美術館定理(art gallery theorem)とは、$n$ 個の頂点をもつ単純多角形($n\ge3$)の周と内部を合わせた美術館は、頂点に置いた $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ 人以下の警備員で全体を見張れ、しかも各 $n$ について $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ 人より少なくては見張れない美術館(櫛形)があるという定理である。点 $G$ から点 $X$ が見えるとは、線分 $GX$ が美術館からはみ出さないことをいう。証明では、多角形を対角線で $n-2$ 個の三角形に分け、どの三角形も 3 頂点が違う色になるように頂点を 3 色で塗り、いちばん少ない色の頂点に警備員を置く。凸多角形は 1 人で見張れる。
前提知識: 多角形のJordan曲線定理, 多角形の内角の和と外角の和, 鳩の巣原理, 数学的帰納法と整列性
壁がまっすぐな $n$ 枚の板でできた美術館の部屋がある。部屋の中に警備員を立たせ、部屋のどの場所も少なくとも 1 人の警備員から見えるようにしたい。警備員はその場で 1 周見回せるが、壁の向こうは見えない。何人いれば足りるだろうか。
部屋が凸な形なら 1 人で足りる。部屋がへこんでいると 1 人では足りないことがある。まず小さな例で確かめる。
多角形のJordan曲線定理 の例で使った C の字の 8 角形を部屋にする。頂点は順に
$$
P_1(0,0),\ P_2(6,0),\ P_3(6,5),\ P_4(0,5),\ P_5(0,4),\ P_6(5,4),\ P_7(5,1),\ P_8(0,1)
$$
である。部屋は、上の腕($0\le x\le6$、$4\le y\le5$ の長方形)、右の柱($5\le x\le6$、$0\le y\le5$)、下の腕($0\le x\le6$、$0\le y\le1$)を合わせたもので、左の口($0< x<5$、$1< y<4$)は部屋の外である。
(1) 1 人では足りない。上の腕の左端の点 $A\left(0,\dfrac92\right)$ と下の腕の左端の点 $B\left(0,\dfrac12\right)$ を考える。点 $Z(x,y)$ から $A$ が見えるとし、$y<4$ と仮定する。$Z$ が $x\le5$ の範囲にあれば、$Z$ は下の腕の点($y\le1$)か、壁 $P_6P_7$ の上の点($x=5$、$1< y<4$)である。下の腕の点なら、線分 $AZ$ は高さ $\dfrac52$ の点を $x<5$ の範囲で通る。その点は、高さが合わないので上の腕にも下の腕にもなく、$x<5$ なので右の柱にもなく、部屋の外にある。壁 $P_6P_7$ の上の点なら、線分 $AZ$ の $Z$ のすぐ手前の点は $x<5$、$1< y<4$ を満たすので口の中にあり、部屋の外にある。したがって $5< x\le6$ である。このとき線分 $AZ$ は、$x=5$ の壁 $P_6P_7$ より上(高さ $4$ 以上)を通る必要がある。高さ $1$ と $4$ の間で $x=5$ を通ると、そのすぐ左で口に入り、高さ $1$ 以下で通ると、その先で高さ $\dfrac52$ の点を $x<5$ で通るからである。線分 $AZ$ の $x=5$ での高さは $\dfrac92+(y-\dfrac92)\cdot\dfrac5x$ で、これが $4$ 以上であることから
$$
\left(\frac92-y\right)\cdot\frac5x\le\frac12,\qquad y\ge\frac92-\frac x{10}\ge\frac92-\frac6{10}=\frac{39}{10}
$$
である。よって $A$ が見える点はすべて $y\ge\dfrac{39}{10}$ を満たす。上下を入れかえた同じ計算で、$B$ が見える点はすべて $y\le\dfrac{11}{10}$ を満たす。両方を満たす点はないので、$A$ と $B$ を 1 人で見ることはできない(図 1)。
(2) 2 人で足りる。$P_3(6,5)$ に 1 人、$P_7(5,1)$ に 1 人を置く。上の腕と右の柱はどちらも長方形で $P_3$ を含むので、$P_3$ からその中の点を結ぶ線分は長方形の中にあり、全部見える。下の腕は長方形で $P_7$ を含むので、$P_7$ から全部見える。3 つを合わせると部屋全体である。
C の字の部屋。青は点 A が見える範囲、橙は点 B が見える範囲で、重なりがない
C の字の部屋は壁が $8$ 枚で、$2$ 人が必要かつ十分だった。$8$ を $3$ で割ると $2$ 余り $2$ である。この記事の主定理は、壁が $n$ 枚の部屋はいつも $\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ 人で見張れ、それより少なくては見張れない部屋もある、というものである($\lfloor t\rfloor$ は $t$ 以下の最大の整数)。この記事では次の問いに答える。
| 高校での見方 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 部屋を三角形に切り分ける | 三角形分割 | 多角形の三角形分割、平面グラフ |
| 頂点を 3 色で塗る | どの三角形も 3 色がそろう塗り分け | グラフの 3 彩色 |
| いちばん少ない色を選ぶ | $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ 個以下の頂点 | 鳩の巣原理 |
| 櫛の形の部屋 | $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ 人が必要な例 | 下からの評価 |
$n\ge3$ とし、$P$ を $n$ 個の頂点をもつ単純多角形とする(多角形のJordan曲線定理 の単純多角形)。$P$ の周と内部を合わせた図形を $\mathcal G$ と書き、美術館 と呼ぶ。
$\mathcal G$ の 2 点 $G$、$X$ について、線分 $GX$ が $\mathcal G$ に含まれるとき、$G$ から $X$ が 見える という。線分が壁(周)に触れたり、壁に沿ったりしてもよい。$\mathcal G$ の有限個の点 $G_1,\dots,G_k$(警備員)が $\mathcal G$ を 見張る とは、$\mathcal G$ のどの点 $X$ も、少なくとも 1 人の $G_i$ から見えることをいう。
「見える」は、線分が美術館からはみ出さないことである。美術館の外(多角形のJordan曲線定理 の外部)の点を通る線分は見えない。
$n\ge3$ とする。
(1) $n$ 個の頂点をもつどの美術館も、$\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ 人以下の警備員で見張れる。しかも警備員は頂点に置ける。
(2) 各 $n\ge3$ について、$\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ 人より少ない警備員では見張れない、$n$ 個の頂点をもつ美術館がある。
単純多角形の、隣り合わない 2 つの頂点を結ぶ線分で、両端以外で周と交わらず内部を通るものを 対角線 という。$n\ge4$ の単純多角形には対角線があることは、多角形の内角の和と外角の和 の補題「対角線の存在」で、左端の頂点を使って証明されている(靴ひも公式 にも同じ補題がある)。また、対角線 $P_iP_j$($i< j$)は多角形を 2 つの単純多角形 $P_iP_{i+1}\cdots P_j$ と $P_jP_{j+1}\cdots P_nP_1\cdots P_i$ に分け、2 つの内部を合わせるともとの内部から対角線を除いたものになる。この「分ける」性質は 多角形の内角の和と外角の和 の (J2) で、この記事でも証明せずに使う(多角形のJordan曲線定理 では扱っていない)。
美術館 $\mathcal G$ を、互いに交わらない(端の点を除いて共有点をもたない)何本かの対角線で切り分け、切り分けた部分がすべて三角形になるとき、その切り分け方を $\mathcal G$ の 三角形分割 という。三角形の頂点はどれも多角形の頂点である。
$n\ge3$ 個の頂点をもつ単純多角形には三角形分割があり、どの三角形分割も $n-3$ 本の対角線と $n-2$ 個の三角形からなる。
方針:$n$ についての数学的帰納法で示す。「$n$ より小さいすべての場合に正しい」と仮定する形の帰納法を使う(数学的帰納法と整列性)。
段 1($n=3$)。三角形そのものが三角形分割で、対角線は $0=3-3$ 本、三角形は $1=3-2$ 個である。三角形には対角線がないので、三角形分割はこれだけである。
段 2(存在)。$n\ge4$ とし、頂点が $n$ 個より少ない単純多角形では正しいと仮定する。対角線 $P_iP_j$($i< j$)が 1 本ある。これで多角形は、頂点が $k=j-i+1$ 個の多角形 $Q_1$ と、$n-k+2$ 個の多角形 $Q_2$ に分かれる。$P_i$ と $P_j$ は隣り合わないので $k\ge3$、$n-k+2\ge3$ で、$k\le n-1$ かつ $n-k+2\le n-1$ である。帰納法の仮定により $Q_1$、$Q_2$ には三角形分割があり、その対角線に $P_iP_j$ を加えると、もとの多角形の三角形分割になる($Q_1$、$Q_2$ の対角線はそれぞれの内部を通るので、互いに交わらず、$P_iP_j$ とも交わらない)。
段 3(本数と個数)。どの三角形分割でも、$n\ge4$ なら対角線は少なくとも 1 本ある(1 本もなければ多角形そのものが三角形で、$n=3$ になる)。その 1 本 $P_iP_j$ で段 2 のように $Q_1$、$Q_2$ に分けると、残りの対角線と三角形はどれも $Q_1$ か $Q_2$ の一方に入り(対角線どうしは交わらないので $P_iP_j$ をまたがない)、それぞれの三角形分割になる。帰納法の仮定により、三角形は
$$
(k-2)+\bigl((n-k+2)-2\bigr)=n-2
$$
個、対角線は $P_iP_j$ を加えて
$$
(k-3)+\bigl((n-k+2)-3\bigr)+1=n-3
$$
本である。$\square$
多角形が三角形に分けられることは、BTB11 も Problem 25(4 頂点以上の多角形は、内部を通る線分で 2 つに分けられる)と Problem 28(分け方をくり返して三角形分割する)で、読者への問題として扱っている。三角形の個数 $n-2$ から、内角の和が $(n-2)\times180^\circ$ であることもすぐに分かる(多角形の内角の和と外角の和)。
ex-agt-start の 8 角形を、5 本の対角線 $P_1P_7$、$P_2P_7$、$P_2P_6$、$P_3P_6$、$P_3P_5$ で切り分けると、6 個の三角形
$$
P_1P_2P_7,\quad P_1P_7P_8,\quad P_2P_6P_7,\quad P_2P_3P_6,\quad P_3P_5P_6,\quad P_3P_4P_5
$$
になる(図 2)。$n=8$ で、対角線は $8-3=5$ 本、三角形は $8-2=6$ 個である。下の 2 つは下の腕、真ん中の 2 つは右の柱、上の 2 つは上の腕に入っている。面積は順に $3,\ \dfrac52,\ \dfrac32,\ \dfrac52,\ \dfrac52,\ 3$ で、和は $15$、8 角形の面積 $30-15=15$($6\times5$ の長方形から口の $5\times3$ を除く)と一致する。
単純多角形の三角形分割が 1 つ与えられたとき、多角形の頂点を 3 色で塗って、どの三角形の 3 頂点も互いに違う色になるようにできる。
方針:頂点の個数 $n$ についての数学的帰納法で示す。対角線で 2 つに分け、両側を別々に塗ってから、対角線の両端の色が合うように片側の色の名前をつけかえる。
段 1($n=3$)。三角形 1 つなので、3 頂点を 3 色で塗ればよい。
段 2(分ける)。$n\ge4$ とし、頂点が $n$ 個より少ない場合は正しいと仮定する。三角形分割には対角線 $d=P_iP_j$ があり、lem-agt-triangulation の証明の段 3 のように、$d$ で多角形を $Q_1$、$Q_2$ に分けると、三角形分割も $Q_1$ の三角形分割と $Q_2$ の三角形分割に分かれる。帰納法の仮定により、$Q_1$ の頂点を色 $1,2,3$ で、どの三角形も 3 色になるように塗れる。$Q_2$ の頂点も同じように塗れる。
段 3(色の名前をつけかえる)。$d$ は $Q_1$ の辺なので、$Q_1$ のある三角形の辺であり、その三角形は 3 色なので $P_i$ と $P_j$ は違う色である。$Q_1$ での色を $P_i$ が $a$、$P_j$ が $b$ とし、残りの色を $c$ とする。$Q_2$ でも $P_i$ と $P_j$ は違う色である。$Q_2$ の塗り方の色の名前を、$P_i$ の色が $a$、$P_j$ の色が $b$、残りの色が $c$ になるようにつけかえる(3 色の名前を入れかえても、どの三角形も 3 色であることは変わらない)。
段 4(合わせる)。$P_i$、$P_j$ 以外の頂点は $Q_1$ と $Q_2$ の一方だけの頂点なので、その側の色で塗る。$P_i$、$P_j$ は両側で同じ色になった。こうして多角形の全頂点が塗られ、どの三角形も $Q_1$ か $Q_2$ の三角形なので 3 色である。$\square$
ex-agt-triangulation の三角形分割で、1 つの三角形から始めて、対角線を渡りながら色を決めていく。3 色を $1,2,3$ とする(図 2 では丸・四角・三角の印)。
(1) 三角形 $P_1P_2P_7$ を $P_1=1$、$P_2=2$、$P_7=3$ と塗る。
(2) 対角線 $P_1P_7$ の向こうの三角形 $P_1P_7P_8$ では、$P_1=1$、$P_7=3$ なので $P_8=2$ に決まる。
(3) 対角線 $P_2P_7$ の向こうの三角形 $P_2P_6P_7$ では、$P_2=2$、$P_7=3$ なので $P_6=1$ である。続けて三角形 $P_2P_3P_6$ で $P_3=3$、三角形 $P_3P_5P_6$ で $P_5=2$、三角形 $P_3P_4P_5$ で $P_4=1$ である。
色ごとに数えると、色 $1$ が $P_1,P_4,P_6$ の 3 個、色 $2$ が $P_2,P_5,P_8$ の 3 個、色 $3$ が $P_3,P_7$ の 2 個である。いちばん少ない色 $3$ の頂点 $P_3$、$P_7$ は、ex-agt-start (2) で置いた 2 人の位置と同じである。
C の字の部屋の三角形分割と 3 色の塗り分け。破線が対角線、丸で囲んだ 2 つの三角の印の頂点に警備員を置く
櫛の形の 9 角形の三角形分割と 3 色の塗り分け。太い線の対角線 Q1Q5 で左右 2 つの多角形に分かれる
1 つ目の三角形の色を決めると、あとの色は対角線を渡るたびに 1 通りに決まった。途中で矛盾が起きないのは、lem-agt-color の証明のとおり、対角線で切ると多角形が 2 つに分かれ、同じ頂点に別の道筋から戻ってくることがないからである。
方針:(1) は、三角形分割の頂点を 3 色で塗り、いちばん少ない色の頂点に警備員を置く。(2) は、細い歯が $k$ 本ある櫛の形の部屋を作り、歯の先を見られる場所が歯ごとに離れていることを示す。
段 1((1):塗る)。lem-agt-triangulation により美術館 $\mathcal G$ の三角形分割をとり、lem-agt-color により頂点を色 $1,2,3$ で、どの三角形も 3 色になるように塗る。
段 2((1):いちばん少ない色)。色 $1,2,3$ の頂点の個数を $a,b,c$ とすると $a+b+c=n$ である。3 つとも $\dfrac n3$ より大きいとすると $a+b+c>n$ となり矛盾するので、どれか 1 つ、たとえば $a$ は $\dfrac n3$ 以下である(鳩の巣原理 の考え方)。$a$ は整数なので $a\le\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ である。
段 3((1):置いて見張る)。色 $1$ の $a$ 個の頂点すべてに警備員を置く。三角形分割のどの三角形も 3 頂点が 3 色なので、色 $1$ の頂点をちょうど 1 つもち、そこに警備員がいる。三角形は $\mathcal G$ に含まれ、中の 2 点を結ぶ線分を含むので、その警備員から三角形全体が見える。$\mathcal G$ のどの点もどれかの三角形に入るので、$a$ 人の警備員が $\mathcal G$ を見張る。人数を $\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ にそろえたければ、残りの人を好きな頂点に置けばよい。
段 4((2):櫛の形)。$k\ge1$ とし、$T_j=(4j-2,\,6)$($j=1,\dots,k$)とおく。次の $3k$ 個の点をこの順に結んだ多角形を 櫛形 $K_k$ とする。
$$
(0,0),\ (4k,0),\ T_k,\ (4k-3,1),\ (4k-5,1),\ T_{k-1},\ (4k-7,1),\ (4k-9,1),\ \dots,\ T_2,\ (5,1),\ (3,1),\ T_1
$$
$T_j$ が $j$ 本目の歯の先で、歯と歯の間は高さ $1$ の谷になっている(図 4 は $k=4$)。$K_k$ の頂点は $2+k+2(k-1)=3k$ 個である。$n=3k+1$ のときは $(0,0)$ と $(4k,0)$ の間に点 $(2k,-1)$ を、$n=3k+2$ のときは点 $\left(\dfrac{4k}3,-1\right)$、$\left(\dfrac{8k}3,-1\right)$ を加えて、底を少し下にふくらませる。どの場合も $\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor=k$ で、部屋の点の高さ $y$ は $-1\le y\le6$ である。
段 5((2):歯の先を見られる場所)。歯の先 $T_j$ での 2 本の辺の向きを $\vec u$(左下へ)、$\vec v$(右下へ)とし、$T_j+s\vec u+t\vec v$($s,t\ge0$)の形の点の集まりを $W_j$ とする。$W_j$ は、$T_j$ から 2 本の辺を下へ延ばした直線ではさまれた、下向きに開いたくさび形である。$T_j$ のすぐ近くでは、部屋は 2 本の辺ではさまれた角の部分だけなので、$T_j$ が見える点 $G$ について線分 $T_jG$ は $T_j$ を出るときにこの角の中へ向かう。したがって $G$ は $W_j$ に入る。
段 6((2):くさびは重ならない)。$2\le j\le k-1$ の歯の 2 本の辺は、$T_j$ から $(4j-3,1)$、$(4j-1,1)$ へ向かい、傾きの大きさは $5$ である。高さ $y$($y\le6$)での $W_j$ の右の境は $x=4j-2+\dfrac{6-y}5$ で、これは $j=1$ でも同じである。$W_{j+1}$ の左の境は $x=4(j+1)-2-\dfrac{6-y}5=4j+2-\dfrac{6-y}5$ で、これは $j+1=k$ でも同じである。2 つの差は
$$
\left(4j+2-\frac{6-y}5\right)-\left(4j-2+\frac{6-y}5\right)=4-\frac{2(6-y)}5
$$
で、$y>-4$ なら正である。部屋の点は $y\ge-1$ なので、部屋の中では $W_j$ は $W_{j+1}$ より左にあり、$W_{j+1},W_{j+2},\dots$ はさらに右にある。よって部屋の中で 2 つのくさびが重なることはない。
段 7((2):まとめ)。段 5・段 6 により、1 人の警備員から見える歯の先は高々 1 つである。$k$ 個の歯の先をすべて見るには $k=\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ 人以上が必要である。$\square$
櫛の形の 12 角形。4 つの歯の先(黒い点)が見える場所は色をつけたくさび形で、互いに重ならない。星の位置の 4 人で全体を見張れる
$k=3$ の櫛形 $K_3$ の頂点を順に
$$
Q_1(0,0),\ Q_2(12,0),\ Q_3(10,6),\ Q_4(9,1),\ Q_5(7,1),\ Q_6(6,6),\ Q_7(5,1),\ Q_8(3,1),\ Q_9(2,6)
$$
とする。歯の先は $Q_9$、$Q_6$、$Q_3$ である。
(1) 3 人が必要。高さ $0$ でのくさびの幅は、$W_1$ が $0\le x\le\dfrac{16}5$、$W_2$ が $\dfrac{24}5\le x\le\dfrac{36}5$、$W_3$ が $\dfrac{44}5\le x\le12$ で、互いに離れている。
(2) 3 人で足りる。7 個の三角形 $Q_1Q_8Q_9$、$Q_5Q_6Q_7$、$Q_2Q_3Q_4$、$Q_1Q_7Q_8$、$Q_1Q_5Q_7$、$Q_1Q_4Q_5$、$Q_1Q_2Q_4$ で三角形分割する(図 3、$9-2=7$ 個)。対角線 $Q_1Q_5$ で、左の 6 角形 $Q_5Q_6Q_7Q_8Q_9Q_1$ と右の 5 角形 $Q_1Q_2Q_3Q_4Q_5$ に分かれる。左を $Q_1=1$、$Q_8=2$、$Q_9=3$、$Q_7=3$、$Q_5=2$、$Q_6=1$ と塗る。右を別に $Q_1=2$、$Q_5=3$、$Q_4=1$、$Q_2=3$、$Q_3=2$ と塗ったとすると、$Q_1$、$Q_5$ の色を左に合わせるために名前を $2\to1$、$3\to2$、$1\to3$ とつけかえて、$Q_4=3$、$Q_2=2$、$Q_3=1$ になる。色 $1$ は $Q_1,Q_3,Q_6$ の 3 個で、ここに 3 人を置けば見張れる。
| 頂点の数 $n$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ | $7$ | $8$ | $9$ | $12$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 凸多角形に必要な人数 | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ |
| 櫛形(底をふくらませたものを含む)に必要な人数 | $1$ | $1$ | $1$ | $2$ | $2$ | $2$ | $3$ | $4$ |
| どの美術館でも足りる人数 $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ | $1$ | $1$ | $1$ | $2$ | $2$ | $2$ | $3$ | $4$ |
凸多角形の美術館は、どの頂点に置いた 1 人の警備員でも見張れる。
ex-agt-convex (1) の事実(凸多角形は中の 2 点を結ぶ線分を含む)から、どの点に置いても全体が見える。$n$ が大きくても $\left\lfloor\dfrac n3\right\rfloor$ 人は要らず、thm-agt-main (1) の人数はあくまで「どの形でも足りる」上限である。凸多角形の三角形分割が何通りあるかは、Catalan数(高校数学) で数える。
lem-agt-color、thm-agt-main、cor-agt-convex の条件を 1 つずつ外す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 色の数が $3$ | 三角形 1 つを $2$ 色で塗る | どの三角形も 3 頂点が違う色になる |
| 人数が $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ | 櫛形の 9 角形に $2$ 人 | 全体を見張れる |
| 多角形が凸 | 櫛形の 6 角形 | 1 人で見張れる |
三角形の 3 頂点を 2 色で塗ると、鳩の巣原理 により 2 頂点が同じ色になる。したがって、どの三角形分割でも「どの三角形も 3 頂点が違う色」の塗り分けは 2 色ではできない。lem-agt-color の色の数 $3$ は減らせない。色が $3$ 個あるから、thm-agt-main の証明の段 2 で「いちばん少ない色は $\frac n3$ 以下」が出る。
ex-agt-comb の櫛形の 9 角形は $\left\lfloor\dfrac93\right\rfloor=3$ 人で見張れるが、$2$ 人では見張れない。3 つのくさび $W_1$、$W_2$、$W_3$ は重ならないので、2 人ではどれかのくさびに誰もいない。そのくさびの歯の先は誰からも見えない。
$k=2$ の櫛形 $K_2$ は、頂点 $(0,0)$、$(8,0)$、$(6,6)$、$(5,1)$、$(3,1)$、$(2,6)$ の 6 角形である。歯の先 $(2,6)$、$(6,6)$ を見られる場所は、高さ $0$ でそれぞれ $0\le x\le\dfrac{16}5$、$\dfrac{24}5\le x\le8$ のくさびの中にあり、高さ $0$ 以上では重ならない(thm-agt-main の証明の段 6)。よって 1 人では見張れず、2 人が必要である。凸という条件を外すと cor-agt-convex は成り立たない。
逆に、1 人で見張れる部屋が凸とは限らない。ex-agt-convex (2) の矢じり形は凸でないが、頂点 $(2,3)$ の 1 人で見張れる。
多角形の頂点を点、辺と三角形分割の対角線を線とみると、一筆書きとグラフ で扱うグラフになる。lem-agt-color は、このグラフの頂点を、線で結ばれた 2 点が違う色になるように 3 色で塗れる、つまり彩色数が $3$ であることを示している(彩色数)。平面に交わらずに描けるグラフ一般では 4 色が必要なこともあり、4 色で足りることが 四色定理 である(この記事では証明しない)。多角形の三角形分割のグラフは、対角線で切るたびに 2 つに分かれる特別な形をしているので、3 色で足りる。
ORo87 の §1.1・§1.2 によれば、この問題は 1973 年に V. Klee が V. Chvátal に出したもので、Chvátal は 1975 年に帰納法で $\left\lfloor\frac n3\right\rfloor$ 人で足りることを示し、櫛形で必要なことも示した。この記事の三角形分割の 3 色の塗り分けによる証明は、1978 年の S. Fisk の短い証明である(Wei26 にも 2 つの論文が挙がっている)。ORo87 には、この記事で扱わない次の注意も図で示されている:3 つおきの頂点に警備員を置くだけでは見張れない部屋がある(Fig. 1.3)、壁(周)をすべて見られても内部に見えない所が残る部屋がある(Fig. 1.4)、頂点に限らず置ける 1 人で見張れるのに頂点に限ると 2 人要る部屋がある(Fig. 1.5)。
中に柱(穴)がある美術館については、壁の総数を $n$、穴の数を $h$ とすると $\left\lfloor\frac{n+h}3\right\rfloor$ 人で見張れることが証明されている(Wei26。この記事では証明しない)。穴があると lem-agt-color の証明が使えない。穴を囲むように対角線がつながると、対角線で切っても 2 つに分かれないからである。
三角形分割を実際に計算機で求める方法(計算幾何学)も ORo87 の §1.3 で扱われている。
頂点が順に $L_1(0,0)$、$L_2(4,0)$、$L_3(4,2)$、$L_4(2,2)$、$L_5(2,4)$、$L_6(0,4)$ の L の字の 6 角形の部屋について答えよ。(1) 三角形分割を 1 つ作り、頂点を 3 色で塗り分けよ。(2) thm-agt-main の証明の方法では何人の警備員を置くことになるか。(3) 実際には 1 人で見張れることを示せ。
(1) 対角線 $L_1L_3$、$L_1L_4$、$L_4L_6$ で、4 個の三角形 $L_1L_2L_3$、$L_1L_3L_4$、$L_1L_4L_6$、$L_4L_5L_6$ に分かれる($6-2=4$)。$L_1=1$、$L_2=2$、$L_3=3$ と塗ると、三角形 $L_1L_3L_4$ から $L_4=2$、三角形 $L_1L_4L_6$ から $L_6=3$、三角形 $L_4L_5L_6$ から $L_5=1$ に決まる。
(2) 色 $1$ は $L_1,L_5$、色 $2$ は $L_2,L_4$、色 $3$ は $L_3,L_6$ で、どの色も 2 個である。証明の方法では $2=\left\lfloor\frac63\right\rfloor$ 人を置く(たとえば $L_1$ と $L_5$)。
(3) 部屋は長方形 $0\le x\le4$、$0\le y\le2$ と長方形 $0\le x\le2$、$0\le y\le4$ を合わせたもので、$L_1(0,0)$ はどちらの長方形にも入っている。長方形は中の 2 点を結ぶ線分を含むので、$L_1$ からどちらの長方形の点も見える。よって $L_1$ の 1 人で見張れる。thm-agt-main (1) の人数は上限で、部屋によってはもっと少なくて済む。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する