$(1+1/n)^n$の極限(limit of $(1+1/n)^n$)とは、年利 100% を 1 年 $n$ 回の複利で付けたときの倍率 $a_n=(1+\frac1n)^n$ が $n\to\infty$ で近づく数であり、これをネイピア数 $e$ と定める。二項定理で $a_n=\sum_{k=0}^n\frac1{k!}(1-\frac1n)\cdots(1-\frac{k-1}n)$ と展開し係数を比べると、$a_n$ は狭義単調増加で $a_n\le\sum_{k=0}^n\frac1{k!}<3$ なので、単調有界数列の収束により極限が存在する。Bernoulli の不等式から $(1+\frac1n)^{n+1}$ は狭義単調減少で、各 $n\ge1$ で $(1+\frac1n)^n<e<(1+\frac1n)^{n+1}$、$2<e<3$ である。
銀行に 1 万円を預け、1 年で 100% の利息が付くとする。1 年後の残高は 2 万円である。では、利息を半年ごとに 50% ずつ付けたらどうなるか。半年後に付いた利息にも、次の半年で利息が付く(複利)。1 年を $n$ 回に分けて、そのたびに $\frac1n$ の割合の利息を付けると、残高は 1 回ごとに $\bigl(1+\frac1n\bigr)$ 倍になるので、1 年後には元金の
$$
a_n:=\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n
$$
倍になる。$n$ を大きくすると、どこまで増えるのだろうか。
次の値は数値計算による($\ldots$ は以下を切り捨てたことを表す)。
| $n$ | $1$ | $2$ | $3$ | $5$ | $10$ | $100$ | $1000$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $a_n$ | $2$ | $2.25$ | $2.370\ldots$ | $2.48832$ | $2.593\ldots$ | $2.7048\ldots$ | $2.71692\ldots$ |
値は増え続けるが、$2.7$ を少し超えたあたりで止まりそうに見える。
高校の教科書は、この値が近づく先を $e=2.71828\ldots$ と書く。しかし表が見せるのは有限個の値だけである。次の 2 つは、表からはわからない。
| 高校で見ること | 本記事の言葉 | ボックス |
|---|---|---|
| 表で値が増えながら止まりそうに見える | 単調で有界な数列は収束する | axm-eln-monotone |
| 二項定理で $a_n$ を展開する | 展開の係数を $n$ と $n+1$ で比べる | lem-eln-expand, thm-eln-converge |
| $e=2.718\ldots$ という値 | 増える数列と減る数列で挟む | prop-eln-squeeze |
a_n と b_n が e を挟む様子
上に有界な単調増加数列は収束する。下に有界な単調減少数列も収束する。
これは実数の基本性質の 1 つの言い表し方で、単調収束定理とも呼ばれる。本記事では証明せずに認める(実数を公理で定める流儀では、上限の存在と同値な公理として採用される。Leb26 Theorem 2.1.10、p. 55 は上限の存在から導いている)。
この性質のよいところは、極限の値を知らなくても収束が言えることである。$a_n$ の極限は、極限をとる前には名前のない数である。その数の存在を示すには、まさにこの性質が必要になる。なお、この性質は有理数だけの世界では成り立たない。そのことは $a_n$ 自身が示す(eの級数表示と無理数性の記事で扱う)。
後で使うので、「狭義単調な数列は極限を超えない」ことを確かめておく。
狭義単調増加な数列 $(x_n)$ が $L$ に収束するならば、すべての $n$ で $x_n< L$ である。狭義単調減少な数列 $(y_n)$ が $L$ に収束するならば、すべての $n$ で $y_n>L$ である。
増加の場合を示す。$n$ を 1 つ固定する。
二項定理とその証明は 二項定理と組合せの恒等式 で扱う。
$a_n$ を二項定理で展開すると、証明の骨組みになる形が現れる。
正の整数 $n$ について
$$
a_n=\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n=\sum_{k=0}^n\frac1{k!}\,c_{n,k},\qquad c_{n,k}:=\Bigl(1-\frac1n\Bigr)\Bigl(1-\frac2n\Bigr)\cdots\Bigl(1-\frac{k-1}n\Bigr)
$$
である。ただし $k=0,1$ では $c_{n,k}$ の積に因子がないので $c_{n,0}=c_{n,1}=1$ とする。
段 1(二項定理)。二項定理より
$$
\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n=\sum_{k=0}^n\binom nk\Bigl(\frac1n\Bigr)^k=\sum_{k=0}^n\binom nk\frac1{n^k}
$$
である。
段 2(二項係数を書き下す)。$1\le k\le n$ について
$$
\binom nk=\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-k+1)}{k!}
$$
であり、分子は $n$ から $1$ ずつ減らした $k$ 個の数の積である。$k=0$ では $\binom n0=1=\frac1{0!}$ である($0!=1$)。
段 3($k$ 個の因子を 1 つずつ $n$ で割る)。分子の $k$ 個の因子それぞれを $n$ で割ると
$$
\frac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{n^k}=\frac nn\cdot\frac{n-1}n\cdots\frac{n-k+1}n=1\cdot\Bigl(1-\frac1n\Bigr)\cdots\Bigl(1-\frac{k-1}n\Bigr)=c_{n,k}
$$
である。
段 4(まとめる)。段 2 と段 3 から $\binom nk\frac1{n^k}=\frac1{k!}c_{n,k}$ であり($k=0$ でも両辺は $1$)、段 1 に代入して主張を得る。$\square$
$n=3$ では $c_{3,2}=1-\frac13=\frac23$、$c_{3,3}=\bigl(1-\frac13\bigr)\bigl(1-\frac23\bigr)=\frac23\cdot\frac13=\frac29$ なので
$$
a_3=1+1+\frac1{2!}\cdot\frac23+\frac1{3!}\cdot\frac29=1+1+\frac13+\frac1{27}=\frac{64}{27}
$$
である。直接計算した $\bigl(\frac43\bigr)^3=\frac{64}{27}$ と一致する。
$n=4$ では $c_{4,2}=\frac34$、$c_{4,3}=\frac34\cdot\frac24=\frac38$、$c_{4,4}=\frac34\cdot\frac24\cdot\frac14=\frac3{32}$ なので
$$
a_4=1+1+\frac12\cdot\frac34+\frac16\cdot\frac38+\frac1{24}\cdot\frac3{32}=2+\frac38+\frac1{16}+\frac1{256}=\frac{625}{256}
$$
である。これも $\bigl(\frac54\bigr)^4=\frac{625}{256}$ と一致する。
$c_{n,k}$ の因子 $1-\frac jn$($1\le j\le k-1$)は、どれも $0$ 以上 $1$ 以下で、$n$ を大きくすると $1$ に近づく。したがって $a_n$ は「$\frac1{k!}$ に $1$ 以下の係数 $c_{n,k}$ を掛けて足したもの」であり、$n$ を大きくすると係数が $1$ に近づいていく。これが以下のすべての証明の骨組みである。
係数 c_{n,k} が n とともに 1 に近づく様子
図 2 は $n=5,10,50$ での係数 $c_{n,k}$ を $k$ ごとに並べたものである。同じ $k$ で比べると、$n$ が大きいほど係数は大きく、$1$ に近い。
$k\ge1$ なら $k!\ge2^{k-1}$ である。したがって、すべての $n\ge0$ について
$$
s_n:=\sum_{k=0}^n\frac1{k!}<3
$$
である。
段 1($k!\ge2^{k-1}$)。$k$ についての数学的帰納法で示す。$k=1$ では $1!=1=2^0$ である。$k$ で $k!\ge2^{k-1}$ が成り立つとする。$k+1\ge2$ なので
$$
(k+1)!=(k+1)\cdot k!\ge2\cdot k!\ge2\cdot2^{k-1}=2^k
$$
であり、$k+1$ でも成り立つ。
段 2($s_n<3$)。$n=0$ では $s_0=1<3$ である。$n\ge1$ なら、段 1 より $\frac1{k!}\le\frac1{2^{k-1}}$ なので、等比数列の和の公式を使って
$$
s_n=1+\sum_{k=1}^n\frac1{k!}\le1+\sum_{k=1}^n\frac1{2^{k-1}}=1+\frac{1-(\frac12)^n}{1-\frac12}=3-\frac1{2^{n-1}}<3
$$
である。$\square$
| $k$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $k!$ | $1$ | $2$ | $6$ | $24$ | $120$ |
| $2^{k-1}$ | $1$ | $2$ | $4$ | $8$ | $16$ |
$n=4$ では $s_4=1+1+\frac12+\frac16+\frac1{24}=\frac{65}{24}=2.7083\ldots$ であり、lem-eln-factorial の上からの評価 $3-\frac1{2^3}=2.875$ より小さい。
$x>-1$、$x\ne0$ とし、$m$ を $2$ 以上の整数とする。このとき
$$
(1+x)^m>1+mx
$$
である。
段 1($m=2$)。$(1+x)^2=1+2x+x^2$ であり、$x\ne0$ なので $x^2>0$ である。よって $(1+x)^2>1+2x$ である。
段 2($m$ から $m+1$ へ)。$(1+x)^m>1+mx$ が成り立つとする。仮定 $x>-1$ より $1+x>0$ なので、両辺に $1+x$ を掛けても不等号の向きは変わらない。
$$
(1+x)^{m+1}=(1+x)^m(1+x)>(1+mx)(1+x)=1+(m+1)x+mx^2
$$
である。$m\ge2$、$x\ne0$ より $mx^2>0$ なので、右辺は $1+(m+1)x$ より大きい。よって $(1+x)^{m+1}>1+(m+1)x$ である。$\square$
証明の前に、$a_3$ と $a_4$ を展開の項ごとに比べてみる。
ex-eln-expand-3-4 の計算を並べると次のようになる。
| 項 | $k=0$ | $k=1$ | $k=2$ | $k=3$ | $k=4$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $a_3$ の項 $\frac1{k!}c_{3,k}$ | $1$ | $1$ | $\frac13=0.333\ldots$ | $\frac1{27}=0.037\ldots$ | (なし) |
| $a_4$ の項 $\frac1{k!}c_{4,k}$ | $1$ | $1$ | $\frac38=0.375$ | $\frac1{16}=0.0625$ | $\frac1{256}=0.0039\ldots$ |
$k=2,3$ の項は $a_4$ のほうが大きく、さらに $a_4$ には $k=4$ の正の項が加わる。よって $a_3< a_4$ である。一般の $n$ でも同じことが起こる、というのが次の定理の証明である。
数列 $a_n=\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ は狭義単調増加であり、すべての $n\ge1$ について
$$
a_n\le s_n<3\qquad\Bigl(s_n=\sum_{k=0}^n\frac1{k!}\Bigr)
$$
である。したがって $(a_n)$ は収束する。
方針:lem-eln-expand の展開で、$a_n$ と $a_{n+1}$ の係数を 1 項ずつ比べる。
段 1(係数の比較)。$2\le k\le n$ とし、$1\le j\le k-1$ とする。$\frac jn>\frac j{n+1}$ なので
$$
1-\frac jn<1-\frac j{n+1}
$$
である。また $j\le k-1\le n-1$ なので $1-\frac jn\ge1-\frac{n-1}n=\frac1n>0$ であり、左辺は正である。正の数どうしの不等式を $j=1,\dots,k-1$ について掛け合わせると
$$
c_{n,k}=\prod_{j=1}^{k-1}\Bigl(1-\frac jn\Bigr)<\prod_{j=1}^{k-1}\Bigl(1-\frac j{n+1}\Bigr)=c_{n+1,k}
$$
である。$k=0,1$ では $c_{n,k}=c_{n+1,k}=1$ である。
段 2(項が 1 つ増える)。lem-eln-expand を $n+1$ に使うと
$$
a_{n+1}=\sum_{k=0}^{n}\frac1{k!}c_{n+1,k}+\frac1{(n+1)!}c_{n+1,n+1}
$$
である。最後の項の係数 $c_{n+1,n+1}$ の因子 $1-\frac j{n+1}$($1\le j\le n$)はどれも $\frac1{n+1}$ 以上で正なので、最後の項は正である。
段 3($a_n< a_{n+1}$)。段 1 より、$\sum_{k=0}^n\frac1{k!}c_{n+1,k}$ の各項は $a_n$ の対応する項 $\frac1{k!}c_{n,k}$ 以上である。したがって $\sum_{k=0}^n\frac1{k!}c_{n+1,k}\ge a_n$ であり、段 2 の正の項が加わるので $a_{n+1}>a_n$ である。
段 4(上からの評価)。段 1 と同じく、$c_{n,k}$ の因子はどれも $0$ より大きく $1$ 以下なので $c_{n,k}\le1$ である。よって
$$
a_n=\sum_{k=0}^n\frac1{k!}c_{n,k}\le\sum_{k=0}^n\frac1{k!}=s_n
$$
であり、lem-eln-factorial より $s_n<3$ である。
段 5(収束)。$(a_n)$ は単調増加で、$3$ で上から押さえられるので、axm-eln-monotone により収束する。$\square$
こうして、$a_n$ の極限が存在することがわかった。この極限に名前を付ける。
$$
e:=\lim_{n\to\infty}\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n
$$
と定め、この数をネイピア数または自然対数の底という。
単調有界数列が収束することの根拠(実数の連続性)は 極限とε-δ で扱う。
thm-eln-converge の段 4 から $a_n<3$ なので、極限をとって $e\le3$ である。また $(a_n)$ は狭義単調増加なので、lem-eln-below-limit により $2=a_1< e$ である。次の節では、上からの評価を $e<3$ に、さらにいくらでも精密にする。
$a_n$ は $e$ の下からの近似である。上からの近似には、指数を 1 つ増やした $b_n=\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n+1}$ を使う。
数列 $b_n=\bigl(1+\frac1n\bigr)^{n+1}$ は狭義単調減少で $e$ に収束し、すべての $n\ge1$ について
$$
\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^n< e<\Bigl(1+\frac1n\Bigr)^{n+1}
$$
が成り立つ。特に $2< e<3$ である。
方針:隣り合う 2 項の比 $\frac{b_{n-1}}{b_n}$ が $1$ より大きいことを、lem-eln-bernoulli で示す。
段 1(比を 1 つの式にまとめる)。$n\ge2$ とする。$1+\frac1{n-1}=\frac n{n-1}$、$1+\frac1n=\frac{n+1}n$ なので
$$
\frac{b_{n-1}}{b_n}=\frac{\bigl(\frac n{n-1}\bigr)^n}{\bigl(\frac{n+1}n\bigr)^{n+1}}=\Bigl(\frac n{n-1}\Bigr)^n\Bigl(\frac n{n+1}\Bigr)^n\cdot\frac n{n+1}=\Bigl(\frac{n^2}{n^2-1}\Bigr)^n\cdot\frac n{n+1}
$$
である。2 つ目の等号では $\bigl(\frac n{n+1}\bigr)^{n+1}$ を $\bigl(\frac n{n+1}\bigr)^n\cdot\frac n{n+1}$ に分けた。3 つ目の等号では $(n-1)(n+1)=n^2-1$ を使った。さらに $\frac{n^2}{n^2-1}=1+\frac1{n^2-1}$ である。
段 2(Bernoulli の不等式)。$x=\frac1{n^2-1}$ は正($n\ge2$)で、$m=n\ge2$ なので、lem-eln-bernoulli により
$$
\Bigl(1+\frac1{n^2-1}\Bigr)^n>1+\frac n{n^2-1}
$$
である。分母を大きくすると分数は小さくなるので $\frac n{n^2-1}>\frac n{n^2}=\frac1n$ であり、右辺は $1+\frac1n=\frac{n+1}n$ より大きい。
段 3(比は 1 より大きい)。段 1 と段 2 から
$$
\frac{b_{n-1}}{b_n}>\frac{n+1}n\cdot\frac n{n+1}=1
$$
であり、$b_n>0$ なので $b_{n-1}>b_n$ である。これが $n\ge2$ のすべてで成り立つので、$(b_n)$ は狭義単調減少である。
段 4(極限は $e$)。$b_n=a_n\bigl(1+\frac1n\bigr)$ であり、$a_n\to e$、$1+\frac1n\to1$ なので、積の極限の性質から $b_n\to e\cdot1=e$ である。
段 5(挟み込み)。$(a_n)$ は狭義単調増加で $e$ に収束し、$(b_n)$ は狭義単調減少で $e$ に収束する。lem-eln-below-limit により、すべての $n$ で $a_n< e$ かつ $b_n>e$ である。
段 6($2< e<3$)。$n=1$ として $e>a_1=2$、$n=5$ として $e< b_5=2.985984<3$ である($b_5$ は ex-eln-b-values で計算した)。$\square$
prop-eln-squeeze の上下の幅は $b_n-a_n=a_n\cdot\frac1n<\frac3n$ である($a_n<3$ を使った)。次の値は数値計算による。
| $n$ | $a_n$ | $b_n$ | 幅 $b_n-a_n$ |
|---|---|---|---|
| $10$ | $2.5937\ldots$ | $2.8531\ldots$ | $0.259\ldots$ |
| $100$ | $2.7048\ldots$ | $2.7318\ldots$ | $0.0270\ldots$ |
| $1000$ | $2.71692\ldots$ | $2.71964\ldots$ | $0.00271\ldots$ |
$n=1000$ で $2.7169< e<2.7197$ となり、ようやく $e=2.71\ldots$ と小数第 2 位までが決まる。近づき方はとても遅い。数値では $e-a_n$ はおよそ $\frac e{2n}$($n=1000$ で $e-a_{1000}=0.001357\ldots$、$\frac e{2000}=0.001359\ldots$)であるが、本記事ではこの近似式は証明しない。もっと速く $e$ を計算する方法は、eの級数表示と無理数性の記事で扱う。
本記事で使った仮定を 1 つずつ外すと、何が崩れるかをまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 数列が単調であること | 有界な数列は収束する | ex-eln-not-monotone |
| 数列が有界であること | 単調な数列は収束する | ex-eln-not-bounded |
| $x>-1$ | Bernoulli の不等式 | ex-eln-bernoulli-fails |
| 指数が一定であること | 底が $1$ に近づけば冪も $1$ に近づく | ex-eln-exponent-moves |
$x_n=(-1)^n$ は $-1\le x_n\le1$ を満たすので有界だが、収束しない。
理由:ある数 $L$ に収束したとすると、十分大きいすべての $n$ で $|x_n-L|<\frac12$ となる。そのような $n$ を 1 つとると、$x_n$ と $x_{n+1}$ はどちらも $L$ からの距離が $\frac12$ 未満なので、2 つの差は $|x_n-x_{n+1}|\le|x_n-L|+|L-x_{n+1}|<1$ である。ところが実際には $|x_n-x_{n+1}|=|(-1)^n-(-1)^{n+1}|=2$ であり、矛盾する。
axm-eln-monotone の「単調」を外すと、結論は成り立たない。
$x_n=1+\frac12+\frac13+\cdots+\frac1n$(調和級数の部分和)は、正の数を足していくので狭義単調増加である。しかし上に有界でない。
手で確かめる:$x_4=1+\frac12+\bigl(\frac13+\frac14\bigr)\ge1+\frac12+\bigl(\frac14+\frac14\bigr)=2$ である。同じように
$$
x_8=x_4+\Bigl(\frac15+\frac16+\frac17+\frac18\Bigr)\ge2+4\cdot\frac18=2.5
$$
である。一般に、$\frac1{2^{i-1}+1}$ から $\frac1{2^i}$ までの $2^{i-1}$ 個の項はどれも $\frac1{2^i}$ 以上なので、その和は $2^{i-1}\cdot\frac1{2^i}=\frac12$ 以上である。これを $i=1,\dots,m$ について足すと $x_{2^m}\ge1+\frac m2$ となり、$m$ を大きくすればいくらでも大きくなる(数値では $x_4=2.083\ldots$、$x_8=2.717\ldots$)。
$(a_n)$ の場合に「$3$ で上から押さえられる」ことを示した lem-eln-factorial は、この違いを生む部分である。
$x=-4$、$m=3$ とすると
$$
(1+x)^3=(-3)^3=-27,\qquad1+3x=1-12=-11
$$
であり、$-27<-11$ なので $(1+x)^m>1+mx$ は成り立たない。lem-eln-bernoulli の証明の段 2 で「$1+x>0$ なので、両辺に $1+x$ を掛けても不等号の向きは変わらない」と述べた所が、$1+x=-3<0$ では使えない。
なお $m=2$ では $(1+x)^2-(1+2x)=x^2>0$ なので、$x<-1$ でも不等式は成り立つ。仮定 $x>-1$ が効くのは、帰納法で $1+x$ を掛ける段である。
$1+\frac1n\to1$ なので、「$a_n=\bigl(1+\frac1n\bigr)^n$ は $1^n=1$ に近づく」と考えたくなるが、これは誤りである。実際、$n=1000$ では
$$
1.001^{1000}=2.7169\ldots
$$
である(数値計算)。
指数を一定の $3$ にした $\bigl(1+\frac1n\bigr)^3$ なら、積の極限の性質から $1\cdot1\cdot1=1$ に近づく($n=1000$ で $1.001^3=1.003003001$)。$a_n$ では、底が $1$ に近づく速さと、指数が大きくなる速さがつり合っていて、極限が $1$ にならない。このような「$1$ の $\infty$ 乗」の形の極限は 1の∞乗型の極限の記事で扱う。
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