計算尺と対数(slide rules and logarithms)とは、$1$ から $10$ までの数 $x$ を長さ $L$ の尺の端から $L\log_{10}x$ の位置に書いた 2 本の尺をずらし、長さの足し算 $\log_{10}a+\log_{10}b=\log_{10}ab$ で積を読む仕組みである。一方の $1$ を他方の $a$ に合わせると、$ab\le10$ なら $b$ の真下に $ab$ が読め、$ab\ge10$ なら端の $10$ を合わせて $ab/10$ を読む。割り算は長さの引き算になり、小数点は別に決める。位置を $\delta L$ だけ読み違えたときの相対誤差 $10^\delta-1$ は値によらず、平均値の定理によりほぼ $\delta\log10$ である。25 cm の尺で 0.1 mm 読み違えるなら、有効数字はほぼ 3 桁である。
前提知識: 対数目盛と片対数グラフ, 常用対数と桁数
2 本の物差しを並べてずらすと、足し算ができる。下の物差しの $2$ の位置に上の物差しの $0$ を合わせると、上の物差しの $3$ の真下に、下の物差しの $5$ が来る。長さ $2$ と長さ $3$ をつないだからである。同じことを 対数目盛 の物差しでやると、足し算ではなく掛け算ができる。これが計算尺の原理である。まず 2 つを並べて比べる。
下の物差しの目盛 $2$ に、上の物差しの目盛 $0$ を合わせる。上の物差しの目盛 $3$ は、上の物差しの $0$ から長さ $3$ の位置にあるので、下の物差しの $0$ からは長さ $2+3=5$ の位置にある。真下の目盛は $5$ で、$2+3=5$ が読める。
長さ $L=25$ cm の物差しに、$1$ から $10$ までの数 $x$ を、左端から $L\log_{10}x$ の位置に書く(1 桁分の対数目盛)。$2$ は $25\times0.30103=7.526$ cm、$3$ は $25\times0.47712=11.928$ cm の位置にある。
同じ物差しを 2 本用意し、下の物差しの $2$ に上の物差しの左端 $1$ を合わせる。上の物差しの $3$ は、上の物差しの左端から $11.928$ cm の位置にあるので、下の物差しの左端からは
$$
7.526+11.928=19.454\ \text{cm}
$$
の位置にある。$25\log_{10}6=25\times0.77815=19.454$ なので、真下には $6$ が書かれている。$2\times3=6$ が読める(図 1)。
2 つの例で、することは同じ「長さをつなぐ」である。違うのは目盛の付け方だけで、対数目盛では長さの足し算 $\log_{10}2+\log_{10}3$ が、書かれた数の掛け算 $2\times3$ になる。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $\log_{10}ab=\log_{10}a+\log_{10}b$ | 長さをつなぐと積が読める(thm-slr-main) | 対数は掛け算を足し算に移す同型 |
| 常用対数の整数部分を捨てる | 右端の $10$ を使う(thm-slr-main の 2) | $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ の上で足す |
| 平均値の定理 | 読み違いの相対誤差 $\approx\delta\log10$(prop-slr-error) | 誤差の伝播 |
| $\log_{10}x^2=2\log_{10}x$ | 半分の長さの目盛で 2 乗が読める(prop-slr-square) | 準同型と冪 |
長さ $L>0$ の 2 本の尺(物差し)のそれぞれに、$1\le x\le10$ の数 $x$ を、左端から $L\log_{10}x$ の位置に書く。左端には $1$、右端には $10$ が書かれる。固定した尺を D 尺、D 尺に沿って左右にずらせる尺を C 尺 という。C 尺の左端の $1$ を左の基線、右端の $10$ を右の基線と呼ぶ。
これは 対数目盛と片対数グラフ の対数目盛の 1 桁分である。そこで示したとおり、2 つの数の位置の間隔は比だけで決まり、$x$ と $10x$ はちょうど $L$ だけ離れる。C 尺と D 尺は同じ目盛なので、C 尺をずらしていなければ、C 尺の $x$ の真下に D 尺の $x$ がある。
$L=25$ cm とする。$\log_{10}1.2=0.07918$、$\log_{10}4=0.60206$、$\log_{10}6=0.77815$ なので、$1.2$、$4$、$6$ はそれぞれ左端から $1.980$ cm、$15.051$ cm、$19.454$ cm の位置にある。$1$ と $2$ の間は $7.526$ cm あるが、$9$ と $10$ の間は $25\times(1-0.95424)=1.144$ cm しかない。右へ行くほど目盛は詰まる。
以下、D 尺の左端を原点とし、位置は原点から右へ測る。C 尺をずらした量は、C 尺の左の基線の位置 $s$ で表す($s<0$ なら C 尺は左へはみ出している)。C 尺の $x$ は位置 $s+L\log_{10}x$ にある。
$1\le a\le10$、$1\le b\le10$ とする。
方針:C 尺をずらした量 $s$ を合わせ方から決め、C 尺の読む目盛の位置を $s+L\log_{10}(\cdot)$ で書く。その位置が D 尺のどの数の位置 $L\log_{10}(\cdot)$ に等しいかを、対数の性質 $\log_{10}u+\log_{10}v=\log_{10}uv$、$\log_{10}u-\log_{10}v=\log_{10}\frac uv$、$\log_{10}10=1$ で求める。
段 1(1 の場合)。C 尺の左の基線(位置 $s$)が D 尺の $a$(位置 $L\log_{10}a$)に合うので $s=L\log_{10}a$ である。C 尺の $b$ の位置は
$$
s+L\log_{10}b=L(\log_{10}a+\log_{10}b)=L\log_{10}ab
$$
である。$1\le ab\le10$ なので、これは D 尺の目盛 $ab$ の位置である。
段 2(2 の場合)。C 尺の右の基線(位置 $s+L\log_{10}10=s+L$)が D 尺の $a$ に合うので $s=L\log_{10}a-L$ である。C 尺の $b$ の位置は
$$
s+L\log_{10}b=L(\log_{10}a+\log_{10}b-1)=L\log_{10}\frac{ab}{10}
$$
である。$10\le ab\le100$ なので $1\le\dfrac{ab}{10}\le10$ で、これは D 尺の目盛 $\dfrac{ab}{10}$ の位置である。
段 3(3 の場合)。C 尺の $b$ が D 尺の $a$ に合うので $s+L\log_{10}b=L\log_{10}a$、つまり $s=L(\log_{10}a-\log_{10}b)=L\log_{10}\dfrac ab$ である。$a\ge b$ なら $1\le\dfrac ab\le10$ で、C 尺の左の基線の位置 $s$ は D 尺の目盛 $\dfrac ab$ の位置である。$a\le b$ なら、C 尺の右の基線の位置は
$$
s+L=L\left(\log_{10}\frac ab+1\right)=L\log_{10}\frac{10a}b
$$
で、$1\le\dfrac{10a}b\le10$ なので、D 尺の目盛 $\dfrac{10a}b$ の位置である。$\square$
2 × 3 の読み方。C 尺の左の基線 1 を D 尺の 2 に合わせると、C 尺の 3 の真下に D 尺の 6 がある。2 つの長さ L log₁₀2 と L log₁₀3 をつないでいる
3 × 4 の読み方。C 尺を左へずらし、右の基線 10 を D 尺の 3 に合わせると、C 尺の 4 の真下に D 尺の 1.2 がある。答えは 12
図 1 は thm-slr-main の 1、図 2 は 2 の使い方である。図 2 のように、左の基線を合わせると C 尺の $4$ が D 尺の右端の外に出てしまうときは、C 尺を 1 本分左へずらして右の基線を使う。1 本分ずらすことは、位置から $L$ を引くこと、つまり書かれた数を $10$ で割ることである。
$L=25$ cm とする。
(1) $3\times4$:左の基線を D 尺の $3$ に合わせると、C 尺の $4$ は位置 $L\log_{10}12=26.98$ cm で、D 尺の右端 $25$ cm を超える。右の基線を D 尺の $3$ に合わせると、C 尺の $4$ は位置 $L(\log_{10}3+\log_{10}4-1)=L\log_{10}1.2=1.980$ cm に来て、D 尺の $1.2$ が読める。答えは $12$ である(図 2)。
(2) $2.5\times6$:$2.5\times6=15>10$ なので右の基線を D 尺の $2.5$ に合わせる。C 尺の $6$ の真下は位置 $L\log_{10}1.5=4.402$ cm で、D 尺の $1.5$ が読める。答えは $15$ である。
(3) $7\mathbin{÷}4$:C 尺の $4$ を D 尺の $7$ に合わせる。$7\ge4$ なので、左の基線の真下を読む。位置は $L\log_{10}\dfrac74=6.076$ cm で、D 尺の $1.75$ が読める。
(4) $2\mathbin{÷}4$:C 尺の $4$ を D 尺の $2$ に合わせる。$2<4$ なので、右の基線の真下を読む。D 尺の $\dfrac{10\times2}4=5$ が読め、答えは $0.5$ である。
計算尺が扱うのは $1$ 以上 $10$ 以下の数だけである。ほかの正の数は、$x=m\times10^n$($1\le m<10$、$n$ は整数)と書き直して、$m$ の部分だけを計算尺で計算する。この書き方がただ 1 通りであることと、$n=\lfloor\log_{10}x\rfloor$ であることは 常用対数と桁数 で示した。$n$ は常用対数の整数部分、$\log_{10}m$ は小数部分である。計算尺は小数部分の足し算だけを行い、整数部分($10$ の何乗か)は人が別に数える。thm-slr-main の 2 で $10$ で割ったのは、小数部分の和が $1$ を超えた分の整数部分を捨てたことにあたる。
$320\times0.045$ を計算する。$320=3.2\times10^2$、$0.045=4.5\times10^{-2}$ なので、計算尺では $3.2\times4.5$ を読む。$3.2\times4.5=14.4>10$ なので右の基線を使い、D 尺の $1.44$ を読む。$10$ の冪は $10^{2+(-2)}=1$ で、右の基線を使った分の $10$ を戻すと、答えは $1.44\times10\times1=14.4$ である。
大まかな見積もり $300\times0.05=15$ でも、答えが $10$ と $100$ の間にあることが分かる。実際の計算尺の使い手は、このような見積もりで小数点の位置を決めることが多い。
計算尺の目盛は人の目で読むので、位置の読み違いが起こる。位置を $\Delta$ cm だけ読み違えると、読んだ数はどれだけずれるか。
長さ $L$ の尺で、本当は数 $x$($1\le x\le10$)の位置を読むべきところを、位置を $\Delta$ だけ右にずれて読んだとする($\Delta<0$ なら左)。$\delta=\dfrac\Delta L$ とおく。
方針:1 は位置の式から読む。2 は関数 $f(t)=10^t$ に平均値の定理を使い、$10^\delta-1=f(\delta)-f(0)$ を導関数で表す。
段 1(1 の証明)。$x$ の位置は $L\log_{10}x$ なので、ずれた位置は $L\log_{10}x+\Delta=L\left(\log_{10}x+\delta\right)$ である。これは $L\log_{10}\left(x\cdot10^\delta\right)$ に等しい($\log_{10}10^\delta=\delta$ と対数の性質による)ので、読んだ数は $x'=x\cdot10^\delta$ である。よって $r=\dfrac{x\cdot10^\delta-x}x=10^\delta-1$ である。
段 2(平均値の定理)。$f(t)=10^t$ は微分可能で、$f'(t)=10^t\log10$ である($10^t=e^{t\log10}$ と合成関数の微分による)。$\delta>0$ のとき、区間 $[0,\delta]$ で平均値の定理(Leb26 Theorem 4.2.4)を使うと
$$
10^\delta-1=f(\delta)-f(0)=f'(c)\,\delta=10^c\log10\cdot\delta
$$
となる $c$($0< c<\delta$)がある。$\delta<0$ のときは区間 $[\delta,0]$ で同じように使い、$1-10^\delta=10^c\log10\cdot(-\delta)$ となる $c$($\delta< c<0$)がある。どちらの場合も $\lvert r\rvert=\lvert10^\delta-1\rvert=10^c\log10\cdot\lvert\delta\rvert$ で、$\lvert c\rvert<\lvert\delta\rvert$ である。
段 3(はさむ)。$10^t$ は増加関数で、$-\lvert\delta\rvert< c<\lvert\delta\rvert$ なので $10^{-\lvert\delta\rvert}<10^c<10^{\lvert\delta\rvert}$ である。段 2 の式に代入して 2 を得る。$\square$
平均値の定理で差を評価する方法は 平均値の定理による差の評価 で詳しく扱う。
$L=25$ cm、$\Delta=0.1$ mm $=0.01$ cm とすると $\delta=\dfrac{0.01}{25}=0.0004$ である。
(1) 相対誤差は $r=10^{0.0004}-1=0.000921\ldots$ で、prop-slr-error の近似 $\delta\log10=0.0004\times2.3026=0.000921\ldots$ とほとんど同じである。およそ $0.09\%$ である。
(2) 本当の値が $6$ なら $0.0055$ ほど、本当の値が $1.2$ なら $0.0011$ ほどずれる。差で見ると右の方が大きくずれるが、比で見ると同じである(図 3)。目盛が右ほど詰まっていること(ex-slr-positions)と、ちょうど釣り合っている。
(3) 掛け算では、D 尺の $a$ に合わせるとき、C 尺の $b$ を探すとき、D 尺を読むときの 3 回、位置がずれうる。ずれた位置は長さとして足されるので、それぞれ $0.1$ mm ずれて同じ向きに重なると $\delta=0.0012$ で、相対誤差は $10^{0.0012}-1=0.28\%$ ほどになる。
(4) $0.1\%$ から $0.3\%$ の相対誤差は、$6.00$ の場合で $\pm0.006$ から $\pm0.02$ にあたる。$6.00$ の 3 桁目はほぼ信頼でき、4 桁目は信頼できない。計算尺の答えが「有効数字 3 桁くらい」と言われるのは、このためである。
長さ 25 cm の尺で位置を 0.1 mm 読み違えたとき、読んだ値のずれ(差)は右ほど大きくなるが、相対誤差はどこでも同じ約 0.09 % であることを見る図
尺を長くすれば $\delta=\frac\Delta L$ が小さくなり、精度は上がる。同じ $0.1$ mm の読み違いでも、長さ $2.5$ m の尺なら相対誤差は $0.009\%$ ほどになる。精度を上げるために、尺を円や螺旋にして長さを稼いだ計算尺も作られた。
計算尺には、C 尺・D 尺のほかに、1 桁分の長さが半分の目盛(A 尺)が付いていることが多い。
長さ $L$ の尺に、$1\le y\le100$ の数 $y$ を左端から $\dfrac L2\log_{10}y$ の位置に書いた目盛を A 尺 という(1 桁分の長さが $\dfrac L2$ で、2 桁分が並ぶ)。A 尺と D 尺の左端をそろえると、D 尺の $x$($1\le x\le10$)の真上に A 尺の $x^2$ がある。逆に、A 尺の $y$ の真下に D 尺の $\sqrt y$ がある。
方針:A 尺の $x^2$ の位置と D 尺の $x$ の位置を式で書いて比べる。
段 1。A 尺の $x^2$ の位置は $\dfrac L2\log_{10}x^2=\dfrac L2\cdot2\log_{10}x=L\log_{10}x$ で、D 尺の $x$ の位置に等しい。$1\le x\le10$ なら $1\le x^2\le100$ なので、$x^2$ は A 尺の上にある。
段 2。$1\le y\le100$ なら $1\le\sqrt y\le10$ で、段 1 を $x=\sqrt y$ で使うと、D 尺の $\sqrt y$ の真上に A 尺の $y$ がある。$\square$
A 尺(上)は 1 桁分の長さが D 尺(下)の半分で、1 から 100 までが並ぶ。A 尺の 2 の真下に D 尺の 1.414…、D 尺の 3 の真上に A 尺の 9 がある
| 筆算 | 対数表 | 計算尺 | |
|---|---|---|---|
| 掛け算を何に変えるか | 1 桁どうしの掛け算と足し算(位取り) | 表で引いた対数の足し算 | 長さの足し算 |
| 精度 | 正確(桁数に制限なし) | 表の桁数まで(4 桁の表で有効数字 3〜4 桁) | 有効数字 3 桁ほど(ex-slr-precision) |
| 小数点 | 計算の中で決まる | 対数の整数部分で決まる | 自分で見積もる(rem-slr-decimal) |
| 速さ | 桁が多いと遅い | 表を 3 回引く | 尺を 1 回ずらすだけ |
筆算の仕組みは 整数の筆算の仕組み で扱った。対数表を使う計算は、$\log_{10}a$ と $\log_{10}b$ を表で引いて足し、その和の真数を表で逆に引く。計算尺は、この「表を引く」「足す」「逆に引く」を、目盛の位置と長さのつなぎ合わせで一度に行う道具である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 求めるのが積であること | 足し算 $2+3$ | 長さをつなぐと答えが読める |
| 正の数であること | $0$、$-2$ | 数が目盛の上にある |
| 積が $10$ 以下(左の基線を使うとき) | $3\times4$ | C 尺の $b$ の真下に積がある |
対数目盛で長さをつなぐと、読めるのは積である。$\log_{10}(a+b)$ と $\log_{10}a+\log_{10}b$ は一般に等しくない。
(1) $a=b=1$:$\log_{10}(1+1)=\log_{10}2=0.3010$ だが、$\log_{10}1+\log_{10}1=0$ である。C 尺の左の基線を D 尺の $1$ に合わせて C 尺の $1$ の真下を読むと $1$ で、これは $1\times1$ であって $1+1$ ではない。
(2) $a=2$、$b=3$:長さをつなぐと $6$ が読め(ex-slr-mul)、$5$ は読めない。$\log_{10}5=0.6990$ と $\log_{10}2+\log_{10}3=0.7782$ は違う。
足し算と引き算は、計算尺では別に筆算で行う必要がある。
$\log_{10}0$ は定義されず、$x\to+0$ で $\log_{10}x\to-\infty$ なので、$0$ は目盛のどこにも書けない。負の数も $\log_{10}$ が定義されないので書けない。$(-2)\times3$ のような計算は、符号を別に決め(負と正の積は負)、$2\times3=6$ を計算尺で読んで $-6$ とする。
$3\times4$ で左の基線を D 尺の $3$ に合わせると、C 尺の $4$ は D 尺の右端より $L\log_{10}1.2=1.98$ cm 先にはみ出し、真下に D 尺の目盛がない。thm-slr-main の 1 の仮定 $ab\le10$ が成り立っていないからである。右の基線に替える(ex-slr-examples の (1))か、D 尺をもう 1 桁分つないだ尺を想像して、はみ出た位置を 1 桁分左へ戻して読む。どちらも $10$ で割ることにあたる。
対数は、掛け算を足し算に変えて天文学や航海の計算を楽にするために作られた。
Cajori の計算尺の歴史(Caj09 pp. 5–10)によると、対数は John Napier が 1614 年に発表し、イングランドと大陸ですぐに受け入れられた。Gresham College の Henry Briggs は Napier の対数を読んで、その改良に取り組んだ。
1620 年、同じ Gresham College の Edmund Gunter は、数を対数に比例する位置に書いた直線(「数の線」)を考え、それを刻んだ定規(Gunter の尺)を作った。Gunter の尺には動く部分がなく、コンパス(ディバイダー)で長さを測り取って足したり引いたりして積や商を求めた。
コンパスを使わず、2 本の対数目盛を互いにずらして使う計算尺は、1630 年ごろに William Oughtred と Edmund Wingate がそれぞれ考えた。Oughtred の円形の計算尺の説明は、弟子の William Forster によって 1632 年に『The Circles of Proportion』として出版された。以後、計算尺は長く技術者の計算の道具として改良が続けられた。
指数関数・対数関数のグラフと逆関数 で見たとおり、常用対数 $\log_{10}$ は、掛け算についての群 $(\mathbb{R}_{>0},\times)$ から足し算についての群 $(\mathbb{R},+)$ への同型である。計算尺は、この同型を「位置」という形で目に見えるようにした道具であり、C 尺をずらすことは $(\mathbb{R},+)$ の平行移動、それを D 尺で読むことは同型で $(\mathbb{R}_{>0},\times)$ へ戻すことである。右の基線への付け替え(thm-slr-main の 2)は、整数の差を無視して足すこと、つまり足し算を $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$(円周)の上で行うことにあたる。円形の計算尺は、この円周を文字どおり円にしたものである。
誤差について、prop-slr-error は「位置のずれ $\delta$ が相対誤差 $\approx\delta\log10$ になる」ことを言っている。自然対数で書けば、相対誤差は $\log x'-\log x$ に近い。積 $P=xy$ では $\log P=\log x+\log y$ なので、$x$ と $y$ の相対誤差はほぼそのまま足される。大学の実験や数値計算で使う「積や商の相対誤差は、各因子の相対誤差の和で見積もれる」という規則(誤差の伝播)は、計算尺で位置のずれが足されること(ex-slr-precision の (3))と同じことである。
$L=25$ cm の C 尺・D 尺で、次の計算の手順(どの基線を D 尺のどこに合わせ、どこを読むか)を書き、読む位置(D 尺の左端からの cm)を求めよ。
(1) $4.5\times3.2$ (2) $8\mathbin{÷}2.5$
(1) $4.5\times3.2=14.4>10$ なので、C 尺の右の基線を D 尺の $4.5$ に合わせ、C 尺の $3.2$ の真下を読む(thm-slr-main の 2)。位置は $25\log_{10}1.44=3.959$ cm で、D 尺の $1.44$ が読める。答えは $14.4$ である。
(2) C 尺の $2.5$ を D 尺の $8$ に合わせる。$8\ge2.5$ なので、C 尺の左の基線の真下を読む(thm-slr-main の 3)。位置は $25\log_{10}\dfrac8{2.5}=25\log_{10}3.2=12.629$ cm で、D 尺の $3.2$ が読める。
長さ $L=12.5$ cm の尺で位置を $0.1$ mm 読み違えたときの相対誤差を、prop-slr-error の近似 $\delta\log10$ で求めよ。$L=25$ cm の場合と比べるとどうなるか。
$\delta=\dfrac{0.01}{12.5}=0.0008$ なので、相対誤差はおよそ $0.0008\times2.3026=0.00184$、つまり $0.18\%$ である。$L=25$ cm の場合($0.09\%$、ex-slr-precision)の 2 倍になる。尺の長さを半分にすると $\delta$ が 2 倍になるからである。正確には $10^{0.0008}-1=0.001844\ldots$ である。
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