部分空間

同義語:線形部分空間subspacelinear subspace

概要

部分空間(subspace)とは、ベクトル空間の空でない部分集合で、加法とスカラー倍について閉じているものである。部分空間は元の演算のもとでそれ自身ベクトル空間になり、線形写像の核、同次方程式の解空間、ベクトル族の線形包などが例となる。共通部分と和は再び部分空間だが、和集合が部分空間になるのは二つのうち一方が他方を含む場合に限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 線形結合, 零ベクトル

部分空間とは

部分空間とは、ベクトル空間の空でない部分集合であって加法とスカラー倍で閉じているもので、制限された演算のもとでそれ自身がベクトル空間になる。解空間・核・像・線形包はすべて部分空間の実例であり、線形代数の随所で「新しい空間を作る」基本操作として現れる。
例えば実数の三つ組全体 $\mathbb R^3$ のうち $x+y+z=0$ を満たすものは部分空間である。二つの解を足しても、解を実数倍しても同じ方程式を満たすからである。原点を通らない平面 $x+y+z=1$ は部分空間ではない。ここで問うのは図形の形ではなく、元のベクトル空間の演算が集合の内側で完結するかどうかである(Axl15 Chapter 1)。

定義

部分空間

$K$ を体とし、$V$ を $K$ 上のベクトル空間とする。$V$ の空でない部分集合 $W$ が次の二条件を満たすとき、$W$ を $V$ の 部分空間(subspace, linear subspace)といい、$W \le V$ と書く。

  1. 加法について閉じている:任意の $u, v \in W$ に対し $u + v \in W$。
  2. スカラー倍について閉じている:任意の $a \in K$、$v \in W$ に対し $av \in W$。
    このとき $W$ は、$V$ の加法とスカラー倍をそのまま $W$ へ制限した演算のもとで、それ自身 $K$ 上のベクトル空間になる(この事実の証明は prop-subspace-criterion で与える)。

空でないという条件は省けない。空集合は加法とスカラー倍の閉性を空虚に満たすが、加法単位元を持たない。代わりに「$0\in W$ と、加法・スカラー倍の閉性」と定義しても同値である。上の記法 $W\le V$ は包含関係を表し、数値としての大小を比較しているわけではない。

判定の考え方

元の線形構造をそのまま保ちながら、より小さな自由度だけを切り出す。$W$ の中だけで足し算とスカラー倍を行っても、その結果が $V$ からはみ出さない——これが部分空間の核心である。
集合に零ベクトルが入るかを最初に見ると判定が早い。入らなければその時点で部分空間ではない。入っているだけでは十分でなく、加法とすべてのスカラー倍を確認する。例えば $\mathbb R^2$ の第1象限は零ベクトルを含み加法で閉じているが、$-1$ 倍で閉じていない。単に直線・平面に見えることも十分ではない。
部分空間から新しい部分空間を作る主な方法は次の通りである。

  • 部分空間の共通部分は部分空間である(prop-subspace-intersection)。
  • 和 $U+W$ は部分空間である(prop-subspace-sum)。
  • 部分集合 $S$ が張る空間 $\operatorname{span}_K(S)$ は、$S$ を含む最小の部分空間である(prop-span-smallest)。
  • 有限次元では次元公式 $\dim(U+W)=\dim U+\dim W-\dim(U\cap W)$ が成り立つ。
    共通部分は条件を同時に課す操作、和は両方の空間のベクトルを足して得られる最小の部分空間を作る操作である。$U\cup W$ は通常これらのどちらでもない。

例

原点を通る平面

実数 $a,b,c$($(a,b,c)\ne(0,0,0)$)を固定し、
$$ W = \{(x,y,z)\in\mathbb{R}^3 \mid ax+by+cz=0\} $$
とする。$W$ は $\mathbb{R}^3$ の部分空間である。実際、$a\cdot0+b\cdot0+c\cdot0=0$ より $(0,0,0)\in W$ であり $W$ は空でない。$(x_1,y_1,z_1),(x_2,y_2,z_2)\in W$ ならば
$$ a(x_1+x_2)+b(y_1+y_2)+c(z_1+z_2)=(ax_1+by_1+cz_1)+(ax_2+by_2+cz_2)=0+0=0 $$
より和も $W$ に属し、加法で閉じている。任意の $k\in\mathbb{R}$ に対しても
$$ a(kx_1)+b(ky_1)+c(kz_1)=k(ax_1+by_1+cz_1)=k\cdot0=0 $$
よりスカラー倍でも閉じている。ゆえに prop-subspace-criterion の条件を満たし、$W$ は $\mathbb{R}^3$ の部分空間である。幾何的には、$W$ は原点を通り法線ベクトル $(a,b,c)$ を持つ平面である。
確認ポイント:定義へ直接代入し、各条件がどの事実(座標ごとの線形性)から従うかを確認する基本例である。

線形写像の核

$V,V'$ を $K$ 上のベクトル空間、$f\colon V\to V'$ を線形写像とする。核
$$ \operatorname{Ker}(f) = \{v\in V \mid f(v)=0\} $$
は $V$ の部分空間である。まず、線形性(加法性)より $f(0)=f(0+0)=f(0)+f(0)$ であり、両辺から $f(0)$ を引くと $f(0)=0$ を得るから $0\in\operatorname{Ker}(f)$ であり空でない。$u,v\in\operatorname{Ker}(f)$ ならば加法性より $f(u+v)=f(u)+f(v)=0+0=0$ なので $u+v\in\operatorname{Ker}(f)$。$a\in K$、$v\in\operatorname{Ker}(f)$ ならば斉次性より $f(av)=af(v)=a\cdot0=0$ なので $av\in\operatorname{Ker}(f)$。よって核は加法・スカラー倍で閉じており、prop-subspace-criterion により $V$ の部分空間である。また、$f$ が単射であることと核が $\{0\}$ のみからなることは同値である。実際、$f(u)=f(v)$ と $f(u-v)=0$ が同値だからである。
確認ポイント:一つ目とは異なる表示・構成(集合の内包的記法ではなく写像の性質から定まる部分集合)でも同じ定義に入ることを確かめる例である。

ベクトル族が張る部分空間

$v_1,\ldots,v_k\in V$ を有限個のベクトルとする。これらの線形結合全体
$$ \operatorname{span}_K(v_1,\ldots,v_k) = \{a_1v_1+\cdots+a_kv_k \mid a_1,\ldots,a_k\in K\} $$
は $V$ の部分空間である。実際、全係数を $0$ とすれば零ベクトルが得られるので空でなく、二つの線形結合の和は対応する係数どうしを足せば再び同じ形の線形結合になるので加法で閉じており、スカラー倍も全係数に掛ければよいので閉じている。ゆえに prop-subspace-criterion の条件を満たす。これは後述の prop-span-smallest において $S=\{v_1,\ldots,v_k\}$ とした場合にあたり、$\operatorname{span}_K(v_1,\ldots,v_k)$ は $v_1,\ldots,v_k$ をすべて含む部分空間の中で最小のものである。
確認ポイント:関連分野で実際に現れる形を示す例であり、後続記事(線形包、線形独立と基底)への接続点になる。

反例とよくある誤解:原点を通らないアフィン直線

$\mathbb{R}^2$ 内の直線
$$ L = \{(x,y)\in\mathbb{R}^2 \mid y = x+1\} $$
を考える。$L$ は $\mathbb{R}^2$ の部分空間ではない。まず $0\ne0+1$ より $(0,0)\notin L$ であり、零ベクトルを含まない時点で部分空間ではあり得ない(prop-subspace-criterion の証明が示すように、部分空間は必ず $w-w=0$ を含む)。閉性そのものも実際に破れている:$(0,1),(1,2)\in L$ だが、和は $(0,1)+(1,2)=(1,3)$ であり $3\ne1+1$ なので $L$ に属さず、加法で閉じていない。スカラー倍についても $2\cdot(0,1)=(0,2)$ は $2\ne0+1$ より $L$ に属さない。原点を通らないアフィン部分集合が部分空間になり得ないことは、零ベクトルを含まないという一点だけで直ちに判定できる(アフィン部分空間も参照)。
確認すべき境界:この項目は、主定義の反例を示している。零ベクトルを含むという条件と、加法・スカラー倍で閉じるという条件のどちらもが独立に破れており、片方だけを直しても部分空間にはならない。

性質

部分空間の判定条件

$V$ を $K$ 上のベクトル空間とし、$W$ を $V$ の空でない部分集合とする。$W$ が加法とスカラー倍について閉じているならば、$V$ の加法とスカラー倍を $W$ へ制限した演算のもとで $W$ 自身が $K$ 上のベクトル空間になる。特に零ベクトル $0\in W$ であり、各 $w\in W$ の加法逆元 $-w$ も $W$ に属する。

まず零ベクトルと加法逆元の所属を示す。$W$ は空でないので、ある $w_0\in W$ が取れる。スカラー倍での閉性($a=-1$ の場合)より $(-1)w_0\in W$ である。ベクトル空間の公理から任意のベクトル $v$ に対し $(-1)v=-v$(加法逆元)が成り立つので、特に $-w_0=(-1)w_0\in W$ である。さらに加法での閉性より $w_0+(-w_0)=0\in W$。よって $0\in W$ である。同じ議論を任意の $w\in W$ に対して行えば、$(-1)w=-w\in W$ となり、$w$ の加法逆元も $W$ に属することがわかる。
次に、$W$ に制限した加法とスカラー倍が $K$ 上のベクトル空間の公理をすべて満たすことを確認する。閉性の仮定により、加法は写像 $W\times W\to W$、スカラー倍は写像 $K\times W\to W$ として矛盾なく定まる。

  • 加法の結合律・交換律:$W$ の元は $V$ の元でもあるから、$V$ 上で成り立つ結合律 $(u+v)+w=u+(v+w)$ と交換律 $u+v=v+u$ は、$u,v,w\in W$ についてもそのまま成り立つ。
  • 加法単位元:上で示した $0\in W$ が $W$ における加法単位元として働く。任意の $w\in W$ に対し $w+0=w$ は $V$ の公理からの帰結であり、両辺とも $W$ の元である。
  • 加法逆元:上で示した通り各 $w\in W$ に対し $-w\in W$ であり、$w+(-w)=0$ は $V$ の公理から従う。
  • スカラー倍の結合律・単位律:任意の $a,b\in K$、$w\in W$ に対し $(ab)w=a(bw)$ および $1w=w$ は、$w$ を $V$ の元とみたときの公理からそのまま成り立ち、いずれの式の両辺も $W$ の元である($bw\in W$、$aw\in W$ はスカラー倍の閉性による)。
  • 分配律:任意の $a,b\in K$、$u,v\in W$ に対し $a(u+v)=au+av$ および $(a+b)u=au+bu$ も同様に $V$ の公理から従い、両辺は閉性により $W$ の元である。
    以上の各等式は、$V$ がベクトル空間であることからすでに成り立っている等式を $W$ の元に対して読み替えたものにすぎず、$W$ が $V$ の部分集合であり閉性を満たすことから自動的に成立する。したがって $(W,+,\cdot)$ は $K$ 上のベクトル空間の公理をすべて満たし、$W$ は $V$ の演算の制限のもとでそれ自身ベクトル空間になる。
部分空間の共通部分

$I$ を空でない添字集合とし、$(W_i)_{i\in I}$ を $V$ の部分空間からなる族とする。このとき共通部分 $\bigcap_{i\in I}W_i$ もまた $V$ の部分空間である。

部分空間の共通部分の証明

各 $W_i$ が部分空間であることから $0\in W_i$($i\in I$)であり、したがって $0\in\bigcap_{i\in I}W_i$ となって空でない。$u,v\in\bigcap_{i\in I}W_i$ ならば、各 $i$ について $u,v\in W_i$ であり、$W_i$ が加法で閉じていることから $u+v\in W_i$。これがすべての $i$ で成り立つので $u+v\in\bigcap_{i\in I}W_i$。スカラー倍についても同様に各 $W_i$ の閉性から従う。ゆえに共通部分は prop-subspace-criterion の条件を満たし、$V$ の部分空間である。

部分空間の和

$U,W$ を $V$ の部分空間とする。和
$$ U+W := \{u+w \mid u\in U,\ w\in W\} $$
もまた $V$ の部分空間である。

$0=0+0\in U+W$($U,W$ がともに $0$ を含むことによる)より空でない。$U+W$ の二元 $u_1+w_1,\ u_2+w_2$($u_1,u_2\in U$、$w_1,w_2\in W$)の和は
$$ (u_1+w_1)+(u_2+w_2)=(u_1+u_2)+(w_1+w_2) $$
と書け、$U,W$ の加法での閉性より $u_1+u_2\in U$、$w_1+w_2\in W$ だから、この和も $U+W$ に属する。スカラー倍についても $a(u+w)=au+aw$ であり、$U,W$ のスカラー倍での閉性より $au\in U$、$aw\in W$ だから $a(u+w)\in U+W$。ゆえに $U+W$ は prop-subspace-criterion の条件を満たし、$V$ の部分空間である。

生成される部分空間(張る空間)

$S\subset V$ を任意の部分集合とする。$S$ の元の(有限個の)線形結合全体
$$ \operatorname{span}_K(S) = \left\{\, \sum_{i=1}^{n} a_i v_i \;\middle|\; n\ge0,\ a_i\in K,\ v_i\in S\ (i=1,\ldots,n) \,\right\} $$
は $V$ の部分空間であり、$S$ を含む部分空間の中で包含関係に関して最小のものである。すなわち $S\subset\operatorname{span}_K(S)$ であり、$S\subset W'$ を満たす任意の部分空間 $W'\le V$ に対して $\operatorname{span}_K(S)\subset W'$ が成り立つ。

線形包の最小性の証明

項数 $n=0$ の和を零ベクトルと約束する。したがって $0\in\operatorname{span}_K(S)$ である。二つの有限線形結合を足すと項を並べた有限線形結合になり、スカラー $a$ を掛けると各係数を $a$ 倍した有限線形結合になる。判定条件より $\operatorname{span}_K(S)$ は部分空間である。$s\in S$ は $1s$ と書けるので $S\subset\operatorname{span}_K(S)$。逆に $S\subset W'$ である部分空間 $W'$ を取る。$W'$ は加法・スカラー倍で閉じているから、$S$ の元の有限線形結合はすべて $W'$ に入る。ゆえに $\operatorname{span}_K(S)\subset W'$ であり、これは $S$ を含む部分空間の中で最小である。

次元公式(参照)

$V$ が有限次元で $U,W$ がその部分空間であるとき
$$ \dim(U+W)=\dim U+\dim W-\dim(U\cap W) $$
が成り立つ。例えば $U\cap W=\{0\}$ のとき、和の次元はそれぞれの次元の和となる。この公式は、共通部分を二重に数えた分を一度引くことを表す。

和と和集合の違い

$U+W$ は $U\cup W$ を含む最小の部分空間である。実際、$u=u+0$ と $w=0+w$ より $U,W\subset U+W$ である。$U$ と $W$ をともに含む部分空間 $Z$ は、加法の閉性により全ての $u+w$ を含むので、$U+W\subset Z$ となる。一方 $U\cup W$ は、$u\in U\setminus W$ と $w\in W\setminus U$ があると $u+w$ を含まない。もし $u+w\in U$ なら $w=(u+w)-u\in U$ となり矛盾し、$u+w\in W$ なら同様に $u\in W$ となり矛盾する。

二つの部分空間の和集合

$U,W\le V$ に対して、$U\cup W$ が部分空間となるのは $U\subset W$ または $W\subset U$ のとき、かつそのときに限る。

和集合の判定の証明

一方が他方に含まれるなら、和集合は大きい方の部分空間そのものである。逆に両方の包含が成り立たないと仮定する。$u\in U\setminus W$ と $w\in W\setminus U$ を取れる。$u,w\in U\cup W$ だが、上で示した通り $u+w$ は $U$ にも $W$ にも入らない。従って和集合は加法で閉じず、部分空間ではない。

例えば $\mathbb R^2$ の $x$ 軸と $y$ 軸の和は平面全体である。どの $(x,y)$ も $(x,0)+(0,y)$ と書けるからである。しかし両軸の和集合には $(1,1)$ が入らない。共通部分は原点だけであり、和・和集合・共通部分はそれぞれ異なる集合になる。

関数空間での例

部分空間は幾何的な直線や平面に限らない。実数上の多項式全体 $\mathbb R[t]$ のうち $p(0)=0$ を満たすものは、$p(0)=q(0)=0$ なら $(p+q)(0)=0$、$(ap)(0)=0$ だから部分空間である。これは評価写像 $p\mapsto p(0)$ の核でもある。$p(0)=1$ を満たす多項式全体は零多項式を含まず、部分空間ではない。二つの集合は形が似ていても、右辺が $0$ かどうかで線形性が変わる。
開区間 $(-1,1)$ 上の実数値微分可能関数全体の中で $f'(0)=0$ を満たすものも部分空間である。微分は線形なので、$f'(0)=g'(0)=0$ なら $(af+bg)'(0)=af'(0)+bg'(0)=0$。一方、$f'(0)=1$ を満たす集合は部分空間ではない。これらの例では関数の値や導関数への線形条件が部分空間を切り出している。有限次元の方程式の解空間と同じ判定法が無限次元でも使える。

関連項目

参考文献

[1]
Sheldon Axler, Linear Algebra Done Right, 3rd, Springer, 2015, Chapter 1, Vector Spaces, pp. 1–26; Chapter 2, Finite-Dimensional Vector Spaces, pp. 27–49

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