2次方程式

同義語:二次方程式quadratic equation

概要

2次方程式(quadratic equation)とは、体 $K$ の元 $a\neq0$、$b$、$c$ を係数とする方程式 $ax^2+bx+c=0$ のことである。$K$ の標数が $2$ でなければ、平方完成により解は $\delta^2=b^2-4ac$ となる $\delta$ を使って $(-b\pm\delta)/(2a)$ と表され、$K$ に解をもつことと判別式 $b^2-4ac$ が $K$ の元の平方であることが同値になる。標数 $2$ では $2a=0$ のため解の公式が使えず、$b\neq0$ なら $y^2+y=t$ の形に帰着し、有限体ではトレースで解の有無が決まる。既約な2次方程式の解を添加すると2次拡大が得られ、標数が $2$ でない体の2次拡大は平方類 $K^\times/(K^\times)^2$ の単位元以外の元と1対1に対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体, 多項式, 複素数

高校数学では、実数 $a\neq0$、$b$、$c$ を係数とする方程式 $ax^2+bx+c=0$ を、解の公式
$$ x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} $$
で解く。判別式 $D=b^2-4ac$ が正なら異なる 2 つの実数解、$0$ なら重解、負なら互いに共役な 2 つの虚数解をもつ。大学では、同じ式を有理数・複素数・有限体など一般の 体 の上で考える。そうすると、解の公式が使える理由($2$ で割れること)と、判別式が本当に判定しているもの($K$ の中で平方根をもつか)がはっきりし、$2$ で割れない体(標数 $2$ の体)では別の扱いが要ることが分かる。さらに、解をもたない 2 次方程式の解を付け加えると、元の体の 2 次拡大が得られる。
この記事では、一般の体の上で 2 次方程式を定義し、解の公式とその成り立つ範囲、有限体の上での解の有無、標数 $2$ の場合、2 次拡大の分類を順に述べる。

高校数学との対応

高校で学ぶ内容と、この記事で扱う形の対応を表にまとめる。

高校で学ぶことこの記事での形箇所
解の公式 $x=\dfrac{-b\pm\sqrt{D}}{2a}$標数が $2$ でない体での解の公式($\sqrt D$ は $\delta^2=D$ となる元 $\delta$)thm-qe-formula
$D\ge0$ なら実数解をもつ解が $K$ にある ⇔ $D$ が $K$ の元の平方thm-qe-formula の 3
$D<0$ なら虚数解 $\dfrac{-b\pm\sqrt{-D}\,i}{2a}$$D$ の平方根を含む拡大体 $K(\delta)$ で解くthm-qe-formula の 4
$D=0$ なら重解どの体でも、重解 ⇔ $D=0$thm-qe-formula の 2、prop-qe-char2
解と係数の関係 $\alpha+\beta=-\dfrac ba$、$\alpha\beta=\dfrac ca$1 次式の積への分解 $a(x-\alpha)(x-\beta)$thm-qe-formula の 1

判別式が解の差の 2 乗 $a^2(\alpha-\beta)^2$ に等しいことや、判別式とグラフの関係は 2次方程式の判別式の正体 の定理「判別式は解の差の 2 乗の $a^2$ 倍」と節「判別式とグラフ」に、解と係数の関係を使う計算は 解と係数の関係 にある。実数係数の 2 次方程式が複素数の解をもつことは 複素数 の命題「実係数二次方程式」で、係数が複素数でもよいことは同じ記事の系「複素係数の二次方程式」で示されている。

定義

以下、$K$ は体とする。$K$ の標数が $2$ でないとは、$1+1\neq0$、すなわち $2$ が $K$ で可逆なことである。

2次方程式・解・判別式

$a,b,c\in K$、$a\neq0$ とする。多項式 $f(x)=ax^2+bx+c\in K[x]$ について、方程式
$$ ax^2+bx+c=0 $$
を $K$ 上の 2 次方程式(quadratic equation)という。$K$ を含む体 $L$ の元 $\alpha$ が $f(\alpha)=0$ を満たすとき、$\alpha$ を $L$ における 解(根)という。$f$ が $L[x]$ で $f(x)=a(x-\alpha)^2$ と分解されるとき、$\alpha$ を 重解 という。
$$ D:=b^2-4ac\in K $$
を 2 次方程式(または $f$)の 判別式 という。

解は、どの体の中で探すかを決めて初めて意味をもつ。$x^2+1=0$ は $\mathbb{R}$ には解をもたないが、$\mathbb{C}$ には解 $\pm i$ をもつ。$a$ で両辺を割れば $x^2+px+q=0$($p=b/a$、$q=c/a$)の形にでき、解は変わらない。この形を モニック な 2 次方程式という。判別式は $p^2-4q=D/a^2$ になる。

直感

解の公式の中身は平方完成である。$4a$ を掛けると
$$ 4a\,f(x)=(2ax+b)^2-D $$
となるので、$f(x)=0$ は「$2ax+b$ が $D$ の平方根である」ことと同じになる。したがって、2 次方程式を解くことは、平方根を 1 つ見つけ、$2a$ で割ることに帰着する。この 2 つの操作がどの体でできるかが、解の公式の成り立つ範囲を決める。平方根は体によってあったりなかったりし($\mathbb{R}$ では $-1$ の平方根がない)、$2a$ で割ることは標数 $2$ の体ではできない($2a=0$)。

解の公式

標数が 2 でない体の場合

一般の体での解の公式

$K$ の標数は $2$ でないとし、$a,b,c\in K$、$a\neq0$、$f(x)=ax^2+bx+c$、$D=b^2-4ac$ とする。$K$ を含む体 $L$ に $\delta^2=D$ となる元 $\delta$ があるとし、
$$ \alpha:=\frac{-b+\delta}{2a},\qquad \beta:=\frac{-b-\delta}{2a} $$
とおく。

  1. $L[x]$ で $f(x)=a(x-\alpha)(x-\beta)$ と分解され、$f$ の $L$ における解は $\alpha$ と $\beta$ だけである。とくに $\alpha+\beta=-b/a$、$\alpha\beta=c/a$ である。
  2. $\alpha=\beta$(重解)であることと $D=0$ は同値である。
  3. 2 次方程式 $f(x)=0$ が $K$ に解をもつことと、$D$ が $K$ のある元の平方であることは同値である。
  4. $D$ が $K$ の元の平方でないとき、$f$ は $K$ 上既約(既約多項式)であり、$\delta^2=D$ となる $\delta$ を含み $K$ 上の次数が $2$ の拡大体 $K(\delta)$ が存在する。$f(x)=0$ はそこでちょうど 2 つの異なる解をもつ。
平方完成と係数の比較

標数が $2$ でないので $2\neq0$ であり、$a\neq0$ と合わせて $2a$ と $4a^2$ は可逆である。
1:$\alpha+\beta=\dfrac{-2b}{2a}=-\dfrac ba$、$\alpha\beta=\dfrac{b^2-\delta^2}{4a^2}=\dfrac{b^2-(b^2-4ac)}{4a^2}=\dfrac ca$ である。よって
$$ a(x-\alpha)(x-\beta)=a\bigl(x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta\bigr)=ax^2+bx+c=f(x) $$
である。$\gamma\in L$ が $f(\gamma)=0$ を満たせば $a(\gamma-\alpha)(\gamma-\beta)=0$ で、体には零因子がなく $a\neq0$ なので $\gamma=\alpha$ または $\gamma=\beta$ である。
2:$\alpha-\beta=\delta/a$ なので、$\alpha=\beta$ は $\delta=0$ と同値であり、$\delta^2=D$ より $\delta=0$ は $D=0$ と同値である($\delta\neq0$ なら $\delta^2\neq0$)。
3:$x_0\in K$ が解なら、$4af(x_0)=(2ax_0+b)^2-D$ より $D=(2ax_0+b)^2$ は $K$ の元 $2ax_0+b$ の平方である。逆に $D=e^2$($e\in K$)なら、1 を $L=K$、$\delta=e$ として使うと $\alpha=(-b+e)/(2a)\in K$ が解である。
4:2 次式が $K$ 上可約なら 1 次式の因子をもち、したがって $K$ に解をもつ。3 により $D$ が平方でなければ $K$ に解はないので、$f$ は既約である。同じ理由で $t^2-D$ も $K$ 上既約であり、剰余環 $K[t]/(t^2-D)$ は体で、$K$ 上の次数は $2$ である(体の拡大 の命題「根をもつ拡大体の構成」)。$t$ の類を $\delta$ とすれば $\delta^2=D$ であり、この体を $K(\delta)$ と書く。1 を $L=K(\delta)$ に使うと解は $\alpha,\beta$ の 2 つで、$D\neq0$ なので 2 により $\alpha\neq\beta$ である。$\square$

3 は 判別式 の命題「2 次式が根をもつための判別式の条件」と同じ内容である。$\delta$ の代わりに $-\delta$ を選ぶと $\alpha$ と $\beta$ が入れ替わるだけなので、解の組は平方根の選び方によらない。高校の解の公式は、$K=\mathbb{R}$、$L=\mathbb{C}$ の場合である。$D\ge0$ なら $\delta=\sqrt D\in\mathbb{R}$、$D<0$ なら $\delta=\sqrt{-D}\,i$ ととれる。

いろいろな体での解の公式
  1. 有理数体:$x^2-2x-3=0$ は $D=16=4^2$ なので $\mathbb{Q}$ に解 $\frac{2\pm4}{2}=3,-1$ をもつ。$x^2-2=0$ は $D=8$ が有理数の平方でないので $\mathbb{Q}$ 上既約で、解 $\pm\sqrt2$ は 2 次の拡大体 $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ にある。
  2. 複素数体:$z^2-3z+(3-i)=0$ では $D=9-4(3-i)=-3+4i$ である。$(1+2i)^2=1+4i-4=-3+4i$ なので $\delta=1+2i$ ととれて、解は $\frac{3\pm(1+2i)}{2}$、すなわち $2+i$ と $1-i$ である。実際、和は $3$、積は $(2+i)(1-i)=3-i$ である。$\mathbb{C}$ ではどの元も平方根をもつ(複素数 の命題「複素数の平方根」)ので、係数が複素数の 2 次方程式はいつも $\mathbb{C}$ に解をもつ。
  3. 7 元体 $\mathbb{F}_7=\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}$:$x^2+x+1=0$ では $D=1-4=-3=4=2^2$ なので、解は $\frac{-1\pm2}{2}$ である。$\mathbb{F}_7$ で $2^{-1}=4$ なので、解は $1\cdot4=4$ と $(-3)\cdot4=-12=2$ である。実際 $4^2+4+1=21$、$2^2+2+1=7$ はどちらも $7$ の倍数である。
  4. 5 元体 $\mathbb{F}_5$:同じ $x^2+x+1=0$ では $D=-3=2$ である。$\mathbb{F}_5$ の元の平方は $0,1,4$ だけなので $2$ は平方でなく、$x^2+x+1$ は $\mathbb{F}_5$ 上既約である。解は 25 元体 $\mathbb{F}_5(\delta)$($\delta^2=2$)にある。

有限体の上で解をもつ方程式の個数

有限体 $\mathbb{F}_q$($q$ は素数の冪)の上のモニックな 2 次方程式は $x^2+px+r=0$($p,r\in\mathbb{F}_q$)の $q^2$ 個である。そのうち解をもつものの個数は、標数によらず数えられる。

有限体の上で解をもつ 2 次方程式の個数
  1. $\mathbb{F}_q$ 上のモニックな 2 次方程式 $q^2$ 個のうち、$\mathbb{F}_q$ に解をもつものはちょうど $\dfrac{q(q+1)}{2}$ 個、$\mathbb{F}_q$ 上既約なものはちょうど $\dfrac{q(q-1)}{2}$ 個である。
  2. $q$ が奇数なら、$\mathbb{F}_q^\times$ の元のうち平方であるものはちょうど $\dfrac{q-1}{2}$ 個であり、商群 $\mathbb{F}_q^\times/(\mathbb{F}_q^\times)^2$ の位数は $2$ である。
解の組を数える

1:$x^2+px+r$ が解 $\alpha\in\mathbb{F}_q$ をもつとき、$\beta:=-p-\alpha$ とおくと $(x-\alpha)(x-\beta)=x^2+px+\alpha\beta$ であり、$x=\alpha$ を代入して比べると $r=-\alpha^2-p\alpha=\alpha\beta$ なので $x^2+px+r=(x-\alpha)(x-\beta)$ である。したがって、解をもつモニックな 2 次式は、重複を許した 2 元の組 $\{\alpha,\beta\}$ に対する $(x-\alpha)(x-\beta)$ の形のものに限る。異なる組は異なる多項式を与える。実際、$(x-\alpha)(x-\beta)=(x-\alpha')(x-\beta')$ なら $\alpha'$ は左辺の解なので(体には零因子がないから)$\alpha'\in\{\alpha,\beta\}$ であり、$\alpha'=\alpha$ としてよく、$x$ の係数を比べて $\beta'=\beta$ である。重複を許した組の個数は、$\alpha\neq\beta$ のものが $\frac{q(q-1)}{2}$ 個、$\alpha=\beta$ のものが $q$ 個で、合わせて $\frac{q(q+1)}{2}$ 個である。2 次式は解をもたなければ既約なので、既約なものは $q^2-\frac{q(q+1)}{2}=\frac{q(q-1)}{2}$ 個である。
2:$s(x)=x^2$ は乗法群 $\mathbb{F}_q^\times$ からそれ自身への準同型である。その核は $x^2=1$ の解の全体 $\{1,-1\}$ である(thm-qe-formula の 1 の証明と同じ理由で、体には零因子がないので解は 2 個以下で、$1,-1$ は解である)。$q$ が奇数なら標数は $2$ でないので $1\neq-1$ であり、核の位数は $2$ である。よって像 $(\mathbb{F}_q^\times)^2$ の位数は $\frac{q-1}{2}$ で、商群の位数は $2$ である。$\square$

$q$ が奇数のときは thm-qe-formula からも同じ数が出る。$p$ を固定すると $r\mapsto p^2-4r$ は $\mathbb{F}_q$ の全単射なので、$D$ が平方($0$ を含む)になる $r$ は $1+\frac{q-1}{2}=\frac{q+1}{2}$ 個あり、$p$ について足すと $\frac{q(q+1)}{2}$ 個である。

標数 2 の場合

標数 $2$ の体では $2a=0$ なので、解の公式は意味をもたない。それだけでなく、判別式による判定 thm-qe-formula の 3 も成り立たない。標数 $2$ では $4ac=0$ なので $D=b^2$ であり、判別式はいつも平方になってしまうからである。たとえば 2 元体 $\mathbb{F}_2=\{0,1\}$ 上の $x^2+x+1=0$ は $D=1=1^2$ だが、$0^2+0+1=1$、$1^2+1+1=1$ なので $\mathbb{F}_2$ に解をもたない。標数 $2$ では、方程式を次の 2 つの標準形に直して扱う。

標数が 2 の体での標準形

$K$ の標数は $2$ とし、$a,b,c\in K$、$a\neq0$、$f(x)=ax^2+bx+c$ とする。

  1. $b=0$ のとき:$f(x)=0$ が $K$ に解をもつことと、$c/a$ が $K$ の元の平方であることは同値である。$c/a=e^2$ なら $f(x)=a(x-e)^2$ で、$e$ は重解である。$c/a$ が平方でなければ $f$ は $K$ 上既約で、$\varepsilon^2=c/a$ となる元 $\varepsilon$ を添加した体で $f(x)=a(x-\varepsilon)^2$ となる。
  2. $b\neq0$ のとき:$t:=ac/b^2$、$g(y):=y^2+y+t$ とおくと、$f(x)=\dfrac{b^2}{a}\,g\!\left(\dfrac{ax}{b}\right)$ である。$\gamma$ が $g$ の(ある拡大体での)解なら $\gamma+1$ も解で、$g(y)=(y-\gamma)(y-\gamma-1)$ であり、$f$ の解は異なる 2 つの元 $\dfrac{b\gamma}{a}$、$\dfrac{b(\gamma+1)}{a}$ である。
  3. どちらの場合も、$f$ が重解をもつことと $b=0$、すなわち $D=b^2=0$ は同値である。
2 が 0 になることを使う

標数 $2$ では $2=0$、$-1=1$ である。
1:$e\in K$ について $(x-e)^2=x^2-2ex+e^2=x^2-e^2$ である。$x_0\in K$ が解なら $x_0^2=c/a$ なので $c/a$ は平方である。逆に $c/a=e^2$ なら $f(x)=a(x^2-e^2)=a(x-e)^2$ である。$c/a$ が平方でなければ $f$ は $K$ に解をもたない 2 次式なので既約であり、$K[s]/(s^2-c/a)$ は体になる。$s$ の類を $\varepsilon$ とすれば同じ計算で $f(x)=a(x-\varepsilon)^2$ である。
2:$y=ax/b$ を代入すると
$$ \frac{b^2}{a}\Bigl(\frac{a^2x^2}{b^2}+\frac{ax}{b}+\frac{ac}{b^2}\Bigr)=ax^2+bx+c $$
である。$g(\gamma)=0$ なら $g(\gamma+1)=\gamma^2+2\gamma+1+\gamma+1+t=\gamma^2+\gamma+t=0$ であり、$1\neq0$ より $\gamma\neq\gamma+1$ である。$(y-\gamma)(y-\gamma-1)=y^2-(2\gamma+1)y+\gamma^2+\gamma=y^2+y-t=y^2+y+t$ なので $g$ はこの積に等しい。$g$ が $K$ に解をもたなければ $K[s]/(g(s))$ が体になり、そこで $\gamma$ がとれる。$f$ の解 $x$ は $g(ax/b)=0$ を満たすものなので、$x=b\gamma/a,\ b(\gamma+1)/a$ であり、これらは異なる。
3:1 では重解、2 では異なる 2 つの解になる。$D=b^2-4ac=b^2$ なので $D=0$ は $b=0$ と同値である。$\square$

3 は、判別式が $0$ になることと重解をもつことが同値であるという一般の事実(判別式 の命題「判別式が 0 になる条件」)の、標数 $2$ の 2 次式の場合である。判別式は重解を判定し続けるが、$K$ に解があるかどうかは判定しなくなる。
2 の方程式 $y^2+y=t$ は標数 $2$ の Artin–Schreier拡大 を定める方程式である。$K$ が $2^m$ 元の有限体のとき、$\operatorname{Tr}(t):=t+t^2+t^{4}+\dots+t^{2^{m-1}}$ とおくと、$y^2+y=t$ が $K$ に解をもつことと $\operatorname{Tr}(t)=0$ は同値である(Artin–Schreier拡大 の命題「有限体の上の既約性の判定」で $p=2$ とした場合)。一方、有限体では写像 $x\mapsto x^2$ は単射($x^2=y^2$ なら $(x-y)^2=0$ で $x=y$)なので全射であり、1 の場合はいつも解がある。

2 元体と 4 元体
  1. $\mathbb{F}_2$ 上の $x^2+x+1=0$ は $a=b=c=1$ で $t=1$、$\operatorname{Tr}(1)=1\neq0$ なので解をもたない(上で直接確かめたとおり)。
  2. 4 元体 $\mathbb{F}_4=\{0,1,\omega,\omega+1\}$($\omega^2=\omega+1$)の上では、同じ方程式は $\operatorname{Tr}(1)=1+1^2=0$ なので解をもつ。実際、解は $\omega$ と $\omega+1=\omega^2$ である。
  3. $\mathbb{F}_4$ 上の $y^2+y+\omega=0$ は $\operatorname{Tr}(\omega)=\omega+\omega^2=2\omega+1=1\neq0$ なので解をもたない。実際、$y^2+y$ の値は $y=0,1,\omega,\omega+1$ に対して $0,0,1,1$ であり、$\omega$ にならない。

2 次拡大との関係

体の拡大 $L/K$ で、$L$ の $K$ 上の次元(拡大次数)が $2$ のものを $K$ の 2 次拡大(quadratic extension)という。既約な 2 次方程式の解を添加すると 2 次拡大が得られ(thm-qe-formula の 4)、逆に標数が $2$ でなければ、どの 2 次拡大も平方でない元 $d$ の平方根を添加した体 $K(\beta)$($\beta^2=d$)である(拡大次数 の命題「次数 1 と 2 の拡大」の 3。DF04 §13.2 の例「Quadratic Extensions in Fields of Characteristic $\neq2$」, p. 522 も同じ内容を述べている)。そこで、どの $d$ が同じ拡大を与えるかを調べる。
$d\in K^\times$ が $K$ の元の平方でないとき、$K(\sqrt d):=K[t]/(t^2-d)$ とおき、$t$ の類を $\sqrt d$ と書く。$t^2-d$ は $K$ に解をもたないので既約で、$K(\sqrt d)$ は $1,\sqrt d$ を基底とする 2 次拡大である。$K^\times$ の元の平方の全体を $(K^\times)^2$ と書く。これは $K^\times$ の部分群であり、商群 $K^\times/(K^\times)^2$ の元を 平方類 という。

2 次拡大と平方類

$K$ の標数は $2$ でないとする。

  1. $d,d'\in K^\times$ がどちらも平方でないとき、$K$ の元を動かさない体の同型 $K(\sqrt d)\cong K(\sqrt{d'})$ があることと、$d'/d\in(K^\times)^2$ であることは同値である。
  2. $d\mapsto K(\sqrt d)$ は、$K^\times/(K^\times)^2$ の単位元以外の元と、$K$ の 2 次拡大の($K$ 上の)同型類とのあいだの全単射を与える。
平方根の像を基底で書く

1:$d'=v^2d$($v\in K^\times$)なら、$K(\sqrt d)$ で $(v\sqrt d)^2=d'$ なので、$t\mapsto v\sqrt d$ は $K$ 上の環準同型 $K(\sqrt{d'})=K[t]/(t^2-d')\to K(\sqrt d)$ を定める。体からの環準同型は単射であり、両辺はどちらも $K$ 上 2 次元なので、これは全単射である。
逆に $\varphi\colon K(\sqrt d)\to K(\sqrt{d'})$ を $K$ の元を動かさない同型とし、基底 $1,\sqrt{d'}$ で $\varphi(\sqrt d)=u+w\sqrt{d'}$($u,w\in K$)と書く。両辺を 2 乗すると
$$ d=\varphi(d)=\varphi(\sqrt d)^2=(u^2+w^2d')+2uw\sqrt{d'} $$
であり、基底の係数を比べて $2uw=0$ である。$2\neq0$ なので $u=0$ または $w=0$ である。$w=0$ なら $d=u^2$ となって $d$ が平方でないことに反するので、$u=0$、$w\neq0$ で $d=w^2d'$ である。よって $d'/d=w^{-2}\in(K^\times)^2$ である。
2:$d$ が平方なら $t^2-d$ は可約で $K[t]/(t^2-d)$ は体でないので、単位元の類は除く。1 の「$\Leftarrow$」から写像は平方類だけで決まり、「$\Rightarrow$」から単射である。全射であることを示す。$L$ を 2 次拡大とすると、拡大次数 の命題「次数 1 と 2 の拡大」の 3 により、平方でない $d\in K$ と $\beta\in L$ で $\beta^2=d$、$L=K(\beta)$ となるものがある($d\neq0$ である。$d=0$ なら $\beta=0\in K$ となるから)。$t\mapsto\beta$ は単射な準同型 $K(\sqrt d)\to L$ を定め、次元が等しいので同型である。$\square$

平方類と 2 次拡大の例
  1. 実数体:正の実数は平方なので $\mathbb{R}^\times/(\mathbb{R}^\times)^2=\{\pm1\}$ であり、$\mathbb{R}$ の 2 次拡大は同型を除いて $\mathbb{C}=\mathbb{R}(\sqrt{-1})$ だけである。
  2. 複素数体:どの複素数も平方なので(複素数 の命題「複素数の平方根」)、$\mathbb{C}$ には 2 次拡大がない。とくに係数が複素数の 2 次方程式はすべて $\mathbb{C}$ で解ける。
  3. 有限体:$q$ が奇数なら prop-qe-count の 2 により平方類は 2 つなので、$\mathbb{F}_q$ の 2 次拡大は同型を除いてただ 1 つで、$q^2$ 元の体である。
  4. 有理数体:$0$ でない有理数 $m/n$ は $mn/n^2$ と書けるので、平方類は整数で代表され、さらに平方因子をくくり出して平方因子をもたない整数 $d$ で代表される。平方因子をもたない整数 $d\neq d'$ は別の平方類に属する。実際、$d'/d$ が有理数の平方なら $dd'=(d'/d)d^2$ は有理数の平方である整数なので整数の平方であり(既約分数 $m/n$ の平方が整数なら $n=1$)、$d,d'$ は同符号で、各素数 $p$ について $p$ が $d$ を割る回数と $d'$ を割る回数(どちらも $0$ か $1$)の和が偶数なので両者は等しく、$d=d'$ となる。したがって $\mathbb{Q}(\sqrt{-1})$、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$、$\mathbb{Q}(\sqrt{-2})$、$\mathbb{Q}(\sqrt3)$、… は互いに同型でなく、$\mathbb{Q}$ の 2 次拡大は無限にある。

標数 $2$ では thm-qe-extension は成り立たない。たとえば $\mathbb{F}_2$ の元はすべて平方なので平方類は 1 つしかないが、$\mathbb{F}_2$ は 2 次拡大 $\mathbb{F}_4$ をもつ(拡大次数 の反例「標数 2 では 2 次拡大が平方根の添加とは限らない」)。標数 $2$ の 2 次拡大は、prop-qe-char2 の 2 の方程式 $y^2+y=t$ の解の添加(Artin–Schreier拡大)か、1 の方程式 $x^2=d$ の解の添加のどちらかになる。実際、2 次拡大 $L$ から $\beta\in L\setminus K$ をとると、拡大次数 の命題「次数 1 と 2 の拡大」の 2 により $L=K(\beta)$ で、$\beta$ の最小多項式は $x^2+bx+c$ の形である。prop-qe-char2 により、$b\neq0$ なら $\gamma:=\beta/b$ は $y^2+y=c/b^2$ の解で $L=K(\gamma)$、$b=0$ なら $\beta^2=c$ である。

条件を外すと成り立たなくなること

thm-qe-formula の仮定を 1 つずつ外した反例を表にまとめる。各行の確かめは下の例にある。

外す条件反例成り立たなくなること
$a\neq0$$\mathbb{Q}$ 上の $0x^2+0x+0=0$解は 2 個以下(すべての有理数が解)
標数が $2$ でない$\mathbb{F}_2$ 上の $x^2+x+1=0$$D$ が平方なら $K$ に解がある($D=1=1^2$ だが解がない)
係数が体(零因子がない)$\mathbb{Z}/15\mathbb{Z}$ 上の $x^2-1=0$解は 2 個以下($1,4,11,14$ の 4 個が解)
乗法が可換四元数 $\mathbb{H}$ 上の $x^2+1=0$解は 2 個以下(無限個の解がある)
$L$ が $D$ の平方根を含む$L=\mathbb{R}$ での $x^2+1=0$$L$ に解がある
反例:表の各行の確かめ
  1. $0x^2+0x+0$ はどの $x$ でも $0$ なので、すべての有理数が解である。証明で $2a$ で割る段が使えない。
  2. 上の節で確かめたとおり、$D=1-4=1=1^2$ だが、$x=0,1$ のどちらでも値は $1$ である。$2$ が $0$ なので $\alpha=(-b+\delta)/(2a)$ が定義できない。
  3. $\mathbb{Z}/15\mathbb{Z}$ は可換環で、$2\cdot8=16=1$ なので $2$ は可逆である(他の条件は満たす)。$1^2=1$、$4^2=16=1$、$11^2=121=1$、$14^2=196=1$ である。証明の「$(\gamma-1)(\gamma+1)=0$ ならどちらかの因子が $0$」が成り立たない($\gamma=4$ で $3\cdot5=15=0$)。
  4. $\mathbb{H}$ では $i^2=j^2=k^2=-1$、$ij=-ji$、$jk=-kj$、$ki=-ik$ なので、実数 $b,c,d$ について $(bi+cj+dk)^2=-(b^2+c^2+d^2)$ である。よって $b^2+c^2+d^2=1$ となる無限個の $bi+cj+dk$ が解である。$\mathbb{H}$ には零因子がないが、乗法が可換でないため、$x^2+1=(x-i)(x+i)$ に $x=j$ を代入しても積の値にならない($(j-i)(j+i)=j^2+ji-ij-i^2=2ji=-2k\neq0$)。
  5. 実数の 2 乗は $0$ 以上なので $x^2+1\ge1$ であり、$\mathbb{R}$ に解はない。$D=-4$ は $\mathbb{R}$ で平方でない。

補足

  • 3 次以上との違い:2 次式は、$K$ に解をもたなければ既約であり、既約性は判別式が平方かどうかで判定できる(標数が $2$ でないとき)。3 次式では判別式が平方でも既約なことがある(判別式 の反例「判別式が平方数でも既約でありうる」)。3 次以上の判別式の平方根は、解ではなくGalois群の情報(偶置換に含まれるか)を与える(判別式 の注意「Galois群と判別式の平方根」)。
  • 2 次方程式の現れる場面:隣接 3 項間の線形漸化式 $a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n$ の特性方程式 $t^2=pt+q$、2 次の正方行列の固有多項式 $t^2-(\operatorname{tr}A)t+\det A$、2 次曲線と直線の交点を求める計算はどれも 2 次方程式に帰着する。係数が実数でも解が複素数になりうるので、複素数の解まで含めて考えると、つねに解が 2 つ(重解は 2 つと数える)そろう。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit, Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §13.2 Algebraic Extensions の例「Quadratic Extensions in Fields of Characteristic ≠ 2」(標数が 2 でない体の 2 次拡大は平方根の添加、解の公式、p. 522)

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