Weylの完全可約性定理

同義語:ワイルの完全可約性定理Weyl's theorem on complete reducibility

概要

Weylの完全可約性定理(Weyl's theorem on complete reducibility)とは、複素数体上の半単純 Lie 環 $\mathfrak{g}$ の有限次元表現 $V$ では、$\mathfrak{g}$ で保たれる部分空間がつねに $\mathfrak{g}$ で保たれる補空間をもち、したがって $V$ が既約表現の直和に分かれるという定理である。表現の跡から作る双線形形式が非退化であることと、Casimir 作用素の跡が $\dim\mathfrak{g}$ に等しいことから証明され、帰結として表現に値をとる導分がすべて内部導分であること(Whitehead の第 1 補題)が従う。Lie 環が半単純でない場合、係数体の標数が正の場合、表現が無限次元の場合には、それぞれ成り立たない例がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lie環, 半単純Lie環, 跡

有限群の複素数体上の有限次元表現は、既約表現の直和に分かれる(群の表現)。Lie 環の表現では一般にこれが成り立たない。1 次元の Lie 環 $\mathbb{C}$ を、数 $t$ に行列 $\begin{pmatrix}0&t\\0&0\end{pmatrix}$ を対応させて $\mathbb{C}^2$ に作用させると、直線 $\mathbb{C}e_1$ は保たれるが、保たれる補空間はない。Weyl の完全可約性定理(Weyl's theorem on complete reducibility)は、Lie 環が半単純Lie環ならこのようなことが起こらないことを述べる。$\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環の有限次元表現では、保たれる部分空間はつねに保たれる補空間をもち、表現は既約表現の直和に分かれる。
この記事では、Lie 環の表現と完全可約性を定義し、表現の跡から作る双線形形式と Casimir 作用素を使って定理を証明する。帰結として、表現に値をとる導分がすべて内部導分であること(Whitehead の第 1 補題)を導く。最後に、「半単純」「標数 $0$」「有限次元」をそれぞれ外すと結論が崩れることを反例で確かめる。

表現と完全可約性

$K$ を体、$\mathfrak{g}$ を $K$ 上の Lie 環とする。$K$ 上のベクトル空間 $V$ の線形変換の全体 $\mathfrak{gl}(V)$ を交換子 $[a,b]=ab-ba$ で Lie 環とみる(Lie環 の例「行列の Lie 環」)。

Lie 環の表現

Lie 環の準同型 $\rho\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V)$ を $\mathfrak{g}$ の $V$ 上の表現という。$x\cdot v:=\rho(x)v$ と書くと、条件は $[x,y]\cdot v=x\cdot(y\cdot v)-y\cdot(x\cdot v)$ である。$\dim V$ を表現の次元という。

  1. 部分空間 $W\subset V$ がすべての $x\in\mathfrak{g}$ について $x\cdot W\subset W$ を満たすとき、$W$ を不変部分空間という。$W$ と商 $V/W$ はそれぞれ表現になる。
  2. $V\neq0$ で、不変部分空間が $0$ と $V$ だけのとき、$V$ は既約であるという。
  3. すべての不変部分空間 $W$ に不変部分空間 $W'$ で $V=W\oplus W'$ となるもの(不変な補空間)があるとき、$V$ は完全可約であるという。
  4. すべての $x$ が $0$ として働く表現を自明な表現という。

2 つの表現の間の線形写像 $f\colon V\to W$ で $f(x\cdot v)=x\cdot f(v)$ を満たすものを表現の準同型という。その核と像は不変部分空間である。表現 $V$、$W$ に対し、$\operatorname{Hom}_K(V,W)$ は
$$ (x\cdot f)(v):=x\cdot f(v)-f(x\cdot v) $$
で表現になる。実際 $x\cdot(y\cdot f)-y\cdot(x\cdot f)$ を $v$ で評価すると、$x\cdot(y\cdot f(v))$ と $y\cdot(x\cdot f(v))$ の差、$f(y\cdot(x\cdot v))$ と $f(x\cdot(y\cdot v))$ の差だけが残り($x\cdot f(y\cdot v)$ などの交差項は打ち消し合う)、$[x,y]\cdot f(v)-f([x,y]\cdot v)$ に等しい。$x\cdot f=0$(すべての $x$)であることは、$f$ が表現の準同型であることと同じである。
半単純 Lie 環の言葉は 半単純Lie環 に従う。反例の節の 3 行目を除き、この記事の Lie 環と表現はすべて有限次元とする。

主定理

主定理(thm-weyl-main)は、$\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環の有限次元表現 $V$ の任意の不変部分空間に不変な補空間があることを述べる。証明のために、まず 4 つの補題と余次元 $1$ の場合を示す。

1 次元の商への作用

$\mathfrak{g}$ を $\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環とする。$\mathfrak{g}$ の 1 次元表現は自明である。とくに $W\subset V$ が余次元 $1$ の不変部分空間なら、すべての $x\in\mathfrak{g}$ について $x\cdot V\subset W$ である。

1 次元の空間 $L$ の上の表現 $\rho\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(L)\cong\mathbb{C}$ の値域は可換な Lie 環なので、$\rho([x,y])=[\rho(x),\rho(y)]=0$ である。半単純 Lie 環では $[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=\mathfrak{g}$ なので(半単純Lie環 の定理「Cartan–Killing の判定法と単純イデアルへの分解」の 2)、$\rho=0$ である。後半は 1 次元の表現 $V/W$ に当てればよい。$\square$

忠実な表現への帰着

$\mathfrak{g}$ を $\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環、$\rho\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V)$ を表現とする。$\mathfrak{g}$ のイデアル $\mathfrak{g}'$ で、$\mathfrak{g}=\ker\rho\oplus\mathfrak{g}'$、$[\ker\rho,\mathfrak{g}']=0$ となるものがある。$\mathfrak{g}'$ は半単純で、$\rho$ の $\mathfrak{g}'$ への制限は単射であり、$\rho(\mathfrak{g}')=\rho(\mathfrak{g})$ である。

半単純Lie環 の定理「Cartan–Killing の判定法と単純イデアルへの分解」の 2 により、$\mathfrak{g}=\mathfrak{g}_1\oplus\cdots\oplus\mathfrak{g}_r$(単純イデアル、$i\neq j$ で $[\mathfrak{g}_i,\mathfrak{g}_j]=0$)であり、イデアル $\ker\rho$ はこのうちいくつかの和である。残りの $\mathfrak{g}_i$ の和を $\mathfrak{g}'$ とすれば、$\mathfrak{g}=\ker\rho\oplus\mathfrak{g}'$、$[\ker\rho,\mathfrak{g}']=0$ である。$\ker\rho\cap\mathfrak{g}'=0$ なので制限は単射で、$\rho(\mathfrak{g})=\rho(\mathfrak{g}')$ である。$\mathfrak{g}'$ の可解なイデアル $\mathfrak{s}$ は、$[\ker\rho,\mathfrak{s}]=0$ より $\mathfrak{g}$ のイデアルでもあるので $\mathfrak{s}\subset\operatorname{rad}\mathfrak{g}=0$ であり、$\mathfrak{g}'$ は半単純である。$\square$

$\rho(\mathfrak{g})=\rho(\mathfrak{g}')$ なので、$\mathfrak{g}$ と $\mathfrak{g}'$ で不変部分空間は同じである。以下、表現が単射(忠実)な場合を考えればよい。

跡形式の非退化性

$\mathfrak{g}$ を $\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環、$\rho\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V)$ を単射な表現とし、
$$ \beta(x,y):=\operatorname{tr}\bigl(\rho(x)\rho(y)\bigr)\qquad(x,y\in\mathfrak{g}) $$
とおく。$\beta$ は対称な双線形形式で、$\beta([x,y],z)=\beta(x,[y,z])$ を満たし、非退化である。

対称性は $\operatorname{tr}(ab)=\operatorname{tr}(ba)$ による。$a=\rho(x)$ などと書くと $\rho([x,y])=ab-ba$ なので、$\operatorname{tr}((ab-ba)c)=\operatorname{tr}(abc)-\operatorname{tr}(bac)=\operatorname{tr}(abc)-\operatorname{tr}(acb)=\operatorname{tr}(a(bc-cb))$ である。
$\mathfrak{s}:=\{x\in\mathfrak{g}\mid\beta(x,\mathfrak{g})=0\}$ とおく。$x\in\mathfrak{s}$、$y,z\in\mathfrak{g}$ について $\beta([y,x],z)=-\beta(x,[y,z])=0$ なので、$\mathfrak{s}$ はイデアルである。$L:=\rho(\mathfrak{s})\subset\mathfrak{gl}(V)$ は部分 Lie 環で、$a,b\in L$ について $\operatorname{tr}(ab)=0$ だから、半単純Lie環 の補題「Cartan の判定法」により $L$ は可解である。$\rho$ は単射なので $\mathfrak{s}\cong L$ も可解であり、$\mathfrak{s}\subset\operatorname{rad}\mathfrak{g}=0$ である。$\square$

$\rho$ が随伴表現のとき、$\beta$ は Killing 形式である(半単純Lie環 の定義「Killing 形式」)。

Casimir 作用素

lem-weyl-trace-form の設定で、$x_1,\dots,x_n$ を $\mathfrak{g}$ の基底とし、$\beta(x_i,y_j)=\delta_{ij}$ となる基底 $y_1,\dots,y_n$(双対基底)をとる。
$$ c:=\sum_{i=1}^n\rho(x_i)\rho(y_i)\in\operatorname{End}(V) $$
を Casimir 作用素という。$c$ はすべての $\rho(z)$($z\in\mathfrak{g}$)と可換であり、$\operatorname{tr}c=\dim\mathfrak{g}$ である。また $c$ は $V$ のすべての不変部分空間を保つ。

$\beta$ は非退化なので双対基底がある。$z\in\mathfrak{g}$ について $[z,x_i]=\sum_ja_{ij}x_j$、$[z,y_i]=\sum_jb_{ij}y_j$ と書くと、
$$ a_{ij}=\beta([z,x_i],y_j)=-\beta([x_i,z],y_j)=-\beta(x_i,[z,y_j])=-b_{ji} $$
である。$[\rho(z),\rho(x_i)]=\rho([z,x_i])$ などを使うと
$$ [\rho(z),c]=\sum_i\Bigl(\rho([z,x_i])\rho(y_i)+\rho(x_i)\rho([z,y_i])\Bigr)=\sum_{i,j}a_{ij}\rho(x_j)\rho(y_i)+\sum_{i,j}b_{ij}\rho(x_i)\rho(y_j) $$
で、第 2 の和の添字 $i,j$ を入れ替えると $\sum_{i,j}b_{ji}\rho(x_j)\rho(y_i)$ になり、$a_{ij}+b_{ji}=0$ から $[\rho(z),c]=0$ である。跡は $\operatorname{tr}c=\sum_i\beta(x_i,y_i)=n$ である。$c$ は $\rho(x_i)\rho(y_i)$ の和なので、不変部分空間を保つ。$\square$

余次元 1 の場合

$\mathfrak{g}$ を $\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環、$V$ を有限次元表現、$W\subset V$ を余次元 $1$ の不変部分空間とする。このとき $V=W\oplus L$ となる 1 次元の不変部分空間 $L$ がある。

$\dim V$ についての帰納法

lem-weyl-faithful により $\mathfrak{g}$ を $\mathfrak{g}'$ に替えて、表現 $\rho$ は単射としてよい。$\mathfrak{g}=0$ なら任意の補空間が不変なので、$\mathfrak{g}\neq0$ とする。$\dim V$ についての帰納法で示す。
段 1($W$ が既約のとき):lem-weyl-casimir の $c$ をとる。lem-weyl-one-dim により $\rho(x)V\subset W$ なので、$c$ の像は $W$ に入る。$c$ は $W$ を保ち $\rho(\mathfrak{g})$ と可換なので、$\ker(c|_W)$ は $W$ の不変部分空間であり、$W$ が既約だから $0$ か $W$ である。$\ker(c|_W)=W$ なら $c(V)\subset W$、$c(W)=0$ から $c^2=0$ で $\operatorname{tr}c=0$ となり、$\operatorname{tr}c=\dim\mathfrak{g}\neq0$ に反する。よって $c|_W$ は単射で、$W$ の線形変換として全単射である。したがって $c(V)=W$、$\ker c\cap W=0$、$\dim\ker c=\dim V-\dim W=1$ である。$c$ は $\rho(\mathfrak{g})$ と可換なので $\ker c$ は不変部分空間であり、$L:=\ker c$ が求めるものである。
段 2($W$ が既約でないとき):$W=0$ なら $L=V$ でよい。$W\neq0$ が既約でなければ、不変部分空間 $0\neq Z\subsetneq W$ がある。$W/Z$ は $V/Z$ の余次元 $1$ の不変部分空間で $\dim V/Z< \dim V$ なので、帰納法の仮定から $V/Z=W/Z\oplus Y/Z$ となる 1 次元の不変部分空間 $Y/Z$($Z\subset Y$)がある。$Y$ は不変で、$Z$ は $Y$ の余次元 $1$ の不変部分空間であり、$\dim Y=\dim Z+1\le\dim W< \dim V$ なので、帰納法の仮定から $Y=Z\oplus L$ となる 1 次元の不変部分空間 $L$ がある。$W\cap Y=Z$($W/Z\cap Y/Z=0$ から)なので $W\cap L\subset Z\cap L=0$ であり、$\dim W+\dim L=\dim V$ から $V=W\oplus L$ である。$\square$

Weyl の完全可約性定理

$\mathfrak{g}$ を $\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環、$V$ を $\mathfrak{g}$ の有限次元表現とする。$V$ の任意の不変部分空間 $W$ に、不変な補空間 $W'$ がある。すなわち $V$ は完全可約である。

準同型の空間への作用

$W\subset V$ を不変部分空間とする。$W=0$ なら $W'=V$ でよいので、$W\neq0$ とする。表現 $\operatorname{Hom}(V,W)$($=\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(V,W)$)の部分空間
$$ \mathcal{V}:=\{f\mid f|_W\text{ はスカラー倍}\},\qquad \mathcal{W}:=\{f\mid f|_W=0\} $$
を考える。$f\in\mathcal{V}$ で $f|_W=\lambda\,\mathrm{id}_W$ なら、$w\in W$ について
$$ (x\cdot f)(w)=x\cdot(\lambda w)-\lambda(x\cdot w)=0 $$
なので $x\cdot\mathcal{V}\subset\mathcal{W}\subset\mathcal{V}$ であり、$\mathcal{V}$ と $\mathcal{W}$ は不変部分空間である。$f\mapsto\lambda$ は $\mathcal{V}$ から $\mathbb{C}$ への全射な線形写像で($W$ の補空間を 1 つとり、その上で $0$ とする $f$ をとればよい)、核は $\mathcal{W}$ なので、$\mathcal{W}$ は $\mathcal{V}$ の余次元 $1$ の不変部分空間である。
prop-weyl-codim-one により $\mathcal{V}=\mathcal{W}\oplus\mathbb{C}f_0$ となる不変な直線 $\mathbb{C}f_0$ がある。$x\cdot f_0\in\mathbb{C}f_0\cap\mathcal{W}=0$ なので $f_0$ は表現の準同型 $V\to W$ であり、$f_0\notin\mathcal{W}$ だから $f_0|_W=\lambda\,\mathrm{id}_W$($\lambda\neq0$)で、$\lambda=1$ に取り直せる。$W':=\ker f_0$ は不変部分空間である。$v\in V$ は $v=f_0(v)+(v-f_0(v))$ と分かれ、$f_0(v)\in W$、$f_0(v-f_0(v))=f_0(v)-f_0(v)=0$ である。$W\cap W'=0$ は $f_0|_W=\mathrm{id}_W$ から従う。よって $V=W\oplus W'$ である。$\square$

証明で係数体を $\mathbb{C}$ とした所は、Cartan の判定法(lem-weyl-trace-form)と、半単純 Lie 環の単純イデアルへの分解(lem-weyl-one-dim・lem-weyl-faithful)である。段 1 では、$\operatorname{tr}c=\dim\mathfrak{g}$ が $0$ でないことに標数 $0$ を使った。

既約表現の直和への分解

$\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環の有限次元表現 $V\neq0$ は、既約な不変部分空間の直和 $V=V_1\oplus\cdots\oplus V_m$ に分かれる。

$\dim V$ についての帰納法で示す。$0$ でない不変部分空間のうち次元が最小のもの $V_1$ は既約である。thm-weyl-main により $V=V_1\oplus V'$ となる不変部分空間 $V'$ があり、$V'=0$ なら終わり、そうでなければ $V'$ は次元の小さい表現なので帰納法の仮定から既約な不変部分空間の直和である。$\square$

Whitehead の第 1 補題

$\mathfrak{g}$ を $\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環、$V$ を有限次元表現とする。線形写像 $\delta\colon\mathfrak{g}\to V$ が
$$ \delta([x,y])=x\cdot\delta(y)-y\cdot\delta(x)\qquad(x,y\in\mathfrak{g}) $$
を満たすなら、$v_0\in V$ で $\delta(x)=x\cdot v_0$(すべての $x$)となるものがある。

$\tilde V:=V\oplus\mathbb{C}$ に $x\cdot(v,t):=(x\cdot v+t\,\delta(x),\,0)$ と定める。$x\cdot(y\cdot(v,t))=(x\cdot(y\cdot v)+t\,x\cdot\delta(y),\,0)$ なので、
$$ x\cdot(y\cdot(v,t))-y\cdot(x\cdot(v,t))=\bigl([x,y]\cdot v+t\,(x\cdot\delta(y)-y\cdot\delta(x)),\,0\bigr)=[x,y]\cdot(v,t) $$
であり、$\tilde V$ は表現である。$V\oplus0$ は余次元 $1$ の不変部分空間なので、prop-weyl-codim-one により不変な直線 $L$ で $\tilde V=(V\oplus0)\oplus L$ となるものがあり、$L$ は $(u,1)$ の形の元で張られる。lem-weyl-one-dim により $\mathfrak{g}$ は 1 次元の表現 $L$ に自明に働くので、$0=x\cdot(u,1)=(x\cdot u+\delta(x),0)$ である。$v_0:=-u$ とおけばよい。$\square$

$V=\mathfrak{g}$(随伴表現)のとき、条件を満たす $\delta$ は $\mathfrak{g}$ の導分であり、$\delta(x)=[x,v_0]$ から $\delta=\operatorname{ad}(-v_0)$ となる。これは 半単純Lie環 の命題「導分はすべて内部導分」の別証明を与える。この補題は Levi分解 の定理「Malcev の共役定理」の証明にも使われる。

例

$\mathfrak{sl}_2(\mathbb{C})$ の標準表現の Casimir 作用素

$\mathfrak{g}=\mathfrak{sl}_2(\mathbb{C})$ を $V=\mathbb{C}^2$ に行列の積で作用させる(単射な表現)。基底 $e,h,f$(Lie環 の命題「$\mathfrak{sl}_2$ の構造」)について $\beta(x,y)=\operatorname{tr}(xy)$ は $\beta(e,f)=1$、$\beta(h,h)=2$ で、ほかの組は $0$ である。よって $(e,h,f)$ の双対基底は $(f,h/2,e)$ で、
$$ c=ef+\tfrac12h^2+fe=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}+\tfrac12\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}=\tfrac32\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix} $$
である。$\operatorname{tr}c=3=\dim\mathfrak{g}$ で、lem-weyl-casimir と合う。

テンソル積の分解

$\mathfrak{sl}_2(\mathbb{C})$ を $V=\mathbb{C}^2\otimes\mathbb{C}^2$ に $x\cdot(u\otimes w):=xu\otimes w+u\otimes xw$ で作用させる。対称テンソルの空間 $S$($e_1\otimes e_1$、$e_1\otimes e_2+e_2\otimes e_1$、$e_2\otimes e_2$ が張る)と、$a:=e_1\otimes e_2-e_2\otimes e_1$ の張る直線は不変であり、$V=S\oplus\mathbb{C}a$ である。2 次の行列 $x=(x_{ij})$ について $x\cdot a=(x_{11}+x_{22})a=(\operatorname{tr}x)\,a=0$ なので、$\mathbb{C}a$ は自明な表現である。$S$ は既約である。

既約性の確かめを開く

$s_1:=e_1\otimes e_1$、$s_0:=e_1\otimes e_2+e_2\otimes e_1$、$s_{-1}:=e_2\otimes e_2$ とすると、$h$ はそれぞれを $2,0,-2$ 倍し、$e\cdot s_{-1}=s_0$、$e\cdot s_0=2s_1$、$f\cdot s_1=s_0$、$f\cdot s_0=2s_{-1}$ である。$0$ でない不変部分空間 $U\subset S$ は $h$ で保たれ、$h$ は相異なる固有値 $2,0,-2$ で対角化されるので、$U$ はある $s_k$ を含む。$e$ と $f$ を当てると $s_1,s_0,s_{-1}$ がすべて $U$ に入り、$U=S$ である。

随伴表現とイデアル

半単純 Lie 環 $\mathfrak{g}$ の随伴表現 $x\cdot y:=[x,y]$ では、不変部分空間はイデアルにほかならない。thm-weyl-main から、どのイデアル $\mathfrak{a}$ にもイデアル $\mathfrak{b}$ で $\mathfrak{g}=\mathfrak{a}\oplus\mathfrak{b}$ となるものがある。これは 半単純Lie環 の定理「Cartan–Killing の判定法と単純イデアルへの分解」の 2 と合っている(同じ記事ではこの補空間を Killing 形式による直交補空間 $\mathfrak{a}^\perp$ として作る)。

反例:条件を外すと崩れること

thm-weyl-main の仮定を 1 つずつ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
$\mathfrak{g}$ が半単純1 次元の Lie 環 $\mathbb{C}$ と、$t\mapsto\begin{pmatrix}0&t\\0&0\end{pmatrix}$ による $\mathbb{C}^2$ 上の表現不変部分空間 $\mathbb{C}e_1$ に不変な補空間がない
係数体の標数が $0$素数 $p\ge3$ と $\mathfrak{sl}_2(\mathbb{F}_p)$ の $p+1$ 次元表現 $\operatorname{Sym}^p(\mathbb{F}_p^2)$2 次元の不変部分空間に不変な補空間がない
$V$ が有限次元$\mathfrak{sl}_2(\mathbb{C})$ と、多項式環 $\mathbb{C}[t]$ 上の表現 $e\mapsto\frac{d}{dt}$、$h\mapsto-2t\frac{d}{dt}$、$f\mapsto-t^2\frac{d}{dt}$定数の空間 $\mathbb{C}$ に不変な補空間がない
反例の確かめ

1 行目:$N=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ の不変な直線は $N$ の固有ベクトルの張る直線で、$N$ の固有空間は $\mathbb{C}e_1$ だけである。よって $\mathbb{C}e_1$ と異なる不変な直線はない。1 次元の Lie 環 $\mathbb{C}$ は可換なので、それ自身が可解なイデアルであり、半単純でない。
2 行目と 3 行目は、$h$ の固有空間に分けて補空間の形を決め、$e$ で外へ出ることを見る。

2 行目と 3 行目の確かめを開く

2 行目:$\mathbb{F}_p$ 上の 2 変数多項式の $p$ 次の斉次部分 $V$ の基底 $v_i:=X^iY^{p-i}$($0\le i\le p$)に、$e=X\partial_Y$、$f=Y\partial_X$、$h=X\partial_X-Y\partial_Y$ を作用させる($\mathbb{F}_p^2$ 上の標準表現から導分として延ばしたもの)。$e\cdot v_i=(p-i)v_{i+1}$、$f\cdot v_i=iv_{i-1}$、$h\cdot v_i=(2i-p)v_i=2i\,v_i$ である。$\mathfrak{sl}_2(\mathbb{F}_p)$ は単純(Lie環 の命題「$\mathfrak{sl}_2$ の構造」、標数 $\neq2$)なので半単純である。$U:=\mathbb{F}_pv_0+\mathbb{F}_pv_p$ では $e\cdot v_0=pv_1=0$、$f\cdot v_p=pv_{p-1}=0$、$e\cdot v_p=f\cdot v_0=0$、$h\cdot v_0=0$、$h\cdot v_p=2pv_p=0$ なので、$U$ は不変である。不変な補空間 $U'$($\dim U'=p-1$)があったとする。$h$ は $V$ 上で対角化され、固有値 $0$ の固有空間は $U$、$1\le i\le p-1$ の $v_i$ の固有値 $2i$ は互いに異なり $0$ でない。$U'$ は $h$ で保たれるので固有空間との共通部分の和であり、$U'\cap U=0$ から $U'$ は $v_1,\dots,v_{p-1}$ が張る空間に含まれ、次元を比べると一致する。しかし $e\cdot v_{p-1}=v_p\notin U'$ で、矛盾する。

3 行目:$\mathbb{C}[t]$ の導分 $\frac{d}{dt}$、$-2t\frac{d}{dt}$、$-t^2\frac{d}{dt}$ の交換子を計算すると、$[h,e]=2e$、$[h,f]=-2f$、$[e,f]=h$ が成り立つので表現である。定数はすべての元で $0$ に写るので $\mathbb{C}\subset\mathbb{C}[t]$ は不変である。不変な補空間 $U'$ があったとする。$h\cdot t^n=-2nt^n$ で固有値が互いに異なるので、$U'$ は $h$ の固有ベクトル $t^n$ のいくつかで張られ($U'$ の元の成分は Vandermonde 行列の逆で取り出せる)、$U'\cap\mathbb{C}=0$ と余次元 $1$ から $U'$ は $t,t^2,\dots$ が張る空間である。しかし $e\cdot t=1\notin U'$ で、矛盾する。

2 行目の表現を $\rho$ とすると、$p\ge5$ のとき $\operatorname{tr}(\rho(x)\rho(y))$ は恒等的に $0$ になり、lem-weyl-trace-form も成り立たない($\sum_{i=0}^{p}i$ と $\sum_{i=0}^{p}i^2$ が $p$ で割り切れるため)。

補足

  • thm-weyl-main は FH91 Theorem 9.19(p. 128)にあり、証明は同書 Proposition C.15(pp. 481–482)で Casimir 作用素を使って与えられている。この記事の証明は同じ筋で、一般の不変部分空間への帰着を $\operatorname{Hom}(V,W)$ の部分空間 $\mathcal{W}\subset\mathcal{V}$ で行った。
  • 係数体は標数 $0$ の任意の体でよい(Wei94 Theorem 7.8.11、p. 246)。この記事では証明しない。上の証明で $\mathbb{C}$ を使ったのは Cartan の判定法と単純イデアルへの分解だけである。段 1 は Schur の補題を使わないので、係数体が代数閉体でなくても通る。
  • Weyl の最初の証明は、コンパクト Lie 群の表現の完全可約性(コンパクト群 の定理「ユニタリ化と完全可約性」)に帰着させるもので、ユニタリ・トリックと呼ばれる。たとえば $\mathfrak{sl}_n(\mathbb{C})$ の表現は、コンパクト群 $SU(n)$ の表現に移して調べられる(FH91 §9.3、pp. 129–130。この記事では証明しない)。Casimir 作用素による代数的な証明は 1935 年の Casimir と van der Waerden による(Wei94 p. 247)。
  • cor-weyl-direct-sum により、$\mathbb{C}$ 上の半単純 Lie 環の有限次元表現は既約表現で決まり、既約表現は最高ウェイトで分類される。

関連項目

参考文献

[1]
William Fulton, Joe Harris, Representation Theory: A First Course, Graduate Texts in Mathematics 129, Springer, 1991, Theorem 9.19(p. 128)、§9.3 のユニタリ・トリック(pp. 129–130)、Proposition C.15(pp. 481–482)

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