角谷の定理(内積空間)

同義語:角谷による内積空間の特徴づけKakutani's characterization of inner product spacesKakutaniの定理(内積空間)

概要

角谷の定理(内積空間)(Kakutani's characterization of inner product spaces)とは、次元 3 以上の実ノルム空間のノルムが内積から来るための必要十分条件は、すべての 2 次元部分空間に、その上で恒等でノルムを増やさない線形射影があることである、という定理である。単位球が 2 次元の切り口を底面とする柱に含まれるという条件と同値で、核心は 3 次元の凸体についての楕円体の特徴づけにある。次元 2 では成り立たず、有界な射影や 1 次元部分空間への射影ではどのノルム空間でも条件が満たされる。線形な延長作用素による言い換えをもち、単位球への放射射影が距離を増やさないことによる特徴づけにつながる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ノルム空間, Jordan–von Neumannの定理, Hahn–Banachの定理

何を捉える概念か

Hilbert 空間では、閉部分空間 $F$ への直交射影 $P$ が使える。$P$ は $F$ の上で恒等で、どのベクトルも短くしない($\|Px\|\le\|x\|$)。一般のノルム空間では事情が違う。1 次元の部分空間にはいつでもこのような射影があるが(Hahn–Banachの定理 による)、2 次元の部分空間には、有界な射影はあっても、ノルムを増やさない射影があるとは限らない。
角谷の定理は、この違いが内積の有無で完全に決まることを述べる。次元 3 以上の実ノルム空間で、すべての 2 次元部分空間にノルム 1 の射影があれば、ノルムは内積から来る。角谷静夫(Shizuo Kakutani)による結果である(Kak40)。
単位球 $B$ の言葉では、条件は「$B$ が、2 次元の切り口 $B\cap F$ を底面とするある柱に含まれる」ことである。3 次元でこれがすべての平面 $F$ について成り立てば $B$ は楕円体になる、という凸幾何の定理が核心にある。この記事ではその核心の定理を引用し、そこから角谷の定理を導く議論、条件の言い換え、内積空間での射影の一意性、汎関数の延長による言い換え、単位球への放射射影との関係を証明する。
「角谷の定理」の名は、反射性の特徴づけ(反射的Banach空間 の定理「角谷の定理」)や不動点定理にも使われる。この記事の定理はそれらとは別のものである。
以下、$E$ は実ノルム空間とする。

ノルム 1 の射影

ノルム 1 の射影

$F$ を $E$ の部分空間とする。線形写像 $P\colon E\to E$ で $P(E)\subset F$、かつすべての $y\in F$ で $Py=y$ となるものを、$F$ への射影という。$P$ が有界で $\|P\|\le1$ を満たすとき、$P$ を $F$ へのノルム 1 の射影という。

射影 $P$ は $P^2=P$ を満たし、$L=\ker P$ とすると $E=F\oplus L$(代数的な直和)である。逆に $E=F\oplus L$ となる部分空間 $L$ を選ぶと、$y+l\mapsto y$($y\in F$、$l\in L$)は $F$ への射影である。$F\ne\{0\}$ なら $\|P\|\ge1$ なので、条件 $\|P\|\le1$ は $\|P\|=1$ と同じである。

1 次元と有限次元の部分空間
  1. $E$ の 1 次元部分空間には、ノルム 1 の射影がある。
  2. $E$ の有限次元部分空間には、有界な射影がある。

1:$F=\mathbb Rx_0$($\|x_0\|=1$)とする。連続双対空間 の定理「点でノルムを実現する汎関数」により、$f\in E^*$ で $\|f\|=1$、$f(x_0)=1$ となるものがある。$Px=f(x)x_0$ とおくと、$Px_0=x_0$ で、$\|Px\|=|f(x)|\le\|x\|$ である。
2:$F$ の基底 $e_1,\dots,e_n$ と座標の線形汎関数 $\varphi_i$($\varphi_i(e_j)=\delta_{ij}$)をとる。有限次元のノルム空間上の線形汎関数は連続なので、Hahn–Banachの定理 により $\varphi_i$ を $f_i\in E^*$ に延長できる。$Px=\sum_if_i(x)e_i$ は $F$ への射影で、$\|P\|\le\sum_i\|f_i\|\,\|e_i\|$ である。$\square$

ノルム 1 の射影があることは、次のように単位球の形で言い換えられる。$B=\{x\in E:\|x\|\le1\}$ とする。

柱による言い換え

$F,L$ を $E=F\oplus L$ となる部分空間とし、$P$ を $L$ に沿った $F$ への射影とする。次は同値である。

  1. $\|P\|\le1$。
  2. すべての $y\in F$ と $l\in L$ について $\|y+l\|\ge\|y\|$。
  3. $B\subset(B\cap F)+L$。
  4. $\|y\|=1$ となるすべての $y\in F$ について、$y+L$ は開単位球 $\{x:\|x\|<1\}$ と交わらない。

$P(y+l)=y$ なので、1 は「すべての $y\in F$、$l\in L$ について $\|y\|\le\|y+l\|$」と同じであり、1 ⇔ 2 である。2 ⇒ 4 は $\|y\|=1$ の場合である。4 ⇒ 2:$y=0$ なら明らかで、$y\ne0$ なら 4 を $y/\|y\|$ と $l/\|y\|$ に使えばよい。
1 ⇒ 3:$x\in B$ なら $Px\in B\cap F$ で、$x-Px\in L$ なので $x=Px+(x-Px)\in(B\cap F)+L$ である。3 ⇒ 1:$\|x\|\le1$ なら 3 により $x=y+l$($y\in B\cap F$、$l\in L$)と書け、直和分解の一意性から $Px=y$、よって $\|Px\|\le1$ である。斉次性から $\|P\|\le1$ である。$\square$

条件 3 は、単位球が「切り口 $B\cap F$ を底面とし、母線の向きが $L$ の柱」に含まれることを言う。2 は、$F$ のベクトルが $L$ の方向に動かしても短くならないことを言い、ノルム空間での直交性(Birkhoff の直交性)の一つの形である。

内積空間での射影

内積空間では、有限次元部分空間へのノルム 1 の射影は直交射影であり、ほかにはない。

内積空間のノルム 1 の射影

$E$ のノルムが内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ から来るとし、$F$ を有限次元部分空間とする。$F$ へのノルム 1 の射影がただ 1 つ存在し、それは直交射影 $Px=\sum_{i=1}^n\langle x,e_i\rangle e_i$($e_1,\dots,e_n$ は $F$ の正規直交基底)である。

存在:$F$ の正規直交基底は 内積空間 の定理「Gram–Schmidtの直交化法」で得られる。$P$ を上の式で定めると、$P$ は $F$ への射影で、$x-Px$ はすべての $e_i$ と直交する。三平方の定理から $\|x\|^2=\|Px\|^2+\|x-Px\|^2\ge\|Px\|^2$ である。
一意性:$Q$ を $F$ へのノルム 1 の射影、$L=\ker Q$ とする。$y\in F$、$l\in L$ と実数 $t$ について、lem-kak-cylinder の 2 から $\|y+tl\|^2\ge\|y\|^2$、すなわち $2t\langle y,l\rangle+t^2\|l\|^2\ge0$ である。$t$ の 2 次式がつねに $0$ 以上なので $\langle y,l\rangle=0$ である。よって $x-Qx\in L$ は $F$ と直交し、$Qx-Px\in F$ も $x-Px$ と $x-Qx$ の差として $F$ と直交するから、$Qx=Px$ である。$\square$

Hilbert 空間では、有限次元に限らず閉部分空間ごとに直交射影があり(直交射影 の定理「Hilbert 空間での存在」)、上の一意性の議論はそのまま通る。

角谷の定理

証明の核心は、次元がちょうど 3 の場合の次の定理である。lem-kak-cylinder によって、それは凸体についての幾何の定理と同じ内容になる。

3 次元の場合

$W$ を 3 次元の実ノルム空間とし、$W$ のすべての 2 次元部分空間にノルム 1 の射影があるとする。このとき $W$ のノルムは内積から来る。言い換えると、原点について対称で原点を内部にもつ $\mathbb R^3$ のコンパクト凸集合 $B$ が、原点を通るすべての平面 $X$ について、ある直線 $L_X$ により $B\subset(B\cap X)+L_X$ を満たすなら、$B$ は原点を中心とする楕円体である。

所在と証明の考え方

この定理はこの記事では証明しない。Kak40 は角谷の定理を、3 次元の場合(Theorem 4)とその凸体の形(Theorem 5)に帰着させている(p. 95)。証明は IMN25 にあり、その Theorem 1.2 と Remark 1.3(pp. 2–3)は、対称性を仮定しない凸体についても、原点を通るすべての $k$ 次元部分空間($2\le k< n$)について同じ柱の条件が成り立てば楕円体であることを述べ、$n=3$、$k=2$ の場合の証明を、§2–§4 の準備のもとで §5(pp. 11–16)に与えている。2 つの言い換えの同値は lem-kak-cylinder の 1 ⇔ 3 である(IMN25 Lemma 2.2、pp. 5–6 も同じ同値を述べる)。
証明の考え方を、単位球の境界が滑らかで(各境界点で接平面がただ 1 つ)、線分を含まない場合について述べる(IMN25 §5 の冒頭、p. 12 の概略)。原点を通る直線 $\ell$ に、$\ell$ と境界の交点での接平面に平行な平面 $\psi(\ell)$ を対応させる。平面 $X$ が $\ell$ を含むと、交点 $p\in\ell\cap X$ で直線 $p+L_X$ は開単位球と交わらないので(lem-kak-cylinder の 4)接平面に含まれ、$\psi(\ell)\supset L_X$ となる。すなわち $\psi$ は「同じ平面 $X$ に含まれる直線たち」を「同じ直線 $L_X$ を含む平面たち」に写す。直線全体と平面全体をそれぞれ射影平面とみると、$\psi$ は共線な点を共線な点に写す全単射であり、射影幾何の基本定理から線形写像 $W\to W^*$ で与えられる。接平面の向きが境界点に線形に依存することから、境界は楕円体になる。滑らかさを仮定しない一般の場合には、柱の母線の向き $L_X$ がただ 1 つに決まることなどを別に示す必要がある。

角谷の定理

$E$ を次元 3 以上の実ノルム空間とする。次は同値である。

  1. $E$ のノルムは内積から来る。
  2. $E$ のすべての 2 次元部分空間に、ノルム 1 の射影がある。
  3. $E$ のすべての有限次元部分空間に、ノルム 1 の射影がある。

1 ⇒ 3 は prop-kak-inner である。3 ⇒ 2 は明らかである。
2 ⇒ 1:Jordan–von Neumannの定理 により、すべての $x,y\in E$ について平行四辺形の等式を示せばよい。$\dim E\ge3$ なので、$x,y$ を含む 3 次元部分空間 $W$ がある。$W$ の 2 次元部分空間 $F$ をとり、2 による $F$ へのノルム 1 の射影 $P$ を $W$ に制限すると、$P|_W\colon W\to W$ は $P(W)\subset F$、$F$ 上で恒等、$\|P|_W\|\le1$ を満たす。よって $W$ は thm-kak-core の仮定を満たし、$W$ のノルムは内積から来る。したがって $x,y$ について平行四辺形の等式が成り立つ(Jordan–von Neumannの定理 の命題「偏極恒等式」)。$\square$

2 ⇒ 1 の主張は Bre11 Theorem 5.13(p. 144)にも挙げられている。
次元 3 以上という仮定は外せない。2 次元のノルム空間の 2 次元部分空間は空間全体だけで、恒等写像がノルム 1 の射影になるので、条件 2 は内積から来ない $(\mathbb R^2,\|\cdot\|_\infty)$ でも成り立つ。

最大値ノルムの 3 次元空間

$E=(\mathbb R^3,\|\cdot\|_\infty)$ とする。平面 $\{x_3=0\}$ には、座標の射影 $(x_1,x_2,x_3)\mapsto(x_1,x_2,0)$ がノルム 1 の射影になる。一方、平面 $X=\{x:x_1+x_2+x_3=0\}$ にはノルム 1 の射影がない。
実際、$f(x)=x_1+x_2+x_3$ とおくと、$X$ への射影は $\ker P$ を張るベクトル $d$($f(d)=1$)により $Px=x-f(x)d$ と書ける($x=(x-f(x)d)+f(x)d$ が $X\oplus\ker P$ への分解だからである)。$\|P\|\le1$ とすると、$x=(1,1,1)$ について $\|x-3d\|_\infty\le1$ から各 $i$ で $0\le d_i\le\frac23$ である。$x=(1,1,-1)$ について $f(x)=1$ で、第 3 成分から $|-1-d_3|\le1$、すなわち $-2\le d_3\le0$ である。よって $d_3=0$ であり、同様に $x=(1,-1,1)$、$(-1,1,1)$ から $d_2=d_1=0$ となって $f(d)=1$ に反する。
prop-kak-finite の 2 により、この $X$ にも有界な射影はある。条件 2 で要るのは、ノルムを増やさない射影である。

汎関数の延長による言い換え

Hahn–Banachの定理 によれば、部分空間 $G$ 上の連続線形汎関数は、ノルムを変えずに $E$ 全体へ延長できる。延長の選び方は一般に一意でなく、$f$ ごとに選んだ延長が $f$ について線形になるとは限らない。有限次元の部分空間では、延長を線形に選べるかどうかは、ノルム 1 の射影の有無と同じことである。

線形な延長作用素とノルム 1 の射影

$G$ を $E$ の有限次元部分空間とし、$G^*$ を $G$ 上の線形汎関数の空間($G$ のノルムによる双対ノルムをもつ)とする。次は同値である。

  1. $G$ へのノルム 1 の射影がある。
  2. 線形写像 $\Lambda\colon G^*\to E^*$ で、すべての $f\in G^*$ について $(\Lambda f)|_G=f$ かつ $\|\Lambda f\|=\|f\|$ となるものがある。

1 ⇒ 2:$\Lambda f=f\circ P$ とおく。$\Lambda$ は線形で、$G$ 上では $f$ に一致し、$\|f\circ P\|\le\|f\|\,\|P\|\le\|f\|$ である。逆向きの不等号は $\Lambda f$ が $f$ の延長であることから従う。
2 ⇒ 1:$G$ の基底 $g_1,\dots,g_n$ と、$\varphi_i(g_j)=\delta_{ij}$ となる $\varphi_i\in G^*$ をとり、$Px=\sum_i(\Lambda\varphi_i)(x)\,g_i$ とおく。$Pg_j=\sum_i\varphi_i(g_j)g_i=g_j$ なので $P$ は $G$ への射影である。$f\in G^*$ は $f=\sum_if(g_i)\varphi_i$ と書けるので、$\Lambda$ の線形性から
$$ f(Px)=\sum_i(\Lambda\varphi_i)(x)f(g_i)=(\Lambda f)(x) $$
である。$z\in G$ について $\|z\|=\max\{f(z):f\in G^*,\ \|f\|\le1\}$ なので(連続双対空間 の定理「点でノルムを実現する汎関数」を $G$ で使う)、
$$ \|Px\|=\max_{\|f\|\le1}f(Px)=\max_{\|f\|\le1}(\Lambda f)(x)\le\max_{\|f\|\le1}\|\Lambda f\|\,\|x\|=\|x\| $$
である。$\square$

線形な延長による特徴づけ

次元 3 以上の実ノルム空間 $E$ のノルムが内積から来るための必要十分条件は、$E$ のすべての 2 次元部分空間 $G$ について、$G$ 上の線形汎関数をノルムを変えずに $E$ へ延長する線形写像 $G^*\to E^*$ があることである。

prop-kak-extension により、条件は thm-kak-main の 2 と同値である。$\square$

Kak40 はこの形の問題(延長の操作を線形かつ等長にできるか)を出発点にしており、3 次元空間と 2 次元部分空間について prop-kak-extension の 2 ⇒ 1 を示している(Theorem 6、p. 96)。

単位球への放射射影

単位球への放射射影を
$$ Tu=\begin{cases}u&(\|u\|\le1)\\ u/\|u\|&(\|u\|>1)\end{cases} $$
で定める。内積空間では、$T$ は閉単位球への最短点写像であり、距離を増やさない。一般のノルム空間で $T$ が距離を増やさないのは、ノルムが内積から来るときに限られる。

放射射影の Lipschitz 定数
  1. どのノルム空間でも、すべての $u,v$ について $\|Tu-Tv\|\le2\|u-v\|$ である。
  2. $(\mathbb R^2,\|\cdot\|_1)$ では、1 の定数 $2$ はこれより小さくできない。
  3. ノルムが内積から来るなら、すべての $u,v$ について $\|Tu-Tv\|\le\|u-v\|$ である。

1:$r=\max(1,\|u\|)$、$s=\max(1,\|v\|)$ とおくと $Tu=u/r$、$Tv=v/s$ である。$r\ge s$ としてよい。
$$ Tu-Tv=\frac{u-v}r+\frac{(s-r)v}{rs} $$
と $\|v\|\le s$、$r\ge1$ から $\|Tu-Tv\|\le\|u-v\|+(r-s)$ である。$r=1$ なら $s=1$ で $r-s=0$ である。$r>1$ なら $r=\|u\|$、$s\ge\|v\|$ なので $r-s\le\|u\|-\|v\|\le\|u-v\|$ である。
2:$u=(1,0)$、$v=(1,\alpha)$($\alpha>0$)とすると $\|u-v\|_1=\alpha$、$Tu=u$、$Tv=v/(1+\alpha)$ で、$Tu-Tv=\frac{\alpha}{1+\alpha}(1,-1)$ のノルムは $\frac{2\alpha}{1+\alpha}$ である。比 $\frac2{1+\alpha}$ は $\alpha\to0$ で $2$ に近づく。
3:まず、$\|z\|\le1$ となるすべての $z$ について $\langle u-Tu,z-Tu\rangle\le0$ を示す。$\|u\|\le1$ なら $u-Tu=0$ である。$\|u\|>1$ なら $u-Tu=(\|u\|-1)Tu$ で、Cauchy–Schwarz の不等式から $\langle Tu,z-Tu\rangle=\langle Tu,z\rangle-1\le\|z\|-1\le0$ である。この不等式を $(u,z)=(u,Tv)$ と $(v,Tu)$ に使って足すと $\langle(u-v)-(Tu-Tv),Tv-Tu\rangle\le0$、すなわち
$$ \|Tu-Tv\|^2\le\langle u-v,Tu-Tv\rangle\le\|u-v\|\,\|Tu-Tv\| $$
である。$\square$

1・2 は Bre11 Exercise 5.6(p. 148)、3 の議論は Hilbert 空間の閉凸集合への射影の非拡大性(Stampacchiaの定理 の命題「射影の変分不等式による特徴づけ」の 2)と同じである。3 の逆が次の定理である。

de Figueiredo–Karlovitzの定理

$E$ を次元 3 以上の実ノルム空間とし、すべての $u,v$ について $\|Tu-Tv\|\le\|u-v\|$ とする。このときノルムは内積から来る。

所在

この定理は de Figueiredo と Karlovitz による既知の結果で、この記事では証明しない。主張は Bre11 Theorem 5.14(pp. 144–145)に挙げられている。

ノルムが滑らかな場合には、次のように角谷の定理に帰着できる。ノルムが $p\ne0$ で Gateaux 微分可能であるとは、すべての $w$ について極限 $h(w)=\lim_{t\to0}\frac{\|p+tw\|-\|p\|}t$ が存在し、$h\in E^*$ となることをいう。

微分可能な点での射影

$\|p\|=1$ とし、ノルムが $p$ で Gateaux 微分可能で微分が $h$ であるとする。

  1. $f\in E^*$ が $\|f\|\le1$、$f(p)=1$ を満たすなら $f=h$ である。
  2. $\|Tu-Tv\|\le\|u-v\|$ がすべての $u,v$ で成り立つなら、$Qw=w-h(w)p$ は $\ker h$ へのノルム 1 の射影である。

1:$t>0$ について $\|p+tw\|\ge f(p+tw)=1+tf(w)$ なので、$t$ で割って $t\downarrow0$ とすると $h(w)\ge f(w)$ である。$w$ を $-w$ に替えると $h(w)\le f(w)$ を得る。
2:$h(p)=\lim_{t\to0}\frac{|1+t|-1}t=1$ なので $h(Qw)=0$ であり、$w\in\ker h$ なら $Qw=w$ である。よって $Q$ は $\ker h$ への射影である。$R>1$ を固定する。$|t|$ が小さいと $\|Rp+tw\|>1$ なので、$N(t)=\|Rp+tw\|=R\,\|p+\frac tRw\|$ とおくと
$$ \frac{T(Rp+tw)-T(Rp)}t=\frac{w-\frac{N(t)-R}t\,p}{N(t)}\longrightarrow\frac{w-h(w)p}R\quad(t\to0) $$
である($\frac{N(t)-R}t\to h(w)$、$N(t)\to R$)。左辺のノルムは仮定から $\|w\|$ 以下なので、$\|Qw\|\le R\|w\|$ である。$R\downarrow1$ として $\|Qw\|\le\|w\|$ を得る。$\square$

滑らかなノルムの場合

$E$ を次元 3 以上の実ノルム空間とし、ノルムが $E\setminus\{0\}$ の各点で Gateaux 微分可能で、すべての $u,v$ について $\|Tu-Tv\|\le\|u-v\|$ とする。このときノルムは内積から来る。

prf-kak-main と同じく、$x,y$ を含む 3 次元部分空間 $W$ が内積空間であることを示せばよい。$W$ のノルムも各点で Gateaux 微分可能で、$W$ の放射射影は $T|_W$ なので距離を増やさない。$W$ の 2 次元部分空間 $X$ をとり、$\ker\varphi=X$ となる $\varphi\in W^*$ を $\max_{z\in W,\|z\|\le1}\varphi(z)=1$ となるよう正規化する。有限次元なので最大値はある $p$($\|p\|=1$)で達成され、$\varphi(p)=1$、$\|\varphi\|=1$ である。prop-kak-smooth の 1 から $\varphi$ は $p$ での微分に等しく、2 から $X=\ker\varphi$ へのノルム 1 の射影がある。thm-kak-core により $W$ のノルムは内積から来る。$\square$

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
次元 3 以上$(\mathbb R^2,\Vert\cdot\Vert_\infty)$ノルムが内積から来ること(thm-kak-main の 2 ⇒ 1)
射影のノルムが 1 以下(有界な射影にする)$(\mathbb R^3,\Vert\cdot\Vert_\infty)$(ex-kak-linfty、prop-kak-finite の 2)ノルムが内積から来ること
2 次元部分空間への射影(1 次元部分空間にする)$(\mathbb R^3,\Vert\cdot\Vert_\infty)$(prop-kak-finite の 1)ノルムが内積から来ること
放射射影が距離を増やさないこと(定数 2 の評価にする)$(\mathbb R^3,\Vert\cdot\Vert_1)$(prop-kak-radial の 1)ノルムが内積から来ること(thm-kak-dfk)

関連項目

参考文献

[3]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, Theorem 5.13・Theorem 5.14(pp. 144–145、ノルム 1 の射影と放射射影による内積ノルムの特徴づけの主張)、Exercise 5.6(p. 148、放射射影の Lipschitz 定数 2 とその最良性)

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