大域切断空間のFréchet位相

同義語:切断空間の標準位相Fréchet topology on the space of sectionscanonical topology on the module of sections

概要

大域切断空間のFréchet位相(Fréchet topology on the space of global sections)とは、Stein 多様体 $X$ 上の連接解析層の大域切断の空間に入る、Fréchet 空間の位相のことである。正則凸なコンパクト集合の近くで層を生成する有限個の切断をとり、切断をその一次結合で表したときの係数の最大値の下限を半ノルムとし、正則凸なコンパクト集合の増大列で測って定める。この位相は選び方によらず、$\mathcal{O}^p$ ではコンパクト一様収束の位相であり、層の準同型が誘導する写像は連続になる。有限個の大域切断が生成する部分層の切断は閉部分空間をなし、係数を与える写像は開写像になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 連接解析層, Stein多様体, Fréchet空間, 正則凸包

$\mathbb{C}^n$ の開集合 $U$ 上の正則関数の空間 $\mathcal{O}(U)$ には、コンパクト集合の上の一様収束の位相が入り、Fréchet空間 になる。では、連接解析層 $\mathcal{F}$ の大域切断の空間 $\Gamma(X,\mathcal{F})$ にはどんな位相を入れればよいか。切断は関数ではないので、そのままでは「最大値」を測れない。
Stein多様体 $X$ の上では、$\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合 $K$(正則凸包 の定義「正則凸包」)の近くで、$\mathcal{F}$ は有限個の切断で生成される。そこで切断を生成元の一次結合で表し、その係数の最大値の下限で大きさを測る。こうして得られる可算個の半ノルムで、$\Gamma(X,\mathcal{F})$ は Fréchet 空間になり、その位相は選び方によらない(thm-fts-main)。$\mathcal{F}=\mathcal{O}^p$ ならこれはコンパクト一様収束の位相であり、層の準同型が誘導する写像は連続になる。有限個の大域切断が生成する部分層の切断全体は閉部分空間であり、係数を与える写像は開写像になる(thm-fts-subsheaf)。$\mathcal{F}=\mathcal{O}$ では、$\mathcal{O}(X)$ を Fréchet 代数にする位相はこれしかなく、単位元を保つ $\mathbb{C}$ 代数の準同型は自動的に連続になる(thm-fts-algebra-topology)。この位相は、Cartan の定理 A の証明に使う近似定理(thm-fts-approx)や、層コホモロジーの有限性の議論の土台になる。

設定

$X$ を Stein 多様体とする(Stein多様体 の定義「Stein 多様体」。Hausdorff で第 2 可算公理を満たす)。$\mathcal{O}=\mathcal{O}_X$ 加群の層を 解析層 といい、連接性は 連接解析層 の定義「連接解析層」の意味とする。開集合 $U$ 上の切断の全体を $\Gamma(U,\mathcal{F})$、点 $z$ での切断 $s$ の芽を $s_z\in\mathcal{F}_z$ と書く。$U$ 上の切断 $f_1,\dots,f_q$ が $U$ の上で $\mathcal{F}$ を生成する とは、各 $z\in U$ で芽 $f_{1,z},\dots,f_{q,z}$ が $\mathcal{O}_z$ 加群 $\mathcal{F}_z$ を生成することをいう。
コンパクト集合 $K$ の 近傍の上の切断 とは、$K$ を含むある開集合の上の切断のことで、$K$ を含むより小さな開集合の上で一致するものは同じとみなす。$\mathbb{C}^q$ の値をとる関数 $c=(c_1,\dots,c_q)$ について $|c|:=\bigl(\sum_j|c_j|^2\bigr)^{1/2}$ とおく。
この記事の議論は、Stein 多様体についての次の 2 つの結果を使う。どちらもこの記事では証明しない。

Cartan の有限生成定理(引用)

$X$ を Stein 多様体、$K\subset X$ を $\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合、$\mathcal{F}$ を $K$ の近傍の上の連接解析層とする。

  1. $K$ の近傍の上の切断 $f_1,\dots,f_q$ で、その近傍の上で $\mathcal{F}$ を生成するものがある。
  2. $f_1,\dots,f_q$ が $K$ の近傍の上で $\mathcal{F}$ を生成するなら、$K$ の近傍の上の任意の切断 $f$ は、$K$ のある近傍の上で正則な関数 $c_1,\dots,c_q$ を使って、その近傍の上で $f=\sum_jc_jf_j$ と書ける。
有限生成定理の所在

thm-fts-generation は Hor90 Theorem 7.2.1(pp. 183–187)で、Cartan の帰納法($K$ を実超平面で切った小さな集合に分け、行列の分解で貼り合わせる)による。

加群の閉性(引用)

$z\in X$ のまわりに局所座標をとり、$\mathcal{O}_z$ を収束冪級数環とみる。$M\subset\mathcal{O}_z^q$ を部分加群とし、$a_i\in M$、$a\in\mathcal{O}_z^q$ について、$a_i$ の Taylor 係数がそれぞれ $a$ の対応する係数に収束するとする。このとき $a\in M$ である。

加群の閉性の所在

lem-fts-closed-module は Hor90 Theorem 6.3.5(pp. 162–163)で、Weierstrass の予備定理(Weierstrassの予備定理)を使って変数の個数について帰納法で示される。

半ノルム

正則凸なコンパクト集合の上の半ノルム

$K\subset X$ を $\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合とし、$K$ の近傍の上で $\mathcal{F}$ を生成する切断 $f_1,\dots,f_q$ を 1 組選ぶ。$K$ の近傍の上の切断 $f$ に対し
$$ \|f\|_K:=\inf\Bigl\{\sup_K|c|\Bigm|K\text{ のある近傍 }V\text{ の上で正則な }c_1,\dots,c_q\text{ により、}V\text{ の上で }f=\sum_jc_jf_j\Bigr\} $$
とおく。

thm-fts-generation の 2 により右辺の集合は空でないので、$\|f\|_K< \infty$ である。この定義は Hor90 の (7.2.2) の後(p. 187)による。

半ノルムの基本性質
  1. $\|\cdot\|_K$ は、$K$ の近傍の上の切断のなす空間の上の半ノルムである。
  2. 生成元を別の組 $g_1,\dots,g_r$ に替えた半ノルム $\|\cdot\|'_K$ について、定数 $A,B>0$ があって $A\|f\|_K\le\|f\|'_K\le B\|f\|_K$ となる。
  3. $K\subset K'$ を $\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合とする。定数 $C$ があって、$K'$ の近傍の上の切断 $f$ について $\|f\|_K\le C\|f\|_{K'}$ となる。
  4. $\mathcal{F}=\mathcal{O}^p$ で、生成元を標準基底 $e_1,\dots,e_p$ にとると、$\|f\|_K=\sup_K|f|$ である。
  5. $\alpha\colon\mathcal{F}\to\mathcal{G}$ を連接解析層の準同型とする。定数 $C$ があって、$K$ の近傍の上の切断 $f$ について $\|\alpha(f)\|_K\le C\|f\|_K$ となる(右辺は $\mathcal{F}$ の、左辺は $\mathcal{G}$ の半ノルム)。

要点:生成元どうしは正則な係数の行列で書き直せるので、係数の最大値は行列のノルムの最大値倍しか変わらない。

詳しい証明を開く

1:$f=\sum c_jf_j$、$g=\sum c'_jf_j$ がそれぞれの近傍で成り立てば、共通部分の上で $f+g=\sum(c_j+c'_j)f_j$、$\lambda f=\sum\lambda c_jf_j$ であり、$\sup_K|c+c'|\le\sup_K|c|+\sup_K|c'|$ である。下限をとればよい。

2:thm-fts-generation の 2 により、$K$ のある近傍の上で正則な $a_{jk}$ があって $f_j=\sum_ka_{jk}g_k$ である。$f=\sum_jc_jf_j$ なら $f=\sum_k\bigl(\sum_jc_ja_{jk}\bigr)g_k$ であり、Cauchy–Schwarz の不等式から $\bigl|\bigl(\sum_jc_ja_{jk}\bigr)_k\bigr|\le|c|\bigl(\sum_{j,k}|a_{jk}|^2\bigr)^{1/2}$ となる。$B:=\sup_K\bigl(\sum_{j,k}|a_{jk}|^2\bigr)^{1/2}$ とおけば $\|f\|'_K\le B\|f\|_K$ である。逆向きも同様である。

3:$K'$ の近傍の上で $\mathcal{F}$ を生成する切断は $K$ の近傍の上でも生成する。それを使った $K$ の半ノルムは、$K'$ の近傍での表示がそのまま $K$ の近傍での表示になり $\sup_K\le\sup_{K'}$ なので、$\|f\|_{K'}$ 以下である。2 で $K$ 用の生成元に戻せばよい。

4:$f=\sum_jc_je_j$ なら $c=f$ なので、表示はただ 1 つである。

5:$\mathcal{G}$ の生成元 $g_1,\dots,g_r$ について、thm-fts-generation の 2 により $\alpha(f_j)=\sum_ka_{jk}g_k$ と書ける。$f=\sum_jc_jf_j$ なら $\alpha(f)=\sum_k\bigl(\sum_jc_ja_{jk}\bigr)g_k$ なので、2 と同じ評価になる。

半ノルムが $0$ になる切断と、絶対収束する級数について、次の 2 つの補題が要になる。

半ノルムが 0 の切断

$K$ の近傍の上の切断 $f$ が $\|f\|_K=0$ を満たせば、$K$ の内部のすべての点 $z$ で $f_z=0$ である。

$\varepsilon>0$ ごとに、$K$ のある近傍の上で $f=\sum_jc^\varepsilon_jf_j$、$\sup_K|c^\varepsilon|< \varepsilon$ となる $c^\varepsilon$ をとる。$z\in\operatorname{int}K$ とし、
$$ R:=\Bigl\{a\in\mathcal{O}_z^q\Bigm|\sum_ja_jf_{j,z}=0\Bigr\} $$
とおく。これは $\mathcal{O}_z^q$ の部分加群で、$c^1$ と $c^\varepsilon$ はどちらも $z$ の近くで $f$ を表すから $c^1_z-c^\varepsilon_z\in R$ である。$z$ のまわりの局所座標で、$z$ を中心とする閉多重円板 $\overline{\Delta(z,r)}$ を $K$ の内部にとる。多重円板 の系「Cauchy の評価式と Liouville の定理」により、$c^\varepsilon_j$ の $z$ での各 Taylor 係数は絶対値が $\varepsilon\,r^{-|\alpha|}$ 以下なので、$\varepsilon\to0$ で $0$ に収束する。したがって $c^1_z-c^\varepsilon_z$ の各係数は $c^1_z$ の係数に収束し、lem-fts-closed-module により $c^1_z\in R$ である。すなわち $f_z=\sum_jc^1_{j,z}f_{j,z}=0$ である。$\square$

絶対収束する級数

$K,K'$ を $\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合で、$K$ が $K'$ の内部に含まれるものとする。$K'$ の近傍の上の切断 $g_1,g_2,\dots$ が $\sum_k\|g_k\|_{K'}< \infty$ を満たせば、$K'$ の内部の上の切断 $g$ で、$\nu\to\infty$ のとき $\bigl\|g-\sum_{k\le\nu}g_k\bigr\|_K\to0$ となるものがある。

$K'$ の近傍で $\mathcal{F}$ を生成する $f_1,\dots,f_q$ をとり、prop-fts-seminorm の 2 により両方の半ノルムをこれで測ってよい。各 $k$ について、$K'$ のある近傍の上で $g_k=\sum_jc_{kj}f_j$、$\sup_{K'}|c_k|\le\|g_k\|_{K'}+2^{-k}$ となる $c_k$ をとる。級数 $C_j:=\sum_kc_{kj}$ は $K'$ の上で一様に絶対収束するので、$K'$ の内部で正則である(多変数の正則関数 の定理「局所一様極限」)。$g:=\sum_jC_jf_j$ を $K'$ の内部の上の切断とすると、$K'$ の内部で $g-\sum_{k\le\nu}g_k=\sum_j\bigl(\sum_{k>\nu}c_{kj}\bigr)f_j$ であり、
$$ \Bigl\|g-\sum_{k\le\nu}g_k\Bigr\|_K\le\sup_K\Bigl|\sum_{k>\nu}c_k\Bigr|\le\sum_{k>\nu}\bigl(\|g_k\|_{K'}+2^{-k}\bigr)\to0 $$
となる。$\square$

lem-fts-zero により、この $g$ は $K$ の内部では一意に決まる。2 つの補題は Hor90 Lemma 7.2.3・Lemma 7.2.4(pp. 187–188)である。

主定理

Stein 多様体は正則凸なので、正則凸包 の定理「正則凸性の言い換え」の 2 により、$\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合 $K_1\subset K_2\subset\cdots$ で、$K_m$ が $K_{m+1}$ の内部に含まれ、$\bigcup_mK_m=X$ となるものがある。これを 正則凸な取り尽くし と呼ぶ。各 $K_m$ に生成元を選び、$\Gamma(X,\mathcal{F})$ 上の半ノルムを
$$ p_m(f):=\|f\|_{K_m}\qquad(m=1,2,\dots) $$
で定める。$X$ のコンパクト集合は、増大する開集合 $\operatorname{int}K_m$ で覆われるので、ある $K_m$ に含まれる。

大域切断空間の Fréchet 位相

$X$ を Stein 多様体、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接解析層とする。

  1. $\Gamma(X,\mathcal{F})$ は、半ノルムの列 $p_1,p_2,\dots$ の定める位相で Fréchet 空間である。
  2. この位相は、正則凸な取り尽くしと生成元の選び方によらない。
  3. $\mathcal{F}=\mathcal{O}^p$ なら、この位相は $\mathcal{O}(X)^p$ のコンパクト集合の上の一様収束の位相である。
  4. 連接解析層の準同型 $\alpha\colon\mathcal{F}\to\mathcal{G}$ が誘導する線形写像 $\Gamma(X,\mathcal{F})\to\Gamma(X,\mathcal{G})$ は連続である。

1.半ノルムの列が点を分けること:すべての $m$ で $p_m(f)=0$ なら、lem-fts-zero により $\operatorname{int}K_m$ の各点で $f_z=0$ であり、$\bigcup_m\operatorname{int}K_m=X$ なので $f=0$ である。Fréchet空間 の定理「可算個の半ノルムと距離」により、残りは次を示せばよい:$(g_i)$ が $\Gamma(X,\mathcal{F})$ の列で、すべての $m$ について $p_m(g_i-g_j)\to0$($i,j\to\infty$)なら、$g\in\Gamma(X,\mathcal{F})$ があってすべての $m$ で $p_m(g-g_i)\to0$ となる。
番号 $N_1< N_2< \cdots$ を、$i,j\ge N_\nu$、$\mu\le\nu$ なら $p_\mu(g_i-g_j)<2^{-\nu}$ となるようにとる。$m$ を固定し、$K=K_m$、$K'=K_{m+1}$ として lem-fts-series を級数
$$ g_{N_{m+1}}+\sum_{\nu\ge m+1}\bigl(g_{N_{\nu+1}}-g_{N_\nu}\bigr) $$
に使う(第 2 項以降の $p_{m+1}$ は $2^{-\nu}$ 未満)。部分和は $g_{N_\nu}$ なので、$\operatorname{int}K_{m+1}$ の上の切断 $h^m$ で $\nu\to\infty$ のとき $\|h^m-g_{N_\nu}\|_{K_m}\to0$ となるものを得る。prop-fts-seminorm の 3 の定数を $C$ として
$$ \|h^m-h^{m+1}\|_{K_m}\le\|h^m-g_{N_\nu}\|_{K_m}+C\|g_{N_\nu}-h^{m+1}\|_{K_{m+1}}\to0 $$
なので、lem-fts-zero により $\operatorname{int}K_m$ の上で $h^m=h^{m+1}$ である。よって $\operatorname{int}K_m$ の上で $g=h^m$ となる $g\in\Gamma(X,\mathcal{F})$ が層の貼り合わせで定まる。$g$ は $K_m$ の近傍 $\operatorname{int}K_{m+1}$ の上で $h^{m+1}$ に等しいので、
$$ p_m(g-g_{N_\nu})=\|h^{m+1}-g_{N_\nu}\|_{K_m}\le C\|h^{m+1}-g_{N_\nu}\|_{K_{m+1}}\to0 $$
である。$(g_i)$ の条件と三角不等式から $p_m(g-g_i)\to0$ となる。
2.生成元を替えても prop-fts-seminorm の 2 により半ノルムは同値である。別の正則凸な取り尽くし $(K'_m)$ をとると、$K'_m$ はある $K_{m'}$ に含まれ、prop-fts-seminorm の 3 により $\|f\|_{K'_m}\le C\|f\|_{K_{m'}}$ である。逆向きも同様なので、2 つの半ノルムの列は同じ位相を定める。
3.2 により生成元を標準基底にとってよく、prop-fts-seminorm の 4 により $p_m(f)=\sup_{K_m}|f|$ である。コンパクト集合はある $K_m$ に含まれるので、これはコンパクト一様収束の位相である。
4.prop-fts-seminorm の 5 により、各 $m$ で $p^{\mathcal{G}}_m(\alpha(f))\le Cp^{\mathcal{F}}_m(f)$ である。$\square$

1 は Hor90 Theorem 7.2.5・Corollary 7.2.6(p. 189)である。そこでは生成元の取り替えで半ノルムが同値になることが注意されている(p. 187)。一般の複素空間 $X$ と連接層 $\mathcal{F}$ についても、$\Gamma(X,\mathcal{F})$ には「各点の茎への制限 $\Gamma(X,\mathcal{F})\to\mathcal{F}_x$ がすべて連続になる」Fréchet 位相がただ 1 つあり、標準位相(canonical topology)と呼ばれる(GR79 第 V 章 §6 Theorem 4・Theorem 5、pp. 165–167)。一意性は、2 つの位相の対角集合が閉であることと開写像定理から従う。この記事ではこの一般形は証明しない。

近似定理

切断の近似

$X$ を Stein 多様体、$\mathcal{F}$ を連接解析層、$K$ を $\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合、$f$ を $K$ の近傍の上の切断とする。このとき $f_j\in\Gamma(X,\mathcal{F})$ で $\|f-f_j\|_K\to0$ となるものがある。

要点:$K=K_1$ となる正則凸な取り尽くしをとり、各段で生成元の係数を、岡潔(Kiyoshi Oka)と A. Weil による近似定理で大域正則関数に取り替えて、次の $K_{m+1}$ の近傍の上の切断へ延ばしていく。

詳しい証明を開く

正則凸包 の定理「正則凸性の言い換え」の 1 ⇒ 2 の証明で $L_1$ の代わりに $K$ から始めると、$K_1=K$ となる正則凸な取り尽くしが得られる。$\varepsilon>0$ を固定し、$g_1:=f$ とする。$K_m$ の近傍の上の切断 $g_m$ を決めたら、$K_{m+1}$ の近傍で $\mathcal{F}$ を生成する $h_1,\dots,h_N$ をとる。これは $K_m$ の近傍でも $\mathcal{F}$ を生成するので、それで測った $K_m$ の半ノルムを $\|\cdot\|^h_{K_m}$ とし、prop-fts-seminorm の 2・3 により、$\mu\le m$ と $K_m$ の近傍の上の切断 $s$ について $\|s\|_{K_\mu}\le A_m\|s\|^h_{K_m}$ となる定数 $A_m$ をとる。$K_m$ の近傍の上で $g_m=\sum_jc_jh_j$ と書く(thm-fts-generation の 2)。岡–Weilの近似定理 の定理「Stein 多様体の上の近似定理」(Hor90 Corollary 5.2.9、p. 127)により、$c'_j\in\mathcal{O}(X)$ で $A_m\sup_{K_m}|c'-c|< 2^{-m}\varepsilon$ となるものがとれる。$g_{m+1}:=\sum_jc'_jh_j$ は $K_{m+1}$ の近傍の上の切断で、$\|g_{m+1}-g_m\|^h_{K_m}\le\sup_{K_m}|c'-c|$ だから、$\mu\le m$ なら $\|g_{m+1}-g_m\|_{K_\mu}< 2^{-m}\varepsilon$ である。

各 $\mu$ について $\sum_{m>\mu}\|g_{m+1}-g_m\|_{K_{\mu+1}}< \infty$ なので、lem-fts-series を $K=K_\mu$、$K'=K_{\mu+1}$ と級数 $g_{\mu+1}+\sum_{m>\mu}(g_{m+1}-g_m)$ に使い、thm-fts-main の 1 の証明と同じく貼り合わせると、$g\in\Gamma(X,\mathcal{F})$ で各 $\mu$ について $\|g-g_m\|_{K_\mu}\to0$ となるものが得られる。とくに $\|f-g\|_K\le\lim_\nu\|g-g_\nu\|_{K_1}+\sum_{m\ge1}\|g_{m+1}-g_m\|_{K_1}< \varepsilon$ である。$\varepsilon=1/j$ としたものを $f_j$ とすればよい。

Hor90 Theorem 7.2.7(pp. 189–190)である。この定理を $K$ が 1 点の場合に使い、生成元の芽を大域切断の芽で近似すると、Cartan の定理 A(Cartanの定理A・B の定理「Cartan の定理 A・B」の 1)が得られる(Hor90 Theorem 7.2.8、p. 190)。

有限個の大域切断が生成する部分層

有限生成な部分層の切断

$X$ を Stein 多様体、$f_1,\dots,f_q\in\mathcal{O}(X)^p$ とし、$\mathcal{G}\subset\mathcal{O}^p$ をそれらの芽が生成する部分層とする(岡の連接定理 により連接である)。

  1. $\Gamma(X,\mathcal{G})$ は $\mathcal{O}(X)^p$ の閉部分空間であり、thm-fts-main の位相は $\mathcal{O}(X)^p$ からの相対位相に一致する。
  2. 写像 $\Phi\colon\mathcal{O}(X)^q\to\Gamma(X,\mathcal{G})$、$(h_1,\dots,h_q)\mapsto\sum_jh_jf_j$ は連続な全射で、開写像である。

1.$s_i\in\Gamma(X,\mathcal{G})$ が $s\in\mathcal{O}(X)^p$ にコンパクト一様収束するとする。各点 $z$ のまわりの閉多重円板の上で $s_i-s$ が一様に $0$ に収束するので、Cauchy の評価式(多重円板 の系「Cauchy の評価式と Liouville の定理」)により $s_{i,z}$ の各 Taylor 係数は $s_z$ の係数に収束する。$\mathcal{G}_z$ は $\mathcal{O}_z^p$ の部分加群なので、lem-fts-closed-module により $s_z\in\mathcal{G}_z$ である。よって $s\in\Gamma(X,\mathcal{G})$ であり、$\Gamma(X,\mathcal{G})$ は閉である。閉部分空間なので相対位相で Fréchet 空間になる。
$f_1,\dots,f_q$ を $\mathcal{G}$ の生成元として thm-fts-main の半ノルムを測る。$K$ の近傍で $s=\sum_jc_jf_j$ なら、Cauchy–Schwarz の不等式により $K$ の上で $|s|\le|c|\bigl(\sum_j|f_j|^2\bigr)^{1/2}$ なので、$\sup_K|s|\le M_K\|s\|_K$($M_K:=\sup_K(\sum_j|f_j|^2)^{1/2}$)である。よって thm-fts-main の位相から相対位相への恒等写像は連続である。Fréchet 空間の間の連続な線形全単射は開写像定理により同相写像なので(Fréchet空間 の注意「開写像定理と閉グラフ定理」)、2 つの位相は一致する。
2.$s=\Phi(h)$ は $c=h$ という表示をもつので $\|\Phi(h)\|_K\le\sup_K|h|$ であり、$\Phi$ は連続である。全射であることは Cartanの定理A・B の定理「大域係数による一次結合」(Hor90 Theorem 7.2.9、pp. 190–191)による。開写像であることは開写像定理による。$\square$

Hor90 Theorem 7.2.12(p. 192)である。$p=1$ の場合から次が従う。

有限生成イデアルは閉

$X$ を Stein 多様体、$f_1,\dots,f_q\in\mathcal{O}(X)$ とする。イデアル $\mathcal{O}(X)f_1+\cdots+\mathcal{O}(X)f_q$ は $\mathcal{O}(X)$ のコンパクト一様収束の位相で閉である。

thm-fts-subsheaf の 2 によりこのイデアルは $\Gamma(X,\mathcal{G})$ に等しく、同 1 により閉である。$\square$

GR79 第 V 章 §6.4 Corollary 2(p. 169)は、一般の Stein 空間で同じことを述べている。

環の構造が決める位相

$\mathcal{F}=\mathcal{O}$ のとき、$\mathcal{O}(X)$ は環でもある。コンパクト一様収束の位相では $\sup_K|fg|\le\sup_K|f|\,\sup_K|g|$ なので乗法は連続であり、$\mathcal{O}(X)$ は Fréchet 代数(Fréchet 空間である複素可換代数で、乗法が連続なもの)になる。Stein 多様体では、この位相は $\mathbb{C}$ 代数の構造だけで決まり、単位元を保つ $\mathbb{C}$ 代数の準同型は自動的に連続になる。鍵は、1 点で消える関数のなすイデアルが有限生成であることである。

1 点で消える関数のイデアル

$X$ を Stein 多様体、$p\in X$ とする。

  1. イデアル $\mathfrak{m}_p:=\{f\in\mathcal{O}(X)\mid f(p)=0\}$ は有限個の元で生成される。
  2. 単位元を保つ $\mathbb{C}$ 代数の準同型 $\chi\colon\mathcal{O}(X)\to\mathbb{C}$ は、ある点 $q\in X$ での値をとる写像 $f\mapsto f(q)$ に等しい。

要点:$X$ を $\mathbb{C}^N$ に単射に埋め込む関数 $F_1,\dots,F_N$ をとると、$F_j-F_j(p)$ が $\mathfrak{m}_p$ を生成する。

詳しい証明を開く

$X$ の次元を $n$ とする。Hor90 Theorem 5.3.9(p. 135)により、$F=(F_1,\dots,F_N)\in\mathcal{O}(X)^N$($N=2n+1$)で、$F\colon X\to\mathbb{C}^N$ が単射かつ各点で階数 $n$ のもの(単射なはめ込み)がある。$w\in\mathbb{C}^N$ について $g_j:=F_j-w_j$ とおく。

1:$w=F(p)$ とする。$F$ は単射なので $g_1,\dots,g_N$ の共通零点は $p$ だけであり、$q\ne p$ ではある $g_j$ の芽が単元なので $g_j$ の芽は $\mathcal{O}_q$ を生成する。$p$ では $F$ の階数が $n$ なので、$g_j$ のうち $n$ 個が $p$ のまわりの局所座標になり、$g_j$ の芽は $p$ で消える芽のなす極大イデアルを生成する。$f\in\mathfrak{m}_p$ の芽は各点でこの部分加群に属するから、Cartanの定理A・B の定理「大域係数による一次結合」により $f=\sum_jc_jg_j$($c_j\in\mathcal{O}(X)$)と書ける。よって $\mathfrak{m}_p=(g_1,\dots,g_N)$ である。

2:$w:=(\chi(F_1),\dots,\chi(F_N))$ とおくと $\chi(g_j)=0$ である。$w\notin F(X)$ なら $g_j$ は共通零点をもたず、各点で $g_j$ の芽が $\mathcal{O}_q$ を生成するので、同じ定理により $1=\sum_jc_jg_j$ と書け、$1=\chi(1)=\sum_j\chi(c_j)\chi(g_j)=0$ となって矛盾する。よって $w=F(q)$ となる $q$ があり、1 により $\mathfrak{m}_q=(g_1,\dots,g_N)\subset\ker\chi$ である。$f\in\mathcal{O}(X)$ について $f-f(q)\in\mathfrak{m}_q$ だから $\chi(f)-f(q)=\chi(f-f(q))=0$ である。$\square$

位相の一意性と準同型の連続性

$X$、$Y$ を Stein 多様体とする。

  1. $\mathcal{O}(X)$ を Fréchet 空間にし、各 $g\in\mathcal{O}(X)$ について掛け算 $f\mapsto gf$ を連続にする位相は、コンパクト一様収束の位相ただ 1 つである。とくに $\mathcal{O}(X)$ を Fréchet 代数にする位相はこれだけである。
  2. 単位元を保つ $\mathbb{C}$ 代数の準同型 $\phi\colon\mathcal{O}(Y)\to\mathcal{O}(X)$ は、コンパクト一様収束の位相について連続である。したがって、1 の性質をもつどの位相を両側に入れても連続である。

1.要点:$\mathfrak{m}_p$ の有限生成から、各点での値 $\mathrm{ev}_p(f):=f(p)$ がどの位相でも連続になり、閉グラフ定理で 2 つの位相が比べられる。

詳しい証明を開く

$\tau$ を 1 の性質をもつ位相、$\sigma$ をコンパクト一様収束の位相とする。$\sigma$ が 1 の性質をもつことは上の不等式からわかる。まず $\mathrm{ev}_p$ が $\tau$ について連続であることを示す。lem-fts-point-ideal の 1 により $\mathfrak{m}_p=(g_1,\dots,g_N)$ と書き、$\Lambda\colon(\mathcal{O}(X),\tau)^N\times\mathbb{C}\to(\mathcal{O}(X),\tau)$、$\Lambda(u,c):=\sum_jg_ju_j+c$($c$ は定数関数とみる)とおく。$\Lambda$ は連続な線形写像で、$f=(f-f(p))+f(p)$ と $f-f(p)\in\mathfrak{m}_p$ から全射である。両側は Fréchet 空間なので、開写像定理(Fréchet空間 の注意「開写像定理と閉グラフ定理」)により $\Lambda$ は開写像である。$\mathrm{ev}_p\circ\Lambda(u,c)=c$ は連続なので、$\mathbb{C}$ の開集合 $W$ について $\mathrm{ev}_p^{-1}(W)=\Lambda\bigl((\mathrm{ev}_p\circ\Lambda)^{-1}(W)\bigr)$ は開集合である。

次に、恒等写像 $(\mathcal{O}(X),\tau)\to(\mathcal{O}(X),\sigma)$ のグラフは閉である。実際 $f_k\to f$($\tau$)かつ $f_k\to g$($\sigma$)なら、$\mathrm{ev}_p$ はどちらの位相でも連続なので $f(p)=g(p)$ がすべての $p$ で成り立ち、$f=g$ である。閉グラフ定理によりこの恒等写像は連続で、同じグラフを逆向きに見て逆も連続である。よって $\tau=\sigma$ である。


2.$x\in X$ について $\mathrm{ev}_x\circ\phi$ は $\mathcal{O}(Y)$ から $\mathbb{C}$ への単位元を保つ準同型なので、lem-fts-point-ideal の 2 により、ある $\psi(x)\in Y$ で $\phi(g)(x)=g(\psi(x))$ となる。$g_k\to g$ かつ $\phi(g_k)\to h$ なら、各 $x$ で $h(x)=\lim_k g_k(\psi(x))=g(\psi(x))=\phi(g)(x)$ なので $h=\phi(g)$ であり、閉グラフ定理により $\phi$ は連続である。最後の主張は 1 による。$\square$

1 により、$\mathcal{O}(X)$ の位相は $\mathbb{C}$ 代数としての $\mathcal{O}(X)$ から復元できる。GR79 第 V 章 §7(p. 185)は、Stein 空間の正則関数環について同じ型の主張を述べている。有限次元の被約な Stein 空間での位相の一意性と、有限次元の Stein 空間の関数環から被約な複素空間の関数環への準同型の連続性は、埋め込みの代わりに次元を下げる議論を使って Stein代数 の定理「準同型の連続性と位相の一意性」で示される。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
可算個の $K_m$ すべてで測る$\mathcal{O}(\mathbb{D})$ に、半径 $1/2$ の閉円板の上の最大値だけをノルムとして入れる完備性(thm-fts-main の 1)
$X$ が Stein$X=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$、$f_1=z_1$、$f_2=z_2$$\Phi$ の全射性(thm-fts-subsheaf の 2)
イデアルが有限生成$X=\mathbb{C}$、ある $N$ について $n\ge N$ のすべての整数 $\pm n$ で消える整関数全体 $I$イデアルが閉(cor-fts-ideal)
$K$ が $\mathcal{O}(X)$ 凸$X=\mathbb{C}$、$\mathcal{F}=\mathcal{O}$、$K$ は単位円周、$f=1/z$大域切断による近似(thm-fts-approx)
反例の確かめ

1 行目:$\mathbb{D}$ は単位開円板である。一致の定理によりこれはノルムである。$\frac{1}{z-3/4}$ の $0$ での Taylor 多項式の列は半径 $1/2$ の閉円板の上で一様に収束するので、このノルムで Cauchy 列である。$\mathcal{O}(\mathbb{D})$ の $f$ に収束すれば、その円板の上で $f=\frac{1}{z-3/4}$ となり、一致の定理により $\mathbb{D}\setminus\{3/4\}$ の上でも等しいが、右辺は $3/4$ の近くで有界でないので矛盾する。
2 行目:$X$ の各点で $z_1$ か $z_2$ の一方は $0$ でないので、$\mathcal{G}=\mathcal{O}$、$\Gamma(X,\mathcal{G})=\mathcal{O}(X)$ である。$1=h_1z_1+h_2z_2$($h_j\in\mathcal{O}(X)$)とすると、Hartogsの拡張定理 により $h_j$ は $\mathbb{C}^2$ 上の正則関数に延び、等式は連続性により原点でも成り立って $1=0$ となる。よって $1\notin\Phi(\mathcal{O}(X)^2)$ である。
3 行目:$I$ はイデアルで、$1\notin I$ である。$g_N(z):=\prod_{n\ge N}(1-z^2/n^2)$ とおく。$|z|\le R$、$n\ge N\ge2R$ では $|z^2/n^2|\le\frac14$ で、$|w|\le\frac12$ について $|\log(1-w)|\le2|w|$(主値)だから、$\bigl|\sum_{n\ge N}\log(1-z^2/n^2)\bigr|\le2R^2\sum_{n\ge N}n^{-2}\le\frac{2R^2}{N-1}$ である。よって積は整関数を定め(有限個の因子を除いて対数の和が一様に収束する)、$\pm n$($n\ge N$)で消えるので $g_N\in I$ であり、$N\to\infty$ で $|z|\le R$ の上一様に $1$ に収束する。したがって $1$ は $I$ の閉包に属し、$I$ は閉でない。$I$ は単調増加するイデアル $I_N$ の和であり、有限生成でない(有限生成なら生成元がある $I_N$ に入り $I=I_N$ となるが、$g_{N+1}\notin I_N$)。
4 行目:$K$ の $\mathbb{C}$ での正則凸包は閉単位円板なので、$K$ は $\mathcal{O}(\mathbb{C})$ 凸でない(正則凸包 の定理「1 変数の正則凸包」)。$\mathcal{F}=\mathcal{O}$ では $\|\cdot\|_K=\sup_K|\cdot|$ である。整関数は $K$ の上で Taylor 多項式の一様極限なので、$K$ の上で $1/z$ との差が $1$ 未満の整関数があれば同じ性質の多項式があるが、Rungeの定理 の例「単位円周と $1/z$」によりそのような多項式はない。

関連項目

参考文献

[1]
Lars Hörmander, An Introduction to Complex Analysis in Several Variables, North-Holland, 1990, Theorem 6.3.5(pp. 162–163);Corollary 5.2.9(p. 127);Theorem 5.3.9(p. 135);Theorem 7.2.1(pp. 183–187)、(7.2.2) と半ノルムの定義・Lemma 7.2.3(p. 187)、Lemma 7.2.4(p. 188)、Theorem 7.2.5・Corollary 7.2.6(p. 189)、Theorem 7.2.7(pp. 189–190)、Theorem 7.2.8・Theorem 7.2.9(pp. 190–191)、Theorem 7.2.12(p. 192)
[2]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Theory of Stein Spaces, Springer, 1979, 第 V 章 §6.2 Theorem 4(p. 165)、§6.3 Theorem 5(pp. 166–167)と標準位相(p. 168)、§6.4 Closedness Theorem・Corollary 2(p. 169)、第 V 章 §7(p. 185)

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