Birch–Swinnerton-Dyer予想(Birch and Swinnerton-Dyer conjecture)とは、有理数体上の楕円曲線 $E$ について、有理点の群 $E(\mathbb{Q})$ の階数が、各素数 $p$ を法とした点の個数から作る $L$ 関数 $L(E,s)$ の $s=1$ での零点の位数に等しいという未解決の予想である。強い形では、$s=1$ での主要項の係数が周期・玉河数・Tate–Shafarevich 群の位数・高さの単数基準・捩れ部分の位数で表されると予言する。点の個数の積の数値的な観察から生まれ、解析的階数が $0$ の場合には有理点の群と Tate–Shafarevich 群の有限性が証明されている。
前提知識: 楕円曲線, Riemannゼータ関数, Mordell–Weilの定理, Selmer群
有理数体上の楕円曲線 $E$ の有理点の群は $E(\mathbb{Q})\cong E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}\times\mathbb{Z}^r$ と書ける(Mordell–Weilの定理)が、階数 $r$ を求める一般的な方法は知られていない。Birch–Swinnerton-Dyer 予想は、この大域的な量 $r$ が、各素数 $p$ を法とした曲線の点の個数 $N_p$ という局所的な情報をすべて集めた関数、すなわち $E$ の $L$ 関数 $L(E,s)$ の $s=1$ での零点の位数に等しいと主張する未解決の予想である。さらに、$s=1$ での主要項の係数は、周期・玉河数・Tate–Shafarevich 群の位数・単数基準(高さの行列式)・捩れ部分の位数で表されると予想されている。この記事では、$N_p$ と $L$ 関数の定義と基本的な性質を証明つきで述べ、予想の 2 つの形、予想の元になった数値的な観察、知られている結果を整理する。
$E$ を $\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線とし、整数係数の Weierstrass 方程式を 1 つとる。素数 $p$ でその方程式を $p$ を法として還元した曲線 $\bar E$ が $\mathbb{F}_p$ 上滑らかであるとき、$p$ を $E$ の良い素数($E$ は $p$ で良い還元をもつ)という。良い素数は有限個を除くすべての素数である。良い素数 $p$ について
$$
N_p:=\#\bar E(\mathbb{F}_p),\qquad a_p:=p+1-N_p
$$
とおく($\bar E(\mathbb{F}_p)$ は無限遠点を含む)。以下で主に扱う $y^2=f(x)$($f$ は整数係数のモニックな 3 次式で重根をもたない)の形では、$f$ の判別式を割らない奇素数 $p$ は良い素数である。実際、$f$ を $p$ を法として還元した $\bar f$ は重根をもたず、$p\ne2$ なので $y^2=\bar f(x)$ は滑らかである(楕円曲線 の命題「滑らかさと判別式」を $\mathbb{F}_p$ 上で使う)。
$p$ を奇素数、$f\in\mathbb{Z}[x]$ をモニックな 3 次式で、$p$ を法として重根をもたないものとする。$\bar E\colon y^2=f(x)$ の $\mathbb{F}_p$ 点の個数について
$$
N_p=p+1+\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr),\qquad a_p=-\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr)
$$
が成り立つ。ここで $\bigl(\frac{a}{p}\bigr)$ は Legendre 記号($a\equiv0$ なら $0$、$0$ でない平方なら $1$、平方でなければ $-1$)である。
$\bar E(\mathbb{F}_p)$ は無限遠点 $O$ と、$y^2=f(x)$ を満たす $(x,y)\in\mathbb{F}_p^2$ からなる。$x\in\mathbb{F}_p$ を固定すると、$y^2=c$($c=f(x)$)の解 $y\in\mathbb{F}_p$ の個数は、$c=0$ なら $1$、$c$ が $0$ でない平方なら $2$($\pm y$ は $p\ne2$ なので異なる)、平方でなければ $0$ であり、どの場合も $1+\bigl(\frac{c}{p}\bigr)$ に等しい。$x$ について足し、$O$ を加えると
$$
N_p=1+\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(1+\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr)\Bigr)=p+1+\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr)
$$
となる。$a_p=p+1-N_p$ から 2 つ目の式が従う。$\square$
$\mathbb{F}_p^\times$ の元のちょうど半分が平方なので、$f(x)$ の値が平方になるかどうかが「でたらめ」なら、$a_p$ は $\pm1$ を $p$ 個ほど足したもので、大きさは $\sqrt p$ 程度と予想される。実際には常に次の評価が成り立つ(Hasse の定理。楕円曲線 の定理「Hasse の定理」、Mil06 第 IV 章 (28)・(29) と Theorem 9.4、p.147–149)。
$$
\lvert a_p\rvert\le2\sqrt p .
$$
$E\colon y^2=x^3-x$ と $p\equiv3\pmod4$ の素数について $a_p=0$、すなわち $N_p=p+1$ である。より一般に、$n$ を $0$ でない整数とし、$E_n\colon y^2=x^3-n^2x$ と $p\nmid2n$、$p\equiv3\pmod4$ の素数について $a_p(E_n)=0$ である。
$f(x)=x^3-n^2x$ は奇関数 $f(-x)=-f(x)$ である。$p\equiv3\pmod4$ なので $\bigl(\frac{-1}{p}\bigr)=-1$ であり(平方剰余の相互法則 の定理「補充法則」の 1)、$x\mapsto-x$ が $\mathbb{F}_p$ の全単射であることから
$$
\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr)=\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(-x)}{p}\Bigr)=\Bigl(\frac{-1}{p}\Bigr)\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr)=-\sum_{x\in\mathbb{F}_p}\Bigl(\frac{f(x)}{p}\Bigr)
$$
となり、和は $0$ である。$p\nmid2n$ なら $f$ の判別式 $4n^6$ は $p$ で割れないので prop-bsd-ap-legendre が使え、$a_p=0$ である。$\square$
$E\colon y^2=x^3-x$ について、$50$ 未満の奇素数での $N_p$ と $a_p$ は次のとおりである(prop-bsd-ap-legendre の和を計算した。$p=2$ は良い素数でない)。
| $p$ | $3$ | $5$ | $7$ | $11$ | $13$ | $17$ | $19$ | $23$ | $29$ | $31$ | $37$ | $41$ | $43$ | $47$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $N_p$ | $4$ | $8$ | $8$ | $12$ | $8$ | $16$ | $20$ | $24$ | $40$ | $32$ | $40$ | $32$ | $44$ | $48$ |
| $a_p$ | $0$ | $-2$ | $0$ | $0$ | $6$ | $2$ | $0$ | $0$ | $-10$ | $0$ | $-2$ | $10$ | $0$ | $0$ |
$p\equiv3\pmod4$ の列($3,7,11,19,23,31,43,47$)では $a_p=0$ であり、prop-bsd-ap-zero と一致する。どの $p$ でも $\lvert a_p\rvert\le2\sqrt p$ が成り立つ(たとえば $p=29$ で $10\le2\sqrt{29}\approx10.77$)。$p=5$ の値 $N_5=8$ は 楕円曲線 の例「有限体上の点の個数」の計算と一致する。
$L$ 関数を定義するには、悪い素数での因子も決める必要がある。$E$ の Weierstrass 方程式として、係数が整数で判別式の絶対値が最小になるもの(極小方程式)をとる。悪い素数 $p$ では、還元した曲線はただ 1 つの特異点をもち、それが節点(2 本の接線をもつ)なら乗法的還元、尖点なら加法的還元という。乗法的還元のうち、2 本の接線が $\mathbb{F}_p$ 上定義されるものを分裂乗法的還元、そうでないものを非分裂乗法的還元という(Mil06 第 II 章 §3、p.59–60。$L$ 関数への使い方は第 IV 章 §10、p.163)。還元の型は Néronモデル の例「分裂乗法的還元をもつ楕円曲線と成分群」「加法的還元の例」でも扱われている。
$\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線 $E$ について、素数 $p$ ごとの多項式
$$
L_p(T):=\begin{cases}1-a_pT+pT^2&(p\text{ が良い素数}),\\1-T&(\text{分裂乗法的還元}),\\1+T&(\text{非分裂乗法的還元}),\\1&(\text{加法的還元})\end{cases}
$$
を定め、
$$
L(E,s):=\prod_p\frac1{L_p(p^{-s})}\qquad(\operatorname{Re}s>3/2)
$$
とおく。これを $E$ の $L$ 関数(Hasse–Weil $L$ 関数)という。
4 つの場合のどれでも $L_p(p^{-1})=\#\bar E_{\mathrm{ns}}(\mathbb{F}_p)/p$ が成り立つ($\bar E_{\mathrm{ns}}$ は還元した曲線の非特異点の集合。良い素数では $N_p/p$)。良い素数での因子は、$\bar E$ の合同ゼータ関数 $Z(\bar E/\mathbb{F}_p,T)=\dfrac{L_p(T)}{(1-T)(1-pT)}$ の分子である(楕円曲線 の注意「Hasse の定理の出典」)。したがって $L(E,s)$ は、各 $p$ での点の個数 $N_p$ をすべて 1 つの関数にまとめたものである。
$L(E,s)$ を定める無限積は $\operatorname{Re}s>3/2$ で絶対収束し、そこで $0$ にならない正則関数を定める。
良い素数 $p$ で $1-a_pT+pT^2=(1-\alpha_pT)(1-\beta_pT)$ と分解する。$\alpha_p,\beta_p$ は $X^2-a_pX+p=0$ の 2 根で、Hasse の評価 $a_p^2\le4p$ により判別式 $a_p^2-4p$ は $0$ 以下である。判別式が負なら $\alpha_p,\beta_p$ は互いに複素共役で $\lvert\alpha_p\rvert^2=\alpha_p\beta_p=p$、$0$ なら $\alpha_p=\beta_p=a_p/2$ で $\alpha_p^2=p$ である。どちらの場合も $\lvert\alpha_p\rvert=\lvert\beta_p\rvert=\sqrt p$ である。
$\sigma:=\operatorname{Re}s$ とすると $\lvert\alpha_pp^{-s}\rvert=\lvert\beta_pp^{-s}\rvert=p^{1/2-\sigma}$ で、$\sigma>3/2$ なら $1/2-\sigma<-1$ だから
$$
\sum_p\bigl(\lvert\alpha_pp^{-s}\rvert+\lvert\beta_pp^{-s}\rvert\bigr)\le2\sum_{n\ge1}n^{1/2-\sigma}<\infty
$$
である。悪い素数の因子 $1/(1\mp p^{-s})$ と $1$ は有限個で、$\operatorname{Re}s>0$ では $0$ にも $\infty$ にもならない。$\lvert u_p\rvert<1$、$\sum_p\lvert u_p\rvert<\infty$ なら $\prod_p(1-u_p)^{-1}$ は絶対収束して $0$ でない値をもつので、$L(E,s)$ は $\operatorname{Re}s>3/2$ で絶対収束し $0$ にならない。$\operatorname{Re}s\ge3/2+\varepsilon$ では上の評価が $s$ によらないので収束は一様であり、正則関数の一様収束極限として $L(E,s)$ は正則である(Riemannゼータ関数 の定理「Euler 積」と補題「正則関数の一様極限」と同じ論法)。$\square$
$s=1$ は上で示した絶対収束域 $\operatorname{Re}s>3/2$ の外にあり、一次因子ごとの絶対収束を与える評価 $\sum_pp^{-1/2}$ は発散する。$s=1$ で $L(E,s)$ を考えるには、次の解析接続が要る。
$E$ の導手を $N$ とし、$\Lambda(E,s):=N^{s/2}(2\pi)^{-s}\Gamma(s)L(E,s)$ とおく。$\Lambda(E,s)$ は複素平面全体に解析接続され、$w_E\in\{\pm1\}$ について関数等式 $\Lambda(E,s)=w_E\Lambda(E,2-s)$ を満たす。
これは Hasse–Weil 予想の楕円曲線の場合で、虚数乗法をもつ曲線については Deuring が 1950 年代に示し、一般の $\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線については、すべての楕円曲線がモジュラーであること(Wiles と Taylor が半安定な場合を、Breuil・Conrad・Diamond・Taylor が一般の場合を示した)と Eichler と Shimura の結果から従う(Mil06 第 IV 章 Conjecture 10.3 とその後の段落、p.164–165)。導手 $N$ は悪い素数の積 $\prod_pp^{f_p}$(乗法的還元なら $f_p=1$、加法的還元なら $f_p\ge2$)である(同 p.164)。証明はこの記事の範囲を大きく超えるので割愛する。
$L(E,s)$ の $s=1$ での零点の位数 $r_{\mathrm{an}}:=\operatorname{ord}_{s=1}L(E,s)$ を $E$ の解析的階数という。これに対して、Mordell–Weilの定理 の階数 $r$ を代数的階数(Mordell–Weil 階数)ということがある。
$\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線 $E$ について、$E(\mathbb{Q})$ の階数 $r$ は $L(E,s)$ の $s=1$ での零点の位数に等しい:
$$
r=\operatorname{ord}_{s=1}L(E,s).
$$
弱い形は、有理点が無限にあること($r\ge1$)と $L(E,1)=0$ が同値であることを含む。強い形は、$s=1$ での主要項の係数まで予言する。
$\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線 $E$ について、$r$ を階数、$P_1,\dots,P_r$ を $E(\mathbb{Q})/E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}$ の基底とすると、$Ш(E/\mathbb{Q})$ は有限で、$s\to1$ のとき
$$
L(E,s)\sim\frac{\Omega\cdot\prod_pc_p\cdot\#Ш(E/\mathbb{Q})\cdot R}{\bigl(\#E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}\bigr)^2}\,(s-1)^r
$$
が成り立つ。ここで $\Omega=\int_{E(\mathbb{R})}\lvert\omega\rvert$ は極小方程式の不変微分 $\omega$ の実周期、$c_p=\bigl(E(\mathbb{Q}_p):E^0(\mathbb{Q}_p)\bigr)$ は玉河数($E^0(\mathbb{Q}_p)$ は $p$ を法として非特異点に還元される点のなす部分群。良い素数では $c_p=1$)、$R=\det\bigl(\langle P_i,P_j\rangle\bigr)$ は Néron–Tate の高さの対 $\langle P,Q\rangle=\hat h(P+Q)-\hat h(P)-\hat h(Q)$ による単数基準(regulator)である($r=0$ なら $R=1$)。
2 つの形は Mil06 第 IV 章 Conjecture 10.5 と Remark 10.6 (b)(p.165–166)による(Milne は有限個の独立な点 $P_i$ と指数 $(E(\mathbb{Q}):\sum\mathbb{Z}P_i)$ を使った形で述べ、基底をとったときに上の形になることを注意している)。$\#Ш$ が式に現れるので、強い形は $Ш(E/\mathbb{Q})$ の有限性(Tate–Shafarevich群 の予想「Tate–Shafarevich 群の有限性」)を含んでいる(同記事の注意「有限性予想の位置づけ」)。玉河数は Néron モデルの成分群の位数として現れる(Néronモデル の本文)。Néron–Tate の高さ $\hat h$ は Mordell–Weilの定理 の注意で述べた $\lim h(2^nP)/4^n$ で、文献によって 2 倍異なる正規化がある(Mil06 第 IV 章 §4 の脚注 4、p.121)ので、$R$ の値は正規化とあわせて読む必要がある。捩れ部分と階数は Mordell–Weilの定理 で定めたものである。
予想の出発点は、$E(\mathbb{Q})$ が大きい(階数が大きい)なら、各 $p$ を法とした点の個数 $N_p$ も平均より大きくなるのではないか、という発想であった。$E(\mathbb{Q})$ から良い素数 $p$ での $\bar E(\mathbb{F}_p)$ への還元写像があり、有理点が多ければ $\bar E(\mathbb{F}_p)$ の点も「多めに」なると期待される。Birch と Swinnerton-Dyer は 1950 年代の終わりに計算機で次の量を計算した(Mil06 第 IV 章 §10 の冒頭、p.161)。
$\mathbb{Q}$ 上の楕円曲線 $E$ について、定数 $C>0$ があって、$X\to\infty$ のとき
$$
f_E(X):=\prod_{p\le X,\ p\text{ は良い素数}}\frac{N_p}{p}\ \sim\ C\,(\log X)^r
$$
が成り立つ。ここで $r$ は $E(\mathbb{Q})$ の階数である。
形式的には $L_p(p^{-1})=N_p/p$ なので、$f_E(X)$ は $1/L(E,1)$ の「Euler 積の部分積」にあたり、$L(E,s)$ が $s=1$ で位数 $r$ の零点をもつこととこの観察は整合する(Mil06 Aside 10.7、p.166)。ただし prop-bsd-convergence で見たとおり $s=1$ は絶対収束の範囲の外で、この予想は 1 つの曲線についても証明されていない(同 p.167)。
$E_n\colon y^2=x^3-n^2x$ の $n=1,5,6$ について、良い素数($E_1$ では $p\ne2$、$E_5$ では $p\ne2,5$、$E_6$ では $p\ne2,3$)にわたる積 $f_E(X)$ を計算すると次のとおりである(各 $N_p$ は prop-bsd-ap-legendre の和で計算した。有限の計算である)。$E_1$ の階数は $0$、$E_5$ と $E_6$ の階数は $1$ である(Selmer群 の例「$y^2=x^3-x$:Selmer 群は位数 $4$」「合同数の曲線 $y^2=x^3-25x$ と $y^2=x^3-36x$」)。
| $X$ | $f_{E_1}(X)$ | $f_{E_5}(X)$ | $f_{E_5}(X)/\log X$ | $f_{E_6}(X)$ | $f_{E_6}(X)/\log X$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $10^2$ | $1.65$ | $6.07$ | $1.32$ | $5.10$ | $1.11$ |
| $10^3$ | $2.24$ | $8.37$ | $1.21$ | $10.77$ | $1.56$ |
| $10^4$ | $2.29$ | $9.44$ | $1.02$ | $14.10$ | $1.53$ |
| $3\cdot10^4$ | $2.01$ | $12.80$ | $1.24$ | $13.32$ | $1.29$ |
階数 $0$ の $E_1$ では積はほぼ一定の範囲にとどまり、階数 $1$ の $E_5$、$E_6$ では積が $\log X$ に比例するように増えている。一方で比の値は $X$ とともに大きく揺れ、定数 $C$ を数値から精度よく決めるのは難しい。この表は予想の根拠の例であって、証明ではない。Birch と Swinnerton-Dyer も同じ揺れに気づき、観察を $L$ 関数の言葉に書き直した(Mil06 p.161)。
$n$ が合同数であることは、$E_n\colon y^2=x^3-n^2x$ の階数が $1$ 以上であることと同値である(合同数 の系「合同数の判定条件」と定理「$E_n$ の有限位数の点」)。したがって弱い形の予想のもとでは、$n$ が合同数であることは $L(E_n,1)=0$ と同値になる。Tunnell は、予想のもとで、$n$ が合同数かどうかを 3 変数の 2 次形式で $n$ を表す整数解の個数で判定する方法を示した。判定法の一方の向き(合同数なら個数が等しい)は証明されており、逆向きは予想に依存する(合同数 の注意「Tunnell の判定法」と例「Tunnell の判定法の数値」、Mil06 Introduction、p.3)。
$E_n$ は $(x,y)\mapsto(-x,iy)$ という $\mathbb{Q}(i)$ 上の自己準同型をもつ($(iy)^2=-y^2=(-x)^3-n^2(-x)$)ので、虚数乗法をもつ(楕円曲線 の例「曲線 $y^2=x^3-x$ と虚数乗法」の $n=1$ の場合と同じ)。次の表の Coates–Wiles の定理により、$n$ が合同数なら $L(E_n,1)=0$ であることは証明されている。これは弱い形の予想の「$r\ge1$ なら $L(E,1)=0$」の向きにあたる。
弱い形・強い形について現在までに知られている主な結果を、Mil06 第 IV 章 §10(p.167–168)と §5(p.127)の記述に沿ってまとめる。
| 結果 | 仮定 | 結論 |
|---|---|---|
| Coates–Wiles(1977 年) | $E$ が虚数乗法をもち、$E(\mathbb{Q})$ が無限 | $L(E,1)=0$ |
| Gross–Zagier(1983 年・1986 年) | $E$ がモジュラー、$K$ は虚 2 次体、$P_K$ は Heegner 点 | $L'(E/K,1)=C\cdot\hat h(P_K)$($C\ne0$)。とくに $P_K$ が無限位数であることと $L'(E/K,1)\ne0$ は同値 |
| Kolyvagin(1988 年) | 関数等式の符号 $w_E=+1$ で、ある虚 2 次体 $K$ について $P_K$ が無限位数 | $E(\mathbb{Q})$ と $Ш(E/\mathbb{Q})$ は有限 |
| 上の組み合わせ(Bump–Friedberg–Hoffstein を含む) | $L(E,1)\ne0$ | $E(\mathbb{Q})$ と $Ш(E/\mathbb{Q})$ は有限(弱い形の $r_{\mathrm{an}}=0$ の場合) |
| Kolyvagin、Rubin(1987 年ごろ) | — | $Ш(E/\mathbb{Q})$ が有限であることが初めて示された(それ以前は 1 つの楕円曲線についても知られていなかった) |
$L(E,s)$ の $s=1$ での零点の位数が $1$ 以下の場合の $Ш$ の有限性については Tate–Shafarevich群 の例「有限であることが知られている場合」にある。同じ例が述べるとおり、零点の位数が $2$ 以上の楕円曲線については、$Ш$ の有限性さえ 1 つの例についても証明されていない。
| 取り違えやすい主張 | 反例または注意点 | 確認すること |
|---|---|---|
| Euler 積の表示をそのまま $s=1$ で使う | $\operatorname{Re}s=1$ | prop-bsd-convergence の収束証明を適用できること |
| Selmer 群の位数から階数が決まる | $Ш(E/\mathbb{Q})[2]\ne0$ の曲線 | $2^{r+2}=\#\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ |
| 多くの $a_p$ が一致すれば階数も一致する | $E_1$ と $E_5$ | 階数が等しい |
1 行目:良い素数での因子の根は $\lvert\alpha_p\rvert=\sqrt p$ なので、$\operatorname{Re}s=1$ では $\lvert\alpha_pp^{-s}\rvert=p^{-1/2}$ で、$\sum_pp^{-1/2}$ は発散する($\sum_p1/p$ が発散する。Riemannゼータ関数 の系「素数の無限性と逆数和の発散」)。この評価だけでは二次の局所因子の積が絶対収束しないことまではいえないが、prop-bsd-convergence の議論は $s=1$ では使えず、$L(E,1)$ は thm-bsd-continuation の解析接続で定まる値である。予想が $L(E,s)$ の $s=1$ での振る舞いを問題にしているのに、$s=1$ は上で示した Euler 積の絶対収束域の外にある、という点がこの予想の難しさの 1 つである。
2 行目:Selmer群 の例「反例の確認」にあるとおり、Tate–Shafarevich群 の例「Lind–Reichardt の曲線」の Jacobi 多様体 $E\colon y^2=x^3+17x$ では $Ш(E/\mathbb{Q})[2]\ne0$ であり、Selmer 群は $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ より真に大きい。Selmer 群から得られるのは階数の上界だけで、$Ш$ が大きいと階数を決められない。この「決められない部分」を $L$ 関数の側から補おうとするのが予想の意義の 1 つである。
3 行目:prop-bsd-ap-zero により、$p\equiv3\pmod4$ となるすべての素数 $p$ について $a_p(E_1)=a_p(E_5)=0$ である($2$ と $5$ はこの条件を満たさない)。すなわち無限個の素数で $a_p$ が一致するが、$E_1$ の階数は $0$、$E_5$ の階数は $1$ である(Selmer群 の例)。$p\equiv1\pmod4$ の素数では値が異なりうる(たとえば $p=13$ で $a_{13}(E_1)=6$、$a_{13}(E_5)=\bigl(\frac{5}{13}\bigr)\cdot6=-6$。$x\mapsto5x$ の置き換えで $a_p(E_5)=\bigl(\frac5p\bigr)a_p(E_1)$ となる)。有限個の、あるいは一部の素数の $a_p$ だけでは階数は分からず、conj-bsd-product や conj-bsd-weak はすべての $p$ の情報を使う。
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