⊙-回帰的

同義語:sun-回帰的sun-reflexiveodot-回帰的

概要

⊙-回帰的(sun-reflexive)とは、Banach空間上の強連続半群について、共役半群がノルム強連続となる最大部分空間 $X^\odot$ を取り、そのsun双対を再び取った空間 $X^{\odot\odot}$ が標準埋め込み $j(X)$ と一致することである。通常の回帰性と異なり空間と半群の組の性質であり、非回帰的空間でも成立しうる。レゾルベントの弱コンパクト性で特徴づけられ、双対半群の変分定数公式や遅延微分方程式の摂動理論に用いられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Banach空間, 共役空間, 強連続半群, 無限小生成作用素, 弱コンパクト作用素

定義

$X$ を実または複素 Banach空間、$(T(t))_{t\ge0}$ を $X$ 上の $C_0$-半群、$A$ をその無限小生成作用素とする。各 $t\ge0$ に対し $T^*(t)$ は共役空間 $X^*$ 上の共役作用素である。$T^*(t)$ は弱$^*$連続な半群だが、$X^*$ のノルムについて強連続とは限らない。このずれを扱うため、強連続性が回復する最大の部分空間を取り出す。

sun双対空間

$(T(t))_{t\ge0}$ に関する $X$ の sun 双対空間(sun-dual space、$\odot$-adjoint space)を
$$ X^\odot:=\left\{x^*\in X^*\mathrel{\middle|} \lim_{h\downarrow0}\lVert T^*(h)x^*-x^*\rVert=0\right\} $$
と定める。$T^*(t)$ の $X^\odot$ への制限を $T^\odot(t)$ と書く。これは $X^\odot$ 上の $C_0$-半群である。

sun 双対をもう一度取るとき、最初と同じ空間に戻るのではなく、$T^\odot(t)$ の共役半群が作用する $(X^\odot)^*$ の中で強連続部分を取る。

第2 sun 双対と標準埋め込み

$X^{\odot *}:=(X^\odot)^*$ と書き、
$$ X^{\odot\odot}:=\left\{z\in X^{\odot *}\mathrel{\middle|} \lim_{h\downarrow0}\lVert T^{\odot *}(h)z-z\rVert=0\right\} $$
と定める。また標準写像 $j\colon X\to X^{\odot *}$ を
$$ \langle jx,x^\odot\rangle:=\langle x^\odot,x\rangle \qquad(x\in X,\ x^\odot\in X^\odot) $$
で定める。$X^\odot$ は $X^*$ で弱$^*$稠密なので $j$ は単射であり、$j(X)\subseteq X^{\odot\odot}$ である。

sun-回帰性

$$ j(X)=X^{\odot\odot} $$
が成り立つとき、$X$ は半群 $(T(t))_{t\ge0}$ に関して sun-回帰的または $\odot$-回帰的(sun-reflexive)であるという。

これは Banach 空間 $X$ だけの性質ではなく、組 $(X,T)$ の性質である。同じ $X$ でも半群を変えれば sun-回帰性は変わりうる。

直感

通常の回帰性は標準埋め込み $X\to X^{**}$ が全射であることをいう。sun-回帰性では、共役半群がノルム強連続に動ける部分 $X^\odot\subseteq X^*$ だけを「観測可能な双対」として残し、その双対 $X^{\odot *}$ の中でもう一度強連続部分 $X^{\odot\odot}$ を取る。したがって比較するのは $X$ と $X^{**}$ ではなく、$j(X)$ と $X^{\odot\odot}$ である。
$X^\odot$ が $X^*$ より小さいと、その双対 $X^{\odot *}$ は $X^{**}$ より大きくなりうる。しかし第2段階の強連続性が余分な元を除き、ちょうど $j(X)$ を残す場合がある。このため非回帰的な Banach 空間でも、適切な半群に関して sun-回帰的になりうる。

例

回帰的Banach空間

$X$ が回帰的なら、任意の $C_0$-半群に関して sun-回帰的である。この場合、共役半群は $X^*$ 上でも強連続なので $X^\odot=X^*$ であり、標準同一視 $X=X^{**}$ のもとで $X^{\odot\odot}=X$ となる。

円周上の平行移動

$X=C(\mathbb S^1)$ とし、$(T(t)f)(\zeta)=f(e^{it}\zeta)$ を円周上の平行移動群とする。このとき $X$ 自身は回帰的でないが、
$$ X^*=M(\mathbb S^1),\qquad X^\odot\cong L^1(\mathbb S^1),\qquad X^{\odot *}\cong L^\infty(\mathbb S^1), $$
かつ $X^{\odot\odot}=j(C(\mathbb S^1))$ となるので sun-回帰的である(Die88 Example 2.5)。

反例:実直線上の平行移動

$X=C_0(\mathbb R)$ を無限遠で $0$ に収束する連続関数の空間とし、$(T(t)f)(x)=f(x+t)$ とする。このとき
$$ X^{\odot\odot}\cong \operatorname{BUC}(\mathbb R), $$
すなわち有界一様連続関数の空間になり、$j(C_0(\mathbb R))$ を真に含む。よって $X$ はこの平行移動半群に関して sun-回帰的でない(Die88 Example 2.6)。この例は「すべての $C_0$-半群が sun-回帰的である」という誤った主張を破る。

性質

sun双対の閉性と不変性

$X^\odot$ は $X^*$ の閉線形部分空間であり、すべての $t\ge0$ に対して $T^*(t)X^\odot\subseteq X^\odot$ である。

線形性は定義から従う。$x_n^\odot\in X^\odot$ が $x_n^\odot\to x^*$ とノルム収束するとする。$C_0$-半群は $0\le h\le1$ で一様有界なので、$K:=\sup_{0\le h\le1}\lVert T(h)\rVert<\infty$ である。任意の $n$ と $0< h\le1$ について
$$ \lVert T^*(h)x^*-x^*\rVert \le (K+1)\lVert x^*-x_n^\odot\rVert +\lVert T^*(h)x_n^\odot-x_n^\odot\rVert. $$
まず $n$ を大きくし、次に $h\downarrow0$ とすれば右辺は任意に小さくなる。よって $x^*\in X^\odot$ であり、$X^\odot$ は閉じている。
次に $x^\odot\in X^\odot$ と $t\ge0$ に対し、半群則より
$$ \lVert T^*(h)T^*(t)x^\odot-T^*(t)x^\odot\rVert \le \lVert T(t)\rVert\, \lVert T^*(h)x^\odot-x^\odot\rVert\longrightarrow0. $$
したがって $T^*(t)x^\odot\in X^\odot$ である。$\square$

標準埋め込みと半群の交換

任意の $t\ge0$ について
$$ T^{\odot *}(t)j=jT(t) $$
であり、特に $j(X)\subseteq X^{\odot\odot}$ である。

$x\in X$ と $x^\odot\in X^\odot$ に対し
$$ \langle T^{\odot *}(t)jx,x^\odot\rangle =\langle jx,T^\odot(t)x^\odot\rangle =\langle T^*(t)x^\odot,x\rangle =\langle x^\odot,T(t)x\rangle =\langle jT(t)x,x^\odot\rangle. $$
ゆえに交換関係が成り立つ。また $\lVert j\rVert\le1$ と $T(t)x\to x$ より
$$ \lVert T^{\odot *}(h)jx-jx\rVert =\lVert j(T(h)x-x)\rVert \le\lVert T(h)x-x\rVert\longrightarrow0. $$
したがって $jx\in X^{\odot\odot}$ である。$\square$

生成作用素による記述

$A^*$ を $A$ の共役作用素とすると
$$ X^\odot=\overline{D(A^*)}^{\lVert\cdot\rVert}. $$
さらに $T^\odot$ の生成作用素 $A^\odot$ は $A^*$ の $X^\odot$ における部分であり、
$$ D(A^\odot)=\{x^*\in D(A^*)\mid A^*x^*\in X^\odot\}, \qquad A^\odot x^*=A^*x^* $$
である。

証明の所在

これは Phillips の双対半群定理であり、CDGHT87 Theorem 2.3 に証明の参照と正確な記述がある。本記事では再証明しない。閉包は $X^*$ のノルム閉包であり、弱$^*$閉包ではない。

レゾルベントによる特徴づけ

$\lambda\in\rho(A)$ とする。$X$ が $T$ に関して sun-回帰的であることと、レゾルベント
$$ R(\lambda,A)=(\lambda I-A)^{-1}\colon X\to X $$
が弱コンパクト作用素であることは同値である。一つの $\lambda\in\rho(A)$ で成り立てば、レゾルベント恒等式によりすべての $\lambda\in\rho(A)$ で成り立つ。

Phillips–de Pagterの定理

Phillips の旧特徴づけは $\sigma(X,X^\odot)$ に関する相対的なコンパクト性を用いる(CDGHT87 Theorem 2.7)。de Pagter はこれを通常の弱コンパクト性へ強めた(Pag89)。定理名と適用範囲を混同しないため、本記事では強い形を de Pagter の結果として引用する。

sun双対との対称性

$X$ が $T$ に関して sun-回帰的であることと、$X^\odot$ が $T^\odot$ に関して sun-回帰的であることは同値である。

証明の所在

CDGHT87 Theorem 2.8 に譲る。ここで右辺の sun-回帰性は、Banach空間 $X^\odot$ とその $C_0$-半群 $T^\odot$ の組について定義される。

変分定数公式への応用

sun-回帰性が有用なのは、通常の有界作用素 $B\colon X\to X$ より広い摂動を扱えるからである。$T_0$ を $X$ 上の $C_0$-半群とし、$X$ が $T_0$ に関して sun-回帰的であるとする。任意の有界線形作用素 $B\colon X\to X^{\odot *}$ に対し、
$$ T(t)x=T_0(t)x+ \int_0^t T_0^{\odot *}(t-s)BT(s)x\,ds $$
は $X$ 上の $C_0$-半群 $T$ を一意に定める。積分はまず $X^{\odot *}$ の弱$^*$積分として定義されるが、sun-回帰性により値が $j(X)$ に戻る。厳密な構成、逐次近似による存在と一意性、および生成作用素の記述は CDGHT87 §§3–4、特に Theorems 3.2, 4.2 に譲る。
この枠組みは遅延微分方程式や構造化個体群モデルで、摂動項が元の状態空間 $X$ の外の $X^{\odot *}$ に自然に値を取る場合に使われる。sun-回帰性は積分後の値が状態空間へ戻ることを保証する条件である。

関連項目

参考文献

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