基点付き空間

同義語:pointed space点付き空間based space

概要

基点付き空間(pointed space)とは、位相空間 $X$ とその一点 $x_0$ の組 $(X,x_0)$ のことであり、基点を保つ連続写像と基点を止めたホモトピーで扱うことで、基本群やホモトピー群、ウェッジ和、スマッシュ積、被約懸垂などが定まる。基点付き空間の圏では一点空間が零対象で、直積が積、ウェッジ和が余積であり、孤立した基点を付け加える操作は基点を忘れる関手の左随伴になる。弧状連結な空間では、円周からの写像のフリーホモトピー類が基本群の共役類と一対一に対応し、基点を止めた類と止めない類の差は基本群の作用で測られる。ホモトピー論の多くの構成と計算が行われる舞台である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, 連続写像, ホモトピー, 基本群

基点付き空間(点付き空間)は、位相空間 $X$ と、その一点 $x_0$ の組 $(X,x_0)$ である。基本群 $\pi_1(X,x_0)$ やホモトピー群 $\pi_n(X,x_0)$ は基点を決めて初めて定義でき、基点を保つ写像と基点を止めたホモトピーで扱うと、群の構造やウェッジ和・スマッシュ積・被約懸垂といった構成が素直に定まる。ホモトピー論の多くの対象は、基点付き空間の圏の中で考えられている。
一方で、基点を止めずに写像を動かす(フリーホモトピー)と、得られる類は一般に別物になる。弧状連結な空間では、円周からの写像の自由ホモトピー類が、基本群の元の共役類とちょうど対応する(thm-ps-conjugacy)。基点を止めた類と止めない類の差は、基本群の作用で測られる。

定義

基点付き空間と基点付き写像

位相空間 $X$ と点 $x_0\in X$ の組 $(X,x_0)$ を基点付き空間(pointed space)といい、$x_0$ をその基点という。基点付き空間 $(X,x_0)$ から $(Y,y_0)$ への基点付き写像とは、連続写像 $f\colon X\to Y$ で $f(x_0)=y_0$ を満たすもののことであり、$f\colon(X,x_0)\to(Y,y_0)$ と書く。

基点付き写像の合成は基点付き写像であり、恒等写像は基点付き写像である。したがって基点付き空間と基点付き写像は圏をなす。これを $\mathbf{Top}_*$ と書き、位相空間と連続写像の圏を $\mathbf{Top}$ と書く。基点を忘れる対応 $(X,x_0)\mapsto X$ は忘却関手 $U\colon\mathbf{Top}_*\to\mathbf{Top}$ である。

基点付きホモトピー

基点付き写像 $f,g\colon(X,x_0)\to(Y,y_0)$ について、ホモトピー $H\colon X\times I\to Y$($I=[0,1]$)で $H(\cdot,0)=f$、$H(\cdot,1)=g$、すべての $t\in I$ について $H(x_0,t)=y_0$ となるものを、$f$ から $g$ への基点付きホモトピーという。基点付きホモトピックであることは同値関係であり、その類の集合を $[X,Y]_*$ と書く。

これはホモトピーの記事の定義「部分集合を固定したホモトピー」の $A=\{x_0\}$ の場合であり、同値関係であることも同記事による。区別するとき、基点を止めない通常のホモトピーをフリーホモトピー、その類の集合を $[X,Y]$ と書く。$[X,Y]_*$ は、定値写像 $c_{y_0}$ の類を基点とする基点付き集合である。
$n\ge1$ と $n$ 次元球面 $S^n$ の一点 $s_0$ について、
$$ \pi_n(X,x_0)=[S^n,X]_*\qquad(\text{基点は }s_0\text{ と }x_0) $$
が $n$ 次ホモトピー群であり、$n=1$ のときこれは基本群と一致する(ホモトピー群の記事の命題「$\pi_1$は基本群と一致する」)。$n=0$ では $S^0=\{\pm1\}$、$s_0=1$ として、$[S^0,X]_*$ は $x_0$ の属する弧状連結成分を基点とする弧状連結成分の集合 $\pi_0(X)$ と一致する。基点付き写像 $S^0\to X$ は $-1$ の行き先 $x\in X$ で決まり、基点付きホモトピーは $-1$ の行き先が動く道だからである。

非退化な基点

基点付き空間 $(X,x_0)$ の基点が非退化である($X$ が well-pointed である)とは、包含 $\{x_0\}\hookrightarrow X$ がホモトピー拡張性質をもつこと、すなわち任意の連続写像 $g\colon X\to Y$ と道 $h\colon I\to Y$($h(0)=g(x_0)$)に対し、ホモトピー $G\colon X\times I\to Y$ で $G(\cdot,0)=g$、$G(x_0,t)=h(t)$ となるものが存在することをいう。

CW複体とその $0$ 胞体は、CW 対のホモトピー拡張性質(Hat02 Chapter 0, Proposition 0.16, p. 15)により非退化な基点である。非退化な基点では、写像の基点の行き先を道に沿って動かし、そのあと基点付きで扱う、という操作ができる。基点を止めた類と止めない類を比べる一般的な主張(rem-ps-higher)はこの性質を使う。

直感

基点は、写像やホモトピーを比べるときの「つまみ」である。ループを基点で止めておけば、二つのループを基点でつなぐ積が定まり、基本群の群構造が得られる。基点を止めずにループを動かすと、ループの「つまみ」が空間の中を一周して戻ってくることができ、そのとき出発点のループは、一周した道で共役をとったループに変わる。そのため、基点を忘れると共役な元の区別がつかなくなる。
基点付き空間の圏では、一点空間が始対象であり終対象でもある。この「零対象」があるおかげで、基点付き写像の集合には定値写像という特別な元があり、核や完全列に似た議論(ファイバー列やコファイバー列)ができる。

基点付き空間の圏

一点空間 $*=\{*\}$ を、その点を基点とする基点付き空間とみる。

基点付き空間の圏の構成
  1. $*$ は $\mathbf{Top}_*$ の零対象である。すなわち任意の $(X,x_0)$ について、基点付き写像 $*\to X$ と $X\to*$ はそれぞれただ一つである。$X\to*\to Y$ の合成は定値写像 $c_{y_0}$ である。
  2. 直積空間 $X\times Y$ に基点 $(x_0,y_0)$ を与えたものは、射影とともに $\mathbf{Top}_*$ における $(X,x_0)$ と $(Y,y_0)$ の積(積(圏論))である。
  3. 位相空間 $X$ に、孤立した一点 $+$ を非交和で付け加えて基点としたものを $X_+:=X\sqcup\{+\}$ とおく。基点付き空間 $(Y,y_0)$ について、包含 $X\hookrightarrow X_+$ との合成
    $$ \mathbf{Top}_*(X_+,Y)\to\mathbf{Top}(X,Y),\qquad f\mapsto f|_X $$
    は全単射であり、$X$ と $Y$ について自然である。すなわち $X\mapsto X_+$ は忘却関手 $U$ の左随伴関手である。さらにこの対応はホモトピー類の全単射 $[X_+,Y]_*\to[X,Y]$ を誘導する。

1:基点付き写像 $*\to X$ は $*$ を $x_0$ に写すものしかない。写像 $X\to*$ は定値写像しかなく、それは連続で基点を保つ。合成 $X\to*\to Y$ はすべての点を $y_0$ に写す。
2:射影 $p\colon X\times Y\to X$、$q\colon X\times Y\to Y$ は基点付き写像である。基点付き写像 $f\colon(Z,z_0)\to(X,x_0)$、$g\colon(Z,z_0)\to(Y,y_0)$ が与えられたとき、$p\circ h=f$、$q\circ h=g$ を満たす写像 $h\colon Z\to X\times Y$ は $h(z)=(f(z),g(z))$ に限り、これは直積位相の性質により連続で、$h(z_0)=(x_0,y_0)$ を満たす。
3:$X$ と $\{+\}$ はどちらも $X_+$ の開かつ閉な部分集合である。写像 $f\colon X_+\to Y$ が基点付き写像なら $f(+)=y_0$ と決まっているので、$f$ は $f|_X$ で決まり、対応は単射である。逆に連続写像 $g\colon X\to Y$ が与えられたとき、$X$ の上で $g$、$+$ で $y_0$ をとる写像 $\tilde g\colon X_+\to Y$ は、二つの開集合の上で連続なので貼り合わせの補題により連続であり、基点付き写像で $\tilde g|_X=g$ である。よって対応は全単射である。自然性は、基点付き写像 $k\colon Y\to Y'$ と連続写像 $l\colon X'\to X$ について $(k\circ f\circ(l\sqcup\operatorname{id}_{\{+\}}))|_{X'}=k\circ(f|_X)\circ l$ となることによる。
ホモトピー類について:$X_+\times I$ は開かつ閉な二つの部分集合 $X\times I$ と $\{+\}\times I$ の和である。基点付きホモトピー $H\colon X_+\times I\to Y$ は $\{+\}\times I$ の上で $y_0$ をとり、$X\times I$ への制限はフリーホモトピーである。逆に、フリーホモトピー $K\colon X\times I\to Y$ は、$\{+\}\times I$ の上で $y_0$ をとる写像と貼り合わせて(貼り合わせの補題、開被覆の場合)、基点付きホモトピーに延びる。よって $f\simeq f'$(基点付き)と $f|_X\simeq f'|_X$(フリー)は同値であり、$[X_+,Y]_*\to[X,Y]$ は矛盾なく定義された全単射である。$\square$

ウェッジ和 $X\vee Y$ は $\mathbf{Top}_*$ における余積である(ウェッジ和の記事の定理「点付き空間の圏の余積」)。$\mathbf{Top}$ の余積である非交和 $X\sqcup Y$ では二つの基点が別の点として残り、それらを一点に同一視したものがウェッジ和である。3 から、$\mathbf{Top}$ の情報は $\mathbf{Top}_*$ の中に $X\mapsto X_+$ で埋め込める。たとえば $(\text{一点})_+$ は $S^0$ であり、$[S^0,Y]_*=\pi_0(Y)$ は $[\text{一点},Y]$($Y$ の弧状連結成分の集合)と同じものである。

基点を止めた類と止めない類

円周からの写像とループ

$\omega\colon I\to S^1$ を $\omega(s):=(\cos2\pi s,\sin2\pi s)$ とし、$S^1$ の基点を $s_0:=(1,0)=\omega(0)$ とする。

円周からの写像とループ

$X$ を位相空間とする。

  1. 連続写像 $g\colon S^1\to X$ に $\gamma:=g\circ\omega$ を対応させると、$S^1\to X$ の連続写像全体と、$\gamma(0)=\gamma(1)$ を満たす道 $\gamma\colon I\to X$ 全体の間の全単射が得られる。
  2. 連続写像 $g,g'\colon S^1\to X$ がフリーホモトピックであることと、対応する道 $\gamma,\gamma'$ について連続写像 $K\colon I\times I\to X$ で $K(\cdot,0)=\gamma$、$K(\cdot,1)=\gamma'$、すべての $t$ で $K(0,t)=K(1,t)$ となるものがあることは同値である。

$\omega\times\operatorname{id}_I\colon I\times I\to S^1\times I$ は連続な全射で、コンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので閉写像であり、商写像である。この写像が同一視するのは、各 $t$ について $(0,t)$ と $(1,t)$ の二点だけである。よって連続写像 $K\colon I\times I\to X$ が $G\circ(\omega\times\operatorname{id}_I)$ の形に書けることと $K(0,t)=K(1,t)$($t\in I$)は同値で、そのとき $G\colon S^1\times I\to X$ はただ一つに決まり、商写像の性質により連続である。これが 2 である。1 は、同じ議論を $0$ と $1$ だけを同一視する商写像 $\omega$ に使えば得られる。$\square$

この対応で、基点付き写像 $(S^1,s_0)\to(X,x_0)$ は $x_0$ を基点とするループに、基点付きホモトピーは端点を止めた道のホモトピーに対応し、$[S^1,X]_*=\pi_1(X,x_0)$ となる(ホモトピー群の記事の命題「$\pi_1$は基本群と一致する」)。以下、道の積 $\alpha\cdot\beta$ は $\alpha$ のあとに $\beta$ をたどる道、$\bar\alpha$ は逆の道とする(基本群の記事の定義「道の積と逆の道」)。

道で基点を動かしたループ

$X$ を位相空間、$C$ を点 $x$ から点 $y$ への道、$\gamma$ を $y$ を基点とするループとする。このとき $x$ を基点とするループ $(C\cdot\gamma)\cdot\bar C$ と $\gamma$ は、円周からの写像としてフリーホモトピックである。

$u\in I$ について、$C(u)$ から $y$ への道 $D_u(t):=C\bigl(u+(1-u)t\bigr)$ をとり、$K\colon I\times I\to X$ を
$$ K(s,u):=\begin{cases}D_u(4s) & (0\le s\le\tfrac14),\\ \gamma(4s-1) & (\tfrac14\le s\le\tfrac12),\\ D_u(2-2s) & (\tfrac12\le s\le1)\end{cases} $$
で定める。各式は $(s,u)$ について連続であり、$s=\tfrac14$ では $D_u(1)=y=\gamma(0)$、$s=\tfrac12$ では $\gamma(1)=y=D_u(1)$ と値が一致するので、$K$ は三つの閉集合 $[0,\tfrac14]\times I$、$[\tfrac14,\tfrac12]\times I$、$[\tfrac12,1]\times I$ の上の連続写像の貼り合わせとして連続である(貼り合わせの補題)。$K(0,u)=K(1,u)=D_u(0)=C(u)$ なので、lem-ps-loops の 2 により、$K(\cdot,0)$ と $K(\cdot,1)$ はフリーホモトピックである。
$D_0=C$ なので $K(\cdot,0)=(C\cdot\gamma)\cdot\bar C$ である。$D_1$ は $y$ にとどまる定値の道 $c_y$ なので $K(\cdot,1)=(c_y\cdot\gamma)\cdot c_y$ であり、これは $\gamma$ と端点を止めてホモトピックである(基本群の記事の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」)。端点を止めたホモトピーは $K(0,t)=K(1,t)=y$ を満たすので、これもフリーホモトピーを与える。フリーホモトピックは同値関係なので、$(C\cdot\gamma)\cdot\bar C$ と $\gamma$ はフリーホモトピックである。$\square$

共役類との対応

$X$ を位相空間、$x_0\in X$ とし、基点を忘れる写像
$$ \Theta\colon\pi_1(X,x_0)=[S^1,X]_*\to[S^1,X],\qquad[\gamma]\mapsto(\gamma\text{ のフリーホモトピー類}) $$
を考える。端点を止めた道のホモトピーはフリーホモトピーでもあるので、$\Theta$ は矛盾なく定まる。

自由ループのホモトピー類と共役類

$X$ を弧状連結な空間、$x_0\in X$ とする。

  1. $\Theta$ は全射である。
  2. $\alpha,\beta\in\pi_1(X,x_0)$ について、$\Theta(\alpha)=\Theta(\beta)$ であることと、$\alpha$ と $\beta$ が $\pi_1(X,x_0)$ で共役であることは同値である。
    したがって $\Theta$ は、$\pi_1(X,x_0)$ の共役類の集合から $[S^1,X]$ への全単射を誘導する。

1:連続写像 $g\colon S^1\to X$ をとり、$y:=g(s_0)$、$\gamma:=g\circ\omega$($y$ を基点とするループ)とおく。$X$ は弧状連結なので、$x_0$ から $y$ への道 $C$ がある。lem-ps-conj-free により $x_0$ のループ $(C\cdot\gamma)\cdot\bar C$ は $\gamma$、すなわち $g$ とフリーホモトピックなので、$\Theta[(C\cdot\gamma)\cdot\bar C]$ は $g$ の類である。
2(共役なら同じ類):$\alpha=[\gamma]$、$\beta=[\delta]^{-1}\alpha[\delta]$($\delta$ は $x_0$ のループ)とする。$\beta=[(\bar\delta\cdot\gamma)\cdot\delta]$ であり、$\bar\delta$ は $x_0$ から $x_0$ への道で $\bar{\bar\delta}=\delta$ なので、lem-ps-conj-free を $C=\bar\delta$ に使うと $(\bar\delta\cdot\gamma)\cdot\delta$ は $\gamma$ とフリーホモトピックである。よって $\Theta(\beta)=\Theta(\alpha)$ である。
2(同じ類なら共役):$\alpha=[\gamma]$、$\beta=[\gamma']$ とし、$\gamma,\gamma'$ に対応する基点付き写像を $f,f'\colon(S^1,s_0)\to(X,x_0)$ とする。$\Theta(\alpha)=\Theta(\beta)$ なので、フリーホモトピー $F\colon S^1\times I\to X$ で $F(\cdot,0)=f$、$F(\cdot,1)=f'$ となるものがある。基点の軌跡 $C(t):=F(s_0,t)$ は $x_0$ を基点とするループである。基本群の記事の命題「ホモトピー不変性」の 1 を、空間 $S^1$、基点 $s_0$、ホモトピー $F$ に使うと、誘導準同型について
$$ f'_*[\eta]=[\bar C\cdot(f\circ\eta)\cdot C]\qquad([\eta]\in\pi_1(S^1,s_0)) $$
が成り立つ。$\eta=\omega$($s_0$ を基点として $S^1$ を一周するループ)とすると $f\circ\omega=\gamma$、$f'\circ\omega=\gamma'$ なので、$\beta=[C]^{-1}\alpha[C]$ となり、$\alpha$ と $\beta$ は共役である。
最後の主張:2 により、$\Theta$ の値は共役類だけで決まり、異なる共役類は異なる値をとる。1 と合わせて、共役類の集合から $[S^1,X]$ への全単射が得られる。$\square$

これは Hat02 §1.1 Exercise 6(p. 38)の主張である。ホモトピーの記事の注意「反例:フリーホモトピックだが基点付きホモトピックでない写像」は、この定理の 2 の具体例にあたる。

可換な基本群と単連結性

$X$ を弧状連結な空間とする。

  1. $\pi_1(X,x_0)$ が可換群ならば、$\Theta$ は全単射である。すなわち、$x_0$ を通るループどうしがフリーホモトピックであることと、基点付きホモトピックであることは同値である。
  2. $X$ が単連結空間であることと、すべての連続写像 $S^1\to X$ が定値写像とフリーホモトピックであることは同値である。

1:可換群では各元の共役類はその元一つだけなので、thm-ps-conjugacy により $\Theta$ は単射であり、全射でもある。
2:$X$ は弧状連結なので、単連結であることは $\pi_1(X,x_0)$ が自明であることと同値である。thm-ps-conjugacy により $[S^1,X]$ は共役類の集合と一対一に対応するので、$\pi_1(X,x_0)$ が自明であることと $[S^1,X]$ が一点(定値写像の類)であることは同値である。$\square$

2 は Hat02 §1.1 Exercise 5(p. 38)の一部である。

一般の空間からの写像

thm-ps-conjugacy は次のように一般化される。$Z$ を CW 複体、$z_0$ をその $0$ 胞体、$X$ を弧状連結な空間とすると、$\pi_1(X,x_0)$ は $[Z,X]_*$ に作用し、基点を忘れる写像 $[Z,X]_*\to[Z,X]$ はこの作用の軌道の集合から $[Z,X]$ への全単射を誘導する(Hat02 §4.A Proposition 4A.1・4A.2, p. 422)。$Z=S^n$ のときの作用は、ホモトピー群の記事の命題「被覆空間と$n$-単純性」の作用である。とくに $X$ が単連結なら $[Z,X]_*=[Z,X]$ である。この記事ではこの一般化を証明しない。証明は、基点の非退化性(def-ps-well-pointed)を使って写像の基点の行き先を道に沿って動かすものである。

例

円周への写像

$\pi_1(S^1,s_0)\cong\mathbb{Z}$ は可換群なので(基本群の記事の定理「円周の基本群」)、cor-ps-abelian の 1 により $[S^1,S^1]_*\to[S^1,S^1]$ は全単射であり、どちらも $\mathbb{Z}$ と一対一に対応する。写像 $S^1\to S^1$ のフリーホモトピー類は写像度(回転数)で決まる。

8 の字への写像

$Y=S^1\vee S^1$(8 の字)とし、基点 $y_0$ を貼り合わせ点とすると、$\pi_1(Y,y_0)$ は $a,b$ を生成元とする自由群 $F_2$ である(Van Kampenの定理の記事の例「円周のウェッジ和」)。thm-ps-conjugacy により、$[S^1,Y]$ は $F_2$ の共役類の集合と一対一に対応する。たとえば $ab$ と $ba=a^{-1}(ab)a$ は共役なので、二つのループ $ab$、$ba$ はフリーホモトピックであるが、$F_2$ で $ab\ne ba$ なので基点付きホモトピックではない。

基点の選び方でウェッジ和が変わる

基点付き空間の構成は、基点の選び方に依存しうる。$X:=S^1\sqcup\{p\}$(円周と孤立点の非交和)、$Y:=S^1$(基点 $s_0$)とする。$X$ の基点を円周上の点 $x$ にとると $(X,x)\vee(Y,s_0)$ は 8 の字と一点 $p$ の非交和であり、基点を $p$ にとると $(X,p)\vee(Y,s_0)$ は二つの円周の非交和である。前者には基本群が可換でない弧状連結成分(8 の字)があり、後者の弧状連結成分の基本群はどれも $\mathbb{Z}$ なので、両者はホモトピー同値でない(ホモトピー同値は弧状連結成分の対応と基本群の同型を誘導する)。

条件を外した反例

cor-ps-abelian の 1(弧状連結で基本群が可換なら $\Theta$ は全単射)の仮定を一つずつ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
弧状連結であること$X=S^1\sqcup\{p\}$、$x_0\in S^1$$\Theta$ の全射性
基本群が可換であること$X=S^1\vee S^1$、$x_0$ は貼り合わせ点$\Theta$ の単射性
反例の確かめ

1 行目:$\pi_1(X,x_0)\cong\mathbb{Z}$ は可換である。$\Theta$ の像に入るのは、$x_0$ を基点とするループ、すなわち像が $S^1$ に含まれる写像のフリーホモトピー類だけである。定値写像 $c_p\colon S^1\to X$ はこのどれともフリーホモトピックでない。フリーホモトピー $F\colon S^1\times I\to X$ があれば、$S^1\times I$ は弧状連結なので像は $X$ の一つの弧状連結成分に入り、$c_p$ と像が $S^1$ に含まれる写像は結べないからである。よって $\Theta$ は全射でない。
2 行目:$X$ は弧状連結で、ex-ps-figure-eight のとおり $ab$ と $ba$ は $\Theta$ で同じ値をとるが、$\pi_1(X,x_0)=F_2$ の異なる元である。よって $\Theta$ は単射でない。

使われ方

ホモトピー群・スマッシュ積・被約懸垂・ループ空間は基点付き空間の構成であり、被約懸垂 $\Sigma$ とループ空間 $\Omega$ の随伴から得られる全単射 $[\Sigma X,Y]_*\cong[X,\Omega Y]_*$(スマッシュ積の記事の定理「スマッシュ積と写像空間の随伴」と注意「随伴の位相版」)は、ホモトピー群を $\pi_{n+1}(Y)\cong\pi_n(\Omega Y)$ と言い換える基本の道具である。Van Kampenの定理の記事の系「ウェッジ和の基本群」では、基点が強変位レトラクトとなる開近傍をもつことを仮定して、ウェッジ和の基本群を自由積として計算する。Eilenberg–MacLane空間は、CW 複体 $X$ から $K(G,n)$ への基点付きホモトピー類がコホモロジー $H^n(X;G)$ を表すという形で、基点付きホモトピー類の集合を通じてコホモロジーと結びつく。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Chapter 0, Proposition 0.16, p. 15(CW 対のホモトピー拡張性質)、§1.1 Exercise 5・6, p. 38(単連結性と自由ループ、共役類との対応)、§4.A Proposition 4A.1・4A.2, p. 422(基点を忘れる写像と基本群の作用)

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