正則領域

同義語:domain of holomorphy

概要

正則領域(domain of holomorphy)とは、$\mathbb{C}^n$ の領域 $U$ であって、その上の正則関数がすべて一斉に境界を越えて延びるような場所がないもの、すなわち正則関数の自然な定義域になる領域のことである。1 変数ではすべての領域が正則領域だが、$n\ge2$ では Hartogs の拡張定理により $\mathbb{C}^n\setminus\{0\}$ のような領域は正則領域でない。Cartan–Thullen の定理により、正則領域であることは、コンパクト集合の正則凸包がいつもコンパクトであること(正則凸性)と同値で、凸な領域は正則領域であり、正則領域であることは双正則写像で保たれる。正則領域は擬凸な領域とも一致し、$\mathbb{C}^n$ の領域のうち Stein 空間になるものにほかならない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多重円板, Hartogsの拡張定理, 一致の定理, コンパクト空間

1 変数では、$\mathbb{C}$ のどの領域 $U$ についても、境界の各点 $q$ に対し、$q$ を越えて延ばせない $U$ 上の正則関数がある。$\frac{1}{z-q}$ は $q$ の近くで発散するからである。ところが 2 変数以上ではそうならない。Hartogsの拡張定理 により、$\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ の上の正則関数はどれも原点を越えて $\mathbb{C}^2$ 全体へ延びてしまう。このように多変数では、領域の形によっては、その上の正則関数がすべて一斉にもっと大きな領域へ延びる。そうならない領域、すなわち正則関数の「自然な定義域」になる領域を 正則領域(domain of holomorphy)という。
正則領域は、領域の外にある点を使って定義される。これを領域の内側だけで言い直すのが Cartan–Thullen の定理である(thm-doh-cartan-thullen):領域が正則領域であることと、コンパクト集合の「正則凸包」がいつもコンパクトであること(正則凸であること)は同値である。凸な領域は正則領域であり、正則領域であることは双正則写像で保たれる。さらに正則領域は 擬凸領域 と一致し(Levi 問題の解決)、$\mathbb{C}^n$ の領域のうち Stein空間 になるものはちょうど正則領域である。

記号と多変数の正則関数

$\mathbb{C}^n$ の点を $z=(z_1,\dots,z_n)$ と書き、$\|z\|_\infty:=\max_j|z_j|$ とする。$a\in\mathbb{C}^n$、$r>0$ に対し、$\Delta(a,r):=\{z\mid\|z-a\|_\infty< r\}$ は $a$ を中心とする半径 $r$ の(多重半径がすべて $r$ の)多重円板 である。開集合 $U\subsetneq\mathbb{C}^n$ と $z\in U$ に対し
$$ d_U(z):=\sup\{r>0\mid\Delta(z,r)\subset U\} $$
を、多重円板で測った $z$ から境界までの距離とする($U=\mathbb{C}^n$ なら $d_U\equiv\infty$ とする)。$\Delta(w,\,d_U(z)-\|z-w\|_\infty)\subset\Delta(z,d_U(z))\subset U$ だから $d_U(w)\ge d_U(z)-\|z-w\|_\infty$ であり、$z,w$ を入れ替えて $|d_U(z)-d_U(w)|\le\|z-w\|_\infty$ を得る。特に $d_U$ は連続で、コンパクト集合 $K\subset U$ の上で正の最小値をとる。領域とは連結な開集合のことである。
開集合 $U\subset\mathbb{C}^n$ 上の関数 $f$ が正則であるとは、$f$ が連続であり、ほかの変数を止めるごとに各変数について 1 変数の正則関数であることをいう。$U$ 上の正則関数全体を $\mathcal{O}(U)$ と書く。次の事実を使う。

多変数の正則関数の基本事項

$U\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$f\in\mathcal{O}(U)$ とする。

  1. 偏導関数 $\partial^\alpha f=\partial^{|\alpha|}f/\partial z_1^{\alpha_1}\cdots\partial z_n^{\alpha_n}$ はすべて $U$ 上で正則である。
  2. $\Delta(a,r)\subset U$ なら、$\Delta(a,r)$ の上で $f(z)=\sum_\alpha\frac{\partial^\alpha f(a)}{\alpha!}(z-a)^\alpha$ であり、右辺は $\Delta(a,r)$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束する。
  3. (Cauchy の評価式)$\Delta(a,r)\subset U$ の上で $|f|\le M$ なら、$|\partial^\alpha f(a)|\le M\,\alpha!\,r^{-|\alpha|}$ である。
  4. (一致の定理)$U$ が連結で、$f$ が $U$ の空でない開集合の上で $0$ なら、$f\equiv0$ である。
  5. 正則関数の列が $U$ のコンパクト集合の上で一様に収束すれば、極限は正則である。
基本事項の証明の所在

1・2・3 は 多重円板 の系「導関数の積分表示と滑らかさ」、定理「冪級数展開」、系「Cauchy の評価式と Liouville の定理」である。4 は Hartogsの拡張定理 の命題「多変数の正則関数の基本性質」の 2 で、この記事では証明しない(Leb26t Theorem 1.2.7、p. 25)。5 は、極限が連続であることと、1 変数で正則関数の一様収束極限が正則であること(Leb26c Theorem 3.4.5、p. 84)を各変数に使えば従う。

2 と 5 から、冪級数 $\sum_\alpha c_\alpha(z-a)^\alpha$ が $\Delta(a,r)$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束すれば、その和は $\Delta(a,r)$ 上で正則である(部分和は多項式である)。

定義

正則領域

$U\subset\mathbb{C}^n$ を領域とする。次の性質をもつ空でない開集合 $V,W\subset\mathbb{C}^n$ が存在しないとき、$U$ を正則領域という:$W$ は連結で $W\not\subset U$、$V\subset U\cap W$ であり、すべての $f\in\mathcal{O}(U)$ に対して、$V$ の上で $F=f$ となる $F\in\mathcal{O}(W)$ がある。

この定義は Leb26t Definition 2.1.1(p. 47)による。$V,W$ が存在するとき、$U$ 上の正則関数はすべて、$V$ のところから境界を越えて $W$ へ延びる。$V$ を $U\cap W$ 全体にとらないのは、多価性を避けるためである。たとえば $U=\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ 上の対数の主値は、上半平面の側から負の実軸を越えて延ばせるが、負の実軸の点の近傍 $W$ の上で $U\cap W$ 全体と一致する正則関数にはならない(下半平面の側の値と $2\pi i$ ずれる)。それでも $U$ は正則領域である(ex-doh-examples の 1)。
正則領域でないことを示すには、$V,W$ を 1 組見つければよい。正則領域であることを示すときは、次の補題で、延長が起こる境界の点を取り出す。

延長が起こる境界の点

$U\subset\mathbb{C}^n$ を領域、$V,W$ を def-doh-main の条件のうち「$W$ は連結で $W\not\subset U$、$V\subset U\cap W$」を満たす空でない開集合とする。$v\in V$ をとり、$U\cap W$ の $v$ を含む連結成分を $V'$ とする。このとき、$q\in W\setminus U$ で $V'$ の閉包に属するものがある。さらに $f\in\mathcal{O}(U)$、$F\in\mathcal{O}(W)$ が $V$ の上で一致すれば、$V'$ の上でも一致する。

要点:$V'$ は $W$ の空でない開集合で $W$ と異なるので、$W$ の連結性から $W$ の中で閉でない。$V'$ の閉包に属し $V'$ に属さない $W$ の点 $q$ は、$U$ に属すれば $V'$ に属してしまうので、$U$ の外にある。後半は一致の定理による。

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$\mathbb{C}^n$ の開集合の連結成分は開集合である(各点の小さな球は連結だから)。よって $V'$ は空でない開集合で、$V'\subset U$ と $W\not\subset U$ から $V'\neq W$ である。$W$ は連結なので、$V'$ は $W$ の中で閉集合でない(閉なら開かつ閉で $V'=W$ となる)。したがって $W$ の点 $q$ で、$V'$ の閉包に属し $V'$ に属さないものがある。もし $q\in U$ なら、$q$ は $U\cap W$ の点であり、$q$ を含む $U\cap W$ の連結成分は $q$ の開近傍として $V'$ と交わるので $V'$ に等しく、$q\in V'$ となって矛盾する。よって $q\in W\setminus U$ である。後半は、$F-f$ が連結な開集合 $V'$ の上で正則で、空でない開集合 $V\cap V'$($v$ を含む)の上で $0$ だから、一致の定理(prop-doh-basic の 4)による。

境界で発散する関数による判定

領域 $U\subset\mathbb{C}^n$ の各境界点 $q$ に対し、$f_q\in\mathcal{O}(U)$ で、$U$ の中で $z\to q$ とするとき $|f_q(z)|\to\infty$ となるものがあるとする。このとき $U$ は正則領域である。

要点:延長 $F$ は境界点 $q\in W$ で連続だから $q$ の近くで有界だが、$V'$ の上で $F=f_q$ は $q$ に近づくと発散する。

詳しい証明を開く

$V,W$ が存在したとして、lem-doh-boundary の $V'$ と $q$ をとる。$q$ は $U$ に属さず $U$ の閉包に属するので境界点である。$f_q$ の延長 $F\in\mathcal{O}(W)$ は $V'$ の上で $f_q$ と一致する。$V'$ の点列 $z_k\to q$ をとると、$F$ は $q\in W$ で連続なので $F(z_k)\to F(q)$ だが、$|f_q(z_k)|\to\infty$ であり、矛盾する。

例

正則領域の例
  1. $n=1$ のとき、$\mathbb{C}$ のすべての領域 $U$ は正則領域である。$U=\mathbb{C}$ なら $W\not\subset U$ となる $W$ がない。$U\neq\mathbb{C}$ なら、境界点 $q$ に対し $f_q(z)=\frac{1}{z-q}$ が prop-doh-blowup の条件を満たす。
  2. 単位球 $B=\{z\mid\sum_j|z_j|^2<1\}$ は正則領域である。境界点 $q$($\sum_j|q_j|^2=1$)に対し $f_q(z)=\bigl(1-\sum_jz_j\bar q_j\bigr)^{-1}$ とおくと、Cauchy–Schwarz の不等式により $z\in B$ で $|\sum_jz_j\bar q_j|<1$ なので $f_q$ は $B$ 上で正則であり、$z\to q$ のとき $\sum_jz_j\bar q_j\to1$ だから $|f_q(z)|\to\infty$ である。
  3. 凸な領域 $U\subsetneq\mathbb{C}^n$ は正則領域である。境界点 $q$ は $U$ に属さないので、$\mathbb{C}^n=\mathbb{R}^{2n}$ の上の実線形汎関数 $\lambda$ で、すべての $z\in U$ について $\lambda(z)<\lambda(q)$ となるものがある(Hahn–Banachの定理 の補題「点と開凸集合の分離」)。$\ell(z):=\lambda(z)-i\lambda(iz)$ は複素線形($\ell(iz)=\lambda(iz)+i\lambda(z)=i\ell(z)$)で $\operatorname{Re}\ell=\lambda$ だから、$f_q(z):=\frac{1}{\ell(z)-\ell(q)}$ は $U$ 上で正則(分母の実部が負)で、$z\to q$ のとき $|f_q(z)|\to\infty$ である。多重円板もこの例に含まれる。
  4. $\mathbb{C}^n\setminus\{z_1=0\}$ は正則領域である。境界点は $q_1=0$ となる点で、$f_q(z)=\frac{1}{z_1}$ が条件を満たす。
正則領域でない領域

$n\ge2$ とし、$U\subset\mathbb{C}^n$ を領域、$K\subset U$ を空でないコンパクト集合で $U\setminus K$ が連結なものとする。このとき $U\setminus K$ は正則領域でない。実際、$W:=U$、$V:=U\setminus K$ とおくと、$W$ は連結で $W\not\subset U\setminus K$ であり、Hartogsの拡張定理 によりすべての $f\in\mathcal{O}(U\setminus K)$ は $W$ 上の正則関数に延びる。特に $\mathbb{C}^n\setminus\{0\}$ や、球から 1 点を除いた領域は正則領域でない。

正則凸包と正則凸性

正則凸包と正則凸

$U\subset\mathbb{C}^n$ を領域、$K\subset U$ をコンパクト集合とする。
$$ \widehat K_U:=\Bigl\{z\in U\Bigm||f(z)|\le\sup_K|f|\ \ (\text{すべての }f\in\mathcal{O}(U))\Bigr\} $$
を $K$ の正則凸包という。$U$ のすべてのコンパクト集合 $K$ について $\widehat K_U$ がコンパクトであるとき、$U$ は正則凸であるという。

正則凸包の基本性質

$K,L\subset U$ をコンパクト集合とする。

  1. $K\subset\widehat K_U$ であり、$\widehat K_U$ は $U$ の中で閉集合で、有界である。
  2. $K\subset L$ なら $\widehat K_U\subset\widehat L_U$ である。
  3. すべての $f\in\mathcal{O}(U)$ について $\sup_{\widehat K_U}|f|=\sup_K|f|$ である。特に $\widehat K_U$ がコンパクトなら $\widehat{(\widehat K_U)}_U=\widehat K_U$ である。

要点:1 は $\widehat K_U$ が閉集合 $\{|f|\le\sup_K|f|\}$ の共通部分であることと、座標関数 $z_j$ が正則であることから従う。2・3 は定義から直ちに従う。

詳しい証明を開く

1:$K\subset\widehat K_U$ は定義から明らかである。$\widehat K_U$ は連続関数 $|f|$ による閉集合 $\{|f|\le\sup_K|f|\}$ の、$f\in\mathcal{O}(U)$ にわたる共通部分なので、$U$ の中で閉である。座標関数 $z_j$ は正則なので、$\widehat K_U$ の点は $|z_j|\le\sup_K|z_j|$ を満たし、$\widehat K_U$ は有界である。2:$\sup_K|f|\le\sup_L|f|$ による。3:$K\subset\widehat K_U$ から $\ge$、定義から $\le$ が従う。後半は前半から $\widehat{(\widehat K_U)}_U\subset\widehat K_U$ が従い、逆の包含は 1 による。

多重円板の区別された境界の正則凸包

$T:=\{z\in\mathbb{C}^2\mid|z_1|=|z_2|=1\}$ とし、$\overline{\Delta}:=\{|z_1|\le1,\ |z_2|\le1\}$ とする。

  1. $U=\mathbb{C}^2$ では $\widehat T_U=\overline\Delta$ である。$\overline\Delta$ の点 $z$ と $f\in\mathcal{O}(\mathbb{C}^2)$ について、多重円板 の定理「区別された境界での最大値」により $|f(z)|\le\max_T|f|$ なので $\overline\Delta\subset\widehat T_U$ であり、逆の包含は座標関数 $z_1,z_2$ による。
  2. $U=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ では $\widehat T_U=\overline\Delta\setminus\{0\}$ であり、これはコンパクトでない($0$ に近づく点列が $\widehat T_U$ の中に収束しない)。実際、$f\in\mathcal{O}(U)$ は Hartogsの拡張定理 の系「1 点を除いた開集合からの延長」により $\mathbb{C}^2$ 上の正則関数 $F$ に延びるので、$z\in\overline\Delta\setminus\{0\}$ では 1 により $|f(z)|=|F(z)|\le\max_T|F|=\max_T|f|$ である。したがって $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ は正則凸でない。

1 では、トーラス $T$ の正則凸包が、$T$ を「区別された境界」とする閉多重円板全体にふくらんでいる。2 では、そのふくらみが領域からはみ出す点 $0$ に向かい、凸包がコンパクトでなくなる。この「はみ出し」が起こらないことが、正則関数が境界を越えて延びないことと同値であるというのが次の定理である。

主定理:Cartan–Thullen の定理

定理の 3 から 1 を導くために、正則凸な領域の上で、境界に近づく点列の上で有界でない正則関数を作っておく。

境界に近づく点列の上で有界でない関数

$U\subsetneq\mathbb{C}^n$ を正則凸な領域、$(p_j)$ を $U$ の点列で、$U$ に属さない点 $q$ に収束するものとする。このとき $f\in\mathcal{O}(U)$ で、$\{f(p_j)\}$ が有界でないものがある。

要点:$U$ を正則凸包のコンパクト集合 $C_1\subset C_2\subset\cdots$ で取り尽くし、点列から $x_k\notin C_k$、$x_k\in C_{k+1}$ となる部分列を選ぶ。$x_k$ では大きく $C_k$ の上では $2^{-k}$ 以下の正則関数 $f_k$ を、$|g(x_k)|>\sup_{C_k}|g|$ となる $g$ の高い冪として作り、$f=\sum_kf_k$ とする。

詳しい証明を開く

$m\ge1$ について $L_m:=\{z\in U\mid\|z\|_\infty\le m,\ d_U(z)\ge1/m\}$ とおき、$L_m$ が空でない $m$ だけを考える($m$ が大きければ空でない)。$d_U$ は連続で、$d_U\ge1/m$ の点の極限は $U$ に属するので、$L_m$ は $\mathbb{C}^n$ の有界閉集合でコンパクトであり、$L_m\subset L_{m+1}$ である。$U$ のコンパクト集合 $C$ は有界で $d_U$ は $C$ の上で正の最小値をとるので、$C$ はある $L_m$ に含まれる。$K_m:=\widehat{(L_m)}_U$ とおくと、正則凸性により $K_m$ はコンパクトで、prop-doh-hull により $K_m\subset K_{m+1}$、$\widehat{(K_m)}_U=K_m$ である。

各 $K_m$ はコンパクトで $q\notin U$ なので、$p_j\in K_m$ となる $j$ は有限個しかない(無限個あれば部分列が $K_m$ の点に収束するが、極限は $q\notin K_m$ である)。そこで、番号 $m_1< m_2<\cdots$ と部分列 $p_{j_1},p_{j_2},\dots$ を、$p_{j_k}\notin K_{m_k}$ かつ $p_{j_k}\in K_{m_{k+1}}$ となるように帰納的に選べる($p_{j_k}$ を選んだら、$p_{j_k}\in L_m$ となる $m>m_k$ を $m_{k+1}$ とし、$K_{m_{k+1}}$ に属さない $p_j$($j>j_k$)を $p_{j_{k+1}}$ とする)。$x_k:=p_{j_k}$、$C_k:=K_{m_k}$ と書く。

$x_k\notin C_k=\widehat{(C_k)}_U$ なので、$g\in\mathcal{O}(U)$ で $|g(x_k)|>\sup_{C_k}|g|$ となるものがある。$g$ を定数倍して $\sup_{C_k}|g|<1<|g(x_k)|$ としてよい。正の整数 $N$ を十分大きくとって $f_k:=g^N$ とおくと、$$\sup_{C_k}|f_k|\le2^{-k},\qquad|f_k(x_k)|\ge k+1+\sum_{l< k}|f_l(x_k)|$$とできる($f_1,\dots,f_{k-1}$ は先に決めておく)。$f:=\sum_{k\ge1}f_k$ とおく。$U$ のコンパクト集合 $C$ はある $L_m$ に含まれ、$m_l\ge m$ となる $l$ をとれば $C\subset K_m\subset K_{m_l}=C_l$ である。$k\ge l$ なら $C\subset C_k$ で $|f_k|\le2^{-k}$ なので、級数は $C$ の上で一様に収束し、$f\in\mathcal{O}(U)$ である(prop-doh-basic の 5)。$l>k$ なら $x_k\in C_{k+1}\subset C_l$ なので $|f_l(x_k)|\le2^{-l}$ であり、$$|f(x_k)|\ge|f_k(x_k)|-\sum_{l< k}|f_l(x_k)|-\sum_{l>k}2^{-l}\ge k+1-1=k$$となる。よって $f$ は部分列 $(x_k)$ の上で有界でない。

Cartan–Thullen の定理

$U\subset\mathbb{C}^n$ を領域とする。次の 3 条件は同値である。

  1. $U$ は正則領域である。
  2. $U$ のすべてのコンパクト集合 $K$ について、$\inf_{\widehat K_U}d_U=\inf_Kd_U$ である。
  3. $U$ は正則凸である。

$U=\mathbb{C}^n$ なら、1 は $W\not\subset U$ となる $W$ がないので成り立ち、2 は両辺が $\infty$ で成り立ち、3 は $\widehat K_U$ が $\mathbb{C}^n$ の有界閉集合(prop-doh-hull の 1)なので成り立つ。以下 $U\neq\mathbb{C}^n$ とする。
1 ⇒ 2.$K\subset\widehat K_U$ なので $\inf_{\widehat K_U}d_U\le\inf_Kd_U=:r$ である。$r>0$ であり、逆向きの不等式、すなわちすべての $z\in\widehat K_U$ について $\Delta(z,r)\subset U$ を示す。$0<\rho< r$ を固定し、$K_\rho:=\{w\mid\|w-a\|_\infty\le\rho\text{ となる }a\in K\text{ がある}\}$ とおく。$K_\rho=\{a+b\mid a\in K,\ \|b\|_\infty\le\rho\}$ はコンパクト集合の直積の和の写像による像なのでコンパクトであり、$a\in K$ では $\rho< d_U(a)$ なので $K_\rho\subset U$ である。$f\in\mathcal{O}(U)$ とし、$M:=\sup_{K_\rho}|f|<\infty$ とおく。$a\in K$ なら $\Delta(a,\rho)\subset K_\rho$ なので、Cauchy の評価式(prop-doh-basic の 3)により $|\partial^\alpha f(a)|\le M\alpha!\rho^{-|\alpha|}$ である。$\partial^\alpha f\in\mathcal{O}(U)$(同 1)だから、$z\in\widehat K_U$ について
$$ |\partial^\alpha f(z)|\le\sup_K|\partial^\alpha f|\le M\,\alpha!\,\rho^{-|\alpha|} $$
である。したがって、$\|w-z\|_\infty\le s<\rho$ では $\Bigl|\frac{\partial^\alpha f(z)}{\alpha!}(w-z)^\alpha\Bigr|\le M(s/\rho)^{|\alpha|}$ であり、$\sum_\alpha(s/\rho)^{|\alpha|}=(1-s/\rho)^{-n}<\infty$ だから、
$$ F(w):=\sum_\alpha\frac{\partial^\alpha f(z)}{\alpha!}(w-z)^\alpha $$
は $\Delta(z,\rho)$ のコンパクト集合の上で絶対かつ一様に収束する。$\rho< r$ は任意なので、$F$ は $\Delta(z,r)$ の上で定義された正則関数である。また $\Delta(z,\varepsilon)\subset U$ となる $\varepsilon>0$ をとると、$\Delta(z,\varepsilon)$ の上で $F=f$ である(prop-doh-basic の 2)。
いま $\Delta(z,r)\not\subset U$ と仮定する。$W:=\Delta(z,r)$、$V:=\Delta(z,\varepsilon)$ とおくと、$W$ は連結で $W\not\subset U$、$V\subset U\cap W$ であり、上で見たとおり、すべての $f\in\mathcal{O}(U)$ に対して $V$ の上で $f$ と一致する $F\in\mathcal{O}(W)$ がある。これは $U$ が正則領域であることに反する。よって $\Delta(z,r)\subset U$、すなわち $d_U(z)\ge r$ である。
2 ⇒ 3.$K\subset U$ をコンパクトとし、$r:=\inf_Kd_U>0$ とおく。2 により $\widehat K_U$ の各点で $d_U\ge r$ である。$\widehat K_U$ の点列 $z_k$ が $z\in\mathbb{C}^n$ に収束すれば、$\Delta(z_k,r)\subset U$ と $\|z_k-z\|_\infty\to0$ から $z\in U$ であり、$\widehat K_U$ は $U$ の中で閉(prop-doh-hull の 1)なので $z\in\widehat K_U$ である。よって $\widehat K_U$ は $\mathbb{C}^n$ の有界閉集合で、コンパクトである。
3 ⇒ 1.$U$ が正則凸で、def-doh-main の $V,W$ が存在したとする。lem-doh-boundary の $V'$ と $q\in W\setminus U$ をとり、$V'$ の点列 $p_j\to q$ を選ぶ。lem-doh-unbounded により、$f\in\mathcal{O}(U)$ で $\{f(p_j)\}$ が有界でないものがある。$f$ の延長 $F\in\mathcal{O}(W)$ は $V'$ の上で $f$ と一致する(lem-doh-boundary)ので、$\{F(p_j)\}$ も有界でない。しかし $F$ は $q\in W$ で連続で、$p_j\to q$ だから $\{F(p_j)\}$ は有界でなければならない。これは矛盾である。

この定理と証明の筋は Leb26t Theorem 2.6.3(p. 100)による。そこでは 2 の距離を Euclid 距離で測り、lem-doh-unbounded の関数 $f_k$ の存在を Exercise 2.6.14 に任せている。この記事では多重円板の距離 $d_U$ を使い、$f_k$ を $g^N$ として作った。
2 は、正則凸包が $K$ より境界に近づかないことを述べている。証明の 1 ⇒ 2 は、正則凸包の点では $K$ の上と同じ Cauchy の評価式が成り立つので、$f$ の Taylor 展開が $K$ の点と同じ大きさの多重円板で収束する、という観察に基づく。

帰結

Cartan–Thullen の定理の帰結
  1. $\mathbb{C}$ の領域、および $\mathbb{C}^n$ の凸な領域は正則凸である。
  2. $U,U'\subset\mathbb{C}^n$ を領域、$\varphi\colon U\to U'$ を 双正則写像 とする。$U$ が正則領域であることと、$U'$ が正則領域であることは同値である。

要点:1 は例と主定理による。2 は、$g\mapsto g\circ\varphi$ が $\mathcal{O}(U')$ と $\mathcal{O}(U)$ の全単射であることから $\varphi(\widehat K_U)=\widehat{\varphi(K)}_{U'}$ となり、正則凸性が保たれることによる。

詳しい証明を開く

1:ex-doh-examples の 1・3(凸な領域が $\mathbb{C}^n$ 全体のときは thm-doh-cartan-thullen の証明の冒頭)と thm-doh-cartan-thullen による。

2:$g\in\mathcal{O}(U')$ なら $g\circ\varphi\in\mathcal{O}(U)$ であり(正則写像 の命題「正則関数の引き戻しによる判定」)、$\varphi^{-1}$ についても同様なので、$g\mapsto g\circ\varphi$ は $\mathcal{O}(U')$ から $\mathcal{O}(U)$ への全単射である。コンパクト集合 $K\subset U$ と $z\in U$ について$$z\in\widehat K_U\iff|g(\varphi(z))|\le\sup_K|g\circ\varphi|=\sup_{\varphi(K)}|g|\ \ (g\in\mathcal{O}(U'))\iff\varphi(z)\in\widehat{\varphi(K)}_{U'}$$だから、$\varphi(\widehat K_U)=\widehat{\varphi(K)}_{U'}$ である。$\varphi$ は同相写像なので、$U$ が正則凸なら $U'$ も正則凸であり、逆も同様である。thm-doh-cartan-thullen により主張を得る。

2 は定義からは見えにくい。定義は $U$ の外の点を使うが、$\varphi$ は $U$ の外では定義されていないからである。Cartan–Thullen の定理で $U$ の内側だけで決まる正則凸性に言い換えると、すぐに分かる。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
次元 $n=1$$\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$領域はすべて正則領域
凸性$\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$凸な領域は正則領域
除く集合 $K$ がコンパクト$\mathbb{C}^2\setminus\{z_1=0\}$$U\setminus K$ が連結なら $U\setminus K$ は正則領域でない
凸包を正則関数で定める連続関数で定めた凸包、$U=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$凸包がすべてコンパクトなら正則領域
反例の確かめ
  1. ex-doh-examples の 1 により $n=1$ では領域はすべて正則領域だが、$\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ は ex-doh-hartogs により正則領域でない。
  2. $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ は凸でない($(1,0)$ と $(-1,0)$ の中点が $0$)。cor-doh-consequences の 1 の凸性を外すと結論が成り立たなくなる。
  3. $\{z_1=0\}$ はコンパクトでなく、$\mathbb{C}^2\setminus\{z_1=0\}$ は連結だが、ex-doh-examples の 4 により正則領域である。ex-doh-hartogs で $K$ がコンパクトであることは外せない。
  4. 正則凸包の定義で $\mathcal{O}(U)$ を連続関数全体に替えると、$K$ の凸包は $K$ 自身になる($z\notin K$ なら $K$ への距離 $\operatorname{dist}(\cdot,K)$ が $K$ の上で $0$、$z$ で正)。すると $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ のように正則領域でない領域でもすべての凸包がコンパクトになり、thm-doh-cartan-thullen の 3 ⇒ 1 が成り立たなくなる。

補足:擬凸性と Stein 空間

$\mathbb{C}^n$ の領域について、正則領域であることと 擬凸領域 の意味で擬凸であることは同値である。この記事では証明しない(Hor90 Theorem 4.2.8、p. 88。擬凸ならば正則領域であることを $\bar\partial$ 方程式の $L^2$ 評価で示している)。正則領域が擬凸であることは比較的易しく(擬凸領域 の節「正則領域との関係」)、擬凸な領域が正則領域であるかという問いは Levi 問題とよばれてきた。正則凸性はすべての正則関数を見なければ判定できないが、擬凸性は多重劣調和関数で判定でき、境界の近くの性質として調べられる。
Stein空間 の定義は、正則凸であること、大域正則関数が点を分離すること、大域正則関数が各点で局所座標を与えることの 3 条件からなる。$\mathbb{C}^n$ の領域 $U$ では、座標関数 $z_1,\dots,z_n$ が $U$ 上の正則関数として後の 2 条件を満たすので、$U$ が Stein 空間であることは正則凸であることと同値であり、thm-doh-cartan-thullen により正則領域であることと同値である。正則凸性は、$\mathbb{C}^n$ に埋め込まれていない複素多様体の上でもそのまま意味をもつので、正則領域の概念を一般化するときにはこちらが使われる。

関連項目

参考文献

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