正則局所環(regular local ring)とは、Noether 局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ で Krull 次元 $\dim A$ と埋め込み次元 $\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が一致するもの、すなわち極大イデアルが $\dim A$ 個の元で生成されるものである。非特異点の局所環を一般化した概念で、随伴次数環が多項式環になること、剰余体の射影次元が有限であることと同値である。正則局所環は整域・一意分解整域・Cohen–Macaulay・正規で、局所化も正則である。$k[\![x_1,\dots,x_n]\!]$、$\mathbb{Z}_p$、離散付値環が代表例で、尖点 $y^2=x^3$ の原点の局所環は正則でない。各点の局所環が正則なスキームを正則スキームといい、完全体上局所有限型なら滑らかさと同値である。
前提知識: Noether環, 局所環, Krull次元, 埋め込み次元, Nakayamaの補題, 次数付き環
正則局所環は、Noether環である局所環のうち、Krull次元(素イデアルの鎖の長さで測った次元)と埋め込み次元(極大イデアルの最小生成元数、すなわち Zariski 余接空間 $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ の次元)が一致するものである。幾何学的には「特異点をもたない」点の局所環にあたる。以下、環はすべて単位元をもつ可換環とし、局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ と書けば $\mathfrak{m}$ が唯一の極大イデアル、$k=A/\mathfrak{m}$ が剰余体である。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を Noether 局所環とし、$d:=\dim A$ をその Krull 次元とする。$A$ が正則局所環(regular local ring)であるとは、
$$
\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=\dim A
$$
が成り立つことをいう。このとき、$\mathfrak{m}$ を生成する $d$ 個の元の組 $x_1,\dots,x_d$ を $A$ の正則パラメータ系(regular system of parameters)という。$\mathfrak{m}$ の元 $x_1,\dots,x_r$ が正則パラメータ系の一部であるとは、これに元を付け加えて正則パラメータ系にできることをいう。
$\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が $\mathfrak{m}$ の最小生成元数に等しいこと(Nakayamaの補題による。証明は 埋め込み次元 の記事)と、Noether 局所環では常に不等式 $\dim A\le\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が成り立つこと(Krullの標高定理による。AM69 Chapter 11、Mat89 §13)から、正則局所環とは「極大イデアルがちょうど $\dim A$ 個の元で生成される Noether 局所環」、あるいは「Krull 次元と埋め込み次元が一致する Noether 局所環」と言い換えられる。$d=0$ のときは $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=0$、すなわち Nakayama の補題により $\mathfrak{m}=0$ となるので、$0$ 次元の正則局所環とは体のことである。
正則パラメータ系は $\mathfrak{m}$ の生成系であるから $A$ のパラメータ系($\dim A$ 個の元で $\mathfrak{m}$ 準素イデアルを生成するもの)でもある。逆は成り立たない。$k[\![t]\!]$ において $t^2$ は $1$ 個の元からなるパラメータ系だが、$(t^2)\ne(t)$ なので正則パラメータ系ではない。
次の補題は、正則パラメータ系の一部で割った商がまた正則局所環になることを述べる。prop-regular-local-ring-cm の証明で使う。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を $d$ 次元の正則局所環とし、$x_1,\dots,x_r\in\mathfrak{m}$ の $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ における像が $k$ 上一次独立であるとする(これは $x_1,\dots,x_r$ が正則パラメータ系の一部であることと同値である)。このとき $A/(x_1,\dots,x_r)$ は $d-r$ 次元の正則局所環である。
括弧内の同値から確かめる。$x_1,\dots,x_r$ が正則パラメータ系 $x_1,\dots,x_d$ の一部なら、$x_1,\dots,x_d$ の像は $d$ 次元の $k$ ベクトル空間 $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ を張るので基底をなし、とくに $x_1,\dots,x_r$ の像は一次独立である。逆に $x_1,\dots,x_r$ の像が一次独立なら、それを $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ の基底 $\bar{x}_1,\dots,\bar{x}_d$ に延長し、$\bar{x}_{r+1},\dots,\bar{x}_d$ の代表元 $x_{r+1},\dots,x_d\in\mathfrak{m}$ をとると、Nakayama の補題により $x_1,\dots,x_d$ は $\mathfrak{m}$ を生成するので正則パラメータ系である。
主張は $r$ に関する数学的帰納法で示す。$r=0$ のときは示すことがない。$r=1$ の場合を示せば、$A':=A/(x_1)$ は $d-1$ 次元の正則局所環で、$x_2,\dots,x_r$ の像は $\mathfrak{m}'/\mathfrak{m}'^2=\mathfrak{m}/(\mathfrak{m}^2+(x_1))$ において一次独立($\bar{x}_1$ を含む一次独立系の像だから)なので、帰納法の仮定を $A'$ に適用して $A/(x_1,\dots,x_r)=A'/(x_2,\dots,x_r)$ が $d-r$ 次元の正則局所環であることが従う。
そこで $r=1$、$x:=x_1\notin\mathfrak{m}^2$ とし、$B:=A/(x)$、$\mathfrak{n}:=\mathfrak{m}/(x)$ とおく。$B$ は Noether 局所環で、
$$
\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2=\mathfrak{m}/(\mathfrak{m}^2+(x))
$$
である。$x\notin\mathfrak{m}^2$ なので $\bar{x}\ne0$ であり、$(\mathfrak{m}^2+(x))/\mathfrak{m}^2=k\bar{x}$ は $1$ 次元だから $\dim_k\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2=d-1$ である。一方、Krullの単項イデアル定理の帰結として、Noether 局所環 $A$ とその極大イデアルの元 $x$ に対し $\dim A/(x)\ge\dim A-1$ が成り立つ(AM69 Chapter 11、Mat89 Theorem 13.6)。よって $\dim B\ge d-1$ である。他方、常に $\dim B\le\dim_k\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2=d-1$ である。したがって $\dim B=d-1=\dim_k\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2$ であり、$B$ は $d-1$ 次元の正則局所環である。$\square$
正則性は環の性質であるが、スキームの各点の局所環に課すことで幾何学的な非特異性の概念になる。
thm-regular-local-ring-localization(正則局所環の局所化は正則)により、Noether 環 $A$ が正則環であることを確かめるには極大イデアルでの局所化だけを調べれば十分であり、Noether スキームでは閉点での正則性だけを調べれば十分である(Noether スキームでは任意の点の閉包が閉点を含み、$\mathcal{O}_{X,x}$ はその閉点の局所環の局所化だからである)。$X$ が正則でない点、すなわち $\mathcal{O}_{X,x}$ が正則でない点 $x$ を $X$ の特異点という。
$\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ の双対空間 $(\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2)^\vee$ は点 $\mathfrak{m}$ における Zariski 接空間である。代数多様体の点で、接空間の次元がその点の周りの多様体の次元と一致するとき、その点は非特異である。曲線 $y^2=x^3$ の原点では接空間が $2$ 次元になり、曲線の次元 $1$ を超える。正則局所環の定義はこの「接空間の次元 $=$ 次元」を、体上の多様体に限らず任意の Noether 局所環に対して述べたものである。Krull 次元は素イデアルの鎖で、埋め込み次元は極大イデアルの生成元の個数で測るので、両者の一致は「点の周りで、次元と同じ個数の関数 $x_1,\dots,x_d$ が局所座標の役割を果たす」ことを意味する。実際、thm-regular-local-ring-graded は、正則局所環の $\mathfrak{m}$ 進随伴次数環がちょうど $d$ 変数の多項式環になること、すなわち $A$ が「無限小の階数ごとに見れば $d$ 次元アフィン空間の原点の局所環と同じ」であることを述べる。
prop-regular-local-ring-dvr により、$1$ 次元の正則局所環とは離散付値環のことである。したがって
$$
\mathbb{Z}_{(p)}=\left\{\frac{a}{b}\in\mathbb{Q}\ \middle|\ p\nmid b\right\},\qquad \mathbb{Z}_p=\varprojlim_n\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z},\qquad k[t]_{(t)},\qquad k[\![t]\!]
$$
($\mathbb{Z}_p$ は p進整数の環)はいずれも $1$ 次元の正則局所環で、$p$ あるいは $t$ が正則パラメータ系である。より一般に、Dedekind整域の $0$ でない素イデアルでの局所化は離散付値環なので正則局所環であり、Dedekind 整域は $1$ 次元の正則環である。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の代数多様体とする。$X$ の閉点 $P$ が非特異(Jacobi行列の階数による定義)であることと、局所環 $\mathcal{O}_{X,P}$ が正則局所環であることは同値である(Har77 Theorem I.5.1。thm-regular-local-ring-smooth)。したがって非特異多様体、たとえばアフィン空間 $\mathbb{A}^n_k$、射影空間 $\mathbb{P}^n_k$、楕円曲線、$\mathbb{P}^n_k$ の滑らかな超曲面の閉点の局所環はすべて正則局所環である。閉点以外の点についても、thm-regular-local-ring-localization により、非特異多様体のすべての点の局所環は正則であり、非特異多様体は正則スキームである。$X$ の関数体 $k(X)$ は生成点の局所環で、$0$ 次元の正則局所環である。
$k$ を体とし、平面曲線 $y^2=x^3$ の原点における局所環
$$
A:=k[x,y]_{(x,y)}/(y^2-x^3)
$$
を考える。$y^2-x^3$ は $k[x,y]$ の既約元($k[x]$ 上 $y$ についてモニックな $2$ 次式なので、可約なら $x^3$ が $k(x)$ の、したがって $k[x]$ の平方になるが、次数 $3$ が奇数なのでそうではない)なので $A$ は Noether 局所整域であり、$\dim A=1$ である。実際、$A$ の素イデアルの鎖は $k[x,y]$ の素イデアルの鎖 $(y^2-x^3)\subset\cdots\subset(x,y)$ に対応し、$(y^2-x^3)\ne0$ と $\dim k[x,y]_{(x,y)}=2$(ex-regular-local-ring-power-series)から、その長さは $1$ 以下であり、$(y^2-x^3)\ne(x,y)$ から $1$ 以上である。一方、極大イデアル $\mathfrak{m}=(x,y)A$ について、$y^2-x^3\in(x,y)^2$ なので
$$
\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=(x,y)/\bigl((x,y)^2+(y^2-x^3)\bigr)=(x,y)/(x,y)^2
$$
は $x,y$ を基底とする $2$ 次元の $k$ ベクトル空間である。よって $\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=2>1=\dim A$ であり、$A$ は正則局所環でない。$A$ は Noether 局所整域である(満たす性質)が、Krull 次元と埋め込み次元が一致しない(満たさない性質)。$1$ 次元 Noether 局所整域が正則とは限らないこと、すなわち「$1$ 次元 Noether 局所整域ならば離散付値環」という含意が破れることを示す反例でもある。実際 $A$ は整閉整域でない($t:=y/x$ は $t^2=x$ を満たすので $A$ 上整だが、$y\in xA$ なら $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ で $\bar{y}\in k\bar{x}$ となって $\bar{x},\bar{y}$ が基底であることに反するので、$t\notin A$ である)。原点は曲線の尖点(cusp)である。
$A:=k[x,y]_{(x,y)}/(xy)$ を考える。$xy=0$ だが $x\ne0$、$y\ne0$ なので $A$ は整域でなく、prop-regular-local-ring-domain により正則局所環でない。直接確かめることもできる。$A$ の素イデアルは $(x)$、$(y)$、$(x,y)$ の像だけなので $\dim A=1$ であるが、$xy\in(x,y)^2$ から $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ は $2$ 次元である。この例は $2$ 本の直線 $x=0$、$y=0$ が交わる点の局所環で、被約スキームであっても $2$ つの既約成分が交わる点では正則でない(正則局所環は整域だから)ことを示す。同様に、二重数の環 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ は $0$ 次元だが $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=k\varepsilon\ne0$ なので正則でない。$0$ 次元の正則局所環は体に限るからである。
$p$ を素数、$k:=\mathbb{F}_p(t)$($t$ は不定元)とし、
$$
A:=k[x]/(x^p-t)
$$
とおく。$x^p-t$ は $k[x]$ で既約(Eisensteinの既約判定法を $\mathbb{F}_p[t]$ の素元 $t$ について適用する)なので $A$ は体 $k(t^{1/p})$ であり、$0$ 次元の正則局所環である。よって $X:=\operatorname{Spec}A$ は正則スキームである。しかし $X$ は $k$ 上滑らかでない。実際 $A$ の $k$ 上の Kähler微分加群は
$$
\Omega_{A/k}=A\,dx\big/\bigl(\tfrac{d}{dx}(x^p-t)\,dx\bigr)=A\,dx\big/(px^{p-1}\,dx)=A\,dx\ne0
$$
である($p=0$ in $k$)。$X\to\operatorname{Spec}k$ が滑らかなら相対次元は $\dim A=0$ で $\Omega_{A/k}$ は階数 $0$ の局所自由加群、すなわち $0$ でなければならない(滑らかな射)。Jacobi 判定でいえば、$1$ 変数 $1$ 式の表示 $A=k[x]/(f)$ の Jacobi 行列 $(\partial f/\partial x)=(px^{p-1})=(0)$ の階数は $0$ で、要求される $1-0=1$ に達しない。この例は「正則である」という性質を満たし、「基礎体上滑らかである」という性質を満たさず、「正則ならば滑らか」という含意を破る。破れる原因は $k$ が完全体でないことにあり、完全体上では両者は同値である(thm-regular-local-ring-smooth)。
Noether 局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ の $\mathfrak{m}$ 進随伴次数環
$$
\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A:=\bigoplus_{n\ge0}\mathfrak{m}^n/\mathfrak{m}^{n+1}
$$
は次数 $0$ の部分が $k$ である次数付き環で、次数 $1$ の部分 $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ で $k$ 代数として生成される($\mathfrak{m}^n$ は $\mathfrak{m}$ の元 $n$ 個の積で生成されるから)。以下の証明では次元論の基本定理を用いる。Noether 局所環 $A$ に対し、Hilbert–Samuel関数 $n\mapsto\ell_A(A/\mathfrak{m}^{n+1})$($\ell_A$ は $A$ 加群の長さ。長さ(加群))は $n$ が十分大きいとき $n$ の多項式に一致し、その次数は $\dim A$ に等しい(AM69 Theorem 11.14、Mat89 Theorem 13.4)。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を Noether 局所環、$d:=\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ とする。$A$ が正則局所環であることと、次数付き $k$ 代数の同型
$$
\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong k[X_1,\dots,X_d]
$$
(右辺は $d$ 変数多項式環に通常の次数付けを入れたもの)が存在することは同値である。このとき $\dim A=d$ である。
$\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ の基底 $\bar{x}_1,\dots,\bar{x}_d$ の代表元 $x_1,\dots,x_d\in\mathfrak{m}$ をとる。$X_i\mapsto\bar{x}_i$ により次数付き $k$ 代数の準同型 $\varphi\colon k[X_1,\dots,X_d]\to\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ が定まり、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ が次数 $1$ の部分で生成されることから $\varphi$ は全射である。
同型が存在するとき。$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong k[X_1,\dots,X_d]$ なら、$\dim_k\mathfrak{m}^n/\mathfrak{m}^{n+1}$ は $n$ 次斉次多項式の空間の次元 $\binom{n+d-1}{d-1}$ に等しく、
$$
\ell_A(A/\mathfrak{m}^{n+1})=\sum_{i=0}^{n}\dim_k\mathfrak{m}^i/\mathfrak{m}^{i+1}=\binom{n+d}{d}
$$
は $n$ の $d$ 次多項式である。次元論の基本定理により $\dim A=d=\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ であり、$A$ は正則局所環である。
$A$ が正則局所環のとき。$d=\dim A$ であり、$\varphi$ が単射であることを示せばよい。$\varphi$ の核 $I$ は斉次イデアルなので、$I\ne0$ なら $0$ でない斉次多項式 $f\in I$ をもつ。$\deg f=s$ とおく。次数 $0$ の部分で $\varphi$ は $k\to k$ の恒等写像なので $s\ge1$ である。$\varphi$ は $k[X_1,\dots,X_d]/(f)\to\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ を誘導するので、各 $n\ge s$ について
$$
\dim_k\mathfrak{m}^n/\mathfrak{m}^{n+1}\le\dim_k\bigl(k[X_1,\dots,X_d]/(f)\bigr)_n=\binom{n+d-1}{d-1}-\binom{n-s+d-1}{d-1}
$$
である($f$ 倍写像 $k[X]_{n-s}\to k[X]_n$ は単射なので、右辺の $n$ 次部分の次元は差で与えられる)。右辺は $n$ に関して次数 $d-2$ 以下の多項式である($d=1$ のときは $n\ge s$ で $0$)。よって $\ell_A(A/\mathfrak{m}^{n+1})=\sum_{i\le n}\dim_k\mathfrak{m}^i/\mathfrak{m}^{i+1}$ は $n$ が大きいとき次数 $d-1$ 以下の多項式で抑えられ、Hilbert–Samuel 多項式の次数は $d-1$ 以下になる。これは次元論の基本定理 $\deg=\dim A=d$ に矛盾する。ゆえに $I=0$ で、$\varphi$ は同型である。$\square$
$d=1$ の場合に上の議論が述べているのは、$\mathfrak{m}^s=\mathfrak{m}^{s+1}$ となり Nakayama の補題から $\mathfrak{m}^s=0$、すなわち $A$ がArtin環で $\dim A=0$ になってしまう、ということである。
正則局所環は整域である。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を正則局所環とする。thm-regular-local-ring-graded により $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ は体上の多項式環なので整域である。また Krull の交叉定理(Krullの交叉定理。AM69 Chapter 10、Mat89 Theorem 8.10)により、Noether 局所環では $\bigcap_{n\ge0}\mathfrak{m}^n=0$ である。
$a,b\in A$ を $0$ でない元とする。$\bigcap_n\mathfrak{m}^n=0$ なので、$a\in\mathfrak{m}^r\setminus\mathfrak{m}^{r+1}$、$b\in\mathfrak{m}^s\setminus\mathfrak{m}^{s+1}$ となる $r,s\ge0$ が定まる。$a$ の $\mathfrak{m}^r/\mathfrak{m}^{r+1}$ における像 $\bar{a}$ と $b$ の $\mathfrak{m}^s/\mathfrak{m}^{s+1}$ における像 $\bar{b}$ はともに $0$ でなく、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ における積 $\bar{a}\bar{b}$ は $ab$ の $\mathfrak{m}^{r+s}/\mathfrak{m}^{r+s+1}$ における像である。$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ が整域なので $\bar{a}\bar{b}\ne0$、すなわち $ab\notin\mathfrak{m}^{r+s+1}$ であり、とくに $ab\ne0$ である。$\square$
$A$ を $1$ 次元の正則局所環とする。$\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=1$ なので $\mathfrak{m}=(t)$ と書け、$t\ne0$ である。prop-regular-local-ring-domain により $A$ は整域である。$0$ でない $a\in A$ をとる。Krull の交叉定理により $\bigcap_n\mathfrak{m}^n=0$ なので、$a\in\mathfrak{m}^n\setminus\mathfrak{m}^{n+1}$ となる $n\ge0$ がただ $1$ つ定まる。$\mathfrak{m}^n=(t^n)$ なので $a=ut^n$ と書け、$u\notin\mathfrak{m}$(さもなければ $a\in\mathfrak{m}^{n+1}$)、すなわち $u$ は $A$ の単元である。この表示の $n$ を $v(a)$ とおく。$A$ が整域で $t\ne0$ なので、$u t^n=u't^{n'}$($u,u'$ 単元)なら $n=n'$、$u=u'$ であり、表示は一意である。したがって $A$ の $0$ でないイデアル $I$ は、$I$ の元の $v$ の最小値を $n$ とすると $I=(t^n)=\mathfrak{m}^n$ である。ゆえに $A$ は単項イデアル整域で、$0$ でない素イデアルは $\mathfrak{m}$ のみ、$v$ は $A$ の商体 $K$ 上の離散付値 $v(ut^n/u't^{n'})=n-n'$ に延び、$A=\{x\in K\mid v(x)\ge0\}$ となる。すなわち $A$ は離散付値環である。
逆に $A$ を離散付値環とする。$A$ は $\mathfrak{m}=(t)$ を極大イデアルとする Noether 局所整域で、$0$ でない各イデアルが $(t^n)$ の形なので、素イデアルは $0$ と $\mathfrak{m}$ だけであり $\dim A=1$ である。また $t\notin\mathfrak{m}^2=(t^2)$ である($t=t^2c$ なら整域性から $1=tc$ となり $t$ が単元になって $\mathfrak{m}=A$ に反する)。よって $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ は $\bar{t}\ne0$ で生成される $1$ 次元の $k$ ベクトル空間であり、$\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=1=\dim A$ で $A$ は正則局所環である。$\square$
Noether 局所環 $(A,\mathfrak{m})$ の元の列 $x_1,\dots,x_r\in\mathfrak{m}$ が $A$ 正則列であるとは、各 $i$ について $x_i$ が $A/(x_1,\dots,x_{i-1})$ の零因子でないことをいう。$\mathfrak{m}$ に含まれる正則列の長さの最大値を $A$ の深さ $\operatorname{depth}A$ といい、常に $\operatorname{depth}A\le\dim A$ である。等号が成り立つ Noether 局所環を Cohen–Macaulay環という(Mat89 §16–§17、BH98 Chapter 1–2)。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を $d$ 次元の正則局所環、$x_1,\dots,x_d$ をその正則パラメータ系とする。このとき $x_1,\dots,x_d$ は $A$ 正則列である。したがって $\operatorname{depth}A=d=\dim A$ であり、$A$ は Cohen–Macaulay 環である。
各 $i$($1\le i\le d$)について、lem-regular-local-ring-quotient により $A_{i-1}:=A/(x_1,\dots,x_{i-1})$ は $d-i+1$ 次元の正則局所環であり、prop-regular-local-ring-domain によりそれは整域である。$x_i$ の $A_{i-1}$ における像は $0$ でない($\dim A_{i-1}=d-i+1\ge1$ なので $A_{i-1}$ は体でなく、$x_i$ の像は $A_{i-1}$ の極大イデアルの最小生成系の一員だから $0$ ではない)。整域の $0$ でない元は零因子でないので、$x_i$ は $A_{i-1}$ の零因子でない。ゆえに $x_1,\dots,x_d$ は $A$ 正則列で、$\operatorname{depth}A\ge d$ である。一般に $\operatorname{depth}A\le\dim A=d$ なので等号が成り立ち、$A$ は Cohen–Macaulay 環である。$\square$
正則局所環は一意分解整域である。
これは Auslander と Buchsbaum が 1959 年に、Serre のホモロジー的特徴づけ(thm-regular-local-ring-abs)を用いて証明した定理である(AB59)。証明は本記事の範囲を超えるので、Mat89 Theorem 20.3、Eis95 Theorem 19.19、BH98 §2.2 に譲る。証明の要点は、Noether 整域が一意分解整域であることが高さ $1$ の素イデアルがすべて単項であることと同値であること、正則局所環の高さ $1$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ が有限自由分解をもつ(大域次元有限)ことから、その局所化に関する帰納法と $\mathfrak{p}$ の「安定自由性」を経て $\mathfrak{p}$ が単項であることを導く点にある。$1$ 次元の場合は prop-regular-local-ring-dvr そのものであり(離散付値環は単項イデアル整域)、$2$ 次元の場合はホモロジー代数を使わない初等的な証明も知られている。
thm-regular-local-ring-ufd により正則局所環 $A$ は一意分解整域なので、一意分解整域が整閉であることを示せばよい。$K$ を $A$ の商体、$\alpha\in K$ を $A$ 上整な元(整元)とする。$\alpha=a/b$($a,b\in A$、$b\ne0$)と書き、一意分解性を用いて $a$ と $b$ が共通の素元因子をもたないようにとる。整関係
$$
\alpha^n+c_{n-1}\alpha^{n-1}+\cdots+c_0=0\qquad(c_i\in A)
$$
に $b^n$ を掛けると $a^n=-b\,(c_{n-1}a^{n-1}+c_{n-2}a^{n-2}b+\cdots+c_0b^{n-1})$ となり、$b$ は $a^n$ を割る。$b$ が単元でなければ $b$ を割る素元 $\pi$ があり、$\pi\mid a^n$ から素元の性質により $\pi\mid a$ となって、$a$ と $b$ が共通因子をもたないことに反する。よって $b$ は単元で、$\alpha=ab^{-1}\in A$ である。$\square$
正規性は一意分解性を経由せずに示すこともできる。prop-regular-local-ring-cm により正則局所環は Cohen–Macaulay であり、thm-regular-local-ring-localization により高さ $1$ の素イデアルでの局所化は $1$ 次元正則局所環、すなわち離散付値環である。したがって Serreの正規性判定($(R_1)$ と $(S_2)$。Mat89 Theorem 23.8)により正規である。
1 ⇒ 2 は正則パラメータ系 $x_1,\dots,x_d$ に関する Koszul複体が $k$ の長さ $d$ の自由分解を与えること(prop-regular-local-ring-cm により正則パラメータ系は正則列である)から従い、2 ⇔ 3 は Noether 局所環で常に $\operatorname{gl.dim}A=\operatorname{pd}_Ak$ が成り立つこと(Tor関手による標準的な議論。Mat89 §19、Eis95 Chapter 19)による。2 ⇒ 1 が定理の核心で、Serre が 1956 年に証明した(Ser56。Auslander–Buchsbaum も独立に証明したので Auslander–Buchsbaum–Serre の定理と呼ばれる)。証明は Mat89 Theorem 19.2、Eis95 Theorem 19.12、BH98 Theorem 2.2.7 に譲る。この特徴づけの重要性は、「正則」という条件が射影分解の長さという、局所化で保たれる量で言い表される点にある。Tor でいえば、$A$ が正則であることと $\operatorname{Tor}^A_i(k,k)=0$($i>\dim A$)とは同値である。
$A$ を正則局所環、$\mathfrak{p}$ を $A$ の素イデアルとすると、局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ は正則局所環である。したがって正則局所環は正則環であり、Noether 環 $A$ が正則環であることは、すべての極大イデアル $\mathfrak{n}$ について $A_{\mathfrak{n}}$ が正則局所環であることと同値である。
これは thm-regular-local-ring-abs の帰結である。$A$ の大域次元が有限なので $A$ 加群 $A/\mathfrak{p}$ は有限な自由分解をもち、それを $\mathfrak{p}$ で局所化すれば $A_{\mathfrak{p}}$ 加群 $(A/\mathfrak{p})_{\mathfrak{p}}=\kappa(\mathfrak{p})$ の有限自由分解が得られる(局所化は完全関手で自由加群を自由加群に送る)。よって $\operatorname{pd}_{A_{\mathfrak{p}}}\kappa(\mathfrak{p})<\infty$ であり、thm-regular-local-ring-abs を $A_{\mathfrak{p}}$ に適用すればよい(Mat89 Theorem 19.3、Eis95 Corollary 19.14)。定義(Krull 次元と埋め込み次元の一致)だけから直接に示すことは難しく、ホモロジー的特徴づけが発見される以前は未解決であった。
$k$ を体、$X$ を $k$ 上局所有限型のスキームとする。
1 と 2 は Liu02 第 4 章 §4.3、Har77 Theorem I.5.1 と Theorem II.8.15(代数閉体の場合)に譲る。$k$ が代数閉体のとき Jacobi 行列の階数は $\dim_k\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2$ を $n$ から引いたものに等しいので、Jacobi 判定は定義の言い換えである(Har77 Theorem I.5.1)。一般の体の上では、Jacobi 判定が検出するのは滑らかさであり、滑らかならば正則(1)だが、ex-regular-local-ring-inseparable のように正則でも滑らかでないことがある。滑らかさは Kähler微分加群 $\Omega_{X/k}$ が階数 $\dim X$ の局所自由層であること(基礎体 $k$ に相対的な条件)を、正則性は各点の局所環の Krull 次元と埋め込み次元の一致($k$ によらない内在的な条件)を要求する。両者の差は剰余体 $\kappa(x)$ の $k$ 上の分離性(分離拡大)から生じ、完全体上ではすべての剰余体が分離的なので差が消える。$\mathbb{Z}$ 上のスキームなど体上でないスキームでは滑らかさに対応する基礎体がないので、非特異性の概念としては正則性を用いる。
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