Petr–Douglas–Neumannの定理(Petr–Douglas–Neumann theorem)とは、$n\ge3$ として、$n$ 角形(辺が交差してもよい)の各辺に頂角 $\frac{2\pi k}n$ の二等辺三角形を立て($k>\frac n2$ では反対側に頂角 $2\pi-\frac{2\pi k}n$ のもの)、その頂点を新しい頂点にする操作 $T_k$ を、$k=1,2,\dots,n-2$ について 1 回ずつどの順に行っても、もとの $n$ 角形と同じ重心をもつ正 $n$ 角形(1 点につぶれる場合を含む)が得られる、という定理である。頂点の列を離散 Fourier 変換で成分に分けると、$T_k$ はちょうど 1 つの成分を $0$ にし、$n-2$ 回で重心ともう 1 つの成分だけが残る。$n=3$ が Napoleon の定理である。
前提知識: Napoleonの定理, 離散Fourier変換と反転公式, 複素数の掛け算は回転と拡大, 1の冪根で数を振り分ける
Napoleonの定理 では、三角形の各辺の外側に正三角形を立て、その中心を結ぶと正三角形になることを見た。四角形ではどうだろうか。各辺の外側に正方形を立てて中心を結んでも、一般には正方形にならない。ところが、もう 1 回操作を加えると正方形が現れる。
この記事では、平面の点を複素数で表す(複素数平面と図形)。複素数 $u$ に $-i$ を掛けると、$u$ を時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルになる(複素数の掛け算は回転と拡大)。
反時計回りに並ぶ四角形 $z_0=0$、$z_1=4$、$z_2=3+3i$、$z_3=1+2i$ をとる。
(1) 各辺 $z_jz_{j+1}$($z_4=z_0$ とする)の外側に正方形を立て、その中心 $w_j$ をとる。正方形の中心は、辺の中点から辺に垂直に辺の長さの半分だけ外へ進んだ点である。反時計回りの四角形では、辺を進む向きの右側が外側なので
$$
w_j=\frac{z_j+z_{j+1}}2-\frac i2\,(z_{j+1}-z_j)
$$
である。
$$
w_0=2-\frac i2\cdot4=2-2i,\qquad w_1=\frac{7+3i}2-\frac i2(-1+3i)=\frac{7+3i}2-\frac{-3-i}2=5+2i
$$
で、同じように $w_2=\dfrac32+\dfrac72i$、$w_3=-\dfrac12+\dfrac32i$ である。
(2) 四角形 $w_0w_1w_2w_3$ の各辺の中点 $v_j=\dfrac{w_j+w_{j+1}}2$ をとる。
$$
v_0=\frac72,\qquad v_1=\frac{13}4+\frac{11}4i,\qquad v_2=\frac12+\frac52i,\qquad v_3=\frac34-\frac14i
$$
である。
(3) 辺のベクトルは
$$
v_1-v_0=-\frac14+\frac{11}4i,\qquad v_2-v_1=-\frac{11}4-\frac14i,\qquad v_3-v_2=\frac14-\frac{11}4i,\qquad v_0-v_3=\frac{11}4+\frac14i
$$
で、どれも 1 つ前に $i$ を掛けたものになっている(たとえば $i\left(-\dfrac14+\dfrac{11}4i\right)=-\dfrac{11}4-\dfrac14i$)。$i$ を掛けることは反時計回りの $90^\circ$ 回転なので、$v_0v_1v_2v_3$ は正方形である。
$w_2=\dfrac{4+5i}2-\dfrac i2(-2-i)=\dfrac{4+5i}2-\dfrac{1-2i}2=\dfrac{3+7i}2$、$w_3=\dfrac{1+2i}2-\dfrac i2(-1-2i)=\dfrac{1+2i}2-\dfrac{2-i}2=\dfrac{-1+3i}2$ である。
ex-pdn-start と同じ四角形で、先に中点をとる。中点は $2$、$\dfrac72+\dfrac32i$、$2+\dfrac52i$、$\dfrac12+i$ で、これは平行四辺形である(Varignonの定理)。この平行四辺形の各辺の外側に正方形を立てて中心をとると、
$$
\frac72,\qquad \frac{13}4+\frac{11}4i,\qquad \frac12+\frac52i,\qquad \frac34-\frac14i
$$
となり、ex-pdn-start と同じ正方形になる。
中点を $m_0=2$、$m_1=\dfrac{7+3i}2$、$m_2=\dfrac{4+5i}2$、$m_3=\dfrac{1+2i}2$ とすると、$\dfrac{m_0+m_1}2-\dfrac i2(m_1-m_0)=\dfrac{11+3i}4-\dfrac i2\cdot\dfrac{3+3i}2=\dfrac{11+3i}4-\dfrac{-3+3i}4=\dfrac72$、$\dfrac{m_1+m_2}2-\dfrac i2(m_2-m_1)=\dfrac{11+8i}4-\dfrac i2\cdot\dfrac{-3+2i}2=\dfrac{11+8i}4-\dfrac{-2-3i}4=\dfrac{13+11i}4$、$\dfrac{m_2+m_3}2-\dfrac i2(m_3-m_2)=\dfrac{5+7i}4-\dfrac i2\cdot\dfrac{-3-3i}2=\dfrac{5+7i}4-\dfrac{3-3i}4=\dfrac{2+10i}4$、$\dfrac{m_3+m_0}2-\dfrac i2(m_0-m_3)=\dfrac{5+2i}4-\dfrac i2\cdot\dfrac{3-2i}2=\dfrac{5+2i}4-\dfrac{2+3i}4=\dfrac{3-i}4$ である。
四角形の各辺に直角二等辺三角形を外側に立ててその頂点を結び(青)、次にその中点を結ぶ(赤)と正方形になる
同じ四角形で先に中点を結び(緑の平行四辺形)、次に直角二等辺三角形を立ててその頂点を結ぶと、同じ正方形(赤)になる
正方形の中心は、辺を斜辺とする直角二等辺三角形の直角の頂点である。つまり (1) は「頂角 $90^\circ$ の二等辺三角形を立てる」操作、(2) の中点は「頂角 $180^\circ$ の二等辺三角形(つぶれた三角形)を立てる」操作と見られる。$90^\circ=\dfrac{2\pi\cdot1}4$、$180^\circ=\dfrac{2\pi\cdot2}4$ である。三角形では頂角 $120^\circ=\dfrac{2\pi\cdot1}3$(正三角形の中心)の 1 回で正三角形になった(Napoleonの定理)。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 辺の中点から垂直に進む | 操作 $T_k$ | 巡回行列を掛ける |
| $1$ の $n$ 乗根 $\zeta$ で振り分ける | 頂点の列の Fourier 成分 | 離散 Fourier 変換 |
| 成分に数を掛けるだけ | $T_k$ は成分 $t\equiv-k$ を消す | 巡回行列の固有値 |
| 順番によらない | 掛け算は交換できる | 巡回行列は互いに可換 |
$n\ge3$ とし、$\zeta=\cos\dfrac{2\pi}n+i\sin\dfrac{2\pi}n$($1$ の原始 $n$ 乗根)とおく。
$n$ 個の複素数の列 $z=(z_0,z_1,\dots,z_{n-1})$ を $n$ 角形 と呼ぶ。頂点 $z_0\to z_1\to\cdots\to z_{n-1}\to z_0$ の順に結んだ図形を考え、辺が交差しても、頂点が重なってもよい。添字は $n$ で割った余りで考え、$z_n=z_0$ とする。
$1\le k\le n-1$ の整数 $k$ について、$c_k=\dfrac{\cos(\pi k/n)}{\sin(\pi k/n)}$($\cot\dfrac{\pi k}n$)とおき、$n$ 角形 $z$ から新しい $n$ 角形 $T_kz=w$ を
$$
w_j=\frac{z_j+z_{j+1}}2-\frac{i\,c_k}2\,(z_{j+1}-z_j)\qquad(j=0,1,\dots,n-1)
$$
で作る操作を $T_k$ とする。
式の意味を確かめる。$-i(z_{j+1}-z_j)$ は、辺 $z_j\to z_{j+1}$ のベクトルを時計回りに $90^\circ$ 回したもので、辺を進む向きの右側を向き、長さは辺の長さ $L$ に等しい。$w_j$ は辺の中点から右側へ $\dfrac{c_k}2L$ だけ進んだ点である。
| $n$ | $k$ | $c_k$ | $w_j$ |
|---|---|---|---|
| $3$ | $1$ | $\dfrac1{\sqrt3}$ | 外側の正三角形の中心(頂角 $120^\circ$) |
| $4$ | $1$ | $1$ | 外側の正方形の中心(頂角 $90^\circ$) |
| $4$ | $2$ | $0$ | 辺の中点 |
| $5$ | $1$、$2$ | $\cot36^\circ$、$\cot72^\circ$ | 外側、頂角 $72^\circ$、$144^\circ$ |
| $5$ | $3$ | $\cot108^\circ<0$ | 内側、頂角 $144^\circ$ |
$w=T_kz$ について
$$
w_j=\frac{z_{j+1}-\zeta^{-k}z_j}{1-\zeta^{-k}}
$$
である。言いかえると、$w_j$ を中心として $z_j$ を時計回りに $\dfrac{2\pi k}n$ 回すと $z_{j+1}$ に移る。
要点:2 倍角の公式で $\dfrac1{1-\zeta^{-k}}=\dfrac12-\dfrac{i\,c_k}2$、$\dfrac{\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}=-\dfrac12-\dfrac{i\,c_k}2$ となるので、右辺を展開すると定義の式になる。分母を払うと $z_{j+1}-w_j=\zeta^{-k}(z_j-w_j)$ で、$\zeta^{-k}$ を掛けることは時計回りに $\dfrac{2\pi k}n$ 回すことである。
段 1($\dfrac1{1-\zeta^{-k}}$ の計算)。$\varphi=\dfrac{2\pi k}n$ とおくと $\zeta^{-k}=\cos\varphi-i\sin\varphi$ である。2 倍角の公式 $1-\cos\varphi=2\sin^2\dfrac\varphi2$、$\sin\varphi=2\sin\dfrac\varphi2\cos\dfrac\varphi2$ から
$$1-\zeta^{-k}=2\sin\frac\varphi2\left(\sin\frac\varphi2+i\cos\frac\varphi2\right)$$
である。$0<\dfrac\varphi2<\pi$ なので $\sin\dfrac\varphi2\ne0$ である。$\left(\sin\dfrac\varphi2+i\cos\dfrac\varphi2\right)\left(\sin\dfrac\varphi2-i\cos\dfrac\varphi2\right)=1$ を使うと
$$\frac1{1-\zeta^{-k}}=\frac{\sin\frac\varphi2-i\cos\frac\varphi2}{2\sin\frac\varphi2}=\frac12-\frac{i\,c_k}2$$
である($\dfrac\varphi2=\dfrac{\pi k}n$)。
段 2(式の一致)。$\dfrac{\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}=\dfrac1{1-\zeta^{-k}}-1=-\dfrac12-\dfrac{i\,c_k}2$ なので
$$\frac{z_{j+1}-\zeta^{-k}z_j}{1-\zeta^{-k}}=\left(\frac12-\frac{i\,c_k}2\right)z_{j+1}+\left(\frac12+\frac{i\,c_k}2\right)z_j=\frac{z_j+z_{j+1}}2-\frac{i\,c_k}2(z_{j+1}-z_j)$$
で、定義の $w_j$ と一致する。
段 3(回転)。示した式の分母を払うと $w_j-\zeta^{-k}w_j=z_{j+1}-\zeta^{-k}z_j$、つまり $z_{j+1}-w_j=\zeta^{-k}(z_j-w_j)$ である。$\zeta^{-k}$ を掛けることは時計回りに $\dfrac{2\pi k}n$ 回すことなので、主張が成り立つ。$\square$
$n=4$ では $\zeta=i$ である。$k=1$ では $\zeta^{-1}=-i$、$1-\zeta^{-1}=1+i$ で、$\dfrac1{1+i}=\dfrac{1-i}2=\dfrac12-\dfrac i2$ となり、$c_1=1$ と合う。ex-pdn-start の $w_0=2-2i$ を中心に $z_0=0$ を時計回りに $90^\circ$ 回すと、$w_0+(-i)(z_0-w_0)=2-2i+(-i)(-2+2i)=2-2i+2i+2=4=z_1$ である。
$k=2$ では $\zeta^{-2}=-1$ で、$w_j=\dfrac{z_{j+1}+z_j}2$(中点)となる。中点を中心に $180^\circ$ 回すと $z_j$ は $z_{j+1}$ に移る。
$n$ 角形 $z$ の離散 Fourier 変換を
$$
\widehat z(t)=\sum_{j=0}^{n-1}z_j\,\zeta^{-tj}\qquad(t=0,1,\dots,n-1)
$$
とする(離散Fourier変換と反転公式 の定義。$\widehat z(t)$ は $t$ を $n$ で割った余りだけで決まる)。$\widehat z(0)=z_0+\cdots+z_{n-1}$ は頂点の和で、$\dfrac{\widehat z(0)}n$ は頂点の重心である。反転公式
$$
z_j=\frac1n\sum_{t=0}^{n-1}\widehat z(t)\,\zeta^{tj}
$$
により、$n$ 角形は $n$ 個の成分 $\widehat z(0),\dots,\widehat z(n-1)$ で決まる。
$w=T_kz$ とすると、$t=0,1,\dots,n-1$ について
$$
\widehat w(t)=\mu_k(t)\,\widehat z(t),\qquad \mu_k(t)=\frac{\zeta^t-\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}
$$
である。特に $\mu_k(0)=1$ で、$\mu_k(t)=0$ となるのは $t=n-k$ のときだけである。
段 1(ずらした列の変換)。列 $j\mapsto z_{j+1}$ の変換を計算する。$l=j+1$ とおくと、$j$ が $0,\dots,n-1$ を動くとき $l$ の余りも $0,\dots,n-1$ を 1 回ずつとり、$\zeta^{-tj}=\zeta^{-t(l-1)}=\zeta^t\,\zeta^{-tl}$ なので
$$
\sum_{j=0}^{n-1}z_{j+1}\,\zeta^{-tj}=\zeta^t\sum_{l=0}^{n-1}z_l\,\zeta^{-tl}=\zeta^t\,\widehat z(t)
$$
である($z_n=z_0$ を使った)。
段 2($T_k$ の変換)。lem-pdn-rot より $w_j=\dfrac{1}{1-\zeta^{-k}}\,z_{j+1}-\dfrac{\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}\,z_j$ である。変換は和と定数倍を保つので、段 1 から
$$
\widehat w(t)=\frac{\zeta^t}{1-\zeta^{-k}}\,\widehat z(t)-\frac{\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}\,\widehat z(t)=\frac{\zeta^t-\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}\,\widehat z(t)
$$
である。
段 3(どの成分が消えるか)。$t=0$ では分子と分母が等しく $\mu_k(0)=1$ である。$\mu_k(t)=0$ は $\zeta^t=\zeta^{-k}$、つまり $\zeta^{t+k}=1$ と同じで、$\zeta$ は原始 $n$ 乗根なので、これは $t+k$ が $n$ の倍数であることと同値である。$0\le t\le n-1$、$1\le k\le n-1$ では $t+k=n$、つまり $t=n-k$ のときだけである。$\square$
lem-pdn-mult を図式で書くと次のようになる。$\mathcal F$ は離散 Fourier 変換、$M_k$ は第 $t$ 成分に $\mu_k(t)$ を掛ける操作である。
$$
\xymatrix{
z \ar[r]^{T_k} \ar[d]_{\mathcal F} & T_kz \ar[d]^{\mathcal F} \\
\widehat z \ar[r]_{M_k} & M_k\widehat z
}
$$
図式が可換であるとは、$\mathcal F\circ T_k=M_k\circ\mathcal F$、つまり「$T_k$ で動かしてから変換しても、変換してから成分ごとに $\mu_k(t)$ を掛けても同じ」ということである。$M_k$ どうしは成分ごとの掛け算なので、どの順に行っても結果が同じになる。
$n=4$、$\zeta=i$ で、$\mu_1(t)=\dfrac{i^t+i}{1+i}$、$\mu_2(t)=\dfrac{i^t+1}{2}$ である($\zeta^{-1}=-i$、$\zeta^{-2}=-1$)。
$$
(\mu_1(0),\mu_1(1),\mu_1(2),\mu_1(3))=(1,\ 1+i,\ i,\ 0),\qquad (\mu_2(0),\mu_2(1),\mu_2(2),\mu_2(3))=\left(1,\ \frac{1+i}2,\ 0,\ \frac{1-i}2\right)
$$
である。たとえば $\mu_1(1)=\dfrac{2i}{1+i}=\dfrac{2i(1-i)}2=1+i$ である。
ex-pdn-start の四角形 $z=(0,4,3+3i,1+2i)$ の成分は
$$
\widehat z=(8+5i,\ -5-6i,\ -2+i,\ -1)
$$
である($\widehat z(1)=0+4\cdot(-i)+(3+3i)\cdot(-1)+(1+2i)\cdot i=-5-6i$ のように計算する)。$T_1$ で $(8+5i,\ 1-11i,\ -1-2i,\ 0)$ となり、第 3 成分が消える。続けて $T_2$ で $\left(8+5i,\ \dfrac{(1+i)(1-11i)}2,\ 0,\ 0\right)=(8+5i,\ 6-5i,\ 0,\ 0)$ となり、第 2 成分も消える。残るのは第 0 成分と第 1 成分だけである。
$\widehat z(t)=z_0+z_1i^{-t}+z_2i^{-2t}+z_3i^{-3t}$ である。$\widehat z(0)=0+4+3+3i+1+2i=8+5i$、$\widehat z(2)=0-4+(3+3i)-(1+2i)=-2+i$、$\widehat z(3)=0+4i+(3+3i)(-1)+(1+2i)(-i)=4i-3-3i-i+2=-1$ である。$T_1$ の後は $1\cdot(8+5i)$、$(1+i)(-5-6i)=-5-6i-5i+6=1-11i$、$i(-2+i)=-1-2i$、$0\cdot(-1)=0$ である。$T_2$ の後の第 1 成分は $\dfrac{(1+i)(1-11i)}2=\dfrac{1-11i+i+11}2=6-5i$ である。
成分が第 0 成分と第 1 成分だけの列は、正 $n$ 角形である。
$n$ 角形 $z$ について、$t=2,3,\dots,n-1$ のすべてで $\widehat z(t)=0$ であることと、ある複素数 $g$、$r$ を使って
$$
z_j=g+r\,\zeta^j\qquad(j=0,1,\dots,n-1)
$$
と書けることは同値である。このとき $g=\dfrac{\widehat z(0)}n$(重心)、$r=\dfrac{\widehat z(1)}n$ である。$r\ne0$ なら、$z$ は $g$ を中心とする反時計回りの正 $n$ 角形で、$r=0$ なら $n$ 個の頂点がすべて $g$ に重なる。
段 1(成分が 2 つだけなら)。反転公式で $t=0,1$ の項だけが残るので $z_j=\dfrac1n\left(\widehat z(0)+\widehat z(1)\zeta^j\right)=g+r\zeta^j$ である。
段 2(逆向き)。$z_j=g+r\zeta^j$ なら、$t\ne0$ で $\sum_j\zeta^{-tj}=0$、$t\ne1$ で $\sum_j\zeta^{(1-t)j}=0$($1$ の $n$ 乗根の冪の和。離散Fourier変換と反転公式)なので、$\widehat z(t)=g\sum_j\zeta^{-tj}+r\sum_j\zeta^{(1-t)j}$ は $2\le t\le n-1$ で $0$ になる。
段 3(正 $n$ 角形)。$r\ne0$ のとき、$z_j-g=r\zeta^j$ はどれも絶対値が $\lvert r\rvert$ で、$j$ が 1 増えるごとに $\zeta$ を掛ける、つまり $g$ のまわりに反時計回りに $\dfrac{2\pi}n$ 回る。よって $z_0,\dots,z_{n-1}$ は $g$ を中心とする円の上に等間隔に反時計回りに並び、この順に結んだ図形は正 $n$ 角形である。$\square$
$n\ge3$ とし、$k_1,k_2,\dots,k_{n-2}$ を $1,2,\dots,n-2$ を並べかえたものとする。どんな $n$ 角形 $z$ から始めても、操作を $n-2$ 回行った
$$
T_{k_{n-2}}\cdots T_{k_2}T_{k_1}\,z
$$
は、$z$ と同じ重心 $g$ をもつ反時計回りの正 $n$ 角形である(1 点につぶれる場合を含む)。結果は順番 $k_1,\dots,k_{n-2}$ によらない。
方針:lem-pdn-mult で各操作を成分ごとの掛け算に直し、どの成分が残るかを数える。最後に lem-pdn-regular を使う。
段 1(成分の式)。$u=T_{k_{n-2}}\cdots T_{k_1}z$ とおく。lem-pdn-mult を $n-2$ 回使うと
$$
\widehat u(t)=\mu_{k_{n-2}}(t)\cdots\mu_{k_2}(t)\,\mu_{k_1}(t)\,\widehat z(t)=\left(\prod_{k=1}^{n-2}\mu_k(t)\right)\widehat z(t)
$$
である。2 つ目の等号は、掛ける順番を入れかえても数の積は変わらないことによる。右辺は $k_1,\dots,k_{n-2}$ の順番によらないので、$\widehat u$ も、反転公式で決まる $u$ も、順番によらない。
段 2(消える成分)。$k$ が $1,\dots,n-2$ を動くと、$\mu_k$ が消す成分 $t=n-k$ は $n-1,n-2,\dots,2$ を 1 回ずつ動く。よって $2\le t\le n-1$ の成分はどれかの因数 $\mu_{n-t}(t)=0$ を含み、$\widehat u(t)=0$ である。
段 3(残る成分)。$t=0$ では $\mu_k(0)=1$ なので $\widehat u(0)=\widehat z(0)$ で、重心は変わらない。$t=1$ では、$\mu_k(1)=0$ となるのは $k=n-1$ のときだけで、$k=n-1$ は使っていないので、$\widehat u(1)=\left(\prod_{k=1}^{n-2}\mu_k(1)\right)\widehat z(1)$ の係数は $0$ でない。
段 4(結論)。段 2 と lem-pdn-regular により、$u_j=g+r\zeta^j$、$g=\dfrac{\widehat z(0)}n$、$r=\dfrac{\widehat u(1)}n$ で、$u$ は重心 $g$ の反時計回りの正 $n$ 角形($r=0$ なら 1 点)である。$\square$
段 3 から、結果が 1 点につぶれるのは $\widehat z(1)=0$ のとき、つまりもとの $n$ 角形の「反時計回りの正 $n$ 角形の成分」が $0$ のときに限る。たとえば時計回りに並ぶ正 $n$ 角形 $z_j=\zeta^{-j}$ から始めると、$\widehat z(1)=\sum_j\zeta^{-2j}=0$($n\ge3$ なので $\zeta^{-2}\ne1$)で、結果は重心 $0$ の 1 点になる。
$n=3$ では操作は $T_1$ の 1 回だけで、$T_1$ は外側の正三角形の中心をとる操作である。thm-pdn-main は Napoleonの定理 そのものになる。Napoleonの定理 の「大学数学で見る」の節では、同じことを 3 頂点の離散 Fourier 変換で示している(そこでの倍率 $1,-1,0$ は、本記事の $\mu_1(0)=1$、$\mu_1(1)=-\zeta^2$、$\mu_1(2)=0$ にあたる。頂点の番号の付け方が違うので、$0$ でない倍率は絶対値が $1$ の数だけずれる)。
$n=4$ では $T_1$(外側の正方形の中心)と $T_2$(中点)の 2 回である。ex-pdn-start と ex-pdn-order は、2 つの順番がともに同じ正方形を与える例だった。順番ごとに、次の形に言いかえられる。
反時計回りに並ぶ凸四角形 $z_0z_1z_2z_3$ について、次が成り立つ(時計回りに並ぶ凸四角形でも、鏡に映した図形で考えれば同じことが成り立つ)。
(1) 各辺の外側に立てた正方形の中心を $w_0,w_1,w_2,w_3$ とすると、2 本の対角線 $w_0w_2$ と $w_1w_3$ は長さが等しく、直交する。
(2) 各辺の中点を結んだ平行四辺形の各辺の外側に正方形を立てると、その 4 つの中心は正方形をなす。
五角形 $0$、$4$、$6+3i$、$2+4i$、$-1+2i$(反時計回り)に $T_1$、$T_2$、$T_3$ をこの順に行う。重心は $\dfrac{11+9i}5=2.2+1.8i$ である。3 回の後の頂点は、小数第 4 位までで
$$
5.0079+1.0227i,\quad 3.8070+4.2303i,\quad 0.3852+4.0793i,\quad -0.5286+0.7784i,\quad 2.3284-1.1107i
$$
となり、重心からの距離はどれも $2.9136$ で、隣どうしは重心のまわりに $72^\circ$ ずつ反時計回りに並ぶ。6 通りの順番のどれで行っても、同じ 5 点になる(数値計算で確かめた)。
五角形(黒)に T1、T2、T3 を順に行うと、1 回目(青)、2 回目(緑)を経て、3 回目(赤)で正五角形になる
| $n$ | 操作の回数 | 使う $T_k$ と頂角 | 結果 |
|---|---|---|---|
| $3$ | $1$ | $T_1$:$120^\circ$ | 正三角形(Napoleon の定理) |
| $4$ | $2$ | $T_1$:$90^\circ$、$T_2$:中点 | 正方形 |
| $5$ | $3$ | $T_1$:$72^\circ$、$T_2$:$144^\circ$、$T_3$:内側 $144^\circ$ | 正五角形 |
| $6$ | $4$ | $T_1$:$60^\circ$、$T_2$:$120^\circ$、$T_3$:中点、$T_4$:内側 $120^\circ$ | 正六角形 |
thm-pdn-main の仮定を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $k=1,\dots,n-2$ を 1 回ずつ使う | $n=4$ で $T_1$ を 2 回 | 正方形になる |
| 使う $k$ が $1,\dots,n-2$ | $n=4$ で $T_1$ と $T_3$ | 正方形になる |
ex-pdn-start の四角形に $T_1$ を 2 回行うと
$$
\frac{11}2-\frac32i,\qquad 4+\frac92i,\qquad -\frac12+\frac72i,\qquad -1-\frac32i
$$
になる。最初の 2 辺のベクトルは $-\dfrac32+6i$ と $-\dfrac92-i$ で、$i\left(-\dfrac32+6i\right)=-6-\dfrac32i\ne-\dfrac92-i$ なので、正方形ではない。成分で見ると、$T_1$ は第 3 成分しか消さないので、2 回行っても第 2 成分 $\mu_1(2)^2\,\widehat z(2)=i^2(-2+i)=2-i$ が残る。
ex-pdn-start の四角形に $T_1$ と $T_3$(内側の正方形の中心)を行うと
$$
\frac32+\frac32i,\qquad \frac52+i,\qquad \frac32+\frac32i,\qquad \frac52+i
$$
になり、2 点を行き来するだけの「四角形」になる。$T_3$ が消すのは第 1 成分($t=4-3$)なので、第 0 成分と第 2 成分 $\mu_3(2)\mu_1(2)\widehat z(2)$ が残り、頂点は $g+s\,(-1)^j$($g=2+\dfrac54i$、$s=\dfrac{-2+i}4$)の形になる。
T1 を 2 回行った四角形(赤)は正方形にならない
T1 と T3 を行うと、4 つの頂点が 2 点に重なる(赤の 2 点)
$T_k$ は、頂点の列 $(z_0,\dots,z_{n-1})$ に $n\times n$ の行列を掛ける 1 次変換である。第 $j$ 行は、第 $j$ 列に $\dfrac{-\zeta^{-k}}{1-\zeta^{-k}}$、第 $j+1$ 列に $\dfrac1{1-\zeta^{-k}}$ を置き、ほかは $0$ である。このように各行が 1 つ上の行を右に 1 つずらしたものになっている行列を 巡回行列 という。離散Fourier変換と反転公式 の命題「巡回行列の固有ベクトル」により、どの巡回行列も同じ固有ベクトル $v_t=(1,\zeta^t,\zeta^{2t},\dots)$ をもつ。lem-pdn-mult の $\mu_k(t)$ は、$T_k$ の行列の固有値である。固有ベクトルが共通なので、巡回行列どうしは掛ける順番を入れかえても同じ行列になり(互いに可換)、thm-pdn-main の結果が順番によらないのはこのためである。巡回群 $\mathbb Z/n\mathbb Z$ の指標で見ると、$v_t$ は指標 $j\mapsto\zeta^{tj}$ そのものである(巡回群の指標と直交関係)。
同じ証明で、使う $k$ の組を変えたときに何が出るかもわかる。
$1\le m\le n-1$ とし、$1,\dots,n-1$ から $m$ を除いた $n-2$ 個の $k$ について $T_k$ を 1 回ずつ(どの順でも)行うと、結果は
$$
u_j=g+r\,\zeta^{-mj}\qquad(j=0,\dots,n-1)
$$
の形になる($g$ は重心)。$m=n-1$ が thm-pdn-main である。
thm-pdn-main の証明の段 1〜2 と同じく、使った $k$ は成分 $t=n-k$ を消すので、$t=0$ と $t=n-m$ 以外の成分は $0$ になる。反転公式から $u_j=\dfrac1n\left(\widehat u(0)+\widehat u(n-m)\zeta^{(n-m)j}\right)$ で、$\zeta^{(n-m)j}=\zeta^{-mj}$ である。$\square$
$m=1$ なら $u_j=g+r\zeta^{-j}$ で、時計回りの正 $n$ 角形になる。$n=5$、$m=3$($T_1$、$T_2$、$T_4$ を使う)なら $u_j=g+r\zeta^{2j}$ で、頂点が重心のまわりに $144^\circ$ ずつ進み、正五角形の頂点を 1 つおきに結ぶ星形(五芒星)になる。$m$ と $n$ が 1 以外の公約数をもつと、ex-pdn-cx-last のように頂点が重なる。
たとえば ex-pdn-five の 5 点を 1 つおきの順 $0$、$6+3i$、$-1+2i$、$4$、$2+4i$ に結んだ自己交差する五角形(図 6 の黒)に $T_1$、$T_2$、$T_4$ を行うと、ex-pdn-five で得た正五角形の 5 頂点を 1 つおきの順に結んだ五芒星(図 6 の赤)になる。
自己交差する五角形(黒)に T1、T2、T4 を行うと、正五角形の頂点を 1 つおきに結ぶ星形(赤)になる
この定理は Wei26 に、正 $n$ 角形の重心がもとの $n$ 角形の重心と一致することとともに述べられている。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する