自然同型(natural isomorphism)とは、同じ圏の間の二つの関手 $F,G$ を結ぶ自然変換 $\eta\colon F\Rightarrow G$ で、各対象 $X$ での成分 $\eta_X$ が同型射であるものをいう。このとき成分ごとの逆 $\eta_X^{-1}$ は再び自然変換になり、$\eta$ は関手圏での同型になる。各対象で $F(X)\cong G(X)$ となるだけでは自然同型とは限らず、同型が射と両立する必要がある。表現可能関手や圏同値は自然同型を使って定義される。
二つの関手が「同じ構成」を表すというとき、各対象で得られるものがたまたま同型であるだけでは足りない。元の対象を射で移したときにも、その同型が矛盾なく働く必要がある。自然同型は、この二つの要求を同時に満たす対応である。たとえば集合の直積は $A\times B$ と $B\times A$ を交換できる。その交換は集合 $A,B$ を写像で移しても同じように働く。こうした「写像と両立する同型」を、関手間の自然変換として定式化する(Riehl16 §1.4、StacksNat)。
圏 $\mathcal C,\mathcal D$ と関手 $F,G:\mathcal C\to\mathcal D$ を固定する。各対象 $X$ に射 $\alpha_X:F(X)\to G(X)$ を一つずつ与え、射 $f:X\to Y$ に対して
$$
G(f)\circ\alpha_X=\alpha_Y\circ F(f)
$$
が成り立つとき、$\alpha:F\Rightarrow G$ を自然変換という。等式の左辺は「先に $X$ で比較してから $G$ で移す」、右辺は「先に $F$ で移してから $Y$ で比較する」道筋である。自然同型では、さらに各 $\alpha_X$ が $\mathcal D$ の同型射であることを要求する。対象ごとの同型と射に関する両立性は、互いに異なる条件である。
同じ二圏の間の関手 $F,G:\mathcal C\to\mathcal D$ に対し、自然変換 $\alpha:F\Rightarrow G$ の各成分 $\alpha_X:F(X)\to G(X)$ が同型射であるとき、$\alpha$ を自然同型という。このとき $F$ と $G$ は自然に同型といい、$F\cong G$ と書く。記号 $F\cong G$ は、このような自然変換が少なくとも一つ存在するという意味であり、特に指定しない限り一意性までは主張しない。
同じ定義は反変関手にも適用できる。反変関手を $\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathcal D$ という共変関手として見て、そこで自然同型を取ればよい。共変と反変を混ぜてそのまま自然同型と呼ぶことはできない。まず定義域の向きを揃える必要がある。
自然同型の定義では、各 $\alpha_X$ の逆射が存在する。しかし逆射を対象ごとに取っただけで、$G\Rightarrow F$ という自然変換になるかは、式で確かめる必要がある。これが自然同型を「関手の間の同型射」と呼べる理由になる。
自然変換 $\alpha:F\Rightarrow G$ について、次は同値である。
この命題により、「成分がすべて同型」と「関手圏で同型」は一致する。自然変換を射、関手を対象とする関手圏 $[\mathcal C,\mathcal D]$ を考えられる場合、$\alpha$ はその圏の同型射である。大きな圏を扱うときは射の集合性に配慮が必要だが、成分と自然性による上の判定式はそのまま使える(StacksNat)。
$F\xRightarrow{\alpha}G\xRightarrow{\gamma}H$ が自然同型なら、成分を $(\gamma\circ\alpha)_X=\gamma_X\circ\alpha_X$ とする合成も自然同型である。各関手の恒等変換は自然同型であり、逆変換も自然同型である。
射 $f:X\to Y$ について、$H(f)\gamma_X=\gamma_YG(f)$ と $G(f)\alpha_X=\alpha_YF(f)$ を順に使うと
$$
H(f)\gamma_X\alpha_X
=\gamma_YG(f)\alpha_X
=\gamma_Y\alpha_YF(f)
$$
である。従って合成は自然変換で、各成分は二つの同型射の合成だから同型である。恒等変換の成分は恒等射であり、逆変換の存在は前の命題から従う。$\square$
この三つの性質から、関手の間の「自然に同型」は同値関係になる。ただし、二関手を結ぶ自然同型そのものは一般に複数ある。どの同型を選んだかが後の構成に効く場合は、記号 $F\cong G$ だけで済ませず $\alpha$ を明示する。
もっとも見通しのよい例は、二つの集合の座標を交換する写像である。集合の圏 $\mathbf{Set}$ の積圏 $\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}$ を定義域にして、$P(A,B)=A\times B$、$Q(A,B)=B\times A$ と置く。対象 $(A,B)$ に対し
$$
\tau_{A,B}:A\times B\longrightarrow B\times A,
\qquad (a,b)\longmapsto(b,a)
$$
を定める。$\tau_{A,B}$ は自身が逆写像になるので各対象で全単射である。しかし「自然」というためには、各組の写像 $(u:A\to A',v:B\to B')$ と両立することも示さなくてはならない。
上の $P,Q:\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}\to\mathbf{Set}$ に対し、$\tau_{A,B}(a,b)=(b,a)$ は自然同型 $\tau:P\Rightarrow Q$ を与える。
射 $(u,v):(A,B)\to(A',B')$ について、$P(u,v)=u\times v$、$Q(u,v)=v\times u$ である。任意の $(a,b)$ に対し
$$
((v\times u)\circ\tau_{A,B})(a,b)
=(v(b),u(a))
=(\tau_{A',B'}\circ(u\times v))(a,b)
$$
が成り立つ。従って自然性の四角形は可換である。さらに $\tau_{B,A}\circ\tau_{A,B}$ は恒等写像なので、各成分は同型射である。$\square$
ここで $A,B$ を固定した一つの全単射だけを示しても、自然性までは分からない。写像 $u,v$ を任意に動かして初めて、交換という操作が対象の選び方によらず一貫していると分かる。また、同型が「自然」であるとは、それが唯一の方法で作られたという意味でもない。たとえば別の構成で得た自然同型が同じ二関手を結ぶ可能性は残る。
直積だけでなく、和集合を互いに区別した非交和でも同じ考え方を使う。$A\times(B\sqcup C)$ の元は $(a,\mathrm{in}_B(b))$ または $(a,\mathrm{in}_C(c))$ の形をしている。前者を $\mathrm{in}_B(a,b)$、後者を $\mathrm{in}_C(a,c)$ に送れば、$(A\times B)\sqcup(A\times C)$ への全単射になる。$A,B,C$ の任意の写像を両辺に施しても、タグの行き先と座標の値が一致する。このように分配法則を表す同型も、三変数の関手間の自然同型として読める(Riehl16 §1.4)。
自然性を落とすと、各対象で同型を持っていても関手が自然に同型とは限らない。次の例では対象が一つしかないため、対象ごとの同型という条件は容易に満たされる。それでも、その対象の自己射との両立性が失敗する。
一対象 $*$ を持ち、自己射が二元群 $C_2=\{1,s\}$ をなす圏 $\mathcal B C_2$ を考える。合成は群の積で $s^2=1$ である。$\mathbf{Vect}_{\mathbb R}$ を実ベクトル空間と線形写像の圏とする。二つの関手 $F,G:\mathcal B C_2\to\mathbf{Vect}_{\mathbb R}$ を、対象上はどちらも $\mathbb R$、射上は
$$
F(s)=\mathrm{id}_{\mathbb R},
\qquad G(s)=-\mathrm{id}_{\mathbb R}
$$
として定める。$(-\mathrm{id})^2=\mathrm{id}$ なので両方とも関手である。唯一の対象で $F(*)=G(*)=\mathbb R$ は同型、実際には等しい。しかし $F$ と $G$ を結ぶ自然同型は存在しない。
上の $F,G$ の間には、零変換以外の自然変換が存在しない。特に自然同型は存在しない。
自然変換 $\eta:F\Rightarrow G$ の成分は一つの線形写像 $\eta_*:\mathbb R\to\mathbb R$ である。$s$ に関する自然性は
$$
G(s)\eta_*=\eta_*F(s),
\quad\text{すなわち}\quad
-\eta_*=\eta_*
$$
を要求する。実数上では $2\eta_*=0$ から $\eta_*=0$ となる。零写像は一意の自然変換を与えるが、同型射ではない。$\square$
これは群の表現を一対象圏からの関手と見る方法でもある。自明表現と符号表現はともに一次元実ベクトル空間を台に持つが、群作用と可換な同型はない。直積の例と対照すると、対象の「見た目」だけではなく射の作用を追うことが自然性の本質だと分かる。係数体が標数 $2$ なら $-1=1$ になるため、この反例では実数を使った条件が重要である。
自然同型は、幾何学で対象をその「点」や「射」から特徴づけるときにも現れる。$\mathcal C$ を局所小圏とし、対象 $A$ に対して反変関手
$$
h_A=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,A):
\mathcal C^{\mathrm{op}}\longrightarrow\mathbf{Set}
$$
を作る。対象 $X$ では $h_A(X)=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,A)$、射 $u:Y\to X$ では $f:X\to A$ を $f\circ u:Y\to A$ に送る。$h_A$ は $A$ の表現可能関手である。$A\cong B$ なら後合成によって $h_A\cong h_B$ が得られる。逆も成り立つことが米田の補題の基本的な帰結である(StacksYoneda)。
局所小圏 $\mathcal C$ の対象 $A,B$ について、$h_A\cong h_B$ が自然同型として成り立つことと、$A\cong B$ が成り立つことは同値である。
$u:A\to B$ が同型なら、各 $X$ で $h_A(X)\to h_B(X)$ を $f\mapsto u\circ f$ と置く。前合成 $(f\circ v)$ と $u$ による後合成は結合律で可換なので、これは自然変換である。逆は $u^{-1}$ による後合成で与えられる。逆向きに自然同型 $\eta:h_A\Rightarrow h_B$ があるとする。$u=\eta_A(\mathrm{id}_A):A\to B$ と置く。任意の $f:X\to A$ に対し、$f$ に関する自然性を $\mathrm{id}_A$ に適用すると $\eta_X(f)=u\circ f$ となる。$\eta$ の逆 $\theta:h_B\Rightarrow h_A$ も同様に $v=\theta_B(\mathrm{id}_B):B\to A$ による後合成である。$\theta\eta=\mathrm{id}_{h_A}$ と $\eta\theta=\mathrm{id}_{h_B}$ を恒等射で評価して $v\circ u=\mathrm{id}_A$、$u\circ v=\mathrm{id}_B$ を得る。従って $u$ は同型である。$\square$
この証明では、単に各集合 $\operatorname{Hom}(X,A)$ と $\operatorname{Hom}(X,B)$ の濃度が等しいと仮定したのではない。$X$ を動かす射との両立性があるからこそ、一つの射 $u:A\to B$ が全ての成分を同時に記述できる。スキームの点の関手 $X\mapsto\operatorname{Hom}(X,A)$ を使う場合も同じ論理が働く。対象を射のふるまいから回復するという見方が、米田の補題 や表現可能性への入口になる。
圏 $\mathcal C,\mathcal D$ が圏同値であるというとき、関手 $F:\mathcal C\to\mathcal D$ と $G:\mathcal D\to\mathcal C$ を合成して厳密に恒等関手になることまでは求めない。必要なのは
$$
G\circ F\cong\mathrm{id}_{\mathcal C},
\qquad F\circ G\cong\mathrm{id}_{\mathcal D}
$$
という自然同型である(StacksEquiv)。したがって $X$ と $GF(X)$ が各対象で別々に同型であると述べるだけでは圏同値の定義にならない。その同型が $\mathcal C$ の全ての射について自然である必要がある。
一例として、自然数の有限部分集合を対象とし、その間のすべての写像を射とする圏 $\mathcal F$ を考える。その充満部分圏で対象を $[n]=\{1,\ldots,n\}$($n\geq0$、$[0]=\emptyset$)だけに限定したものを $\mathcal S$ とする。包含関手 $I:\mathcal S\to\mathcal F$ は全ての対象を文字通り像に含むわけではないが、各有限集合 $A$ はある $[n]$ と全単射である。$A$ を小さい順に並べる全単射 $i_A:A\to[|A|]$ を用い、$R(A)=[|A|]$、写像 $f:A\to B$ に $R(f)=i_B\circ f\circ i_A^{-1}$ と置けば関手 $R:\mathcal F\to\mathcal S$ になる。そして $i_A$ は自然同型 $\mathrm{id}_{\mathcal F}\Rightarrow I R$ の成分である。なぜなら $R(f)i_A=i_Bf$ が定義から直ちに従うからである。$[n]$ では $i_{[n]}$ が恒等写像なので $RI=\mathrm{id}_{\mathcal S}$ も得られる。
この例で $IR$ は有限集合を標準集合に置き換えるが、元の集合と必ず等しいわけではない。必要なのは、選んだ全単射が射に関して両立することである。自然同型は、対象の表記の違いを許しながら構造を保つ。選択した $i_A$ 自体は一般に一意ではないが、いったん選べば $R$ の射上の作用も含めて自然性を検証できる。
圏同値から生じる自然同型と、先の表現可能関手の自然同型は、同じ定義を別の用途に使っている。前者は圏の間で「同じ数学的構造」を表す基準、後者は一つの圏の対象を関手として復元する基準である。いずれも、対象ごとの対応だけでは足りず射のふるまいを検証する。
新しい自然同型を作るときは、まず二関手の定義域と値域を完全に揃える。次に各対象 $X$ で成分 $\alpha_X$ の向きを定める。その後、任意の射 $f:X\to Y$ に対する自然性の等式を計算し、最後に各 $\alpha_X$ が同型かを確かめる。この順序であれば、対象での全単射だけを見て結論を急ぐことを避けられる。
特に、パラメータが複数ある構成では「どの変数に関して自然か」を明示する。直積の交換なら $(A,B)$ を一対象とする積圏を定義域にすれば、二変数の自然性を一度に述べられる。一方、片方の変数を固定して得た自然同型は、それだけではもう片方についての自然性を保証しない。分配法則や Hom の随伴式を扱うときにも同じ注意が要る。
$\alpha:F\Rightarrow G$ と $f:X\to Y$ に対し、$G(f)\alpha_X=\alpha_YF(f)$ では、両辺とも始点は $F(X)$、終点は $G(Y)$ である。添字 $X,Y$ を入れ替えて式を書き始める前に、四つの対象 $F(X),G(X),F(Y),G(Y)$ の位置を確認する。反変関手では $f$ に対応する矢印の向きが逆になるが、$\mathcal C^{\mathrm{op}}$ の射として書き直せば同じ定義を使える。
自然同型は選んだ対象についての単なる同型リストではなく、圏全体の射と可換な同型族である。この区別を保つと、普遍性による対象の一意性、関手の計算、圏同値といった記述を正確に読むことができる。個々の分野で「自然に同型」と書かれた式を見たら、成分の具体式だけでなく、何を変数とし、どの射について可換性を主張するかを確かめるのがよい。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する