\pi^{-1}(p)$ は有限である。$\tilde M$ は単連結なので、被覆写像 の定理「基本群との関係」の 2 により $\pi^{-1}(p)$ の個数は $\pi_1(M,p)$ の位数に等しい。よって $\pi_1(M)$ は有限群である。$\square$

系

コンパクトで Ricci 曲率が正の多様体

$(M,g)$ をコンパクトで連結な Riemann 多様体とし、各点の各単位ベクトル $u$ で $\mathrm{Ric}(u,u)>0$ とする。このとき $\pi_1(M)$ は有限群である。

単位ベクトルの上の最小値

$n=1$ では $\mathrm{Ric}=0$ なので仮定が成り立たない。$n\ge2$ とする。各点 $x$ は、局所的な正規直交枠 $F_1,\dots,F_n$(座標枠に Gram–Schmidt の直交化を施したもの)が定義された開近傍をもち、その中に $x$ のコンパクトな近傍 $K_x$ がとれる。$M$ はコンパクトなので有限個の $K_{x_1},\dots,K_{x_m}$ で覆える。各 $K_{x_l}$ の上で $\varphi_l(y,\xi):=\mathrm{Ric}\bigl(\sum_i\xi_iF_i(y),\sum_i\xi_iF_i(y)\bigr)$ は $K_{x_l}\times S^{n-1}$ 上の正の連続関数なので最小値 $\mu_l>0$ をもつ。$\mu:=\min_l\mu_l$ とすれば、すべての単位ベクトルで $\mathrm{Ric}(u,u)\ge\mu$ である。$a:=\sqrt{(n-1)/\mu}$ とおくと $\mathrm{Ric}\ge\frac{n-1}{a^2}g$ であり、コンパクトな $M$ は完備なので thm-bm-main の 3 による。$\square$

同様に、完備で連結な Riemann 多様体が $\mathrm{Ric}=\lambda g$($\lambda>0$ は定数、$n\ge2$)を満たせば、$a=\sqrt{(n-1)/\lambda}$ として主定理が当てはまり、$M$ はコンパクトで基本群は有限である。

例と等号の場合

半径 $a$ の球面

$S^n(a)=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\|x\|=a\}$($n\ge2$)に誘導計量を入れると、断面曲率は定数 $1/a^2$ であり、$\mathrm{Ric}=\frac{n-1}{a^2}g$ である。対蹠点 $x$ と $-x$ の距離は $\pi a$ なので、$\operatorname{diam}S^n(a)=\pi a$ となり、thm-bm-main の評価は等号で成り立つ。

対蹠点の距離を開く

大円の半分は長さ $\pi a$ の曲線なので $d(x,-x)\le\pi a$ である。逆に、$\sigma\colon[0,1]\to S^n(a)$ を $x$ から $-x$ への区分的に滑らかな曲線とし、$h(t):=\langle \sigma(t),x\rangle/a^2\in[-1,1]$、$w(t):=\sigma(t)-h(t)x$ とおく。$w\perp x$、$\|x\|=a$、$\|w\|^2=a^2(1-h^2)$ なので $\|\dot \sigma\|^2=a^2\dot h^2+\|\dot w\|^2$ である。$\lvert h\rvert< 1$ となる $t$ では $\|\dot w\|\ge\bigl\lvert\frac{d}{dt}\|w\|\bigr\rvert=\frac{a\lvert h\dot h\rvert}{\sqrt{1-h^2}}$ なので $\|\dot \sigma\|\ge\frac{a\lvert\dot h\rvert}{\sqrt{1-h^2}}=a\bigl\lvert\frac{d}{dt}\arccos h\bigr\rvert$ である。$\arccos h(t)$ は $0$ から $\pi$ まで連続に動くので、$t_0:=\sup\{t\mid h(t)=1\}$、$t_1:=\inf\{t> t_0\mid h(t)=-1\}$ とおくと、$(t_0,t_1)$ で $\lvert h\rvert< 1$ であり、$L(\sigma)\ge\int_{t_0}^{t_1}a\bigl\lvert\frac{d}{dt}\arccos h\bigr\rvert dt\ge a(\pi-0)=\pi a$ である。

逆に、$\mathrm{Ric}\ge\frac{n-1}{a^2}g$ を満たす完備で連結な $M$ について $\operatorname{diam}M=\pi a$ ならば、$M$ は $S^n(a)$ と等長である(Cheng の最大直径定理。Lee18 Theorem 12.28、p. 362。この記事では証明しない)。

断面曲率が $0$ になる平面をもつ例

$M=S^2\times S^2$ に二つの単位球面の計量の直積 $g=g_1+g_2$ を入れる。これは warping 関数が定数 $1$ の Warped積多様体 なので、同記事の系「リッチテンソルの公式」により $\mathrm{Ric}=\mathrm{Ric}_1+\mathrm{Ric}_2=g_1+g_2=g$ であり、$n=4$、$a=\sqrt3$ として仮定 $\mathrm{Ric}\ge\frac{3}{a^2}g$ が成り立つ。一方、同記事の系「断面曲率の公式」により、第 1 因子の接ベクトルと第 2 因子の接ベクトルが張る平面の断面曲率は $0$ である。断面曲率が正の定数で下から押さえられなくても、Ricci 曲率の仮定だけで thm-bm-main が使え、$\operatorname{diam}M\le\sqrt3\,\pi$ となる。第 1 成分への射影は曲線の長さを増やさないので、$(x,y)$ と $(-x,y)$ の距離は $\pi$ 以上であり、$\pi\le\operatorname{diam}M\le\sqrt3\,\pi$ である。

基本群は有限であっても自明とは限らない。$\mathbb{RP}^n=S^n(a)/\{\pm1\}$($n\ge2$、実射影空間)に商の計量を入れると、射影 $S^n(a)\to\mathbb{RP}^n$ は局所等長写像なので $\mathrm{Ric}=\frac{n-1}{a^2}g$ のままだが、$\pi_1(\mathbb{RP}^n)\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。

反例:仮定を外すと

各行は主定理の仮定を一つだけ外している。

外す条件反例成り立たなくなること
完備性単位球面から北極と南極を除いた $S^2\setminus\{N,S\}$コンパクト性と基本群の有限性
下限が正の定数であること(各点で $\mathrm{Ric}>0$ だけを仮定)放物面 $P=\{z=x^2+y^2\}\subset\mathbb{R}^3$コンパクト性
下限が正であること($\mathrm{Ric}\ge0$)平坦トーラス $\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2$基本群の有限性
$n\ge2$実数直線 $\mathbb{R}$コンパクト性
反例の確かめ

各行の確かめを述べる。

各行の確かめを開く

1 行目:$S^2\setminus\{N,S\}$ は単位球面の開集合で、計量は単位球面の計量の制限なので $\mathrm{Ric}=g$($n=2$、$a=1$)である。$S^2$ の閉集合でないのでコンパクトでなく、北極からの立体射影により $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ と同相なので、基本群は $\mathbb{Z}$ で無限である。北極に近づく点列は Cauchy 列だが収束しないので完備でない。

2 行目:$P$ は $\mathbb{R}^3$ の閉部分多様体なので完備である(Hopf–Rinowの定理 の命題「Euclid 空間の閉部分多様体」)。原点以外では $(r,\theta)\mapsto(r\cos\theta,r\sin\theta,r^2)$ により計量は $(1+4r^2)dr^2+r^2d\theta^2$ であり、弧長 $s=\int_0^r\sqrt{1+4u^2}\,du$ を使うと $ds^2+r(s)^2d\theta^2$ という Warped積多様体 の計量になる。同記事の注意「成立条件と特別な場合」の公式 $K=-\ddot r/r$ に、$\frac{dr}{ds}=(1+4r^2)^{-1/2}$、$\frac{d^2r}{ds^2}=-\frac{4r}{(1+4r^2)^2}$ を代入すると $K=\frac{4}{(1+4r^2)^2}>0$ である。2 次元では $\mathrm{Ric}(u,u)=K$($u$ は単位ベクトル)なので各点で正だが、$r\to\infty$ で $0$ に近づき、正の下限はない。$P$ は有界でないのでコンパクトでない。原点でも曲率は連続性により $4>0$ である。

3 行目:平坦トーラスは曲率 $0$ でコンパクト(したがって完備)であり、$\mathrm{Ric}=0\ge0$ だが、基本群は $\mathbb{Z}^2$ で無限である(トーラス)。

4 行目:$n=1$ では断面曲率を考える平面がなく $\mathrm{Ric}=0=\frac{n-1}{a^2}$ なので、任意の $a>0$ で仮定の不等式が成り立つ。$\mathbb{R}$ は完備で連結だがコンパクトでない。lem-bm-long も $n=1$ では成り立たない($\mathbb{R}$ の線分はどれほど長くても最短である)。

補足

歴史と文献

Ricci 曲率の下限を仮定する形は Myers が 1941 年に示し、Bonnet・Hopf・Synge の先行する仕事に基づく(Lee18 p. 361)。thm-bm-main は Lee18 Theorem 12.24(p. 361)にあり、そこでは直径の評価を直径の比較定理から導いている。この記事の prf-bm-long は、第 2 変分に正弦型の場を代入する Myers の元の議論の形で書いたものである。cor-bm-compact-positive は Lee18 Corollary 12.25(p. 361)にある。

非正曲率の側の対になる定理は Cartan–Hadamardの定理 で、こちらは指数写像が被覆写像になることから普遍被覆が $\mathbb{R}^n$ であることを導く。Bonnet–Myers の定理は正の曲率が多様体を「閉じさせる」ことを、Cartan–Hadamard の定理は非正の曲率が多様体を「開かせる」ことを表している。Ricci 曲率の下限は体積の比較(Bishop–Gromov の不等式、Riemann幾何学 の定理「Bishop–Gromov の体積比較定理」)にも効き、直径の評価と並んで正の曲率の幾何の基本の道具になる。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Riemannian Manifolds, 2nd ed., Springer, 2018, Theorem 12.24(Myers、p. 361)、Corollary 12.25(p. 361)、Theorem 12.28(Cheng の最大直径定理、p. 362)
[2]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Springer, 2013, Proposition 4.40(被覆空間の滑らかな構造、p. 92)

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