Morse–Kelley集合論(Morse–Kelley set theory)とは、NBG集合論と同じく集合とクラスを対象とし、クラスを作る内包の公理にクラスを量化する論理式まで許した集合論の公理系で、MK と書く。MK の中では集合論の論理式の真偽を表す真理のクラスが作れ、これを使って ZFC のすべての定理が真であることが示せるので、MK は ZFC の無矛盾性を証明し、ZFC が無矛盾なら、MK は ZFC の保存拡大である NBG より真に強い。一方、到達不能基数 $\kappa$ があれば、$V_\kappa$ を集合、その部分集合すべてをクラスとする構造は MK のモデルになる。
前提知識: NBG集合論, Tarskiの真理定義, 一階述語論理の証明体系, 到達不能基数
Morse–Kelley 集合論(Morse–Kelley set theory)は、NBG集合論 と同じく集合とクラスを対象とする集合論の公理系で、クラスを作る内包の公理に、クラスを量化する論理式まで許したものである。MK と書く。NBG は集合についての文に関して ZFC と同じことしか証明しないが、ZFC が無矛盾なら MK は真に強い。MK の中では、集合論の論理式の真偽を表すクラス(真理のクラス)が作れ、それを使って ZFC の無矛盾性が証明できる。一方、到達不能基数 $\kappa$ があれば、$V_\kappa$ を集合、$V_\kappa$ の部分集合をすべてクラスとする構造は MK のモデルになる。
この記事では、MK を定義し、真理のクラスの存在と「MK は ZFC の無矛盾性を証明する」ことを証明し、到達不能基数から MK のモデルを作る。
NBG と同じく、言語は等号と $\in$ だけをもつ一階の言語で、変数はクラスを動く。あるクラスの元であるクラスを集合、集合でないクラスを真のクラスといい、小文字の変数は集合を動くものとする。
次の公理からなる理論を MK という。
(a)〜(d):NBG集合論 の定義「NBG」の (a) クラスの外延性、(b) 集合についての ZFC の公理(外延性・基礎・対・合併・冪集合・無限・選択)、(c) 分出(クラスと集合の共通部分は集合)、(d) 置換(クラス関数による集合の像は集合)。
(e') クラスの内包図式:任意の論理式 $\varphi(y,\vec P)$(クラスの量化を含んでよい)に対し、$\forall\vec P\,\exists X\,\forall y\,\bigl(y\in X\leftrightarrow\varphi(y,\vec P)\bigr)$。
NBG の内包図式は (e') の $\varphi$ を述語的な論理式(量化が集合の変数だけ)に限ったものなので、NBG の定理はすべて MK の定理である。この体系は Kelley の『General Topology』(1955)の付録に由来する(Kun80 Ch. I §12, p. 36)。
クラス $A$ とクラス関数 $F$ に対し、「$A$ を含み $F$ で閉じたすべてのクラスに属する集合」の全体
$$
\mathrm{Cl}(A,F)=\bigl\{y\ \big|\ \forall X\,\bigl((A\subseteq X\land\forall x\in X\ \forall z\,(\langle x,z\rangle\in F\to z\in X))\to y\in X\bigr)\bigr\}
$$
は (e') によりクラスとして存在する。$\mathrm{Cl}(A,F)$ は $A$ を含み $F$ で閉じた最小のクラスである。実際、$\mathrm{Cl}(A,F)$ 自身が $A$ を含み $F$ で閉じていることは定義から直ちに分かり、そのようなクラスすべてに含まれる。この定義は「すべてのクラス $X$」を量化しているので、NBG の内包図式の例ではない。
集合論の言語(記号 $\in$ と $=$)の論理式を、変数 $v_0,v_1,\dots$、結合子 $\lnot,\to$、量化 $\forall$ で書き、自然数で符号化する。論理式の符号全体 $\mathrm{Fml}\subseteq\omega$、論理式に含まれる $\lnot,\to,\forall$ の個数 $c(\varphi)$、ZFC の公理の符号全体などは、ZF の中で自然数についての通常の再帰で定義できる。$c(\varphi)\le n$ の論理式の符号全体を $\mathrm{Fml}_{\le n}$ と書く。$\omega$ から集合への写像(各 $v_i$ に集合を割り当てる)を割り当てといい、割り当て全体のクラスを $\mathrm{Asg}$ と書く。$s\in\mathrm{Asg}$ と集合 $y$ に対し、$s$ の $i$ での値だけを $y$ に替えたものを $s(i/y)$ と書く。
$n\in\omega$ とクラス $X\subseteq\mathrm{Fml}_{\le n}\times\mathrm{Asg}$ について、$\mathrm{Fml}_{\le n}$ の各元と各 $s\in\mathrm{Asg}$ で次が成り立つことを $\mathrm{Tar}(X,n)$ と書く。
(T1) $\langle\ulcorner v_i\in v_j\urcorner,s\rangle\in X\leftrightarrow s(i)\in s(j)$、(T2) $\langle\ulcorner v_i=v_j\urcorner,s\rangle\in X\leftrightarrow s(i)=s(j)$、
(T3) $\langle\ulcorner\lnot\varphi\urcorner,s\rangle\in X\leftrightarrow\langle\ulcorner\varphi\urcorner,s\rangle\notin X$、(T4) $\langle\ulcorner\varphi\to\psi\urcorner,s\rangle\in X\leftrightarrow\bigl(\langle\ulcorner\varphi\urcorner,s\rangle\notin X\lor\langle\ulcorner\psi\urcorner,s\rangle\in X\bigr)$、
(T5) $\langle\ulcorner\forall v_i\,\varphi\urcorner,s\rangle\in X\leftrightarrow\forall y\ \langle\ulcorner\varphi\urcorner,s(i/y)\rangle\in X$。
クラス $T\subseteq\mathrm{Fml}\times\mathrm{Asg}$ がすべての論理式の符号について (T1)〜(T5) を満たすとき、$T$ を真理のクラスという。
これは構造 $(V,\in)$ に対する Tarski の真理の条件(Tarskiの真理定義 の定義「Tarski の真理定義」)を、クラスで書いたものである。集合の構造なら真理の写像は ZFC の中で作れる(同記事の定理「Tarski の条件を満たす写像の存在と一意性」)が、$V$ はクラスなので同じ議論は使えない。
次は NBG で証明できる。
MK で、真理のクラス $T$ がちょうど一つ存在することが証明できる。
$S=\{n\in\omega\mid\exists X\ \mathrm{Tar}(X,n)\}$ とおく。条件は「あるクラス $X$ が存在する」というクラスの量化を含むので、ここで MK の内包 (e') を使い、分出 (c) により $S$ は集合である。lem-mk-partial の 3 により $0\in S$ で、$n\in S$ なら $n+1\in S$ なので、帰納法により $S=\omega$ である。次に、再び (e') により
$$
T=\bigl\{\langle\varphi,s\rangle\ \big|\ \exists n\in\omega\ \exists X\ \bigl(\mathrm{Tar}(X,n)\land\langle\varphi,s\rangle\in X\bigr)\bigr\}
$$
とおく。$c(\varphi)\le n$ で $\mathrm{Tar}(X_n,n)$ なら、$\langle\varphi,s\rangle\in T\leftrightarrow\langle\varphi,s\rangle\in X_n$ である。実際、$\mathrm{Tar}(X',m)$ で $\langle\varphi,s\rangle\in X'$ なら、$k=\min(m,n)$ として lem-mk-partial の 2 で $X'$ と $X_n$ を $\mathrm{Fml}_{\le k}$ に制限すると、1 によりそれらは一致する。各論理式 $\varphi$ について $\mathrm{Tar}(X_n,n)$ となる $X_n$($n=c(\varphi)$)がとれるので、$T$ は (T1)〜(T5) を満たす。一意性は lem-mk-partial の 1 と同じ帰納法による。$\square$
この証明でクラスの量化を含む内包を使ったのは、$S$ と $T$ を作る二か所だけである。lem-mk-partial は NBG で証明できるので、NBG でも各 $n$ について部分的な真理のクラスは得られる。しかし、それらを一つにまとめることは NBG ではできない(ZFC が無矛盾なら。次の定理と NBG集合論 の系「NBG は ZFC の保存拡大である」による)。
論理式の符号 $\varphi$ が $T$ で妥当 であるとは、すべての $s\in\mathrm{Asg}$ について $\langle\varphi,s\rangle\in T$ であることをいう。証明の体系として、一階述語論理の証明体系 の定義「体系 H」(論理公理 (A1)〜(A8) の全称化と前件肯定)を使う。ZFC の公理の全称化からの H での導出を ZFC の証明とよび、$\mathrm{Con}(\mathsf{ZFC})$ を「ある論理式 $\psi$ について、$\psi$ と $\lnot\psi$ の両方に ZFC の証明がある、ということはない」という自然数についての文とする。
MK は $\mathrm{Con}(\mathsf{ZFC})$ を証明する。したがって ZFC が無矛盾なら、MK は集合についての文に関して ZFC の保存拡大ではなく、NBG と同じ定理をもつこともない。
MK の中で議論し、thm-mk-truth の真理のクラス $T$ を固定する。以下で使う内包はすべて $T$ をパラメータとする述語的なものである。
段 1(ZFC の公理は $T$ で妥当).外延性・基礎・対・合併・冪集合・無限・選択の各公理 $\sigma$ は一つの文である。各論理式 $\varphi(v_0,\dots,v_{k-1})$ について $\langle\ulcorner\varphi\urcorner,s\rangle\in T\leftrightarrow\varphi(s(0),\dots,s(k-1))$ であることが、$\varphi$ の組み立てについての帰納法((T1)〜(T5) を順にたどる)で分かるので、MK の公理 (b) により $\sigma$ は $T$ で妥当である。分出図式と置換図式の例は無限個あり、MK の中の符号 $\varphi$ すべてについて一様に示す必要がある。分出の例では、割り当て $s$ と集合 $a$ に対し、$A=\{x\mid\langle\varphi,s(i/x)\rangle\in T\}$ はクラスで、(c) により $b=A\cap a$ は集合であり、これが例の結論の $b$ になる。置換の例では、仮定が $T$ で真ならクラス $F=\{\langle x,y\rangle\mid x\in a,\ \langle\varphi,s(i/x)(j/y)\rangle\in T\}$ が関数になり、(d) により像 $F[a]$ が集合で、これが結論の $b$ になる。
分出の例は、全称化の前の論理式 $\forall a\,\exists b\,\forall x\,\bigl(x\in b\leftrightarrow(x\in a\land\varphi)\bigr)$($a,b,x$ は $\varphi$ に現れない変数で、$\varphi$ のほかの自由変数は自由なまま残す)の符号で、$\exists$・$\land$・$\leftrightarrow$ は $\lnot,\to,\forall$ による略記である。外側の形は $\varphi$ によらず決まった有限個の記号なので、(T3)〜(T5) をその個数だけ当てはめると、「この符号が $s$ で $T$ に属する」ことは「任意の集合 $a$ に対し集合 $b$ があって、任意の集合 $x$ について $x\in b\leftrightarrow(x\in a\land\langle\varphi,s'(i/x)\rangle\in T)$」と同値になる。ここで $s'$ は $s$ の $a,b$ の位置を替えた割り当てである。上の $b=A\cap a$ がこれを満たす。置換の例も同様で、仮定「各 $x\in a$ に $\varphi$ を満たす $y$ がちょうど一つある」が $s'$ で $T$ に属することから $F$ が関数であることが従い、結論「$y\in b\leftrightarrow\exists x\in a\ \varphi$」は $b=F[a]$ で満たされる。
この証明の方針は Kun80 Ch. I, Exercise 25(p. 46)が示すもの(集合の変数だけの論理式の充足を MK の中で定義する)である。同 Exercise 26 は、MK が自分自身の有限部分の無矛盾性を証明することから、MK は有限個の公理で書けないことを示す問題である(この記事では証明しない)。この点で MK は、有限個の公理で書ける NBG(NBG集合論 の定理「NBG の有限公理化」)と異なる。
ZFC の中では、反映原理により、ZFC の公理の有限個ずつについては、それらを満たす $V_\beta$ がとれる(Kun80 Ch. IV, Theorem 7.4, p. 136)が、すべての公理を同時に扱う議論は ZFC の中では書けない(同 p. 139 の注意)。MK の真理のクラスは、すべての論理式を一度に扱う手段を与える。
MK がどれだけ強いかを、上からも抑える。
ZFC の中で議論する。$\kappa$ を到達不能基数とし、構造 $\mathfrak K=(V_{\kappa+1},\in)$ を考える。$\mathfrak K$ の集合はちょうど $V_\kappa$ の元であり、$\mathfrak K$ は MK のモデルである。
$\mathfrak K$ のクラスは $V_\kappa$ の部分集合である。$x\in V_\kappa$ なら $x\in V_\kappa\in V_{\kappa+1}$ なので $x$ は集合であり、逆に $x\in Y\in V_{\kappa+1}$ なら $x\in Y\subseteq V_\kappa$ である。よって集合の全体は $V_\kappa$ で、集合どうしの所属は本当の $\in$ である。$V_\kappa$ は推移的なので、集合の順序対は $\mathfrak K$ の中でも本当の順序対である。
(a):$X,Y\subseteq V_\kappa$ の $\mathfrak K$ での元は本当の元なので、同じ元をもてば $X=Y$。(b):$(V_\kappa,\in)\models\mathsf{ZFC}$(到達不能基数 の定理「到達不能基数からZFCの集合モデルが得られる」)であり、集合の量化は $V_\kappa$ を動く。(c):$a\in V_\kappa$ なら $a\subseteq V_\alpha$($\alpha<\kappa$)なので $X\cap a\subseteq V_\alpha$、すなわち $X\cap a\in V_{\alpha+1}\subseteq V_\kappa$。(d):$F\subseteq V_\kappa$ が関数、$a\in V_\kappa$ とする。$\lvert F[a]\rvert\le\lvert a\rvert<\kappa$(到達不能基数 の命題「階層の各段は小さい」)であり、$F[a]$ の各元の階数は $\kappa$ 未満なので、$\kappa$ の正則性によりそれらの上限 $\beta$ も $\kappa$ 未満で、$F[a]\subseteq V_{\beta+1}$、$F[a]\in V_{\beta+2}\subseteq V_\kappa$ である。
(e'):論理式 $\varphi(y,\vec P)$ と $\vec P\in V_{\kappa+1}$ をとる。$\mathfrak K$ は集合の構造なので、充足関係 $\mathfrak K\models\varphi[\cdots]$ は ZFC の中で定義されている(Tarskiの真理定義 の定理「Tarski の条件を満たす写像の存在と一意性」)。分出により $D=\{y\in V_\kappa\mid\mathfrak K\models\varphi[y,\vec P]\}$ は $V_\kappa$ の部分集合であり、$V_{\kappa+1}=\mathcal P(V_\kappa)$ に属する。$\varphi$ がクラスを量化していても $D$ は $\mathfrak K$ のクラスで、$\mathfrak K$ の中で $\forall y\,(y\in D\leftrightarrow\varphi(y,\vec P))$ が成り立つ。$\square$
(e') の確かめで本質的なのは、$V_\kappa$ のすべての部分集合がクラスとして $\mathfrak K$ に入っていることである。NBG集合論 の定理「定義可能な部分集合を加えたモデル」のように定義可能な部分集合だけをクラスにすると、(e') が成り立つとは限らない。実際、ZFC が無矛盾なら、「ZFC のすべてのモデル $\mathfrak A$ についてその構成が MK のモデルになる」ということはない。そうなら、NBG集合論 の系「NBG は ZFC の保存拡大である」と同じ議論で MK が ZFC の保存拡大になり、thm-mk-con に反するからである。
ZFC に「到達不能基数が存在する」を加えた理論は $\mathrm{Con}(\mathsf{MK})$ を証明する。
thm-mk-inaccessible により、到達不能基数 $\kappa$ に対し $\mathfrak K$ は MK の公理をすべて満たす集合の構造である。ZFC の中で健全性定理(一階述語論理の証明体系 の定理「健全性定理」)を $\mathfrak K$ に使うと、MK から $\psi$ と $\lnot\psi$ の両方が導出されることはない。$\square$
thm-mk-con と合わせると、MK は ZFC の無矛盾性を証明し、ZFC に到達不能基数の存在を加えた理論は MK の無矛盾性を証明する。MK の強さは、この二つの理論のあいだにある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (e') でクラスの量化を許すこと | NBG | $\mathrm{Con}(\mathsf{ZFC})$ を証明すること(ZFC が無矛盾なら) |
| thm-mk-inaccessible の $\kappa$ の正則性 | $\kappa=\beth_\omega$ | 公理 (d)(置換) |
| thm-mk-inaccessible の $\kappa$ の強極限性 | $\kappa=\aleph_1$ | 公理 (d)(置換) |
| thm-mk-inaccessible の $\kappa$ の非可算性 | $\kappa=\aleph_0$ | 公理 (b) の無限公理 |
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