Nicomedesのコンコイド(conchoid of Nicomedes)とは、点 $O$、$O$ を通らない直線 $\ell$、正の数 $b$ について、$O$ を通る直線が $\ell$ と交わる点から、その直線に沿って両側に距離 $b$ だけ離れた点の全体である。$O$ を原点、$\ell$ を $x=a$($a>0$)とすると、原点を除いて式 $(x-a)^2(x^2+y^2)=b^2x^2$ で表され、原点は $b\ge a$ のときだけ曲線の上にある。鋭角 $\angle AOB=\theta$($OA=1$)について、$A$ を通り $OB$ に垂直な直線を基線とする長さ $2$ のコンコイドと、$A$ を通り $OB$ に平行な直線の交点のうち、基線に関して $O$ と反対側の点を $F$ とすると、$\angle FOB=\frac\theta3$ となる。
前提知識: 3大作図問題の不可能性, 極座標と極方程式, 三角形の内角の和, 直径に対する円周角
3大作図問題の不可能性 では、目盛りのない定規とコンパスだけでは $60^\circ$ の角を 3 等分できないことを示した。同じ記事の反例では、定規に 2 つの印を付けて「印の間の長さを 2 本の線の間にはさみ込む」ように動かすと、角が 3 等分できることも見た。
この記事では、その「はさみ込む」動きを 1 本の曲線に記録する。点 $O$ と直線 $\ell$ を決め、$O$ を通る直線を 1 本ずつ引いて、$\ell$ との交点から長さ $b$ だけ離れた点を打っていく。まず座標で点を打ってみる。
原点 $O(0,0)$ と直線 $\ell\colon x=1$ をとり、長さを $b=1$ とする。
(1) $x$ 軸(傾き $0$ の直線)は $\ell$ と $Q(1,0)$ で交わる。$x$ 軸の上で $Q$ から距離 $1$ の点は $(2,0)$ と $(0,0)$ の 2 つである。
(2) 直線 $y=x$ は $\ell$ と $Q(1,1)$ で交わる。直線 $y=x$ の向きの長さ $1$ のベクトルは $\left(\dfrac1{\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2}\right)$ なので、$Q$ から距離 $1$ の 2 点は
$$
\left(1+\frac1{\sqrt2},\ 1+\frac1{\sqrt2}\right)\approx(1.707,\ 1.707),\qquad \left(1-\frac1{\sqrt2},\ 1-\frac1{\sqrt2}\right)\approx(0.293,\ 0.293)
$$
である。
(3) 直線 $y=-x$ は $\ell$ と $Q(1,-1)$ で交わり、同じように $(1.707,-1.707)$ と $(0.293,-0.293)$ が得られる。
傾きを少しずつ変えて点を打つと、$\ell$ の右側と左側に 1 本ずつ、合わせて 2 本の曲線が現れる。左側の曲線は (1) で原点を通っている。
こうして得られる曲線を Nicomedes のコンコイド という。この記事の主役は次の 2 つの定理である。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 原点を通る直線の向き $\varphi$ | 媒介変数 $\varphi$ | 曲線の媒介変数表示 |
| 媒介変数を消去した式 | 直交座標の式 $(x-a)^2(x^2+y^2)=b^2x^2$ | 4 次の代数曲線 |
| 印を付けた定規を動かす | コンコイドと直線の交点 | 3 次方程式を解く作図 |
| 二等辺三角形の底角と外角 | 3 等分の証明 | 3 倍角の公式 |
極 O を通る直線が基線と交わる点 Q から、直線に沿って両側に長さ b をとった 2 点 P を打つ。O を通る直線を回すと、P は 2 本の曲線をえがく
平面の点 $O$ と、$O$ を通らない直線 $\ell$ と、正の数 $b$ をとる。$O$ を通り $\ell$ と交わる直線 $m$ のそれぞれについて、$m$ と $\ell$ の交点を $Q$ とし、$m$ の上で $Q$ から距離 $b$ の 2 点をとる。こうして得られる点の全体を、極 $O$、基線 $\ell$、長さ $b$ の Nicomedes のコンコイド という。
座標では、$O$ を原点、$\ell$ を直線 $x=a$($a>0$ は $O$ と $\ell$ の距離)にとる。$O$ を通り $\ell$ と交わる直線は $y$ 軸以外の直線で、その向きを $x$ 軸の正の向きから測った角 $\varphi$($-\dfrac\pi2<\varphi<\dfrac\pi2$)で表す。このとき $Q=\left(a,\ a\tan\varphi\right)$ で、コンコイドの点は
$$
P=r\,(\cos\varphi,\ \sin\varphi),\qquad r=\frac a{\cos\varphi}+b\ \ \text{または}\ \ r=\frac a{\cos\varphi}-b
$$
である。ここで $r$ は負にもなりうる数で、$r<0$ のとき $P$ は、原点から向き $\varphi$ と反対の向きに $\lvert r\rvert$ 進んだ点を表す。$r=\dfrac a{\cos\varphi}+b$ の点の全体を 外側の枝、$r=\dfrac a{\cos\varphi}-b$ の点の全体を 内側の枝 という。
$Q$ の座標を確かめておく。向き $\varphi$ の直線は $y=x\tan\varphi$ で、$x=a$ を代入すると $Q=(a,\ a\tan\varphi)$ である。これは $Q=\dfrac a{\cos\varphi}(\cos\varphi,\ \sin\varphi)$ とも書ける。$(\cos\varphi,\ \sin\varphi)$ は直線 $m$ の向きの長さ $1$ のベクトルなので、$Q$ から $m$ に沿って $\pm b$ 進むと、係数が $\dfrac a{\cos\varphi}\pm b$ になる。これが定義の式である。
極座標と極方程式 では、極座標の $r$ を $r\ge0$ に限る約束で極方程式を読んだ。この記事の式 $r=\dfrac a{\cos\varphi}\pm b$ は $r<0$ の値も使い、そのときは反対向きの点を表す。約束が違うので、この記事の式を「$r\ge0$ の極方程式」として読むと、内側の枝の一部が抜け落ちる(prop-conc-shape の $b>a$ の場合)。
極 $O$ を原点、基線を $x=a$($a>0$)とする、長さ $b>0$ のコンコイドについて、次が成り立つ。
(1) 外側の枝と内側の枝は、それぞれ
$$
(x,\ y)=\left(a+b\cos\varphi,\ \ a\tan\varphi+b\sin\varphi\right),\qquad (x,\ y)=\left(a-b\cos\varphi,\ \ a\tan\varphi-b\sin\varphi\right)
$$
($-\dfrac\pi2<\varphi<\dfrac\pi2$)と表される。外側の枝は $x>a$ の側に、内側の枝は $x< a$ の側にあり、基線の上の点はない。
(2) コンコイドの点はすべて
$$
(x-a)^2(x^2+y^2)=b^2x^2
$$
を満たす。逆に、この式を満たす点のうち原点以外のものは、すべてコンコイドの上にある。
(3) 原点がコンコイドの上にあるのは $b\ge a$ のときで、そのときに限る。
段 1((1) の式)。定義の式 $P=\left(\dfrac a{\cos\varphi}\pm b\right)(\cos\varphi,\ \sin\varphi)$ を成分ごとに展開する。$x$ 成分は $\dfrac a{\cos\varphi}\cdot\cos\varphi\pm b\cos\varphi=a\pm b\cos\varphi$、$y$ 成分は $\dfrac a{\cos\varphi}\cdot\sin\varphi\pm b\sin\varphi=a\tan\varphi\pm b\sin\varphi$ である。$-\dfrac\pi2<\varphi<\dfrac\pi2$ では $\cos\varphi>0$ なので、外側の枝では $x=a+b\cos\varphi>a$、内側の枝では $x=a-b\cos\varphi< a$ である。
段 2((2) の前半)。コンコイドの点 $P=r(\cos\varphi,\ \sin\varphi)$ をとる。段 1 より $x-a=\pm b\cos\varphi$ なので $(x-a)^2=b^2\cos^2\varphi$ である。また $x^2+y^2=r^2(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi)=r^2$、$x=r\cos\varphi$ である。よって
$$
(x-a)^2(x^2+y^2)=b^2\cos^2\varphi\cdot r^2=b^2(r\cos\varphi)^2=b^2x^2
$$
が成り立つ。
段 3((2) の後半)。原点でない点 $(x,\ y)$ が式を満たすとする。もし $x=0$ なら、式は $a^2y^2=0$ となり $y=0$ で、原点になってしまう。よって $x\ne0$ である。すると原点と $(x,\ y)$ を結ぶ直線は $y$ 軸ではないので、その向き $\varphi$ を $-\dfrac\pi2<\varphi<\dfrac\pi2$ にとれ、$(x,\ y)=r(\cos\varphi,\ \sin\varphi)$ となる $0$ でない数 $r$ がある($(x,\ y)$ が向き $\varphi$ の側にあれば $r>0$、反対の側にあれば $r<0$)。これを式に代入すると
$$
(r\cos\varphi-a)^2\,r^2=b^2r^2\cos^2\varphi
$$
で、$r^2>0$ で割ると $(r\cos\varphi-a)^2=(b\cos\varphi)^2$ である。2 乗が等しいので $r\cos\varphi-a=\pm b\cos\varphi$ で、$\cos\varphi>0$ で割ると
$$
r=\frac a{\cos\varphi}\pm b
$$
となる。これは $(x,\ y)$ がコンコイドの点であることを示している。
段 4((3))。原点がコンコイドの上にあるのは、ある $\varphi$ で $r=\dfrac a{\cos\varphi}\pm b=0$ となるときである。$0<\cos\varphi\le1$ より $\dfrac a{\cos\varphi}\ge a>0$ なので、$\dfrac a{\cos\varphi}+b>0$ で、外側の枝は原点を通らない。内側の枝では $\dfrac a{\cos\varphi}=b$、つまり $\cos\varphi=\dfrac ab$ となる $\varphi$ が必要である。$\cos\varphi$ は $\left(-\dfrac\pi2,\ \dfrac\pi2\right)$ で $0$ より大きく $1$ 以下のすべての値をとるので、そのような $\varphi$ があるのは $0<\dfrac ab\le1$、つまり $b\ge a$ のときで、そのときに限る。$\square$
直交座標の式の左辺には原点で $0$ になる因数 $x^2+y^2$ があり、右辺にも $x^2$ がある。そのため原点は $a,\ b$ によらず式を満たす。段 3 で両辺を $r^2$ で割ったことから分かるように、直交座標の式は「$r=\dfrac a{\cos\varphi}\pm b$」の両辺を整理して $r^2$ を掛けた形をしていて、$r=0$ の点がいつも紛れ込む。(3) により、$b< a$ のとき原点は式を満たすのにコンコイドの上にない(ex-conc-cx-origin)。
$a=1$ とし、内側の枝 $(x,\ y)=(1-b\cos\varphi,\ \tan\varphi-b\sin\varphi)$ の点を、$\varphi=0,\ \dfrac\pi6,\ \dfrac\pi3$ で求める。$\cos\dfrac\pi6=\dfrac{\sqrt3}2$、$\tan\dfrac\pi6=\dfrac1{\sqrt3}$、$\sin\dfrac\pi6=\dfrac12$、$\cos\dfrac\pi3=\dfrac12$、$\tan\dfrac\pi3=\sqrt3$、$\sin\dfrac\pi3=\dfrac{\sqrt3}2$ を使う。
(1) $b=\dfrac12$($b< a$)のとき。
$\varphi=\dfrac\pi6$ では $\left(1-\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac1{\sqrt3}-\dfrac12\right)\approx(0.134,\ 0.077)$、$\varphi=\dfrac\pi3$ では $\left(1-\dfrac12,\ \sqrt3-\dfrac{\sqrt3}2\right)=\left(\dfrac12,\ \dfrac{\sqrt3}2\right)$ である。
ex-conc-points の 3 つの場合で、内側の枝の形ははっきり違う。$b=\dfrac12$ では原点に届かず、$b=1$ ではちょうど原点に触れ、$b=2$ では原点を越えて左側($x<0$)に回り込む。これを一般の場合に述べる。
thm-conc-eq のコンコイドについて、内側の枝 $(x,\ y)=(a-b\cos\varphi,\ a\tan\varphi-b\sin\varphi)$ は、$a$ と $b$ の大小で次のように分かれる。
(R1) $b< a$ のとき:内側の枝は帯 $a-b\le x< a$ の中にあり、原点を通らない。
(R1) $b=a$ のとき:内側の枝は $x\ge0$ の側にあり、$\varphi=0$ のときだけ原点を通る。$\varphi\to0$ のとき、上半分($\varphi>0$)と下半分($\varphi<0$)がどちらも $x$ 軸に接する向きから原点に近づき、原点でとがる。
(R1) $b>a$ のとき:$\cos\varphi_0=\dfrac ab$ となる $\varphi_0$($0<\varphi_0<\dfrac\pi2$)をとると、内側の枝は $\varphi=\pm\varphi_0$ で原点を通り、$-\varphi_0<\varphi<\varphi_0$ の部分は $x<0$ の側にあって、原点から出て原点にもどる輪をつくる。
どの場合も、$\varphi\to\pm\dfrac\pi2$ のとき、外側の枝と内側の枝はどちらも $x\to a$、$\lvert y\rvert\to\infty$ となり、基線 $x=a$ に限りなく近づく。
要点:$-\dfrac\pi2<\varphi<\dfrac\pi2$ で $0<\cos\varphi\le1$(等号は $\varphi=0$ のときだけ)なので、$x=a-b\cos\varphi$ の範囲は $b$ と $a$ の大小で決まる。$b< a$ なら $x\ge a-b>0$、$b=a$ なら $x=a(1-\cos\varphi)\ge0$、$b>a$ なら $\cos\varphi>\dfrac ab$ の範囲で $x<0$ となる。原点を通るのは $r=\dfrac a{\cos\varphi}-b=0$、つまり $\cos\varphi=\dfrac ab$ のときである。
段 1($b< a$)。$0< b\cos\varphi\le b$ なので $a-b\le a-b\cos\varphi< a$ である。$a-b>0$ なので $x>0$ で、原点は通らない。
段 2($b=a$)。$x=a(1-\cos\varphi)\ge0$ で、等号は $\varphi=0$ のときだけである。$\varphi=0$ では $y=0$ なので、原点を通るのは $\varphi=0$ のときだけである。$y=a\tan\varphi-a\sin\varphi=a\sin\varphi\cdot\dfrac{1-\cos\varphi}{\cos\varphi}$ は $\sin\varphi$ と同じ符号なので、$\varphi>0$ の点は $x$ 軸の上側、$\varphi<0$ の点は下側にある。さらに、どの点も原点を通る向き $\varphi$ の直線の上にあるので、原点と点 $(x,\ y)$ を結ぶ直線の傾きは $\dfrac yx=\tan\varphi$ である。$\varphi\to0$ のとき $\tan\varphi\to0$ なので、上半分も下半分も、傾きが $0$ に近づく向き、つまり $x$ 軸に接する向きで、$x>0$ の側から原点に近づく。2 つの半分が同じ向きから来て原点で出会うので、原点でとがる。
段 3($b>a$)。$0<\dfrac ab<1$ なので、$\cos\varphi_0=\dfrac ab$ となる $\varphi_0$ が $0<\varphi_0<\dfrac\pi2$ にただ 1 つある。$\cos\varphi$ は $0\le\varphi<\dfrac\pi2$ で減少するので、$\lvert\varphi\rvert<\varphi_0$ なら $\cos\varphi>\dfrac ab$、つまり $x=a-b\cos\varphi<0$ であり、$\lvert\varphi\rvert=\varphi_0$ なら $x=0$、$\lvert\varphi\rvert>\varphi_0$ なら $0< x< a$ である。$\varphi=\pm\varphi_0$ では $r=\dfrac a{\cos\varphi_0}-b=b-b=0$ なので点は原点である。よって $\varphi$ が $-\varphi_0$ から $\varphi_0$ まで動く間、点は原点を出て $x<0$ の側を通り、原点にもどる。
段 4(基線に近づく)。$\varphi\to\pm\dfrac\pi2$ のとき $\cos\varphi\to0$ なので $x=a\pm b\cos\varphi\to a$ である。$y=a\tan\varphi\pm b\sin\varphi$ では、$\lvert a\tan\varphi\rvert\to\infty$ で $\lvert b\sin\varphi\rvert\le b$ なので、$\lvert y\rvert\to\infty$ である。$\square$
prop-conc-shape の最後の性質は、直線 $x=a$ がコンコイドの 漸近線 であることを言っている(漸近線の考え方は グラフの概形と漸近線)。$b=a$ の原点の近くの様子を式で見ると、$\varphi$ が小さいとき $x\approx\dfrac a2\varphi^2$、$y\approx\dfrac a2\varphi^3$ で、$y^2\approx\dfrac2ax^3$ となる。これは $y^2=kx^3$ の形の曲線(半 3 次放物線)の尖点と同じ形である。
a=1 のコンコイドの 3 つの形。左から b=1/2、b=1、b=2。赤が外側の枝、青が内側の枝、灰色の破線が基線 x=1 で、b=2 では原点の左に輪ができる
図 2 の 3 つの図で、外側の枝の形は $b$ によってあまり変わらないが、内側の枝は prop-conc-shape のとおり、原点に届かない・原点でとがる・原点を越えて輪をつくる、の 3 通りに分かれる。
角 $\angle AOB=\theta$ を 3 等分するのに、3大作図問題の不可能性 の目盛り付き定規は「長さ $1$ を直線と円の間にはさみ込む」動きを使った。ここでは「長さ $2$ を 2 本の直線の間にはさみ込み、しかもその線分の延長が $O$ を通る」位置を探す。その位置の端の点は、ちょうどコンコイドの上にある。
座標を次のように決める。$O$ を原点、半直線 $OB$ を $x$ 軸の正の部分とし、$OA=1$ の点 $A$ を $A(\cos\theta,\ \sin\theta)$ にとる。$c=\cos\theta$、$s=\sin\theta$ と書く。
$0<\theta<\dfrac\pi2$ とし、上のように $O$、$A$、$B$、$\ell$、$m$ をとる。極 $O$、基線 $\ell$、長さ $2$($=2OA$)のコンコイドを考える。
(1) コンコイドと直線 $m$ の交点のうち、$\ell$ に関して $O$ と反対の側($x>c$ の側)にあるものは、ただ 1 つある。これを $F$ とする。
(2) $\angle FOB=\dfrac\theta3$ である。
方針:$F$ の向きの角を $\varphi$ とおき、直線 $OF$ と $\ell$ の交点 $E$ と、線分 $EF$ の中点 $M$ をとる。$MA=MF=1=OA$ から 2 つの二等辺三角形ができ、角を追うと $\theta=3\varphi$ が出る。
段 1($x>c$ の側の点は外側の枝)。$0<\theta<\dfrac\pi2$ なので $c>0$ で、$\ell$ は $O$ を通らない。thm-conc-eq (1) により、外側の枝の点は $x>c$、内側の枝の点は $x< c$ を満たすので、コンコイドの点のうち $x>c$ の側にあるのは外側の枝の点
$$
(c+2\cos\varphi,\ \ c\tan\varphi+2\sin\varphi)\qquad\left(-\frac\pi2<\varphi<\frac\pi2\right)
$$
である。
段 2($F$ がただ 1 つあること)。外側の枝の点が $m$ の上にある条件は、$y$ 座標が $s$ に等しいこと、つまり
$$
g(\varphi)=c\tan\varphi+2\sin\varphi=s
$$
である。$-\dfrac\pi2<\varphi<\dfrac\pi2$ で $\tan\varphi$ と $\sin\varphi$ はどちらも増加し、$c>0$ なので、$g$ は増加する関数である。$g(0)=0< s$ で、$\varphi\to\dfrac\pi2$ のとき $c\tan\varphi\to\infty$、$2\sin\varphi\to2$ より $g(\varphi)\to\infty$ である。$g$ は連続なので、中間値の定理により $g(\varphi)=s$ となる $\varphi$ が $0<\varphi<\dfrac\pi2$ にある。$g$ は増加するので、そのような $\varphi$ はただ 1 つである($\varphi\le0$ では $g(\varphi)\le0< s$ である)。この $\varphi$ に対応する点が $F$ で、$F$ は $x>0$、$y=s>0$ の点だから、$\angle FOB=\varphi$ である。
段 3(中点 $M$ と $A$ の距離)。直線 $OF$ と $\ell$ の交点を $E$ とすると、$E=(c,\ c\tan\varphi)$ で、コンコイドの定義から $EF=2$ である。$OE=\dfrac c{\cos\varphi}$、$OF=\dfrac c{\cos\varphi}+2$ なので、半直線 $OF$ の上に $O$、$E$、$F$ がこの順に並ぶ。線分 $EF$ の中点を $M$ とすると $EM=MF=1$ である。
点 $A$ は直線 $OF$ の上にない。もし上にあれば $\varphi=\theta$ で、$g(\theta)=c\tan\theta+2\sin\theta=s+2s=3s\ne s$ となり、段 2 の式に反するからである。また $E\ne A$、$F\ne A$ である($E$ の $y$ 座標が $s$ なら $g(\varphi)=s$ から $2\sin\varphi=0$ となって $\varphi>0$ に反し、$F$ の $x$ 座標は $c$ より大きい)。直線 $AE$ は $\ell$($x$ 軸に垂直)、直線 $AF$ は $m$($x$ 軸に平行)なので、$\angle EAF=90^\circ$ である。直角三角形 $AEF$ の外心は斜辺 $EF$ の中点 $M$ である(直径に対する円周角 の系「直角三角形の外心」)。よって
$$
MA=ME=MF=1=OA
$$
である。
段 4(角を追う)。三角形 $MAF$ は $MA=MF$ の二等辺三角形なので、底角が等しく $\angle MAF=\angle MFA$ である。直線 $m$ と $x$ 軸は平行で、直線 $OF$ がこの 2 本と交わるので、錯角が等しく $\angle MFA=\angle OFA=\angle FOB=\varphi$ である(三角形の内角の和 の定理「平行線の錯角の性質」)。よって $\angle MAF=\angle MFA=\varphi$ である。
$E$ は線分 $FM$ を $M$ の側に延ばした半直線の上にあるので、$\angle AME$ は三角形 $AMF$ の $M$ における外角である。外角の定理(三角形の内角の和 の系「外角の定理」)により
$$
\angle AME=\angle MAF+\angle MFA=2\varphi
$$
である。$O$ も $M$ から見て $E$ と同じ側にあるので $\angle AMO=\angle AME=2\varphi$ である。三角形 $OAM$ は $OA=MA=1$ の二等辺三角形なので、底角が等しく
$$
\angle AOF=\angle AOM=\angle AMO=2\varphi
$$
である。
段 5(まとめる)。半直線 $OA$ の向きは $\theta$、半直線 $OF$ の向きは $\varphi$ で、どちらも $0$ と $\dfrac\pi2$ の間にあるので、$\angle AOF=\lvert\theta-\varphi\rvert$ である。段 4 から $\lvert\theta-\varphi\rvert=2\varphi$ である。もし $\varphi>\theta$ なら $\varphi-\theta=2\varphi$ から $\theta=-\varphi<0$ となり矛盾する。よって $\theta-\varphi=2\varphi$、すなわち $\theta=3\varphi$ で、$\angle FOB=\varphi=\dfrac\theta3$ である。$\square$
証明の中で、コンコイドが担ったのは段 2 の「$EF=2$ となる位置を見つける」ところだけである。残りは二等辺三角形と平行線の角の性質で、定規とコンパスの作図の範囲に収まる。
θ=60° の 3 等分。基線 ℓ と平行線 m の間に長さ 2 の線分 EF をはさみ、その延長が O を通るようにとると、中点 M について MA=ME=MF=OA=1 となり、∠FOB=20° になる
$\theta=60^\circ$ では $c=\dfrac12$、$s=\dfrac{\sqrt3}2$ で、コンコイドは極 $O$、基線 $x=\dfrac12$、長さ $2$ である。thm-conc-trisect によれば $\varphi=20^\circ$ で、実際に段 2 の式
$$
g(20^\circ)=\frac12\tan20^\circ+2\sin20^\circ=\frac{\sqrt3}2
$$
が成り立つ(数値では $0.18199+0.68404=0.86603$)。
両辺に $\cos20^\circ$ を掛けると、示す式は $\dfrac12\sin20^\circ+2\sin20^\circ\cos20^\circ=\dfrac{\sqrt3}2\cos20^\circ$ である。左辺は 2 倍角の公式で $\dfrac12\sin20^\circ+\sin40^\circ$、右辺は積を和に直す公式で $\sin60^\circ\cos20^\circ=\dfrac12(\sin80^\circ+\sin40^\circ)$ となる。差をとると、示すことは $\dfrac12\sin20^\circ=\dfrac12\sin80^\circ-\dfrac12\sin40^\circ$ で、右辺は和を積に直す公式で $\cos60^\circ\sin20^\circ=\dfrac12\sin20^\circ$ となり、成り立つ。
$\theta=90^\circ$ では $c=0$ で、$\ell$ は $y$ 軸になり、極 $O$ を通ってしまう。これは def-conc の「$O$ を通らない直線」の条件を外れる。同じ作り方を形式的に当てはめると、$O$ を通る直線と $\ell$ の交点はいつも $O$ 自身なので、得られる点は $O$ から距離 $2$ の点、つまり原点を中心とする半径 $2$ の円になる。
この円と直線 $m\colon y=1$ の交点のうち $x>0$ のものは $x^2+1=4$ から $(\sqrt3,\ 1)$ で、その向きの角 $\varphi$ は $\tan\varphi=\dfrac1{\sqrt3}$ より $30^\circ=\dfrac{90^\circ}3$ である。この場合は円と直線しか使っていないので、定規とコンパスで $90^\circ$ が 3 等分できる。これは $\cos30^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ が作図できる数であることと合っている。
thm-conc-trisect は鋭角について述べた。$\dfrac\pi2<\theta<\pi$ の角は、$\theta=\dfrac\pi2+\psi$($0<\psi<\dfrac\pi2$)と分けると
$$
\frac\theta3=\frac\pi6+\frac\psi3
$$
となる。$\dfrac\pi6=30^\circ$ は ex-conc-90 のとおり定規とコンパスで作れ、$\dfrac\psi3$ は鋭角 $\psi$ に thm-conc-trisect を使えば作れる。2 つの角を並べて足すのは定規とコンパスでできるので、鈍角も 3 等分できる。$\theta=\dfrac\pi2$ は ex-conc-90 で済んでいる。鈍角にそのまま同じ手順を当てはめると、別の角が出てくる(ex-conc-cx-obtuse)。
thm-conc-trisect の証明で探したのは、「$O$ を通る直線の上で、2 本の線 $\ell$ と $m$ の間にはさまれた部分の長さが $2$ になる」位置だった。このように、決まった長さの線分を 2 本の線の間にはさみ込み、しかもその延長が決まった点を通るようにする作図を 挿入の作図(neusis)という(Wei26 はコンコイドがこの種の作図に使えることを述べている)。コンコイドの点は「$\ell$ から長さ $b$ だけ先の点」なので、コンコイドと $m$ の交点をとることが、そのまま挿入の作図になる。
3大作図問題の不可能性 の目盛り付き定規は、同じ挿入の作図を、定規を手で動かして行う。折り紙や、ほかの曲線を使う方法もある。比べると次のようになる。
| 方法 | 使う道具 | 3 等分の仕方 | 扱う記事 |
|---|---|---|---|
| 目盛り付き定規 | 2 つの印を付けた定規 | 定規を点に当てて動かし、印の間の長さ $1$ を円と直線の間にはさむ | 3大作図問題の不可能性 |
| Nicomedes のコンコイド | コンコイドを引く道具 | 長さ $2$ を 2 本の直線の間にはさむ位置を、コンコイドと直線の交点で求める | この記事 |
| 折り紙 | 紙を折る操作 | 2 点を 2 本の直線に同時に重ねる折り目を使う | 折り紙による作図 |
| Archimedes の螺旋 | 螺旋 $r=k\theta$ | 半径を 3 等分して角にもどす | Archimedesの螺旋 |
| Hippias の円積曲線 | 円積曲線 | 高さを 3 等分して角にもどす | Hippiasの円積曲線 |
上の 3 つ(目盛り付き定規・コンコイド・折り紙)は、どれも $\cos\dfrac\theta3$ を根にもつ 3 次方程式の根を 1 つ作ることで角を 3 等分している(コンコイドについては rem-conc-cubic、折り紙については 折り紙による作図 の定理「3 次方程式を解く折り方」)。下の 2 つの曲線は、角の大きさと長さが比例するように作られた曲線で、角を 3 等分に限らず任意の比に分けられる。
thm-conc-trisect と thm-conc-eq の条件を外すと、何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\theta$ が鋭角 | $\theta=150^\circ$ | $\ell$ の反対側の交点 $F$ で $\angle FOB=\dfrac\theta3$ |
| $F$ を $\ell$ に関して $O$ と反対の側からとる | $\theta=60^\circ$ で $O$ と同じ側の交点 | $\angle FOB=\dfrac\theta3$ |
| 長さが $2OA$ | $\theta=60^\circ$、長さ $1$ | $\angle FOB=\dfrac\theta3$ |
| 原点以外の点 | $a=1$、$b=\dfrac12$ の原点 | 直交座標の式を満たす点はコンコイドの上にある |
$\theta=150^\circ$ とする。$A=\left(-\dfrac{\sqrt3}2,\ \dfrac12\right)$ で、$\ell$ は $x=-\dfrac{\sqrt3}2$($O$ の左側)、$m$ は $y=\dfrac12$ である。極 $O$、基線 $\ell$、長さ $2$ のコンコイドと $m$ の交点を数値で求めると、次の 4 つがある。
$(0.866,\ 0.5)$ は原点から向き $30^\circ$、距離 $1$ の点で、この直線は $\ell$ と $\left(-\dfrac{\sqrt3}2,\ -\dfrac12\right)$ で交わる。2 点の差は $(\sqrt3,\ 1)$ で長さ $2$ である。$(0.420,\ 0.5)$ を通る向き $50^\circ$ の直線は $\ell$ と $(-0.866,\ -1.032)$ で交わり、差 $(1.286,\ 1.532)$ の長さは $2.000$ である。$(-0.182,\ 0.5)$ を通る直線は $\ell$ と $(-0.866,\ 2.379)$ で交わり、差 $(0.684,\ -1.879)$ の長さは $2.000$ である。$(-2.836,\ 0.5)$ を通る直線は $\ell$ と $(-0.866,\ 0.153)$ で交わり、差 $(-1.970,\ 0.347)$ の長さは $2.000$ である。
$\theta=60^\circ$ で、ex-conc-60 と同じコンコイドと $m\colon y=\dfrac{\sqrt3}2$ の交点は、$F\approx(2.379,\ 0.866)$ のほかに、$\ell$ に関して $O$ と同じ側に 3 つある。
$$
(0.153,\ 0.866),\qquad \left(-\frac12,\ \frac{\sqrt3}2\right),\qquad (-1.032,\ 0.866)
$$
で、向きの角はそれぞれ $80^\circ$、$120^\circ$、$140^\circ$ である。どれも $20^\circ$ ではない。これらは内側の枝の点で、直線 $OF$ と $\ell$ の交点 $E$ が $O$ と $F$ の間に来ないので、prf-conc-trisect の段 3 の並び方が崩れる。
$\theta=60^\circ$ で、コンコイドの長さを $1$($=OA$)にする。外側の枝と $m$ の交点は、$\dfrac12\tan\varphi+\sin\varphi=\dfrac{\sqrt3}2$ の解で、数値で解くと $\varphi\approx32.88^\circ$ である。これは $20^\circ$ ではない。このとき $EF=1$ なので、中点 $M$ について $MA=\dfrac12EF=\dfrac12$ となり、$MA=OA$ が成り立たない。prf-conc-trisect の段 4 で使った「三角形 $OAM$ は二等辺三角形」が崩れる。長さを $3$ にすると $\varphi\approx14.26^\circ$ で、これも $20^\circ$ ではない。
$a=1$、$b=\dfrac12$ のとき、原点 $(0,\ 0)$ を式 $(x-1)^2(x^2+y^2)=\dfrac14x^2$ に代入すると、左辺は $1\cdot0=0$、右辺も $0$ で、式を満たす。ところが prop-conc-shape により、$b< a$ の内側の枝は $x\ge a-b=\dfrac12$ の側にあり、外側の枝は $x>1$ の側にあるので、原点はコンコイドの上にない。thm-conc-eq (2) の逆が「原点以外の点」に限っているのはこのためである。式だけからグラフを描くと、原点に孤立した点が 1 つ余分に現れる。
θ=150° のとき、基線の O と反対側にとった交点 F は向き 170° にある。θ の 3 分の 1 の向き 50° の交点(点線)は O と同じ側にある
θ=60° で、はさむ長さを 1 にしたコンコイドの交点 F は向き約 32.9° にあり、20° にならない
thm-conc-trisect の交点を方程式で見る。$m\colon y=s$ をコンコイドの式 $(x-c)^2(x^2+y^2)=4x^2$ に代入すると $x$ の 4 次方程式になり、1 つの解 $x=-c$ を除くと、$x-c=2v$ とおいて
$$
4v^3-3v=\cos\theta
$$
という 3 次方程式が残る。3 倍角の公式 $\cos\theta=4\cos^3\dfrac\theta3-3\cos\dfrac\theta3$ により、$v=\cos\dfrac\theta3$ はこの方程式の解で、$F$ の $x$ 座標 $c+2\cos\dfrac\theta3$ に対応する(ex-conc-60 の $F$ の $x$ 座標 $\dfrac12+2\cos20^\circ$ と一致する)。
$y=s$ を代入し、$s^2=1-c^2$ を使って展開すると
$$x^4-2cx^3-3x^2+(2c^3-2c)x+c^2-c^4=0$$
である。$x=-c$ を代入すると、もとの式で $(-2c)^2(c^2+s^2)=4c^2$ となって成り立つので、左辺は $x+c$ で割り切れ、
$$(x+c)\bigl((x-c)^3-3(x-c)-2c\bigr)=0$$
と因数分解できる。$x=-c$ は点 $(-c,\ s)$、つまり $A$ を $y$ 軸で折り返した点で、ex-conc-cx-side の $\left(-\dfrac12,\ \dfrac{\sqrt3}2\right)$ にあたる。残りの 3 次方程式 $(x-c)^3-3(x-c)=2c$ で $x-c=2v$ とおくと、$8v^3-6v=2c$ を $2$ で割って $4v^3-3v=c=\cos\theta$ となる。
Wei26 によると、コンコイドは立方体の倍積や正七角形の作図にも使える。この記事ではこれらを扱わない。立方体の倍積を別の曲線で解く方法は Dioclesのシッソイド で扱う。
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