Ehrhart多項式

同義語:Ehrhart polynomial

概要

Ehrhart多項式(Ehrhart polynomial)とは、頂点がすべて格子点である $\mathbb{R}^d$ の $d$ 次元の凸多面体 $P$ について、$tP$ に含まれる格子点の個数を正の整数 $t$ の関数として表す多項式である。Ehrhart の定理により、この個数は $t$ の $d$ 次多項式に一致し、最高次の係数は $P$ の体積、定数項は $1$ である。二項係数 $\binom{t+d-j}{d}$ で展開した係数($h^*$ ベクトル)は非負整数で、負の整数での値は内部の格子点の個数を符号付きで与える(Ehrhart–Macdonald の相反定理)。平面の凸な格子多角形では Pick の定理にあたるが、3 次元では $P$ 自身の境界と内部の格子点の個数だけから体積は決まらない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 格子点, 多面体, 凸包, 三角形分割, 重心座標, 二項係数

格子多角形 $Q$ を $t$ 倍した図形の格子点の個数は、Pickの定理 から $\operatorname{Area}(Q)\,t^2+\frac{B}{2}t+1$($B$ は $Q$ の境界の格子点の個数)という $t$ の多項式になる(格子点 の系「格子多角形を整数倍したときの格子点の個数」)。Ehrhart の定理は、これが任意の次元の格子多面体で成り立つことを主張する。すなわち、頂点がすべて格子点である $\mathbb{R}^d$ の $d$ 次元の凸多面体 $P$ について、$tP$ に含まれる格子点の個数は正の整数 $t$ の $d$ 次多項式であり、その最高次の係数は $P$ の体積、定数項は $1$ である。この多項式を Ehrhart 多項式 という。
この記事では、格子単体の半開の錐の格子点を「基本平行体」の格子点で数える方法と、三角形分割を半開の単体の非交和に組み直す方法を使って、Ehrhart の定理を完全に証明する。同じ証明から、Ehrhart 多項式を二項係数の基底で展開した係数が非負整数であること(Stanley の非負性)も得られる。次に単体の場合の相反定理を証明し、Reeve の四面体で 3 次元では Pick の定理の類似が成り立たないことを確かめる。

定義

以下 $d\ge1$ とし、$\mathbb{Z}^d$ の点を格子点という(格子点)。

格子多面体

$\mathbb{R}^d$ の有限個の格子点の 凸包 を 格子多面体(lattice polytope)という。格子多面体は 多面体 の意味の凸多面体で、その頂点はすべて格子点である。$P$ を含む最小のアフィン部分空間の次元を $P$ の 次元 といい、$\dim P=d$ のとき $P$ は 全次元 であるという。有限個の有理点(座標がすべて有理数の点)の凸包を 有理多面体 という。

格子点の数え上げ関数

有界な集合 $S\subset\mathbb{R}^d$ と正の整数 $t$ について $tS:=\{tx\mid x\in S\}$ とおき、
$$ L_S(t):=\#\bigl(tS\cap\mathbb{Z}^d\bigr) $$
を $S$ の 格子点の数え上げ関数 という。$P$ が格子多面体で、多項式 $E_P(x)\in\mathbb{Q}[x]$ がすべての正の整数 $t$ について $E_P(t)=L_P(t)$ をみたすとき、$E_P$ を $P$ の Ehrhart 多項式(Ehrhart polynomial)という(無限個の点で値が決まるので、存在すれば一意である)。$P$ の相対的な内部($P$ を含む最小のアフィン部分空間の中での内部)を $P^\circ$ と書く。

二項係数を多項式として $\binom{x+d}{d}:=\frac{(x+1)(x+2)\cdots(x+d)}{d!}$ と書く。整数 $s\ge0$ では $\binom{s+d}{d}$ は通常の二項係数で、$\{k\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{d+1}\mid k_0+\cdots+k_d=s\}$ の元の個数に等しい(二項係数)。また $s=-1,-2,\dots,-d$ では $\binom{s+d}{d}=0$ である。

Ehrhart の定理

Ehrhartの定理

$P\subset\mathbb{R}^d$ を全次元の格子多面体とする。このとき非負整数 $h_0^*,h_1^*,\dots,h_d^*$ があって、すべての正の整数 $t$ について
$$ L_P(t)=\sum_{j=0}^{d}h_j^*\binom{t+d-j}{d} $$
が成り立つ。とくに $P$ の Ehrhart 多項式 $E_P(x)=\sum_j h_j^*\binom{x+d-j}{d}$ が存在して、次をみたす。

  1. $E_P$ は $d$ 次多項式で、$x^d$ の係数は $P$ の体積 $\operatorname{vol}(P)$ である。
  2. $E_P(0)=1$ である($h_0^*=1$)。
  3. $h_0^*+h_1^*+\cdots+h_d^*=d!\operatorname{vol}(P)$ であり、$E_P$ の各係数に $d!$ を掛けると整数になる。
証明の方針と $h^*$ ベクトル

$(h_0^*,\dots,h_d^*)$ を $P$ の $h^*$ ベクトル という。$\binom{x+d-j}{d}$($j=0,\dots,d$)は次数 $d$ 以下の多項式の空間の基底なので、$h^*$ ベクトルは $E_P$ から一意に決まる。証明では、単体の半開の錐の格子点を数える補題(lem-ehr-half-open)と、三角形分割を半開の単体の非交和に組み直す補題(lem-ehr-decomposition)を用意し、両者を足し合わせる(prf-ehr-main)。

格子単体の半開の錐

$\Delta\subset\mathbb{R}^d$ を頂点 $v_0,\dots,v_d$ が格子点の $d$ 次元単体とし、$x\in\Delta$ の 重心座標 を $\lambda_0(x),\dots,\lambda_d(x)$($\lambda_i\ge0$、$\sum_i\lambda_i=1$、$x=\sum_i\lambda_iv_i$)と書く。$\lambda_i$ は $\mathbb{R}^d$ 全体のアフィン関数に延びる。$I\subset\{0,\dots,d\}$ について
$$ \Delta_I:=\{x\in\Delta\mid i\in I\text{ ならば }\lambda_i(x)>0\} $$
を 半開の単体 という($\Delta_\emptyset=\Delta$。$I$ に属する $i$ について、$v_i$ の対面を除いたもの)。$w_i:=(v_i,1)\in\mathbb{Z}^{d+1}$ とおき、
$$ \Pi_I:=\Bigl\{\sum_{i=0}^d\mu_iw_i\Bigm| i\in I\text{ なら }0< \mu_i\le1,\ i\notin I\text{ なら }0\le\mu_i<1\Bigr\} $$
を 半開の基本平行体 という。$p=(p',p_{d+1})\in\mathbb{R}^{d+1}$ の最後の座標 $p_{d+1}$ を $p$ の 高さ といい、$\operatorname{ht}(p)$ と書く。

半開の単体の格子点

$I\neq\{0,1,\dots,d\}$ とし、$h_{I,j}$ を $\Pi_I\cap\mathbb{Z}^{d+1}$ の高さ $j$ の点の個数とする。このとき $h_{I,j}=0$($j>d$)、$h_{I,0}=1$($I=\emptyset$ のとき)、$h_{I,0}=0$($I\neq\emptyset$ のとき)であり、すべての正の整数 $t$ について
$$ L_{\Delta_I}(t)=\sum_{j=0}^{d}h_{I,j}\binom{t+d-j}{d} $$
が成り立つ。右辺の多項式の $t=0$ での値は $h_{I,0}$ である。

$\Delta$ は $d$ 次元なので $w_0,\dots,w_d$ は $\mathbb{R}^{d+1}$ の基底であり、点 $y\in\mathbb{R}^d$ と実数 $t>0$ について、$(y,t)=\sum_ic_iw_i$ と一意に書け、$y\in t\Delta$ は $c_i\ge0$(すべての $i$)と同値で、このとき $c_i=t\lambda_i(y/t)$、$\sum_ic_i=t$ である。したがって $y\in t\Delta_I$ は、$c_i\ge0$(すべての $i$)かつ $c_i>0$($i\in I$)と同値である。
正の整数 $t$ と $y\in t\Delta_I\cap\mathbb{Z}^d$ をとる。$i\notin I$ では $k_i:=\lfloor c_i\rfloor$、$\mu_i:=c_i-k_i\in[0,1)$、$i\in I$ では $k_i:=\lceil c_i\rceil-1$、$\mu_i:=c_i-k_i\in(0,1]$ とおく。$c_i>0$($i\in I$)なので $k_i\ge0$ である。$w_i$ は格子点なので $p:=(y,t)-\sum_ik_iw_i=\sum_i\mu_iw_i$ は $\Pi_I\cap\mathbb{Z}^{d+1}$ の点で、$\operatorname{ht}(p)=t-\sum_ik_i$ である。逆に $p\in\Pi_I\cap\mathbb{Z}^{d+1}$ と $\sum_ik_i=t-\operatorname{ht}(p)$ をみたす $k\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{d+1}$ から、$(y,t):=p+\sum_ik_iw_i$ は $y\in t\Delta_I\cap\mathbb{Z}^d$ を与える(係数 $c_i=\mu_i+k_i$ が上の条件をみたす)。$c_i$ から $(k_i,\mu_i)$ は一意に決まるので、この 2 つの対応は互いに逆である。よって
$$ L_{\Delta_I}(t)=\sum_{p\in\Pi_I\cap\mathbb{Z}^{d+1}}\#\Bigl\{k\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{d+1}\Bigm|\sum_ik_i=t-\operatorname{ht}(p)\Bigr\} $$
である。$\Pi_I$ は有界なので和は有限和である。
高さを調べる。$p=\sum_i\mu_iw_i$ の高さは $\sum_i\mu_i$ で、$I\neq\{0,\dots,d\}$ なので $\mu_i<1$ となる $i$ があり、$0\le\operatorname{ht}(p)< d+1$ である。高さは整数なので $0\le\operatorname{ht}(p)\le d$ である。高さ $0$ の点はすべての $\mu_i$ が $0$ の点、すなわち原点だけで、原点が $\Pi_I$ に属するのは $I=\emptyset$ のときに限る。
最後に、高さ $j$($0\le j\le d$)の点 $p$ について、内側の個数は $t\ge j$ なら $\binom{t-j+d}{d}$、$t< j$ なら $0$ である。$0\le t< j\le d$ では $t-j\in\{-d,\dots,-1\}$ なので、多項式 $\binom{t-j+d}{d}$ の値も $0$ である。したがって主張の式がすべての正の整数 $t$(と $t=0$)で成り立ち、$t=0$ での値は高さ $0$ の点の個数 $h_{I,0}$ である。$\square$

三角形分割を半開の単体に分ける

全次元の格子多面体 $P$ は、頂点が $P$ の頂点である $d$ 次元単体 $\Delta^{(1)},\dots,\Delta^{(m)}$ に三角形分割できる。すなわち、$P=\bigcup_k\Delta^{(k)}$ で、どの 2 つの単体も共通の面(空集合でもよい)で交わる(BR15 Theorem 3.1。この記事では証明しない)。各 $\Delta^{(k)}$ は格子単体である。$\Delta^{(k)}$ の面のうち次元が $d-1$ のもの(ファセット)を含む超平面を、すべての $k$ にわたって $A_1,\dots,A_N$ とする。
$P$ の内部は空でない開集合なので、$A_1\cup\cdots\cup A_N$ に属さない内部の点 $q$ がとれる。$\Delta^{(k)}$ の重心座標を $\lambda^{(k)}_i$ と書き、
$$ I_k:=\{i\mid\lambda^{(k)}_i(q)<0\} $$
とおく($q$ から見て $\Delta^{(k)}$ の向こう側にあるファセットの番号の集合)。

半開の単体への分割
  1. 各 $k$ について $I_k\neq\{0,\dots,d\}$ である。
  2. $P$ は半開の単体 $\Delta^{(1)}_{I_1},\dots,\Delta^{(m)}_{I_m}$ の非交和である。
  3. $I_k=\emptyset$ となる $k$ はちょうど 1 つである。

まず、どの $A_l$ にも属さない $P$ の点 $z$ は、ちょうど 1 つの $\Delta^{(k)}$ の内部に属する。実際、$z$ はある $\Delta^{(k)}$ に属し、$\Delta^{(k)}$ の境界はファセットの和なので $z$ はその内部にある。$z$ が $\Delta^{(k)}$ と $\Delta^{(l)}$ の内部に属すれば、共通の面 $\Delta^{(k)}\cap\Delta^{(l)}$ が $\Delta^{(k)}$ の内部の点を含むので、この面は $\Delta^{(k)}$ 自身であり、同様に $\Delta^{(l)}$ 自身でもあるから $k=l$ である。
1.$\sum_i\lambda^{(k)}_i(q)=1$ なので、すべての $\lambda^{(k)}_i(q)$ が負になることはない。
3.$q$ はどの $A_l$ にも属さないので $\lambda^{(k)}_i(q)\neq0$ である。よって $I_k=\emptyset$ はすべての $\lambda^{(k)}_i(q)$ が正であること、すなわち $q$ が $\Delta^{(k)}$ の内部にあることと同値で、そのような $k$ は上の注意からちょうど 1 つである。
2.$x\in P$ と $0< \varepsilon\le1$ について $x_\varepsilon:=x+\varepsilon(q-x)$ とおくと、$P$ は凸なので $x_\varepsilon\in P$ である。$x=q$ なら $x_\varepsilon=q$ はどの $A_l$ にも属さないので、以下 $x\neq q$ とする。$\varepsilon\mapsto x_\varepsilon$ は直線のパラメータ表示で、$x_\varepsilon$ が $A_l$ に属する $\varepsilon$ は、直線が $A_l$ に含まれないかぎり高々 1 つである。直線が $A_l$ に含まれれば $q=x_1\in A_l$ となり $q$ のとり方に反する。よって $\varepsilon_0>0$ があって、$0< \varepsilon< \varepsilon_0$ の $x_\varepsilon$ はどの $A_l$ にも属さず、ちょうど 1 つの $\Delta^{(k)}$ の内部にある。内部どうしは交わらない開集合で、区間 $(0,\varepsilon_0)$ は連結なので、この $k$ は $\varepsilon$ によらない。これを $k(x)$ と書く。
一方、各 $k$ と $x\in\mathbb{R}^d$ について $\lambda^{(k)}_i(x_\varepsilon)=(1-\varepsilon)\lambda^{(k)}_i(x)+\varepsilon\lambda^{(k)}_i(q)$ である。したがって「十分小さいすべての $\varepsilon>0$ で $x_\varepsilon$ が $\Delta^{(k)}$ の内部にある」ことは、「各 $i$ について $\lambda^{(k)}_i(x)>0$、または $\lambda^{(k)}_i(x)=0$ かつ $\lambda^{(k)}_i(q)>0$」と同値であり、これは $x\in\Delta^{(k)}$ かつ「$i\in I_k$ なら $\lambda^{(k)}_i(x)>0$」、すなわち $x\in\Delta^{(k)}_{I_k}$ と同値である($\lambda^{(k)}_i(q)\ne0$ を使った)。よって $x\in\Delta^{(k)}_{I_k}$ と $k=k(x)$ は同値で、$P$ の各点はちょうど 1 つの $\Delta^{(k)}_{I_k}$ に属する。$\square$

定理の証明

半開の単体の個数を足す

lem-ehr-decomposition の 2 から、正の整数 $t$ について $tP$ は $t\Delta^{(k)}_{I_k}$ の非交和で、
$$ L_P(t)=\sum_{k=1}^mL_{\Delta^{(k)}_{I_k}}(t)=\sum_{j=0}^d h_j^*\binom{t+d-j}{d},\qquad h_j^*:=\sum_{k=1}^mh_{I_k,j} $$
である(2 つめの等号は lem-ehr-half-open。lem-ehr-decomposition の 1 によりこの補題を使える)。$h_j^*$ は非負整数である。
2:lem-ehr-half-open により $h_{I_k,0}$ は $I_k=\emptyset$ のとき $1$、そうでないとき $0$ なので、lem-ehr-decomposition の 3 から $h_0^*=1$ である。$\binom{d-j}{d}$ は $j=0$ で $1$、$1\le j\le d$ で $0$ なので $E_P(0)=h_0^*=1$ である。
1:$\binom{x+d-j}{d}$ は $x^d$ の係数が $\frac{1}{d!}$ の $d$ 次多項式なので、$E_P$ の $x^d$ の係数は $c_d:=\frac{1}{d!}\sum_jh_j^*$ で、$E_P$ の次数は $d$ 以下である。凸多面体は Jordan 可測なので、格子点 の定理「格子点の個数と体積」により $L_P(t)/t^d\to\operatorname{vol}(P)$($t\to\infty$)であり、左辺は $c_d$ に収束するので $c_d=\operatorname{vol}(P)$ である。$P$ は全次元なので $\operatorname{vol}(P)>0$ で、$E_P$ はちょうど $d$ 次である。
3:前半は 1 の計算そのものである。$d!\binom{x+d-j}{d}=\prod_{i=1}^d(x-j+i)$ は整数係数なので後半も従う。$\square$

$h^*$ ベクトルの成分が非負であることは Stanley の非負性定理 と呼ばれる(BR15 Theorem 3.12)。上の証明では、$h_j^*$ が半開の基本平行体の高さ $j$ の格子点の個数の和として表されることから従った。

全次元でない場合

$\dim P=k< d$ の格子多面体でも $L_P$ は $k$ 次多項式に一致する。頂点 $v$ を 1 つとり、$U$ を $P-v$ が張る $k$ 次元部分空間、$\Lambda:=U\cap\mathbb{Z}^d$ とする($U$ は格子点の差 $v'-v$ で張られるので、$\Lambda$ は $U$ を張る)。$\mathbb{Z}^d/\Lambda$ は有限生成で、$nz\in\Lambda$($n\ne0$)なら $z\in U$ なので捩れがなく、有限生成アーベル群の構造定理 により自由である。よって $\mathbb{Z}^d=\Lambda\oplus\Lambda'$ と分解でき、$\Lambda$ は階数 $k$ の自由加群で、$\Lambda$ の基底と $\Lambda'$ の基底を並べると $\mathbb{Z}^d$ の基底になる。この基底を標準基底に送る $A\in GL_d(\mathbb{Z})$ をとると、$tv\in\mathbb{Z}^d$ なので $y\mapsto A(y-tv)$ は $tP\cap\mathbb{Z}^d$ から $tA(P-v)\cap\mathbb{Z}^d$ への全単射であり、$A(P-v)$ は $\mathbb{R}^k\times\{0\}$ の中の全次元の格子多面体である。こうして thm-ehr-main に帰着する。最高次の係数は $A(P-v)$ の $k$ 次元体積になる。これは格子 $\Lambda$ を基準にした $P$ の体積(相対体積)で、$U$ の中の Euclid 体積とは一般に異なる。たとえば $(0,0)$ と $(1,1)$ を結ぶ線分では $L_P(t)=t+1$ で、最高次の係数は長さ $\sqrt2$ ではなく $1$ である。

相反定理

Ehrhart 多項式に負の整数を代入すると、内部の格子点の個数が現れる。

Ehrhart–Macdonaldの相反定理

$P\subset\mathbb{R}^d$ を全次元の格子多面体とすると、すべての正の整数 $t$ について
$$ L_{P^\circ}(t)=(-1)^dE_P(-t) $$
が成り立つ。

証明の所在

一般の格子多面体(さらに有理多面体)についての証明は BR15 Theorem 4.1 にある。この記事では一般の場合は証明せず、次の命題で単体の場合を証明する。

単体の場合の相反定理

$\Delta$ を $d$ 次元の格子単体とし、$h_j:=h_{\emptyset,j}$(lem-ehr-half-open)とする。すべての正の整数 $t$ について
$$ L_{\Delta^\circ}(t)=\sum_{j=0}^dh_j\binom{t+j-1}{d}=(-1)^dE_\Delta(-t) $$
である。

要点:内部 $\Delta^\circ$ は全部の対面を除いた半開の単体で、その基本平行体の格子点は $p\mapsto\sum_iw_i-p$ で $\Pi_\emptyset$ の格子点と 1 対 1 に対応し、高さ $j$ が $d+1-j$ に替わる。

証明を開く

$\Delta^\circ$ は $I=\{0,\dots,d\}$ の半開の単体 $\Delta_I$ である。prf-ehr-half-open の前半は $I$ によらず成り立ち、$L_{\Delta^\circ}(t)$ は $p\in\Pi_I\cap\mathbb{Z}^{d+1}$ にわたる $\#\{k\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{d+1}\mid\sum_ik_i=t-\operatorname{ht}(p)\}$ の和である。$w:=\sum_iw_i$ とおくと、$p\mapsto w-p$ は $\Pi_\emptyset\cap\mathbb{Z}^{d+1}$ から $\Pi_I\cap\mathbb{Z}^{d+1}$ への全単射で(係数 $\mu_i$ を $1-\mu_i$ に替える)、高さ $j$ を $d+1-j$ に送る。よって $\Pi_I$ の格子点の高さは $1$ 以上 $d+1$ 以下で、高さ $d+1-j$ の点が $h_j$ 個ある。

高さ $j'=d+1-j$ の点の寄与は、$t\ge j'$ なら $\binom{t-j'+d}{d}=\binom{t+j-1}{d}$ である。$1\le t< j'$ では $t+j-1\in\{j,\dots,d-1\}$ で、多項式 $\binom{t+j-1}{d}=\frac{(t+j-d)\cdots(t+j-1)}{d!}$ の因子のどれかが $0$ になるので値は $0$ であり、実際の寄与 $0$ と一致する。これで 1 つめの等号を得る。2 つめは、各 $j$ について

$$(-1)^d\binom{-t+d-j}{d}=(-1)^d\frac{(-t-j+1)\cdots(-t-j+d)}{d!}=\frac{(t+j-1)\cdots(t+j-d)}{d!}=\binom{t+j-1}{d}$$

であることを $j$ について足せばよい。$\square$

平面の場合と Pick の定理

$P$ を平面の凸な格子多角形とし、面積を $A$、境界の格子点の個数を $B$、内部の格子点の個数を $I$ とすると、$E_P(x)=Ax^2+\frac{B}{2}x+1$ であり、$A=I+\frac B2-1$ が成り立つ。

thm-ehr-main により $E_P(x)=Ax^2+cx+1$ と書ける。$t=1$ と thm-ehr-reciprocity($t=1$)から $I+B=L_P(1)=A+c+1$、$I=L_{P^\circ}(1)=E_P(-1)=A-c+1$ である。差をとると $c=\frac B2$、これを戻すと $A=I+\frac B2-1$ である。$\square$

この系は凸な格子多角形についての Pickの定理 である。ここでは一般の相反定理を引用して導いたので、Pick の定理の独立な証明にはなっていない(Pickの定理 では、凸でない多角形も含めて初等的に証明している)。

例

立方体と標準単体
  1. 単位立方体 $C=[0,1]^d$ では $tC\cap\mathbb{Z}^d=\{0,1,\dots,t\}^d$ なので $E_C(x)=(x+1)^d$ である。内部は $\{1,\dots,t-1\}^d$ で $L_{C^\circ}(t)=(t-1)^d=(-1)^dE_C(-t)$ となり、相反定理と合う。$x^d$ の係数 $1$ は体積である。
  2. 標準単体 $\Delta=\operatorname{conv}\{0,e_1,\dots,e_d\}$ では、$t\Delta\cap\mathbb{Z}^d$ は $y_i\ge0$、$\sum_iy_i\le t$ をみたす整数点で、$y_0:=t-\sum_iy_i$ を加えると $\binom{t+d}{d}$ 個ある。よって $E_\Delta(x)=\binom{x+d}{d}$、$h^*=(1,0,\dots,0)$ で、体積は $\frac1{d!}$ である。
Reeve の四面体

正の整数 $r$ について、$T_r:=\operatorname{conv}\{(0,0,0),(1,0,0),(0,1,0),(1,1,r)\}$ とおく(BR15 Example 3.22)。このとき
$$ E_{T_r}(x)=\frac r6x^3+x^2+\Bigl(2-\frac r6\Bigr)x+1,\qquad h^*=(1,0,r-1,0) $$
である。$T_r$ の格子点は 4 つの頂点だけで、内部にも辺・面の内部にも格子点はない。それにもかかわらず体積 $\frac r6$ は $r$ とともにいくらでも大きくなる。したがって 3 次元では、境界と内部の格子点の個数から体積を求める Pick の定理の類似の公式は成り立たない。また $r\ge13$ では $x$ の係数が負になり、Ehrhart 多項式の係数は正とは限らない($h^*$ ベクトルの成分は非負である)。

要点:$T_r$ の格子点が頂点だけであることを確かめ、$L_{T_r}(1)=4$、prop-ehr-reciprocity-simplex による $L_{T_r^\circ}(1)=0$、$\sum_jh_j=3!\operatorname{vol}(T_r)=r$ から $h^*$ ベクトルを決める。

証明を開く

体積は $\frac16\lvert\det((1,0,0),(0,1,0),(1,1,r))\rvert=\frac r6$ である。$T_r$ の点を $a(0,0,0)+b(1,0,0)+c(0,1,0)+e(1,1,r)$($a,b,c,e\ge0$、和が $1$)と書くと、$x$ 座標は $b+e$、$y$ 座標は $c+e$ で、どちらも $0$ 以上 $1$ 以下である。格子点ならこれらは $0$ か $1$ で、$(x,y)=(0,0)$ なら $b=c=e=0$、$(1,0)$ なら $c=e=0$、$b=1$、$(0,1)$ なら $b=e=0$、$c=1$、$(1,1)$ なら $b=c=1-e$ と $a=e-1\ge0$ から $e=1$ となり、いずれも頂点である。よって $L_{T_r}(1)=4$、$L_{T_r^\circ}(1)=0$ である。

$E_{T_r}(x)=\sum_jh_j\binom{x+3-j}{3}$(thm-ehr-main)で $h_0=1$ である。$x=1$ を代入すると $\binom{4}{3}+h_1\binom33=4+h_1=4$ から $h_1=0$ である。prop-ehr-reciprocity-simplex を $t=1$ で使うと $0=L_{T_r^\circ}(1)=\sum_jh_j\binom{j}{3}=h_3$ である。$\sum_jh_j=3!\cdot\frac r6=r$ から $h_2=r-1$ となる。したがって

$$E_{T_r}(x)=\binom{x+3}{3}+(r-1)\binom{x+1}{3}=\frac{x^3+6x^2+11x+6+(r-1)(x^3-x)}{6}$$

で、整理すると主張の式になる。$\square$

仮定を外したときの反例

thm-ehr-main の仮定のうち 1 つを外すと、数え上げ関数は多項式にならない。

外す条件反例成り立たなくなること
頂点が格子点(有理点にゆるめる)$P=[0,\frac12]\subset\mathbb{R}$$L_P(t)=\lfloor t/2\rfloor+1$ は多項式でない
頂点が格子点(無理数の座標を許す)$P=[0,\sqrt2]\subset\mathbb{R}$$L_P(t)=\lfloor t\sqrt2\rfloor+1$ は多項式でない
拡大率 $t$ が整数$P=[0,1]$、実数 $t>0$$\#(tP\cap\mathbb{Z})=\lfloor t\rfloor+1$ は実数 $t$ の多項式でない
反例の確認

各行を確かめる。

各行の確認を開く

1 行目:多項式 $f$ が正の整数 $t$ で $\lfloor t/2\rfloor+1$ に等しいとすると、偶数 $t=2s$ で $f(2s)=s+1$ なので、無限個の点で一致する $f(x)=\frac x2+1$ である。しかし奇数 $t$ では $f(t)=\frac t2+1$ は整数でなく、$\lfloor t/2\rfloor+1$ と異なる。有理多面体では、数え上げ関数は周期的な係数をもつ多項式(擬多項式)になる(BR15 Theorem 3.23)。この例では $t$ の偶奇で式が変わる。

2 行目:多項式 $f$ が正の整数で $\lfloor t\sqrt2\rfloor+1$ に等しいとすると、$f(t)/t\to\sqrt2$ かつ $f(t)/t^2\to0$ なので $f(x)=\sqrt2x+b$ の形である。すると $t\sqrt2-\lfloor t\sqrt2\rfloor=1-b$ が $t$ によらず一定で、$t=1,2$ の差をとると $\sqrt2=\lfloor2\sqrt2\rfloor-\lfloor\sqrt2\rfloor=1$ となり矛盾する。

3 行目:$\lfloor t\rfloor+1$ は $t=1$ で不連続なので、どの多項式とも区間 $(0,2)$ 上で一致しない。整数 $t$ に制限すれば $t+1$ で、多項式である。

補足

  • 体積の計算.thm-ehr-main の 1 から、$E_P$ を $d+1$ 個の値 $L_P(1),\dots,L_P(d)$ と $E_P(0)=1$ から補間すれば、格子点を数えるだけで $\operatorname{vol}(P)$ が求まる(BR15 Corollary 3.20 と §3.7)。
  • $h^*$ ベクトル.単体では $h_j^*$ は基本平行体 $\Pi_\emptyset$ の高さ $j$ の格子点の個数で、$\sum_jh_j^*=d!\operatorname{vol}(\Delta)=\lvert\det(w_0,\dots,w_d)\rvert$ である(BR15 Corollary 3.11・3.21)。
  • 数え上げの多項式.超平面配置 の特性多項式も、$-1$ での値が別のもの(実超平面配置の領域の個数)を数える(超平面配置 の Zaslavsky の定理)。グラフの 彩色多項式 では、$-1$ での値の絶対値が非巡回的な向きの個数になる。

関連項目

参考文献

[1]
Matthias Beck, Sinai Robins, Computing the Continuous Discretely: Integer-Point Enumeration in Polyhedra, Springer, 2015, Chapter 3(Theorem 3.1 三角形分割の存在、Theorem 3.8 Ehrhart の定理、Corollary 3.11、Theorem 3.12 Stanley の非負性、Corollary 3.20・3.21、§3.7、Example 3.22 Reeve の四面体、Theorem 3.23 有理多面体)、Chapter 4(Theorem 4.1 Ehrhart–Macdonald の相反定理)

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