随伴作用素(adjoint operator)とは、Hilbert空間 $H$ 上の有界線形作用素 $T$ に対し、すべての $x,y\in H$ で $\langle Tx,y\rangle=\langle x,T^*y\rangle$ を満たす有界線形作用素 $T^*$ のことで、Riesz表現定理によりただ一つ存在する。$\|T^*\|=\|T\|$、$(ST)^*=T^*S^*$、$T^{**}=T$ が成り立ち、有限次元では行列の共役転置に当たり、核と像は $\ker T^*=(\operatorname{im}T)^\perp$ で結ばれる。例えば片側シフトの随伴は後方シフトで、$S^*S=I$ だが $SS^*\ne I$ である。
前提知識: Hilbert空間, 内積, 有界, Rieszの表現定理
随伴作用素(adjoint operator)とは、Hilbert 空間の有界線形作用素 $T$ について、内積の一方の変数に働く $T$ を他方の変数へ移す作用素 $T^*$ である。二つの Hilbert 空間 $H,K$ の間の $T\colon H\to K$ なら、$T^*\colon K\to H$ は
$$
\langle Tx,y\rangle_K=\langle x,T^*y\rangle_H
\qquad(x\in H,\ y\in K)
$$
を満たす。有限次元の正規直交基底では、$T$ の行列を転置して成分を複素共役にした行列が $T^*$ を表す。しかし定義は行列を選ばず、無限次元でも成り立つ。Con90 第II章、Axl24 第7章。
本記事では内積は第1変数に線形、第2変数に共役線形と約束する。例えば複素数の標準内積は $\langle x,y\rangle=\sum_jx_j\overline{y_j}$ である。この約束なら、$x$ を固定しないで $y$ を固定した写像 $x\mapsto\langle Tx,y\rangle$ は線形汎関数になる。内積を第2変数に線形とする文献では式の両辺を共役にした形で書くことがあるが、作用素 $T^*$ 自体は同じものである。約束を途中で替えると行列の共役転置や Riesz 表現で複素共役の位置を誤るため、以下では一貫して第1変数線形を使う。
作用素が Hilbert 空間から Hilbert 空間へ写ることと、有界であることは定義の核である。一般の Banach 空間の線形作用素には双対作用素があるが、それは双対空間上の写像であり、内積による随伴とは区別する。また無界作用素には定義域を伴う随伴の理論がある。本記事の主な命題では、特に断らない限り $H,K$ を実または複素 Hilbert 空間、$T$ を全空間で定義された有界線形作用素とする。
作用素の随伴は式を満たすものがあれば便利、というだけではない。Hilbert 空間の完備性とRieszの表現定理によって、すべての有界線形作用素に一意に存在する。$y\in K$ を固定すると $x\mapsto\langle Tx,y\rangle_K$ は $H$ 上の有界線形汎関数で、その絶対値は $\|T\|\,\|x\|\,\|y\|$ 以下である。Riesz 表現定理は、この汎関数を $\langle x,z\rangle_H$ と書くための一意な $z\in H$ を与える。$z$ を $T^*y$ と定めるのである。Con90
有界線形作用素 $T\colon H\to K$ の随伴作用素は、全ての $x\in H,y\in K$ について
$$
\langle Tx,y\rangle_K=\langle x,T^*y\rangle_H
$$
を満たす有界線形作用素 $T^*\colon K\to H$ である。内積は両空間とも第1変数に線形とする。
Hilbert 空間間の任意の有界線形作用素 $T\colon H\to K$ に対して随伴 $T^*\colon K\to H$ が一意に存在する。さらに $\|T^*\|\leq\|T\|$ である。
$y\in K$ を固定し、$\varphi_y(x)=\langle Tx,y\rangle_K$ とおく。内積の第1変数が線形なので $\varphi_y$ は線形であり、Cauchy–Schwarz の不等式から $|\varphi_y(x)|\leq\|T\|\,\|x\|\,\|y\|$ である。Riesz 表現定理により $\varphi_y(x)=\langle x,z_y\rangle_H$ を全ての $x$ について満たす一意な $z_y\in H$ がある。$T^*y=z_y$ と定める。もし別の $w_y$ でも同じ式を満たすなら、全ての $x$ で $\langle x,z_y-w_y\rangle=0$ となり、$x=z_y-w_y$ を代入して $z_y=w_y$ である。
$y_1,y_2\in K$ とスカラー $a,b$ について、内積の第2変数の共役線形性により $\varphi_{ay_1+by_2}=\overline a\,\varphi_{y_1}+\overline b\,\varphi_{y_2}$ である。一方、$\langle x,az_{y_1}+bz_{y_2}\rangle=\overline a\langle x,z_{y_1}\rangle+\overline b\langle x,z_{y_2}\rangle$ だから、Riesz 表現の一意性から $T^*(ay_1+by_2)=aT^*y_1+bT^*y_2$。従って $T^*$ は線形である。Riesz 表現では汎関数のノルムが表す元のノルムに等しいので、$\|T^*y\|=\|\varphi_y\|\leq\|T\|\,\|y\|$。よって $T^*$ は有界で、表示したノルムの不等式も成立する。$\square$
零次元の Hilbert 空間を含めてもこの証明は通る。例えば $H=\{0\}$ なら $T$ は零作用素で、$T^*$ は $K$ から $\{0\}$ への唯一の作用素である。$K=\{0\}$ でも同様である。この場合に「単位ベクトルを取る」という議論を無条件に行うと、単位球面が空で困る。以下のノルム等式では、零空間の場合を自明な場合として処理するか、単位閉球上の上限を用いる。
$T^*$ は $T$ から反対向きの写像を作る。この反転は合成の順序を逆にする。ノルムは保持され、随伴を二度取ると元に戻る。これらは有限次元の共役転置に見られる等式を、基底なしで述べたものである。Con90 第II章。
$T\colon H\to K$ を有界線形作用素とする。このとき $\|T^*\|=\|T\|$ であり、$T^{**}=T$ である。ここで $T^{**}$ は $T^*\colon K\to H$ の Hilbert 空間上の随伴を表す。
前の定理より $\|T^*\|\leq\|T\|$ が分かる。随伴の定義式を複素共役にすると $\langle T^*y,x\rangle_H=\langle y,Tx\rangle_K$ となる。これは $T$ が $T^*$ の随伴の定義式を満たすことを意味する。一意性により $T^{**}=T$ である。前のノルム不等式を $T^*$ に適用すれば $\|T\|=\|T^{**}\|\leq\|T^*\|$。二つを合わせて等式を得る。$\square$
$T\colon H\to K$ と $S\colon K\to L$ が有界線形作用素なら $(ST)^*=T^*S^*$ である。またスカラー $a$ について $(aT)^*=\overline a\,T^*$、同じ始域・終域の $T,U$ について $(T+U)^*=T^*+U^*$ である。
$x\in H,z\in L$ に対して $\langle STx,z\rangle_L=\langle Tx,S^*z\rangle_K=\langle x,T^*S^*z\rangle_H$。随伴の一意性から $(ST)^*=T^*S^*$ である。さらに $\langle(aT)x,y\rangle=a\langle Tx,y\rangle=\langle x,\overline a\,T^*y\rangle$。最後の等号では第2変数に掛けた $\overline a$ が内積の外へ出ると $a$ になることを使った。和については内積の加法性を用いればよい。$\square$
特に $T$ が可逆な有界作用素で逆作用素も有界なら、$TT^{-1}=T^{-1}T=I$ に随伴を取り、$(T^{-1})^*=(T^*)^{-1}$ を得る。Hilbert 空間上では逆作用素の有界性は、全単射で有界な $T$ なら有界逆写像定理から従う。この補助定理を仮定せずに「代数的に逆がある」とだけ述べると、随伴の定義域の確認が抜ける。有限次元では全ての線形作用素が有界なので、この区別を意識しにくい。
有限次元の複素内積空間 $H=\mathbb C^n$、$K=\mathbb C^m$ に標準内積を入れ、$T$ の行列を $m\times n$ 行列 $A$ とする。このとき $T^*$ の行列は $n\times m$ の共役転置 $A^*=\overline A^{\,\mathsf T}$ である。実数の場合は共役が消え、通常の転置行列になる。正規直交基底を選んだ場合の表示であり、一般の基底で成分行列を単純に共役転置するだけでは内積の Gram 行列の効果を落とす。Axl24
$T\colon\mathbb C^2\to\mathbb C$ を $T(z_1,z_2)=z_1+iz_2$ とする。行列は $A=(1\ \ i)$ であり、その随伴は $T^*w=(w,-iw)$、行列では $A^*=(1,-i)^{\mathsf T}$ である。実際、
$$
\langle T(z_1,z_2),w\rangle=(z_1+iz_2)\overline w
=\langle(z_1,z_2),(w,-iw)\rangle .
$$
右辺の第2成分では $\overline{-iw}=i\overline w$ を使う。単なる転置 $(1,i)^{\mathsf T}$ を代入すると符号が合わない。
無限次元では行列を無限に並べるより、内積の式から随伴を作る方が確実である。$\ell^2(\mathbb{Z}_{\ge 0})$ 上の片側シフト $S(x_0,x_1,\ldots)=(0,x_0,x_1,\ldots)$ は等長だが全射ではない。内積を計算すると
$$
\langle Sx,y\rangle=\sum_{n\geq0}x_n\overline{y_{n+1}}
=\langle x,(y_1,y_2,\ldots)\rangle .
$$
従って $S^*(y_0,y_1,\ldots)=(y_1,y_2,\ldots)$ は後方シフトである。$S^*S=I$ だが、$SS^*$ は第0成分を $0$ にする直交射影で、$I$ ではない。随伴が元の作用素と同じとは限らず、$T^*T=I$ から $TT^*=I$ を推論してはいけないことがこの例から分かる。
もう一つ、測度空間上の $L^2$ で有界可測関数 $a$ による掛け算 $M_af=af$ を考える。$a$ が本質的に有界なら $M_a$ は有界であり、$\langle M_af,g\rangle=\int af\overline g=\int f\overline{\overline a g}$ から $M_a^*=M_{\overline a}$ である。$a$ が実値なら自己随伴、$|a|=1$ がほとんど至る所で成り立つなら $M_a$ はユニタリである。関数の複素共役が行列の共役転置に対応している。ここで「有界」は本質的有界性であり、零測度集合上で値が大きくても $L^2$ 上の作用素は変わらない。
随伴は、方程式 $Tx=y$ の解の存在や一意性を調べるときにも使う。まず $T$ の像に直交する元は、まさに $T^*$ の核に属する。この等式は像が閉じているかどうかに関係なく成り立つ。像が閉でない場合、直交補空間を二度取ると像の閉包になる点を忘れてはならない。Con90
$T\colon H\to K$ に対して
$$
(\operatorname{ran}T)^\perp=\ker T^*,\qquad
\overline{\operatorname{ran}T}=(\ker T^*)^\perp
$$
が成り立つ。同様に $(\operatorname{ran}T^*)^\perp=\ker T$ である。
$y\in K$ について $y\in(\operatorname{ran}T)^\perp$ とは、全ての $x\in H$ で $\langle Tx,y\rangle_K=0$ であることをいう。随伴の式によりこれは全ての $x$ で $\langle x,T^*y\rangle_H=0$ と同値であり、$x=T^*y$ を選べば $T^*y=0$ と同値である。従って最初の等式が成立する。Hilbert 空間で部分空間 $M$ について $M^{\perp\perp}=\overline M$ だから、最初の等式の直交補を取ると二番目の等式を得る。最後の等式は $T^*$ に最初の等式を適用し、$T^{**}=T$ を使う。$\square$
この命題だけで $\operatorname{ran}T=(\ker T^*)^\perp$ と書けるのは、像が閉じている場合に限る。例えば対角作用素 $D\colon\ell^2\to\ell^2$ を $D(x_1,x_2,\ldots)=(x_1,x_2/2,x_3/3,\ldots)$ とおくと、$D$ は有界で核が零、像は有限支え列を含むため稠密である。しかし $y=(1,1/2,1/3,\ldots)\in\ell^2$ は $D$ の像にない。$Dx=y$ なら $x=(1,1,1,\ldots)$ となり $\ell^2$ に属さないためである。従って像は閉じていない。$D^*=D$、$\ker D^*=0$ なので $(\ker D^*)^\perp=\ell^2$ だが、$\operatorname{ran}D$ はその真部分集合である。この例は閉包の記号を省けない理由を具体的に示す。
始域と終域が同じ Hilbert 空間 $H$ の場合、$T=T^*$ を満たす作用素を自己共役作用素または自己随伴作用素という。$TT^*=T^*T$ を満たすものを正規作用素といい、$T^*T=TT^*=I$ を満たすものをユニタリ作用素という。有限次元では、それぞれ Hermite 行列、正規行列、ユニタリ行列に対応する。これらは随伴が存在するという一般の性質に追加する条件である。片側シフトは $S^*S=I$ だが $SS^*\ne I$ なのでユニタリではない。
自己随伴作用素 $T$ では $\langle Tx,x\rangle=\langle x,Tx\rangle=\overline{\langle Tx,x\rangle}$ だから、$\langle Tx,x\rangle$ は実数である。逆に複素 Hilbert 空間では、全ての $x$ でこの量が実数なら、偏極恒等式により $T=T^*$ と示せる。ただし実 Hilbert 空間で同じ逆向きをそのまま述べると誤りである。例えば実二次元の90度回転 $J$ は全ての $x$ で $\langle Jx,x\rangle=0$ だが、$J^*=-J\ne J$ である。複素と実で二次形式から作用素を回収できる範囲が異なる。
作用素のスペクトルを論じるとき、自己随伴性は重要な制約になる。有限次元の自己随伴行列は正規直交基底で対角化でき、固有値は実数である。無限次元の自己随伴有界作用素にはスペクトル定理があるが、単純な固有ベクトルの基底が常に存在するという意味ではない。例えば $L^2$ の掛け算作用素には連続スペクトルが現れる。本記事では随伴の構成と基本恒等式を扱い、スペクトル分解の全体はスペクトル定理の主題とする。Con90
$X,Y$ を Banach 空間とし、$T\colon X\to Y$ を有界線形作用素とする。内積がなくても、連続線形汎関数を前合成することで
$$
T'\colon Y^*\longrightarrow X^*,\qquad T'\varphi=\varphi\circ T
$$
が定まる。これを双対作用素、転置作用素、または Banach 空間での随伴と呼ぶ文献がある。始域と終域は元の空間ではなく連続双対空間である。実 Hilbert 空間なら Riesz の同型で双対を元の空間と同一視できる。複素 Hilbert 空間では、その Riesz 写像は共役線形であるから、同一視を「線形同型」として扱ってはいけない。Con90
複素 Hilbert 空間 $H,K$ について $J_H\colon H\to H^*$ を $J_H(y)(x)=\langle x,y\rangle_H$ とし、$J_K$ も同様に定める。これらは共役線形等長全単射であり、$T\colon H\to K$ について
$$
J_H\circ T^*=T'\circ J_K
$$
が成り立つ。
$y\in K,x\in H$ に対して $(T'J_Ky)(x)=(J_Ky)(Tx)=\langle Tx,y\rangle_K$ である。Hilbert 随伴の定義よりこれは $\langle x,T^*y\rangle_H=(J_HT^*y)(x)$ に等しい。任意の $x$ で両汎関数の値が一致するので等式が従う。$J_H,J_K$ の共役線形性は内積の第2変数の共役線形性から分かる。$\square$
一般の Banach 空間では $X$ と $X^*$ が同型ですらない場合があるため、この図式を使って $T'$ を $Y\to X$ へ移すことはできない。例えば $X=\ell^1$ とその双対 $\ell^\infty$ は標準的な Hilbert 空間の Riesz 表現に当たる構造を持たない。従って $T'$ を単に $T^*$ と表記する本でも、式の始域・終域を見ることが重要である。有限次元の複素ベクトル空間でも、代数的双対への転置と内積を通した共役転置は、同じ行列操作ではない。代数的転置は成分を転置し、Hilbert 随伴はさらに複素共役を取る。
全空間で定義された有界作用素については、随伴 $T^*$ も全空間 $K$ で定義される。微分作用素のような無界作用素では、まず稠密な定義域 $D(T)\subset H$ を指定する。$y\in K$ が随伴の定義域 $D(T^*)$ に属するのは、$x\mapsto\langle Tx,y\rangle$ が $D(T)$ 上の $H$ のノルムに関して有界な場合である。このときに限り Riesz 表現で $T^*y$ を定める。ここでは $D(T^*)$ が $K$ 全体であると決めつけられず、境界条件も重要になる。Con90 第X章。
例えば区間上の微分 $f\mapsto f'$ で部分積分を行うと、形式上の随伴にマイナス符号が現れるが、端点の境界項が消えるかどうかは関数の定義域次第である。同じ微分式でも異なる境界条件から異なる随伴作用素が得られる。このため「行列を共役転置する」直感だけで無界作用素の随伴を決められない。本記事で示した $T^{**}=T$ や $\|T^*\|=\|T\|$ は有界で全空間上に定義された作用素の命題であり、無界の場合へ条件なしに移してはならない。
随伴の存在定理と、それに続く命題の仮定を一つずつ外すと、結論が崩れる。どの条件を外し、どの結論が成り立たなくなるかを表にまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 空間の完備性 | 有限支え列の空間 $c_{00}$ に $\ell^2$ の内積を入れ、$Tx=\langle x,a\rangle e_1$、$a=(1,1/2,1/3,\ldots)$ | 随伴 $T^*$ が存在する |
| 全空間で定義された有界作用素 | $D(T)=c_{00}\subset\ell^2$ 上の $Tx=\bigl(\sum_n nx_n\bigr)e_1$ | $T^*$ が $K$ 全体で定義される |
| 有限次元 | $\ell^2$ の片側シフト $S$ | $T^*T=I$ から $TT^*=I$ が従う |
| 像が閉じている | 対角作用素 $D(x_n)=(x_n/n)$ | $\operatorname{ran}T=(\ker T^*)^\perp$ |
| 係数体が複素数 | 実二次元の 90 度回転 $J$ | 全ての $x$ で $\langle Tx,x\rangle$ が実数なら $T=T^*$ |
下の三行は本文で確かめた。片側シフトは $S^*S=I$、$SS^*\ne I$ を満たし、対角作用素 $D$ の像は稠密だが $(1,1/2,1/3,\ldots)$ を含まない。回転 $J$ は $\langle Jx,x\rangle=0$ だが $J^*=-J$ である。上の二行を次に確かめる。
$c_{00}$ を有限個の成分以外が $0$ の複素数列の空間とし、$\ell^2$ の内積を入れる。$c_{00}$ は完備でないので Hilbert 空間ではない。$a=(1,1/2,1/3,\ldots)\in\ell^2$ は $c_{00}$ に属さない。$Tx=\langle x,a\rangle e_1$ と定めると、$T\colon c_{00}\to c_{00}$ は線形で、Cauchy–Schwarz の不等式から $\|Tx\|\leq\|a\|\,\|x\|$ だから有界である。
随伴 $T^*\colon c_{00}\to c_{00}$ があったとし、$z=T^*e_1\in c_{00}$ とおく。全ての $x\in c_{00}$ で $\langle x,z\rangle=\langle Tx,e_1\rangle=\langle x,a\rangle$ である。$x=e_n$ を代入すると $\overline{z_n}=\overline{a_n}=1/n$、つまり $z_n=1/n$ が全ての $n$ で成り立つ。これは $z$ の成分が有限個を除き $0$ であることに反する。従って $T$ は随伴を持たない。存在定理の証明で Riesz 表現定理を使った箇所、すなわち完備性が、この反例で破れている。
$H=K=\ell^2(\mathbb N)$、$D(T)=c_{00}$ とし、$Tx=\bigl(\sum_n nx_n\bigr)e_1$ と定める。和は有限和である。$Te_n=ne_1$ で $\|e_n\|=1$ だから、$T$ は有界でない。
$y\in\ell^2$ について $\langle Tx,y\rangle=\bigl(\sum_n nx_n\bigr)\overline{y_1}$ である。$y_1\ne0$ なら $x=e_n$ で値の絶対値が $n|y_1|$ となり、$x\mapsto\langle Tx,y\rangle$ は有界でない。$y_1=0$ なら値は恒等的に $0$ で有界である。従って随伴の定義域は $D(T^*)=\{y: y_1=0\}$ で、$K$ 全体ではない($T^*$ は $D(T^*)$ 上の零作用素である)。「$T^*$ は $K$ 全体で定義され $\|T^*\|=\|T\|$」という命題は、有界性の仮定を外すと意味を失う。
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