Van Kampenの定理

同義語:van Kampenの定理Seifert–van Kampenの定理van Kampen's theoremSeifert–van Kampen theorem

概要

Van Kampenの定理(van Kampen's theorem、Seifert–van Kampen の定理)とは、位相空間 $X$ を弧状連結な共通部分をもつ二つの弧状連結な開集合 $U,V$ で覆うとき、基点 $x_0\in U\cap V$ の基本群が融合積 $\pi_1(X,x_0)\cong\pi_1(U,x_0)\ast_{\pi_1(U\cap V,x_0)}\pi_1(V,x_0)$ になるという定理である。$U$ 内のループと $V$ 内のループを自由に並べ、$U\cap V$ の中で同じループだけを同一視すれば $X$ のループが尽くされることを述べ、圏論的には $\pi_1$ が押し出しを保つことを意味する。群の表示があれば $\pi_1(X)$ の表示が生成元と関係子の合併として書け、円周のウェッジ和・球面・閉曲面・結び目補空間の基本群が計算できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 基本群, 自由積, 群の表示, 弧状連結空間, 開集合

動機

位相空間 $X$ の基本群を定義から直接計算するのは一般に難しい。しかし $X$ を扱いやすい部分空間 $U,V$ で覆えれば、$\pi_1(U)$、$\pi_1(V)$、$\pi_1(U\cap V)$ の情報から $\pi_1(X)$ を組み立てられることが多い。Van Kampen の定理(Seifert–van Kampen の定理、Hat02 §1.2、Mun00 §70)はこの「分割統治」を厳密に定式化するもので、$X$ を弧状連結な共通部分をもつ二つの弧状連結な開集合で覆うとき、$\pi_1(X)$ が $\pi_1(U)$ と $\pi_1(V)$ を $\pi_1(U\cap V)$ に沿って貼り合わせた融合積になることを主張する。$U$ 内のループと $V$ 内のループを自由に並べ、共通部分 $U\cap V$ の中で同じであるループどうしだけを同一視する、というのがその内容である。この定理は、証明の細部よりも使いこなせるようになることが大切だとしばしば言われ、円周のウェッジ和・閉曲面・結び目の補空間など、基本群の具体的な計算のほとんどがこの定理に基づく。

仮定・定理・証明

群の融合積

群 $G_1,G_2,H$ と群準同型 $\varphi_1\colon H\to G_1$、$\varphi_2\colon H\to G_2$ が与えられたとする。自由積 $G_1\ast G_2$ において $G_1,G_2$ を構造射 $\iota_1,\iota_2$ による像と同一視し、部分集合 $\{\varphi_1(h)\varphi_2(h)^{-1}\mid h\in H\}$ を含む最小の正規部分群(正規閉包)を $N$ とする。剰余群
$$ G_1\ast_HG_2:=(G_1\ast G_2)/N $$
を $\varphi_1,\varphi_2$ に関する $G_1$ と $G_2$ の $H$ 上の融合積(amalgamated free product、融合自由積)という。合成 $G_i\to G_1\ast G_2\to G_1\ast_HG_2$ を $\kappa_i$ と書く。定義から $\kappa_1\circ\varphi_1=\kappa_2\circ\varphi_2$ である。$H$ が自明群のとき融合積は自由積 $G_1\ast G_2$ そのものである。

融合積の普遍性

上の状況で、群 $K$ と準同型 $\psi_1\colon G_1\to K$、$\psi_2\colon G_2\to K$ が $\psi_1\circ\varphi_1=\psi_2\circ\varphi_2$ を満たすならば、準同型 $\psi\colon G_1\ast_HG_2\to K$ で $\psi\circ\kappa_1=\psi_1$、$\psi\circ\kappa_2=\psi_2$ を満たすものがただ一つ存在する。すなわち $(G_1\ast_HG_2,\kappa_1,\kappa_2)$ は群の圏における $\varphi_1,\varphi_2$ の押し出しである。

自由積の記事の命題「自由積は群の圏の余積」により、$\psi'\circ\iota_i=\psi_i$($i=1,2$)を満たす準同型 $\psi'\colon G_1\ast G_2\to K$ がただ一つ存在する。$h\in H$ に対し $\psi'(\varphi_1(h)\varphi_2(h)^{-1})=\psi_1(\varphi_1(h))\,\psi_2(\varphi_2(h))^{-1}=e$ なので、$N$ の生成元はすべて $\ker\psi'$ に属し、$\ker\psi'$ は正規部分群だから $N\subset\ker\psi'$ である。よって $\psi'$ は剰余群 $G_1\ast_HG_2$ 上の準同型 $\psi$ を誘導し、$\psi\circ\kappa_i=\psi'\circ\iota_i=\psi_i$ である。一意性:$G_1\ast_HG_2$ は $\kappa_1(G_1)\cup\kappa_2(G_2)$ で生成されるので、$\psi$ は $\kappa_i$ との合成で決まる。$\square$

以下、$X$ を位相空間、$U,V\subset X$ を $X=U\cup V$ を満たす開集合、$x_0\in U\cap V$ とし、包含写像が誘導する準同型を
$$ i_U\colon\pi_1(U\cap V,x_0)\to\pi_1(U,x_0),\quad i_V\colon\pi_1(U\cap V,x_0)\to\pi_1(V,x_0),\quad j_U\colon\pi_1(U,x_0)\to\pi_1(X,x_0),\quad j_V\colon\pi_1(V,x_0)\to\pi_1(X,x_0) $$
と書く。包含写像の合成は包含写像なので $j_U\circ i_U=j_V\circ i_V$ であり、van-kampen-prop-amalgamated-universal により準同型
$$ \Phi\colon\pi_1(U,x_0)\ast_{\pi_1(U\cap V,x_0)}\pi_1(V,x_0)\to\pi_1(X,x_0),\qquad\Phi\circ\kappa_U=j_U,\quad\Phi\circ\kappa_V=j_V $$
が定まる。

Van Kampenの定理

$X=U\cup V$、$U,V$ は $X$ の開集合であり、$U$、$V$、$U\cap V$ がいずれも空でなく弧状連結(弧状連結空間)であるとする。このとき、任意の $x_0\in U\cap V$ について $\Phi$ は群の同型である:
$$ \pi_1(X,x_0)\cong\pi_1(U,x_0)\ast_{\pi_1(U\cap V,x_0)}\pi_1(V,x_0). $$
とくに $X$ は弧状連結であり、$\pi_1(X,x_0)$ は $j_U(\pi_1(U,x_0))$ と $j_V(\pi_1(V,x_0))$ で生成される。

Van Kampenの定理の証明

記号:$x_0$ のループ $f$ の像が $U$ または $V$ に含まれるとき、$f$ を「$U$ 内のループ」「$V$ 内のループ」といい、その類を $\pi_1(U,x_0)$ または $\pi_1(V,x_0)$ の元とみなす。道の積 $\cdot$、逆の道 $\bar\gamma$、道のホモトピー $\simeq$ は基本群の記事の記法に従い、道の積の結合律・単位元・逆元に関する同記事の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」と補題「径数の取り替え」を自由に用いる。
第 1 段(全射性)。 $f\colon I\to X$ を $x_0$ のループとする。$\{f^{-1}(U),f^{-1}(V)\}$ はコンパクトな距離空間 $I=[0,1]$(コンパクト空間)の開被覆なので、Lebesgue数の補題により分点 $0=s_0< s_1<\cdots< s_m=1$ を、各 $f([s_{i-1},s_i])$ が $U$ または $V$ に含まれるようにとれる。各 $i$ について $f([s_{i-1},s_i])$ を含む方を $A_i\in\{U,V\}$ と定め(両方に含まれるときはどちらかを選ぶ)、隣り合う区間で $A_i=A_{i+1}$ なら二つの区間を一つにまとめる。これを繰り返し、$A_i\ne A_{i+1}$($1\le i< m$)としてよい。すると分点 $f(s_i)$($0< i< m$)は $A_i\cap A_{i+1}=U\cap V$ に属する。$f_i(s):=f(s_{i-1}+s(s_i-s_{i-1}))$ とおくと $f_i$ は $A_i$ 内の道であり、$f_1\cdot(f_2\cdot(\cdots\cdot f_m))$ は $f$ の径数の取り替えなので $f\simeq f_1\cdot f_2\cdots f_m$ である(括弧は結合律により省く)。$U\cap V$ は弧状連結なので、各 $0< i< m$ について $x_0$ から $f(s_i)$ への $U\cap V$ 内の道 $g_i$ をとり、$g_0=g_m:=c_{x_0}$ とおく。$\bar g_i\cdot g_i\simeq c$ を挿入すると
$$ f\simeq(g_0\cdot f_1\cdot\bar g_1)\cdot(g_1\cdot f_2\cdot\bar g_2)\cdots(g_{m-1}\cdot f_m\cdot\bar g_m) $$
であり、各因子 $g_{i-1}\cdot f_i\cdot\bar g_i$ は $A_i$ 内の $x_0$ のループである。よって $[f]$ は $j_U(\pi_1(U,x_0))\cup j_V(\pi_1(V,x_0))$ の元の積であり、$\Phi$ の像に属する。
第 2 段(分解とその同値)。 $\pi_1(X,x_0)$ の元 $[f]$ の分解とは、形式的な積 $[f_1][f_2]\cdots[f_k]$ であって、各 $f_i$ が $U$ 内または $V$ 内の $x_0$ のループ(どちらの内のループとみなすかも指定する)で、$X$ の中で $f\simeq f_1\cdot f_2\cdots f_k$ となるもののことをいう。分解は、各 $[f_i]$ を指定された $\pi_1(U,x_0)$ または $\pi_1(V,x_0)$ の元とみなすことで、自由積 $\pi_1(U,x_0)\ast\pi_1(V,x_0)$ の元を定める。二つの分解が同値であるとは、次の二種類の操作を有限回行って一方から他方へ移れることをいう。

  • (i) 隣り合う二つの因子 $[f_i][f_{i+1}]$ が同じ $A\in\{U,V\}$ 内のループとみなされているとき、これを一つの因子 $[f_i\cdot f_{i+1}]$($A$ 内のループ)に置き換える。またその逆。
  • (ii) $f_i$ の像が $U\cap V$ に含まれるとき、$[f_i]$ を $U$ 内のループとみなすか $V$ 内のループとみなすかを取り替える。
    操作 (i) は $\pi_1(A,x_0)$ の中での積であり、操作 (ii) は $i_U(h)$ と $i_V(h)$($h=[f_i]\in\pi_1(U\cap V,x_0)$)の取り替えなので、同値な分解が定める自由積の元は融合積 $Q:=\pi_1(U,x_0)\ast_{\pi_1(U\cap V,x_0)}\pi_1(V,x_0)$ の中で等しい。第 1 段は、すべての $[f]$ が分解をもつことを示している。

第 3 段(同じ類の二つの分解は同値である)。 $[f_1]\cdots[f_k]$ と $[f'_1]\cdots[f'_l]$ を同じ $[f]$ の分解とし、$F\colon I\times I\to X$ を $f_1\cdots f_k$ から $f'_1\cdots f'_l$ への道のホモトピーとする($F(0,t)=F(1,t)=x_0$)。$\{F^{-1}(U),F^{-1}(V)\}$ はコンパクト距離空間 $I\times I$ の開被覆なので、Lebesgue 数の補題により分点 $0=s_0<\cdots< s_m=1$、$0=t_0<\cdots< t_n=1$ を、各長方形 $R_{ij}:=[s_{i-1},s_i]\times[t_{j-1},t_j]$ が $F$ によって $U$ または $V$ の中に写るようにとれる。$s$ の分点を増やしてもこの性質は保たれるので、$s$ の分点は積 $f_1\cdots f_k$ の切れ目(下辺 $t=0$)と $f'_1\cdots f'_l$ の切れ目(上辺 $t=1$)をすべて含むとしてよい。各 $R_{ij}$ に対し $F(R_{ij})$ を含む方を $A_{ij}\in\{U,V\}$ と定める。
長方形を下の行から上の行へ、各行では左から右へ $R_1,R_2,\ldots,R_{mn}$ と並べ直し、$A_r$ を $R_r$ に対応する $A_{ij}$ とする。$0\le r\le mn$ に対し、正方形の左辺の点 $(0,\cdot)$ から右辺の点 $(1,\cdot)$ へ至り、最初の $r$ 個の長方形 $R_1,\ldots,R_r$ とそれ以外の長方形とを分ける、長方形の辺からなる道を $\gamma_r$ とする。具体的には $r< mn$ を $r=(j-1)m+p$($1\le j\le n$、$0\le p\le m-1$)と書くとき、$\gamma_r$ は第 $j$ 行の最初の $p$ 個の長方形の上辺を左から右へたどり、直線 $s=s_p$ に沿って $t_j$ から $t_{j-1}$ へ下り、第 $j$ 行の残りの長方形の下辺を右へたどる道である。また $\gamma_{mn}$ は上辺とする。$\gamma_0$ は下辺であり、各 $\gamma_r$ は左辺の一点から出て右辺の一点に至るので、$F\circ\gamma_r$ は $x_0$ のループである。
長方形の頂点全体を頂点と呼ぶ。各頂点 $v$ に対し、$x_0$ から $F(v)$ への道 $g_v$ を次のように選ぶ。$v$ が左辺または右辺上のときは $F(v)=x_0$ なので $g_v:=c_{x_0}$ とする。そうでないとき、$v$ を含む長方形(高々 4 個)の $A_r$ すべての共通部分、さらに $v$ が下辺上で $f_i$ の径数区間の内部にあるなら $f_i$ の属する $A\in\{U,V\}$、$v$ が上辺上で $f'_i$ の径数区間の内部にあるなら $f'_i$ の属する $A$ との共通部分の中に $g_v$ をとる。この共通部分は $U$、$V$、$U\cap V$ のいずれかであり、いずれも弧状連結で $x_0$ と $F(v)$ を含むので、このような $g_v$ は存在する(下辺上の $f_i$ の切れ目の頂点 $v$ では $F(v)=x_0$ なので $g_v=c_{x_0}$ をとる。上辺も同様)。
各 $\gamma_r$ は頂点で区切られた有限個の辺 $e_1,\ldots,e_q$ からなる。辺 $e$ の始点を $v$、終点を $v'$ とすると、$g_v\cdot(F\circ e)\cdot\bar g_{v'}$ は $x_0$ のループであり、$e$ を辺にもつ各長方形 $R$ について、$g_v,g_{v'}$ は $A_R$ 内にあり $F(e)\subset F(R)\subset A_R$ なので、これは $A_R$ 内のループである。$\bar g_{v}\cdot g_{v}\simeq c$ を各頂点で挿入すると、$F\circ\gamma_r\simeq\prod_{e}(g_{v(e)}\cdot(F\circ e)\cdot\bar g_{v'(e)})$ となり、各因子を $e$ を含むいずれかの長方形の $A_R$ 内のループとみなせば、$F\circ\gamma_r$(すなわち $[f]$)の分解が得られる。正方形の左辺・右辺上にある辺(縁の辺)は $F$ で $x_0$ に潰れ、その両端の $g_v$ も定値道なので、対応する因子は単位元であり分解に影響しない。因子ごとに $A_R$ の選び方を変えたものは、操作 (ii) により互いに同値である。
$\gamma_{r-1}$ から $\gamma_r$ への移行を考える。$r=(j-1)m+p$($1\le p\le m$)とすると、$\gamma_{r-1}$ と $\gamma_r$ の違いは、$R_r$ の左辺と下辺をたどる部分が $R_r$ の上辺と右辺をたどる部分に置き換わることだけである($p=1$ のときは左辺が正方形の左辺の一部、$p=m$ のときは右辺が正方形の右辺の一部である)。関係する辺はすべて $R_r$ の辺なので、対応する因子はすべて $A_r$ 内のループとみなせる(操作 (ii))。$R_r$ の四つの頂点の $g_v$ は $A_r$ 内にあり、$F(R_r)\subset A_r$ で $R_r$ は凸なので、$R_r$ の左辺・下辺に沿う道と上辺・右辺に沿う道は $R_r$ の中で端点を固定してホモトピック(直線ホモトピー)であり、$F$ を合成すれば $A_r$ 内の道のホモトピーになる。したがって $\gamma_{r-1}$ に対応する分解の $R_r$ に関わる因子の積と、$\gamma_r$ に対応する分解の $R_r$ に関わる因子の積は $\pi_1(A_r,x_0)$ の同じ元であり、操作 (i) でまとめれば二つの分解は同値である。ゆえに $\gamma_0$ の分解と $\gamma_{mn}$ の分解は同値である。
最後に、$\gamma_0$(下辺)の分解が $[f_1]\cdots[f_k]$ と同値であることを示す。$f_i$ の径数区間に含まれる下辺の辺 $e$ について、$g_v$ の選び方から因子 $g_v\cdot(F\circ e)\cdot\bar g_{v'}$ は $f_i$ の属する $A$ 内のループとみなせ、$f_i$ の径数区間内の因子をすべて $A$ 内とみなして操作 (i) でまとめると、$\bar g_v\cdot g_v$ が相殺して $\pi_1(A,x_0)$ の元 $[f_i]$(の径数の取り替え)になる。よって $\gamma_0$ の分解は $[f_1]\cdots[f_k]$ と同値である。同様に $\gamma_{mn}$(上辺)の分解は $[f'_1]\cdots[f'_l]$ と同値である。以上より二つの分解は同値である。
第 4 段(単射性)。 $w\in Q$ を $\Phi(w)=1$ とする。$w$ の代表として自由積の元 $[f_1]\cdots[f_k]$(各 $f_i$ は $U$ 内または $V$ 内のループ)をとると、$\Phi(w)=[f_1\cdot f_2\cdots f_k]=[c_{x_0}]$ なので、$[f_1]\cdots[f_k]$ は単位元 $[c_{x_0}]$ の分解である。一方、一つの因子 $[c_{x_0}]$($U$ 内のループとみなす)も $[c_{x_0}]$ の分解である。第 3 段によりこの二つは同値であり、第 2 段により $Q$ の中で等しい。後者は $Q$ の単位元なので $w=1$ である。よって $\Phi$ は単射であり、第 1 段と合わせて同型である。
$X$ の弧状連結性は van-kampen-rem-hypotheses のとおりである。$\square$

例

円周のウェッジ和

$X:=S^1_1\vee S^1_2$ を二つの単位円周のウェッジ和(8 の字)、$x_0$ を貼り合わせ点とし、$q_1\in S^1_1$、$q_2\in S^1_2$ を $x_0$ と異なる点とする。$U:=X\setminus\{q_2\}$、$V:=X\setminus\{q_1\}$ は $X$ の開集合で $X=U\cup V$ である。$U=S^1_1\vee(S^1_2\setminus\{q_2\})$ であり、$S^1_2\setminus\{q_2\}$ は $x_0$ を含む開弧で、開区間 $(-1,1)$($x_0\leftrightarrow0$)と同相(同相写像)である。$H\colon U\times I\to U$ を $S^1_1$ 上で恒等、開弧上で $(y,t)\mapsto(1-t)y$(開区間の座標で)と定めると、$S^1_1$ と開弧はともに $U$ の閉集合で、共通部分 $\{x_0\}$ 上で二つの式は一致するので、貼り合わせの補題により $H$ は連続であり、$S^1_1$ を全時刻止めて $U$ を $S^1_1$ へ変形する。よって $S^1_1$ は $U$ の変位レトラクトであり、基本群の記事の命題「ホモトピー不変性」と定理「円周の基本群」により $\pi_1(U,x_0)\cong\pi_1(S^1_1,x_0)\cong\mathbb{Z}$ で、生成元 $a$ は $S^1_1$ を一周するループの類である。同様に $\pi_1(V,x_0)\cong\mathbb{Z}$ で、生成元 $b$ は $S^1_2$ を一周するループの類である。$U\cap V=X\setminus\{q_1,q_2\}$ は $x_0$ で交わる二つの開弧の和であり、両方の開弧で同時に $(y,t)\mapsto(1-t)y$ とすれば $x_0$ へ収縮するので可縮(可縮空間)、したがって $\pi_1(U\cap V,x_0)=0$ である(単連結空間の記事の命題「可縮ならば単連結」)。$U$、$V$、$U\cap V$ は弧状連結なので van-kampen-thm が使え、van-kampen-cor-presentation により
$$ \pi_1(S^1\vee S^1,x_0)\cong\mathbb{Z}\ast\mathbb{Z}\cong\langle a,b\mid\ \rangle=F_2 $$
は階数 $2$ の自由群である。とくに $ab\ne ba$ であり、基本群は可換でない。$n$ 個の円周のウェッジ和についても同様に、$n$ 個の開集合による被覆に対する定理の一般形(van-kampen-rem-generalizations)または $n$ に関する帰納法により、基本群は階数 $n$ の自由群である(Hat02 §1.2 Example 1.21)。

球面の単連結性

(単連結空間の記事の命題「球面の単連結性」の別証。)$n\ge2$ とし、$S^n\subset\mathbb{R}^{n+1}$ の北極 $N$ と南極 $S$ をとる。$U:=S^n\setminus\{N\}$、$V:=S^n\setminus\{S\}$ は開集合で $S^n=U\cup V$ であり、立体射影によりいずれも $\mathbb{R}^n$ と同相なので可縮、したがって $\pi_1(U)=\pi_1(V)=0$ である。$U\cap V=S^n\setminus\{N,S\}$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ と同相であり、$\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ は $x\mapsto(x/\|x\|,\|x\|)$ により $S^{n-1}\times(0,\infty)$ と同相で、$n-1\ge1$ のとき $S^{n-1}$ は弧状連結なので(単連結空間の記事の命題「球面の単連結性」の証明の冒頭)、$U\cap V$ は弧状連結である。よって van-kampen-cor-simply-connected により $S^n$ は単連結である。$n=1$ では $U\cap V$ が二つの開弧に分かれて弧状連結でなく、実際 $\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ である(van-kampen-rem-counterexample)。単連結空間の記事には折れ線近似による別証がある。

トーラスと閉曲面

トーラス $T^2$ を正方形 $I\times I$ の向かい合う辺を $(s,0)\sim(s,1)$、$(0,t)\sim(1,t)$ で貼り合わせた商空間とみなし、四辺の像を $a$(横辺)、$b$(縦辺)とする。四辺の像は $S^1\vee S^1$ であり、正方形の中心の像を $p$ とする。$U:=T^2\setminus\{p\}$ は、正方形の中心から辺へ向かう放射状の変形により $S^1\vee S^1$ を変位レトラクトとしてもつので $\pi_1(U)\cong F_2=\langle a,b\rangle$ である。$V$ を $p$ を中心とする開円板の像とすると $\pi_1(V)=0$、$U\cap V$ は穴あき開円板で $\pi_1(U\cap V)\cong\mathbb{Z}$ であり、その生成元($p$ のまわりを一周するループ)は $U$ の中では正方形の周をたどるループ、すなわち $aba^{-1}b^{-1}$ にホモトピックである。よって van-kampen-cor-presentation により
$$ \pi_1(T^2)\cong\langle a,b\mid aba^{-1}b^{-1}\rangle\cong\mathbb{Z}\times\mathbb{Z} $$
であり、基本群の記事の命題「直積の基本群」による計算と一致する。同じ方法で、$2g$ 角形の辺を $a_1b_1a_1^{-1}b_1^{-1}\cdots a_gb_ga_g^{-1}b_g^{-1}$ の順に貼り合わせた種数 $g$ の向き付け可能閉曲面 $M_g$ の基本群は $\langle a_1,b_1,\ldots,a_g,b_g\mid[a_1,b_1]\cdots[a_g,b_g]\rangle$ である。放射状の変形レトラクションの構成を含む詳細は Hat02 §1.2 に譲る。

反例:共通部分が弧状連結でない場合

$X=S^1$ を $U:=S^1\setminus\{(0,-1)\}$、$V:=S^1\setminus\{(0,1)\}$ で覆う。$U,V$ は開集合で弧状連結、しかもともに開区間と同相なので可縮であり $\pi_1(U)=\pi_1(V)=0$ である。しかし $U\cap V$ は二つの開弧の直和で弧状連結でなく、$\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}\ne0=\pi_1(U)\ast\pi_1(V)$ である。満たす性質は「$U,V$ が $X$ を覆う弧状連結な開集合であること」、満たさない性質は「$U\cap V$ が弧状連結であること」であり、破れる主張は「$\pi_1(X)\cong\pi_1(U)\ast_{\pi_1(U\cap V)}\pi_1(V)$」である。$U\cap V$ の弧状連結性は、第 1 段で分点 $f(s_i)$ を $U\cap V$ の中で基点と結ぶために使われた。開集合であることも落とせない:同じ $S^1$ を閉じた上半円弧と下半円弧で覆うと、共通部分は 2 点集合で弧状連結でないが、たとえ共通部分が弧状連結でも、閉集合による被覆では一般に定理は成り立たない(Griffiths の双子錐:Hawaiian イヤリングの錐二つの一点和。二つの錐は閉集合で共通部分は一点であるが、全体の基本群は自明でない。Gri54)。本記事の証明では、Lebesgue 数の補題で各小区間の像が $U$ か $V$ に入ることを保証するのに開被覆であることを使った。

帰結・補足

仮定についての注意

$U,V$ が開集合であること、$X=U\cup V$ であること、$U\cap V$ が弧状連結であることはいずれも落とせない(van-kampen-rem-counterexample)。$X$ の弧状連結性は仮定に含めなくても、$U,V$ が弧状連結で $U\cap V\ne\emptyset$ であることから従う(弧状連結空間の記事の命題「共通点をもつ族の合併」)。基点 $x_0$ は $U\cap V$ の点でなければならない。三つ以上の開集合による被覆への一般化と、基本亜群を使った $U\cap V$ が弧状連結でない場合への一般化については van-kampen-rem-generalizations を参照。

群の表示による記述

van-kampen-thm の仮定のもとで、群の表示
$$ \pi_1(U,x_0)\cong\langle a_1,\ldots,a_n\mid\alpha_1,\ldots,\alpha_{n'}\rangle,\qquad\pi_1(V,x_0)\cong\langle b_1,\ldots,b_m\mid\beta_1,\ldots,\beta_{m'}\rangle $$
が与えられ、$\pi_1(U\cap V,x_0)$ が $c_1,\ldots,c_l$ で生成されているとする(生成元・関係子は無限個でもよい)。$i_U(c_k)$、$i_V(c_k)$ をそれぞれ $a$ たち、$b$ たちの語で表したものを $I_k$、$J_k$ とすると、
$$ \pi_1(X,x_0)\cong\bigl\langle a_1,\ldots,a_n,b_1,\ldots,b_m\ \bigm|\ \alpha_1,\ldots,\alpha_{n'},\ \beta_1,\ldots,\beta_{m'},\ I_1J_1^{-1},\ldots,I_lJ_l^{-1}\bigr\rangle $$
である。関係子 $I_kJ_k^{-1}$ は関係式 $I_k=J_k$ とも書く。とくに $\pi_1(U\cap V,x_0)$ が自明群なら $\pi_1(X,x_0)\cong\pi_1(U,x_0)\ast\pi_1(V,x_0)$ である。

自由積の記事の系「群の表示による自由積の記述」により $\pi_1(U,x_0)\ast\pi_1(V,x_0)\cong\langle a_1,\ldots,b_m\mid\alpha_1,\ldots,\beta_{m'}\rangle$ である。van-kampen-def-amalgamated-product の $N$ は $\{i_U(h)i_V(h)^{-1}\mid h\in\pi_1(U\cap V,x_0)\}$ の正規閉包であり、これが $\{I_kJ_k^{-1}\mid k\}$ の正規閉包 $N'$ に等しいことを示せばよい。$N'\subset N$ は明らかである。逆に、剰余群 $G':=(\pi_1(U)\ast\pi_1(V))/N'$ において $i_U(c_k)$ と $i_V(c_k)$ の像は一致するので、二つの準同型 $\pi_1(U\cap V,x_0)\to G'$($i_U$、$i_V$ と $G'$ への射影の合成)は生成元 $c_k$ の上で一致し、したがって等しい。ゆえにすべての $h$ について $i_U(h)i_V(h)^{-1}\in N'$ であり、$N\subset N'$ である。最後に、$\langle a_1,\ldots,b_m\mid\alpha_1,\ldots,\beta_{m'}\rangle=F/N(R)$($F$ は生成元の集合上の自由群、$R$ は関係子の集合)を $N'$ で割った群が右辺の表示の群であることを確かめる。商写像 $F\to F/N(R)$ による $N'$ の逆像 $M$ は $R$ と $\{I_kJ_k^{-1}\}$ の代表語を含む正規部分群なので $N(R\cup\{I_kJ_k^{-1}\})\subset M$ であり、逆に $N(R\cup\{I_kJ_k^{-1}\})$ の像は $I_kJ_k^{-1}$ たちの像を含む正規部分群なので $N'$ を含み、したがって $M\subset N(R\cup\{I_kJ_k^{-1}\})$ である。よって $(F/N(R))/N'\cong F/N(R\cup\{I_kJ_k^{-1}\})$ であり、これが主張の表示である(群の表示の記事の命題「関係子を加える操作」も参照)。$\square$

単連結性の判定

van-kampen-thm の仮定に加えて $\pi_1(U,x_0)$ と $\pi_1(V,x_0)$ がともに自明群ならば、$\pi_1(X,x_0)$ も自明群であり、$X$ は単連結空間である。

van-kampen-thm により $\pi_1(X,x_0)$ は $j_U(\pi_1(U,x_0))\cup j_V(\pi_1(V,x_0))=\{1\}$ で生成されるので自明群である。$X$ は弧状連結(van-kampen-rem-hypotheses)なので単連結である。$\square$

ウェッジ和の基本群

$(X,x_0)$、$(Y,y_0)$ を弧状連結な基点付き空間とし、$x_0$ は $X$ の開近傍 $A$ で $\{x_0\}$ が $A$ の強変位レトラクトとなるものをもち、$y_0$ も同様の開近傍 $B\subset Y$ をもつとする。このとき
$$ \pi_1(X\vee Y,\ast)\cong\pi_1(X,x_0)\ast\pi_1(Y,y_0) $$
である。ここで $\ast$ はウェッジ和の基点である。

$U:=X\vee B$、$V:=A\vee Y$ とおく。ウェッジ和の商写像 $q\colon X\sqcup Y\to X\vee Y$ による $U$ の逆像は $X\sqcup B$ で開なので $U$ は開集合であり、$V$ も同様である。$X\sqcup B$ は $q$ について飽和した開集合なので、$q$ の $X\sqcup B$ への制限 $q_U\colon X\sqcup B\to U$ は $U$ への商写像である($U$ の部分集合 $W$ について、$q_U^{-1}(W)=q^{-1}(W)$ が $X\sqcup B$ で開なら $X\sqcup Y$ でも開であり、$W$ は $X\vee Y$ で開、したがって $U$ で開である)。$U\cup V=X\vee Y$、$U\cap V=A\vee B$ である。$B$ の強変位レトラクション $H_B\colon B\times I\to B$($y_0$ を全時刻止める)と $X$ 上の恒等写像を合わせた写像 $(X\sqcup B)\times I\to X\vee B$ は連続で、$q_U\times\operatorname{id}_I$ の各ファイバー上で定値である(基点の類 $\{x_0,y_0\}\times\{t\}$ 上では $H_B(y_0,t)=y_0$、$x_0\mapsto x_0$ が同じ点 $\ast$ に写る)。$I$ は局所コンパクト空間かつHausdorff空間なので $q_U\times\operatorname{id}_I$ は商写像であり(Whitehead の補題、錐(位相)の記事の注意「Whiteheadの補題の扱い」)、商写像の普遍性により連続写像 $U\times I\to U$ が誘導される。これは $X$ を全時刻止めて $U$ を $X$ へ変形する強変位レトラクションである。よって $\pi_1(U,\ast)\cong\pi_1(X,x_0)$(基本群の記事の命題「ホモトピー不変性」)であり、同様に $\pi_1(V,\ast)\cong\pi_1(Y,y_0)$ である。同じ構成で $U\cap V=A\vee B$ は $\ast$ を強変位レトラクトとしてもつので可縮であり、$\pi_1(U\cap V,\ast)=0$ である。$U,V,U\cap V$ は弧状連結($X,Y$ が弧状連結で、$A,B$ は可縮)なので、van-kampen-thm と van-kampen-cor-presentation から結論を得る。$\square$

圏論的な見方

$X=U\cup V$($U,V$ は開集合)のとき、$X$ は位相空間の圏において、包含 $U\cap V\to U$、$U\cap V\to V$ の押し出しである($U,V$ 上で一致する連続写像は $X$ 上の連続写像に貼り合わさる)。また融合積は群の圏における押し出しである(van-kampen-prop-amalgamated-universal)。したがって Van Kampen の定理は、関手 $\pi_1$ が「開集合による弧状連結な被覆から来る押し出しを押し出しに写す」と言い換えられる。基点を固定せず基本亜群 $\Pi_1$ を使えば、弧状連結性の仮定を外した一般形が成り立つ(van-kampen-rem-generalizations)。

一般化
  • 多くの開集合:$X=\bigcup_\alpha A_\alpha$ を弧状連結な開集合による被覆で、すべての $A_\alpha$ が基点 $x_0$ を含み、任意の二つの共通部分 $A_\alpha\cap A_\beta$ が弧状連結ならば、$\ast_\alpha\pi_1(A_\alpha,x_0)\to\pi_1(X,x_0)$ は全射である。さらに任意の三つの共通部分 $A_\alpha\cap A_\beta\cap A_\gamma$ が弧状連結ならば、その核は $i_{\alpha\beta}(h)i_{\beta\alpha}(h)^{-1}$($h\in\pi_1(A_\alpha\cap A_\beta,x_0)$)で生成される正規部分群である。証明は本記事の証明とほぼ同じで、3 個以上の長方形が一点で交わらないように長方形の縦辺をずらす操作が加わる(Hat02 §1.2 Theorem 1.20)。
  • 基本亜群版:$U\cap V$ が弧状連結でないときは、$U\cap V$ の各弧状連結成分から一点ずつ選んだ集合を対象とする基本亜群 $\Pi_1$ について、$\Pi_1(X)$ が $\Pi_1(U)$ と $\Pi_1(V)$ の $\Pi_1(U\cap V)$ 上の押し出しになる(Brown の定理、Bro06 Chapter 6)。$S^1$ を二つの開弧で覆う van-kampen-rem-counterexample の状況もこの形で扱える。
  • CW 複体の基本群:2 次元以下の胞体が定める表示で CW複体の基本群が計算できることは、胞体を付着する操作に本定理を適用して得られる(Hat02 §1.2)。
Wirtinger表示への応用

結び目 $K\subset\mathbb{R}^3$ の補空間の基本群 $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K)$ は、結び目の図式から次のように読み取れる。図式の各弧(交点の下をくぐるたびに切れる曲線の断片)に生成元を一つ対応させ、各交点に「上を通る弧 $x$ と、その下でつながる二つの弧 $y,z$ について $x y x^{-1}=z$」という形の関係式を一つ対応させると、これが $\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus K)$ の表示(Wirtinger表示)になる。図式の上側の領域と下側の領域を(厚みを持たせて)$U,V$ とし、本定理を適用すると、$U$、$V$、$U\cap V$ の基本群がいずれも自由群になるため、この簡潔な表示が得られる(Hat02 §1.2 Exercise 22)。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.2(Theorem 1.20 van Kampen の定理とその証明、Example 1.21 円周のウェッジ和、閉曲面の基本群、CW 複体の基本群、Exercise 22 Wirtinger 表示)
[2]
James R. Munkres, Topology, Prentice Hall, 2000, §70(Seifert–van Kampen の定理)、§71(円周のウェッジ和の基本群)
[3]
Ronald Brown, Topology and Groupoids, BookSurge, 2006, Chapter 6(基本亜群に対する van Kampen の定理)
[4]
H. B. Griffiths, The fundamental group of two spaces with a common point, Quart. J. Math. Oxford, 1954, 175–190

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する