Taylorの定理

同義語:テイラーの定理Taylor's theorem

概要

Taylorの定理(Taylor's theorem)とは、区間上の実数値関数 $f$ を、点 $x_0$ での $n$ 階までの導関数が一致する $n$ 次の Taylor 多項式で近似したときの誤差(剰余項)を表す定理である。$f^{(n)}$ が連続で内部で $n+1$ 回微分可能なら、剰余項は $x_0$ と $x$ の間のある $c$ で $\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-x_0)^{n+1}$ と書け(Lagrange の形)、$n=0$ の場合が平均値の定理である。Peano の形や積分の形の剰余項もある。剰余の評価から $e^x$、$\sin x$、$\cos x$ は全実数で Taylor 級数に等しいが、何回でも微分可能な関数の Taylor 級数が元の関数に一致するとは限らない($e^{-1/x^2}$)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 導関数, 平均値の定理, Rolleの定理, 微分積分学の基本定理, Landau記号

動機と具体例

指数関数 $e^x$ を $x=0$ の近くで多項式で近似すると、
$$ e^x\approx1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^5}{5!} $$
となる。$x=1$ を代入すると $1+1+\frac12+\frac16+\frac1{24}+\frac1{120}=2.71666\ldots$ で、$e=2.71828\ldots$ に近い。近似の誤差はどれほどか。Taylor の定理(Taylor's theorem)はこの誤差を式で与える。いまの場合、誤差は $0$ と $1$ の間のある $c$ を使って $\frac{e^c}{6!}$ と書け、$e<3$ から $0<\frac{e^c}{720}<\frac{3}{720}=0.00416\ldots$ と保証される。実際の誤差は $0.00161\ldots$ である(ex-taylor-e)。
接線 $y=f(x_0)+f'(x_0)(x-x_0)$ は、$x_0$ での値と 1 階の導関数が $f$ と一致する 1 次式である。Taylor の定理は、$x_0$ での $n$ 階までの導関数が $f$ と一致する $n$ 次の多項式(Taylor 多項式)で $f$ を近似したときの誤差(剰余項)を、$f$ の $n+1$ 階の導関数などで表す定理であり、平均値の定理 の高階への一般化である。関数の近似値の計算、極限の計算、極値の判定、関数の冪級数への展開の根拠になる。名前は B. Taylor(1685–1731)による。この近似は J. Gregory がすでに見出しており、剰余項の次の形は J.-L. Lagrange による(Leb §4.3、p. 171 の脚注)。
本記事では、区間上の関数の微分可能性と導関数は 平均値の定理 の記事と同じ意味で使い(端点では片側の微分係数)、$f^{(k)}$ で $k$ 階の導関数を表す($f^{(0)}=f$)。

Taylor多項式と剰余項

$I$ を 2 点以上を含む区間、$x_0\in I$ とし、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は $x_0$ で $n$ 回微分可能とする(すなわち $f^{(n-1)}$ が $x_0$ を含む $I$ の部分区間上で存在し、$x_0$ で微分可能)。
$$ P_n(x):=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(x_0)}{k!}(x-x_0)^k=f(x_0)+f'(x_0)(x-x_0)+\cdots+\frac{f^{(n)}(x_0)}{n!}(x-x_0)^n $$
を $f$ の $x_0$ における $n$ 次の Taylor 多項式といい、$R_n(x):=f(x)-P_n(x)$ を剰余項という。

$(x-x_0)^j$ を $k$ 回微分して $x=x_0$ を代入すると、$j=k$ のときだけ $k!$ で、それ以外は $0$ である。したがって $P_n^{(k)}(x_0)=f^{(k)}(x_0)$($0\leq k\leq n$)であり、$P_n$ は $x_0$ での $n$ 階までの導関数が $f$ と一致するただ 1 つの $n$ 次以下の多項式である。特に $R_n^{(k)}(x_0)=0$($0\leq k\leq n$)である。

剰余項の 3 つの形

Lagrange の形

Lagrange剰余つきのTaylorの定理

$I$ を 2 点以上を含む区間、$n\geq0$ とし、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は $I$ 上で $n$ 回微分可能で $f^{(n)}$ が $I$ 上で連続、$I$ の端点以外の各点で $n+1$ 回微分可能とする。$x_0,x\in I$、$x\ne x_0$ ならば、$x_0$ と $x$ の間に(両端を含まずに)ある点 $c$ で
$$ f(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(x_0)}{k!}(x-x_0)^k+\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-x_0)^{n+1} $$
を満たすものが存在する。

Rolleの定理を繰り返す

$M$ を $f(x)=P_n(x)+M(x-x_0)^{n+1}$ を満たす実数とし($x\ne x_0$ なのでただ 1 つ定まる)、
$$ g(s):=f(s)-P_n(s)-M(s-x_0)^{n+1}\qquad(s\in I) $$
とおく。$(s-x_0)^{n+1}$ の $k$ 階導関数は $k\leq n$ なら $s=x_0$ で $0$ なので、$g^{(k)}(x_0)=R_n^{(k)}(x_0)=0$($0\leq k\leq n$)であり、さらに $M$ の定め方から $g(x)=0$ である。また $g^{(n+1)}(s)=f^{(n+1)}(s)-(n+1)!\,M$ である($P_n$ は $n$ 次以下なので $P_n^{(n+1)}=0$)。
$y_0:=x$ とおく。$x_0$ と $y_0$ を端点とする閉区間上で、$g$ は連続で内部で微分可能、両端で $0$ なので、Rolleの定理 により $x_0$ と $y_0$ の間(両端を含まない)に $g'(y_1)=0$ となる $y_1$ がある。次に $x_0$ と $y_1$ を端点とする閉区間上で $g'$ に Rolleの定理 を使うと($g'(x_0)=g'(y_1)=0$)、$x_0$ と $y_1$ の間に $g''(y_2)=0$ となる $y_2$ がある。これを繰り返し、$k=1,\dots,n+1$ について $x_0$ と $y_{k-1}$ の間(したがって $x_0$ と $x$ の間)に $g^{(k)}(y_k)=0$ となる $y_k$ を得る。各段で Rolleの定理 の仮定が満たされることは、$k-1< n$ なら $g^{(k-1)}$ が $I$ 上で微分可能(したがって連続)であること、$k-1=n$ なら $g^{(n)}$ が $I$ 上で連続で端点以外で微分可能であること($x_0$ と $y_n$ の間の点は $I$ の端点でない)による。$c:=y_{n+1}$ とおくと $0=g^{(n+1)}(c)=f^{(n+1)}(c)-(n+1)!\,M$ であり、$M=\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}$ となる。

$n=0$ の場合が 平均値の定理 である。この言明と証明は Leb Theorem 4.3.2(p. 172。$I=[a,b]$ の場合で、同書は各段で平均値の定理を使う)と同じ筋である。$c$ は $x_0$ と $x$ の両方に依存し、その位置は定理からは分からない。

Peano の形

剰余項が $(x-x_0)^n$ より速く $0$ に近づくことだけなら、より弱い仮定で言える。

Peano剰余つきのTaylorの定理

$n\geq1$、$I$ を 2 点以上を含む区間、$x_0\in I$ とし、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は $I$ 上で $n-1$ 回微分可能で、$f^{(n-1)}$ が $x_0$ で微分可能とする。このとき
$$ \lim_{x\to x_0}\frac{R_n(x)}{(x-x_0)^n}=0,\qquad\text{すなわち}\qquad f(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(x_0)}{k!}(x-x_0)^k+o\bigl((x-x_0)^n\bigr)\quad(x\to x_0) $$
が成り立つ。

導関数について帰納法を使う

$n$ についての数学的帰納法で示す。$n=1$ では $\frac{R_1(x)}{x-x_0}=\frac{f(x)-f(x_0)}{x-x_0}-f'(x_0)\to0$ であり、これは微分係数の定義そのものである。
$n\geq2$ とし、$n-1$ で主張が成り立つとする。$f'$ は $I$ 上で $n-2$ 回微分可能で、$(f')^{(n-2)}=f^{(n-1)}$ は $x_0$ で微分可能なので、$f'$ に $n-1$ の場合を使える。$f'$ の $n-1$ 次の Taylor 多項式は $P_n'$ である($\frac{d}{dx}\frac{f^{(k)}(x_0)}{k!}(x-x_0)^k=\frac{(f')^{(k-1)}(x_0)}{(k-1)!}(x-x_0)^{k-1}$)から、$R_n'=f'-P_n'$ は $f'$ の剰余項であり、帰納法の仮定により $R_n'(t)/(t-x_0)^{n-1}\to0$($t\to x_0$)である。
$\varepsilon>0$ に対し、$t\in I$、$0<|t-x_0|<\delta$ なら $|R_n'(t)|\leq\varepsilon|t-x_0|^{n-1}$ となる $\delta>0$ をとる($t=x_0$ でも $R_n'(x_0)=0$ なので成り立つ)。$x\in I$、$0<|x-x_0|<\delta$ とする。$R_n$ は $I$ 上で微分可能で $R_n(x_0)=0$ なので、平均値の定理 により $x_0$ と $x$ の間の $\xi$ で $R_n(x)=R_n'(\xi)(x-x_0)$ となる。$|\xi-x_0|<|x-x_0|<\delta$ なので
$$ |R_n(x)|\leq\varepsilon|\xi-x_0|^{n-1}|x-x_0|\leq\varepsilon|x-x_0|^n $$
である。$\varepsilon$ は任意なので $R_n(x)/(x-x_0)^n\to0$ である。

$o(\cdot)$ は Landau記号 であり、同記事はこの形の Taylor の定理を参照している。Leb Exercise 4.3.5(p. 174)は $f$ が $n+1$ 階まで連続な導関数をもつ場合にこの結論を演習にし、脚注で $n$ 階まででも成り立つ(証明はより難しい)と述べている。上の証明は、帰納法と平均値の定理によってその場合を示したものである。

積分の形

積分形の剰余項

$I$ を 2 点以上を含む区間、$n\geq0$ とし、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は $I$ 上で $n+1$ 回微分可能で $f^{(n+1)}$ が連続とする。$x_0,x\in I$ ならば
$$ f(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(x_0)}{k!}(x-x_0)^k+\frac{1}{n!}\int_{x_0}^{x}(x-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt $$
が成り立つ。

部分積分で次数を上げる

$n$ についての帰納法で示す。$n=0$ の場合は $f(x)=f(x_0)+\int_{x_0}^xf'(t)\,dt$ であり、微分積分学の基本定理 の記事の定理「原始関数による積分の計算」である($x< x_0$ でも向きの約束 $\int_{x_0}^x=-\int_x^{x_0}$ により成り立つ)。
$n$ で主張が成り立つとし、$f$ が $n+2$ 回微分可能で $f^{(n+2)}$ が連続とする。$f$ は $n$ の場合の仮定も満たす。$x$ を固定する($x< x_0$ のときは $[x,x_0]$ 上の部分積分の公式の両辺の符号を変えればよく、$x=x_0$ では両辺が $0$ なので、以下 $x>x_0$ として述べる)。$t$ の関数 $F(t):=f^{(n+1)}(t)$、$G(t):=-\frac{(x-t)^{n+1}}{n+1}$ を考えると、どちらも導関数が連続で $G'(t)=(x-t)^n$ である。微分積分学の基本定理 の記事の系「部分積分の公式」により
$$ \int_{x_0}^{x}(x-t)^nf^{(n+1)}(t)\,dt=\Bigl[-\frac{(x-t)^{n+1}}{n+1}f^{(n+1)}(t)\Bigr]_{t=x_0}^{t=x}+\int_{x_0}^{x}\frac{(x-t)^{n+1}}{n+1}f^{(n+2)}(t)\,dt $$
であり、右辺の第 1 項は $\frac{(x-x_0)^{n+1}}{n+1}f^{(n+1)}(x_0)$ である。両辺を $n!$ で割ると、$n$ の場合の剰余項が
$$ \frac{f^{(n+1)}(x_0)}{(n+1)!}(x-x_0)^{n+1}+\frac{1}{(n+1)!}\int_{x_0}^{x}(x-t)^{n+1}f^{(n+2)}(t)\,dt $$
に等しいことが分かり、これを $n$ の場合の式に代入すると $n+1$ の場合の式になる。

積分形は、剰余項を積分で評価できる点で便利である。たとえば $|f^{(n+1)}|\leq K$ が $x_0$ と $x$ の間で成り立てば、$|R_n(x)|\leq\frac{K}{n!}\bigl|\int_{x_0}^x|x-t|^n\,dt\bigr|=\frac{K|x-x_0|^{n+1}}{(n+1)!}$ となり、Lagrange の形から得られる評価と同じになる。

Taylor 級数と初等関数の展開

$f$ が $x_0$ を含む区間 $I$ 上で何回でも微分可能なとき、級数
$$ \sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(x_0)}{k!}(x-x_0)^k $$
を $f$ の $x_0$ における Taylor 級数という。その第 $n$ 部分和は $P_n(x)$ なので、この級数が点 $x$ で $f(x)$ に収束することは、$R_n(x)\to0$($n\to\infty$)と同値である。剰余項の評価がそのまま収束の判定になる。

階乗は冪より速く増える

任意の実数 $x$ について $\lim_{n\to\infty}\frac{|x|^n}{n!}=0$ である。

比が $\frac{1}{2}$ 以下になる

$a_n:=|x|^n/n!$ とおき、$2|x|\leq N$ となる整数 $N\geq1$ をとる。$n\geq N$ なら $\frac{a_{n+1}}{a_n}=\frac{|x|}{n+1}\leq\frac12$ なので、$a_n\leq a_N\,2^{-(n-N)}$ であり、これは $n\to\infty$ で $0$ に近づく。

以下、$\exp'=\exp$、$\exp(0)=1$、$\sin'=\cos$、$\cos'=-\sin$、$\sin0=0$、$\cos0=1$、$|\sin x|\leq1$、$|\cos x|\leq1$ を既知とする(指数関数、三角関数)。$e^x:=\exp(x)$ と書く。

指数関数と三角関数のTaylor展開

すべての実数 $x$ について
$$ e^x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{x^k}{k!},\qquad\sin x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k+1}}{(2k+1)!},\qquad\cos x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!} $$
が成り立つ(右辺の級数はすべての $x$ で収束する)。

Lagrange剰余を評価する

$f=\exp$ とすると $f^{(k)}=\exp$、$f^{(k)}(0)=1$ なので $P_n(x)=\sum_{k=0}^n\frac{x^k}{k!}$ である。$x\ne0$ について thm-taylor-lagrange により、$0$ と $x$ の間の $c$ で $R_n(x)=\frac{e^c}{(n+1)!}x^{n+1}$ となる。$\exp$ は増加関数(導関数が正)なので $e^c\leq e^{|x|}$ であり、
$$ |R_n(x)|\leq e^{|x|}\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)!}\to0\qquad(n\to\infty) $$
が lem-taylor-factorial から従う。$\sin$ の導関数は $\cos,-\sin,-\cos,\sin$ の順に繰り返し、$0$ での値は $0,1,0,-1$ の繰り返しなので、Taylor 多項式は右辺の部分和であり、$|f^{(n+1)}(c)|\leq1$ から $|R_n(x)|\leq\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)!}\to0$ となる。$\cos$ も同様である。

$e^x$ の Taylor 多項式は Leb Exercise 4.3.1(p. 174)で演習とされている。$\sin$ の奇数次の Taylor 多項式が $0$ の近くで $\sin$ をよく近似する様子は、同書の Figure 4.8(p. 172)に描かれている。

ネイピア数の近似と誤差の保証

thm-taylor-exp-sin-cos で $x=1$ とおくと $e=\sum_{k=0}^\infty\frac1{k!}$ である。$k\geq1$ で $k!\geq2^{k-1}$ なので $e<1+\sum_{k=1}^\infty2^{-(k-1)}=3$ である。$n=5$ の Lagrange 剰余は $R_5(1)=\frac{e^c}{6!}$($0< c<1$)なので $0< R_5(1)<\frac{3}{720}=0.00416\ldots$ であり、
$$ 2.71666\ldots=\sum_{k=0}^{5}\frac1{k!}< e<2.71666\ldots+0.00417 $$
が保証される。実際には $e=2.71828\ldots$ で、誤差は $0.00161\ldots$ である。

応用

極限の計算

$\sin$ の $0$ における 3 次の Taylor 多項式は $x-\frac{x^3}{6}$ なので、thm-taylor-peano により $\sin x=x-\frac{x^3}6+o(x^3)$ である。したがって
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin x-x}{x^3}=\lim_{x\to0}\Bigl(-\frac16+\frac{o(x^3)}{x^3}\Bigr)=-\frac16 $$
となる。数値では $x=0.1$ で $-0.16658\ldots$、$x=0.01$ で $-0.16666\ldots$ である。

不等式の証明

$\cos$ に $n=1$ の thm-taylor-lagrange を使うと、$x\ne0$ について $0$ と $x$ の間の $c$ で $\cos x=1+0\cdot x-\frac{\cos c}{2}x^2$ となる。$\cos c\leq1$ なので、すべての実数 $x$ で $\cos x\geq1-\frac{x^2}2$ が成り立つ($x=0$ では等号)。

2階導関数による極小の判定

$f$ は開区間 $I$ 上で微分可能で、$x_0\in I$ で 2 回微分可能とし、$f'(x_0)=0$、$f''(x_0)>0$ とする。このとき $f$ は $x_0$ で狭義の極小値をとる。すなわち、ある $\delta>0$ について、$0<|x-x_0|<\delta$ なら $f(x)>f(x_0)$ である。

Peano剰余の符号

thm-taylor-peano($n=2$)により、$x\ne x_0$ で $\rho(x):=\frac{R_2(x)}{(x-x_0)^2}$ とおくと $\rho(x)\to0$ であり、$f'(x_0)=0$ から
$$ f(x)-f(x_0)=\Bigl(\frac{f''(x_0)}{2}+\rho(x)\Bigr)(x-x_0)^2 $$
である。$0<|x-x_0|<\delta$ で $|\rho(x)|<\frac{f''(x_0)}{2}$ となる $\delta$ をとれば、括弧の中は正であり、$f(x)>f(x_0)$ となる。

Leb Proposition 4.3.3(p. 174)は $f''$ が連続という仮定のもとで Lagrange の形から同じ結論を導き、連続性を外した形を Exercise 4.3.11(p. 175)としている。$f''(x_0)=0$ の場合は判定できない($x^4$ は極小、$x^3$ は極値でない、$-x^4$ は極大で、いずれも $0$ で $f'=f''=0$)。

反例

何回でも微分できて導関数がすべて0になる関数

$\varphi(x):=e^{-1/x^2}$($x\ne0$)、$\varphi(0):=0$ と定める。$\varphi$ は $\mathbb{R}$ 上で何回でも微分可能で、すべての $k\geq0$ について $\varphi^{(k)}(0)=0$ である。

多項式との積の形を保つ

まず、任意の整数 $m\geq0$ について $\lim_{x\to0}|x|^{-m}e^{-1/x^2}=0$ を示す。$t:=1/x^2$ とおくと $|x|^{-m}e^{-1/x^2}=t^{m/2}e^{-t}$ であり、$x\to0$ は $t\to+\infty$ に対応する。$j>m/2$ となる整数 $j$ をとると、$t>0$ で thm-taylor-exp-sin-cos の級数の各項は正なので $e^t\geq\frac{t^j}{j!}$ であり、$t^{m/2}e^{-t}\leq j!\,t^{m/2-j}\to0$ である。
次に、$x\ne0$ で $\varphi^{(k)}(x)=p_k(1/x)\,e^{-1/x^2}$ となる多項式 $p_k$ があることを $k$ についての帰納法で示す。$p_0=1$ であり、$p_k$ があれば、連鎖律 と積の微分法から
$$ \frac{d}{dx}\Bigl(p_k(1/x)\,e^{-1/x^2}\Bigr)=\Bigl(-\frac{1}{x^2}p_k'(1/x)+\frac{2}{x^3}p_k(1/x)\Bigr)e^{-1/x^2} $$
なので $p_{k+1}(u):=-u^2p_k'(u)+2u^3p_k(u)$ とすればよい。
最後に $\varphi^{(k)}(0)=0$ を帰納法で示す。$k=0$ は定義である。$\varphi^{(k)}(0)=0$ とすると、$x\ne0$ で
$$ \frac{\varphi^{(k)}(x)-\varphi^{(k)}(0)}{x}=\frac{p_k(1/x)}{x}\,e^{-1/x^2} $$
であり、右辺は $x^{-m}e^{-1/x^2}$($m\geq0$)の形の項の有限個の定数倍の和なので、最初に示したことから $x\to0$ で $0$ に近づく。よって $\varphi^{(k)}$ は $0$ で微分可能で $\varphi^{(k+1)}(0)=0$ である。$x\ne0$ での微分可能性は上の式から分かる。

反例:Taylor級数が収束しても元の関数に一致しない

prop-taylor-flat-function の $\varphi$ の $0$ における Taylor 級数は、係数がすべて $0$ なので、すべての $x$ で $0$ に収束する。しかし $x\ne0$ では $\varphi(x)>0$ であり、Taylor 級数の和は $\varphi$ に一致しない。剰余項は $R_n(x)=\varphi(x)$ で $n$ によらず、$0$ に近づかない。$\varphi$ は何回でも微分可能であるという性質を満たすが、$0$ の近くで Taylor 級数の和として表される(実解析的である)という性質を満たさない。「何回でも微分できれば Taylor 級数で表せる」という含意は成り立たない。Leb Exercise 5.4.11(p. 213)は同じ趣旨の関数($x>0$ で $e^{-1/x}$、$x\leq0$ で $0$)を扱っている。

反例:Taylor級数の収束する範囲が限られる

$f(x)=\frac1{1+x^2}$ は $\mathbb{R}$ 全体で何回でも微分でき、$0$ における Taylor 級数は $\sum_{k\geq0}(-1)^kx^{2k}$ である:$f(x)-\sum_{k=0}^n(-1)^kx^{2k}=\frac{(-1)^{n+1}x^{2n+2}}{1+x^2}=o(x^{2n+1})$($x\to0$)であり、$2n+1$ 次以下の多項式で $f$ との差が $o(x^{2n+1})$ となるものは(差をとれば最低次の係数から順に $0$ が従うので)ただ 1 つだから、thm-taylor-peano により $f$ の $2n$ 次の Taylor 多項式は $\sum_{k=0}^n(-1)^kx^{2k}$ である。この級数は $|x|<1$ でしか収束しない(収束半径 の記事の注意「実関数としては滑らかでも収束半径は有限でありうる」)。$|x|\geq1$ では級数の項が $0$ に近づかず、Taylor 級数は $f$ を表さない。同記事によれば、その理由は $1/(1+z^2)$ を複素数の関数とみたときの $z=\pm i$ にある。

補足

多変数の関数への拡張

$\mathbb{R}^m$ の凸集合である開集合 $U$ 上の関数 $f$ が 2 回連続微分可能なら、$f$ とすべての $\partial_if$ は全微分可能である(開集合上の関数は、すべての偏導関数が存在して連続なら全微分可能であり、導関数も連続である。Leb2 Proposition 8.4.6(p. 48)。これを $f$ と各 $\partial_if$ に使う。連鎖律 の記事は逆向き「全微分可能 ⇒ 偏微分係数が存在する」だけを証明している)。$p,q\in U$、$h:=q-p$ について $g(t):=f(p+th)$ は $[0,1]$ を含む開区間で 2 回連続微分可能であり、連鎖律 の記事の定理「多変数の連鎖律」から $g'(t)=\sum_i\partial_if(p+th)\,h_i$、$g''(t)=\sum_{i,j}\partial_i\partial_jf(p+th)\,h_ih_j$ となる。$g$ に thm-taylor-lagrange($n=1$)を使えば、線分上のある点 $r$ で
$$ f(q)=f(p)+\sum_i\partial_if(p)\,h_i+\frac12\sum_{i,j}\partial_i\partial_jf(r)\,h_ih_j $$
となる。高階でも同じ方法で多変数の Taylor の定理が得られる。

複素関数の場合

複素数の関数では事情が大きく異なり、開円板上で正則関数であれば、中心での Taylor 級数は円板全体で収束して関数に一致する(Taylor展開(複素解析) の記事)。ex-taylor-not-analytic のような現象は、実数の関数に特有のものである。

関連項目

参考文献

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