Parsevalの等式

同義語:パーセバルの等式Parsevalの定理Parseval's theorem

概要

Parsevalの等式(Parseval's identity)とは、正規直交系 $(e_k)$ が空間を表すのに足りているとき、ベクトルの長さの 2 乗が成分の 2 乗の和 $\|x\|^2=\sum_k|\langle x,e_k\rangle|^2$ に等しいという等式であり、三平方の定理の無限次元版である。Fourier 級数では $\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2\,dx=\sum_{n}|\hat f(n)|^2$ となり、Riemann 積分可能なすべての周期関数で成り立つ。系が足りなければ Bessel の不等式に落ちる。$\sum_{n\ge1}1/n^4=\pi^4/90$ などの級数の和や Wirtinger の不等式が導かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正規直交基底, Hilbert空間, Fourier級数, 直交補空間

何を述べる等式か

空間ベクトル $x=(1,2,2)$ の長さの 2 乗は $1^2+2^2+2^2=9$ である。座標軸を回転して別の正規直交基底 $e_1,e_2,e_3$ をとっても、各軸への成分 $\langle x,e_k\rangle$ の 2 乗の和はやはり $\|x\|^2=9$ に等しい(三平方の定理)。一方、軸を 1 本でも落とすと、成分の 2 乗の和は $\|x\|^2$ より小さくなりうる。
Parseval の等式は、この「成分の 2 乗の和は長さの 2 乗」を無限個の軸に広げたものである。関数を $e^{inx}$($n\in\mathbb{Z}$)の成分に分けるのが Fourier 級数で、Parseval の等式
$$ \frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2\,dx=\sum_{n=-\infty}^{\infty}|\hat f(n)|^2 $$
は、無限個の軸 $e^{inx}$ が「足りている」ことを述べる。等式は、足りていない系では不等式(Bessel の不等式)に落ちる。この記事では、有限次元の場合、Hilbert 空間の正規直交系の場合、Riemann 積分可能な周期関数の Fourier 級数の場合を順に扱い、Fourier 級数の場合は完全に証明する。応用として $\sum1/n^4=\pi^4/90$ と Wirtinger の不等式を導く。

記号と有限次元の場合

以下、$F$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、$a\in F$ の複素共役を $\bar a$ と書く。内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は 内積空間 の記事と同じく第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形とし、$\|x\|:=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ とおく。$\langle e_j,e_k\rangle=\delta_{jk}$ を満たす族を正規直交系という。
すべての議論の出発点は、有限個の正規直交系について成り立つ次の等式である。

Bessel の等式

$V$ を内積空間、$e_1,\dots,e_n$ を正規直交系とし、$x\in V$ に対して $s:=\sum_{k=1}^n\langle x,e_k\rangle e_k$ とおく。このとき
$$ \|x\|^2=\sum_{k=1}^n|\langle x,e_k\rangle|^2+\|x-s\|^2 $$
である。とくに $\sum_{k=1}^n|\langle x,e_k\rangle|^2\le\|x\|^2$(Bessel の不等式)であり、等号は $x\in\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_n\}$ のときに限る。さらに、すべての $y\in\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_n\}$ について $\|x-s\|\le\|x-y\|$ である。

各 $j$ について $\langle x-s,e_j\rangle=\langle x,e_j\rangle-\langle x,e_j\rangle=0$ なので、$x-s$ は $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_n\}$ の元と直交する。とくに $x-s\perp s$ なので、三平方の定理から $\|x\|^2=\|s\|^2+\|x-s\|^2$ であり、$\|s\|^2=\sum_k|\langle x,e_k\rangle|^2$ である(内積空間 の記事の命題「正規直交系の性質」の 2)。等号の条件:$\|x-s\|=0$ なら $x=s\in\operatorname{span}\{e_k\}$、逆に $x=\sum_kc_ke_k$ なら $\langle x,e_j\rangle=c_j$ から $s=x$ である。最後の主張は、$y\in\operatorname{span}\{e_k\}$ について $x-y=(x-s)+(s-y)$ の 2 つの項が直交することから、$\|x-y\|^2=\|x-s\|^2+\|s-y\|^2\ge\|x-s\|^2$ として従う。$\square$

$e_1,\dots,e_n$ が有限次元の $V$ の正規直交基底なら、$s=x$ なので次を得る。

有限次元の Parseval の等式

$e_1,\dots,e_n$ を有限次元の内積空間 $V$ の正規直交基底とすると、すべての $x,y\in V$ について
$$ \|x\|^2=\sum_{k=1}^n|\langle x,e_k\rangle|^2,\qquad\langle x,y\rangle=\sum_{k=1}^n\langle x,e_k\rangle\overline{\langle y,e_k\rangle} $$
である。逆に、正規直交系 $e_1,\dots,e_m$ についてすべての $x$ で左の等式が成り立てば、$e_1,\dots,e_m$ は $V$ の正規直交基底である。

左の等式は lem-pi-bessel-identity で $x\in\operatorname{span}\{e_k\}=V$ の場合である。右の等式は $x=\sum_k\langle x,e_k\rangle e_k$ と $y$ の内積をとればよい(正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底による座標とParsevalの等式」)。逆は、lem-pi-bessel-identity の等号条件からすべての $x$ が $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_m\}$ に属し、正規直交系は線形独立だからである。$\square$

右の等式は左の等式から偏極によっても得られる。$F=\mathbb{C}$ なら、内積の第 1 変数の線形性と第 2 変数の共役線形性から
$$ \langle x,y\rangle=\frac14\sum_{k=0}^{3}i^k\|x+i^ky\|^2 $$
が成り立ち($\|x+cy\|^2=\|x\|^2+|c|^2\|y\|^2+\bar c\langle x,y\rangle+c\langle y,x\rangle$ に $c=i^k$ を入れて足す)、右辺のノルムを成分で書けばよい。$F=\mathbb{R}$ なら $\langle x,y\rangle=\frac14(\|x+y\|^2-\|x-y\|^2)$ である。以下では、ノルムの等式から内積の等式を導くのにこの偏極を使う。
有限個の値の列 $f(0),\dots,f(n-1)$ の離散 Fourier 変換についての Parseval の等式(離散Fourier変換と反転公式 の定理「反転公式とParsevalの等式」)は、$\mathbb{C}^n$ の正規直交基底 $\frac1{\sqrt n}(\zeta^{tk})_{k}$($\zeta:=e^{2\pi i/n}$、$t=0,\dots,n-1$)についての thm-pi-finite である。

Hilbert 空間の正規直交系

無限個の正規直交系 $(e_k)_{k\ge1}$ では、lem-pi-bessel-identity で $n\to\infty$ として Bessel の不等式 $\sum_{k=1}^\infty|\langle x,e_k\rangle|^2\le\|x\|^2$ が得られる。等号が成り立つかどうかは系によって異なる。

正規直交系が足りていることの特徴づけ

$V$ を内積空間、$(e_k)_{k\ge1}$ を $V$ の正規直交系とする。次の 4 条件は同値である。
(R1) $\operatorname{span}\{e_k\}$ は $V$ で稠密である。
(R2) すべての $x\in V$ について $x=\sum_{k=1}^\infty\langle x,e_k\rangle e_k$(ノルムで収束)である。
(R3) (Parseval の等式)すべての $x\in V$ について $\|x\|^2=\sum_{k=1}^\infty|\langle x,e_k\rangle|^2$ である。
(R4) すべての $x,y\in V$ について $\langle x,y\rangle=\sum_{k=1}^\infty\langle x,e_k\rangle\overline{\langle y,e_k\rangle}$(絶対収束)である。
これらが成り立てば $(e_k)$ は完全である(すべての $e_k$ と直交する元は $0$ だけ)。$V$ が Hilbert 空間なら、逆に完全性から 4 条件が従う。

$s_n(x):=\sum_{k=1}^n\langle x,e_k\rangle e_k$ とおくと、lem-pi-bessel-identity から
$$ \|x-s_n(x)\|^2=\|x\|^2-\sum_{k=1}^n|\langle x,e_k\rangle|^2 $$
である。したがって、条件 (ii)($\|x-s_n(x)\|\to0$)と条件 (iii) は同値である。(i) と (ii) の同値は、部分和 $s_n(x)$ が $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_n\}$ の中の最良近似であること(lem-pi-bessel-identity の最後の主張)から、(iii) と (iv) の同値は偏極から従う。

詳細

(ii) ⇒ (i):$s_n(x)\in\operatorname{span}\{e_k\}$ が $x$ に収束する。

(i) ⇒ (ii):$x\in V$、$\varepsilon>0$ とし、$\|x-y\|<\varepsilon$ となる $y\in\operatorname{span}\{e_k\}$ をとる。$y$ はある $N$ について $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_N\}$ に属し、$n\ge N$ ならこれは $\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_n\}$ に含まれるので、lem-pi-bessel-identity の最後の主張から $\|x-s_n(x)\|\le\|x-y\|<\varepsilon$ である。

(iii) ⇔ (iv):(iv) で $y=x$ とすれば (iii) である。逆に (iii) を仮定すると、$c\in F$ について $x+cy$ の成分は $\langle x,e_k\rangle+c\langle y,e_k\rangle$ なので、偏極の式の両辺を (iii) で成分の和に書き換えて (iv) を得る(数列の側でも同じ偏極の式が成り立つ)。絶対収束は $|ab|\le\frac12(|a|^2+|b|^2)$ と Bessel の不等式による。


完全性:(iii) のもとで $x$ がすべての $e_k$ と直交すれば $\|x\|^2=0$ である。Hilbert 空間で完全性から (ii) が従うことは、Hilbert空間 の記事の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」の 1 ⇒ 3 である(級数 $\sum_k\langle x,e_k\rangle e_k$ の収束に完備性を使う)。$\square$

(i) から (iv) の同値には完備性が要らない。完備性が要るのは「完全なら足りている」の部分だけであり、完備でない内積空間では、完全な正規直交系でも Parseval の等式が成り立たないことがある(ex-pi-c00)。
Hilbert 空間 $L^2$ の言葉では、次節の Fourier 級数の Parseval の等式は、$\{e^{inx}\}_{n\in\mathbb{Z}}$ が $L^2$ の完全正規直交系であることにあたる(Axl20 11.30)。次節では Lebesgue 積分を使わずに、Riemann 積分可能な関数について直接示す。

Fourier 級数の Parseval の等式

設定

$2\pi$ 周期の関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ で $[-\pi,\pi]$ 上 Riemann積分 の意味で積分可能なもの全体を $\mathcal{R}$ と書く。$f\in\mathcal{R}$ の Fourier 係数と部分和を
$$ \hat f(n):=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-inx}\,dx,\qquad s_N(f;x):=\sum_{n=-N}^{N}\hat f(n)e^{inx} $$
とする(Fourier級数 の記事の定義「Fourier 係数と Fourier 級数」)。$f,g\in\mathcal{R}$ について $f\bar g$ も積分可能であり(同記事の補題「積分可能な関数の積」)、
$$ \langle f,g\rangle:=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\overline{g(x)}\,dx,\qquad\|f\|_2:=\sqrt{\langle f,f\rangle} $$
とおく。$e_n(x):=e^{inx}$ とすると $\langle e_m,e_n\rangle=\delta_{mn}$、$\hat f(n)=\langle f,e_n\rangle$ である(同記事の命題「三角関数系の直交性」)。$\langle\cdot,\cdot\rangle$ は内積の条件のうち定値性だけを欠く(1 点だけ値の違う関数どうしは $\|f-g\|_2=0$ になる)が、lem-pi-bessel-identity の等式と最後の主張(最良近似)の証明は定値性を使わないので、これらはそのまま $\mathcal{R}$ で成り立つ(等号の条件の部分だけは定値性を使う)。とくに
$$ \|f-s_N(f;\cdot)\|_2^2=\|f\|_2^2-\sum_{n=-N}^{N}|\hat f(n)|^2 $$
であり(Fourier級数 の記事の定理「Bessel の不等式」。以下この等式を (B) と呼ぶ)、次数 $N$ 以下の三角多項式 $T(x)=\sum_{|n|\le N}c_ne^{inx}$ のうち $\|f-T\|_2$ を最小にするのは $s_N(f;\cdot)$ である。
目標は、すべての $f\in\mathcal{R}$ について (B) の左辺が $N\to\infty$ で $0$ に近づくこと(thm-pi-fourier)である。証明は 3 段で進む。(a) 連続な周期関数は三角多項式で一様に近似できる(Fejér 核による)。(b) 積分可能な関数は、平均 2 乗の距離で連続な周期関数により近似できる。(c) 部分和が最良近似であることと (B) を合わせる。

連続関数の三角多項式による近似

$\sigma_N(f;x):=\frac1{N+1}\sum_{k=0}^{N}s_k(f;x)$ とおく(部分和の平均)。各 $s_k$ は次数 $k$ 以下の三角多項式なので、$\sigma_N(f;\cdot)$ は次数 $N$ 以下の三角多項式である。

Fejér 核

$F_N(t):=\frac1{N+1}\sum_{k=0}^{N}D_k(t)$ とおく。ここで $D_k(t)=\sum_{|n|\le k}e^{int}$ は Dirichlet 核である。このとき

  1. $f\in\mathcal{R}$ について $\sigma_N(f;x)=\dfrac1{2\pi}\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}f(x-t)F_N(t)\,dt$ であり、$\dfrac1{2\pi}\displaystyle\int_{-\pi}^{\pi}F_N(t)\,dt=1$ である。
  2. $\sin\frac t2\ne0$ なら $F_N(t)=\dfrac{1}{N+1}\cdot\dfrac{\sin^2\frac{(N+1)t}2}{\sin^2\frac t2}$ である。$\sin\frac t2=0$ では $F_N(t)=\frac1{N+1}\sum_{k=0}^{N}(2k+1)=N+1$ である。とくに $F_N\ge0$ である。
  3. $0<\delta\le|t|\le\pi$ なら $F_N(t)\le\dfrac1{(N+1)\sin^2\frac\delta2}$ である。

要点:1 は Dirichlet 核の性質を平均したもの、2 は $2\sin\frac t2\sin\bigl(k+\frac12\bigr)t=\cos kt-\cos(k+1)t$ の和が打ち消し合うこと、3 は 2 の分母を下から評価したものである。

詳しい証明を開く

1:Fourier級数 の記事の命題「Dirichlet 核」の性質 (iii) から $s_k(f;x)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x-t)D_k(t)\,dt$ であり、$k=0,\dots,N$ について平均すればよい。同じ命題の性質 (i) から $\frac1{2\pi}\int D_k=1$ なので、その平均も $1$ である。

2:同じ命題の性質 (ii) から $D_k(t)=\sin\bigl(k+\frac12\bigr)t/\sin\frac t2$ である。積和の公式 $2\sin\frac t2\sin\bigl(k+\frac12\bigr)t=\cos kt-\cos(k+1)t$ を $k=0,\dots,N$ で足すと、右辺は打ち消し合って $1-\cos(N+1)t=2\sin^2\frac{(N+1)t}2$ になる。よって $\sum_{k=0}^ND_k(t)=\frac{2\sin^2\frac{(N+1)t}2}{2\sin^2\frac t2}$ であり、$N+1$ で割ればよい。

3:$\frac\delta2\le\frac{|t|}2\le\frac\pi2$ で $\sin$ は増加なので $\sin^2\frac t2\ge\sin^2\frac\delta2$ であり、2 の分子は $1$ 以下である。$\square$

$F_N$ は $0$ 以上で平均が $1$、原点から離れたところでは $N\to\infty$ で一様に $0$ に近づく。Dirichlet 核 $D_N$ は負の値をとり、脇の振動の振れ幅が小さくならない(Fourier級数 の記事の節「Dirichlet 核と各点収束」)のに対し、平均した $F_N$ は正の山になる。この差が、次の一様収束を生む。$\frac12+\sum_{k=1}^n\cos kx$ を Dirichlet 核とする流儀での同じ核は sin kxとcos kxの和 にもある。

部分和の平均の一様収束

$f$ が $2\pi$ 周期の連続関数なら、$\sigma_N(f;\cdot)$ は $\mathbb{R}$ 上で $f$ に一様収束する。とくに、任意の $\varepsilon>0$ に対して、すべての $x$ で $|f(x)-P(x)|<\varepsilon$ となる三角多項式 $P$ がある。

$f$ は周期的で連続なので有界であり($|f|\le M$)、一様連続である($[-2\pi,2\pi]$ 上で 一様連続 の記事の定理「Heine–Cantorの定理」を使い、周期性で $\mathbb{R}$ 全体に広げる)。$\varepsilon>0$ に対し、$|t|<\delta$ なら $|f(x-t)-f(x)|<\varepsilon$(すべての $x$)となる $0<\delta<\pi$ をとる。lem-pi-fejer-kernel の 1 から
$$ \sigma_N(f;x)-f(x)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(f(x-t)-f(x)\bigr)F_N(t)\,dt $$
である。$F_N\ge0$ なので、積分を $|t|<\delta$ と $\delta\le|t|\le\pi$ に分けて
$$ \bigl\lvert\sigma_N(f;x)-f(x)\bigr\rvert\le\varepsilon\cdot\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}F_N(t)\,dt+2M\cdot\frac1{(N+1)\sin^2\frac\delta2}=\varepsilon+\frac{2M}{(N+1)\sin^2\frac\delta2} $$
を得る(前半は lem-pi-fejer-kernel の 1、後半は 3 と、$\delta\le|t|\le\pi$ の部分の長さが $2\pi$ 以下であることによる)。右辺は $x$ によらず、$N$ が大きければ $2\varepsilon$ より小さい。$\square$

この近似は、Stone–Weierstrass の定理からも得られる(Leb26b Exercise 11.7.8)。ここでは近似する三角多項式を $\sigma_N(f;\cdot)$ として具体的に与えた。

積分可能な関数の連続関数による近似

平均 2 乗の距離での連続関数による近似

$f\in\mathcal{R}$ と $\varepsilon>0$ に対し、$\|f-h\|_2<\varepsilon$ を満たす $2\pi$ 周期の連続関数 $h$ がある。

要点:実部と虚部に分けて実数値の場合に帰着する。下限和に近い階段関数 $\varphi$ で $f$ を下から近似し、$\varphi$ の跳びの近くだけを 1 次関数でつないで連続にする。どれも $|f|$ の上界 $M$ で抑えられるので、$|f-h|^2\le2M|f-h|$ から 2 乗の積分も小さくなる。

詳しい証明を開く

$f=u+iv$($u,v$ は実数値)と書き、実数値の連続な周期関数 $h_1,h_2$ で $\|u-h_1\|_2^2<\varepsilon^2/2$、$\|v-h_2\|_2^2<\varepsilon^2/2$ となるものが見つかれば、$h:=h_1+ih_2$ について $\|f-h\|_2^2=\|u-h_1\|_2^2+\|v-h_2\|_2^2<\varepsilon^2$ である。以下 $u$ を実数値、$|u|\le M$ とし、$\eta>0$ を与える。

段 1(階段関数).Riemann積分 の記事の定理「可積分性の判定条件」により、$[-\pi,\pi]$ の分割 $-\pi=x_0< x_1<\dots< x_m=\pi$ で、上限和と下限和の差が $\eta$ より小さいものがある。$m_j:=\inf_{[x_{j-1},x_j]}u$ とし、$(x_{j-1},x_j)$ 上で $\varphi:=m_j$、分点では隣り合う $m_j$ の小さいほうとする。すると $-M\le\varphi\le u$ であり、$\int_{-\pi}^{\pi}\varphi$ は下限和に等しい(有限個の点の値は積分を変えない)ので、$\int_{-\pi}^{\pi}(u-\varphi)\le(\text{上限和})-(\text{下限和})<\eta$ である。

段 2(つなぐ).$\rho>0$ を、どの小区間の長さの半分よりも小さくとる。各分点 $x_j$($1\le j\le m-1$)の近く $[x_j-\rho,x_j+\rho]$ では、$h$ を $m_j$ から $m_{j+1}$ へ向かう 1 次関数とし、それ以外では $h:=\varphi$ とする。両端では、$[-\pi,-\pi+\rho]$ で $\frac{m_1+m_m}2$ から $m_1$ へ、$[\pi-\rho,\pi]$ で $m_m$ から $\frac{m_1+m_m}2$ への 1 次関数とする。$h(-\pi)=h(\pi)$ なので、$h$ は $2\pi$ 周期の連続関数に延長できる。$h$ の値は $m_j$ たちの間にあるので $|h|\le M$ であり、$h\ne\varphi$ となるのは長さの合計が $2\rho m$ 以下の集合の上だけで、そこで $|h-\varphi|\le2M$ なので $\int_{-\pi}^{\pi}|h-\varphi|\le4M\rho m$ である。

段 3(評価).$\int_{-\pi}^{\pi}|u-h|\le\int_{-\pi}^{\pi}(u-\varphi)+\int_{-\pi}^{\pi}|\varphi-h|<\eta+4M\rho m$ であり、$|u-h|\le2M$ なので $\int_{-\pi}^{\pi}|u-h|^2\le2M\int_{-\pi}^{\pi}|u-h|<2M(\eta+4M\rho m)$ である。先に $\eta$ を、次に(分割が決まってから)$\rho$ を十分小さくとれば、$\|u-h\|_2^2=\frac1{2\pi}\int|u-h|^2$ はいくらでも小さくできる。$\square$

この補題は Leb26b で Exercise 11.8.4 として述べられている。

定理と証明

Riemann 積分可能な関数の Parseval の等式

$f,g\in\mathcal{R}$ とする。

  1. $\displaystyle\lim_{N\to\infty}\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\bigl|f(x)-s_N(f;x)\bigr|^2dx=0$ である。
  2. $\displaystyle\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2\,dx=\sum_{n=-\infty}^{\infty}|\hat f(n)|^2$ である。
  3. $\displaystyle\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\overline{g(x)}\,dx=\sum_{n=-\infty}^{\infty}\hat f(n)\overline{\hat g(n)}$ である(右辺は絶対収束する)。
    $f$ が実数値で $a_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\,dx$、$b_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\,dx$ なら、2 は $\displaystyle\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)^2dx=\frac{a_0^2}2+\sum_{n=1}^\infty(a_n^2+b_n^2)$ と同じである。

1:$\varepsilon>0$ とする。lem-pi-continuous-approx により $\|f-h\|_2<\varepsilon$ となる連続な周期関数 $h$ があり、prop-pi-fejer により、すべての $x$ で $|h(x)-P(x)|<\varepsilon$ となる三角多項式 $P$ がある。$P$ の次数を $N_0$ とする。$\|h-P\|_2^2=\frac1{2\pi}\int|h-P|^2\le\varepsilon^2$ であり、各点で $|a+b|^2\le2|a|^2+2|b|^2$ なので
$$ \|f-P\|_2^2\le2\|f-h\|_2^2+2\|h-P\|_2^2<4\varepsilon^2 $$
である。$N\ge N_0$ なら $P$ は次数 $N$ 以下の三角多項式なので、部分和が最良近似であること(lem-pi-bessel-identity の最後の主張)から
$$ \|f-s_N(f;\cdot)\|_2\le\|f-P\|_2<2\varepsilon $$
である。
2:(B) の左辺が 1 により $0$ に近づくので、$\sum_{|n|\le N}|\hat f(n)|^2\to\|f\|_2^2$ である。
3:$c\in\mathbb{C}$ について $f+cg\in\mathcal{R}$ であり、係数は線形なので $\widehat{f+cg}(n)=\hat f(n)+c\,\hat g(n)$ である。2 を $f+i^kg$($k=0,1,2,3$)に使い、偏極の式
$$ \langle f,g\rangle=\frac14\sum_{k=0}^3i^k\|f+i^kg\|_2^2,\qquad\sum_n\hat f(n)\overline{\hat g(n)}=\frac14\sum_{k=0}^3i^k\sum_n\bigl|\hat f(n)+i^k\hat g(n)\bigr|^2 $$
(どちらも thm-pi-finite の後で述べた計算で確かめられる)を比べればよい。絶対収束は $|\hat f(n)\overline{\hat g(n)}|\le\frac12(|\hat f(n)|^2+|\hat g(n)|^2)$ による。実数値の形は、Fourier級数 の記事の命題「2 つの形の対応」の $|\hat f(n)|^2+|\hat f(-n)|^2=\frac12(a_n^2+b_n^2)$($n\ge1$)、$\hat f(0)=\frac{a_0}2$ を代入して両辺を $2$ 倍すればよい。$\square$

Fourier級数 の記事の系「Parseval の等式」は連続で区分的に $C^1$ 級の関数について一様収束から導いたもの、無限次元のピタゴラスの定理 の定理「Parseval の等式」は実数値の連続関数の場合である。thm-pi-fourier は跳びのある関数(矩形波など)を含む。平均 2 乗の意味の収束 1 は、各点での収束 $s_N(f;x)\to f(x)$ を意味しない(無限次元のピタゴラスの定理 の例「反例:長さで近いことは各点で近いことではない」)。

例と応用

級数の和

のこぎり波 $f(x)=x$

$-\pi< x\le\pi$ で $f(x)=x$ とし、$2\pi$ 周期に延長する。$\hat f(0)=0$、$n\ne0$ で $\hat f(n)=\frac{i(-1)^n}n$ である(Fourier級数 の記事の例「のこぎり波 $f(x)=x$」)。thm-pi-fourier の 2 から $\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}x^2dx=\frac{\pi^2}3=\sum_{n\ne0}\frac1{n^2}=2\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^2}$ であり、
$$ \sum_{n=1}^\infty\frac1{n^2}=\frac{\pi^2}6 $$
を得る。これは Basel問題 の定理「平方数の逆数の和」の別証明である。$f$ は $x=\pi$ で跳ぶので、連続関数についての Parseval の等式ではなく、thm-pi-fourier を使っている。

2 次関数 $f(x)=x^2$ と 4 乗の逆数の和

$-\pi\le x\le\pi$ で $f(x)=x^2$ とし、$2\pi$ 周期に延長する($f(-\pi)=f(\pi)$ なので連続)。$\hat f(0)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}x^2dx=\frac{\pi^2}3$、$n\ne0$ で $\hat f(n)=\frac{2(-1)^n}{n^2}$ である。$\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}x^4dx=\frac{\pi^4}5$ なので、Parseval の等式は
$$ \frac{\pi^4}5=\frac{\pi^4}9+\sum_{n\ne0}\frac4{n^4}=\frac{\pi^4}9+8\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^4} $$
となり、$\displaystyle\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^4}=\frac18\Bigl(\frac{\pi^4}5-\frac{\pi^4}9\Bigr)=\frac{\pi^4}{90}$ を得る。

係数の計算を開く

$n\ne0$ とする。部分積分 により $\int_{-\pi}^{\pi}x^2e^{-inx}dx=\Bigl[\frac{x^2e^{-inx}}{-in}\Bigr]_{-\pi}^{\pi}+\frac2{in}\int_{-\pi}^{\pi}xe^{-inx}dx$ であり、境界の項は $e^{-in\pi}=e^{in\pi}$ から $0$ である。ex-pi-x から $\int_{-\pi}^{\pi}xe^{-inx}dx=2\pi\cdot\frac{i(-1)^n}n$ なので、$\hat f(n)=\frac1{2\pi}\cdot\frac2{in}\cdot\frac{2\pi i(-1)^n}n=\frac{2(-1)^n}{n^2}$ である。


同じ値は三角波 $|x|$ からも得られる(Fourier級数 の記事の例「4 乗の逆数の和」)。

矩形波と奇数の平方の逆数の和

$0< x<\pi$ で $f(x)=1$、$-\pi< x<0$ で $f(x)=-1$、$f(0)=f(\pi)=0$ とし、$2\pi$ 周期に延長する(Fourier級数 の記事の例「矩形波」と同じ関数)。$\hat f(n)=\frac{1-(-1)^n}{i\pi n}$($n\ne0$)、$\hat f(0)=0$ なので、奇数の $n$ では $|\hat f(n)|^2=\frac4{\pi^2n^2}$、偶数の $n$ では $0$ である。$\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f|^2=1$ なので、thm-pi-fourier の 2 から
$$ 1=2\sum_{k=0}^\infty\frac4{\pi^2(2k+1)^2},\qquad\text{すなわち}\qquad\sum_{k=0}^\infty\frac1{(2k+1)^2}=\frac{\pi^2}8 $$
である(Basel問題 の系「奇数の平方の逆数の和と交代級数」)。$f$ は連続でないので、Fourier級数 の記事の系「Parseval の等式」の仮定を満たさない。

Wirtinger の不等式

係数による一意性

$f,g\in\mathcal{R}$ のすべての Fourier 係数が等しければ $\int_{-\pi}^{\pi}|f-g|^2=0$ である。$f,g$ がともに連続なら $f=g$ である。

$f-g$ の係数はすべて $0$ なので、thm-pi-fourier の 2 から $\frac1{2\pi}\int|f-g|^2=0$ である。$f-g$ が連続で、ある点 $x_0$ で $|f(x_0)-g(x_0)|=c>0$ なら、$x_0$ の近くの長さ $\ell>0$ の区間で $|f-g|>c/2$ となり、$\int|f-g|^2\ge\ell c^2/4>0$ となって矛盾する。$\square$

連続性は外せない。1 点だけで値の違う 2 つの関数は係数がすべて等しい(無限次元のピタゴラスの定理 の例「反例:連続でない関数では係数から関数が決まらない」)。

Wirtingerの不等式

$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ を $2\pi$ 周期の $C^1$ 級関数で、$\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\,dx=0$ を満たすものとする。このとき
$$ \int_{-\pi}^{\pi}|f(x)|^2dx\le\int_{-\pi}^{\pi}|f'(x)|^2dx $$
であり、等号は $f(x)=ae^{ix}+be^{-ix}$($a,b\in\mathbb{C}$)の形のときに限る。

$n\in\mathbb{Z}$ について、部分積分 と周期性 $f(\pi)e^{-in\pi}=f(-\pi)e^{in\pi}$ から
$$ \widehat{f'}(n)=\frac1{2\pi}\Bigl[f(x)e^{-inx}\Bigr]_{-\pi}^{\pi}+\frac{in}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-inx}\,dx=in\,\hat f(n) $$
である。仮定から $\hat f(0)=0$ である。$f$ と $f'$ は連続なので $\mathcal{R}$ に属し、thm-pi-fourier の 2 から
$$ \frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f'|^2-\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|f|^2=\sum_{n\ne0}n^2|\hat f(n)|^2-\sum_{n\ne0}|\hat f(n)|^2=\sum_{|n|\ge2}(n^2-1)|\hat f(n)|^2\ge0 $$
である。等号は $|n|\ge2$ のすべての係数が $0$ のときに限る。そのとき $f$ と $\hat f(1)e^{ix}+\hat f(-1)e^{-ix}$ は係数がすべて等しい連続関数なので、cor-pi-uniqueness から一致する。逆に $f=ae^{ix}+be^{-ix}$ なら $f'=iae^{ix}-ibe^{-ix}$ で、両辺はともに $2\pi(|a|^2+|b|^2)$ である。$\square$

たとえば $f(x)=\cos x+\cos2x$ では $\int|f|^2=2\pi$、$\int|f'|^2=5\pi$ で、真の不等号である。閉曲線の等周不等式も、座標関数の Fourier 係数についての同じ種類の計算から得られる(等周不等式(高校数学) の命題「周期関数の導関数の大きさ」は実数値の場合の同じ不等式である。そこでは $f$ が $[-\pi,\pi]$ で $C^1$ 級で $f(-\pi)=f(\pi)$、$\int_{-\pi}^{\pi}f=0$ であることだけを仮定しており、上の証明もその仮定のままで成り立つ)。$\int f=0$ の条件は外せない(定数関数 $f=1$ では左辺 $2\pi$、右辺 $0$)。

各形の比較

形空間と正規直交系等式本記事・関連記事での所在
有限次元内積空間の正規直交基底 $e_1,\dots,e_n$$\Vert x\Vert^2=\sum_{k\le n}\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$thm-pi-finite、正規直交基底
離散 Fourier 変換$\mathbb{C}^n$ と $\frac1{\sqrt n}(\zeta^{tk})_k$$\sum_k\lvert f(k)\rvert^2=\frac1n\sum_t\lvert\hat f(t)\rvert^2$離散Fourier変換と反転公式
Hilbert 空間完全正規直交系 $(e_k)_{k\ge1}$$\Vert x\Vert^2=\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$thm-pi-hilbert、Hilbert空間
連続・区分的 $C^1$ の周期関数$e^{inx}$一様収束からFourier級数
実数値の連続関数$1,\cos nx,\sin nx$$\frac1\pi\int f^2=\frac{a_0^2}2+\sum(a_n^2+b_n^2)$無限次元のピタゴラスの定理
Riemann 積分可能な周期関数$e^{inx}$$\frac1{2\pi}\int\lvert f\rvert^2=\sum_n\lvert\hat f(n)\rvert^2$thm-pi-fourier

どの形も、「正規直交系が足りている」ことを長さの 2 乗の等式で表している。無限次元の形の違いは、関数のどの範囲で「足りている」ことを示すかにある。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
正規直交系が足りていること$\sqrt2\sin nx$($n\ge1$)と $f=1$等式(Bessel の不等式が真の不等号になる)
関数の 2 乗可積分性$\lvert x\rvert^{-1/2}$係数の 2 乗の和の収束
基底の直交性$\mathbb{R}^2$ の $(1,0)$ と $\frac1{\sqrt2}(1,1)$成分の 2 乗の和が長さの 2 乗に等しいこと
空間の完備性$c_{00}$ の完全な正規直交系完全な系についての Parseval の等式
反例:正弦だけの系

$\mathcal{R}$ の $u_n(x):=\sqrt2\sin nx$($n\ge1$)は $\langle u_m,u_n\rangle=\delta_{mn}$ を満たす正規直交系である($\sin mx\sin nx$ の積分は Fourier級数 の記事の命題「三角関数系の直交性」)。$f=1$ では $\langle f,u_n\rangle=0$(奇関数の積分)がすべての $n$ で成り立つので、係数の 2 乗の和は $0$ だが、$\|f\|_2^2=1$ である。満たす性質は正規直交系であること、満たさない性質は系が足りていること($1$ と直交し、完全でない)であり、Parseval の等式は Bessel の不等式 $0<1$ に落ちる。

反例:2 乗可積分でない関数

$0<|x|\le\pi$ で $f(x)=|x|^{-1/2}$ とし、$2\pi$ 周期に延長する($x=0$ の値は定めない)。$f$ は有界でないので Riemann 積分可能でないが、$\int_{-\pi}^{\pi}|f|$ は広義積分として収束する(広義積分 の記事の定理「冪関数の広義積分」)ので、係数 $\hat f(n)$ は広義積分で定まる。一方 $|f|^2=1/|x|$ の広義積分は発散する。このとき係数も 2 乗総和可能でない:ある定数 $c>0$ があって、すべての $n\ge1$ について
$$ \hat f(n)=\hat f(-n)\ge\frac{c}{\pi\sqrt n} $$
であり、$\sum_n|\hat f(n)|^2\ge\sum_{n\ge1}\frac{2c^2}{\pi^2n}=\infty$ である。数値では $c=1.2238\ldots$ ととれ、$\sqrt n\,\hat f(n)$ は $n=1,2,10,200$ で $0.4219\ldots$、$0.3895\ldots$、$0.3980\ldots$、$0.3989\ldots$ である。満たす性質は係数が定まること(広義積分の絶対収束)、満たさない性質は 2 乗可積分性であり、係数の列は $\ell^2$ に入らない。

係数の下からの評価を開く

$f$ は偶関数なので $\hat f(n)=\frac1\pi\int_0^\pi x^{-1/2}\cos nx\,dx$ であり、$u=nx$ と置き換えると $\hat f(n)=\frac1{\pi\sqrt n}I(n\pi)$、$I(A):=\int_0^Au^{-1/2}\cos u\,du$ である。区間 $[k\pi,(k+1)\pi]$ ごとに分け、$u=v+k\pi$ とおくと $\cos(v+k\pi)=(-1)^k\cos v$ なので $I(n\pi)=\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^kb_k$、$b_k:=\int_0^\pi(v+k\pi)^{-1/2}\cos v\,dv$ である。

$[0,\pi]$ の後半で $v$ を $\pi-v$ に置き換えると $b_k=\int_0^{\pi/2}\bigl((v+k\pi)^{-1/2}-(\pi-v+k\pi)^{-1/2}\bigr)\cos v\,dv$ であり、$0\le v<\frac\pi2$ では $v<\pi-v$ なので被積分関数は正、$b_k>0$ である。さらに $s\mapsto s^{-1/2}$ の差 $(a+k\pi)^{-1/2}-(b+k\pi)^{-1/2}=\int_a^b\frac12(s+k\pi)^{-3/2}ds$($a< b$)は $k$ について減少するので、$b_0>b_1>b_2>\cdots$ である。

正の減少列の交代和の部分和 $S_m:=\sum_{k=0}^m(-1)^kb_k$ は、$S_{2j+1}=S_{2j-1}+(b_{2j}-b_{2j+1})$、$S_{2j}=S_{2j-1}+b_{2j}$ からどれも $S_1=b_0-b_1$ 以上であり、$S_0=b_0$ も同様である。よって $I(n\pi)=S_{n-1}\ge c:=b_0-b_1>0$ である。数値積分では $b_0=1.3257\ldots$、$b_1=0.1018\ldots$ である。

反例:直交しない基底

$\mathbb{R}^2$ の単位ベクトル $u_1=(1,0)$、$u_2=\frac1{\sqrt2}(1,1)$ は基底だが直交しない。$x=(0,1)$ では $\langle x,u_1\rangle^2+\langle x,u_2\rangle^2=0+\frac12<1=\|x\|^2$、$x=(1,0)$ では $1+\frac12>1=\|x\|^2$ であり、成分の 2 乗の和は長さの 2 乗より小さくも大きくもなる。満たす性質は基底であることと各ベクトルの長さが $1$ であること、満たさない性質は直交性である(正規直交基底 の記事の例「反例:直交でない基底では内積は座標にならない」)。

反例:完備でない内積空間

Hilbert空間 の記事の例「反例:完備でない内積空間 $c_{00}$」の記号を使う。$V=c_{00}$($\ell^2$ の内積)、$u=(1,\frac12,\frac13,\dots)\in\ell^2$、$U=\{x\in V\mid\langle x,u\rangle=0\}$ とし、$(f_k)$ を $U$ の基底に Gram–Schmidt の直交化を施した正規直交系とする。同じ例で示されているとおり、$(f_k)$ と直交する $V$ の元は $0$ だけ(完全)であるが、
$$ \sum_{k=1}^\infty|\langle e_1,f_k\rangle|^2=1-\frac6{\pi^2}=0.392\ldots<1=\|e_1\|^2 $$
であり、Parseval の等式は成り立たない。満たす性質は $(f_k)$ が $V$ の完全な正規直交系であること、満たさない性質は $V$ の完備性である。thm-pi-hilbert により、$\operatorname{span}\{f_k\}=U$ は $V$ で稠密でない。

和の値の計算を開く

$\ell^2$ の閉部分空間 $W:=\{u\}^\perp$ は Hilbert 空間で、同じ例で示されているとおり $U$ は $W$ で稠密である。$(f_k)$ は $W$ の正規直交系で、張る部分空間 $U$ が稠密なので、thm-pi-hilbert の (i) ⇒ (iii) を $W$ で使える。直交補空間 の記事の定理「有限次元の部分空間の直交分解」を $\operatorname{span}\{u\}$ に使うと $\ell^2=\operatorname{span}\{u\}\oplus W$ であり、$e_1=\frac{\langle e_1,u\rangle}{\|u\|^2}u+w$($w\in W$)と分かれる。$f_k\in W$ は $u$ と直交するので $\langle e_1,f_k\rangle=\langle w,f_k\rangle$ であり、$\sum_k|\langle e_1,f_k\rangle|^2=\|w\|^2=\|e_1\|^2-\frac{|\langle e_1,u\rangle|^2}{\|u\|^2}=1-\frac1{\pi^2/6}$ である($\|u\|^2=\sum1/n^2=\pi^2/6$)。

文献

有限次元の Parseval の等式は Axl24 6.30(p. 200)、その逆は同書 Exercises 6C の 4(p. 224)、Bessel の不等式は Axl20 8.57(p. 241)、Hilbert 空間の正規直交基底と Parseval の等式は同書 Definition 8.61・8.63(p. 244)、単位円周上の $L^2$ の正規直交基底 $\{e^{inx}\}$ は 11.30(p. 355)、Wirtinger の不等式(実数値の場合)は Exercises 11B の 18(p. 362)にある。Riemann 積分可能な周期関数の Parseval の等式は Leb26b Theorem 11.8.13(p. 204)、連続関数を平均 2 乗の距離で近似する補題は同書 Exercise 11.8.4(p. 206)、三角多項式による一様近似は Exercise 11.7.8(p. 190)にある。本記事の証明はこれらを本記事の記号で書き直したもので、Fejér 核による一様近似、連続関数による近似の補題、完備性なしで成り立つ同値(thm-pi-hilbert の (i)〜(iv))、反例は本文で示した。

関連項目

参考文献

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