畳み込み(convolution)とは、二つの関数の一方を反転・平行移動し、その積を積分して得る演算である。本記事では $L^1(\mathbb R^d)$ 上で対称正規化を固定し、絶対可積分性、Young評価、可換性・結合性、Fourier変換が畳み込みを各点積へ移す定理を証明する。正規化を変えたときの定数、$L^1*L^1$ が必ずしも連続でない反例、$L^1*C_0$ とSchwartz関数・超関数への拡張範囲も区別する。
前提知識: Lebesgue積分, L^p空間, Fourier変換, Fubiniの定理
以下では $d\geq1$ とし、$\mathbb R^d$ にLebesgue測度を入れる。本記事ではFourier変換を
$$
\widehat f(\xi):=(2\pi)^{-d/2}\int_{\mathbb R^d}e^{-ix\cdot\xi}f(x)\,dx
$$
とする対称正規化を採用する。畳み込みにも同じ定数を入れることで、Fourier変換後の公式から余分な定数が消える。この規約は記事全体で固定するFol99Ara10。
$f,g\in L^1(\mathbb R^d)$ に対し、ほとんどすべての $x\in\mathbb R^d$ で
$$
(f*g)(x):=(2\pi)^{-d/2}\int_{\mathbb R^d}f(y)g(x-y)\,dy
$$
と定める。得られる $L^1$ 関数の同値類を $f$ と $g$ の畳み込み(convolution)または合成積という。
ここで「ほとんどすべて」と書くことは本質的である。$L^1$ の元は零集合上での値を区別しないうえ、各 $x$ で積分が有限になるとは限らない。後の命題で、積分がほとんどすべての $x$ で絶対収束し、代表元の取り方によらない $L^1$ の元を定めることを証明する。
この正規化を使わず
$$
(f\mathbin{\star}g)(x):=\int_{\mathbb R^d}f(y)g(x-y)\,dy
$$
と定める流儀も広く用いられる。その場合、本記事の $*$ とは $f*g=(2\pi)^{-d/2}(f\mathbin{\star}g)$ の関係にある。
$(f*g)(x)$ は、$g$ を反転して $x$ まで平行移動し、$f$ との重なりを積分した量である。$f$ と $g$ を二つの信号と見れば、$x$ ごとに両者の重なりを測る演算であり、確率密度なら独立な確率変数の和の密度に対応する。
Fourier変換は平行移動を位相因子へ変える。そのため、実空間で平行移動を平均する畳み込みは、周波数空間では各周波数成分の単純な積になる。この
$$
\widehat{f*g}=\widehat f\,\widehat g
$$
という対応が、畳み込みを解析で用いる最大の理由である。ただし、この式は記号だけでは成立しない。本記事では $f,g\in L^1(\mathbb R^d)$ を仮定し、二重積分の絶対可積分性を確認してから積分順序を交換する。
$d=1$ とし、$f=g=\mathbf 1_{[0,1]}$ とする。このとき
$$
(f*g)(x)=(2\pi)^{-1/2}\,\lambda\bigl([0,1]\cap[x-1,x]\bigr)
$$
なので
$$
(f*g)(x)=(2\pi)^{-1/2}
\begin{cases}
x,&0\leq x\leq1,\\
2-x,&1\leq x\leq2,\\
0,&\text{それ以外}
\end{cases}
$$
である。二つの不連続な関数を畳み込むと連続な三角形関数になるが、$x=1$ では微分可能でない。畳み込みに正則化効果があっても、仮定なしに無限回微分可能になるわけではない。
$\gamma(x)=e^{-|x|^2/2}$ とする。対称正規化では $\widehat\gamma=\gamma$ であり、平方完成により
$$
\begin{aligned}
(\gamma*\gamma)(x)
&=(2\pi)^{-d/2}\int_{\mathbb R^d}
\exp\left(-\frac{|y|^2+|x-y|^2}{2}\right)dy\\
&=2^{-d/2}e^{-|x|^2/4}
\end{aligned}
$$
となる。従って畳み込み定理は
$$
\widehat{\gamma*\gamma}(\xi)=\widehat\gamma(\xi)^2=e^{-|\xi|^2}
$$
を与える。Gauss関数では、実空間での幅の増大が周波数空間での積として見える。
$d=1$ とし
$$
f(x)=x^{-3/4}\mathbf 1_{(0,1)}(x)
$$
とおく。$f\in L^1(\mathbb R)$ であるが、$0< x<1$ では
$$
(f*f)(x)=(2\pi)^{-1/2}x^{-1/2}
\int_0^1t^{-3/4}(1-t)^{-3/4}\,dt.
$$
右辺の積分は有限の正数であり、$(f*f)(x)$ は $x\downarrow0$ で発散する。従って「二つの $L^1$ 関数の畳み込みは常に連続な有界関数になる」という主張は偽である。畳み込みを各点で定義された連続関数として扱うには、例えば一方を $C_0$ に入れる、互いに共役な $L^p$ 指数を仮定する、Schwartz関数を用いる、などの追加条件が要る。
本記事の対称正規化されたFourier変換に対して、定数を付けない畳み込み $\star$ を使うと
$$
\widehat{f\mathbin{\star}g}
=(2\pi)^{d/2}\widehat f\,\widehat g
$$
となる。従って $\widehat{f\mathbin{\star}g}=\widehat f\,\widehat g$ と書けば、$(2\pi)^{d/2}$ を落とした偽の公式になる。本記事の正規化された $*$ についてのみ、定数なしの畳み込み定理が成り立つ。
超関数まで拡張すると、$*$ の単位元は $\delta_0$ ではなく $(2\pi)^{d/2}\delta_0$ である。実際、形式的には $\delta_0*f=(2\pi)^{-d/2}f$ となる。この点でも正規化の混用は許されない。
$f,g\in L^1(\mathbb R^d)$ とする。このとき、def-convolution-l1 の積分はほとんどすべての $x$ で絶対収束し、$f*g\in L^1(\mathbb R^d)$ である。さらに
$$
\|f*g\|_1\leq(2\pi)^{-d/2}\|f\|_1\|g\|_1
$$
が成り立つ。
非負可測関数 $(x,y)\mapsto |f(y)|\,|g(x-y)|$ にTonelliの定理を用いる。Lebesgue測度の平行移動不変性により
$$
\begin{aligned}
\int_{\mathbb R^d}\int_{\mathbb R^d}|f(y)|\,|g(x-y)|\,dy\,dx
&=\int_{\mathbb R^d}|f(y)|
\left(\int_{\mathbb R^d}|g(x-y)|\,dx\right)dy\\
&=\|f\|_1\|g\|_1<\infty.
\end{aligned}
$$
従って内側の積分はほとんどすべての $x$ で有限であり、$f*g$ はほとんど至る所で定義される。さらに三角不等式とTonelliの定理から
$$
\begin{aligned}
\|f*g\|_1
&\leq(2\pi)^{-d/2}
\int_{\mathbb R^d}\int_{\mathbb R^d}|f(y)|\,|g(x-y)|\,dy\,dx\\
&=(2\pi)^{-d/2}\|f\|_1\|g\|_1.
\end{aligned}
$$
よって $f*g\in L^1$ である。$f$ または $g$ を零集合上で変更しても上の二重積分の被積分関数が変わるのは二次元の零集合上だけなので、得られる $L^1$ の同値類は代表元によらない。$\blacksquare$
$f,g,h\in L^1(\mathbb R^d)$ に対し
$$
f*g=g*f,
\qquad
(f*g)*h=f*(g*h)
$$
が $L^1(\mathbb R^d)$ の元として成り立つ。
可換性は、積分が絶対収束する $x$ に対して $z=x-y$ と変数変換すれば
$$
(f*g)(x)=(2\pi)^{-d/2}\int f(x-z)g(z)\,dz=(g*f)(x)
$$
となることから従う。
結合性では、まずTonelliの定理と二回の平行移動によって
$$
\int_{\mathbb R^{3d}}|f(z)|\,|g(y-z)|\,|h(x-y)|\,dx\,dy\,dz
=\|f\|_1\|g\|_1\|h\|_1<\infty
$$
を得る。従って、ほとんどすべての $x$ について以下の二重積分は絶対収束し、Fubiniの定理と $w=y-z$ という変数変換を適用できる。そのような $x$ に対して
$$
\begin{aligned}
((f*g)*h)(x)
&=(2\pi)^{-d}\int\!\int f(z)g(y-z)h(x-y)\,dz\,dy\\
&=(2\pi)^{-d}\int\!\int f(z)g(w)h(x-z-w)\,dw\,dz\\
&=(f*(g*h))(x).
\end{aligned}
$$
両辺は prop-convolution-l1-young により $L^1$ の元なので、ほとんど至る所の一致は $L^1$ における一致を意味する。$\blacksquare$
$f,g\in L^1(\mathbb R^d)$ とし、Fourier変換と畳み込みを本記事冒頭の対称正規化で定める。このとき全ての $\xi\in\mathbb R^d$ に対し
$$
\widehat{f*g}(\xi)=\widehat f(\xi)\widehat g(\xi)
$$
が成り立つ。
prop-convolution-l1-young により $f*g\in L^1$ なので、左辺のFourier積分は全ての $\xi$ で定義される。また
$$
\int_{\mathbb R^{2d}}|f(y)|\,|g(x-y)|\,dx\,dy
=\|f\|_1\|g\|_1<\infty
$$
であり、指数因子の絶対値は $1$ なのでFubiniの定理を適用できる。$z=x-y$ と変数変換すると
$$
\begin{aligned}
\widehat{f*g}(\xi)
&=(2\pi)^{-d}\int_{\mathbb R^d}\int_{\mathbb R^d}
e^{-ix\cdot\xi}f(y)g(x-y)\,dy\,dx\\
&=(2\pi)^{-d}\int_{\mathbb R^d}\int_{\mathbb R^d}
e^{-i(y+z)\cdot\xi}f(y)g(z)\,dz\,dy\\
&=\left((2\pi)^{-d/2}\int e^{-iy\cdot\xi}f(y)\,dy\right)
\left((2\pi)^{-d/2}\int e^{-iz\cdot\xi}g(z)\,dz\right)\\
&=\widehat f(\xi)\widehat g(\xi).
\end{aligned}
$$
積分交換を支えるのは $f,g\in L^1$ という仮定であり、形式的な指数計算だけではない。$\blacksquare$
$f\in L^1(\mathbb R^d)$、$g\in C_0(\mathbb R^d)$ とする。このとき
$$
(f*g)(x):=(2\pi)^{-d/2}\int f(y)g(x-y)\,dy
$$
は全ての $x$ で絶対収束して $C_0(\mathbb R^d)$ の元を定め、
$$
\|f*g\|_\infty\leq(2\pi)^{-d/2}\|f\|_1\|g\|_\infty
$$
を満たす。
$g$ は有界なので、各 $x$ について
$$
\int|f(y)g(x-y)|\,dy\leq\|g\|_\infty\|f\|_1
$$
であり、絶対収束とノルム評価を得る。$C_0(\mathbb R^d)$ の関数は一様連続だから、$h\to0$ のとき
$$
\begin{aligned}
|(f*g)(x+h)-(f*g)(x)|
&\leq(2\pi)^{-d/2}\int|f(y)|\,|g(x+h-y)-g(x-y)|\,dy\\
&\leq(2\pi)^{-d/2}\|f\|_1
\sup_z|g(z+h)-g(z)|
\end{aligned}
$$
の右辺は $x$ に一様に $0$ へ収束する。従って $f*g$ は連続である。
最後に $f=0$ なら明らかなので $\|f\|_1>0$ とする。任意の $\varepsilon>0$ に対し、コンパクト集合 $A,K$ を、
$$
\int_{\mathbb R^d\setminus A}|f(y)|\,dy
<\frac{\varepsilon(2\pi)^{d/2}}{2(\|g\|_\infty+1)},
\qquad
|g(z)|<\frac{\varepsilon(2\pi)^{d/2}}{2\|f\|_1}\qquad(z\notin K)
$$
となるように取る。$x\notin A+K$ なら $y\in A$ に対して $x-y\notin K$ であるから、積分を $A$ とその補集合へ分けて
$$
|(f*g)(x)|<\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}=\varepsilon
$$
を得る。$A+K$ はコンパクトなので、$f*g$ は無限遠で $0$ へ収束する。$\blacksquare$
畳み込みは記号が同じでも、入力する空間によって定義と結論が異なる。
| 入力 | 出力 | 本記事で保証すること |
|---|---|---|
| $L^1\times L^1$ | $L^1$ | ほとんど至る所で定義、Young評価、可換・結合、Fourier畳み込み定理 |
| $L^1\times C_0$ | $C_0$ | 全ての点で絶対収束、連続、無限遠で消える |
| $\mathcal S\times\mathcal S$ | $\mathcal S$ | 上の定理に加え、微分と多項式重みを積分内へ移せるためSchwartz空間を保つ |
| テスト関数 $\times$ 超関数 | 滑らかな関数 | 双対作用として定義する。詳細は超関数とFourier変換、Sobolev空間の各論に委ねる |
| コンパクト台超関数 $\times$ 超関数 | 超関数 | 台条件が積分の意味を保証する。詳細は超関数の畳み込みの個別記事に委ねる |
$\mathcal S(\mathbb R^d)\subset L^1(\mathbb R^d)$ なので、Schwartz関数どうしには thm-convolution-fourier がそのまま適用できる。さらに微分について
$$
\partial^\alpha(f*g)=(\partial^\alpha f)*g=f*(\partial^\alpha g)
$$
が成り立ち、多項式重み $x^\beta$ は $x=y+(x-y)$ を多項式展開することで二つの因子へ分配できる。これにより $f*g\in\mathcal S$ が従う。超関数の場合は積分ではなく双対性で定義するため、$L^1$ の証明を記号だけで流用してはならない。
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