Möbius関数(Möbius function)とは、正の整数 $n$ に対し、$\mu(1)=1$、$n$ が相異なる $k$ 個の素数の積なら $\mu(n)=(-1)^k$、$n$ が $1$ より大きい平方数で割り切れるなら $\mu(n)=0$ と定める数論的関数である($\mu(6)=1$、$\mu(12)=0$)。互いに素な $m,n$ で $\mu(mn)=\mu(m)\mu(n)$ となるが、$\mu(4)\neq\mu(2)^2$ である。約数にわたる和 $\sum_{d\mid n}\mu(d)$ は $n=1$ で $1$、$n\ge2$ で $0$ であり、約数にわたる和 $F(n)=\sum_{d\mid n}f(d)$ から $f(n)=\sum_{d\mid n}\mu(d)F(n/d)$ と $f$ を取り戻せる(反転公式)。包除原理の符号として現れる。
前提知識: 整数, 約数, 素因数分解, 互いに素
$1$ から $10$ までの整数 $n$ に、次の規則で $1,-1,0$ のどれかを割り当てる。$n$ を素因数分解して、同じ素数が 2 回以上現れれば $0$、そうでなければ素因数の個数が偶数なら $1$、奇数なら $-1$ とする($n=1$ は素因数 $0$ 個で $1$)。すると
$$
\mu(1),\mu(2),\dots,\mu(10)=1,\,-1,\,-1,\,0,\,-1,\,1,\,-1,\,0,\,0,\,1
$$
となる($4=2^2$、$8=2^3$、$9=3^2$ は $0$、$6=2\cdot3$ と $10=2\cdot5$ は $1$)。$12$ の約数 $1,2,3,4,6,12$ についてこの値を足すと $1-1-1+0+1+0=0$ になり、$1$ 以外のどの $n$ でも約数にわたる和は $0$ になる(thm-mobius-divisor-sum)。また、$1$ から $30$ までで $30=2\cdot3\cdot5$ と互いに素な数の個数は
$$
\sum_{d\mid30}\mu(d)\frac{30}{d}=30-15-10-6+5+3+2-1=8
$$
と計算でき、実際 $1,7,11,13,17,19,23,29$ の 8 個である。$2$ の倍数 $15$ 個、$3$ の倍数 $10$ 個、$5$ の倍数 $6$ 個を引き、引きすぎた $6,10,15$ の倍数を足し戻し、$30$ の倍数を引く、という包除原理(包含と除去の原理)の符号がちょうど $\mu(d)$ になっている。
このように定まる関数 $\mu$ を Möbius関数 という。「約数にわたって足す」操作 $F(n)=\sum_{d\mid n}f(d)$ を逆にたどって $f$ を $F$ から取り戻す公式(Möbius の反転公式)の係数として現れ、Eulerのφ関数、平方因数をもたない整数の個数、有限体上の既約多項式の個数などの公式を統一的に与える。$\mu$ の値の和の振る舞いは素数定理や Riemannゼータ関数 と深く結びついている。
名前の似た Möbius の帯(Möbius strip)や Möbius 変換とは別のものである。また、組合せ論には半順序集合に対して定まる Möbius 関数があり、本記事の $\mu$ は約数の順序についてのその特別な場合にあたる(rem-mobius-poset)。
正の整数 $n$ に対し
$$
\mu(n):=\begin{cases}1&(n=1),\\(-1)^k&(n\text{ が相異なる }k\text{ 個の素数の積}),\\0&(n\text{ が }1\text{ より大きい平方数で割り切れる})\end{cases}
$$
と定める。関数 $\mu$ を Möbius関数(Möbius function、メビウス関数)という。
$n=p_1^{e_1}\cdots p_k^{e_k}$($p_i$ は相異なる素数、$e_i\ge1$)と素因数分解すると、$n$ が $1$ より大きい平方数で割り切れることは、ある $e_i$ が $2$ 以上であることと同値である。したがって上の 3 つの場合はちょうど 1 つが起こり、$\mu$ は矛盾なく定まる。$\mu(n)\neq0$ となる $n$ は平方因数をもたない整数(冪乗因数をもたない整数)にほかならない。
正の整数全体で定義された複素数値の関数を 数論的関数(arithmetic function)という。数論的関数 $f$ が恒等的に $0$ ではなく、互いに素な正の整数 $m,n$ についていつも $f(mn)=f(m)f(n)$ を満たすとき、$f$ は 乗法的(乗法的関数)であるという。このとき $f(1)=f(1)^2$ と $f\neq0$ から $f(1)=1$ である。互いに素でない $m,n$ についても $f(mn)=f(m)f(n)$ が成り立つものを完全乗法的という。
$\mu(d)$ は「素数 $p_1,\dots,p_k$ のどれでも割り切れない数を数える」ときの包除原理の符号である。$n$ 以下の数から $p_i$ の倍数を引き、$p_ip_j$ の倍数を足し戻し、$p_ip_jp_l$ の倍数を引き、…と進むとき、相異なる素数の積 $d$ の倍数につく符号が $(-1)^{(\text{素因数の個数})}=\mu(d)$ であり、同じ素数を 2 回含む $d$ はそもそも現れない(係数 $0$)。
もう 1 つの見方は「約数にわたる和の逆操作」である。数論的関数 $f$ から $F(n)=\sum_{d\mid n}f(d)$ を作る操作は、数列の累積和を作ることに似ている。累積和から元の数列を取り戻すには隣どうしの差をとればよいが、約数の関係は一列に並んでいないので、差のとり方が複雑になる。その係数を正確に与えるのが $\mu$ であり、$f(n)=\sum_{d\mid n}\mu(d)F(n/d)$ となる(thm-mobius-inversion)。$\mu$ が $0,\pm1$ だけをとることは、差をとる操作が「素因数を 1 つずつ外す」ことの繰り返しで書けることを反映している。
$n=1,\dots,30$ で $\mu(n)=0$ となるのは $4,8,9,12,16,18,20,24,25,27,28$ の 11 個であり、$\mu(n)=1$ となるのは $1,6,10,14,15,21,22,26$ の 8 個、$\mu(n)=-1$ となるのは素数 $2,3,5,7,11,13,17,19,23,29$ と $30=2\cdot3\cdot5$ の 11 個である。
$100$ 以下の平方因数をもたない正の整数の個数は、冪乗因数をもたない整数 の記事の定理「k 乗因数をもたない整数の指示関数」を $k=2$、$n\le100$ で足し合わせた式
$$
\sum_{d\le10}\mu(d)\left\lfloor\frac{100}{d^2}\right\rfloor=100-25-11-4+2-2+1=61
$$
で求まる($\lfloor\cdot\rfloor$ は床関数。$d=4,8,9$ の項は $\mu(d)=0$ で消える)。
$\mu(4)=0$ であるが $\mu(2)\mu(2)=(-1)^2=1$ である。同様に $\mu(12)=0\neq\mu(2)\mu(6)=-1$ である。これらの例は乗法性(prop-mobius-multiplicative)の仮定「$m$ と $n$ が互いに素」を破っており、「すべての $m,n$ について $\mu(mn)=\mu(m)\mu(n)$」という含意を破る。すなわち $\mu$ は乗法的だが完全乗法的ではない。一方、$\lambda(n):=(-1)^{(\text{重複を込めた素因数の個数})}$(Liouville 関数)は完全乗法的であり、平方因数をもたない $n$ では $\mu(n)$ と一致する。
数論的関数 $f$ が $f(1)=0$ を満たすなら、どんな数論的関数 $g$ についても Dirichlet 積(def-mobius-dirichlet)の $1$ での値は $(f*g)(1)=f(1)g(1)=0$ であり、単位元 $\varepsilon$ の値 $\varepsilon(1)=1$ にならない。たとえば $f(n)=\log n$ や $f(n)=\mu(n)-\varepsilon(n)$ は Dirichlet 積についての逆をもたない。これは prop-mobius-dirichlet-basic の 3 の仮定「$f(1)\neq0$」を破り、「すべての数論的関数が逆をもつ」という含意を破る例である。$\mu$ が定数関数 $1$ の逆になれるのは、$1$ の値が $1\neq0$ だからである。
$m,n$ を互いに素な正の整数とすると $\mu(mn)=\mu(m)\mu(n)$ である。すなわち $\mu$ は乗法的関数である。
$m=1$ または $n=1$ なら明らかである。$m,n\ge2$ とすると、$m$ と $n$ は互いに素なので共通の素因数をもたず、$mn$ の素因数分解は $m$ の分解と $n$ の分解を並べたものである。$m$ か $n$ のどちらかがある素数を 2 回以上含めば $mn$ も含むので、両辺とも $0$ である。どちらも平方因数をもたず、それぞれ $k$ 個、$l$ 個の相異なる素数の積なら、$mn$ は $k+l$ 個の相異なる素数の積であり、$\mu(mn)=(-1)^{k+l}=\mu(m)\mu(n)$ である。$\square$
正の整数 $n$ について
$$
\sum_{d\mid n}\mu(d)=\begin{cases}1&(n=1),\\0&(n\ge2)\end{cases}
$$
である。和は $n$ の正の約数 $d$ 全体にわたる。
$n=1$ では和は $\mu(1)=1$ である。$n\ge2$ とし、$n$ の素因数 $p$ を 1 つ固定する。平方因数をもつ約数 $d$ は $\mu(d)=0$ なので、平方因数をもたない約数だけを考えればよい。そのような約数のうち $p$ で割り切れないもの全体を $S$、$p$ で割り切れるもの全体を $T$ とする。
$d\in S$ に $dp$ を対応させる。$d\mid n$、$p\mid n$ で $d$ と $p$ は互いに素なので $dp\mid n$ であり、$d$ は平方因数をもたず $p\nmid d$ なので $dp$ も平方因数をもたない。よって $dp\in T$ である。逆に $e\in T$ なら $e/p$ は $n$ の約数で平方因数をもたず、$p$ を 2 回は含まないので $p\nmid e/p$、すなわち $e/p\in S$ である。したがって $d\mapsto dp$ は $S$ から $T$ への全単射であり、$dp$ の素因数は $d$ の素因数より 1 個多いので $\mu(dp)=-\mu(d)$ である。よって
$$
\sum_{d\mid n}\mu(d)=\sum_{d\in S}\mu(d)+\sum_{d\in S}\mu(dp)=\sum_{d\in S}\bigl(\mu(d)-\mu(d)\bigr)=0
$$
である。$\square$
$n\ge2$ の相異なる素因数が $k$ 個なら、平方因数をもたない約数は $k$ 個の素数の部分集合と対応し、和は $\sum_{j=0}^k\binom kj(-1)^j=(1-1)^k=0$ とも計算できる(二項定理。冪乗因数をもたない整数 の記事の補題「約数にわたる Möbius 関数の和」の証明)。上の証明は、素数 $p$ を付けるか外すかで符号が反転する組を作ることでこれを示したものである。
すべての実数 $x\ge1$ について
$$
\sum_{d\le x}\mu(d)\left\lfloor\frac xd\right\rfloor=1
$$
である。和は $x$ 以下の正の整数 $d$ にわたり、$\lfloor\cdot\rfloor$ は床関数である。
thm-mobius-divisor-sum を $n=1,2,\dots,\lfloor x\rfloor$ について足すと、右辺は $n=1$ の項だけが残って $1$ である。左辺は
$$
\sum_{n\le x}\sum_{d\mid n}\mu(d)=\sum_{d\le x}\mu(d)\cdot\#\{n\le x\mid d\mid n\}=\sum_{d\le x}\mu(d)\left\lfloor\frac xd\right\rfloor
$$
である。$x$ 以下の $d$ の正の倍数は $d,2d,\dots,\lfloor x/d\rfloor d$ の $\lfloor x/d\rfloor$ 個だからである。$\square$
たとえば $x=10$ では $10-5-3-2+1-1+1=1$ である($d=1,2,3,5,6,7,10$ の項。$d=4,8,9$ は $\mu(d)=0$)。
数論的関数 $f,g$ に対し、数論的関数 $f*g$ を
$$
(f*g)(n):=\sum_{d\mid n}f(d)\,g\!\left(\frac nd\right)=\sum_{ab=n}f(a)g(b)
$$
で定め、$f$ と $g$ の Dirichlet 積(Dirichlet convolution、Dirichlet積)という。右の和は $ab=n$ を満たす正の整数の組 $(a,b)$ 全体にわたる。また $\varepsilon(1):=1$、$n\ge2$ で $\varepsilon(n):=0$ と定め、定数関数 $\mathbf{1}(n):=1$、恒等関数 $\mathrm{id}(n):=n$ とおく。
この記号で、thm-mobius-divisor-sum は $\mu*\mathbf{1}=\varepsilon$ と書け、$F(n)=\sum_{d\mid n}f(d)$ は $F=f*\mathbf{1}$ と書ける。
数論的関数 $f,g,h$ について次が成り立つ。
4 を使うと thm-mobius-divisor-sum を別の形でも確かめられる。$\mu*\mathbf{1}$ は乗法的なので素数冪 $p^e$($e\ge1$)での値を見ればよく、それは $\mu(1)+\mu(p)=1-1=0$ である。
$f,F$ を数論的関数とする。次の 2 条件は同値である。
1 は $F=f*\mathbf{1}$、2 は $f=\mu*F$ と書ける。1 が成り立てば、prop-mobius-dirichlet-basic の 1–3 により
$$
\mu*F=\mu*(f*\mathbf{1})=f*(\mu*\mathbf{1})=f*\varepsilon=f
$$
である。2 が成り立てば同様に $f*\mathbf{1}=(\mu*F)*\mathbf{1}=F*(\mu*\mathbf{1})=F$ である。$\square$
仮定はすべての $n$ についての等式である。和 $\sum_{d\mid n}$ は $n$ の約数での値を使うので、ある $n$ について 2 を使うには、$n$ のすべての約数 $m$ について 1 が成り立っていればよい(同じ証明を $n$ の約数だけに制限して行える)。乗法的な形の反転 $F(n)=\prod_{d\mid n}f(d)\iff f(n)=\prod_{d\mid n}F(n/d)^{\mu(d)}$($f,F$ が正の実数値のとき)も、対数をとって $\log f$ と $\log F$ に thm-mobius-inversion を使えば得られる。
Eulerのφ関数 $\varphi(n)$($1$ 以上 $n$ 以下で $n$ と互いに素な整数の個数)について
$$
\varphi(n)=\sum_{d\mid n}\mu(d)\frac nd=n\prod_{p\mid n}\Bigl(1-\frac1p\Bigr)
$$
である。積は $n$ の相異なる素因数 $p$ にわたる($n=1$ では空積 $1$)。
Eulerのφ関数 の記事の定理「Gaussの約数和公式」により、すべての $n$ について $\sum_{d\mid n}\varphi(d)=n$、すなわち $\varphi*\mathbf{1}=\mathrm{id}$ である。thm-mobius-inversion により $\varphi=\mu*\mathrm{id}$ であり、これが 1 つ目の等式である。$\mu$ と $\mathrm{id}$ は乗法的なので、prop-mobius-dirichlet-basic の 4 により $\varphi$ も乗法的である。素数冪 $p^e$($e\ge1$)では、$\mu(p^j)=0$($j\ge2$)なので
$$
\varphi(p^e)=\mu(1)p^e+\mu(p)p^{e-1}=p^e-p^{e-1}=p^e\Bigl(1-\frac1p\Bigr)
$$
であり、$n=\prod p^{e}$ について掛け合わせて 2 つ目の等式を得る。$\square$
同じ公式を Eulerのφ関数 の記事は乗法性を直接示してから証明しており、上の証明は約数和公式だけから反転で導く別の筋である。冒頭の $\varphi(30)=8$ はこの公式の例である。
正の整数 $N,n$ について、$1\le k\le N$ で $\gcd(k,n)=1$ となる $k$ の個数は
$$
\sum_{d\mid n}\mu(d)\left\lfloor\frac Nd\right\rfloor
$$
である。
thm-mobius-divisor-sum により、$\sum_{d\mid\gcd(k,n)}\mu(d)$ は $\gcd(k,n)=1$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。$d\mid\gcd(k,n)$ は「$d\mid k$ かつ $d\mid n$」と同値なので(最大公約数 の記事の定理「公約数と最大公約数の約数」)、求める個数は
$$
\sum_{k=1}^N\ \sum_{\substack{d\mid n\\ d\mid k}}\mu(d)=\sum_{d\mid n}\mu(d)\cdot\#\{1\le k\le N\mid d\mid k\}=\sum_{d\mid n}\mu(d)\left\lfloor\frac Nd\right\rfloor
$$
である。$\square$
たとえば $N=100$、$n=12$ では、$\mu(4)=\mu(12)=0$ なので $100-50-33+16=33$ であり、$100$ 以下で $2$ でも $3$ でも割り切れない数は $33$ 個ある。$N=n$ とすると、$\lfloor n/d\rfloor=n/d$ なので prop-mobius-phi の 1 つ目の等式に戻る。
次の応用では、$q$ 個の文字からなる長さ $n$ の文字列 $w=w_1w_2\cdots w_n$ を考える。$w$ が、ある $n$ の約数 $d< n$ と長さ $d$ の文字列 $u$ によって $w=uu\cdots u$($u$ を $n/d$ 回並べたもの。$u^{n/d}$ と書く)と書けないとき、$w$ を 原始的 という。たとえば $0101$ は $(01)^2$ なので原始的でなく、$0011$ は原始的である。
$q\ge1$ とし、$q$ 文字からなる長さ $n$ の原始的な文字列の個数を $P_q(n)$ とすると
$$
P_q(n)=\sum_{d\mid n}\mu(d)\,q^{n/d}
$$
である。
長さ $n$ の文字列 $w$ と整数 $s$ について、すべての $i$ で $w_i=w_{i+s}$(添字は $n$ を法として $1,\dots,n$ に読む)が成り立つとき、$w$ は $s$ だけ巡回的にずらしても不変であるという。そのような $s$ の全体 $H(w)$ は和と差で閉じ、$n$ を含む。$d\mid n$ について、$w=u^{n/d}$($|u|=d$)と書けることは $d\in H(w)$ と同値である。
$H(w)$ の正の元のうち最小のものを $d_0$ とする。$s\in H(w)$ を $s=td_0+r$($0\le r< d_0$)と割ると $r=s-td_0\in H(w)$ なので、最小性から $r=0$ であり、$H(w)=d_0\mathbb{Z}$ である。特に $n\in H(w)$ から $d_0\mid n$ である。よって $w=u_0^{n/d_0}$($u_0$ は $w$ の最初の $d_0$ 文字)と書ける。$u_0$ は原始的である。実際 $u_0=v^{d_0/e}$($e\mid d_0$、$e< d_0$)なら、$w=v^{n/e}$ となって $e\in H(w)$ となり、$d_0$ の最小性に反する。
逆に $w=u^{n/d}$($d\mid n$、$u$ は長さ $d$ の原始的な文字列)とすると $d\in H(w)=d_0\mathbb{Z}$ なので $d_0\mid d$ であり、$u$ は $w$ の最初の $d$ 文字なので $u=u_0^{d/d_0}$ である。$u$ が原始的なので $d=d_0$、$u=u_0$ である。
以上から、長さ $n$ の文字列はそれぞれ、$n$ の約数 $d$ と長さ $d$ の原始的な文字列 $u$ の組にただ 1 通りに対応する($w=u^{n/d}$)。文字列は全部で $q^n$ 個あるので、すべての $n$ について
$$
q^n=\sum_{d\mid n}P_q(d)
$$
である。thm-mobius-inversion を $F(n)=q^n$、$f=P_q$ に適用して主張を得る。$\square$
$q=2$、$n=6$ では $P_2(6)=2^6-2^3-2^2+2^1=54$ である。原始的な文字列を巡回的にずらした $n$ 個の文字列はどれも原始的で、しかも互いに異なる(2 つが一致すれば $H(w)$ が $n$ より小さい正の元をもつ)。したがって、原始的な文字列を「巡回的なずらしで移り合うもの」の組に分けると 1 組はちょうど $n$ 個からなり、組の個数は $P_q(n)/n$ である。$q=2$、$n=6$ では $54/6=9$ 組である。有限体 $\mathbb{F}_q$ 上の次数 $n$ のモニックな既約多項式の個数も同じ $\frac1n\sum_{d\mid n}\mu(d)q^{n/d}$ で与えられる(等式 $q^n=\sum_{d\mid n}d\cdot(\text{次数 }d\text{ の既約多項式の個数})$ を反転する。Sho08 の PDF 版 Theorem 19.11 と Exercise 19.1、PDF pp. 532–533。有限体を参照)。
実数 $s>1$ について $\sum_{n=1}^\infty\mu(n)n^{-s}=1/\zeta(s)$ が成り立つ。ここで $\zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty n^{-s}$ は Riemannゼータ関数である。これは $\mu*\mathbf{1}=\varepsilon$ を級数の積に書き直したものであり、特に $\sum_{n=1}^\infty\mu(n)/n^2=6/\pi^2$ である(Mos11 Chapter 2、p. 14)。部分和 $M(x):=\sum_{n\le x}\mu(n)$ は、$\mu$ の値 $1$ と $-1$ がどれほど打ち消し合うかを表し、$M(x)/x\to0$ であることが知られているが、その証明は易しくない(Mos11 p. 33。素数定理 を参照)。cor-mobius-floor-sum から、$M$ は $\sum_{d\le x}M(x/d)=1$ を満たす。実際、左辺は $\sum_{d\le x}\sum_{k\le x/d}\mu(k)=\sum_{k\le x}\mu(k)\lfloor x/k\rfloor$ に等しい。
関数 $\mu$ は A. F. Möbius が 1832 年に級数の反転の研究で導入した。約数にわたる和の反転公式は後に Dedekind と Liouville がそれぞれ述べ、$\varphi$ への応用を与えた(Dic19 Chapter XIX、原本 p. 441)。入門的な扱いは Mos11 Chapter 2(定義は p. 9、約数にわたる和は p. 10、Dirichlet 積は pp. 10–11、反転公式は p. 12。頁は 2011-07-31 版 PDF の印刷頁)、Sho08 の PDF 版 §2.9(Theorem 2.38–2.40、PDF pp. 63–66)、Cri24 Chapter 23(Definition 23.1.1、Theorem 23.2.1、PDF pp. 426–430)を参照。
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