Cayley複体

同義語:ケイリー複体Cayley complex

概要

Cayley複体(Cayley complex)とは、群 $G$ の表示 $\langle S\mid R\rangle$ について、$G$ の元を頂点とし各頂点 $g$ から生成元 $s$ ごとに $gs$ への辺を引いた Cayley グラフに、各頂点と各関係子ごとに、その関係子の語をたどる閉じた辺の道に沿って 2 胞体を貼り付けた 2 次元以下の CW 複体である。$G$ は左からの積で胞体を写し合うように作用し、表示複体への射影は被覆写像で、Cayley 複体は単連結なので、表示複体の普遍被覆であり、被覆変換群は $G$ に一致する。自由群では木、$\mathbb{Z}^2$ では平面、$\mathbb{Z}/2$ では球面になる。生成系に関する Cayley グラフは、円周のブーケの弧状連結な正規被覆とちょうど一致する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群の表示複体, ケイリーグラフ, 被覆空間, 被覆変換

群 $G$ とその生成元の族が与えられると、$G$ の元を頂点とし、各頂点 $g$ から生成元 $s$ ごとに $gs$ へ辺を引いた Cayley グラフ ができる。生成元の積が単位元になる関係式(関係子)は、Cayley グラフのどの頂点から出発してもその頂点に戻る閉じた辺の道を与える。そこで、群の表示 $\langle S\mid R\rangle$ の関係子 $r$ ごと・頂点 $g$ ごとに、この閉路に沿って円板を貼り付ける。こうしてできる 2 次元以下の CW 複体が Cayley 複体 である。
Cayley 複体には $G$ が左からの積で胞体を写し合うように作用し、その商は 群の表示複体 $X_P$ である。この記事の主定理(thm-cc-universal)は、射影 $p\colon\tilde X_P\to X_P$ が被覆写像であり、$\tilde X_P$ が単連結であること、すなわち Cayley 複体が表示複体の普遍被覆で、$G$ がその被覆変換群であることを述べる。群は、自分自身の元を頂点とする単連結な空間に自由に作用するものとして、幾何学的に目に見える形になる(幾何学的群論)。
例として、自由群・$\mathbb{Z}^2$・巡回群・$\mathbb{Z}/2\ast\mathbb{Z}/2$ の Cayley 複体を描く。さらに、関係子を考えない 1 次元の部分に目を向けると、円周のブーケ(円周の ウェッジ和)の弧状連結な正規被覆は、生成系に関する Cayley グラフとちょうど一致する(thm-cc-rose)。この一致には被覆空間の弧状連結性が必要であり、それを外した反例も挙げる。

定義

$P=\langle S\mid R\rangle$ を群 $G$ の表示とし(群の表示)、語 $w$ の $G$ での像を $\bar w$ と書く。語の記法、円周のブーケ $B_S$、その 0 胞体 $v$、1 胞体 $e_s$ の特性写像 $\chi_s$、語のループ $\varphi_w\colon S^1\to B_S$、表示複体 $X_P$ は 群の表示複体 の定義「円周のブーケと語のループ」「表示複体」のとおりとし、$X_P$ の 2 胞体 $e_r$ の特性写像を $\Phi_r$ とする。語 $w=s_1^{\varepsilon_1}\cdots s_k^{\varepsilon_k}$ に対し、その長さ $j$ の頭の部分 $s_1^{\varepsilon_1}\cdots s_j^{\varepsilon_j}$ を $w_{\le j}$ と書く($w_{\le0}$ は空の語)。

位相的な Cayley グラフ

$G$ の元を 0 胞体とし、組 $(g,s)\in G\times S$ ごとに、$g$ から $g\bar s$ への 1 胞体 $e_{g,s}$ を貼り付けた 1 次元 CW 複体を $\Gamma_P$ と書き、$G$ の生成系 $(\bar s)_{s\in S}$ に関する Cayley グラフ という。$e_{g,s}$ の特性写像を $\chi_{g,s}\colon[0,1]\to\Gamma_P$($\chi_{g,s}(0)=g$、$\chi_{g,s}(1)=g\bar s$)とする。

$\Gamma_P$ は $R$ によらず、$G$ と族 $(\bar s)_{s\in S}$ だけで決まる。ケイリーグラフ の記事の Cayley グラフ $\operatorname{Cay}(G,T)$ は単純グラフで、$T=\{\bar s^{\pm1}\}$ について $\{g,gt\}$ を辺とする。$\bar s\ne1$、$\bar s^2\ne1$ で、$s\ne s'$ なら $\bar s\ne\bar s'^{\pm1}$ のとき、$\Gamma_P$ は $\operatorname{Cay}(G,T)$ の各辺を線分で実現した空間である。そうでないとき $\Gamma_P$ には、$\bar s=1$ から生じる 1 点に両端をもつ辺や、$\bar s^2=1$ から生じる $g$ と $g\bar s$ を結ぶ 2 本の辺($e_{g,s}$ と $e_{g\bar s,s}$)が現れる。
語 $w=s_1^{\varepsilon_1}\cdots s_k^{\varepsilon_k}$ と $g\in G$ に対し、$j$ 番目の文字に、$\varepsilon_j=1$ なら $e_{g\overline{w_{\le j-1}},s_j}$ を向きどおりに、$\varepsilon_j=-1$ なら $e_{g\overline{w_{\le j}},s_j}$ を逆向きにたどる道を対応させ、これらをつないだ辺の道を $g$ から出る $w$ の道 という。どちらの場合もこの辺は $g\overline{w_{\le j-1}}$ と $g\overline{w_{\le j}}$ を結ぶので、$w$ の道は $g$ から $g\bar w$ へ向かう。

Cayley 複体

$\Gamma_P$ に、組 $(g,r)\in G\times R$ ごとに 2 胞体 $e_{g,r}$ を、次の接着写像 $\varphi_{g,r}\colon S^1\to\Gamma_P$ で貼り付けた 2 次元以下の CW 複体を $\tilde X_P$ と書き、表示 $P$ の Cayley 複体(Cayley complex)という。$r$ の長さを $k\ge1$ とするとき、$\varphi_{g,r}$ は $S^1$ の $j$ 番目の弧 $\{e^{2\pi it}\mid(j-1)/k\le t\le j/k\}$ を、$g$ から出る $r$ の道の $j$ 番目の辺へパラメータについて 1 次式で写す。$\bar r=1$ なのでこの道は閉じている。$r$ が空の語なら $\varphi_{g,r}$ は $g$ への定値写像とする。$e_{g,r}$ の特性写像を $\Phi_{g,r}$ と書く。

群の作用と射影。 $h\in G$ は、頂点 $g$ を $hg$ に写し、$\chi_{g,s}(t)\mapsto\chi_{hg,s}(t)$、$\Phi_{g,r}(z)\mapsto\Phi_{hg,r}(z)$ と定めることで $\tilde X_P$ の同相写像を定める($g$ から出る $r$ の道を $h$ で写すと $hg$ から出る $r$ の道になるので、接着写像と両立する)。これを $G$ の 左作用 という。また、頂点をすべて $v$ に、$\chi_{g,s}(t)\mapsto\chi_s(t)$、$\Phi_{g,r}(z)\mapsto\Phi_r(z)$ と定めると、連続写像 $p\colon\tilde X_P\to X_P$ が得られる($p\circ\varphi_{g,r}=\varphi_r$ なので矛盾なく定まり、連続性は CW複体 の定理「胞体ごとの判定」の (R2) による)。$p\circ h=p$ である。

表示複体の普遍被覆であること

Cayley 複体は表示複体の普遍被覆

$P=\langle S\mid R\rangle$ を群 $G$ の表示とする。

  1. $p\colon\tilde X_P\to X_P$ は被覆写像であり、$G$ の左作用の各元は $p$ の被覆変換で、$G$ は $p$ の各ファイバーに自由かつ推移的に作用する。
  2. $\tilde X_P$ は単連結である。
    したがって $p$ は $X_P$ の普遍被覆であり、$p$ の被覆変換群は $G$ の左作用と一致し、$p$ は同相写像 $\tilde X_P/G\cong X_P$ を誘導する。

段 1($p$ は被覆写像):$X_P$ の点は、頂点 $v$ の近く、1 胞体 $e_s$ の中ほど、2 胞体 $e_r$ の内部のいずれかにある。それぞれについて開集合 $W_v$、$W_s$、$e_r$ を定め、その逆像が、$G$ の元で添字付けられた互いに交わらない開集合の和で、各成分が $p$ により同相に写ることを確かめる。内部 $e_r$ については、逆像は開集合 $e_{g,r}$($g\in G$)の和で、$\Phi_{g,r}$ と $\Phi_r$ が内部で同相写像なので明らかである。

頂点と 1 胞体の近傍の確かめを開く

長さ $k\ge1$ の $r$ について、$S^1$ の点 $e^{2\pi ij/k}$ を $j$ 番目の角、$j$ 番目の弧の点 $e^{2\pi i(j-1+u)/k}$($0\le u\le1$)の弧上の位置を $u$ とよぶ。$\varphi_{g,r}$ は $j$ 番目の角を頂点 $g\overline{r_{\le j}}$ に写す。$D^2$ の部分集合として、$Q_j$ を「$|z|>2/3$ で、偏角が $j$ 番目の角の偏角から $2\pi/(3k)$ 未満」の点の集合、$M_j$ を「$|z|>2/3$ で、偏角が $j$ 番目の弧の位置 $u\in(1/6,5/6)$ に対応する」点の集合とする。いずれも $D^2$ の開集合である。

$g\in G$ について、$W_g$ を次の和集合とする:頂点 $g$;$\chi_{g,s}([0,1/3))$;$h\bar s=g$ となる $h$ についての $\chi_{h,s}((2/3,1])$;$h\overline{r_{\le j}}=g$ となる $(h,r,j)$ についての $\Phi_{h,r}(Q_j)$;$r$ が空の語のときの $\Phi_{g,r}(\{|z|>2/3\})$。$(g,s)$ について、$W_{g,s}$ を $\chi_{g,s}((1/6,5/6))$ と、$j$ 番目の弧が $e_{g,s}$ に写る $(h,r,j)$ についての $\Phi_{h,r}(M_j)$ の和とする。$X_P$ でも同じ形で($g,h$ を省いて)$W_v$、$W_s$ を定める。

開集合であること:$\varphi_{h,r}$ は弧を辺へ位置について 1 次式で写すので、弧の上の点が辺の端から $1/3$ 未満の位置に写ることは、その点が対応する角から $2\pi/(3k)$ 未満にあることと同値である。よって $\Phi_{h,r}^{-1}(W_g)$ は $h\overline{r_{\le j}}=g$ となる $j$ についての $Q_j$ の和(空の語なら $\{|z|>2/3\}$)、$\chi_{h,s}^{-1}(W_g)$ は $[0,1/3)$ と $(2/3,1]$ のうち該当するものの和で、どれも開集合である。CW複体 の定理「胞体ごとの判定」により $W_g$ は開集合である。$W_{g,s}$、$W_v$、$W_s$ も同様である。

逆像の分解:$p$ は特性写像の中のパラメータを保つので、$p^{-1}(W_v)=\bigcup_gW_g$、$p^{-1}(W_s)=\bigcup_gW_{g,s}$ である。$Q_j$ どうし($j$ が異なる)と $[0,1/3)$、$(2/3,1]$ は交わらないので、これらの和は互いに交わらない。

同相であること:$p|_{W_g}\colon W_g\to W_v$ は全単射である。実際 $W_v$ の各部分 $\chi_s((2/3,1])$、$\Phi_r(Q_j)$ に対し、$h=g\bar s^{-1}$、$h=g\overline{r_{\le j}}^{-1}$ がただ 1 つに決まる。$O\subset W_g$ を開集合とすると、$\Phi_r^{-1}(p(O))=\bigcup_{h\in G}\Phi_{h,r}^{-1}(O)$ が成り立つ。右辺が左辺に含まれるのは $p\circ\Phi_{h,r}=\Phi_r$ による。逆に $\Phi_r(z)=p(o)$($o\in O$)なら $z$ はある $Q_j$ に入り、$h:=g\overline{r_{\le j}}^{-1}$ について $\Phi_{h,r}(z)\in W_g$、$p(\Phi_{h,r}(z))=p(o)$ なので、$p|_{W_g}$ の単射性から $\Phi_{h,r}(z)=o\in O$ である。1 胞体についても同様なので、$p(O)$ は開集合であり、$p|_{W_g}$ は同相写像である。$W_{g,s}\to W_s$ も同様である。


段 2(作用):$p\circ h=p$ なので $G$ の各元は被覆変換である。$p^{-1}(v)=G$(頂点の集合)、$p^{-1}(\chi_s(t))=\{\chi_{g,s}(t)\mid g\in G\}$($0< t< 1$)、$p^{-1}(\Phi_r(z))=\{\Phi_{g,r}(z)\mid g\in G\}$($|z|<1$)であり、$h$ は添字 $g$ を $hg$ に替えるので、各ファイバーに自由かつ推移的に作用する。
段 3(単連結):弧状連結であること:各点は胞体の中を通って頂点へ道で結べ、頂点 $g$ は、$g=\bar w$ となる語 $w$ について単位元 $1$ から出る $w$ の道で $1$ と結べる。
基本群が自明であること:$X_P$ の $v$ を基点とするループ $\varphi_w$ の、頂点 $g$ を始点とする持ち上げは $g$ から出る $w$ の道であり(両者は弧ごとに同じパラメータで $p$ により対応する)、その終点は $g\bar w$ である。群の表示複体 の定理「表示複体の基本群」により、$\pi_1(X_P,v)$ の元はすべてある語 $w$ について $[\varphi_w]$ と書け、$[\varphi_w]$ が単位元であることは $\bar w=1$ と同値である。被覆空間 の定理「基本群との関係」の 1 により、$p_*\pi_1(\tilde X_P,1)$ は $1$ からの持ち上げがループになる $[\varphi_w]$、すなわち $\bar w=1$ となる $[\varphi_w]$ の全体であり、これは自明な部分群である。$p_*$ は単射なので $\pi_1(\tilde X_P,1)$ は自明である。
結論:段 3 から $p$ は普遍被覆である(普遍被覆 の定義「普遍被覆」)。被覆変換 $\sigma$ について $\sigma(1)=g\in G$ とすると、$g^{-1}\circ\sigma$ は $p$ の持ち上げで頂点 $1$ を固定するので、持ち上げの一意性(被覆空間 の定理「持ち上げの一意性」)により恒等写像であり、$\sigma=g$ である。段 2 により $p$ のファイバーは $G$ の軌道なので、$p$ は連続な全単射 $\tilde X_P/G\to X_P$ を誘導し、被覆写像は開写像なので(被覆空間 の命題「被覆写像の基本性質」)これは同相写像である。$\square$

段 3 の議論は、表示複体の基本群が $G$ であることを使って、Cayley 複体の単連結性を導いている。逆に、Cayley 複体が単連結であることを別の方法で示せれば、被覆変換 の系「普遍被覆の被覆変換群」から $\pi_1(X_P)\cong G$ が従う。ケイリーグラフ の記事の定理「正則に作用する群による特徴づけ」は、Cayley グラフを群が頂点に自由かつ推移的に作用するグラフとして特徴づけた。thm-cc-universal は、2 胞体まで含めた Cayley 複体について、その作用が被覆変換群の作用であることを述べている。

例

Cayley 複体の例
  1. 自由群:$\langle S\mid\ \rangle$ では 2 胞体がなく、$\tilde X_P=\Gamma_P$ は単連結なグラフである。$S=\{a\}$ なら頂点 $\mathbb{Z}$ をもつ実数直線、$S=\{a,b\}$ なら各頂点の次数が 4 の木で、8 の字の普遍被覆である(普遍被覆 の例「8 の字の普遍被覆」)。
  2. $\mathbb{Z}^2=\langle a,b\mid aba^{-1}b^{-1}\rangle$:頂点は格子点 $\mathbb{Z}^2$、辺は長さ 1 の水平・垂直な線分で、頂点 $g$ に貼る 2 胞体は、$g$ から $a,b,a^{-1},b^{-1}$ の順にたどる単位正方形である。$\tilde X_P$ は平面 $\mathbb{R}^2$ と同相で、$G$ は平行移動で作用する(この同一視はこの記事では証明しない。Hat02 Example 1.46, p. 77)。$\mathbb{R}^2$ は可縮なので、表示複体 $T^2$ は $K(\mathbb{Z}^2,1)$ である(Eilenberg–MacLane空間)。
  3. $\mathbb{Z}/n=\langle a\mid a^n\rangle$($n\ge2$):$n$ 個の頂点と $n$ 本の辺が 1 つの円周 $C$ をなし、各頂点 $g$ に、$g$ から $C$ を 1 周する円板が 1 枚ずつ貼られる。$\tilde X_P$ は $n$ 枚の円板の縁を $C$ に貼り合わせたもので、$a$ は $C$ を $2\pi/n$ 回転させ円板を巡回的に入れ替える。$n=2$ なら 2 枚の円板からなる球面 $S^2$ で、$\mathbb{RP}^2$ の普遍被覆である。
  4. $\mathbb{Z}/2\ast\mathbb{Z}/2=\langle a,b\mid a^2,b^2\rangle$:頂点 $g$ と $g\bar a$ は 2 本の $a$ の辺 $e_{g,a}$、$e_{g\bar a,a}$ で結ばれて円周をなし、そこに $(g,a^2)$ と $(g\bar a,a^2)$ の 2 枚の円板が貼られて球面になる。$b$ についても同じである。群の元は $a$ と $b$ が交互に並ぶ簡約語なので(自由積 の例「位数2の群どうしの自由積と無限二面体群」)、$\tilde X_P$ は、各頂点で隣と接する球面が両側に無限に並んだ鎖である(Hat02 Example 1.48, p. 78)。
  5. $\mathbb{Z}\ast\mathbb{Z}/2=\langle a,b\mid b^2\rangle$:Cayley グラフ $\Gamma_P$ では、$a$ の辺が各剰余類 $g\langle\bar a\rangle$ ごとに両側に無限に伸びる直線をなし、各頂点 $g$ と $g\bar b$ が 2 本の $b$ の辺で結ばれる。Cayley 複体では、この 2 本の辺がなす円周ごとに 2 枚の円板が貼られて球面になる。

例 3 の $\tilde X_P$ は単連結な有限 CW 複体で、胞体の個数の交代和は $n-n+n=n$ である。胞体ホモロジー の系「胞体の個数から従うこと」の 4 と、$H_0\cong\mathbb{Z}$、$H_1=0$(Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」)から $\operatorname{rank}H_2(\tilde X_P)=n-1\ge1$ であり、$\tilde X_P$ は可縮でない。よって $\langle a\mid a^n\rangle$ の表示複体は $K(\mathbb{Z}/n,1)$ ではない。

円周のブーケの正規被覆

2 胞体を考えない 1 次元の部分では、Cayley グラフは円周のブーケの被覆空間として特徴づけられる。

円周のブーケの正規被覆と Cayley グラフ

$S$ を集合、$B_S$ を円周のブーケとする。

  1. 群 $G$ と、$G$ を生成する元の族 $(g_s)_{s\in S}$ に対し、頂点を $G$、辺を $g$ から $gg_s$ への $e_{g,s}$ とする Cayley グラフ $\Gamma$ と、辺 $e_{g,s}$ を $e_s$ へ写す写像 $p\colon\Gamma\to B_S$ は、弧状連結な正規被覆であり、その被覆変換群は $G$ の左作用である。
  2. 逆に $q\colon E\to B_S$ を $E$ が弧状連結な正規被覆とし、$e_0\in q^{-1}(v)$、$H:=q_*\pi_1(E,e_0)$、$G:=\pi_1(B_S,v)/H$、$g_s:=a_sH$ とおく。このとき $(g_s)$ は $G$ を生成し、被覆の同型 $E\cong\Gamma$($e_0\mapsto1$)が存在する。

1:$s\mapsto g_s$ が定める全射 $F(S)\to G$ の核に属する語全体を $R$ とすると、$P=\langle S\mid R\rangle$ は $G$ の表示で、$\Gamma=\Gamma_P$ は $\tilde X_P$ の 1 骨格、$B_S$ は $X_P$ の 1 骨格であり、$p^{-1}(B_S)=\Gamma_P$ である。被覆写像を部分空間の逆像に制限したものは被覆写像なので、thm-cc-universal により $p$ は被覆写像で、$G$ は被覆変換として各ファイバーに推移的に作用する。$\Gamma$ が弧状連結であることは prf-thm-cc-universal の段 3 と同じである。グラフは局所弧状連結なので、被覆変換 の系「正則被覆の特徴づけ」により $p$ は正規被覆であり、被覆変換群が $G$ であることは prf-thm-cc-universal の結論と同じ議論による。
2:$\theta_S\colon F(S)\to\pi_1(B_S,v)$ を同型(群の表示複体 の補題「円周のブーケの基本群」)とし、$\theta_S(w)\in H$ となる語 $w$ の全体を $R$ とする。$H$ は正規なので $N(R)=R$ で、$P=\langle S\mid R\rangle$ は $s\mapsto g_s$ による $G$ の表示であり、$(g_s)$ は $G$ を生成する。1 により $p\colon\Gamma_P\to B_S$ は弧状連結な被覆である。$[\varphi_w]=\theta_S(w)$ の $1$ からの持ち上げは $1$ から出る $w$ の道で、終点は $\bar w$ なので、ループになるのは $\theta_S(w)\in H$ のときに限る。被覆空間 の定理「基本群との関係」の 1 により $p_*\pi_1(\Gamma_P,1)=H$ である。
$E$ と $\Gamma_P$ は局所弧状連結な $B_S$ の被覆なので局所弧状連結である(局所弧状連結空間 の系「被覆写像と局所弧状連結性」)。持ち上げの判定法(被覆変換 の補題「持ち上げの判定法」)により、$q\circ f=p$、$f(1)=e_0$ となる $f\colon\Gamma_P\to E$ と、$p\circ f'=q$、$f'(e_0)=1$ となる $f'\colon E\to\Gamma_P$ がある。$f'\circ f$ は $p$ の持ち上げで $1$ を固定するので、持ち上げの一意性により恒等写像であり、同様に $f\circ f'=\mathrm{id}$ である。よって $f$ は被覆の同型である。$\square$

2 から、弧状連結な正規被覆 $E$ は自然にグラフの構造(頂点は $q^{-1}(v)$、辺は $e_s$ の持ち上げ)をもち、それが $G$ の Cayley グラフになる。たとえば $B_{\{a,b\}}$ の普遍被覆は自由群 $F_2$ の Cayley グラフ(木)、$\mathbb{Z}^2$ の Cayley グラフである平面の格子は、交換子部分群に対応する被覆である(普遍アーベル被覆)。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
2 胞体を貼る$\langle a,b\mid aba^{-1}b^{-1}\rangle$ の Cayley グラフ(平面の格子)単連結でなく、$T^2$ の普遍被覆にならない
2 胞体をすべての頂点に貼る同じ表示で、単位元の頂点の正方形だけを埋める$X_P$ への射影が被覆写像にならない
被覆空間が弧状連結(thm-cc-rose の 2)2 つの $B_S$ の非交和から $B_S$ への、各成分で恒等な写像被覆変換群は各ファイバーに推移的に作用するが、生成系に関する Cayley グラフと同型でない
族が $G$ を生成する(thm-cc-rose の 1)$G=\mathbb{Z}/2$、$S=\{s\}$、$g_s=0$Cayley グラフは 2 つの円周の非交和で、弧状連結でない
反例の確かめを開く

1 行目:2 胞体のない 1 次元複体では $H_1$ は 1 輪体の群そのものなので、単位正方形の縁は $H_1$ の $0$ でない元であり、Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」により基本群は自明でない。2 行目:$X_P$ の 2 胞体の内部の点の逆像は 1 点だが、$v$ の逆像は $\mathbb{Z}^2$ で、$X_P$ は弧状連結なので、ファイバーの濃度が局所定数であること(被覆空間 の命題「ファイバーの濃度の局所定数性」)に反する。3 行目:成分を入れ替える写像は被覆変換で、2 点からなる各ファイバーの 2 点を入れ替える。生成系に関する Cayley グラフは、頂点 $g$ が $1$ と $g$ を表す語の道で結ばれるので弧状連結である。4 行目の空間は 3 行目の $E$($S=\{s\}$)と同じで、生成しない族に関する Cayley グラフである。

出典

Cayley 複体とその普遍被覆としての性質は Hat02 §1.3 の Cayley Complexes の項(pp. 77–78、Example 1.45–1.48)にある。同書の単連結性の証明は、表示複体の基本群から $G$ への準同型(Proposition 1.39 の証明で定義されるもの)が同型であることによる。$\mathbb{Z}\ast\mathbb{Z}/2$ の Cayley グラフは同節の Exercise 30、thm-cc-rose は Exercise 31(p. 82)の主題である。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.3:Cayley Complexes の項(pp. 77–78、Example 1.45–1.48)、Exercise 30・31(p. 82)

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