ベクトル束の計量

同義語:束計量ファイバー計量metric on a vector bundlebundle metricfiber metric

概要

ベクトル束の計量(metric on a vector bundle)とは、実ベクトル束の各ファイバーに内積を与え、それが底空間の点について連続に動くようにしたものである。パラコンパクト Hausdorff 空間の上では 1 の分割により必ず存在し、計量があると正規直交な局所枠がとれて、変換関数を直交群に値をとるようにできる。同じ束の 2 つの計量は、各ファイバーで正定値な自己随伴変換の平方根をとって得られる束の自己同型によって移り合い、この自己同型はただ 1 つに定まる。したがってパラコンパクト Hausdorff 空間の上では、計量の付いた束の等長類は束の同型類と一致し、単位球面束も計量の選び方によらない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, 部分束・商束・双対束, パラコンパクト空間, 正定値行列, 極分解

ベクトル束の各ファイバーに内積を 1 つずつ与え、それが底空間の点について連続に動くようにしたものをベクトル束の計量という。計量があると、ファイバーの中でベクトルの長さと角度が測れ、正規直交な局所枠がとれる。その結果、変換関数を直交群 $\mathrm O(n)$ に値をとるようにでき、部分束には直交補束が、束には双対束との同型が得られる。多様体の接束の計量が Riemann計量 である。
計量は束に付け加えるデータであり、同じ束にいくらでも多くの計量がある。しかし、どの 2 つの計量も束の自己同型で移り合う。したがって、パラコンパクト Hausdorff 空間の上では、計量の付いた束(Euclid ベクトル束)の等長類は、ただのベクトル束の同型類と変わらない。この記事では計量を定義し、存在と凸性、正規直交枠と直交群への縮小を述べ、主定理として 2 つの計量が正定値の平方根によって等長に移り合うことを証明する。

定義

ベクトル束・束写像の定義は ベクトル束 の記事に従い、この記事では実ベクトル束を考える。$E\to B$ を階数 $n$ の実ベクトル束とし、$E\times_BE:=\{(v,w)\in E\times E\mid\pi(v)=\pi(w)\}$ とおく。

ベクトル束の計量

$E\to B$ の計量(metric、bundle metric)とは、各ファイバー $E_b$ の内積 $\mu_b$ の族 $\mu=(\mu_b)_{b\in B}$ で、$E\times_BE\to\mathbb R$、$(v,w)\mapsto\mu_{\pi(v)}(v,w)$ が連続なものをいう。計量 $\mu$ を 1 つ選んだ組 $(E,\mu)$ を Euclid ベクトル束という。$B$ 上の Euclid ベクトル束 $(E,\mu)$、$(E',\mu')$ の間の束同型 $f\colon E\to E'$ で、すべての $v,w\in E_b$ について $\mu'(f v,f w)=\mu(v,w)$ となるものを等長同型という。

$\mu_{\pi(v)}(v,w)$ を単に $\mu(v,w)$ と書く。この定義は 部分束・商束・双対束 の定義「計量」の実の場合と同じである。複素ベクトル束で内積を Hermite 内積に替えたものが Hermite計量 である。$B$ が滑らかな多様体で $E$ が滑らかな束のとき、滑らかな局所枠 $e=(e_1,\dots,e_n)$ について Gram 行列 $(\mu(e_i,e_j))$ が滑らかなら、$\mu$ を滑らかな計量という。滑らかな多様体 $M$ の接束 $TM$ の滑らかな計量が $M$ の Riemann計量 である。

計量の言い換え

各ファイバーの内積の族 $\mu$ について、次は同値である。

  1. $\mu$ は計量である。
  2. $E$ の任意の局所枠 $e$(開集合 $U$ 上)について、Gram 行列 $G_e(u):=(\mu(e_i(u),e_j(u)))_{i,j}$ は $U$ 上連続である。
  3. $q(v):=\mu(v,v)$ は $E$ 上の連続関数である。

1 から 3:$q$ は 1 の関数と対角写像 $E\to E\times_BE$ の合成である。3 から 2:$\mu(x,y)=\frac12\bigl(q(x+y)-q(x)-q(y)\bigr)$ で、ファイバーごとの和は連続なので(ベクトル束 の命題「ベクトル束の基本性質」の 3)、$\mu(e_i,e_j)$ は連続である。2 から 1:$U$ の上で $v=\sum_ix_ie_i$、$w=\sum_jy_je_j$ と書くと、係数 $x,y$ は $v,w$ の連続関数で(局所枠は局所自明化を与える)、$\mu(v,w)=x^{\top}G_e(\pi(v))y$ は連続である。$\square$

3 は MS74 §2(p. 21)の定義の形である。

計量の例
  1. 自明束 $B\times\mathbb R^n$ には、$\mathbb R^n$ の標準内積による計量 $\mu((b,x),(b,y))=x^{\top}y$ がある。
  2. 計量 $\mu$ をもつ束 $E\to B$ と連続写像 $f\colon B'\to B$ について、引き戻し $f^*E$ のファイバー $(f^*E)_{b'}=E_{f(b')}$ に $\mu_{f(b')}$ を与えたものは $f^*E$ の計量である。部分束に計量を制限したものも計量である。
  3. 滑らかな部分多様体 $M\subset\mathbb R^N$ の接束は自明束 $M\times\mathbb R^N$ の部分束で、1 の計量を制限すると $M$ の Riemann 計量(誘導計量)が得られる(Riemann多様体 の例「埋め込まれた部分多様体」)。$\mathbb{RP}^n$ 上のトートロジー直線束 $\{(\ell,v)\mid v\in\ell\}\subset\mathbb{RP}^n\times\mathbb R^{n+1}$ も、$\mathbb R^{n+1}$ の標準内積を制限した計量をもつ。
  4. Möbius 束 $M=(\mathbb R\times\mathbb R)/((t,v)\sim(t+1,-v))$ には $\mu([t,v],[t,w]):=vw$ が矛盾なく定まる計量である(代表を替えると $v,w$ がともに符号を変える)。単位ベクトルの全体 $\{[t,\pm1]\}$ は、$[t+1,1]=[t,-1]$ なので 1 つの円周であり、円周を 2 重に覆う。これは Möbiusの帯 の命題「縁の円周」の、縁が芯を 2 周することにあたる。
  5. 計量 $\mu,\mu'$ をもつ束 $E,F$ について、$E\oplus F$ には $(\mu\oplus\mu')((v,w),(v',w'))=\mu(v,v')+\mu'(w,w')$、$E\otimes F$ にはファイバーごとのテンソル積の内積(正規直交基底 $e_i,f_j$ について $e_i\otimes f_j$ が正規直交になるもの)、$E^*$ には双対の内積が入る。局所枠についての Gram 行列は、もとの Gram 行列の直和・Kronecker 積・逆行列なので連続である。

存在と凸性

計量の存在と凸性
  1. $B$ がパラコンパクト Hausdorff 空間なら、$B$ 上の任意のベクトル束は計量をもつ。
  2. $B$ が滑らかな多様体なら、$B$ 上の任意の滑らかなベクトル束は滑らかな計量をもつ。
  3. $\mu_0,\mu_1$ が $E$ の計量なら、$t\in[0,1]$ について $(1-t)\mu_0+t\mu_1$ も計量である。より一般に、$B$ の 1 の分割 $(\rho_\alpha)$ と、各 $\rho_\alpha$ の台の近傍で定義された計量 $\mu^\alpha$ について、$\sum_\alpha\rho_\alpha\mu^\alpha$ は計量である。

1 は 部分束・商束・双対束 の補題「計量の存在」である。3:各点で、正定値な内積の、非負係数で和が $1$ の結合は正定値な内積である。台が局所有限なので各点の近くで和は有限で、連続性が保たれる。2:$E$ を自明化する開被覆 $\{U_\alpha\}$ と滑らかな局所自明化をとり、$U_\alpha$ 上に 1 の標準内積を移した滑らかな計量 $\mu^\alpha$ を置く。1の分割 の定理「滑らかな 1 の分割の存在」による滑らかな 1 の分割 $(\rho_\alpha)$ で $\sum_\alpha\rho_\alpha\mu^\alpha$ を作ると、3 により計量で、滑らかな局所枠についての Gram 行列は滑らかな関数の局所有限な和なので滑らかである。$\square$

パラコンパクト性は外せない。MS74 Problem 2-D(p. 23)は、パラコンパクトでない滑らかな多様体である長い直線(長い直線)が Riemann 計量をもたないことを問題として挙げている(この記事では証明しない。Riemann 計量があれば連結な多様体は距離空間になり、距離空間はパラコンパクトであることによる)。Hausdorff でない空間の上で計量をもたない直線束の例は、下の反例の表の 2 行目にある。

正規直交枠と直交群

正規直交な局所枠

$(E,\mu)$ を Euclid ベクトル束とする。

  1. 各点の近傍 $U$ の上に、$\mu$ について正規直交な局所枠がある。2 つの正規直交な局所枠 $e,e'$ の重なりでの変換行列 $e'=e\,g$ は直交群 $\mathrm O(n)$ に値をとる。
  2. 逆に、変換関数がすべて $\mathrm O(n)$ に値をとる局所自明化の族で $B$ が覆われているとき、各局所自明化で $\mathbb R^n$ の標準内積を移したものは貼り合わさって、$E$ の計量になる。

1:任意の局所枠に各点で Gram–Schmidt の直交化(Gram–Schmidtの直交化)を施す。係数は Gram 行列の成分の有理式と正の数の平方根で書けるので連続であり、正規直交な局所枠が得られる。正規直交基底どうしを結ぶ行列は直交行列である。2:$U_\alpha\cap U_\beta$ の上で 2 つの局所自明化は $g_{\alpha\beta}(b)\in\mathrm O(n)$ で結ばれ、直交行列は標準内積を保つので、移した内積は一致する。連続性は各 $U_\alpha$ の上で 1 の例と同じである。$\square$

変換関数を部分群 $\mathrm O(n)\subset\mathrm{GL}_n(\mathbb R)$ に値をとるようにできることを、構造群の $\mathrm O(n)$ への縮小という。主束の言葉では、正規直交枠の全体が主 $\mathrm O(n)$ 束をなすことにあたる(主束 の命題「計量による $\mathrm{O}(r)$ への縮小」)。lem-bm-orthonormal により、計量を与えることと、変換関数が $\mathrm O(n)$ に値をとる局所自明化の族(を同値なものの範囲で)与えることは同じである。

主定理:計量の一意性

計量はたくさんあるが、どの 2 つも束の自己同型で移り合う。

計量の一意性

$B$ を位相空間、$E\to B$ を実ベクトル束とし、$\mu,\mu'$ を $E$ の 2 つの計量とする。このとき束の自己同型 $f\colon E\to E$(底空間の恒等写像を覆う束同型)で、

  1. 各 $b$ について $f_b$ は $\mu_b$ について自己随伴かつ正定値であり、
  2. すべての $v,w\in E_b$ について $\mu(fv,fw)=\mu'(v,w)$ となる
    ものがただ 1 つ存在する。とくに $f$ は等長同型 $(E,\mu')\to(E,\mu)$ である。

各ファイバーでの構成.$b\in B$ を固定する。$\mu_b$ は内積なので、各 $v$ について $w\mapsto\mu'_b(v,w)$ を $\mu_b(A_bv,w)$ と書く $A_bv\in E_b$ がただ 1 つあり、$A_b\colon E_b\to E_b$ は線形である。$\mu'_b$ は対称なので $\mu_b(A_bv,w)=\mu_b(v,A_bw)$、すなわち $A_b$ は $\mu_b$ について自己随伴であり、$v\ne0$ なら $\mu_b(A_bv,v)=\mu'_b(v,v)>0$ なので正定値である。$\mu_b$ について正規直交な基底をとると $A_b$ は正定値対称行列で表され、正定値行列 の定理「半正定値な平方根の存在と一意性」により、$\mu_b$ について自己随伴で正定値な $f_b$ で $f_b^2=A_b$ となるものがただ 1 つある。このとき
$$ \mu_b(f_bv,f_bw)=\mu_b(f_b^2v,w)=\mu_b(A_bv,w)=\mu'_b(v,w) $$
である。逆に $f'_b$ が条件 1・2 を満たせば、$\mu_b(f_b'^2v,w)=\mu_b(f'_bv,f'_bw)=\mu'_b(v,w)=\mu_b(A_bv,w)$ なので $f_b'^2=A_b$ であり、平方根の一意性から $f'_b=f_b$ である。よって条件を満たす族 $(f_b)$ はただ 1 つで、各 $f_b$ は線形同型である。
連続性.$b_0$ の近傍 $U$ の上で $\mu$ について正規直交な局所枠 $e$ をとる(lem-bm-orthonormal の 1)。$\mu(A_be_j,e_i)=\mu'(e_j,e_i)$ なので、$A_b$ の $e$ についての行列は $\mu'$ の Gram 行列 $G'(b):=(\mu'(e_i,e_j))_{i,j}$ に等しく、これは $b$ の連続関数で値は正定値対称行列の集合 $\mathcal P_n$ に入る(prop-bm-equivalent)。$f_b$ の行列は $G'(b)$ の正定値な平方根 $G'(b)^{1/2}$ である。$\mathcal H_n$ を実対称行列の空間とすると、極分解 の定理「正定値行列の対数と Cartan 分解」の 1 により $\exp\colon\mathcal H_n\to\mathcal P_n$ は同相写像で、その逆写像を $\log$ とすると
$$ P^{1/2}=\exp\bigl(\tfrac12\log P\bigr)\qquad(P\in\mathcal P_n) $$
である(右辺は正定値対称で、2 乗すると $\exp(\log P)=P$ になるので、平方根の一意性による)。よって $P\mapsto P^{1/2}$ は連続で、$b\mapsto G'(b)^{1/2}$ は連続である。局所自明化 $(b,x)\mapsto\sum_ix_ie_i(b)$ を通すと $f$ は $(b,x)\mapsto(b,G'(b)^{1/2}x)$ なので、$f$ は連続な束写像である。$f$ は各ファイバーで線形同型なので、ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により束同型であり、2 により等長同型 $(E,\mu')\to(E,\mu)$ である。$\square$

この定理の存在の部分は MS74 Problem 2-E(p. 24)の主張である。同書のヒントは、平方根を冪級数で表して連続性を示す方法を挙げている。上の証明は、正定値対称行列の空間が指数写像で対称行列の空間(ベクトル空間)と同相であることを使った。

滑らかな計量の場合

$\mu,\mu'$ が滑らかな計量なら、$f$ も滑らかである。

理由を開く

2 乗写像 $Q\colon\mathcal P_n\to\mathcal P_n$、$P\mapsto P^2$ は滑らかな全単射で(全単射性は平方根の存在と一意性)、$P$ での微分 $H\mapsto PH+HP$($H\in\mathcal H_n$)は単射である。実際、$P$ を直交行列で対角化して $P=\operatorname{diag}(\lambda_i)$($\lambda_i>0$)としてよく、$PH+HP=0$ の $(i,j)$ 成分は $(\lambda_i+\lambda_j)H_{ij}=0$ なので $H=0$ である。$\mathcal P_n$ は $\mathcal H_n$ の開集合なので、逆関数定理により $Q^{-1}=(\cdot)^{1/2}$ は滑らかであり、滑らかな正規直交局所枠の上で $f$ の行列 $G'^{1/2}$ は滑らかである。$\square$

等長類と同型類

$B$ をパラコンパクト Hausdorff 空間とする。

  1. $B$ 上の Euclid ベクトル束 $(E,\mu)$ と $(E',\mu')$ が等長同型であるための必要十分条件は、$E$ と $E'$ がベクトル束として同型であることである。
  2. ベクトル束 $E$ の単位球面束 $S(E,\mu):=\{v\mid\mu(v,v)=1\}$ と単位円板束 $D(E,\mu):=\{v\mid\mu(v,v)\le1\}$ は、計量 $\mu$ の選び方によらず、$B$ の上の同相(ファイバーを保つ同相写像)を除いて定まる。

1:等長同型は束同型なので必要性は明らかである。束同型 $\varphi\colon E\to E'$ があるとき、$\mu''(v,w):=\mu'(\varphi v,\varphi w)$ は $E$ の計量である。thm-bm-uniqueness を $\mu$ と $\mu''$ に当てて $\mu(fv,fw)=\mu''(v,w)$ となる束同型 $f$ をとり、$\psi:=\varphi\circ f^{-1}$ とおくと、$\mu'(\psi v,\psi w)=\mu''(f^{-1}v,f^{-1}w)=\mu(v,w)$ なので $\psi$ は等長同型 $(E,\mu)\to(E',\mu')$ である。
2:$E$ の 2 つの計量 $\mu,\mu'$ について thm-bm-uniqueness の $f$ をとると、$\mu(fv,fv)=\mu'(v,v)$ なので、$f$ は $S(E,\mu')$ を $S(E,\mu)$ の上へ、$D(E,\mu')$ を $D(E,\mu)$ の上へ写す。$f$ とその逆はファイバーを保つ連続写像なので、これらは同相写像である。$\square$

パラコンパクト Hausdorff 空間の上では、どの束も計量をもち(prop-bm-existence)、計量は本質的に 1 つなので、「Euclid ベクトル束の等長類」と「ベクトル束の同型類」は同じものになる。変換関数の言葉では、$\mathrm{GL}_n(\mathbb R)$ に値をとるどのコサイクルも $\mathrm O(n)$ に値をとるものに取り替えられ、その取り替えは同型を除いて一意である。行列の側では、極分解 の定理「正定値行列の対数と Cartan 分解」の 2 により $\mathrm{GL}_n(\mathbb R)$ が $\mathrm O(n)\times\mathcal H_n$ と同相で、$\mathcal H_n$ が可縮であることにあたる。

等長同型と等長な微分同相の違い

$g$ を単位球面 $S^2\subset\mathbb R^3$ の誘導計量とし、$g':=4g$ とおく。thm-bm-uniqueness の $f$ は $f=2\,\mathrm{id}$ であり、$(TS^2,g')$ と $(TS^2,g)$ は束として等長同型である。しかし、Riemann 多様体として $(S^2,g')$ と $(S^2,g)$ を移し合う微分同相 $\varphi$($\varphi^*g=g'$)はない。実際、そのような $\varphi$ は Riemann 体積を保つが(Riemann多様体 の定義「リーマン体積」)、面積は $g$ で $4\pi$、$g'$ で $16\pi$ である。束の等長同型は底空間の恒等写像を覆う写像であり、微分同相の微分である必要はない。曲率のような Riemann 多様体の不変量は、計量を微分同相で比べたときに現れる。

計量から得られること

計量の存在と一意性から、ベクトル束について次のことが従う。どれも各記事で証明されている。

  • 直交補束と分裂:計量をもつ束の部分束 $F\subset E$ について、直交補 $F^\perp$ は部分束で $E\cong F\oplus F^\perp$、$F^\perp\cong E/F$ である(部分束・商束・双対束 の定理「直交補束と商束」)。パラコンパクト Hausdorff 空間上ではベクトル束の短完全列はいつも分裂する(同記事の系「短完全列の分裂」)。
  • 双対束との同型:$v\mapsto\mu(\cdot,v)$ は束同型 $E\cong E^*$ を与える(同記事の命題「計量による双対束の同一視」)。複素ベクトル束では、Hermite 計量が与えるのは共役束との同型 $\bar E\cong E^*$ である。
  • 直線束:直線束 $L$ が計量をもつことは $L\otimes L$ が自明であることと同値であり、パラコンパクト Hausdorff 空間上の実直線束の同型類の群では、どの元も位数が $2$ 以下である(実直線束の群 の定理「計量とテンソル平方」)。
  • 球面束と円板束:cor-bm-isometry-classes の 2 により、単位球面束 $S(E)$ と単位円板束 $D(E)$ は束だけで決まる。$D(E)/S(E)$ が Thom空間 であり、Euler類 を定める Thom 類は、対 $(D(E),S(E))$ と同じホモトピー型の対 $(E,E\setminus0)$ のコホモロジー類である。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
各ファイバーの形式が正定値(非退化な対称形式に弱める)1 点の上の $\mathbb R^2$ の形式 $x_1y_1+x_2y_2$ と $x_1y_1-x_2y_2$2 つの形式が束の自己同型で移り合う(thm-bm-uniqueness)
底空間がパラコンパクト Hausdorff原点を 2 つもつ直線の上の直線束計量が存在する(prop-bm-existence の 1)
実ベクトル束の対称形式(複素ベクトル束の複素双線形な対称形式に替える)1 点の上の $\mathbb C$正定値な形式が存在する
表の反例の確かめ

1 行目:線形同型 $f$ で $(fx)^{\top}(fy)=x_1y_1-x_2y_2$ となるものがあれば、$x=y=e_2$ として $\lvert fe_2\rvert^2=-1$ となり矛盾する。符号の異なる非退化な対称形式は線形同型で移り合わない。
2 行目:実直線束の群 の表の反例の確かめ(2 行目)で、変換関数 $\lvert x\rvert$ で貼り合わせた直線束が計量をもたないことを示している。この空間は Hausdorff でないことだけが仮定から外れる。
3 行目:複素双線形な対称形式 $\beta$ について $\beta(iv,iv)=i^2\beta(v,v)=-\beta(v,v)$ なので、$\beta(v,v)>0$ と $\beta(iv,iv)>0$ は両立しない。複素ベクトル束では、正定値性は共役線形な Hermite 内積に対して考える。

補足

  • 構造群の縮小としての見方:計量の存在は「$\mathrm{GL}_n(\mathbb R)$ を $\mathrm O(n)$ に縮小できる」こと、一意性は「縮小が同型を除いて一意」であることにあたる。同じように、向きは $\mathrm{GL}_n^+(\mathbb R)$ への、向きと計量は $\mathrm{SO}(n)$ への、Hermite 計量は $\mathrm U(n)$ への縮小である(主束 の節「構造群の縮小」)。
  • 不定値の場合:符号の定まった不定値な形式(Lorentz 計量など)は、正の係数の結合で非退化性と符号が保たれないので、1 の分割による構成が使えない(Lee13 Chapter 13 の注意、p. 344)。
  • 文献:計量の定義は MS74 §2(p. 21)、正規直交な局所枠は同書 Lemma 2.4(p. 22)、計量の存在は同書 Problem 2-C(p. 23)、一意性は Problem 2-E(p. 24)にある。滑らかな多様体の Riemann 計量の存在は Lee13 Proposition 13.3(p. 329)である。

関連項目

参考文献

[1]
John W. Milnor, James D. Stasheff, Characteristic Classes, Annals of Mathematics Studies 76, Princeton University Press, 1974, §2:Euclid ベクトル束の定義(p. 21)、Lemma 2.4(p. 22)、Problem 2-C・2-D(p. 23)、Problem 2-E(p. 24)
[2]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2013, Chapter 13:Proposition 13.3(Riemann 計量の存在、p. 329)、不定値の計量についての注意(p. 344)

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