拡大次数(degree of a field extension)とは、体の拡大 $L/K$ において、$L$ を $K$ 上のベクトル空間とみた次元のことで、$[L:K]$ と書く。$[L:K]<\infty$ の拡大を有限次拡大という。中間体 $M$ について $[L:K]=[L:M][M:K]$ が成り立ち、代数的な元 $\alpha$ については $[K(\alpha):K]$ が最小多項式の次数に等しい。例:$[\mathbb{C}:\mathbb{R}]=2$、$[\mathbb{Q}(\sqrt[3]2):\mathbb{Q}]=3$、$[\mathbb{R}:\mathbb{Q}]=\infty$ である。乗法性から中間体と元の次数は $[L:K]$ を割り切り、作図可能な数の次数は $2$ の冪になるので、立方体の倍積や角の 3 等分は定規とコンパスでは作図できない。
前提知識: 体, 体の拡大, ベクトル空間, 基底と次元, 多項式環
本記事では、体とは $1\neq0$ であって $0$ でない元がすべて逆元をもつ可換環のこととし、体の間の写像としては環準同型(和・積と $1$ を保つ写像)を考える。体 $L$ とその部分体 $K$ の組を体の拡大といい、$L/K$ と書く。体の間の環準同型 $K\to L$ は必ず単射なので(体 の記事の命題「体の準同型は単射である」)、埋め込み $K\to L$ が与えられたときも $K$ をその像と同一視して $L/K$ を体の拡大とみなす。$K\subset M\subset L$ となる $L$ の部分体 $M$ を $L/K$ の中間体という。
$L/K$ を体の拡大とする。$L$ の加法と、$K$ の元による積 $K\times L\to L$、$(c,a)\mapsto ca$ によって、$L$ は $K$ 上のベクトル空間になる。その次元 $\dim_KL$ を $L/K$ の拡大次数(degree of the field extension)、または単に次数といい、$[L:K]$ と書く。$L$ が $K$ 上有限次元でないときは $[L:K]=\infty$ と書く。
$[L:K]<\infty$ のとき $L/K$ を有限次拡大(finite extension)、$[L:K]=\infty$ のとき無限次拡大(infinite extension)という。$[L:K]=n$ のとき $L/K$ を $n$ 次拡大という。
ベクトル空間の公理(分配律など)は体の公理から直ちに従う。$1\in L$ は $0$ でないので常に $[L:K]\ge1$ である。無限次元のとき基底の濃度を次数とする流儀もあるが、本記事では無限次元の場合をすべて $[L:K]=\infty$ とまとめ、$\infty$ を含む積は「一方が $\infty$ なら積も $\infty$」と約束する。
次数は $K$ と $L$ の組に対する量であり、同じ体 $L$ でも基礎体を変えれば値が変わる。たとえば $\mathbb{C}$ は $\mathbb{R}$ 上 $2$ 次、$\mathbb{C}$ 上 $1$ 次、$\mathbb{Q}$ 上無限次である(ex-degree-of-extension-c-r、ex-degree-of-extension-r-q)。
体の元 1 つについても次数を定める。$L/K$ を体の拡大、$\alpha\in L$ とし、$K$ と $\alpha$ を含む $L$ の最小の部分体($K$ と $\alpha$ を含む部分体すべての共通部分)を $K(\alpha)$ と書く。
$L/K$ を体の拡大、$\alpha\in L$ とする。$f(\alpha)=0$ となる $0$ でない多項式 $f\in K[x]$ が存在するとき $\alpha$ は $K$ 上代数的(algebraic)であるといい、存在しないとき超越的(transcendental)であるという。$\alpha$ が代数的なとき、$\alpha$ を根にもつ $0$ でない多項式のうち次数が最小で最高次係数が $1$ のもの(モニック多項式)がただ 1 つある。これを $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式といって $m_{\alpha,K}$ と書き、その次数を $\alpha$ の $K$ 上の次数(degree)といって $\deg_K\alpha$ と書く。
最小多項式の一意性は次のように分かる。次数最小のモニックな多項式 $m,m'$ が $\alpha$ を根にもつなら、$m-m'$ は次数がより小さく $\alpha$ を根にもつので $0$ でなければ最小性に反し、$m=m'$ である。最小多項式は $K[x]$ の既約多項式であり、$\alpha$ を根にもつ多項式はすべて $m_{\alpha,K}$ で割り切れる(体の拡大 の記事の命題「最小多項式の存在と一意性」)。逆に、$\alpha$ を根にもつモニックな既約多項式は $m_{\alpha,K}$ に一致する(同じ命題の 3)。したがって実際の計算では、$\alpha$ を根にもつ既約多項式を 1 つ見つければ、その次数が $\deg_K\alpha$ である。
拡大次数は、大きな体 $L$ が小さな体 $K$ に比べて「何倍大きいか」を測る物差しである。$L$ の元を $K$ の元を係数とする座標で書き表すとき、必要な座標の個数が次数にあたる。$\mathbb{C}$ の元は実数の組 $(a,b)$ で $a+bi$ と書けるので、$\mathbb{C}$ は $\mathbb{R}$ 上 $2$ 次元である。一つの代数的な元 $\alpha$ を添加するときは、$\alpha$ が満たす次数 $d$ の関係式によって $\alpha^d$ 以上の冪が低い冪で書き直せるので、$1,\alpha,\dots,\alpha^{d-1}$ が座標軸になり、次数は $d$ になる。中間体を挟むと座標が二段階で掛け合わされ、次数は積になる。この掛け算の規則から「次数は中間体の次数で割り切れる」という強い制約が生まれ、方程式を解く問題や定規とコンパスによる作図(作図可能数)の問題を、整数の割り算の問題に変えることができる。
複素数は実数 $a,b$ により $a+bi$ とただ一通りに書けるので、$\{1,i\}$ は $\mathbb{C}$ の $\mathbb{R}$ 上の基底であり、$[\mathbb{C}:\mathbb{R}]=2$ である。$i$ の $\mathbb{R}$ 上の最小多項式は $x^2+1$ で、$\deg_{\mathbb{R}}i=2$ である($x^2+1$ は実根をもたないので $1$ 次式の積に分解せず、$2$ 次式なので既約である)。一方 $i$ の $\mathbb{C}$ 上の最小多項式は $x-i$ で、$\deg_{\mathbb{C}}i=1$ である。元の次数も基礎体に依存する。
$\alpha=\sqrt[3]2\in\mathbb{R}$ とする。$x^3-2$ は有理数の根をもたない。実際、既約分数 $a/b$($b>0$)が根なら $a^3=2b^3$ から $a$ は偶数、すると $8\mid 2b^3$ より $b$ も偶数となり、既約であることに反する。$3$ 次式が $\mathbb{Q}[x]$ で可約なら $1$ 次因子、すなわち有理数の根をもつので、$x^3-2$ は既約であり、$\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式である。後の thm-degree-of-extension-element により
$$
[\mathbb{Q}(\sqrt[3]2):\mathbb{Q}]=3,\qquad \mathbb{Q}(\sqrt[3]2)=\{a+b\alpha+c\alpha^2\mid a,b,c\in\mathbb{Q}\}
$$
である。$3$ は $2$ の冪でないので、$\sqrt[3]2$ は定規とコンパスで作図できない(cor-degree-of-extension-constructible)。
$K$ を $q$ 個の元からなる有限体、$L/K$ を $n$ 次拡大とする。$L$ の $K$ 上の基底 $u_1,\dots,u_n$ をとると、$L$ の元は $c_1u_1+\dots+c_nu_n$($c_i\in K$)とただ一通りに書けるので
$$
|L|=q^{[L:K]}
$$
である。逆に $L$ が有限なら $L$ は $K$ 上有限次元なので、次数は元の個数から $[L:K]=\log_q|L|$ として読み取れる。たとえば $4$ 元体 $\mathbb{F}_4$ は $\mathbb{F}_2$ 上 $2$ 次、$p^n$ 元体 $\mathbb{F}_{p^n}$ は素数 $p$ 元の体 $\mathbb{F}_p$ 上 $n$ 次である。
さらに $\mathbb{F}_{p^m}$ が $\mathbb{F}_{p^n}$ の部分体なら、後の thm-degree-of-extension-tower により $n=[\mathbb{F}_{p^n}:\mathbb{F}_p]=[\mathbb{F}_{p^n}:\mathbb{F}_{p^m}]\cdot m$ なので $m\mid n$ である。逆に $m\mid n$ なら $\mathbb{F}_{p^n}$ は $p^m$ 元の部分体をただ 1 つもつ(有限体 の記事の命題「有限体の部分体」)。
$K$ を体、$K(t)$ を不定元 $t$ の有理関数体とする。$K(t)$ は $K$ に 1 つの元 $t$ を添加した体であるが、$f\in K[x]$ に対して $f(t)$ は多項式 $f$ そのものなので、$f(t)=0$ なら $f=0$ であり、$t$ は $K$ 上超越的である。したがって $1,t,t^2,\dots$ は $K$ 上線形独立であり、$[K(t):K]=\infty$ である。
この拡大は「1 つの元で生成される」を満たすが「有限次」を満たさず、含意「単純拡大は有限次拡大である」を破る。有限次になるのは、生成元が代数的なときに限る(thm-degree-of-extension-element)。
$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ と $\mathbb{Q}(\sqrt3)$ はどちらも $\mathbb{Q}$ 上 $2$ 次である($x^2-2$、$x^2-3$ は有理数の根をもたない $2$ 次式なので既約)。しかし両者は体として同型でない。
同型 $\sigma\colon\mathbb{Q}(\sqrt2)\to\mathbb{Q}(\sqrt3)$ があったとする。$\sigma(1)=1$ から整数 $n$ について $\sigma(n)=n$、したがって有理数 $m/n$ について $\sigma(m/n)=m/n$ であり、$\sigma$ は $\mathbb{Q}$ の元を動かさない。すると $\sigma(\sqrt2)^2=\sigma(2)=2$ なので、$2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt3)$ の中で平方になる。ところが $a,b\in\mathbb{Q}$ について $(a+b\sqrt3)^2=a^2+3b^2+2ab\sqrt3=2$ とすると、$1,\sqrt3$ の $\mathbb{Q}$ 上の独立性から $ab=0$ かつ $a^2+3b^2=2$ であり、$b=0$ なら $a^2=2$、$a=0$ なら $(3b)^2=6$ となって、どちらも有理数の解をもたない。よって $\sigma$ は存在しない。
この組は「$\mathbb{Q}$ 上の次数が等しい」を満たすが「同型」を満たさず、含意「同じ体の上の同じ次数の拡大は同型である」を破る。有限体の上ではこの含意が成り立つ($\mathbb{F}_p$ 上の $n$ 次拡大はどれも $p^n$ 元体で、$p^n$ 元体は同型を除いて一意である。有限体 の記事の定理「有限体の存在と一意性」)。
$f=x^4-x-1\in\mathbb{Q}[x]$ とする。$f$ を $2$ を法として還元した $x^4+x+1\in\mathbb{F}_2[x]$ は $\mathbb{F}_2$ に根をもたず($0$ と $1$ で値が $1$)、$\mathbb{F}_2$ 上の唯一の $2$ 次既約多項式 $x^2+x+1$ の平方 $x^4+x^2+1$ とも異なるので既約である。モニックな整数係数多項式は、素数を法とする還元が既約なら $\mathbb{Q}[x]$ でも既約である(DF04 §9.4)から、$f$ は既約である。$f(1)=-1<0<13=f(2)$ なので $f$ は実根 $\alpha$ をもち、$L=\mathbb{Q}(\alpha)$ は $\mathbb{Q}$ 上 $4$ 次である。
$f$ の判別式は $-283$(平方数でない)。根を $\alpha_1,\dots,\alpha_4$ とし $(\alpha_1+\alpha_2)(\alpha_3+\alpha_4)$ を根とする 3 次の分解式(DF04 §14.6 の一般式 $x^3-2px^2+(p^2-4r)x+q^2$ に、$f=x^4+px^2+qx+r$ の $p=0$、$q=-1$、$r=-1$ を代入したもの)は $x^3+4x+1$ であり、有理数の根の候補 $\pm1$ で値が $6,-4$ なので既約である。このとき $f$ の分解体の Galois群 は $4$ 次対称群 $S_4$ である。Galois 対応(Galois拡大 の記事の定理「Galois対応」)により、$L/\mathbb{Q}$ の中間体は $S_4$ の部分群で $\alpha$ の固定部分群 $S_3$ を含むものに対応するが、$S_3$ を真に含む部分群は位数 $12$ か $24$ であり、位数 $12$ の部分群は交代群 $A_4$ だけで、$A_4$ は互換を含まないので $S_3$ を含まない。よって $L/\mathbb{Q}$ の中間体は $\mathbb{Q}$ と $L$ だけであり、$\mathbb{Q}$ 上 $2$ 次の中間体は存在しない。
この拡大は「$2$ が $[L:\mathbb{Q}]=4$ を割り切る」を満たすが「$\mathbb{Q}$ 上 $2$ 次の中間体をもつ」を満たさず、含意「$[L:K]$ の約数 $d$ ごとに $[M:K]=d$ の中間体 $M$ がある」を破る。thm-degree-of-extension-tower から従うのは、中間体の次数が $[L:K]$ の約数であることだけである。
次の 2 つの定理が拡大次数の計算の基本である。どちらも 体の拡大 の記事で証明されているので、ここでは言明と証明の要点だけを述べる。
$K\subset M\subset L$ を体の拡大の列とする。$(u_i)_{i\in I}$ を $M$ の $K$ 上の基底、$(v_j)_{j\in J}$ を $L$ の $M$ 上の基底とすると、$(u_iv_j)_{(i,j)\in I\times J}$ は $L$ の $K$ 上の基底である。特に
$$
[L:K]=[L:M]\,[M:K]
$$
が成り立ち(両辺が $\infty$ の場合を含む)、$L/K$ が有限次であることと、$L/M$ と $M/K$ がともに有限次であることは同値である。
証明は 体の拡大 の記事の定理「拡大次数の乗法性」にある。要点は、$a\in L$ を $a=\sum_jb_jv_j$($b_j\in M$)と書き、さらに各 $b_j$ を $b_j=\sum_ic_{ij}u_i$($c_{ij}\in K$)と書けば $u_iv_j$ が $L$ を張ること、$\sum c_{ij}u_iv_j=0$ から $v_j$ の独立性で $\sum_ic_{ij}u_i=0$、さらに $u_i$ の独立性で $c_{ij}=0$ となることである(DF04 §13.2)。
帰結として、$L/K$ が有限次なら、任意の中間体 $M$ について $[M:K]$ と $[L:M]$ は $[L:K]$ を割り切り、$[L:K]$ が素数なら中間体は $K$ と $L$ だけである。また有限次拡大の元 $\alpha$ はすべて代数的で、$\deg_K\alpha$ は $[L:K]$ を割り切る(体の拡大 の記事の系「中間体の次数と元の次数」)。
$L/K$ を体の拡大、$\alpha\in L$ とする。
証明は 体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」にある。要点は次のとおりである。代入写像 $K[x]\to L$ の核は $(m_{\alpha,K})$ であり、$m_{\alpha,K}$ が既約で $K[x]$ が単項イデアル整域であることから剰余環 $K[x]/(m_{\alpha,K})$ は体になるので、その像 $K[\alpha]=\{f(\alpha)\mid f\in K[x]\}$ は体で $K(\alpha)$ に一致する。$f\in K[x]$ を $m_{\alpha,K}$ で割った余り $r$($\deg r< d$)について $f(\alpha)=r(\alpha)$ なので $1,\dots,\alpha^{d-1}$ は $K(\alpha)$ を張り、次数 $d$ 未満の $0$ でない多項式は $\alpha$ を根にもたないのでこれらは独立である。超越的なら $1,\alpha,\alpha^2,\dots$ が独立である(DF04 §13.1、Lan02 Chapter V §1)。
2 つの定理を合わせると、$K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)=K(\alpha_1,\dots,\alpha_{n-1})(\alpha_n)$ と一つずつ元を添加して次数を掛け合わせることで、有限個の代数的な元で生成された拡大の次数が計算できる。次の命題はその典型である。
$L/K$ を体の拡大とする。
1:$L=K$ なら $\{1\}$ は基底なので $[L:K]=1$ である。逆に $[L:K]=1$ なら、$0$ でないベクトル $1$ だけで $1$ 次元の空間 $L$ の基底になるので $L=K\cdot1=K$ である。
2:$\alpha\in L\setminus K$ とすると $K\subsetneq K(\alpha)\subset L$ である。thm-degree-of-extension-tower により $[K(\alpha):K]$ は $2$ を割り切り、1 により $[K(\alpha):K]\neq1$ なので $[K(\alpha):K]=2$、したがって $[L:K(\alpha)]=1$ であり、1 により $L=K(\alpha)$ である。thm-degree-of-extension-element により $\deg_K\alpha=[K(\alpha):K]=2$ である。
3:2 により $\alpha\in L\setminus K$ をとると $L=K(\alpha)$ で、最小多項式は $x^2+bx+c$($b,c\in K$)の形である。標数が $2$ でないので $2$ は $K$ で可逆であり、$\beta:=\alpha+b/2$ とおくと
$$
\beta^2=\alpha^2+b\alpha+\frac{b^2}{4}=-c+\frac{b^2}{4}=:d\in K
$$
である。$\beta-\alpha\in K$ なので $K(\beta)=K(\alpha)=L$ であり、$\beta\notin K$ である。$d=e^2$ となる $e\in K$ があれば $(\beta-e)(\beta+e)=\beta^2-e^2=0$ から $\beta=\pm e\in K$ となって矛盾するので、$d$ は $K$ の中で平方でない。$\square$
たとえば $\mathbb{C}=\mathbb{R}(\sqrt{-1})$ である。また $\mathbb{Q}$ の 2 次拡大は、平方因子をもたない $1$ 以外の整数 $d$ による $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ の形である(3 の $d\in\mathbb{Q}$ は、$0$ でない有理数の平方を掛けて平方因子のない整数にとり直せる)。
$K=\mathbb{F}_2$、$L=\mathbb{F}_4=\mathbb{F}_2(\omega)$($\omega^2+\omega+1=0$)とすると $[L:K]=2$ である。しかし $K$ の元 $0,1$ はどちらも $K$ の中で平方($0=0^2$、$1=1^2$)なので、$K$ の中で平方でない $d$ は存在せず、$L$ は prop-degree-of-extension-small の 3 の形 $K(\beta)$($\beta^2=d$、$d$ は $K$ で平方でない)に書けない。この組は「$[L:K]=2$」を満たすが「標数が $2$ でない」を満たさず、含意「2 次拡大は平方でない元の平方根の添加である」を破る。標数 $2$ の 2 次拡大は $x^2+x+c$ の根の添加(Artin–Schreier 型。Artin–Schreier拡大)か、$x^2-d$ の根の添加(分離拡大でない場合)になる。
$L/K$ を体の拡大、$\alpha,\beta\in L$ を $K$ 上代数的な元とし、$m=\deg_K\alpha$、$n=\deg_K\beta$、$N=[K(\alpha,\beta):K]$ とおく。
1:$K(\alpha,\beta)=K(\alpha)(\beta)$ である(両辺とも $K$、$\alpha$、$\beta$ を含む最小の部分体)。$\beta$ は $m_{\beta,K}\in K[x]\subset K(\alpha)[x]$ の根なので $K(\alpha)$ 上代数的であり、$K(\alpha)$ 上の最小多項式は $\beta$ を根にもつ $0$ でない多項式のうち次数最小のものだから、$\deg_{K(\alpha)}\beta\le\deg m_{\beta,K}=n$ である。thm-degree-of-extension-element により $[K(\alpha,\beta):K(\alpha)]=\deg_{K(\alpha)}\beta\le n$、$[K(\alpha):K]=m$ であり、thm-degree-of-extension-tower により $N=[K(\alpha,\beta):K(\alpha)]\cdot m\le nm$ である。
2:$K\subset K(\alpha)\subset K(\alpha,\beta)$ に thm-degree-of-extension-tower を用いると $N=[K(\alpha,\beta):K(\alpha)]\cdot m$ なので $m\mid N$ である。$K(\beta)$ を中間体にとれば同様に $n\mid N$ である。
3:2 により $m\mid N$ かつ $n\mid N$ で、$m,n$ は互いに素なので $mn\mid N$、特に $mn\le N$ である。1 と合わせて $N=mn$ である。$\square$
たとえば $\alpha=\sqrt2$、$\beta=\sqrt[3]2$ では $m=2$、$n=3$ が互いに素なので $[\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt[3]2):\mathbb{Q}]=6$ である。このことから $[\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt[3]2):\mathbb{Q}(\sqrt2)]=3$、すなわち $x^3-2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ 上でも既約であることが、多項式を直接調べずに分かる。互いに素でないときは 1 の不等号が等号になるとは限らない。$\alpha=\sqrt2$、$\beta=\sqrt8=2\sqrt2$ では $m=n=2$ だが $K(\alpha,\beta)=\mathbb{Q}(\sqrt2)$ で $N=2<4$ であり、$\alpha=\sqrt2$、$\beta=\sqrt3$ では $N=4=mn$ である(体の拡大 の記事の例「2 つの平方根の添加」)。
基礎体が超越的な元を含んでいても、拡大そのものは有限次になりうる。
$K$ を体、$K(t)$ を不定元 $t$ の有理関数体、$n\ge1$ を整数とし、$s:=t^n$、$K(s)$ を $K$ と $s$ で生成される $K(t)$ の部分体とする。このとき $s$ は $K$ 上超越的であり、
$$
[K(t):K(s)]=n
$$
で、$1,t,\dots,t^{n-1}$ が $K(t)$ の $K(s)$ 上の基底である。特に $x^n-s$ は $K(s)[x]$ の既約多項式であり、$t$ の $K(s)$ 上の最小多項式である。
$s$ が超越的であること:$0$ でない $f\in K[x]$ について、$f(s)=f(t^n)$ は $t$ の多項式として最高次の項 $ct^{n\deg f}$($c\neq0$ は $f$ の最高次係数)をもつので $0$ でない。よって $s$ は $K$ 上超越的である。
$K(s)(t)=K(t)$ である。実際、左辺は $K$ と $t$ を含むので $K(t)$ を含み、逆に $K(s)\subset K(t)$ と $t\in K(t)$ から左辺は $K(t)$ に含まれる。$t$ は $x^n-s\in K(s)[x]$ の根なので $K(s)$ 上代数的で $\deg_{K(s)}t\le n$ であり、thm-degree-of-extension-element により $[K(t):K(s)]\le n$ である。
逆向きの不等式を示すため、$1,t,\dots,t^{n-1}$ が $K(s)$ 上線形独立であることを示す。$g_0,\dots,g_{n-1}\in K(s)$ がすべては $0$ でなく $\sum_{i=0}^{n-1}g_it^i=0$ を満たすとする。$K(s)$ の元は $K[s]$ の元の商なので、共通の分母($K[s]$ の $0$ でない元)を掛けて、各 $g_i$ は $K[s]$ に属するとしてよい。すなわち $h_i\in K[y]$ により $g_i=h_i(t^n)$ と書け、すべては $0$ でない。すると $K[t]$ の中で
$$
\sum_{i=0}^{n-1}h_i(t^n)\,t^i=0
$$
である。$h_i(t^n)t^i$ に現れる $t$ の冪の指数はすべて $n$ で割った余りが $i$ なので、$i$ が異なる項どうしで同じ冪の単項式は現れない。したがって各 $i$ について $h_i(t^n)t^i=0$、すなわち $h_i=0$ となり、仮定に反する。よって $[K(t):K(s)]\ge n$ であり、$[K(t):K(s)]=n$ である。
最後に、$t$ は $n$ 次のモニックな多項式 $x^n-s$ の根で $\deg_{K(s)}t=[K(t):K(s)]=n$ なので、$x^n-s$ は $t$ の最小多項式であり、既約である。$\square$
たとえば $K(t)/K(t^2)$ は $2$ 次拡大である。$K$ の標数が素数 $p$ で $n=p$ のときは $x^p-s=(x-t)^p$ となり、$t$ の最小多項式は $K(t)$ の中で重根しかもたない。これは 完全体 でない体 $K(s)$ の上の分離拡大でない拡大の典型例である。
複素平面で $0$ と $1$ から出発し、既に得た 2 点を通る直線と、既に得た点を中心とし既に得た 2 点間の距離を半径とする円を引いて、それらの交点を次々に加えていく。こうして得られる点を定規とコンパスで作図できる点といい、その点を表す複素数を作図可能な数という。実数 $a$ が作図可能であることは、長さ $|a|$ の線分が作図できることと同じである。
実数 $\alpha$ が作図可能であるための必要十分条件は、$\mathbb{R}$ の部分体の列
$$
\mathbb{Q}=K_0\subset K_1\subset\dots\subset K_r
$$
で、各 $i$ について $[K_i:K_{i-1}]=2$ であり、$\alpha\in K_r$ となるものが存在することである。
証明は DF04 §13.3 に譲る。必要性の要点は、直線と直線、直線と円、円と円の交点の座標が、既に得た点の座標から加減乗除と平方根だけで求まる(高々 $2$ 次の方程式を解けばよい)ことであり、平方根を 1 回添加するごとに次数が $1$ か $2$ の拡大が生じる。十分性は、加減乗除と平方根が作図で実現できることによる。以下で使うのは必要性だけである。
作図可能な実数 $\alpha$ は $\mathbb{Q}$ 上代数的で、$\deg_{\mathbb{Q}}\alpha$ は $2$ の冪である。したがって次の数はどれも作図可能でない。
$\alpha$ が作図可能なら、thm-degree-of-extension-constructible の列 $K_0\subset\dots\subset K_r$ がある。thm-degree-of-extension-tower を $r$ 回用いて $[K_r:\mathbb{Q}]=2^r$ であり、$\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\alpha)\subset K_r$ に再び thm-degree-of-extension-tower を用いると $[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]$ は $2^r$ を割り切るので $2$ の冪である。これは有限なので、thm-degree-of-extension-element により $\alpha$ は代数的で $\deg_{\mathbb{Q}}\alpha=[\mathbb{Q}(\alpha):\mathbb{Q}]$ は $2$ の冪である。
1:ex-degree-of-extension-cbrt2 により $\deg_{\mathbb{Q}}\sqrt[3]2=3$ である。
2:$60^\circ$ の角は正三角形として作図できるので、それが 3 等分できれば $\cos20^\circ$、したがって $y=2\cos20^\circ$ が作図可能になる。3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ から $2\cos3\theta=(2\cos\theta)^3-3(2\cos\theta)$ であり、$\theta=20^\circ$ とおくと $2\cos60^\circ=1$ より $y^3-3y-1=0$ である。$y^3-3y-1$ の有理数の根は $\pm1$ しか候補がなく(最高次係数と定数項が $\pm1$)、$y=1$ で $-3$、$y=-1$ で $1$ なので根をもたない。$3$ 次式なので既約であり、$\deg_{\mathbb{Q}}y=3$ である。
3:$\zeta=e^{2\pi i/7}$ は $x^7-1=(x-1)(x^6+x^5+\dots+1)$ の根で $\zeta\neq1$ なので $\zeta^6+\zeta^5+\dots+1=0$ である。$\zeta^3$ で割り $y=\zeta+\zeta^{-1}=2\cos(2\pi/7)$ とおくと、$\zeta^2+\zeta^{-2}=y^2-2$、$\zeta^3+\zeta^{-3}=y^3-3y$ より
$$
(y^3-3y)+(y^2-2)+y+1=y^3+y^2-2y-1=0
$$
である。有理数の根の候補 $\pm1$ で値はそれぞれ $-1$、$1$ なので、$y^3+y^2-2y-1$ は既約で $\deg_{\mathbb{Q}}y=3$ である。正 7 角形が作図できれば、単位円に内接し $1$ を頂点とする正 7 角形も作図でき、その頂点 $\zeta$ の実部 $\cos(2\pi/7)$ が作図可能になり、したがって $y$ も作図可能になる。
4:$\sqrt\pi$ が作図可能なら代数的であり、$\pi=(\sqrt\pi)^2$ は有限次拡大 $\mathbb{Q}(\sqrt\pi)/\mathbb{Q}$ の元なので代数的になる(rem-degree-of-extension-tower-source)。これは $\pi$ が超越数であるという Lindemann の定理(1882 年。証明は Lan02 Appendix 1 に譲る)に反する。
いずれの場合も次数が $2$ の冪でないか、代数的でないので、作図可能でない。$\square$
この系の逆は成り立たない。ex-degree-of-extension-no-intermediate の $x^4-x-1$ の実根 $\alpha$ は次数が $4=2^2$ であるが、$\mathbb{Q}(\alpha)$ は $2$ 次の中間体をもたないので、$\mathbb{Q}=K_0\subset K_1\subset K_2=\mathbb{Q}(\alpha)$ の形の列はない。さらに Galois 理論を用いると、$\alpha$ を含む 2 次拡大の列がどこにも存在しないこと(作図可能であることと、$\mathbb{Q}(\alpha)$ のGalois閉包の次数が $2$ の冪であることが同値で、ここでは $|S_4|=24$)が示される(DF04 第 14 章)。次数が $2$ の冪であることは作図可能であるための必要条件にすぎない。
有限次 Galois拡大 $L/K$ では、$L$ の $K$ 上の自己同型のなす群 $\mathrm{Gal}(L/K)$ の位数は拡大次数に等しい:$|\mathrm{Gal}(L/K)|=[L:K]$(Galois拡大 の記事の定理「有限次Galois拡大の特徴づけ」)。一般の有限次拡大 $L/K$ では、$K$ の代数閉包 $\overline K$ への $K$ 上の埋め込み $L\to\overline K$ の個数(分離次数 $[L:K]_s$)は $[L:K]$ 以下であり、等号は $L/K$ が分離拡大のときに限る。$K$ の標数が素数 $p$ のとき $[L:K]=[L:K]_s\,[L:K]_i$ と書くと非分離次数 $[L:K]_i$ は $p$ の冪であり、標数 $0$ の体や完全体の上では常に $[L:K]_i=1$ である(Lan02 Chapter V §4、§6)。
無限次拡大の大きさを測るには、次数の代わりに超越次数(代数的に独立な元の最大個数)を用いる。たとえば $K(t)/K$ は次数 $\infty$、超越次数 $1$ であり、prop-degree-of-extension-rational の $K(t)/K(t^n)$ は超越次数 $0$ の有限次拡大である(Lan02 Chapter VIII §1)。
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