コエンド(∞圏)(coend in an infinity-category)とは、混合分散の関手を、変数を交換した反対ねじれ矢印∞圏上で余極限にする構成である。通常の商とは異なる高次情報、余米田公式、Fubini則と導来計算への接続を説明する。
前提知識: ∞圏, 余極限(∞圏), 写像空間(∞圏), コエンド
本記事では $(\infty,1)$-圏(∞圏)を準圏で扱う。準圏は、内部ホーン $\Lambda_i^n$($0< i< n$)の写像を $\Delta^n$ へ延長できる単体的集合である。写像空間(写像空間(∞圏))$\operatorname{Map}_{\mathcal D}(x,y)$ は、射とその間のすべての高次ホモトピーを表す。空間の∞圏を $\mathcal S$ と書く。通常の圏はその脈体を通じてこの理論に含まれる。HTT09 §§1.1.2, 1.1.5。
準圏 $\mathcal C$ の左ねじれ矢印∞圏(ねじれ矢印∞圏)$\operatorname{Tw}^{\ell}(\mathcal C)$ は、$n$-単体を
$$
\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}}((\Delta^n)^{\mathrm{op}}\star\Delta^n,\mathcal C)
$$
とする。$\star$ は左右の単体の頂点を順につなぐjoinであり、ここでは $2n+2$ 頂点の単体を与える。面・退化は両側への制限で定まる。射影 $\pi:\operatorname{Tw}^{\ell}(\mathcal C)\to\mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal C$ は、射 $c\to d$ を $(c,d)$ に送る。
コエンドのためには、その反対∞圏からの関手
$$
\tau:\operatorname{Tw}^{\ell}(\mathcal C)^{\mathrm{op}}
\xrightarrow{\pi^{\mathrm{op}}}\mathcal C\times\mathcal C^{\mathrm{op}}
\xrightarrow{\mathrm{swap}}\mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal C
$$
を使う。従って $\tau(c\to d)=(d,c)$ である。
通常の圏の場合、左ねじれ矢印圏の射 $(c\xrightarrow f d)\to(c'\xrightarrow g d')$ は $a:c'\to c,b:d\to d'$ で $g=bfa$ を満たす組である。反対を取ることと、$H$ に代入する変数を交換することの両方が必要である。$\operatorname{Tw}^{\ell}(\mathcal C)$ が準圏であり、$\pi$ が $\mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal C$ 上の左ファイブレーションであることの出典は HA17 §5.2.1(Proposition 5.2.1.3 相当。そこでは反対の向きの右ファイブレーションとして述べられている)である。構成と余極限表示は Hau21 §§1, 3 に対応する。
$\mathcal C$ を小さい∞圏、$H:\mathcal C^{\mathrm{op}}\times\mathcal C\to\mathcal D$ を関手とする。コエンドを
$$
\int^cH(c,c)=
\operatorname{colim}_{\operatorname{Tw}^{\ell}(\mathcal C)^{\mathrm{op}}}H\tau
$$
で定義する。この余極限(余極限(∞圏))の存在を仮定し、例えば $\mathcal D$ が小さい余極限をすべて持てば十分である。
その普遍性は、すべての $T$ に対して自然な同値
$$
\operatorname{Map}_{\mathcal D}\left(\int^cH(c,c),T\right)
\simeq
\lim_{(c\to d)\in\operatorname{Tw}^{\ell}(\mathcal C)}
\operatorname{Map}_{\mathcal D}(H(d,c),T)
$$
を与えることである。右辺の図式は $H\tau$ に反変な $\operatorname{Map}_{\mathcal D}(-,T)$ を施したものとする。
普遍的な余錐は、整合させるホモトピーとその高次の関係をすべて含む。Hau21 Remark 3.9。本記事ではコエンドの添字を上に置くが、文献によって記号の上下に別の規約がある。
通常の集合値コエンド(コエンド)は、余積に関係を課した商集合である。空間値のコエンドでは、関係を単なる等式に押し潰さず、点を結ぶ道、その道の間のホモトピー、さらに高次の情報を含めて貼り合わせる。
この意味で、コエンドは「ホモトピー整合的な和と同一視」である。積分記号は、添字の消去や核の合成を表す計算記号として働く。通常の積分の微小量や測度を導入しているわけではない。
離散集合 $I$ を添字とすると、$\int^iH(i,i)\simeq\coprod_{i\in I}H(i,i)$ である。$I=\emptyset$ では始対象(始対象(∞圏))になる。
$\mathcal C=N(0\to1)$ なら、反対ねじれ矢印圏の図式は
$$H(0,0)\longleftarrow H(1,0)\longrightarrow H(1,1)$$
となる。従ってコエンドは $\mathcal D$ 内の押し出しである。空間の場合はホモトピー押し出しを意味し、単なる点集合の商ではない。
非自明な群 $G$ が一点に作用すると、集合の圏でのコエンドは一点である。しかし空間の∞圏では上の例の $BG$ になり、基本群 $G$ が残る。入力の各値が離散空間でも、その∞圏的コエンドが離散空間になるとは限らない。
通常の関手 $H_0:\mathcal C_0^{\mathrm{op}}\times\mathcal C_0\to\mathcal D_0$ のコエンドが存在すれば、値域を $N(\mathcal D_0)$ とする∞圏のコエンドは通常のコエンドに一致する。一方、$\mathcal D_0=\mathbf{Set}$ の値を $\mathcal S$ に移して余極限を取る場合には、一般に一致しない。
通常のねじれ矢印圏で $1_c\to u$ と $1_d\to u$ を反対にすると、$H(d,c)\to H(c,c)$ と $H(d,c)\to H(d,d)$ が得られる。これらへの余錐が、通常のコエンドの余楔の等式を表す。値域が通常の圏の脈体なら写像空間は離散的であり、その余楔を表す通常の普遍対象が∞圏の普遍性も満たす。$\mathbf{Set}\to\mathcal S$ は一般の余極限を保たないため、後半を同じ議論では結論できない。
$P:\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathcal S$ と $x\in\mathcal C$ に対し、
$$
\int^cP(c)\times\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,c)\simeq P(x).
$$
これは∞圏版の「Hom核による積分は評価になる」という公式である。混合分散の関手は $(a,b)\mapsto P(a)\times\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,b)$。
小さい∞圏 $\mathcal C,\mathcal A$ と対応する混合分散の関手 $H$ に対して、必要なコエンドが存在すれば
$$
\int^c\int^aH((c,a),(c,a))
\simeq\int^{(c,a)}H((c,a),(c,a))
\simeq\int^a\int^cH((c,a),(c,a)).
$$
Hau21 Proposition 2.21 の双対と§3の比較。
単体から積への写像は各成分への写像と同じなので、ねじれ矢印構成は積を保つ。その反対∞圏も積を保つ。従って三つのコエンドは、同じ積の添字に関する余極限を、一度に取るか各因子について順に取るかの違いに帰着する。余錐の普遍性はこの三つの計算で一致する。
Fubini則によってコエンド同士は交換できるが、エンドとの混合した交換には別条件が必要である。この違いは離散空間の有限積・余積だけでも見られる。
単体的豊穣圏の表示を使って計算するときは、厳密なコエンドでなく、適切な重みの置換を使った導来コエンドと比較する。Hau21 Remark 4.7。局所Kanな単体的圏から準圏へはホモトピー整合的脈体で進む。HTT09 §§1.1.5, 2.2.5。
豊穣コエンド(コエンド(豊穣圏))としての $N\otimes_RM$ が、導来化によって $N\otimes_R^{\mathbb L}M$ になることは、この区別の代数的な例である。これは豊穣版のコエンドの導来化であり、本記事の添字構成($N(BR)$ を添字とする空間的コエンド)の例ではない。加群の分解に由来する高次の情報を残す点で、安定∞圏・導来圏への接続にも有効である。ただし一般の空間値コエンドを、単にアーベル群値のテンソル積と同一視するわけではない。
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