Didoの問題(Dido's problem)とは、長さ $L$ の紐の両端をまっすぐな岸の上に置き、紐と岸で囲む面積を最大にする問題である。紐が両端以外で岸の片側にあり自分自身と交わらないとき、面積は $\frac{L^2}{2\pi}$ 以下で、等号は紐が両端を結ぶ線分を直径とする半円のときに限る。証明は、図形を岸で折り返して周 $2L$、面積が 2 倍の図形にし、角のある閉曲線の等周不等式を使う。同じ長さの棒 $n$ 本の折れ線では正 $2n$ 角形の半分が最大である($n\ge3$ では多角形の等周問題で認めた最大の存在を使う)。2 枚の壁のなす角が $\pi/k$ なら、折り返しを繰り返して、面積は $\frac{kL^2}{2\pi}$ 以下で、最大は角の頂点を中心とする扇形である。
前提知識: 等周不等式(高校数学), 多角形の等周問題
まっすぐな海岸に、長さ $12$ の紐を持って立つ。紐の両端を岸に置き、紐と岸で陸地を囲む。岸の部分には紐が要らない。面積をいちばん大きくするには、紐をどんな形に張ればよいだろうか。
古代の町カルタゴの建国の伝説では、女王 Dido が「牛 1 頭の皮で囲めるだけの土地」を与えられ、皮を細い紐に切って海岸に沿って土地を囲んだという(Vergilius の叙事詩『アエネーイス』に伝わる)。このため、岸を使って囲む面積を最大にする問題を Dido の問題 という。
岸を $x$ 軸とし、紐は岸の上側にあるとする。
(1) 長方形の 3 辺:岸に垂直な 2 辺を $h$、岸に平行な辺を $12-2h$ とすると($0< h<6$)、面積は
$$
h(12-2h)=-2(h-3)^2+18
$$
で、$h=3$ のとき最大の $18$ である(2次関数の最大・最小)。
(2) 長さ $6$ の棒 2 本:2 本の間の角を $\theta$ とすると、面積は $\dfrac12\cdot6\cdot6\sin\theta=18\sin\theta$ で、$\theta=90^\circ$ のとき最大の $18$ である。
(3) 長さ $4$ の棒 3 本を、1 辺 $4$ の正六角形の半分の形に置く:正三角形 3 つ分で、面積は $3\cdot\dfrac{\sqrt3}4\cdot4^2=12\sqrt3=20.78\ldots$ である。
(4) 半円:弧の長さ $\pi r=12$ から半径は $r=\dfrac{12}\pi$ で、面積は $\dfrac12\pi r^2=\dfrac12\pi\cdot\dfrac{144}{\pi^2}=\dfrac{72}\pi=22.91\ldots$ である。
同じ長さ $12$ の紐を輪にして岸を使わずに囲むと、最大は円の $\dfrac{144}{4\pi}=\dfrac{36}\pi=11.45\ldots$ である(等周不等式(高校数学))。岸を使うと、半円で $\dfrac{72}\pi$、ちょうど 2 倍になる。
長さ 12 の紐と岸で囲んだ図形。長方形の 3 辺は面積 18、直角をなす 2 本の棒は 18、正六角形の半分は 12√3、半円は 72/π で、半円が最も広い
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 直線に関する対称移動 | 岸で折り返して閉曲線を作る | 鏡映による対称性の利用 |
| 閉曲線の等周不等式 $L^2\ge4\pi S$ | 岸つきの不等式 $L^2\ge2\pi S$ | 境界条件つきの等周問題 |
| 半円・四分円 | 最大の形 | 変分問題の解(曲率一定の曲線) |
| 2 回の折り返しは回転 | 壁の角での折り返し | 二面体群 |
以下、岸を直線 $\ell$ とし、座標をとるときは $\ell$ を $x$ 軸にする。
$\ell$ の上の異なる 2 点 $P$、$Q$ を結ぶ曲線 $C$ で、次を満たすものを 紐 という。
(R1) $C$ は、$P$、$Q$ 以外では $\ell$ の片側($y>0$ の側)にある。
(R2) $C$ は自分自身と交わらない。
(R3) $C$ は有限個の点を除いて滑らかで、その各部分は正則な $C^1$ 曲線である(角が有限個ある曲線を許す)。
$C$ の長さを $L$ とする。$C$ と線分 $PQ$ で囲まれた図形を $D$、その面積を $S$ とし、$D$ を「紐が岸と囲む図形」という。
条件 (iii) の「正則な $C^1$ 曲線」は、等周不等式(高校数学) と同じく、媒介変数 $t$ で $(x(t),y(t))$ と表したとき $x'(t)$、$y'(t)$ が連続で、速さ $\sqrt{x'(t)^2+y'(t)^2}$ が $0$ にならないことである。折れ線は条件 (iii) を満たす(角は頂点だけ)。
等周不等式(高校数学) の主定理は、角のない閉曲線(正則な閉じた $C^1$ 曲線)について証明されている。岸で折り返すと、紐の両端 $P$、$Q$ に角ができることが多い(紐が岸に斜めに当たるとき)。そこで、角を許した形で使う。
図形 $E$ の境界が、有限個の点を除いて滑らかな閉曲線(各部分が正則な $C^1$ 曲線)で、自分自身と交わらないとする。境界の長さを $L_E$、$E$ の面積を $S_E$ とすると
$$
L_E^2\ge4\pi S_E
$$
であり、等号が成り立つのは $E$ が円板のときに限る。ただし、面積については 等周不等式(高校数学) の系「図形の等周不等式」と同じ仮定(面積が境界の符号付き面積に等しいこと)をおく。
要点:等周不等式(高校数学) の主定理の証明(Hurwitz の証明)は、角があってもそのまま通る。変わるのは、(i) 導関数の Fourier 係数の補題を、角で区切った区間ごとの部分積分で示すこと、(ii) Parseval の等式を、角で値がとぶ導関数(区分的に連続な関数)にも使うことの 2 点だけである。
段 1(速さを一定にする)。境界を $t\in[-\pi,\pi]$ で表し、角の点で区切ると、各区間で速さは正で連続である。途中までの長さで目盛りを付け直す方法(等周不等式(高校数学) の補題「速さを一定にする取り替え」)は、区間ごとに同じようにでき、付け直した曲線 $(x(u),y(u))$ は連続で、角の点を除いて $x'^2+y'^2=\left(\dfrac{L_E}{2\pi}\right)^2$ を満たす。長さと符号付き面積は変わらない。
段 2(導関数の係数)。$x$ は連続で周期 $2\pi$、角の点 $u_1<\cdots< u_m$ を除いて $C^1$ とする。$n\ge1$ について $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}x'(u)\cos nu\,du$ を区間 $[u_{j},u_{j+1}]$ ごとに部分積分すると、境界の項 $\bigl[x(u)\cos nu\bigr]_{u_j}^{u_{j+1}}$ の和は、$x$ が連続で周期 $2\pi$ なので打ち消し合って $0$ になる。したがって $\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}x'\cos nu\,du=n\int_{-\pi}^{\pi}x\sin nu\,du$ となり、$\sin nu$ でも同じで、「導関数の係数は $n$ 倍」がそのまま成り立つ。
段 3(Parseval の等式)。$x'$、$y'$ は角の点で値がとぶが、有界で区分的に連続なので Riemann 積分でき、Parseval の等式が成り立つ(Leb26 定理 11.8.13。周期 $2\pi$ の Riemann 積分可能な関数についての Parseval の定理)。同じ定理は 2 つの関数の積の積分を係数で書く形も含むので、等周不等式(高校数学) の命題「積の積分を係数で書く」も $f=x$、$g=y'$ のまま使える。$x$、$y$ 自身は連続なので、係数がすべて等しい連続関数は等しいという後半の主張は角のない場合と同じく使える。
段 4(残り)。段 1〜3 で、等周不等式(高校数学) の定理「エネルギーと符号付き面積の係数表示」の証明に使う事実がすべてそろう。あとは主定理とその系の証明を一字一句そのままたどれば、$L_E^2\ge4\pi S_E$ と、等号は境界が円を 1 周するとき、つまり $E$ が円板のときに限ることが得られる。$\square$
長さ $L$ の紐 $C$ が岸 $\ell$ と囲む図形の面積 $S$ は
$$
S\le\frac{L^2}{2\pi}
$$
を満たし、等号は $C$ が線分 $PQ$ を直径とする半円のときに限る。
方針:紐が岸と囲む図形 $D$ を岸で折り返した図形 $D'$ と合わせると、境界が閉曲線の図形になる。その周の長さは $2L$、面積は $2S$ なので、lem-dido-iso が使える。
段 1(折り返す)。$\ell$ を $x$ 軸とし、点 $(x,y)$ を $(x,-y)$ に移す $\ell$ に関する対称移動で、$C$ を $C'$ に、$D$ を $D'$ に移す。対称移動は長さと面積を変えないので、$C'$ の長さは $L$、$D'$ の面積は $S$ である。$C'$ の両端も $P$、$Q$ である($\ell$ の上の点は動かない)。
段 2(合わせた図形)。条件 (i) により、$C$ は $P$、$Q$ 以外で $y>0$ の側に、$C'$ は $y<0$ の側にあるので、$C$ と $C'$ は $P$、$Q$ でだけ出会う。$C$ と $C'$ をつなぐと、自分自身と交わらない閉曲線 $\Gamma$ ができる。$\Gamma$ は $P$、$Q$ と、$C$、$C'$ の角を除いて滑らかで、長さは $L+L=2L$ である。$\Gamma$ が囲む図形 $E$ は、$D$($y\ge0$ の側)と $D'$($y\le0$ の側)を線分 $PQ$ で貼り合わせたもので、$D$ と $D'$ は重ならないので、面積は $S+S=2S$ である。$\Gamma$ を反時計回りにたどると、その符号付き面積は $E$ の面積 $2S$ に等しい(自分自身と交わらない閉曲線が囲む図形についてのこの事実は Green の定理の特別な場合で、等周不等式(高校数学) の注意「もっと一般の図形」と同じく、この記事では証明しない)。
段 3(不等式)。$E$ に lem-dido-iso を使うと
$$
(2L)^2\ge4\pi\cdot2S,\qquad\text{つまり}\qquad4L^2\ge8\pi S
$$
である。両辺を $8\pi$ で割って $S\le\dfrac{L^2}{2\pi}$ を得る。
段 4(等号なら半円)。等号が成り立つとき、段 3 の不等式も等号なので、lem-dido-iso により $E$ は円板で、$\Gamma$ はその円である。$E$ は作り方から $\ell$ に関して対称なので、対称移動は円 $\Gamma$ を自分自身に移し、円の中心を中心に移す。中心は動かない点なので $\ell$ の上にある。中心が $\ell$ の上にある円と $\ell$ の交点は直径の両端で、それは $\Gamma$ と $\ell$ の共有点 $P$、$Q$ である。$C$ は $\Gamma$ の $y\ge0$ の部分なので、線分 $PQ$ を直径とする半円である。
段 5(半円なら等号)。逆に $C$ が半径 $r$ の半円なら、$L=\pi r$、$S=\dfrac{\pi r^2}2$ で、$\dfrac{L^2}{2\pi}=\dfrac{\pi^2r^2}{2\pi}=\dfrac{\pi r^2}2=S$ である。$\square$
半円の紐 C と岸の線分 PQ で囲んだ図形 D
D を岸で折り返した D' と合わせると、周 2L の円板になる。破線は折り返した紐
図 2 の半円(長さ $12$、面積 $\dfrac{72}\pi$)を岸で折り返すと、図 3 のように長さ $24$ の円(面積 $\dfrac{144}\pi$)になる。長さ $24$ の閉曲線の中では円が最も広い(面積 $\dfrac{24^2}{4\pi}=\dfrac{144}\pi$)ので、その半分の $\dfrac{72}\pi$ を超える紐はない。これが証明の要点である。
$L=12$ では上限は $\dfrac{144}{2\pi}=\dfrac{72}\pi=22.91\ldots$ である。ex-dido-start の (1)〜(3) はそれぞれ $18$、$18$、$12\sqrt3=20.78\ldots$ で、どれも上限より小さく、(4) の半円で等号になる。
(1) の長方形の 3 辺を岸で折り返すと、$6\times6$ の正方形(周 $24$、面積 $36$)になる。(2) の直角をなす 2 本の棒を折り返すと、1 辺 $6$ の正方形を $45^\circ$ 傾けたもの(周 $24$、面積 $36$)になる。どちらも面積は $2\times18=36$ で、周 $24$ の円の面積 $\dfrac{144}\pi=45.8\ldots$ より小さい。
長さ $12$ の円弧の両端を岸に置く。円弧の中心角を $2t$ とすると、半径は $R=\dfrac{12}{2t}=\dfrac6t$ である。弦 $PQ$ と円弧で囲まれた部分(弓形)の面積は、扇形から三角形を引いて($t>\dfrac\pi2$ のときは三角形を足して)$R^2(t-\sin t\cos t)$ になる。
(1) 中心角 $120^\circ$($t=\dfrac\pi3$):$R=\dfrac{18}\pi$ で、面積は $\dfrac{324}{\pi^2}\left(\dfrac\pi3-\dfrac{\sqrt3}4\right)=\dfrac{108}\pi-\dfrac{81\sqrt3}{\pi^2}=20.16\ldots$ である。
(2) 半円($t=\dfrac\pi2$):$R=\dfrac{12}\pi$ で、面積は $\dfrac{144}{\pi^2}\cdot\dfrac\pi2=\dfrac{72}\pi=22.91\ldots$ である。
(3) 中心角 $240^\circ$($t=\dfrac{2\pi}3$):$R=\dfrac9\pi$ で、面積は $\dfrac{81}{\pi^2}\left(\dfrac{2\pi}3+\dfrac{\sqrt3}4\right)=\dfrac{54}\pi+\dfrac{81\sqrt3}{4\pi^2}=20.74\ldots$ である。
円弧の形は同じでも、岸にまっすぐ(垂直に)当たる半円だけが最大になる。(1) は膨らみが足りず、(3) は膨らみすぎて岸の近くで細くなる。
長さ 12 の円弧の両端を岸に置いたもの。中心角 120°、半円、中心角 240° の面積は 20.16、22.92、20.74 で、半円が最大
等周不等式(高校数学) の反例「周の一部を数えない(半円)」では、半円の弧の長さ $L'=\pi r$ だけを数えると $L'^2<4\pi S$ となり、閉曲線の等周不等式が成り立たなかった。主定理は、岸を使う場合の正しい不等式が $L'^2\ge2\pi S$ であることを示している。半円では $L'^2=\pi^2r^2$、$2\pi S=2\pi\cdot\dfrac{\pi r^2}2=\pi^2r^2$ で、ちょうど等号である。
紐の代わりに、長さ $l$ の棒 $n$ 本($n\ge2$)をつないだ折れ線で岸と囲む。折れ線 $P=V_0,V_1,\ldots,V_n=Q$ は、def-dido-setting の条件 (i)〜(iii) を満たすとする($V_1,\ldots,V_{n-1}$ は岸より上にあり、折れ線は自分自身と交わらない)。
長さ $l$ の棒 $n$ 本の折れ線が岸と囲む図形の面積 $S$ は
$$
S\le\frac{nl^2}{4\tan\frac\pi{2n}}
$$
を満たし、等号は折れ線が正 $2n$ 角形の半分(頂点が $PQ$ を直径とする半円の上に等間隔に並ぶ形)のときに限る。ただし、$n\ge3$ では 多角形の等周問題 の主定理を使うので、そこで認めた「面積が最大の多角形があること」を同じく認める。
段 1(折り返す)。prf-dido-main の段 1・段 2 と同じく岸で折り返すと、頂点 $P,V_1,\ldots,V_{n-1},Q,V_{n-1}',\ldots,V_1'$ の $2n$ 角形ができる($V_i'$ は $V_i$ を折り返した点)。周の長さは $2nl$、面積は $2S$ である。$P$、$Q$ での内角は $180^\circ$ になることもあるが、多角形の等周問題 の $2n$ 角形の定義ではそれを許している。
段 2(多角形の等周不等式)。多角形の等周問題 の主定理を $2n$ 角形に使うと
$$
2S\le\frac{(2nl)^2}{4\cdot2n\tan\frac\pi{2n}}=\frac{nl^2}{2\tan\frac\pi{2n}}
$$
なので、$S\le\dfrac{nl^2}{4\tan\frac\pi{2n}}$ である。
段 3(等号)。等号なら $2n$ 角形は正 $2n$ 角形である。$P$ と $Q$ の間には、どちら回りにも $n$ 本の辺があるので、$P$ と $Q$ は向かい合う頂点で、線分 $PQ$ は外接円の直径である。折れ線はその片側の半分で、頂点は $PQ$ を直径とする半円の上に等間隔に並ぶ。逆にこの形なら、折り返した $2n$ 角形は正 $2n$ 角形で、等号が成り立つ。$\square$
$n=2$ の場合は、多角形の等周問題を使わずに直接示せる。2 本の棒の間の角を $\theta$ とすると、囲む図形は 2 辺 $l,l$ と間の角 $\theta$ の三角形で、面積は $\dfrac12l^2\sin\theta\le\dfrac12l^2$、等号は $\theta=90^\circ$ のときである。式でも $\dfrac{2l^2}{4\tan\frac\pi4}=\dfrac{l^2}2$ で一致し、直角二等辺三角形は正方形の半分である。
棒の長さの合計を $12$ にする($l=\dfrac{12}n$)。上限は $\dfrac{n\cdot144/n^2}{4\tan\frac\pi{2n}}=\dfrac{36}{n\tan\frac\pi{2n}}$ である。
| $n$ | $2$ | $3$ | $4$ | $6$ | 紐(半円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 最大の面積 | $18$ | $12\sqrt3=20.78\ldots$ | $9+9\sqrt2=21.72\ldots$ | $12+6\sqrt3=22.39\ldots$ | $\dfrac{72}\pi=22.91\ldots$ |
$n=3$ は ex-dido-start (3) の正六角形の半分、$n=2$ は (2) の直角の 2 本の棒である。$n$ を増やすと、$n\tan\dfrac\pi{2n}\to\dfrac\pi2$ なので、上限は $\dfrac{36}{\pi/2}=\dfrac{72}\pi$ に近づく。3 本の棒を長方形の 3 辺($4,4,4$)の形に置くと面積は $16$ で、上限 $12\sqrt3$ より小さい。
岸が 1 本の直線ではなく、点 $O$ で交わる 2 枚のまっすぐな壁($O$ から出る 2 本の半直線)だとする。紐の両端を別々の壁の上の、$O$ とは異なる点に置き、紐と 2 枚の壁で囲む。紐は、両端以外では 2 枚の壁の間の角の内部にあり、def-dido-setting の条件 (ii)・(iii) を満たすとする。
2 枚の壁のなす角が $\alpha=\dfrac\pi k$($k$ は正の整数)のとき、長さ $L$ の紐が壁と囲む図形の面積 $S$ は
$$
S\le\frac{L^2}{2\alpha}=\frac{kL^2}{2\pi}
$$
を満たし、等号は紐が $O$ を中心とする円弧(囲む図形が中心角 $\alpha$ の扇形)のときに限る。
方針:2 枚の壁を含む 2 本の直線に関する折り返しを繰り返すと、角 $\alpha$ の部分のコピーが $O$ のまわりを重ならずに 1 周する。紐のコピーをつなぐと閉曲線になる。$k=1$ は主定理なので、$k\ge2$ とする。
段 1(コピーを並べる)。$O$ のまわりを、$O$ から出る $2k$ 本の半直線で、角 $\dfrac\pi k$ の $2k$ 個の部分に分ける。もとの壁の間の部分を 1 番目とし、隣の部分との境の直線に関して折り返すと、紐と図形のコピーが 2 番目の部分にできる。これを境ごとに続けると、$2k$ 個の部分のそれぞれに、紐と図形のコピーが 1 つずつできる。折り返しは長さと面積を変えないので、紐のコピーの長さはどれも $L$、図形のコピーの面積はどれも $S$ である。
段 2(閉曲線)。隣り合う 2 つのコピーの紐は、境の半直線の上の同じ点(折り返しで動かない点)で出会う。$2k$ 回目の折り返しで 1 番目にもどり(角の和が $2k\cdot\dfrac\pi k=2\pi$)、紐のコピーは長さ $2kL$ の閉曲線 $\Gamma$ をつくる。各コピーは両端以外では自分の部分の内部にあるので、$\Gamma$ は自分自身と交わらない。$\Gamma$ が囲む図形は $2k$ 個の図形のコピーを合わせたもので、面積は $2kS$ である。$\Gamma$ の符号付き面積がこの面積に等しいことは、prf-dido-main の段 2 と同じく認める。
段 3(不等式)。lem-dido-iso により $(2kL)^2\ge4\pi\cdot2kS$ で、$S\le\dfrac{4k^2L^2}{8\pi k}=\dfrac{kL^2}{2\pi}=\dfrac{L^2}{2\alpha}$ である。
段 4(等号)。等号なら $\Gamma$ は円である。コピーの並べ方から、$\Gamma$ が囲む図形は 2 枚の壁を含む直線のそれぞれに関して対称なので、円の中心はその 2 本の直線の両方の上、つまり交点 $O$ にある。紐は $\Gamma$ の一部なので、$O$ を中心とする円弧である。逆に、半径 $r$、中心角 $\alpha$ の円弧なら $L=\alpha r$、$S=\dfrac12\alpha r^2=\dfrac{L^2}{2\alpha}$ で等号になる。$\square$
$\alpha=\dfrac\pi2$($k=2$)、$L=12$ とする。上限は $\dfrac{2\cdot144}{2\pi}=\dfrac{144}\pi=45.8\ldots$ で、半径 $r=\dfrac{12}{\pi/2}=\dfrac{24}\pi$ の四分円のときである($\dfrac14\pi r^2=\dfrac\pi4\cdot\dfrac{576}{\pi^2}=\dfrac{144}\pi$)。紐を折り曲げて 1 辺 $6$ の正方形の 2 辺にすると、面積は $36$ で上限より小さい。2 枚の壁で合わせて 4 枚のコピーを作ると、四分円は長さ $48$ の円に、正方形は 1 辺 $12$ の正方形(面積 $144$)になり、周 $48$ の円の面積 $\dfrac{48^2}{4\pi}=\dfrac{576}\pi=183.3\ldots$ はその $4$ 倍 $4\cdot\dfrac{144}\pi$ である。
直角の壁と長さ 12 の紐。最大は O を中心とする四分円で、面積は 144/π
2 枚の壁で折り返して 4 枚のコピーを並べると、四分円は長さ 48 の円になる。破線はコピーの紐
壁の角が $\dfrac\pi k$ の形でない一般の角 $\alpha$($0<\alpha<\pi$)でも、$O$ を中心とする円弧が最大で、$S\le\dfrac{L^2}{2\alpha}$ となることが知られている(この記事では証明しない)。折り返しでコピーを並べる方法は、コピーが $O$ のまわりにちょうど 1 周分並ぶ $\alpha=\dfrac\pi k$ のときにしか使えない。
| 岸の形 | 最大の面積 | 最大の形 | 折り返してできる閉曲線 |
|---|---|---|---|
| 岸なし(輪にする) | $\dfrac{L^2}{4\pi}$ | 円 | (折り返さない) |
| 直線の岸 | $\dfrac{L^2}{2\pi}$ | 半円 | 2 枚で長さ $2L$ の円 |
| 直角の壁 | $\dfrac{L^2}\pi$ | 四分円 | 4 枚で長さ $4L$ の円 |
| 角 $\dfrac\pi k$ の壁 | $\dfrac{kL^2}{2\pi}$ | 中心角 $\dfrac\pi k$ の扇形の弧 | $2k$ 枚で長さ $2kL$ の円 |
岸の角が小さいほど、同じ長さの紐で広く囲める。どの場合も、答えは「折り返して円になる形」である。
thm-dido-main の仮定を外すと、次のように崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 紐の両端を岸の上に置く | 両端を結んで輪にした紐 | 面積 $\dfrac{L^2}{2\pi}$ まで囲める |
| 紐が岸の片側にある(条件 (i)) | 岸をまたぐ S 字の紐 | 折り返した曲線が自分自身と交わらない(証明の段 2) |
| 岸がまっすぐである | 直角に曲がった岸 | 最大の形が半円である |
紐の両端を岸に置かず、両端を結んで輪にすると、岸は使えない。これは閉曲線の等周問題そのもので、長さ $12$ の輪の面積の最大は円の $\dfrac{36}\pi=11.45\ldots$ である(等周不等式(高校数学))。半円で岸と囲む $\dfrac{72}\pi$ の半分しかない。岸の部分に紐が要らないことが、面積を 2 倍にしている。
$P(-2,0)$ から、中心 $(-1,0)$、半径 $1$ の上半分の半円で原点 $O$ に行き、そこから中心 $(1,0)$、半径 $1$ の下半分の半円で $Q(2,0)$ に行く S 字の紐を考える。長さは $\pi+\pi=2\pi$ で、紐と岸は 2 つの半円板(面積の和 $\dfrac\pi2+\dfrac\pi2=\pi$)を囲む。
この紐を岸で折り返すと、折り返した紐ももとの紐も原点を通り、つないだ曲線は原点で自分自身と交わる(2 つの円が原点で接した「8 の字」になる)。prf-dido-main の段 2 の「自分自身と交わらない閉曲線」ができず、lem-dido-iso を直接は使えない。
この例では、折り返す前に、岸の下にある部分を岸で折り返して上側に移せばよい。長さも囲む面積も変わらない(一般の紐では、移した部分がほかの部分と重なることがあり、もう一工夫が要る。この記事では扱わない)。さらに、紐が岸に触れる点(ここでは原点)で紐を分けると、各部分(長さ $L_1=\pi$、$L_2=\pi$)は主定理の仮定を満たし、面積は $S_1\le\dfrac{L_1^2}{2\pi}$、$S_2\le\dfrac{L_2^2}{2\pi}$ である。足すと
$$
S_1+S_2\le\frac{L_1^2+L_2^2}{2\pi}\le\frac{(L_1+L_2)^2}{2\pi}
$$
で、全体でも $S\le\dfrac{L^2}{2\pi}$ が成り立つ。この例では $\pi\le\dfrac{(2\pi)^2}{2\pi}=2\pi$ で、1 つの大きな半円(半径 $2$、面積 $2\pi$)の方が広い。
岸をまたぐ S 字の紐。原点で岸を横切り、右半分は岸の下にある
岸の下の部分を岸で折り返して上側に移した紐。長さも囲む面積も変わらない
岸が直角に曲がっている場合(ex-dido-corner の 2 枚の壁)に、長さ $12$ の紐を半円の形にして両端を 2 枚の壁に置く。半円の直径は $c=\dfrac{24}\pi$ で、両端を $(a,0)$、$(0,b)$($a^2+b^2=c^2$)に置くと、囲む面積は直角三角形 $\dfrac12ab$ と半円板 $\dfrac\pi8c^2$ の和である。$ab\le\dfrac{a^2+b^2}2=\dfrac{c^2}2$ なので、面積は最大でも
$$
\frac{c^2}4+\frac{\pi c^2}8=\frac{(2+\pi)c^2}8=\frac{72(2+\pi)}{\pi^2}=37.5\ldots
$$
で、四分円の $\dfrac{144}\pi=45.8\ldots$ より小さい。岸の形が変わると、最大の形は半円ではなくなる。
Dido の問題は、「長さが $L$ という条件のもとで、面積という量を最大にする曲線を求める」問題である。関数ではなく曲線を動かして最大を探す問題を 変分問題 という(変分法)。
最大の紐があるとすると、紐を少し動かしたときの面積の変化と長さの変化の比が、紐のどこでも同じでなければならない(Lagrange の未定乗数法の曲線版。Lagrangeの未定乗数法)。この条件を式にすると、紐の曲がり具合(曲率)が一定であることになり、紐は円弧である。さらに、紐の端は岸の上を自由に動けるので、端で紐は岸に垂直に当たらなければならない。岸に垂直に当たる円弧は、中心が岸の上にある円弧、つまり半円である(この記事では証明しない)。
この議論が与えるのは「最大があれば半円」という必要条件である。ex-dido-arcs の中心角 $120^\circ$、$240^\circ$ の円弧は、曲率は一定だが岸に垂直でないので、最大ではない。最大が本当にあること、そして半円が最大であることは、別に確かめる必要がある。この記事の主定理は、岸で折り返して閉曲線の等周不等式に帰着させることで、存在を仮定せずにこれを示した(閉曲線の等周不等式は 等周不等式(高校数学) で Fourier 級数を使って証明されている)。存在の問題については 多角形の等周問題 の Perron のパラドックスも参照。
prop-dido-corner で使った 2 本の直線に関する折り返しは、続けて行うと、交点 $O$ を中心とする角 $2\alpha$ の回転になる(平面の合同変換の分類)。$\alpha=\dfrac\pi k$ のとき、2 つの折り返しを何回か続けて得られる合同変換は、$O$ を中心とする $k$ 個の回転(恒等変換を含む)と、$O$ を通る $k$ 本の直線に関する折り返しの、合わせて $2k$ 個である。これは 二面体群 とよばれる群で(二面体群)、prf-dido-corner の $2k$ 枚のコピーは、この $2k$ 個の変換で紐を移したものにあたる。
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