Artinの原始根予想(Artin's conjecture on primitive roots)とは、$0,\pm1$ でも平方数でもない整数 $a$ は無限に多くの素数 $p$ を法として原始根になる、という E. Artin の 1927 年の予想で、そのような素数の割合はおよそ Artin の定数 $0.3739\ldots$ の有理数倍になると予想されている。平方数と $-1$ を除く条件は必要で、$p\equiv1\pmod4$ と $2p+1$ がともに素数なら $2$ が法 $2p+1$ の原始根になるなど、特別な形の素数では証明できる。一般化 Riemann 予想のもとでは Hooley が証明したが、無条件に証明された $a$ は 1 つも知られていない。
前提知識: 原始根, 元の位数, 平方剰余の相互法則, Chebotarevの密度定理
$\frac17=0.\overline{142857}$ の循環節の長さは $6$ で、分母から $1$ を引いた数に等しい。素数 $p\ne2,5$ について $\frac1p$ の循環節の長さは、法 $p$ での $10$ の位数に等しい(循環小数と分数 の定理「分数の循環の形」)ので、長さが最大の $p-1$ になるのは、$10$ が法 $p$ の 原始根 であるときである。$100$ 未満では $p=7,17,19,23,29,47,59,61,97$ がそうである。このような素数は無限にあるだろうか。
E. Artin は 1927 年に、より一般に「$-1$ でも平方数でもない整数 $a$ は、無限に多くの素数を法として原始根になる」と予想し、さらにそのような素数の割合まで予想した。これを Artin の原始根予想(Artin's conjecture on primitive roots)という(Mor12 pp. 3–4)。この予想は 2026 年の時点で未解決であり、無条件に証明された整数 $a$ は 1 つも知られていない(Mor12 §6.1、p. 12)。この記事では、予想の主張と、条件が必要である理由、原始根の判定法、特別な形の素数で原始根になることの証明、割合の予想(Artin の定数)の発見的な導出と補正、そして知られている結果を述べる。
整数 $a$ と素数 $p\nmid a$ について、$a$ が法 $p$ の原始根であるとは、法 $p$ での $a$ の位数 $\operatorname{ord}_p(a)$ が $p-1$ に等しいことをいう(原始根)。
$a$ を $0,\pm1$ でない整数とする。
この形は Mor12 Conjecture 1(p. 3)による。$h$ が偶数なら $\ell=2$ の因子が $0$ で $A(h)=0$ となり、$h$ が奇数なら $A(h)$ は
$$
A:=A(1)=\prod_{\ell}\left(1-\frac1{\ell(\ell-1)}\right)=0.3739558\ldots
$$
(Artin の定数)の正の有理数倍である。定量的な形は、$a$ によっては補正が必要であることがのちに分かった(節「発見的な導出と補正」)。定性的な形は補正の影響を受けない。予想は未解決なので、証明はない。
原始根 の記事も、予想の主張と現状を短く述べている(予想「Artinの原始根予想」)。この記事はその詳しい解説である。
$a$ を整数とする。
1:Fermatの小定理 により $a^{(p-1)/2}=b^{p-1}\equiv1\pmod p$ である。よって $\operatorname{ord}_p(a)\le\frac{p-1}2< p-1$ で、$a$ は原始根でない。
2:$p$ が奇素数なら $-1\not\equiv1$、$(-1)^2=1$ なので $\operatorname{ord}_p(-1)=2$ であり、これが $p-1$ に等しいのは $p=3$ のときだけである。
3:1 と 2 から、残りうるのは $p=2$ と($a=-1$ のときの)$p=3$ だけである。$\square$
$h$ が $1$ より大きい奇数のときも割合は変わる。たとえば $a=8=2^3$ では、$p\equiv1\pmod3$ を満たすすべての素数 $p$ について $8^{(p-1)/3}=2^{p-1}\equiv1\pmod p$ となり、$8$ は原始根にならない。素数 $\ell\mid h$ については、$p\equiv1\pmod\ell$ だけで原始根でなくなるので、定量的な形の $A(h)$ では $\ell\mid h$ の因子が $1-\frac1{\ell-1}$ になっている。
$p$ を素数、$a$ を $p\nmid a$ を満たす整数とする。
1:$d=\operatorname{ord}_p(a)$ とおくと $d\mid p-1$ である(元の位数)。$d=p-1$ なら、$(p-1)/\ell< p-1$ なので $a^{(p-1)/\ell}\not\equiv1$ である。逆に $d< p-1$ なら、$(p-1)/d>1$ は素因数 $\ell$ をもち、$d\mid(p-1)/\ell$ なので $a^{(p-1)/\ell}\equiv1$ である。
2:原始根 $g$ をとり(原始根 の定理「素数を法とする原始根の存在」)、$a\equiv g^k$ と書く。$a^{(p-1)/\ell}\equiv g^{k(p-1)/\ell}\equiv1$ は $p-1\mid k(p-1)/\ell$、すなわち $\ell\mid k$ と同値である。$\ell\mid k$ なら $a\equiv(g^{k/\ell})^\ell$ は $\ell$ 乗数である。逆に $a\equiv c^\ell$ なら、Fermat の小定理により $a^{(p-1)/\ell}\equiv c^{p-1}\equiv1$ である。$\square$
$p=7$ では $p-1=6$ の素因数は $2,3$ なので、$a^3$ と $a^2$ を調べればよい。$a=2$ では $2^3=8\equiv1\pmod7$ なので原始根でなく($2\equiv3^2$ は平方数で、位数は $3$)、$a=3$ では $3^3=27\equiv6$、$3^2=9\equiv2$ でどちらも $1$ でないので原始根である。$a=10\equiv3$ も原始根で、実際 $\frac17$ の循環節の長さは $6$ である。
したがって、$a$ が法 $p$ の原始根でないのは、「$p\equiv1\pmod\ell$ で、$a$ が法 $p$ で $\ell$ 乗数」となる素数 $\ell$ があるときに限る。Artin はこの条件を、素数 $\ell$ ごとの「失敗」の事象とみた(Mor12 (2)、p. 3)。
予想は未解決だが、$p$ の形を限ると原始根であることが証明できる。証明には 平方剰余の相互法則 と補充法則、平方剰余 の定理「Eulerの規準」を使う。
1:$p\ge5$ なので $q\ge11$ である。$p=4k+1$ より $q=8k+3\equiv3\pmod8$ なので、第 2 補充法則により $2$ は法 $q$ の平方非剰余で、Euler の規準により $2^p=2^{(q-1)/2}\equiv-1\pmod q$ である。$\operatorname{ord}_q(2)$ は $q-1=2p$ の約数 $1,2,p,2p$ のどれかで、$2^p\not\equiv1$ なので $1$ と $p$ ではない。$2$ だとすると $q\mid2^2-1=3$ となり $q\ge11$ に反する。よって $\operatorname{ord}_q(2)=2p=q-1$ である。
2:$p=2$ なら $q=9$ は素数でないので $p$ は奇素数であり、$q=4p+1\equiv5\pmod8$ である。第 2 補充法則により $\bigl(\frac2q\bigr)=-1$ である。また $q\equiv4\cdot2+1\equiv4\pmod5$ で、$5\equiv1\pmod4$ なので相互法則により $\bigl(\frac5q\bigr)=\bigl(\frac q5\bigr)=\bigl(\frac45\bigr)=1$ である。平方剰余の記号は乗法的なので(平方剰余 の命題「平方剰余と平方非剰余の積」)$\bigl(\frac{10}q\bigr)=-1$ であり、Euler の規準により $10^{2p}\equiv-1\pmod q$ である。$\operatorname{ord}_q(10)$ は $q-1=4p$ の約数 $1,2,4,p,2p,4p$ のどれかで、$2p$ を割るものは $10^{2p}\equiv1$ を導くので除かれ、$4$ か $4p$ である。$4$ だとすると $q\mid10^4-1=9999=3^2\cdot11\cdot101$ だが、$q=4p+1$ が $3,11,101$ のどれかなら $p=\frac12,\frac52,25$ となり、どれも素数でない。よって $\operatorname{ord}_q(10)=4p=q-1$ である。循環節の長さは $\operatorname{ord}_q(10)$ に等しいので $q-1$ である。$\square$
2 は P. L. Chebyshev の観察による(Mor12 p. 2)。
1 の条件を満たす $(p,q)$ は $(5,11),(29,59),(41,83),(53,107),(89,179),\ldots$ で、$2$ はこれらの $q$ を法とする原始根である。2 の条件を満たす $(p,q)$ は $(7,29),(37,149),(67,269),(97,389),(127,509),\ldots$ で、たとえば $\frac1{29}$ の循環節の長さは $28$ である。
1 の形の素数 $q$ が無限にあれば $a=2$ の場合の予想が従い、2 の形の素数が無限にあれば $a=10$ の場合が従う。しかし、$p$ と $2p+1$(あるいは $4p+1$)がともに素数となる $p$ が無限にあるかどうかも分かっていない($4p+1$ の形については Mor12 p. 12)。
$a$ を平方数でない、$0,\pm1$ でない整数とし、簡単のため $h=1$ とする。prop-artin-criterion により、$a$ が法 $p$ の原始根でないのは、ある素数 $\ell$ について次の事象 $E_\ell$ が起こるときである。
$$
E_\ell:\quad p\equiv1\pmod\ell\quad\text{かつ}\quad a^{(p-1)/\ell}\equiv1\pmod p.
$$
算術級数の素数定理により $p\equiv1\pmod\ell$ となる素数の割合は $\frac1{\ell-1}$ で、そのとき $a$ が $\ell$ 乗数になる「確率」を $\frac1\ell$ とみれば、$E_\ell$ の割合は $\frac1{\ell(\ell-1)}$ と見込まれる(Mor12 §2、p. 5)。実際、$E_\ell$ は $p$ が体 $\mathbb{Q}(\zeta_\ell,a^{1/\ell})$ で完全分解することと同値で、この体の次数が $\ell(\ell-1)$ なら Chebotarevの密度定理 により $E_\ell$ を満たす素数の密度はちょうど $\frac1{\ell(\ell-1)}$ である(Mor12 §4、p. 8)。事象 $E_\ell$ が $\ell$ ごとに独立だと仮定すると、どの $E_\ell$ も起こらない素数の割合は $A=\prod_\ell\bigl(1-\frac1{\ell(\ell-1)}\bigr)$ となる。これが Artin の予想した割合である。
ところが、事象は独立とは限らない。
奇素数 $p\ne5$ について、$p\equiv1\pmod5$ なら $5$ は法 $p$ の平方剰余であり、とくに $E_5$ が起これば $E_2$ も起こる。
$5\equiv1\pmod4$ なので、相互法則により $\bigl(\frac5p\bigr)=\bigl(\frac p5\bigr)=\bigl(\frac15\bigr)=1$ である。$E_2$ は「$p\equiv1\pmod2$ かつ $5^{(p-1)/2}\equiv1$」であり、Euler の規準によりこれは $5$ が平方剰余であることと同値なので、$E_5$(とくに $p\equiv1\pmod5$)が起これば $E_2$ が起こる。$\square$
したがって $a=5$ では、$E_5$ の条件は $E_2$ に吸収され、独立性の仮定のもとでの割合は $\ell=5$ の因子を除いた
$$
\prod_{\ell\ne5}\left(1-\frac1{\ell(\ell-1)}\right)=\frac{A}{1-\frac1{20}}=\frac{20}{19}A=0.39363\ldots
$$
と見込まれる(Mor12 p. 9)。$10^6$ 未満の素数で数えると、原始根になる素数の割合は次のとおりで、$a=5$ だけが $A$ より大きい値に近い。
| $a$ | $10^6$ 未満で $a$ を原始根とする素数の割合 | 予想される割合 |
|---|---|---|
| $2$ | $0.37378$ | $A=0.37396$ |
| $3$ | $0.37444$ | $A$ |
| $10$ | $0.37582$ | $A$ |
| $5$ | $0.39345$ | $\frac{20}{19}A=0.39364$ |
一般に、$a$ の平方因子を除いた部分が $4$ を法として $1$ に合同なとき($\mathbb{Q}(\sqrt a)$ の判別式 $d$ が $d\equiv1\pmod4$ のとき)、$\lvert d\rvert$ は無平方な奇数で、$\mathbb{Q}(\sqrt a)$ が円分体 $\mathbb{Q}(\zeta_{\lvert d\rvert})$ に含まれ、$\lvert d\rvert$ を割るすべての素数 $\ell$ で $E_\ell$ が起これば $E_2$ も起こるために同じ種類の補正が必要になる。補正後の割合 $\delta(a)$ の式は C. Hooley が与えた(Mor12 (10)、p. 10)。
conj-artin-main の 1 の条件を外すと、主張は成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $a$ が平方数でない | $a=4$(または $a=9$) | 奇素数を法として原始根にならない(prop-artin-necessary の 1) |
| $a\ne-1$ | $a=-1$ | 原始根になる素数は $2,3$ だけ(prop-artin-necessary の 2) |
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