Hopf不変量1の定理(Hopf invariant one theorem)とは、$n\ge2$ で Hopf 不変量が奇数の写像 $S^{2n-1}\to S^n$ があるのは $n=2,4,8$ のときに限る、という Adams の定理である。奇数なら $n$ が $2$ の冪であることは Steenrod 平方の分解から従い、残りは $K$ 理論の Adams 演算の関係 $\psi^2\psi^3=\psi^3\psi^2$ と、$2^m\mid3^m-1$ なら $m\in\{1,2,4\}$ という数論の事実から従う。帰結として、零因子のない双線形な積をもつ $\mathbb R^n$ は $n=1,2,4,8$ に限り、正の次元の球面で H空間になるのは $S^1,S^3,S^7$ に限る。
Hopf不変量1の定理(Hopf invariant one theorem)は、Hopf 不変量が $\pm1$ の写像 $S^{2n-1}\to S^n$ が存在するのは $n=2,4,8$ のときに限る、という Adams の定理である。$n=2,4,8$ では、複素数・四元数・八元数から作られる Hopf 写像 $S^3\to S^2$、$S^7\to S^4$、$S^{15}\to S^8$ が Hopf 不変量 $1$ をもつ。Adams(1960)は二次のコホモロジー作用素を使ってこれを証明し、のちに Adams と Atiyah は位相的 $K$ 理論の Adams 演算による短い証明を与えた。
この定理は「次元が限られる」型の古典的な問題をまとめて解く。$\mathbb R^n$ に零因子のない双線形な積があるのは $n=1,2,4,8$ に限り、球面 $S^{n-1}$ が H 空間になるのは $n-1=0,1,3,7$ に限る。どちらも、Hopf 構成によって Hopf 不変量 $\pm1$ の写像を作ることで、この定理に帰着する。
この記事では、Hopf 不変量が奇数なら $n$ が $2$ の冪であることを Steenrod 平方で示し(hio-prop-sq)、次に Adams 演算による Adams–Atiyah の証明で主定理を示す(hio-thm-main)。数論の部分($2^m\mid3^m-1$ なら $m\in\{1,2,4\}$)も証明する。最後に多元体と H 空間への帰結を述べる。
$n\ge2$ とし、連続写像 $f\colon S^{2n-1}\to S^n$ に沿って $S^n$ に $2n$ 胞体を貼った空間を $C_f$ とする。$H^n(C_f;\mathbb Z)$、$H^{2n}(C_f;\mathbb Z)$ はどちらも無限巡回群で、生成元 $\alpha,\beta$ について $\alpha^2=H(f)\beta$ となる整数 $H(f)$ が $f$ の Hopf不変量 である(コホモロジー環 の定義「Hopf 不変量の定義」)。$H(f)$ は符号を除いて $f$ のホモトピー類で決まり、生成元を固定して符号を決めると $H\colon\pi_{2n-1}(S^n)\to\mathbb Z$ は準同型である(Hopf不変量 の定理「加法性」、Hat02 Proposition 4B.1, p. 428)。$n$ が奇数なら $H(f)=0$ である(コホモロジー環 の定理「奇数次元での消滅」)。
$n\ge2$ とし、$f\colon S^{2n-1}\to S^n$ の Hopf 不変量 $H(f)$ が奇数であるとする。このとき $n\in\{2,4,8\}$ である。とくに、Hopf 不変量が $\pm1$ の写像 $S^{2n-1}\to S^n$ が存在するのは $n=2,4,8$ のときに限る。
証明は節「Adams 演算による証明」の hio-prf-main にある。$K$ 群 $\widetilde K(C_f)$ の構造(hio-lem-kgroup)と数論の補題(hio-lem-number)を先に示し、Adams 演算 $\psi^2,\psi^3$ が可換であることから $2^{n/2}\mid3^{n/2}-1$ を導く。
存在の側は、$\mathbb{CP}^2$、$\mathbb{HP}^2$、八元数射影平面 $\mathbb{OP}^2$ の最上次の胞体の付着写像が Hopf 不変量 $\pm1$ をもつことによる(コホモロジー環 の例「Hopf 不変量の計算」の 2・3、Hopf写像)。$n$ が偶数なら Hopf 不変量が $\pm2$ の写像はいつも存在する(Whitehead積 の定理「恒等写像の Whitehead 積」の 2、Hopf不変量 の命題「積空間の貼り付け写像」)ので、主定理の「奇数」は外せない。
係数を $\mathbb Z/2$ にした Hopf 不変量は、Steenrod 平方で読める。
$n\ge2$、$f\colon S^{2n-1}\to S^n$ の Hopf 不変量が奇数なら、$n$ は $2$ の冪である。
$C_f$ の整数係数のコホモロジーは捩れのない群なので、係数の取り替え $H^*(C_f;\mathbb Z)\otimes\mathbb Z/2\to H^*(C_f;\mathbb Z/2)$ は環の同型である(コホモロジー環 の命題「捩れのない場合の係数の取り替え」)。$\alpha,\beta$ の像を $\bar\alpha\in H^n(C_f;\mathbb Z/2)$、$\bar\beta\in H^{2n}(C_f;\mathbb Z/2)$ とすると、これらは $0$ でなく、$\bar\alpha^2=H(f)\bar\beta=\bar\beta$ である($H(f)$ は奇数)。Steenrod平方 の定義「Steenrod 平方」の 5 により $Sq^n\bar\alpha=\bar\alpha^2\neq0$ である。
$n$ が $2$ の冪でないとする。Steenrod平方 の定理「分解可能性の判定」により、$Sq^n$ は $Sq^{c_1}\cdots Sq^{c_r}$($r\ge2$、$c_s\ge1$、$c_1+\cdots+c_r=n$)の形の合成の有限和として書ける。各合成で最初に働く $Sq^{c_r}$ は $1\le c_r\le n-1$ をみたすので、$Sq^{c_r}\bar\alpha$ は $H^{n+c_r}(C_f;\mathbb Z/2)$ の元である。$n< n+c_r< 2n$ であり、$C_f$ は次元 $0,n,2n$ にしか胞体をもたないので、この群は $0$ である。よって $Sq^n\bar\alpha=0$ となり、矛盾する。$\square$
同じ議論から、Hopf 不変量が奇数の $f$ について、$f$ の何回の懸垂も零ホモトピックでない($Sq^n$ が懸垂と可換なため。Hat02 Theorem 4L.2, p. 489)。$n=2,4,8$ の Hopf 写像は、安定ホモトピー群 $\pi^{\mathrm S}_1,\pi^{\mathrm S}_3,\pi^{\mathrm S}_7$ の $0$ でない元を与える。hio-prop-sq は $n=16,32,\dots$ を除外しない。Adams は二次のコホモロジー作用素によって $Sq^{2^k}$($k\ge4$)をさらに分解し、これらの次元を除外した。
以下 $n=2m$ とする($n$ が奇数なら $H(f)=0$ なので、主定理の仮定のもとで $n$ は偶数である)。$K$ 理論についての次の事実を使う。
$n=2m$ とする。包含 $S^{2m}\to C_f$ とつぶす写像 $C_f\to C_f/S^{2m}=S^{4m}$ は完全列
$$
0\to\widetilde K(S^{4m})\to\widetilde K(C_f)\to\widetilde K(S^{2m})\to0
$$
を誘導する(Hus94 第 15 章 §1, pp. 210–211)。$b$ を $\beta_{2m}$ の像、$a$ を $\beta_m$ に写る元とすると、$\widetilde K(C_f)$ は $a,b$ を基底とする自由アーベル群で、
基底になることは完全列が分裂する(右端が自由)ことによる。1:$a^2$ を $S^{2m}$ に制限すると $\beta_m^2=0$ なので、$a^2$ は完全列により $b$ の整数倍である。$h=H(f)$ は事実 3 である。2:$\psi^k$ の自然性により、$\psi^k(b)$ は $\psi^k(\beta_{2m})=k^{2m}\beta_{2m}$ の像 $k^{2m}b$ であり、$\psi^k(a)$ の $S^{2m}$ への制限は $\psi^k(\beta_m)=k^m\beta_m$ である。よって $\psi^k(a)-k^ma$ は制限で $0$ になり、$b$ の整数倍である。3:$\widetilde K(C_f)$ は基点への制限 $K(C_f)\to K(\mathrm{pt})=\mathbb Z$ の核であり、この制限は写像が誘導するので $\lambda$ 演算と可換である。$\mathbb Z$ の上で $\lambda^2(0)=0$ なので、$\lambda^2(a)\in\widetilde K(C_f)$ であり、$\lambda^2(a)=sa+tb$($s,t\in\mathbb Z$)と書ける。事実 2 により
$$
\psi^2(a)=a^2-2\lambda^2(a)=-2sa+(h-2t)b
$$
であり、2 と比べて $\mu_2=h-2t$ である。$h=H(f)$ が奇数なら $\mu_2$ は奇数である。$\square$
正の整数 $m$ について $2^m$ が $3^m-1$ を割り切るなら、$m\in\{1,2,4\}$ である。
整数 $N$ を割り切る $2$ の冪の最大の指数を $v(N)$ と書く。
$m$ が奇数のとき:$3^m-1=(3-1)(3^{m-1}+\cdots+3+1)$ で、右の因子は $m$ 個の奇数の和なので奇数である。よって $v(3^m-1)=1$ で、$m\le1$、$m=1$ である。
$m$ が偶数のとき:$m=2^er$($e\ge1$、$r$ は奇数)と書く。まず $v(3^{2^e}-1)=e+2$ を $e$ についての帰納法で示す。$e=1$ では $3^2-1=8$ である。$e\ge1$ で成り立つとすると、$3^{2^{e+1}}-1=(3^{2^e}-1)(3^{2^e}+1)$ で、$3^{2^e}$ は奇数の平方なので $4$ で割って $1$ 余り、$3^{2^e}+1$ は $4$ で割って $2$ 余る。よって $v(3^{2^{e+1}}-1)=(e+2)+1$ である。次に $x:=3^{2^e}$ とおくと $3^m-1=x^r-1=(x-1)(x^{r-1}+\cdots+x+1)$ で、右の因子は $r$ 個の奇数の和なので奇数である。よって $v(3^m-1)=e+2$ であり、仮定から $2^er=m\le e+2$ である。$e\ge3$ なら $2^e>e+2$ なので $e\in\{1,2\}$ であり、$e=1$ では $2r\le3$ から $r=1$、$m=2$、$e=2$ では $4r\le4$ から $r=1$、$m=4$ である。$\square$
$H(f)$ が奇数なら $n$ は偶数なので $n=2m$ とする。hio-lem-kgroup の 2 により
$$
\psi^3\psi^2(a)=\psi^3(2^ma+\mu_2b)=2^m(3^ma+\mu_3b)+3^{2m}\mu_2b,
$$
$$
\psi^2\psi^3(a)=\psi^2(3^ma+\mu_3b)=3^m(2^ma+\mu_2b)+2^{2m}\mu_3b
$$
である。$\psi^3\psi^2=\psi^6=\psi^2\psi^3$ なので $b$ の係数を比べて
$$
2^m(2^m-1)\mu_3=3^m(3^m-1)\mu_2
$$
を得る。hio-lem-kgroup の 3 により $\mu_2$ は奇数なので、右辺を割り切る $2$ の冪の指数は $3^m-1$ のものと等しい。左辺は $2^m$ で割り切れるので、$2^m$ は $3^m-1$ を割り切る。hio-lem-number により $m\in\{1,2,4\}$、すなわち $n\in\{2,4,8\}$ である。$\square$
この証明は Hus94 第 15 章 §4(pp. 215–216)の Atiyah による証明と同じ筋である。そこでは奇数の $k$ すべてについて $2^m\mid k^m-1$ を導き、数論の結果を引いているが、ここでは $k=3$ だけを使い、数論の部分を hio-lem-number として証明した。
写像 $\mu\colon S^{n-1}\times S^{n-1}\to S^{n-1}$ について、$y_0$ を固定した $x\mapsto\mu(x,y_0)$ の写像度 $d_1$ と、$x_0$ を固定した $y\mapsto\mu(x_0,y)$ の写像度 $d_2$ の組 $(d_1,d_2)$ を $\mu$ の 双次数という(球面は弧状連結なので $x_0,y_0$ によらない)。$\mu$ から Hopf 構成により写像 $S^{2n-1}=S^{n-1}*S^{n-1}\to\Sigma S^{n-1}=S^n$ が作られ、$n$ が偶数ならその Hopf 不変量は $d_1d_2$ である(Hus94 第 15 章 Definition 3.3, Theorem 3.5, p. 213 と第 20 章 Proposition 10.2, p. 309)。Hopf不変量 の定理「Hopf 構成の Hopf 不変量」は、Hopf 構成を $\partial(D^n\times D^n)$ の上の写像として定め、$n\ge2$ について Hopf 不変量が符号を除いて $d_1d_2$ であることを証明している。
1:単位ベクトル $e$ を 1 つ固定し、$L(y):=e\cdot y$、$R(x):=x\cdot e$ とおく。$L,R$ は線形で、零因子がないので単射であり、有限次元なので可逆である。$x\ast y:=R^{-1}(x)\cdot L^{-1}(y)$ とおくと、$\ast$ も双線形で零因子がない。$u:=e\cdot e$ について
$$
u\ast y=R^{-1}(e\cdot e)\cdot L^{-1}(y)=e\cdot L^{-1}(y)=y,\qquad x\ast u=R^{-1}(x)\cdot L^{-1}(e\cdot e)=R^{-1}(x)\cdot e=x
$$
である($R(e)=L(e)=e\cdot e$)。$x,y\in S^{n-1}$ について $x\ast y\neq0$ なので、$\mu(x,y):=(x\ast y)/|x\ast y|$ は連続写像 $S^{n-1}\times S^{n-1}\to S^{n-1}$ である。$u_0:=u/|u|$ とおくと、$|y|=1$ のとき $u_0\ast y=y/|u|$ なので $\mu(u_0,y)=y$、同様に $\mu(x,u_0)=x$ であり、$u_0$ は厳密な単位元である。
2:H 空間の積 $\mu$ は $\mu(\cdot,e)$ と $\mu(e,\cdot)$ が恒等写像とホモトピックなので、双次数は $(1,1)$ である。$n$ が奇数なら、$S^{n-1}$ は正の偶数次元の球面で H 空間にならない(H空間 の命題「H 空間にならない空間」)。$n$ が偶数なら、Hopf 構成により Hopf 不変量 $1\cdot1=1$ の写像 $S^{2n-1}\to S^n$ が得られ、hio-thm-main により $n\in\{2,4,8\}$ である。
3:1 と 2 による($n=1$ では $\mathbb R$ の積がある)。$n=2,4,8$ では、複素数・四元数・八元数の積が零因子をもたない双線形写像で、その単位球面 $S^1,S^3,S^7$ は H 空間である(H空間 の例「位相群と単位球面」「7 次元球面と射影空間」)。$\square$
$\mathbb R^n$ の積が単位元をもち、さらに絶対値を保つ場合は、Hurwitz の定理により $\mathbb R$・$\mathbb C$・四元数・八元数に限られる(Hurwitzの定理(合成代数))。hio-thm-consequences の 3 は、絶対値の条件も単位元の条件もない双線形な積について、次元が同じ $1,2,4,8$ に限られることを主張している。零因子のない双線形な積をもつ有限次元の実ベクトル空間を実多元体という。可換な場合や結合的な場合(Frobenius の定理)の分類と、Hurwitz の定理との関係は 実多元体 にまとめてある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $H(f)$ が奇数 | $n=6$、$f$ は $[\iota_6,\iota_6]$ の代表(Hopf 不変量 $\pm2$) | $n\in\{2,4,8\}$ |
| 積に零因子がない | $\mathbb R^3$ のベクトル積 $x\times y$($x\times x=0$) | $n\in\{1,2,4,8\}$ |
| 単位元が両側(H 空間) | $S^2$ の上の $\mu(x,y)=y$ | 正の次元で $S^1,S^3,S^7$ に限ること |
1 行目は Whitehead積 の定理「恒等写像の Whitehead 積」の 2 による。2 行目のベクトル積は双線形だが、$x\ne0$ でも $x\times x=0$ となる。3 行目の $\mu$ は、どの点 $e$ についても $\mu(e,y)=y$ をみたす(左の単位元)が、$x\mapsto\mu(x,e)$ は定値写像で、写像度 $0$ なので恒等写像とホモトピックでない。
球面上のベクトル場。 $S^{n-1}$ の上の一次独立な接ベクトル場の最大の個数は、$n=(\text{奇数})\cdot2^{c+4d}$($0\le c\le3$)と書いたときの $\rho(n)-1$、$\rho(n):=2^c+8d$ である。$\rho(n)-1$ 個の場が存在することは Clifford 代数の加群で示され(Hus94 第 12 章 Theorem 8.2, p. 169)、それより多くないことは Adams が $KO$ 理論で示した(Hus94 第 16 章 Theorem 13.10, p. 239。この記事では証明しない)。場の行列による構成と、$n$ が $16$ で割れないときの Steenrod 平方による上界の証明は 球面上の独立なベクトル場 にある。$S^{n-1}$ が平行化可能($n-1$ 個の一次独立な場をもつ)なら $\rho(n)\ge n$ であり、$n=(\text{奇数})\cdot2^{c+4d}\ge2^{c+4d}$ と $2^c+8d\ge2^{c+4d}$ から $d=0$、奇数の因子は $1$、$n=2^c\in\{1,2,4,8\}$ となる。偶数次元の球面では、接束の Euler 類が $0$ でないので、零にならないベクトル場は 1 つもない(Euler類 の例「球面の接束」)。
球面の束と安定ホモトピー。 ファイバー・全空間・底空間がすべて球面のファイバー束 $S^p\to S^q\to S^r$ は、$(p,q,r)=(0,1,1),(1,3,2),(3,7,4),(7,15,8)$ に限られる(Hat02 p. 428。同 §4.B の演習 2 が、束の射影の Hopf 不変量が $\pm1$ になることに帰着させている。この記事では証明しない)。安定ホモトピーの言葉では、hio-thm-main は $\pi^{\mathrm S}_{n-1}$ の元のうち $\mathbb Z/2$ 係数のコホモロジーで $Sq^n$ によって検出されるものが $n=1,2,4,8$ にしかないことを意味する(Hat02 p. 490)。
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