コンパクト化(compactification)とは、位相空間を、その位相を保ったままコンパクトHausdorff空間の稠密部分空間として埋め込む操作、または得られる空間のことである。コンパクト化をもつ空間はちょうどTychonoff空間であり、局所コンパクトHausdorff空間のAlexandroffの一点コンパクト化と、連続写像の延長性をもつStone–Čechコンパクト化が代表例である。
前提知識: 位相空間, コンパクト空間, Hausdorff空間, 稠密部分集合
位相空間 $X$ のコンパクト化(compactification)とは、コンパクトHausdorff空間 $Y$ と位相的埋め込み
$$
c\colon X\longrightarrow Y
$$
の組 $(Y,c)$ であって、像 $c(X)$ が $Y$ で稠密なものをいう。写像 $c$ が明らかなときは、空間 $Y$ だけをコンパクト化と呼ぶ。
「位相的埋め込み」とは、$c$ が $X$ から部分空間 $c(X)\subset Y$ への同相写像であることをいう。したがってコンパクト化は、元の空間の位相を変えずに境界点を付け加え、コンパクトHausdorff空間の稠密部分空間として実現する操作である。
$X$ の2つのコンパクト化 $(Y,c)$ と $(Y',c')$ が同値であるとは、同相写像 $h\colon Y\to Y'$ が存在して
$$
h\circ c=c'
$$
となることをいう。
同値性は、追加された境界点の名前ではなく、$X$ の埋め込みを保つコンパクト化の形だけを比較するための概念である。
$S^1$ から1点 $q$ を除いた空間は $\mathbb{R}$ と同相である。同相写像
$$
c'\colon\mathbb{R}\longrightarrow S^1\setminus\{q\}
$$
と包含写像 $\iota\colon S^1\setminus\{q\}\hookrightarrow S^1$ の合成 $c=\iota\circ c'$ を考える。像は $S^1$ で稠密であり、$S^1$ はコンパクトHausdorffだから、$(S^1,c)$ は $\mathbb{R}$ のコンパクト化である。追加された境界は1点 $q$ である。
ここで $c$ は $c'$ の「延長」ではない。両者は同じ定義域をもち、$c$ は $c'$ の値域を包含写像で $S^1$ へ移した合成である。
写像
$$
c'\colon\mathbb{R}\longrightarrow(0,1),\qquad
c'(x)=\frac{1}{1+e^{-x}}
$$
は同相写像である。包含写像 $(0,1)\hookrightarrow[0,1]$ と合成すれば、$[0,1]$ は $\mathbb{R}$ のコンパクト化になる。この場合の境界は $0$ と $1$ の2点である。
前の例とこの例は同値ではない。実際、$S^1$ と $[0,1]$ は同相ではない。このように、同じ空間にも異なるコンパクト化が存在しうる。
$X=\{a,b\}$ に密着位相 $\{\emptyset,X\}$ を入れると、$X$ はHausdorffでない。後の命題より、この空間は本記事の意味でのコンパクト化をもたない。有限集合なのでコンパクトではあるが、Hausdorff条件を欠くことが障害である。
位相空間 $X$ がコンパクト化をもつならば、$X$ はHausdorff空間である。
$(Y,c)$ を $X$ のコンパクト化とする。$Y$ はHausdorffであり、その部分空間 $c(X)$ もHausdorffである。さらに $c\colon X\to c(X)$ は同相写像なので、Hausdorff性は $X$ に移る。$\blacksquare$
存在の正確な特徴づけには、Hausdorff性より強い完全正則性が必要である。ここではTychonoff空間を「完全正則Hausdorff空間」の意味で用いる。
位相空間 $X$ がコンパクト化をもつことと、$X$ がTychonoff空間であることは同値である。
コンパクトHausdorff空間は完全正則であり、完全正則性は部分空間に遺伝するので、必要性が従う。十分性は、有界連続関数全体による積空間への埋め込みとTychonoffの定理から得られる。この構成と詳細は Eng89 第3章を参照。
局所コンパクトHausdorff空間には、境界を1点だけ加える標準的なコンパクト化がある。
$X$ をコンパクトでない局所コンパクトHausdorff空間とし、$\infty\notin X$ を1点とする。集合
$$
\alpha X=X\sqcup\{\infty\}
$$
に、次のように開集合を定める。
Hausdorff空間ではコンパクト集合が閉なので、$\infty$ の基本近傍は
$$
\{\infty\}\cup(X\setminus K)\qquad(K\subset X\text{ はコンパクト})
$$
と書ける。
$X$ をコンパクトでない局所コンパクトHausdorff空間とする。このとき $\alpha X$ はコンパクトHausdorff空間であり、自然な包含 $X\hookrightarrow\alpha X$ の像は開かつ稠密である。したがって $\alpha X$ は $X$ のコンパクト化である。
まずコンパクト性を示す。$\mathcal U$ を $\alpha X$ の開被覆とし、$\infty$ を含む $U_\infty\in\mathcal U$ を選ぶ。定義より $K=X\setminus U_\infty$ はコンパクトである。$\mathcal U$ は $K$ も覆うので、有限個の成員 $U_1,\ldots,U_n$ が $K$ を覆う。すると $U_\infty,U_1,\ldots,U_n$ は $\alpha X$ の有限部分被覆である。
次にHausdorff性を示す。$X$ の相異なる2点は $X$ のHausdorff性により分離できる。$x\in X$ と $\infty$ を分離するには、局所コンパクトHausdorff性から、$x$ の開近傍 $V$ で閉包 $\overline V$ がコンパクトなものを選ぶ。$V$ と $\{\infty\}\cup(X\setminus\overline V)$ は互いに交わらない開近傍である。
包含 $X\hookrightarrow\alpha X$ が位相的埋め込みで像が開であることは定義から従う。もし $X$ が稠密でなければ、$\{\infty\}$ が開になる。しかし定義よりこれは $X$ 自身がコンパクトであることを意味し、仮定に反する。したがって $X$ は $\alpha X$ で稠密である。$\blacksquare$
$X$ がすでにコンパクトHausdorffである場合は、恒等写像 $X\to X$ 自身がコンパクト化である。一点を加える上の構成で $X$ の稠密性を得るには、非コンパクト性の仮定が必要である。
Tychonoff空間 $X$ には、連続写像の延長性で特徴づけられる最大のコンパクト化がある。
Tychonoff空間 $X$ に対してコンパクト化 $(\beta X,\eta)$ が存在し、任意のコンパクトHausdorff空間 $K$ と連続写像 $f\colon X\to K$ に対し、連続写像 $\overline f\colon\beta X\to K$ が一意に存在して
$$
\overline f\circ\eta=f
$$
を満たす。この性質をもつコンパクト化は同値を除いて一意である。
$X$ から $[0,1]$ への連続写像全体を座標として積 $[0,1]^{C(X,[0,1])}$ へ埋め込み、その像の閉包を取ると $\beta X$ が構成できる。埋め込み性、延長の存在、一意性の証明は Eng89 第3章を参照。
延長の一意性には、$X$ の像が $\beta X$ で稠密であり、値域 $K$ がHausdorffであることが使われる。Alexandroffの一点コンパクト化は境界点の数を最小にする方向の構成であり、Stone–Čechコンパクト化は連続写像の延長可能性を最大にする方向の構成である。
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