1/6公式とベータ積分(one-sixth formula and beta integral)とは、$\alpha<\beta$ での $\int_\alpha^\beta(x-\alpha)(x-\beta)\,dx=-\frac{(\beta-\alpha)^3}{6}$(1/6 公式)と、一般形 $\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^n\,dx=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}$($m,n\ge0$ は整数)である。放物線と直線の囲む面積は $\frac{|a|}{6}(\beta-\alpha)^3$($a$ は差の $x^2$ の係数)で、交点の差で決まる。係数は $\frac{1}{(m+n+1)\binom{m+n}{m}}$ とも書け、ベータ関数の整数での値にあたる。
放物線と直線で囲まれた部分の面積は、定積分と面積 で見たとおり、「上の式 − 下の式」を 2 つの交点の間で積分して求める。いくつか計算すると、答えに共通の形が見えてくる。
$y=x^2$ と $y=x+2$ で囲まれた部分の面積は $\dfrac92$ であった(定積分と面積)。交点の $x$ 座標は $-1$ と $2$ で、その差は $3$ である。
$$
\frac92=\frac{27}6=\frac{3^3}6
$$
と書ける。
$y=2x-x^2$ と $x$ 軸で囲まれた部分を考える。$2x-x^2=x(2-x)$ なので、交点は $x=0,\ 2$ で、$0\le x\le2$ では $2x-x^2\ge0$ である。面積は
$$
\int_0^2(2x-x^2)\,dx=\Bigl[x^2-\frac{x^3}3\Bigr]_0^2=4-\frac83=\frac43
$$
である。交点の差は $2$ で、$\dfrac43=\dfrac86=\dfrac{2^3}6$ と書ける。
どちらも「交点の差の 3 乗を 6 で割ったもの」になっている。この記事では、これがいつでも成り立つこと(1/6 公式)を示し、さらに一般の形
$$
\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^n\,dx=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}
$$
(ベータ積分)まで広げる。最後に、右辺の分数が二項係数の逆数と関係することを見る。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 1/6 公式 | $m=n=1$ のベータ積分 | ベータ関数 $B(2,2)$ |
| 1/12 公式 | $m=2,\ n=1$ のベータ積分 | ベータ関数 $B(3,2)$ |
| $x=\alpha+(\beta-\alpha)t$ と置換 | 区間を $[0,1]$ にそろえる | 縦と横を別々に拡大した図形の面積の比(面積は横の倍率 × 縦の倍率) |
| 部分積分をくり返す | 添字 $m,n$ の漸化式 | ベータ関数とガンマ関数の関係 |
| 答えが $\dfrac1{(m+n+1)\binom{m+n}m}$ | 二項係数の逆数 | ベータ分布、一様な確率 |
$\alpha<\beta$ のとき
$$
\int_\alpha^\beta(x-\alpha)(x-\beta)\,dx=-\frac{(\beta-\alpha)^3}6
$$
である。
方針:被積分関数を $x-\alpha$ の累乗だけで書く。$(x-\alpha)^k$ の原始関数は $\dfrac{(x-\alpha)^{k+1}}{k+1}$ で、$x=\alpha$ で $0$ になるので、代入の計算が楽になる。
段 1(書き直し)。$x-\beta=(x-\alpha)-(\beta-\alpha)$ なので
$$
(x-\alpha)(x-\beta)=(x-\alpha)^2-(\beta-\alpha)(x-\alpha)
$$
である。$\beta-\alpha$ は定数である。
段 2(原始関数)。$\left(\dfrac{(x-\alpha)^3}3\right)'=(x-\alpha)^2$、$\left(\dfrac{(x-\alpha)^2}2\right)'=x-\alpha$ である(合成関数の微分、または展開して確かめられる)。したがって
$$
\int_\alpha^\beta(x-\alpha)(x-\beta)\,dx=\Bigl[\frac{(x-\alpha)^3}3-(\beta-\alpha)\frac{(x-\alpha)^2}2\Bigr]_\alpha^\beta
$$
である。
段 3(代入)。$x=\alpha$ では括弧の中は $0$ である。$x=\beta$ では $x-\alpha=\beta-\alpha$ なので
$$
\frac{(\beta-\alpha)^3}3-\frac{(\beta-\alpha)^3}2=\Bigl(\frac13-\frac12\Bigr)(\beta-\alpha)^3=-\frac{(\beta-\alpha)^3}6
$$
である。$\square$
$\alpha=1$、$\beta=4$ とする。公式では $-\dfrac{3^3}6=-\dfrac92$ である。展開すると $(x-1)(x-4)=x^2-5x+4$ なので
$$
\int_1^4(x^2-5x+4)\,dx=\Bigl[\frac{x^3}3-\frac{5x^2}2+4x\Bigr]_1^4=\Bigl(\frac{64}3-40+16\Bigr)-\Bigl(\frac13-\frac52+4\Bigr)=-\frac83-\frac{11}6=-\frac{27}6=-\frac92
$$
で、一致する。展開する方法では分数の計算が多く、間違えやすい。
値が負になるのは、$\alpha< x<\beta$ で $x-\alpha>0$、$x-\beta<0$ なので、被積分関数が負だからである(定積分と面積 の符号つき面積)。面積として使うときは絶対値をとる。
$f$、$g$ を 2 次以下の多項式とし、$h=f-g$ が $x^2$ の係数 $a\ne0$ をもつとする。方程式 $h(x)=0$ が 2 つの実数解 $\alpha<\beta$ をもつとき、2 曲線 $y=f(x)$、$y=g(x)$ で囲まれた部分の面積 $S$ は
$$
S=\frac{|a|}6(\beta-\alpha)^3
$$
である。
方針:$h$ を $a(x-\alpha)(x-\beta)$ と因数分解し、2 つの解の間で $h$ の符号が一定であることを確かめて、thm-osb-one-sixth を使う。
段 1(因数分解)。$h$ は 2 次式で、$h(\alpha)=h(\beta)=0$ なので、因数定理により $h(x)=a(x-\alpha)(x-\beta)$ である($x^2$ の係数を比べて定数倍が $a$ と決まる)。因数定理は 剰余の定理と因数定理 で扱う。
段 2(符号)。$\alpha\le x\le\beta$ では $x-\alpha\ge0$、$x-\beta\le0$ なので $(x-\alpha)(x-\beta)\le0$ である。したがって、この区間で $h$ の符号は一定($a>0$ なら $0$ 以下、$a<0$ なら $0$ 以上)である。2 曲線はこの区間の外では交わらないので、囲まれた部分は $\alpha\le x\le\beta$ の部分である。
段 3(面積)。定積分と面積 の「上下が入れ替わる場合の面積」の定理(区切る点がない場合)により、$S=\left|\displaystyle\int_\alpha^\beta h(x)\,dx\right|$ である。thm-osb-one-sixth により
$$
\int_\alpha^\beta h(x)\,dx=a\int_\alpha^\beta(x-\alpha)(x-\beta)\,dx=-\frac a6(\beta-\alpha)^3
$$
なので、$S=\dfrac{|a|}6(\beta-\alpha)^3$ である。$\square$
放物線 y = x² と直線 y = x + 1。交点の x 座標 α、β は無理数だが、面積は差 β − α = √5 だけで決まる
3 次関数のグラフと接線で囲まれた部分では、差が $(x-\alpha)(x-\beta)^2$ の形になる。そのための公式を同じ方法で示す。
$\alpha<\beta$ のとき
$$
\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^2(x-\beta)\,dx=-\frac{(\beta-\alpha)^4}{12},\qquad\int_\alpha^\beta(x-\alpha)(x-\beta)^2\,dx=\frac{(\beta-\alpha)^4}{12}
$$
である。
方針:prf-osb-one-sixth と同じく、1 乗の因子を、2 乗になっている因子の文字で書き直す。
段 1(1 つ目の式)。$x-\beta=(x-\alpha)-(\beta-\alpha)$ なので $(x-\alpha)^2(x-\beta)=(x-\alpha)^3-(\beta-\alpha)(x-\alpha)^2$ である。原始関数は $\dfrac{(x-\alpha)^4}4-(\beta-\alpha)\dfrac{(x-\alpha)^3}3$ で、$x=\alpha$ で $0$、$x=\beta$ で
$$
\frac{(\beta-\alpha)^4}4-\frac{(\beta-\alpha)^4}3=-\frac{(\beta-\alpha)^4}{12}
$$
である。
段 2(2 つ目の式)。今度は $x-\alpha=(x-\beta)+(\beta-\alpha)$ と書くと $(x-\alpha)(x-\beta)^2=(x-\beta)^3+(\beta-\alpha)(x-\beta)^2$ である。原始関数は $G(x)=\dfrac{(x-\beta)^4}4+(\beta-\alpha)\dfrac{(x-\beta)^3}3$ で、$G(\beta)=0$ である。$x=\alpha$ では $x-\beta=-(\beta-\alpha)$ なので、$(x-\beta)^4=(\beta-\alpha)^4$、$(x-\beta)^3=-(\beta-\alpha)^3$ であり
$$
G(\alpha)=\frac{(\beta-\alpha)^4}4-\frac{(\beta-\alpha)^4}3=-\frac{(\beta-\alpha)^4}{12}
$$
である。したがって積分は $G(\beta)-G(\alpha)=\dfrac{(\beta-\alpha)^4}{12}$ である。$\square$
接線との面積に使うには、「接点では差が 2 重の解をもつ」ことが必要である。これを確かめておく。
$f$ を $x^3$ の係数が $a\ne0$ の 3 次関数とし、$y=f(x)$ の $x=\beta$ での接線を $y=\ell(x)$ とする。接線がグラフと $x=\alpha$($\alpha\ne\beta$)でもう一度交わるとき
$$
f(x)-\ell(x)=a(x-\alpha)(x-\beta)^2
$$
であり、グラフと接線で囲まれた部分の面積は $\dfrac{|a|}{12}|\beta-\alpha|^4$ である。
方針:$h=f-\ell$ が $x=\beta$ で値も導関数も $0$ になることから、$(x-\beta)^2$ で割り切れることを示す。
段 1($x=\beta$ での値と傾き)。接線は $x=\beta$ で曲線と同じ値、同じ傾きをもつので、$h(\beta)=0$、$h'(\beta)=0$ である。
段 2(1 回目の因数)。$h(\beta)=0$ なので、因数定理により $h(x)=(x-\beta)q(x)$($q$ は 2 次式)と書ける。
段 3(2 回目の因数)。積の微分により $h'(x)=q(x)+(x-\beta)q'(x)$ なので、$h'(\beta)=q(\beta)$ である。段 1 より $q(\beta)=0$ なので、$q(x)=(x-\beta)r(x)$($r$ は 1 次式)と書ける。よって $h(x)=(x-\beta)^2r(x)$ である。
段 4(残りの因数)。$h(\alpha)=0$、$\alpha\ne\beta$ なので $r(\alpha)=0$ であり、$r(x)=c(x-\alpha)$ と書ける。$x^3$ の係数を比べると $c=a$($\ell$ は 1 次式なので $h$ の $x^3$ の係数は $a$)である。
段 5(面積)。$\alpha<\beta$ なら、$\alpha\le x\le\beta$ で $(x-\alpha)(x-\beta)^2\ge0$ なので $h$ の符号は一定であり、thm-osb-one-twelfth の 2 つ目の式から面積は $|a|\dfrac{(\beta-\alpha)^4}{12}$ である。$\beta<\alpha$ なら、区間 $[\beta,\alpha]$ で $h=a(x-\beta)^2(x-\alpha)$ と見て 1 つ目の式($\alpha$ と $\beta$ の役割を入れ替えたもの)を使えば、同じく $|a|\dfrac{(\alpha-\beta)^4}{12}$ である。$\square$
1/6 公式は $(x-\alpha)^1(\beta-x)^1$ の、1/12 公式は $(x-\alpha)^2(\beta-x)^1$ などの積分であった。指数を一般の 0 以上の整数 $m,n$ にしても、答えは階乗で書ける。一般の場合の前に、区間 $[0,1]$ で 1 つ計算してみる。
$\displaystyle\int_0^1t^2(1-t)^2\,dt$ を求める。$t^2(1-t)^2=t^2-2t^3+t^4$ なので
$$
\int_0^1(t^2-2t^3+t^4)\,dt=\frac13-\frac24+\frac15=\frac{10-15+6}{30}=\frac1{30}
$$
である。一方、$\dfrac{2!\,2!}{5!}=\dfrac4{120}=\dfrac1{30}$ である。
$m,n$ を 0 以上の整数、$\alpha<\beta$ とする。
$$
\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^n\,dx=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}
$$
である。とくに $\displaystyle\int_0^1t^m(1-t)^n\,dt=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ である。
方針:置換で区間を $[0,1]$ にそろえる。$I(m,n)=\displaystyle\int_0^1t^m(1-t)^n\,dt$ について、部分積分で $n$ を 1 減らし $m$ を 1 増やす漸化式を作り、$n$ についての数学的帰納法で示す。
段 1(置換)。$x=\alpha+(\beta-\alpha)t$ とおくと、$t$ が $0$ から $1$ まで動くとき $x$ は $\alpha$ から $\beta$ まで動き、$dx=(\beta-\alpha)\,dt$ である。$x-\alpha=(\beta-\alpha)t$、$\beta-x=(\beta-\alpha)(1-t)$ なので
$$
\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^n\,dx=\int_0^1(\beta-\alpha)^mt^m(\beta-\alpha)^n(1-t)^n(\beta-\alpha)\,dt=(\beta-\alpha)^{m+n+1}I(m,n)
$$
である。置換積分は 置換積分の使い方 で扱う。あとは $I(m,n)=\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ を示せばよい。
段 2($n=0$ の場合)。$I(m,0)=\displaystyle\int_0^1t^m\,dt=\frac1{m+1}$ である。一方 $\dfrac{m!\,0!}{(m+1)!}=\dfrac{m!}{(m+1)\,m!}=\dfrac1{m+1}$ なので、すべての $m$ で公式が成り立つ。
段 3(漸化式)。$n\ge1$ とする。$u=(1-t)^n$、$v=\dfrac{t^{m+1}}{m+1}$ とおくと $v'=t^m$、$u'=-n(1-t)^{n-1}$ である。部分積分により
$$
I(m,n)=\Bigl[\frac{t^{m+1}}{m+1}(1-t)^n\Bigr]_0^1+\frac n{m+1}\int_0^1t^{m+1}(1-t)^{n-1}\,dt
$$
である。境界の項は、$t=1$ では $(1-t)^n=0$($n\ge1$ だから)、$t=0$ では $t^{m+1}=0$ なので $0$ である。したがって
$$
I(m,n)=\frac n{m+1}I(m+1,n-1)
$$
である。部分積分は 部分積分の使い方 で扱う。
段 4(帰納法)。「すべての $m\ge0$ で $I(m,n)=\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$」を $n$ についての帰納法で示す。$n=0$ は段 2 で示した。$n-1$ で成り立つと仮定すると、段 3 と仮定($m+1$ と $n-1$ に使う)により
$$
I(m,n)=\frac n{m+1}\cdot\frac{(m+1)!\,(n-1)!}{(m+n+1)!}=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}
$$
である。ここで $\dfrac{(m+1)!}{m+1}=m!$、$n\cdot(n-1)!=n!$ を使った。よって $n$ でも成り立つ。$\square$
同じ漸化式は 積分の漸化式 でも、添字が 2 つある積分の例として扱っている。段 3 で $n$ が 1 減るたびに $m$ が 1 増え、和 $m+n$ は変わらない。最後に $I(m+n,0)=\dfrac1{m+n+1}$ に行き着く。なお 積分の漸化式 では、同じ積分 $\displaystyle\int_0^1x^m(1-x)^n\,dx$ を $B(m,n)$ と書いている。rem-osb-gamma のベータ関数の書き方では、これは $B(m+1,n+1)$ にあたる。
$\displaystyle I(m,n)=\int_0^1t^m(1-t)^n\,dt=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ の値を並べる(図 2)。
| $m$ | $n$ | $\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| $1$ | $1$ | $\dfrac{1}{6}$ | 1/6 公式 |
| $2$ | $1$ | $\dfrac{2}{24}=\dfrac{1}{12}$ | 1/12 公式 |
| $2$ | $2$ | $\dfrac{4}{120}=\dfrac{1}{30}$ | 2 点で接する直線と 4 次関数 |
| $2$ | $3$ | $\dfrac{12}{720}=\dfrac{1}{60}$ | |
| $3$ | $3$ | $\dfrac{36}{5040}=\dfrac{1}{140}$ |
$m$ と $n$ を入れ替えても値は同じである。$t$ を $1-t$ に置き換えると、$t^m(1-t)^n$ のグラフが左右に反転するだけだからである。
y = tᵐ(1 − t)ⁿ(0 ≤ t ≤ 1)のグラフ。曲線の下の面積は m! n! / (m + n + 1)! になる
$y=x^4-2x^2$ と直線 $y=-1$ を考える(図 3)。差は
$$
x^4-2x^2-(-1)=(x^2-1)^2=(x+1)^2(x-1)^2=(x-(-1))^2(1-x)^2
$$
で、$x=-1$ と $x=1$ の 2 点で接している。$-1\le x\le1$ で差は $0$ 以上なので、囲まれた部分の面積は thm-osb-beta を $\alpha=-1$、$\beta=1$、$m=n=2$ で使って
$$
\frac{2!\,2!}{5!}\cdot2^5=\frac{32}{30}=\frac{16}{15}
$$
である。展開して直接積分すると $\displaystyle\int_{-1}^1(x^4-2x^2+1)\,dx=\frac25-\frac43+2=\frac{16}{15}$ で、一致する。
y = x⁴ − 2x² と、x = ±1 の 2 点で接する直線 y = −1。間の面積は 16/15
thm-osb-beta の分数 $\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ は、二項係数 $\dbinom{m+n}{m}=\dfrac{(m+n)!}{m!\,n!}$ を使って書き直せる。二項係数の性質は 二項定理と組合せの恒等式 で扱う。
$m,n$ を 0 以上の整数とし、$N=m+n$ とおく。
$$
\int_0^1t^m(1-t)^n\,dt=\frac1{(N+1)\dbinom{N}{m}},\qquad\int_0^1\binom Nmt^m(1-t)^{N-m}\,dt=\frac1{N+1}
$$
である。2 つ目の値は $m$ によらない。
方針:thm-osb-beta の右辺を、$(m+n+1)!=(N+1)\cdot N!$ で分ける。
段 1。$(N+1)!=(N+1)\cdot N!$ なので
$$
\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}=\frac{m!\,n!}{(N+1)\cdot N!}=\frac1{N+1}\cdot\frac{m!\,n!}{N!}=\frac1{(N+1)\dbinom Nm}
$$
である。最後に $\dbinom Nm=\dfrac{N!}{m!\,(N-m)!}=\dfrac{N!}{m!\,n!}$ を使った。
段 2。1 つ目の式の両辺に定数 $\dbinom Nm$ を掛けると 2 つ目の式になる。$\square$
N = 3 のときの 4 本の曲線 C(3, k) tᵏ(1 − t)³⁻ᵏ。形は違うが、どれも曲線の下の面積は 1/4 で、4 本の和は 1(破線)
面積の公式が「二項係数の逆数」になり、しかも prop-osb-binomial の 2 つ目の値が $m$ によらないのは、計算の偶然ではない。確率で読むと理由が見える。
表の出る確率が $t$ の硬貨を $N$ 回投げると、表がちょうど $m$ 回出る確率は $\dbinom Nmt^m(1-t)^{N-m}$ である(二項分布)。ここで $t$ そのものが分からず、$0$ と $1$ の間から「どの値も同じくらいの確からしさで」選ばれているとする($[0,1]$ 上の一様分布)。このとき表が $m$ 回出る確率は、$t$ について平均をとった
$$
\int_0^1\binom Nmt^m(1-t)^{N-m}\,dt=\frac1{N+1}
$$
になる。つまり、表の回数 $0,1,\dots,N$ の $N+1$ 通りがすべて同じ確率 $\dfrac1{N+1}$ で起こる。
この値は、次のように計算なしでも説明できる。区間 $[0,1]$ に、でたらめに $N+1$ 個の点を独立に打つ。1 個目の点の位置を $t$ とし、残りの $N$ 個を「表の出る確率 $t$ の硬貨」とみなす(点が $t$ より左なら表)。すると「$t$ より左にちょうど $m$ 個」の確率が上の積分である。一方、$N+1$ 個の点を左から並べたとき、1 個目の点が何番目に来るかは $N+1$ 通りで、どれも同じ確率である。左から $m+1$ 番目に来る確率は $\dfrac1{N+1}$ である。2 つは同じ事象なので、積分は $\dfrac1{N+1}$ になる。
ここでの「でたらめに打つ」や「平均をとる」は、大学の確率論(連続な確率変数と条件付き確率)で正確に定める。この記事では直観的な説明にとどめ、証明は prop-osb-binomial の計算による。同じ現象は Pólyaの壺 でも起こる。赤玉 1 個・白玉 1 個の入った壺から玉を 1 個取り出し、その玉を戻すときに同じ色の玉を 1 個加える。これを $N$ 回くり返すと、赤を取り出す回数は $0,1,\dots,N$ のどれも確率 $\dfrac1{N+1}$ になる(この記事では証明しない)。取り出した玉をただ戻すだけでは一様にならない。たとえば $N=3$ なら、赤を取り出す回数が $0,1,2,3$ 回である確率は $\dfrac18,\ \dfrac38,\ \dfrac38,\ \dfrac18$ である(表の出る確率 $\dfrac12$ の硬貨を 3 回投げるのと同じ)。
$p>0$、$q>0$ に対して
$$
B(p,q)=\int_0^1t^{p-1}(1-t)^{q-1}\,dt
$$
をベータ関数という($p<1$ や $q<1$ のときは 広義積分)。thm-osb-beta は、$p=m+1$、$q=n+1$ が整数の場合の値 $B(m+1,n+1)=\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ を求めたものである。階乗を実数に広げた ガンマ関数 $\Gamma$ を使うと、一般に
$$
B(p,q)=\frac{\Gamma(p)\,\Gamma(q)}{\Gamma(p+q)}
$$
が成り立つ(Rud76 第 8 章。この記事では証明しない)。$\Gamma(k+1)=k!$ なので、整数の場合は thm-osb-beta と一致する。ガンマ関数と Wallis 積分の関係は Wallis積分とガンマ関数 で扱う。
関数 $\dfrac{t^{p-1}(1-t)^{q-1}}{B(p,q)}$ を確率の密度とする分布を ベータ分布 という。rem-osb-probability で、表が $m$ 回、裏が $n$ 回出たと分かったあとの $t$ の分布は、$p=m+1$、$q=n+1$ のベータ分布になる(この記事では証明しない)。統計で「確率そのものの推定」に使われる分布である。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 積分の両端が $(x-\alpha)(x-\beta)$ の 2 つの解 | 1/6 公式 | ex-osb-wrong-interval |
| 差の $x^2$ の係数を掛ける | 面積が $\dfrac{(\beta-\alpha)^3}6$ | ex-osb-coefficient |
| 接線(2 重の解)である | 1/12 公式で面積が求まる | ex-osb-three-roots |
| $m,n$ が 0 以上の整数 | 階乗で書いた式 | ex-osb-half、ex-osb-negative |
$\displaystyle\int_0^3x(x-2)\,dx=\Bigl[\frac{x^3}3-x^2\Bigr]_0^3=9-9=0$ である。1/6 公式を「$\alpha=0$、$\beta=3$」のつもりで使うと $-\dfrac{27}6$ となり、合わない。1/6 公式の被積分関数は $(x-\alpha)(x-\beta)$ で、積分の両端が同じ $\alpha$、$\beta$ でなければならない。ここでは被積分関数の解は $0$ と $2$ なのに、区間の右端が $3$ である。
$y=2x^2$ と $y=2x+4$ で囲まれた部分。交点は $2x^2=2x+4$、つまり $x^2-x-2=0$ から $x=-1,\ 2$ で、ex-osb-first と同じである。しかし差は $2x+4-2x^2=-2(x+1)(x-2)$ で、係数 $2$ が付く。面積は $\dfrac26\cdot3^3=9$ であり、$\dfrac{3^3}6=\dfrac92$ ではない。直接計算しても $\displaystyle\int_{-1}^2(2x+4-2x^2)\,dx=9$ である。交点が同じでも、グラフを縦に 2 倍に伸ばすと面積は 2 倍になる。
$y=x^3-x$ と $x$ 軸は $x=-1,\ 0,\ 1$ の 3 点で交わる。$x$ 軸はどの点でも接線ではないので、差 $x^3-x=(x+1)x(x-1)$ は $(x-\alpha)(x-\beta)^2$ の形にならない。1/12 公式を両端 $-1$、$1$ で使うと $\dfrac{2^4}{12}=\dfrac43$ となるが、実際の面積は 定積分と面積 で計算したとおり $\dfrac14+\dfrac14=\dfrac12$ である。3 つの交点があるときは、交点で区切って積分する。
$m=n=\dfrac12$ とすると、$\displaystyle\int_0^1\sqrt{t(1-t)}\,dt$ である。$y=\sqrt{t(1-t)}$ は $y^2=t-t^2$、つまり $\left(t-\dfrac12\right)^2+y^2=\dfrac14$ の上半分なので、グラフは中心 $\left(\dfrac12,0\right)$、半径 $\dfrac12$ の半円である。積分は半円の面積 $\dfrac12\pi\left(\dfrac12\right)^2=\dfrac\pi8$ である。そもそも階乗は 0 以上の整数に対してしか定義していないので、$m=n=\dfrac12$ では階乗の式 $\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ が使えない。また、$m,n$ が整数なら右辺 $\dfrac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ はいつも有理数だが、この値 $\dfrac\pi8$ は有理数でない($\pi$ が無理数であることはこの記事では証明しない)。rem-osb-gamma のガンマ関数を使うと、$\Gamma\left(\dfrac32\right)=\dfrac{\sqrt\pi}2$、$\Gamma(3)=2$ から $\dfrac{\Gamma(3/2)^2}{\Gamma(3)}=\dfrac{\pi/4}2=\dfrac\pi8$ で一致する($\Gamma\left(\frac32\right)$ の値は Wallis積分とガンマ関数 で扱う)。
$m=-1$、$n=0$ とすると、$\displaystyle\int_0^1\frac{dt}t$ を考えることになる。$0<\varepsilon<1$ として $\displaystyle\int_\varepsilon^1\frac{dt}t=-\log\varepsilon$ で、$\varepsilon\to+0$ で限りなく大きくなる。積分は有限の値にならず、公式に当てはめようとしても $(-1)!$ は意味をもたない。ベータ関数 $B(p,q)$ で $p=m+1=0$ にあたり、$p>0$ という条件を外している。
ベータ積分は、面積の公式のほかにもいろいろな所に現れる。たとえば Wallis積分(高校数学) の $\displaystyle\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,dx$ は、置換 $t=\sin^2x$ で $\dfrac12B\Bigl(\dfrac{n+1}2,\dfrac12\Bigr)$ と書き直せる(Wallis積分とガンマ関数)。ベータ関数の引数に $\dfrac12$ が入るので、thm-osb-beta の階乗の式ではなく、rem-osb-gamma のガンマ関数の式を使う。確率・統計では、ベータ分布 として二項分布と組にして使われる。
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