Dirichlet密度

同義語:ディリクレ密度Dirichlet density解析的密度analytic density

概要

Dirichlet密度(Dirichlet density)とは、代数体の素イデアルの集合 $M$ が全体に占める割合を、極限 $\lim_{s\to1+0}\sum_{\mathfrak p\in M}N\mathfrak p^{-s}/\log\frac1{s-1}$ で測ったものである。分母は素イデアル全体の $N\mathfrak p^{-s}$ の和と有界な差しかなく、密度は有限加法的で、有限集合や次数 $2$ 以上の素イデアルの集合では $0$ になる。個数の比の極限である自然密度があれば Dirichlet 密度も存在して一致するが、最高位の数字が $1$ の素数の集合のように逆は成り立たない。L 関数の $s=1$ の近くの振る舞いだけで値が決まるので、Dirichlet の算術級数定理や Chebotarev の密度定理はこの密度で述べられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Riemannゼータ関数, 素数の逆数和の発散, 素数定理, Dedekindゼータ関数

Dirichlet密度(Dirichlet density)とは、素数の集合 $P$ がすべての素数の中でどれだけの割合を占めるかを、$s\to1+0$ での
$$ d(P)=\lim_{s\to1+0}\frac{\sum_{p\in P}p^{-s}}{\log\frac1{s-1}} $$
で測ったものである。分母の $\log\frac1{s-1}$ は、すべての素数にわたる和 $\sum_pp^{-s}$ と有界な差しかない。代数体の素イデアルの集合についても、$p$ をノルム $N\mathfrak p$ に替えて同じように定める。
素数の割合を測るもっとも素朴な方法は、$x$ 以下の素数のうち $P$ に属するものの割合の極限(自然密度)をとることである。自然密度があれば Dirichlet 密度もあって両者は一致するが、逆は成り立たない。最高位の数字が $1$ の素数の集合では、Dirichlet 密度は $\log_{10}2$ だが、自然密度は存在しない。それでも Dirichlet 密度が使われるのは、$\sum_{p\in P}p^{-s}$ が $L$ 関数やゼータ関数の対数と直接結びつき、$s=1$ の近くでの振る舞いだけから値が分かるからである。Dirichletの算術級数定理 は「$\gcd(a,m)=1$ なら $p\equiv a\pmod m$ となる素数の Dirichlet 密度は $1/\varphi(m)$」という形で証明され、Chebotarevの密度定理 も Dirichlet 密度で述べられる。
この記事では、(1) 定義と基本性質を述べ、$\sum_pp^{-s}=\log\frac1{s-1}+O(1)$ を証明する、(2) 自然密度があれば Dirichlet 密度が一致することを証明する、(3) 最高位の数字が $1$ の素数の集合が逆の反例になることを、素数定理 を使って証明する、(4) 算術級数と Chebotarev の定理での使われ方を例で示す。

定義

以下 $s$ は実数とし、$p$ は素数を動く。$K$ を 代数体 とし、$\mathcal O_K$ の $0$ でない素イデアルを単に $K$ の素イデアルといい、そのノルムを $N\mathfrak p:=\lvert\mathcal O_K/\mathfrak p\rvert$ と書く。$K=\mathbb Q$ では素イデアル $p\mathbb Z$ と素数 $p$ を同一視し、$N(p\mathbb Z)=p$ である。

素イデアルの集合の Dirichlet 密度

$K$ の素イデアルの集合 $M$ について、$s>1$ で
$$ \Sigma_M(s):=\sum_{\mathfrak p\in M}N\mathfrak p^{-s} $$
とおく。
$$ \overline d(M):=\limsup_{s\to1+0}\frac{\Sigma_M(s)}{\log\frac1{s-1}},\qquad \underline d(M):=\liminf_{s\to1+0}\frac{\Sigma_M(s)}{\log\frac1{s-1}} $$
をそれぞれ $M$ の 上 Dirichlet 密度、下 Dirichlet 密度 という。両者が一致するとき、すなわち極限
$$ d(M)=d_K(M):=\lim_{s\to1+0}\frac{\Sigma_M(s)}{\log\frac1{s-1}} $$
が存在するとき、$d(M)$ を $M$ の Dirichlet 密度(Dirichlet density)といい、$M$ は Dirichlet 密度をもつという。

$\Sigma_M(s)$ は $s>1$ で収束する($M$ が全体のとき Dedekindゼータ関数 の定理「収束と Euler 積」)。この定義は Neu99 Chapter VII の (13.1) Definition(p. 542)と同じである。

分母の正当化

素数の $p^{-s}$ の和

$1< s\le2$ について
$$ \Bigl\lvert\sum_pp^{-s}-\log\frac1{s-1}\Bigr\rvert\le1+\log2 $$
である。代数体 $K$ についても、$s\to1+0$ で $\sum_{\mathfrak p}N\mathfrak p^{-s}=\log\frac1{s-1}+O(1)$ である。特に、素イデアル全体の Dirichlet 密度は $1$ である。

ゼータ関数の対数をとる

$s>1$ とする。Riemannゼータ関数 の定理「Euler 積」により $\zeta(s)=\prod_p(1-p^{-s})^{-1}$ で、各因子は $1$ より大きい実数なので、対数をとって $\log\zeta(s)=\sum_p-\log(1-p^{-s})$ である。$0< u\le\frac12$ では $-\log(1-u)=\sum_{k\ge1}u^k/k$ で、$u\le-\log(1-u)\le u+u^2$ である($\sum_{k\ge2}u^k/k\le\frac12\cdot\frac{u^2}{1-u}\le u^2$)。$u=p^{-s}$ とすると
$$ 0\le\log\zeta(s)-\sum_pp^{-s}\le\sum_pp^{-2s}\le\sum_{n\ge2}\frac1{n^2}<1 $$
である。一方、同記事の命題「実軸上の評価」により $\frac1{s-1}\le\zeta(s)\le\frac s{s-1}$ なので、$1< s\le2$ では $0\le\log\zeta(s)-\log\frac1{s-1}\le\log2$ である。2 つを合わせればよい。
代数体の場合は Chebotarevの密度定理 の補題「素イデアルにわたる和」である($\zeta_K$ が $s=1$ に 1 位の極をもつこと、すなわち 解析的類数公式 を使う)。$\log\frac1{s-1}\to\infty$ なので、全体の密度は $1$ である。$\square$

したがって分母を $\sum_{\mathfrak p}N\mathfrak p^{-s}$ に替えても、上下の Dirichlet 密度と Dirichlet 密度は変わらない。Dirichlet 密度は「$M$ の素イデアルの $N\mathfrak p^{-s}$ の和が、全体の和の何割か」を $s\to1+0$ の極限で測っている。

基本性質

基本性質

$K$ の素イデアルの集合 $M,M_1,M_2$ について次が成り立つ。

  1. $0\le\underline d(M)\le\overline d(M)\le1$ である。$M$ が有限集合なら $d(M)=0$ であり、$\sum_{\mathfrak p\in M}N\mathfrak p^{-1}<\infty$ でも $d(M)=0$ である。
  2. $M_1\subset M_2$ なら $\overline d(M_1)\le\overline d(M_2)$、$\underline d(M_1)\le\underline d(M_2)$ である。
  3. $M_1,M_2$ が交わらず、どちらも Dirichlet 密度をもてば、$M_1\cup M_2$ も Dirichlet 密度をもち $d(M_1\cup M_2)=d(M_1)+d(M_2)$ である。特に、$M$ が Dirichlet 密度をもてば補集合も Dirichlet 密度をもち、その値は $1-d(M)$ である。
  4. 有限個の素イデアルを加えたり除いたりしても、上下の Dirichlet 密度は変わらない。
  5. 剰余次数 $f(\mathfrak p\mid p)\ge2$ の素イデアル全体の集合を $M_{\ge2}$ とすると $d(M_{\ge2})=0$ である。したがって $M$ の上下の Dirichlet 密度は $M\setminus M_{\ge2}$(次数 $1$ の素イデアルだけ)で決まる。

1.$\Sigma_M(s)$ は $0$ 以上で全体の和以下なので、lem-dd-primes から従う。$\sum_{\mathfrak p\in M}N\mathfrak p^{-1}<\infty$ なら $s>1$ で $\Sigma_M(s)\le\sum_{\mathfrak p\in M}N\mathfrak p^{-1}$ は有界で、$\log\frac1{s-1}\to\infty$ で割ると $0$ に近づく。有限集合はその特別な場合である。
2.$\Sigma_{M_1}(s)\le\Sigma_{M_2}(s)$ による。3.$\Sigma_{M_1\cup M_2}=\Sigma_{M_1}+\Sigma_{M_2}$ で、極限の和をとればよい。補集合については、全体の密度が $1$ であること(lem-dd-primes)を使う。4.有限個の項の和は有界なので、1 と同じ理由で比の上極限・下極限は変わらない。
5.$\mathfrak p\in M_{\ge2}$ なら $N\mathfrak p=p^{f}\ge p^2$ である。素数 $p$ の上の素イデアルは高々 $[K:\mathbb Q]$ 個なので(代数体における素イデアルの分解 の定理「基本等式」)、$\sum_{\mathfrak p\in M_{\ge2}}N\mathfrak p^{-1}\le[K:\mathbb Q]\sum_pp^{-2}<\infty$ で、1 により $d(M_{\ge2})=0$ である。最後の主張は 2 と 3 の議論(有界な和は比を変えない)による。$\square$

5 は Neu99 Chapter VII §13(p. 543)が定義の直後に注意しているものである。1 から、Dirichlet 密度が正の集合は無限集合である。この形で「$p\equiv a\pmod m$ となる素数が無限にある」といった存在定理が証明される。
上下の Dirichlet 密度は単調であり(prop-dd-basic の 2)、Dirichlet 密度は有限加法的だが(同 3)、可算加法的ではない。1 点の集合 $\{p\}$ の密度はどれも $0$ だが、すべての素数の和集合の密度は $1$ である。

自然密度との関係

$x>0$ について $\pi_M(x):=\#\{\mathfrak p\in M\mid N\mathfrak p\le x\}$ とおき、$\pi_K(x)$ を素イデアル全体についての同じ個数とする($K=\mathbb Q$ では素数の個数 $\pi(x)$)。

自然密度

$$ \overline\delta(M):=\limsup_{x\to\infty}\frac{\pi_M(x)}{\pi_K(x)},\qquad\underline\delta(M):=\liminf_{x\to\infty}\frac{\pi_M(x)}{\pi_K(x)} $$
を $M$ の上自然密度・下自然密度という。両者が一致するとき、その値 $\delta(M)$ を $M$ の 自然密度(natural density)という。

自然密度と Dirichlet 密度の比較

$K$ の素イデアルの任意の集合 $M$ について
$$ \underline\delta(M)\le\underline d(M)\le\overline d(M)\le\overline\delta(M) $$
が成り立つ。特に、$M$ が自然密度をもてば Dirichlet 密度ももち、$d(M)=\delta(M)$ である。

個数関数で和を書き直す

和を積分で表す.$s>1$ と $y\ge1$ について $y^{-s}=s\int_y^\infty x^{-s-1}\,dx$ である。$\mathfrak p\in M$ について足し、和と積分の順序を入れ替えると(項はすべて $0$ 以上なので Tonelliの定理 による)
$$ \Sigma_M(s)=s\int_1^\infty\pi_M(x)\,x^{-s-1}\,dx $$
である。全体についても $\Sigma_K(s)=s\int_1^\infty\pi_K(x)\,x^{-s-1}\,dx$ である($\Sigma_K$ は素イデアル全体の和)。
上からの評価.$\beta:=\overline\delta(M)$ とし、$\varepsilon>0$ をとる。上極限の定義から、$X\ge1$ があって $x\ge X$ で $\pi_M(x)\le(\beta+\varepsilon)\pi_K(x)$ である。$x< X$ では $\pi_M(x)\le\pi_K(X)$ なので
$$ \Sigma_M(s)\le\pi_K(X)\,s\int_1^\infty x^{-s-1}\,dx+(\beta+\varepsilon)\,s\int_X^\infty\pi_K(x)\,x^{-s-1}\,dx\le\pi_K(X)+(\beta+\varepsilon)\Sigma_K(s) $$
である。両辺を $\log\frac1{s-1}$ で割り、lem-dd-primes により $\Sigma_K(s)/\log\frac1{s-1}\to1$ であることを使うと、$\overline d(M)\le\beta+\varepsilon$ を得る。$\varepsilon$ は任意なので $\overline d(M)\le\overline\delta(M)$ である。
下からの評価.$\alpha:=\underline\delta(M)$ とし、$\varepsilon>0$ について $x\ge X$ で $\pi_M(x)\ge(\alpha-\varepsilon)\pi_K(x)$ となる $X$ をとる。$\pi_K(x)\le\pi_K(X)$($x< X$)から $s\int_1^X\pi_K(x)x^{-s-1}dx\le\pi_K(X)$ なので
$$ \Sigma_M(s)\ge(\alpha-\varepsilon)\,s\int_X^\infty\pi_K(x)\,x^{-s-1}\,dx\ge(\alpha-\varepsilon)\bigl(\Sigma_K(s)-\pi_K(X)\bigr) $$
であり、同様に $\underline d(M)\ge\alpha-\varepsilon$ を得る。$\square$

主張の後半は Neu99 Chapter VII §13(p. 543)で、証明は難しくないと述べられているものである。この証明は素数定理を使わない。比べているのは $\pi_M$ と $\pi_K$ の比だけだからである。

逆が成り立たない例

最高位の数字(十進法)が $1$ の素数の集合
$$ P_1:=\{p\mid 10^j\le p<2\cdot10^j\text{ となる整数 }j\ge1\text{ がある}\}=\{11,13,17,19,101,103,\dots\} $$
を考える。Benfordの法則 で最高位の数字が $1$ になる割合 $\log_{10}2$ が、ここでは Dirichlet 密度として現れる。

区間 $(x,cx]$ の素数の逆数和

$c>1$ を固定すると、$x\to\infty$ で
$$ \sum_{x< p\le cx}\frac1p=\frac{\log c+o(1)}{\log x} $$
である。

$x< p\le cx$ について $\frac1p=\frac1{cx}+\int_p^{cx}\frac{dt}{t^2}$ なので、足して順序を入れ替えると
$$ \sum_{x< p\le cx}\frac1p=\frac{\pi(cx)-\pi(x)}{cx}+\int_x^{cx}\frac{\pi(t)-\pi(x)}{t^2}\,dt $$
である。素数定理 により $\pi(t)=\frac t{\log t}(1+o(1))$ で、$x\le t\le cx$ では $\frac t{\log t}=\frac t{\log x}+O\bigl(\frac x{\log^2x}\bigr)$ なので、$t\in[x,cx]$ について一様に $\pi(t)-\pi(x)=\frac{t-x}{\log x}+o\bigl(\frac x{\log x}\bigr)$ である。代入すると、右辺は
$$ \frac1{\log x}\Bigl(1-\frac1c+\int_x^{cx}\frac{t-x}{t^2}\,dt\Bigr)+o\Bigl(\frac1{\log x}\Bigr)=\frac1{\log x}\Bigl(1-\frac1c+\log c-1+\frac1c\Bigr)+o\Bigl(\frac1{\log x}\Bigr) $$
となる。$\square$

自然密度をもたないが Dirichlet 密度をもつ集合

$P_1$ は Dirichlet 密度 $d(P_1)=\log_{10}2$ をもつが、自然密度をもたない。実際 $\underline\delta(P_1)\le\frac15$、$\overline\delta(P_1)\ge\frac12$ である。

自然密度.素数定理 から、$c>1$ を固定すると $\pi(cx)-\pi(x)=\frac{(c-1)x}{\log x}(1+o(1))$ である。$x_k:=2\cdot10^k$ では、$P_1$ は区間 $[10^k,2\cdot10^k)$ の素数をすべて含むので
$$ \frac{\pi_{P_1}(x_k)}{\pi(x_k)}\ge\frac{\pi(2\cdot10^k)-\pi(10^k)}{\pi(2\cdot10^k)}\to\frac{1}{2}\qquad(k\to\infty) $$
である。$y_k:=10^{k+1}$ では、$2\cdot10^k\le p<10^{k+1}$ の素数は $P_1$ に属さないので $\pi_{P_1}(y_k)\le\pi(2\cdot10^k)$ で、
$$ \frac{\pi_{P_1}(y_k)}{\pi(y_k)}\le\frac{\pi(2\cdot10^k)}{\pi(10^{k+1})}=\frac{2\cdot10^k}{10^{k+1}}\cdot\frac{\log10^{k+1}}{\log(2\cdot10^k)}(1+o(1))\to\frac15 $$
である。したがって $\underline\delta(P_1)\le\frac15<\frac12\le\overline\delta(P_1)$ である。
Dirichlet 密度.$I_j:=[10^j,2\cdot10^j)$、$S_j:=\sum_{p\in I_j}\frac1p$ とおく。$10^j$ と $2\cdot10^j$ は素数でないので、lem-dd-short-sum($x=10^j$、$c=2$)により $S_j=\frac{\log2+\eta_j}{j\log10}$、$\eta_j\to0$ である。$1< s\le2$ とし、$u:=10^{-(s-1)}\in(0,1)$ とおく。$p\in I_j$ では $2^{-(s-1)}u^j\le p^{-(s-1)}\le u^j$ なので、$p^{-s}=p^{-1}p^{-(s-1)}$ を足して
$$ 2^{-(s-1)}\sum_{j\ge1}S_ju^j\le\Sigma_{P_1}(s)\le\sum_{j\ge1}S_ju^j $$
である。$\varepsilon>0$ について $j>J$ で $\lvert\eta_j\rvert\le\varepsilon$ となる $J$ をとると、$\sum_{j\ge1}u^j/j=\log\frac1{1-u}$ から
$$ \Bigl\lvert\sum_{j\ge1}S_ju^j-\frac{\log2}{\log10}\log\frac1{1-u}\Bigr\rvert\le\sum_{j\le J}\frac{\lvert\eta_j\rvert}{j\log10}+\frac{\varepsilon}{\log10}\log\frac1{1-u} $$
である。$s\to1+0$ のとき $1-u=1-e^{-(s-1)\log10}$ は $(s-1)\log10$ との比が $1$ に近づくので、$\log\frac1{1-u}=\log\frac1{s-1}+O(1)$ であり、$2^{-(s-1)}\to1$ である。よって $\Sigma_{P_1}(s)/\log\frac1{s-1}$ の上極限と下極限は、ともに $\frac{\log2}{\log10}$ から $\frac{\varepsilon}{\log10}$ 以内にある。$\varepsilon$ は任意なので $d(P_1)=\log_{10}2$ である。$\square$

Dirichlet 密度の重み $p^{-s}$ は、$\log p$ の目盛りでゆっくり変わる。そのため $10$ 倍ごとに繰り返す $P_1$ の偏りは平均されて $\log_{10}2$ に落ち着くが、個数の比 $\pi_{P_1}(x)/\pi(x)$ は直近の数桁の素数に大きく左右され、振動し続ける。

算術級数と Chebotarev の定理での使われ方

Dirichlet 密度が L 関数と相性がよいのは、$\log L(s,\chi)$ の主要部が $\sum_p\chi(p)p^{-s}$ だからである。指標の直交関係で $\sum_{p\equiv a}p^{-s}$ を取り出すと、$s\to1+0$ での $L(s,\chi)$ の振る舞いだけから密度が決まる。

  • 算術級数.$\gcd(a,m)=1$ なら、$1< s\le2$ で $\sum_{p\equiv a\ (\mathrm{mod}\ m)}p^{-s}=\frac1{\varphi(m)}\log\frac1{s-1}+O(1)$ である(Dirichletの算術級数定理 の定理「Dirichletの算術級数定理」)。両辺を $\log\frac1{s-1}$ で割ると、$p\equiv a\pmod m$ となる素数の集合の Dirichlet 密度は $1/\varphi(m)$ である。
  • Chebotarev の密度定理.代数体の有限次 Galois 拡大 $L/K$ と Galois 群 $G$ の共役類 $C$ について、Frobenius 類が $C$ になる $K$ の素イデアルの集合の Dirichlet 密度は $\lvert C\rvert/\lvert G\rvert$ である(Chebotarevの密度定理)。$K=\mathbb Q$、$L=\mathbb Q(\zeta_m)$ のときが上の算術級数の場合である。
  • 自然密度の形.これらの集合は自然密度ももち、値は同じである。ただしその証明には、$L$ 関数が直線 $\operatorname{Re}s=1$ の上で $0$ にならないことなど、素数定理と同じ深さの解析が要る(Chebotarevの密度定理 の注意「自然密度」)。Dirichlet 密度で述べれば、$s=1$ での極と零点の有無だけで足りる。
$2$ が平方剰余になる素数

奇素数 $p$ について、$2$ が法 $p$ の平方剰余であることは $p\equiv\pm1\pmod8$ と同値である(平方剰余の相互法則 の定理「補充法則」)。$\varphi(8)=4$ なので、算術級数の場合から $p\equiv1$、$p\equiv7\pmod 8$ の素数の集合はそれぞれ密度 $\frac14$ をもち、prop-dd-basic の 3 により、$2$ が平方剰余になる奇素数の集合の Dirichlet 密度は $\frac12$ である。特にそのような素数も、そうでない素数も無限にある。

完全分解する素数

$f(X)=X^3-2$ の $\mathbb Q$ 上の最小分解体 $L$ の Galois 群は $S_3$ で、$X^3-2\bmod p$ が 3 個の根をもつ素数(有限個を除き、$L$ で完全分解する素数)の Dirichlet 密度は $\frac16$ である(Chebotarevの密度定理 の例「$X^3-2$ の分解の型」)。根をもたない素数の集合の密度は $\frac13$、ちょうど 1 個の根をもつ素数の集合の密度は $\frac12$ で、和は $1$ である。

反例と注意

外す条件・替える主張反例成り立たなくなること
thm-dd-natural の逆最高位の数字が $1$ の素数の集合 $P_1$Dirichlet 密度をもてば自然密度ももつ
有限集合$\{p_{2^k}\mid k\ge0\}$($p_n$ は $n$ 番目の素数)密度 $0$ の集合は有限
有限加法性を可算個に1 点の集合 $\{p\}$ を全部合わせる$d\bigl(\bigcup_iM_i\bigr)=\sum_id(M_i)$
素数の集合を整数の集合に素数全体を正の整数の中で見る正の整数の中の自然密度が正

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各行の確認を開く

1 行目:thm-dd-leading-digit である。

2 行目:$p_n\ge n$ なので $\sum_kp_{2^k}^{-1}\le\sum_k2^{-k}=2$ は収束し、prop-dd-basic の 1 により密度は $0$ だが、集合は無限である。

3 行目:各 $\{p\}$ の密度は $0$ だが、和集合は素数全体で密度は $1$ である(lem-dd-primes)。

4 行目:素数全体の Dirichlet 密度は(素数の中で見て)$1$ だが、正の整数の中での割合 $\pi(x)/x$ は 素数定理 により $0$ に近づく。Dirichlet 密度は素数どうしの比を測るもので、整数の中の割合とは別物である。


注意を 1 つ挙げる。$s\to1+0$ の極限は分母 $\log\frac1{s-1}$ が非常にゆっくり発散するため、数値で $s$ を $1$ に近づけて Dirichlet 密度を推定するのは実用的でない。数値で確かめるときは、自然密度が存在することが分かっている場合に $\pi_M(x)/\pi_K(x)$ を見るのがよい(Chebotarevの密度定理 の例には $10^6$ 未満の素数での数値がある)。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter VII, §13:(13.1) Definition(Dirichlet 密度、p. 542)、p. 543(次数 1 の素イデアルだけで決まること、自然密度との比較)

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